除霊から帰ってきた横島は、開口一番そう言った。
携帯電話でその連絡を受けてから気が気ではなく、除霊が終わるや否や文珠で転移して帰ってきたほどだ……親バカである。
「ええ。高熱ではありませんけど、お腹が痛いって。それに、横島さんがいないと心細いみたいで……」
看病していた小竜姫だ。大病ではなさそうな事に横島はほっとしつつも、やはり心配であることには変わりない。
「せんせー。後片付は拙者がやっておくでござるから、早く行ってあげるでござるよ」
「すまないな、シロ」
今日の除霊パートナーだったシロも協力する。
オクサマーズ同士のライバル関係とは異なり、チビメドを悪く思っているものなど横島家にはいない。
「チビメド、大丈夫か?」
「あ……パパ……」
ベッドに寝ているチビメドは、普段から大人しいだけに、痛々しくすらあった。
横島はベッド脇の椅子に腰掛け、チビメドの手を握ると、顔をのぞきこむようにして話しかける。
「パパ……チビメド、熱いの……」
「うんうん。そうだよな」
横島は文珠をとりだし“癒”の字をこめようとするが小竜姫が止めに入った。
「待ってください横島さん。チビメドちゃんは特殊な状況にあるんです」
「特殊な状況?」
小竜姫がいうには、チビメドは元々のメドゥーサの段階から、横島の霊力を利用する形で若返り、さらに今の姿になっている。いわば逆成長してきた。そのため、“癒”などの“旧に復する”文珠を使用した場合、霊基構造にどのような影響があるのか予測がつかないということなのだ。
「ですから、普通に看病してあげるしかないんです」
「そうか……」
万能ともいえる文珠だが、苦しんでいるチビメドを助けてやれないなんて。
横島は再びチビメドに話かけた。
「なにか食べたいものないか? してほしいコトはないいか?」
本当に父親そのものである。
チビメドもそんな横島の愛を感じているからこそ、信頼しているのだろう。
「パパ……おなかいたいの……さすって……パパ……」
「う、うん。そうか」
少し動揺したが、布団をめくる。
熱がるチビメドは寝間着をきておらず、スリップ姿だ。その上から、横島はお腹を軽くさすってやる。
「これでいいかい?」
「……違うの……ぱぱの手で、さすって……」
「え!?」
どうやら、直接さすってほしいと言っているらしい。
確かに布越しと肌が触れ合うのとを比べれば、圧倒的に後者の方が安心感があるに違いない。
思わず、横島は後ろに控えるオクサマーズを振り返る。すこーし空気が冷たくなっているような気もするが、チビメドのためとあってはしょうがないというムードだ。
「わかったよ」
横島はスリップを捲り上げた。
ピンクのお子様パンツに続き、白く透き通った肌をもつ、まだ伸びきってない肢体があらわになる。
横島はそのお腹を、今度は直にさすりはじめた。
「…パパ……」
女性の肌は、いろいろと撫で回す(だけでなく色々と)してきた横島だが、こうした幼い女の子の身体は、今まで彼が感じたことのないような不思議な感触だ。
一方、チビメドは安心したような表情を浮かべ、しかも、熱のために上気して赤みがさしたまま、吐息のような呼吸を漏らしはじめた。
(ち、違うんじゃー! 俺はときめいてなんてないんじゃー!!)
チビメドを撫ぜていなかったら、横島は頭をガンガンと壁にうちつけながら血を吹き出させたいくらいだ。
「パパ、もうちょっと下も……」
「し、し、下ですかね、ええ、下ですね」
よくわからない台詞を吐きながら、横島は掌を下に、下に……お子様パンツの中に指先を入れる。
「まさかと思いますが、邪なことは考えていませんよねっ!!」
何人分の声が重なっているのか数えたくもないオクサマーズの言葉。
「イ、イヤダナァ。俺、ソンナニヒドイ男ジャナイッスヨ」
冗談めかそうとする横島だが、もう後ろを振り返る度胸はなかった。
もちろん、オクサマーズもチビメドに悪気があるとは思っていない。それだけに、すべての圧力は、横島に集中したのである。
「……パパ……気持ちいい……」
「チビメドが、なおるまで側にいるから大丈夫だよ」
「……うん」
もちろん、だからといって親バカ・横島が、潤んだ瞳で自分を見つめるチビメドから離れるわけもない。
チビメドには笑いかけて看病しながら、背中でオクサマーズの重圧をうけ続けた。
『アシュタロスが5人いたとしても、あれほどきつくはなかったでしょう……』(横島忠夫・談)
翌日。
看病の甲斐があってか、チビメドは全快し元気に学校にいった。
……ちなみに横島は、あまりの精神的緊張が続いたために、胃炎を訴えて寝込んだという。
○
そして、後日。
「せんせー。拙者、お腹が痛いので、さすってほしいでござるよ!」
「そんな元気な病人がいるわけないでしょ。せいぜい、変なモノ拾い食いしたくらいでしょーが、このバカ犬」
「なっ、じゃあ、タマモはなんで布団を用意してるでござるか!」
「ちょ、ちょっと身体の調子が……」
「あたちもお腹が痛いでち!」
「……嘘をつくような教育をした記憶はありませんよ、パピリオ」
「うっ……でも、お腹の包帯は二人そろって変じゃないでちかーっ!」
「え、それはワルキューレと私じゃ、病気っていても説得力がないから、怪我ということにしようと……」
「バ、バカ、小竜姫。ばらすな!」
「ご主人様。私、お腹が……お臍の下、三寸あたりが痛くて……」
「美衣さん、直接的すぎます!」
「こ、小鳩さん、どうしてここに?」
「今日は、学校が休みだからです、ね、おキヌちゃん」
(看病かぁ。私はタマモちゃんに化かされたとき、横島さんと一緒に夜をすごしたもの……二人ともで看病しあってたけど……)
「あー。おキヌちゃん、ずるいのね〜」
「ヒャ、ヒャクメ様! 心をのぞかないで下さい!」
「横島さ〜ん。私の感覚器官の調子が悪いんです〜」
「おめー、そんなにデリケートじゃないだろーが」
「あーん、グーラーの突っ込みは容赦がないのね〜」
「ケイは病気じゃないけど、にいちゃんにさすってもらいたい〜!」
「あ、あたちもそれがいいでち〜」
「拙者もそれがいいでござる〜」
「……わたしもそうしたいな」
「貴方達。いい加減にしないと……」
「しょ、小竜姫ちゃま。逆鱗には手を伸ばさないでほしいでち〜」
横島家は今日も(横島以外は)平和だった。
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