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「見習いが往く 第十一回(ドラえもん+機神咆哮デモンベイン)」

ガーゴイル (2007-03-10 23:16)
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「――はい。では、そのように……ええ、存じております。では――」
通話を切り、ウィンフィールドはふぅと一息。
「お嬢様――被害予測圏内の住人避難、完了致しました」
「上出来です、ウィンフィールド」
「感謝の極み。――破壊活動が始まる前に行動出来たのは、正に僥倖でした」
姫と執事の視線の先、紅き空の果ての地に――二体の巨人が対峙していた。
片や、瓦礫と破片で身を造る、継ぎ接ぎだらけのフランケンシュタイン。
そして、もう片方――ソレは、“刃金”であった。
銀に輝く装甲、巨大な体躯、鋭き意志を秘めて煌く瞳。
緋を照り返す緑長髪に宿るは、魔力の脈動による強き波動。
二人にとって、ソレは誇るべき、信仰すべき、そして共に闘うべき――“魔を断つ刃金”。
瑠璃は降り立つデモンベインの雄姿を見止め、瞳を閉じる。
その身体に満つるは、邪悪と闘う意志と覚悟。
豪奢のドレスの襟首に細指を掛け、一気に引き剥がす――!
弾け飛ぶドレスの下から現れたのは――
「――ウィンフィールド。先ずは通信施設へ。此処から指揮を執ります!」
「了解しました、司令」
――覇と染め抜かれた司令服に身を包む姫君。
ソレに付き従うは、一騎当千の超執事。
戦いの幕は、斬って落される――!


“デモンベイン……だと?”
アンゴルモアは厭らしい響きを持つ声で、呟く。
その声には、怨嗟、憎悪、悪意、そして――何より“恐怖”が在った。
本能で理解したのだ。
目の前の“巨神”が、全ての邪悪にとっての怨敵であり、天敵である事を――!
彼の存在の空ろな眼窩の先には、稲光と噴煙を従わせ、銀の鎧甲に夕日を纏う――“剣”が在った。
その瞳に宿る輝きは邪悪にとって尤も忌まわしき、堪え難き輝き。
即ち、斬魔の輝き。飽く無き祈りと希望と闘志、そして無限に近い絶望と挫折、更に――尽きる事無き邪悪への怒りと燃え滾る血と涙によって鍛えられた、正の極限。
――其は、デモンベイン。魔を断つ剣と名付けられた、鬼械神を超える鬼械神。
『そうだ、これが“デモンベイン”だ。――てめえ等のようなふざけた邪悪をブッ飛ばす、ヒトの為の鬼械神! それがデモンベイン、魔を断つ刃金だ……ッ!』
魂、智慧、そして鋼の力。
それ等が一つと為りて作り出す無敵の三位一体を以って、彼等は“魔を撃ち滅ぼすモノ”と為る――
『貴様の相手は我等が務めよう――驕りを抱いて疾くと去ぬが良い! 朽果てた予言の残滓よッ!!』
“舐めるなぁァァァ!!”
憎悪の闇を噴き出して、アンゴルモアは吼える。
その全身から溢れ出す憤怒は、澱み、たゆたい、凝り固まり、顕現化。
――生れ落ちる、異形の蛭子。
数は二体。
一つは海竜にも似たタールの化け物。全身から粘着質の汚泥を垂らし、長い首と鋭い牙でデモンベインを威嚇する。
一つは翼馬に酷似した泡の化け物だ。呼吸する度、羽ばたく度、汚色の泡がごぼりと滴る。
“行け、我が落し子よ……ッ!”
アンゴルモアの一部――恐怖と滅びの化け物が、デモンベインを強襲する!
腐臭を上げ、触れる物全てを焼き尽くし、腐らせる毒液。
硝煙を生み、触れる物全てを融かし尽くし、朽ちらせる病泡。
弐対の落とし子が振り撒く病毒。
それ等は全てデモンベインに降り注ぎ、閃光と爆発と猛毒をセカイにばら撒く!。
全てが、毒の向うへと消えて往く。
弾け飛ぶ病んだ光を背景に、邪悪はここぞとばかりに大きく嘲笑する。
“ハハハハッ! 口ほどにも――”
しかし、その嗤いは然程も掛からず遮られる。
光の向う、毒霧の向う、病煙の向う――
そこには、巨神が立っていた。
病んだ光より尚も輝き、毒など物ともせず、燦然と立ちはだかる機械神の姿が在った。
屹然と輝くのは、灼熱の太陽よりも尚苛烈に、激しく、圧倒的な存在感を燃焼させる巨大な幾何学模様。
煌く星と魔術文字。陰る事知らぬ、狂気を、邪悪を、瘴気を一切寄せ付けぬ、清浄なる防禦の陣。
第四の結印、其は“旧き印(エルダー・サイン)”。
セカイを飲み込む、怒涛の白色光。
邪悪を浄滅する旧き神の護りを得、デモンベインは――大十字九郎とアルアジフは、鋭き刃の如き聲を以って、邪悪を両断する。

『『――その程度か?』』

散々好き放題やって、たった一人の女の子を散々傷付けて苦しめて、命を運命を弄んで――貴様の力は、その程度かと?
燻っていた怒りが、激情を得て烈しく燃え上がった。
魔術回路を流れる水銀の血が熱を得て、沸々と燃え滾る!
『なら、今度は――こっちの番だァッ!!』
踏み締める大地が放射状に罅割れるよりも速く、デモンベインは疾駆する。
駆ける、疾走る、飛翔る――!
鋼の拳を握り締め、目前の海竜の鼻っ柱へと思いっきり――叩き突ける!
顔面を陥没させ、タールのような粘液をぶち撒け、海竜は絶叫する。
その断末魔を根元から断つかの如く、その顎門を真下からアッパーで叩き伏せ、砕く。
血と骨と肉と牙がぶしゃりとバラ撒かれ、腐臭の粘液がデモンベインの装甲を毒色に染め上げる。
装甲を融かし、神経を犯す毒の苦痛。
しかし、デモンベインは――操縦席に就く九郎とアルは微塵も揺らがず、苦痛の悲鳴すら漏らさない。
その喉に満ちるのは咆声。
雄々しき咆哮、痛みも苦しみも凌駕した――イノチの叫びだ。
アルと九郎の咆哮に応え、デモンベインの全身に術式が、魔力が、意志が。疾走り、廻り、満ちる――!
『断鎖術式壱号、ティマイオスッ! 弐号、クリティアスッ!』
脚部二基のシールドが起動する。
凝縮されるエネルギー。荒れ狂う空間が莫大な力を受け、“乱れ狂う”ッ!
爆砕する地面。舞い上がる瓦礫。
同時、実像が虚像の如く、乱れ、チラつき、歪む――。
時空間歪曲。意図的に歪まされた空間は元に戻ろうと足掻き、歪な時空の反作用が局地的に時間を狂わせ、逆行順行を繰り返す。
重力は反転し、時間はコマ送り、逆再生、一時停止と狂った法則をなぞるのみ。
結果、収縮膨張された空間が――デモンベインの足許が爆裂する!
瞬間、デモンベインの姿が掻き消えた。
砕け散るコンクリートと衝撃波を残して、その巨体は加速エネルギーを得、弾丸と化す。
しかしソレだけでは留まらず、紫電を発する両のシールドにスカラーとベクトルが収束。
回転するデモンベインの両足が虚空を踏み、大跳躍。
慣性を一切無視した、在り得べからざる超機動。
続いてデモンベインは、収束した全てのスカラーとベクトルを円形状に解放。
解き放たれた力はシールドを爆裂させ、遠心力を生み、デモンベインの脚は大きく振り上がる。
紫電と閃光の織り成す回し蹴りが描く軌道、ソレは三日月。刃の軌跡。
空間をも砕く、超常のエネルギーが――炸裂する!
これぞデモンベインの奥義の一つ、近接粉砕呪法ッ、その名も……!

『『アトランティス・ストライクッ!!』』

超重量が海竜の背に命中する。
鉄槌が肉を背骨を易々と粉砕し、迸る電光が落とし子の内部構成をズタズタに焼き尽くす――!
悲鳴を上げる暇すらない。――海竜の全身が一拍を置いて破裂した。
それを見て、天空に逃れた翼馬が激昂する。
憎しみの嘶きを上げ、翼を振り上げて特攻。
全身に毒の泡を纏い、デモンベインを腐らせようとしているのだ。
しかし、翼馬は失念していた。
“闇黒”の翼の存在を――
『お前の相手は俺だ』
漆黒のフレアをなびかせ、闇色の鋼が翼馬を冷酷に見据える。
憤怒の嘶き。デモンベインの前にこのちっぽけな羽虫を片付けようと、翼馬はサンダルフォンに真っ向から突っ込む。
彼は勘違いしていた。目の前に存在するのは羽虫ではなく――“翼獅子”であったというのに。
真直ぐ突っ込んでくる翼馬を見据え、サンダルフォンはふぅと溜息を吐く。
彼の頭の中には、既に結果が見えていた。
広げた翼の角度を修正し、突っ込んでくる翼馬との相対距離・速度を算出。
翼馬の鼻先が自分の腹に触れるか否かの刹那まで惹き付け、そして――

『――愚図が』

傾いた翼がほんの一瞬だけ加速を生む。
その刹那の間を利用し、サンダルフォンは翼馬の背後へと回りこんだ。
目標を見失い、只前方だけを見ていた翼馬は気付かず突っ走り、慌てて退き返そうと後方を向いた、が――もう遅い。

――“FIST”――
――“DARKNESS”――
――“CROSS”――

――“CRUSH・CROSS”――

『――十字・滅悪ッ!!」
放たれるのは、全てを圧し潰し滅する、破壊の十字架。
闇色の衝撃を背に受け――呆気無く翼馬の肢体は十字に分たれ、弾けた。
その屍体は無数の醜い泡と成り果て、速やかに消滅する。

ソレは、時間稼ぎにも為らない――刹那の攻防だった。


「さて、と……次はてめえの番だ」
怒りに燃える紅瞳でアンゴルモアを睨み、咆哮にも似た唸りを上げる九郎。
その意志はデモンベインに伝播し、全身に纏わり付く腐肉とタールに満ちる邪気を一瞬で駆逐する。
“ぐ、ぐう……ッ”
落とし子二体を瞬殺され、僅かにアンゴルモアは鼻白む。
その隙を逃さず、ナビシートに就いたアルが術式を疾走。
虚空に焔が燃え、その残痕が鋼へと鍛造される。
「使え、九郎ッ!」
「応ッ!」
鋼の掌が剣を執り、その重き巨体は軽き羽根の如く疾駆する。
鋭き刃、その軌跡は確かに――アンゴルモアの右腕を斬り落とす!
だが――

『あ、アアアアアアアアアアアァァァッ!!!』

苦痛の叫びを上げたのは、取り込まれたリルルだけだった。
アンゴルモアの胸――まるで意匠の如く囚われ取り込まれた彼女は、顔面に痛みの表情と脂汗を浮かばせ、喉からは掻き毟るような悲鳴が烈しく迸る。
腕を斬られたアンゴルモアは凡骨を組み上げて作った顔面に厭らしい眼光を燈し、鋼の唇を引き攣らせ嗤う。
『古典的な手を……下衆が』
「ベタな真似しやがってッ!!」
悟ったマギウスと闇天使が同時に吼える。
クツクツと、邪悪を煮詰めた嗤い声が、血の様に紅いセカイに響く。
“そうだ……貴様等の攻撃ダメージは全て、私ではなくこの人形に降り掛かる。尤も、私に一切のダメージが無い訳ではない。だが――貴様等の苛烈な攻撃に、消耗し切ったコイツが耐え切れるかな?”
道理だ。
デモンベインとサンダルフォンの攻撃では如何加減しても絶対に、先にまいってしまうのはリルルの方だろう。
喩えアンゴルモアを倒せても、ソレは同時にリルルの死でもある。
それでは――駄目だ。
“如何する? コイツを見捨てて私の攻撃するか? はははは、それでも構わないとも。最終的に、突き詰めた意味で負けるのは――貴様等の方だ。闇に生きる偽善者共が、絶望するがいい”
誇り、邪悪は烈しく嘲笑う。
偽善者、と。何も出来ないのか、と。
厭らしく愉しそうに、瘴気を撒き散らして、高らかに嗤い声が響いた。
――しかし、その声は途絶えた。
何故なら、響いたからだ。
か細い、命の声が――

『……、……、……て』

アンゴルモアの胸元、囚われの人形姫が。
彼女は、痛みに苦しむ喉を引絞り、必死に言葉を紡いでいた。

『……、ろ……、て』

小さく、か細く、しかし必死に。全てを篭めるかのように。

『こ、ろ……し、て』


――私ごと、アンゴルモアを殺して。


瞳に宿るのは、怒り、悲しみ。
絶望の色は無い。しかし――ただ、見栄を張るように輝く笑みの色が、酷く悲しい。
「「な……ッ!?」」
九郎とアルの声が重なる。
サンダルフォンは黙したまま、仮面越しにリルルを見据える。
アンゴルモアの動きが止まり、代わりにリルルの声が強く激しく響いた。
『私は良いから、もう良いから……私の事は気にしないで。アンゴルモアを――倒して』
「正気か!? もしアンゴルモアを倒せば、汝は――」
アルの叫びに、リルルは笑みで応え、
『良いの。こいつを倒せるのなら――それで良いの』
人形は笑う。
もういい、と。
もう私は如何なってもいい、と。
悲しみの彩の笑顔で、そう告げる。
涙を流し、笑って――
『操られてたって言い訳はしない。犯した過ちはもう取り返せないから。それに、私は天使に為るって誓ったの――だから、こいつだけは絶対に赦せない』
零れる涙。
造られた存在である筈なのに、その涙は温かく、故に儚い。

『……もう私は戻れないから。もう、帰れないから。壊れたから。血みどろのこんな私なんて、もう壊れてしまえばいいの――』
『――ふざけるなよ』

リルルの声を遮ったのは、サンダルフォンだった。
え? と涙に濡れた瞳で彼を見る。
声には怒りが篭められていた。
烈しい光を瞳に湛え、仮面の天使は声を放つ。
『もう壊れただと? もういいだと? 甘えるな。それは逃げでしかない』 
「お、おい……」
九郎が諌めようとするが、彼の声はサンダルフォンには届かない。
『――泣いていたぞ、お前の友達は』
『――……ッ!?』
ソレは刃の言葉。
リルルの止まり掛けた心臓を抉る、冷たい鋼。
『お前を助けてくれ、と。俺は頼まれた。野比のび太も、お前を絶対助けてくれと俺達に頼んできた――お前は、二人の気持ちを裏切るつもりか?』
『…………』
リルルは応えない、否――答えられない。
サンダルフォンは静かに、しかし燃え滾る怒りを言葉に乗せる。
『――俺とお前は同じだ。血塗れで、諦めて、それでも尚、望んでいる……』
天空を見上げるサンダルフォン。

フラッシュバック。

一瞬にも満たない過去の記憶が、電脳を過ぎ去って往く。
『あの時の予感は間違っていなかった。――俺は多分、見ていたんだ。お前を通して、過去を……俺自身と、姉さんを』
深くは語らない。
それから先は、彼と彼の姉のみに赦された、過ちと償いの記憶。
ただ、望んでいたのだ、彼は――

ただ、“青空”を。

その時、サンダルフォンに影が落ちる。
それは拳、腐汁を垂らす歪な造形。
“何をゴチャゴチャと――!!”
虚空に泡が生じ、闇黒の剣虎が生れ落ちる
剣虎は鋭き剣歯をギラつかせ、顎を開き、飛び掛る。
狙うは、サンダルフォンの胸。
しかし、サンダルフォンは――
“――何ッ!?”
揺らがない。
黒金の掌を虎の喉に突き立て、細腕一本でアンゴルモアの大衝撃を全て受け止めきっていたのだ。
しかし、鋼に虎の牙が衝き刺さり、瘴気と毒が彼の全身を見る見るうちに腐らせる。
だが彼は然程も気にせず、リルルを見つめ、言葉を紡ぐ。
『望め。俺が連れてってやる。お前の望む空へ、喩えお前が飛べなくても、泣いていても、血塗れでも、それでも俺が必ずお前を支える――!!』
鋼の全身に力が漲る。
左手でベルトのホルダーからカードを取り出し、スラッシュ。

――“FIST”――
――“DARKNESS”――
――“REJECT”――

『――俺は、お前を道具にしている奴らを決して赦さない! 絶対にだッ!! だから――!』


行こう、空へ――!


牙が砕ける。
束縛を断ち、サンダルフォンの腕装甲が展開する。
腕の中に隠された特殊機構――リボルバーやガトリングにも似たシリンダー機構――が展開し、ダイナモより生まれし闇色のエーテルが凝縮され、腕に集中。
烈しきヒート。
震えるビート。
血液をも沸騰させる、怒りと希望の力。
黒き光の爆裂が、剣虎を飲み込む。

――“HEAVENS BURST”――

ドア・ノッカー。
天国の戸を開け放つ、闇黒の一撃。
その凄まじき衝撃と閃光に、一時的に全ての感覚が失われる。
『――デモンベインッ!!』
サンダルフォンの声が飛ぶ。
操縦席の九郎は、呆れたような笑顔で。
「人をガン無視で二人の世界作りやがって――ったく、しょうがねえな」
「一肌脱いでやるとするかのう」
アルの笑いを含んだ声に、九郎は笑みを返す。
そして、デモンベインの瞳越しに、リルルを見つめた。
「独りじゃない。あんたの傍には――想ってくれる誰かが居る。今は一人でも――必ず、誰かが想っていてくれるんだ! それを忘れるな、絶対に!」
慈しむように、愛するように、優しく、尚強き意志を告げる。
想う。誰かを。
それだけで、救われる。
セカイに巣食う邪悪の足元をすくう、一筋の光と為る。
だから云おう。
「信じろ、哀れな機械人形よ! 汝の命運は未だ尽きず、我等の剣は折れていない……ッ!」
そう、諦めるな。
まだ終わっていない。
モノガタリは、セカイは――
「俺達のモットーはこうだッ! 良く聞けッ!!」
邪悪に、人形に、セカイに告げるかのように――アルと九朗は、聖句を唱える!

「「光射す世界に――涙を救わぬ正義無し!!」」


デモンベインの両手に光が集う。
闇黒を焼き払う苛烈なる赤。
邪気を凍え掃う静かなる銀。
二挺の神銃の撃鉄に指を掛け、西部劇を気取るかのように回転させる。
腕をクロス。水平に構え、一斉掃射。
重厚なる爆裂が空を焼き、精密なる冷気が空気を停止させる。
全ての衝撃がアンゴルモアへと降り掛かり、その体躯を大きく揺さぶる!
“が、な……何ィッ!!”
信じられない、という具合に呻くアンゴルモア。
奴は焦った光を瞳に浮かべ、
“しょ、正気か……!? 見捨てる気か、こいつを!!”
胸には苦しそうに顔を歪めるリルル。
涙を流し終えた瞳で、彼女は静かに空を見上げた。
そこには、全身から血を流すサンダルフォンの姿があった。
見つめ合う二人。
時は流れる。
サンダルフォンは静かに頷きを送り、それにリルルは穏やかな笑みを以って応えた。
瞳を閉じ、痛みを耐える。
その顔には、――確かに息衝く“希望”が在った。
デモンベインの攻撃は続く。
弾倉に鋼鉄を叩き込み、尽きる事なき弾奏を演ずる。
赤と蒼の光。
赤は大地に空に巨大な傷痕を刻み込み、蒼は静かな殺意を世界に残す。
重き巨体を必死に動かし、アンゴルモアは必死に銃弾を避ける。
しかし、熱と冷気を彼を逃さない。
灼熱に焼かれる度、冷気に凍える度、アンゴルモアの精神には沸々と恐怖が積もり、心が熱傷を負う。
アンゴルモアは感じていた。
確かな殺意を、魔を断つ剣の恐怖を。

――それは確実に、恐れを募らせる。

銃弾が掠る度、精神に怖気が突き立つ。
イタクァの不可思議な軌道が指を弾き、クトゥグアの大熱量が大地ごと足元を焼き払う。
無視しているのか、人質を。
盾として扱っているリルルを見下ろし、戦慄するアンゴルモア。
リルルは歯を食い縛り、痛みを耐えている。
何故だ、とアンゴルモアは自問する。
“貴様等のような甘ちゃんが、何故だ、何故だ、何故だぁぁぁぁ!!”
予想外の事態に、拙き策士は叫びを上げる。
絶望の声。しかし、デモンベインは応えず、代わりに銃弾を寄越す。
ひっ、と恐れの声が自然と漏れた。
思考が恐怖に犯され、正常な判断が少しずつ消失していく――
元より、アンゴルモアは戦士ではなく策士。
戦いよりも智謀に長けた存在。
故に、彼の心は――あっさりと痛みと恐怖に圧し負けていく。
彼は見た。
銃を虚空に還し、続いて刃を執るデモンベインの姿を。
右手にバルザイの偃月刀、左手にロイガー・ツァール。
紅日に映えるその姿は、血に濡れた刃を思わせる。
恐怖が募る。
凍結と燃焼の力が脳髄をじくじくと痛ませ、神経は引き攣ったかのようにぴくりとも反応しない。
そして――フレアを纏い、大気を切り裂き、“魔を断つ剣”が振り下ろされる――!!

“ひ、ひっぃいぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃ!!”

もう駄目だ、判断した。
この体はもう駄目だ、逃げなくては。
数多の体を操り、暗躍していたアンゴルモアだからこその判断といえよう。
一瞬で決断したアンゴルモアは、躊躇い無く体を――瓦礫とリルルを切り離した。
沸き立つ瘴気。ゼリー状の物質がぼこりと巨体の各所から這い出て来、頭上へと集結。
緑色の塊と化したアンゴルモアが逃れようとした、その瞬間――!

硝子が砕ける音がした。

音に伴い、デモンベインの全像に皹が入り、粉々に砕け散る。
まるで鏡に映った虚像が、鏡ごと砕けるかのように――
欠片の海と嵐を衝き切って、黒い風が現出る。
サンダルフォンだ。
彼の目指す、その先には――当然の如く、少女が居た。
力失い、崩れる擬体の中から、少女は泣きながら天使を見る。
傷付いた手を懸命に伸ばし、叫ぶ。
声は聞こえない。
だが、天使は頷いて。

『聞こえている――だから、もう泣くな』

少女の手を取った。
崩れ落ちる瓦礫から少女を引き摺り出し、堅い鋼の腕と胸板で優しく抱き締める。
羽根は舞い、天使は天空へと飛ぶ。
少女と天使の眼に、空が映った。

紅き空の向うに、何故か――青空が見えたような気がした。

少女は再び涙し、サンダルフォンの胸に顔を埋め、泣きじゃくる。
サンダルフォンは黙って、彼女を抱き締めた。
地上を見る。
崩れる巨人、緑色の卑猥な塊、そして――輝く剣。
見据え、サンダルフォンは叫ぶ。

『止めは任せるぞ――デモンベインッ!!』

剣は応えるかのように、駆け出した――


宙に浮かぶ緑の粘液を冷たく見据える魔を断つ者。
「年貢の納め時だ、ゼリー野郎ッ!!」
「汝に明日は無い。大人しく滅びよ!」
九郎とアルの断罪の叫びを聞き、全身を震わせるアンゴルモア。
恐怖、憎悪、怒り――全てが混ぜこぜになり、混沌としている。
しかし、その一方で冷静に思考していた。
最早、勝ち目は無い。
為らば――
“…………っちぃ!!”
全身をぶわりと膨らませ、破裂しようとする。
自爆で相打ちといかなくとも、破片が一つでも残されていれば再生は容易。
故に、ここで自爆したと見せかけ、再起を――!
だが、彼の思考は断絶される。
何故なら、悟ったからだ。
刃を消し、改めて神銃を構えるデモンベインの意図に――
「魂胆見え見えなんだよッ!」
射撃。
冷たき殺意がジグザクに軌道を描き、六度着弾。
同時、凄まじき冷気が全身を包み――アンゴルモアの身体は、ガチガチに凍らされてしまった。
“ぎゃ、ぎゃあああああああああ!!”
「破裂しようとしても、熱を奪って固めちまえば……単なる冷凍食品だ」
「終わりだ――下郎ッ!」
終末。
アンゴルモアは泣き喚く。
霜の降りた身体を揺さぶり、劈くように。
“何故だ何故だ何故だぁぁぁぁ! 何故、私がまた負ける――たかが人間に、矮小な虫けら如きにぃぃぃぃ!!”
アンゴルモアの言葉に、デモンベインは静かに、そして容赦無く、言葉の剣を突き刺す。
意志を以って、誇りを以って。
其は、神をも打ち破りし、命の叫び――

「「――“ニンゲン”だからだッ!!」」


ヒラニプラシステム、アクセス。
言霊を暗号化、ナアカルコード送信。
――術式、解凍ッ!!


脳髄を駆け巡る超高密度の情報術式。
光が、力が、意志が、魂が。無意識状態の全身を、回路と神経を疾走し、術式が構成されていく。
魔術機関が過剰稼動。獅子の心臓が烈しく輝き、魔力を汲み上げる。
世界が広がる。
術者のセカイが世界を侵食し、全ての世界が大十字九郎のセカイと為る。
剣指を作り、印を結ぶ。
光に満ちる指先は軌跡を描き、輝く星を刻み込む。
両腕を合わせ、天を衝き、左右に振り下ろす。
自然と喉からは鋼の咆哮が漏れ、セカイを震わせる。
白の陣が、デモンベインの全身に浸透して往く。
踏み締めた脚は大地を砕き、破邪の力をその身に宿し、デモンベインは拳を振り上げる。
オーヴァー・ロード。
無限の魔力がコックピットを体内を蹂躙し、荒れ狂う。
しかし、その力と意志は衰える事を知らない――!
「光射す世界に、汝ら闇黒、棲まう場所無しッ!」
術式が奔り、掌に組み込まれた必滅機関が覚醒。破滅の咆哮を上げる。
その手に産まれるのは、無限の滅び。異界より汲み出されし無限熱量。
白い闇が紅い空を超越し、セカイは、極光の彼方へと沈む!
「渇かず、飢えずッ! 無に還れ!」
闇が、白き闇が。光が、無限の光が。
銀の鍵に導かれ、必滅の波動が全てを飲み込む。
これこそがデモンベインの最強奥義。
必滅を与える、最大絶対の必殺技。
昇華呪法――“レムリア・インパクト”!
大きく踏み込み、凝縮された無限力をアンゴルモアへと叩き込む。
瞬間、全てが静止し――三千世界を引きずり込む!
獣の如き鋼鉄の咆哮が、セカイにピリオドを穿った。

「レムリア・インパクトォォォォォ――――ッ!!」

迸る閃光。
エネルギーは球の形を取り、結界と化し、内部が異なる宇宙と繋がる。
流し込まれる無限熱量は、時すらも焼き尽くす絶滅の力。内部を完全に滅却する――
“い、いや、だ……もう、あの、暗闇は、嫌だああああああぁぁぁぁぁ……!!”
もがき足掻くアンゴルモア。
しかし、赦されない。
その存在を一片残らず、異界熱量は焼き尽くすのだ。
そして、迸る光と魔力は周囲の時空すらも消滅させ――

「――昇華ッ!!」

アルの口訣が世界に響く。
球は爆縮し、全てが一切、無へと帰した。

“         ”

断末魔すらも残らず、アンゴルモアの全ては白い闇の中へと消えた。


日が落ちる。
太陽は彼方に消え、夜が始まる。
しかし、明けない夜は無い。終わらない悪夢は無い。
光がある限り、闇は消えない。同時に、闇が在る限り、光も決して消えないのだ。
薄青い闇の中で輝くのは、光を決して見失わない機械の神。
それを眩しそうに、二人の天使は、見つめ続けるのだった――


さて――少し時間を戻そう。


夕焼けの彼方、赤と黒に染まる海。
其処には、風が渦巻いていた。
暗い暗い風が、何かを待つように、待ち焦がれるように。
風の中で、幽鬼がにやりと嗤った。


あとがき
デモンベインが動かない(挨拶
やっぱり、完全再現は難しい。あの格好良さを一割も紡げない(嘆
精進せねば。

いうわけで第十一回です。
次回はドラグディアでいきます。……教授も出せれば何とか(汗
では今回の反省を噛み締めつつ、返信と参りましょう。


>放浪の道化師さん
はいお久し振りです!
水晶髑髏の行方――肝ですねえ、今回の(にやり
何割……半分ぐらい(マテ まあ、いくつか関わっているのは確定ですねえ。
うい、では次回も宜しくです。


>パッサッジョさん
はい、何時もどうもですー。
う、キツイ一言を……(汗
静香ちゃん……もうくする関連はあのまんまかと。でも、他の所じゃあ一応まともなのでオッケーです(マテ
血沸き肉踊る……ごめんなさい(土下座
では、次回もガンバルですよー。


>通りすがりの獅子心騎士さん
はい、お久し振りです。
ううむ、作中説明はあんま意識してなかったんだけどなー。機会があれば又何時かやってみましょう(マテ
うい、では次回も宜しくです!


>ジュミナスさん
闇黒天使さんはリルルがらみで活躍できそうかなあ。次は光帝天使さんを出したいですねえやっぱ。
機神咆哮は私も執筆中聞きまくっておりました。血が滾ります。
では、次回も宜しく!


>なまけものさん
はい、毎度ありがとうです。
やふにはわざと。ややこしくしてすいません。
親友は勿論、ドラの事ですよー。元々の機体はドラが作って、後でウエストが魔術対応式に改造したのです。
確かに……洗脳ぐらいしかやってないし、最後にはカチンカチンライトで固められてブラックホールに……拙作でも、完全にかませ犬的役割。マフーガはちゃんと強敵にしたいなあ(悩
では、次回に!


>シズルさん
はい、はじめましてです。
無論、覇道財閥持ちです(きっぱり
後でオソロシイ事が待っているのです(がくがくぶるぶる
うい、次回も宜しく!


――では皆々様、次回にて又お会いを

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