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▽レス始

「霊能生徒 忠お!〜二学期〜(二十二時間目)(ネギま+GS)」

詞連 (2007-03-04 23:15/2007-04-16 01:54)
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 黒煙巻き上がる大阪城公園の入り口で、若い消防士が隊長に突っかかっていた。

「何で消火に行ったらあかんのや!」
「上からのお達しや」
「せやかて!このままにしとったら本丸まで燃えちまう!」

 火災は大阪城公園の木々を焼いている。その火の粉が本丸に降りかかっている。戦に対するための城だけあって、まだ類焼はしていないが、時間の問題だ。
 じれる若い隊員に、諦観したように隊長は、顎で指す。

「じゃあ、お前。あないな連中の真下で消火作業―――」

 雷鳴が隊長の言葉の後半を掻き消した。
 黒い煙の向こうに見える青空には、雨雲の一つも見えない。
 その代わり、城の上を覆う黒煙の中に動くものがある。
 複数のそれらは増えたり減ったり消えたり光ったりと、UFOか何かのように飛び回る。

「ありゃ、オカルトって奴や」

 若い隊員はオカルトという言葉にはなじろむ。
以前、アシュタロスがコスモプロセッサーを利用して自分の手駒を作り出した時、大阪も狂乱の舞台となった。その時に、悪霊などの超常の存在の恐ろしさは身に染みている。
 今までの人生で、怨霊だの悪魔だのテレビの向こうの存在だとばかり思っていた(GSが退魔師の主流の関東とは違い、関西では関西呪術教会が人目に触れないよう内々に処理してしまうため、関西では超常現象を一般人が目にする機会が関東の人より遥かに少ない)ところに、降って湧いた町一杯の化け物。
 ちょっとしたトラウマだった。しかし、その記憶とセットで町に溢れる悪霊を次々倒していった人々のことを思い出す。

「そなら!坊さんなり拝み屋なりGSなりを呼んで…」
「もうお役所の方に連絡入れたわ。そしたらしばらくここで待て言うんや。仕方ないやろ?」
「くっ…!早よ来んかい…!」

 いらだたしげにはき捨てる若い隊員。
 その頭上で、再び雷鳴が鳴り響いた。


霊能生徒 忠お! 二学期 二十二時間目 〜ワンドの8の逆位置(葛藤)〜


 道真の霊力の発動の瞬間を見切り、横島は右手にサイキックソーサーを展開。
 雷撃を避けつつ霊力の迸りである雷に押し付けて、ソーサーを滑らして接近。GS試験の時に陰念に偶然使ったのと同じ原理だ。
 雷撃の厄介なところは電撃自身の威力の他に、通過した場所の空気が爆発することによる衝撃波がついてくることだ。現に雷撃のすぐ横を進む横島には、その衝撃波がダイレクトに伝わってくる。
 余剰霊力を服に込めて何とか凌いでいる。

「サ、サイキックサーフィン!」

 歯を食いしばりながら叫んで、意識が飛ぶのを堪える。
 道真の至近に入ると、左手に霊波刀を作ろうとして――失敗。

(まだ繋がらねぇか…!)

 道真の雷を退けた時に損傷した左手は、物質的には大丈夫だが霊脈―――チャクラがまだ回復していない。
 そのことに苛立ちながら、横島は右手のソーサーを消して霊波刀を作って、斬りつける。

「とりゃぁっ!」
「ぬん!」

 道真が受け止めるのに使ったのは扇子。
 刃の形をした栄光の手と、一見して木と紙で作られたような風情の道真の扇子。ところが、鍔迫り合いで押されるのは栄光の手の方だった。
 見た目は所詮見た目。問題は込められた霊力であり、今の横島の霊波刀では、エヴァの攻撃を受け止められる扇子を斬るどころか、逆に折られないようにするのが精一杯だった。

「ぐぐぅっ…」
「ふっ」

 霊力を集中させ、霊波刀の強度を必死で上げる横島に対して、道真は余裕をみせ雷撃のための霊力を高める。
 横島はその霊力の動きと、そして背後からの殺気に気がつく。霊力を込めた直蹴りを浴びせつつ、サイキックブースト。直後にエヴァの呪文が発動。

「氷爆(ニウィス・カースス)!」
「のわぁぁぁっ!?」
「っ!?」

 凍気の爆撃が道真を取り囲むように6ヶ所。簡単には逃げられないタイミングと配置の爆発だった。そしてそれは横島にとっても、一瞬遅れれば直撃のタイミングだった。
 氷が張り付いた翼を羽ばたかせ滞空しながら、横島は凍りついた鼻水もそのままにエヴァへ怒鳴る。

「あ、危ないやな
「うるさい!貴様が勝手に道真の近くにいただけだろう。私の邪魔をするな!」
 は、はいっ!」

 思いがけないエヴァの怒声に横島は反射的に萎縮する。エヴァは横島に一瞥もくれずに、呪文を唱える。

(一体なんでそんなに不機嫌なんやぁ〜)

 助けに入った時のエヴァは怒ってなかった。それどころか呆然としていたような印象すらあったのに、気を取り直すと今度はめちゃくちゃ機嫌が悪い。
 全くわけが分からない。
 だが思索の時間は与えられない。
 直前で防御したのか道真は健在であり、ただそこにいるだけで見るものを圧倒するような霊力を、更に練り上げ励起する。
 その高まりは限界まで引き絞られ―――開放される。

「急々如律令!」
「闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!」
「わたぁぁぁぁっ!?」

 霊力と魔力の、全力激突。エヴァと道真の間にいた横島は、巻き込まれてはたまらないと、必死の形相で翼をバタつかせて飛び上がり、衝撃の範囲外に逃げる。
 闇と光。横島が来る前にあった構図だ。そして、その後の道真の行動も同じだった。

「行け!」

 道真が式神を投げる。数は前と同じく六。式神の形態も両腕が翼。
 ここまでは同じだった。だがここからが違った。

「獅子!螢惑に力を与え矢玉を成せ!」

 エヴァに向けて羽ばたく式神達の上空で、言霊が響く。
 見上げた式神のうち三匹に、無数の火矢が降り注ぐ。

「GIIAAAAAA!」

 断末魔を上げる三匹。燃えながら型紙に戻る同胞達に気を取られる鬼達。その隙が、更なる犠牲を生んだ。

「イナズマキィィィィィィクッ!」
「!!!?」

 一匹の背中に、ドロップキックが振ってくる。横島だ。
 式神の背骨が砕ける感触を分厚いブーツ越しに感じながら、横島はサイキックソーサーを投擲。光る円盤は横島が着地した鬼の近くにいた一匹を直撃、撃破。足元の式神が紙に戻る直前に、それを踏み台に最後の一匹に向けて跳び、翼で更に加速。
 最後の鬼はエヴァを攻撃するのを既に諦め横島に向けて口を開く。
 勘に任せて横島は身を捩り、霊波刀を構える。

「RUGUUU!」

 唸るような声と共に放たれたのは、道真と同じ雷の霊気。

「そろいも揃って…!」

 横島は式神の雷撃を受け止めながら前進。
 霊波刀を式神の口の中に突っ込み、

「極楽に…いかせてやるぜ!」

 切り裂く。
 刃が式神の体を抜けた瞬間に霊波刀を消して、手にタロット。
 愚者、吊られた男、審判と悪魔。

「磨羯よ!四大を持って砲撃を成せ!」

 火球が道真に向けて放たれる。威力はすぐ近くでぶつかり合っている術とは比べるべくもないが、直撃すればバランスを崩せる程度の威力はある。
 道真は忌々しげに雷撃をキャンセルし、移動。エヴァの闇の吹雪と横島の火炎が道真のいた場所を通り過ぎる。

「逃がすか!」

 そこに横島が追いすがり、剣を振る。それを見て、道真は顔をしかめる。
 当てられたところで大したダメージでもないが、だからといって無視もできない。
 本当に、鬱陶しい。

「この―――羽虫が!」
「おうっ、とぉっ!」

 頭の位置を狙ってきた小規模の霊波砲。横島は首を曲げてギリギリで回避。接近は止めない。
 道真と爪と扇子。横島は攻めではなく、守りに徹しながら、しかし距離をとられないように追いすがる。

「魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾(セリエス)・氷の79矢(グラキアーリス)!」

 横島の背後、道真の視界を全て多い尽くす氷柱の矢。横島は道真と離れると、エヴァのいる方――矢が飛んでくる方に向けて飛翔。誘導性のある矢は横島をすり抜け道真に殺到する。

「効かぬ!」

 道真は扇子を振る。道真は本来ならそよ風の一つしか起きないような動作で強風を生んで矢の半数を吹き散らし、残りの直撃に備えて障壁を展開。
 その間に、横島はサイキックソーサーを投げた。ただし道真には当たらぬようにその背後に向けて。
 氷柱に込められた魔力と道真の霊力がぶつかり合い、相殺しあう。その余波と光のせいで、道真は自分の背後に回りこんだ霊力の塊を見落とす。
 エヴァが放った矢のうち最後の一本が、全て障壁にまとわりつく電流の力で蒸発した瞬間、横島は遠隔操作でソーサーの軌道を道真に向ける。

 ずドんっ!

「何っ…!」
「よっしゃ」

 道真の声の理由は、痛みと言うよりも驚きによるものだった。それを見て横島は小さくガッツポーズ。

「虚仮にしおって…」
「あああっ!やっぱり効いてないぃぃぃっ!」

 怒った道真に睨まれて、横島は頭を抱えて怯えてみせる。そのおちゃらけた態度が、道真の怒りに油を注ぐ。
 邪魔な羽虫は、焼き殺すに限る。

「邪魔だ!」

 道真は横島に向けて攻撃を放つために雷気を両手に出現させる。
 憤怒の感情はより強く道真の霊力を発現させ、しかし同時に、隙を作ってしまう。
 自分の真下。人の姿をしているが故に、飛行すれば絶対に生じてしまう死角から、攻撃が来る。

「氷爆(ニウィス・カースス)!」
「ぬっ!」

 エヴァンジェリンの攻撃。魔力の動きを察した道真は、横島に向けようとしていた雷を霊力に戻して防御。視界が白濁した。
 霧だった。エヴァが先ほど撃ち、蒸発させられた魔法の矢の水分が、氷爆の冷気で水に変わった。その水は精霊によって生じさせられたものであり、視界と同時に霊的な感覚すら道真から奪う。
 このまま攻撃されれば防ぎようがない。
 道真は霧から出ようとするが、

「宝瓶!辰星を以って縛鎖を成せ!」

 霧を構成する水の分子の一部が集合し、蛇のように道真に絡みつく。
 横島の術だ。

「触れるな!」

 道真の一喝と共に生じた稲妻で、水の鎖は一瞬で蒸発する。
 たった一手分の時間稼ぎ。その一手、一呼吸を、エヴァは逃さない。
 霧を掻き分けて、小柄な人影が道真に肉薄する。
 エヴァンジェリンだ。

「そこか!」

 道真は扇子をなげる。霧の向こうに見えた影は避ける様子もなく、何も持っていない手を振りかぶり

「エグゼキューショナー(エンシス・エクセク)ソード(エンス)」

 振ると同時に刃が生じた。
 触れるものを相転移させる絶対零度の刃は、扇子と切り裂いた大気中にあった水分を低温の気体に変化さる。そして生じた冷気は周囲の大気に混ざった水の粒子を氷結させていく。
その全ては一瞬で行われ、道真の視界が晴れた。
 その目に映ったものは、ダイヤモンドダストを孕む大気を突き抜けながら、蒼い刃を振りかぶる、エヴァンジェリンの姿だった。


 刹那と木乃香が月詠に指定された場所に来た時、そこには当事者である三人しかいなかった。

「ふふふっ…。ようお越しやすー、刹那センパイ」
「人がいないな…」
「ええ。一般の人がおったらお互い本気を出せないですからー。

 気や術を使って戦う。
 月詠の言葉に込められた意味に、刹那は顔をしかめる。
 木乃香には魔法関係のことを秘密にしておきたいのだ。CGなどといっていつまでもごまかしておけるものでもない。

(しかし…手加減して倒せる相手でもない……)

 どうするべきか迷う刹那。それを察したのか、月詠が刹那の背後にいる木乃香に目を向ける。

「はは〜ん。センパイは木乃香お嬢様に裏のことがばれるのが嫌なんですねー」
「っ…」
「裏?何のこと、せっちゃん?」
「裏とは、魔法関係のことですよー、お嬢様」

 刹那の代わりに月詠が答え、刹那は顔色を変える。

「月詠!貴様、お嬢様には…!」
「秘密にしておきたい、とおっしゃるんですか、センパイ?
 それは、無理……というより可哀想ですわー」

 ほややん、とした笑顔のまま、月詠は言う。

「お嬢様は関西呪術教会の長、近衛詠春様のご令嬢であるだけでなく、東洋において一、二を争う魔力の持ちです。その身柄を巡って何人もの人が争い、傷つき、命を落とした者もおりますー。それなのにお嬢様はなんも知らない、知らされない」
「それは、お嬢様を守るために…!」
「守る、じゃなくて閉じ込めとるだけやないですかー?皆でよってたかって騙して、その力を封じてる…」

 月詠はそう言うと、小太刀を抜く。
 そしてそれを陶酔したように眺め、熱に浮かされたように言う。

「剣は、使われてこそ剣…。
 刀は使われてこそ刀…。
 技術は使われてこそ技術…。
 ――力は使われてこそ力ですー。
 お嬢様は、自分の内の力を、ずっとそのまま封じられていらっしゃいます。まるで博物館に飾られた刀と同じです。これほど可愛そうなことがありますか、センパイ?
 ウチ達は、お嬢様を解き放ってあげようとしてるんですえー?
 そして―――それは刹那センパイについても同じですー」
「何のことだ?」

 刹那の問い返しに、月詠は、口元を吊り上げて笑みを浮かべて、告げた。

「烏族の、力ですー」
「―――!!」
「う、ぞく?」

 月詠の目にも分かる程、刹那の表情が凍りついた。
 どこでその事を知ったのか?ひょっとすればメドーサ達が察知したのかもしれないし、月詠達反和平派の魔法使いからの情報かもしれない。
 どうやら木乃香は烏族という単語の意味が分からなかったらしく、首をかしげていた。刹那はそのことに安堵しながらも、それ以上のことを言ったら容赦はしないと、月詠に向けて鋭い殺気を放つ?
 その殺気を、月詠は心地よく感じる。

「そうそう♪その感じを待っておったんですよー」

 月詠は、残ったもう一刀を引き抜く。語るべきことは、全て語りつくしたとでも言うように。刹那も夕凪を抜き、背後にいる木乃香に言う。

「お嬢様。お下がりください」

 しかし、自分の裾を掴む手が離れない。

「せっちゃん…あの人の言ってること…どういうことなん?」
「…!」

 振り向くと、不安げな木乃香がこちらを見ていた。

「これ、お芝居とちゃうよね?お父様の名前も出てきたし…。
 裏とか、魔法とか…一体なんなの?」
「それは…」

 刹那は言葉に詰まる。よくよく考えれば、今まで騙しおおせていたことの方が異常なのだ。もう、これ以上は隠し立て出来なそうにない。

「…分かりました。後で、長の所で全てお話いたします。
 ですから、ここはお下がりください。
 何があっても、私がお嬢様をお守りいたします」
「せっちゃん…」

 刹那の言葉に、木乃香は嬉しさと不安さがない交ぜになったような表情を浮かべる。
 刹那は頷くと、それから思い出したように服の袖から文珠を取り出した。

「お嬢様、これをお持ちください。
 もしもの時はそれが危険から守ってくれるはずです」
「え…けど…それならせっちゃんが…」
「いえ。お嬢様がお持ちください」
「…うん」

 そのまま少し逡巡してから、木乃香は文珠を受け取ると、刹那の服から手を離して後ろに引いた。それを確認してから、刹那は木乃香のことを含め、全てを意識から排除し、目の前の敵に集中させる。

「待たせたな」
「ほな、いい感じで盛り上がってきましたし、始めまひょかー?
 お嬢様も刹那センパイも、そして横島さんも、ウチのものにしてみせますえー」

 それきり、二人は言葉を交わすのを止める。
 まるで時が止まってしまったかのように、立ち尽くす二人。
 木乃香は固唾を呑んで見守る。
 そして数秒後、木乃香の視界から―――二人が消えた。
 直後、

 ガギャン!

 橋の中央で、金属音が上がった。月詠の二刀と、夕凪と、刹那が貸衣装と一緒に借りたレプリカの刀が、互いに激突しあった音だった。


 戦いの音は、橋に向かっていた朝倉達の耳にも届いていた。

「あら?あの音は?」
「ひょっとして、もう始まったのかな?」
「やばっ!こりゃ急がないと…!」

 駆け出すハルナに、千鶴と夏美が続き、その背後を重い衣装に苦労しながらあやかが続く。

「あ、ま、待って!朝倉さん!急ぎましょう!」
「あ〜、別にいいじゃん、そんな慌てなくても、すぐには終わんないっしょ?」

 急かすさよに泰然とした態度を装いながら、朝倉は脂汗をかく。
 どうやら、時間稼ぎは不十分だったらしい。

(こうなったら、おなかが痛くなったとか言って皆を足止めでも…!)
「うわぁぁぁぁぁっ!」

 朝倉の思考を、背後から聞こえた悲鳴が遮る。
 聞こえてきたのは、通りから外れた脇道だった。
 気になって、朝倉はそこを覗き、そして言葉を失った。


 最初に目に入ったのは子供達の群れだった。
 一様に生気のない目をした幼稚園程度の年齢の子供達が、数人の大人を取り囲んでいた。
 悲鳴の主は彼らだった。

「みーつけた」
「みーつけた」
「みつけちゃった」
「みつけた♪みつけた♪」
「みーつけた」

「く、来るな!来るなよぉぉぉっ!」

 何もせず、ただ「見つけた」と歌うように口ずさむ子供達に囲まれて、大の大人が腰を抜かしている。
 その事を、朝倉達は笑えなかった。
 それだけ、異常で、異様で、サイケデリックな光景だった。

「ホ〜ホッホッホッホ!よくやったよ、お前達〜♪」

 そして、耳障りな笑い声を上げながら、悪夢の中心がやってきた。

「あ、あいつは…!」

 隣で、同じように振り向いていた朝倉が呟いた。
 やってきたのは、マダラ模様のピエロだった。
 空を覆いつくすような量の風船を片手に、ふわふわと低空を飛んでくるピエロ。悪趣味なファンタジーだ。
 子供達は、まるで王様の行進を前にしたように、左右に分かれて道を作り、通り過ぎた後はその背後を、踊りながらついてゆく。
 子供達の行進の終着点は腰を抜かした大人達のところだった。

「……っ!…ぁぅっ!」

 悲鳴を上げることもできずに怯える大人達。
 それを見て、ピエロは嗜虐的な笑みを浮かべると、風船を持っていたのとは反対の手に持っていた、ラッパを口にして、吹く。
 テュラテュラという、楽しげな、しかし不安げな音色。
 それが聞こえた時、朝倉の借りた着物の裾から、光が溢れて膜のように展開した。
 文珠だ。文珠が作った防護膜は、持っていた朝倉といっしょに、近くで立ち尽くしていた千雨と、さよとザジを包み込む。

「な、なんだこりゃ?」

 千雨が悲鳴を上げるが、とりあえず無視。膜の中だと、ピエロの笛の音が小さくなったようだ。
 この音が何か問題でもあるのか?
 朝倉の疑問はすぐに氷解した。

「ヘイ!」

 ボンッ!

 ピエロが一節を吹き終えると、腰を抜かしていた被害者達が、煙に包まれ…

「こ、子供になっちゃいまゴモ!?」
「シッ!静かにしろ!」

 叫びそうになったさよの口を千雨が塞ぎ、朝倉とザジが親指を立てた。
 アレは、まずい。

「む、むー!?」
「静かに、さよちゃん!逃げるよ?」
「ぷはっ!は、はい…」

 さよが落ち着いたのを見計らって四人はそろりそろりと、歩き出す。
 まずはハルナ達と合流しようと、橋の方へ向かう。四人の姿はすぐに見つかった。

「キャァァァァァァァッ!」

 悲鳴を上げながら、四人がこちらに向けて走ってきたのだ。

「ちょ、ちょっと静かに!」
「出来ないわよ!つかあれってなに?アトラクション?
 それにしちゃむちゃくちゃ怖いんだけど!?」
「あれって何…」

 掴みかかってくるハルナを落ち着けながら、朝倉はハルナ達の走ってきた方を見て、青ざめた。

「みーつけた」
「みーつけた♪」
「みつけたよ♪」
「おねーさんたち、みつけたよ?」
「にげるのずるいなー。ずるいなー」
「みーつけた」
「さいごだよ、おねーさんたちでさいごだよー」

 それは、生気のない目をした子供達の群れだった。細い路地や建物の中から子供達が集まってくる。まるでひたひたと押し寄せる波のように、人形のような子供達がよってくる。

「なななななな何ですの?これは本当にアトラクションですの?」
「んなわけがあるか!?」
「い、いいんちょ!ショタコンパワーで何とかならない!?
 半分は少年だよ、しょーねん!」
「ショタコンじゃありませーーーん!」
「あらあら…どうしましょう」

 身を寄せ合って怯える八人。その中である程度の覚悟が出来たいた朝倉だけが、どうにか何をするべきか考えることが出来た。
 どうすればいい?まずは連絡?けど逃げないと。どこに?

「んん〜?そっちにもみつかったのか〜い?」

 あのピエロの声がした。それが、引き金になった。

「皆!逃げるよ!」
「う、うん!」
「分かりましたわ!」

 子供達の間を縫って、朝倉達は駆け出した。


「ホ〜ホッホッホッホ。ど〜やらあの子達が最後みたいだねぇ〜」

 パイパーは耳障りな笑い声を上げながら、逃げてゆく朝倉達を眺める。

「あとはあの子達を子供にするだけ。オーホッホッホッホ」

 パイパーは子供達を引き連れて、朝倉達を追いかける。それこそ、引き連れた子供達が追いつける程度の速度で。
 その気になればすぐにでも追いつくことも出来る。
 しかし、パイパーはあえてそれをしない。すぐに捕まえてしまえば、つまらないからだ。

「さぁ、どれだけオイラから逃げ続けられるなぁ?」

 子供じみた残酷さに率いられ、不気味な行進が偽物の江戸の町を進んでいった。


 パイパーの行進を、城の天守閣から千草達が眺めていた。

「こんなに派手にやって大丈夫なの?」
「大丈夫や。一般向けには魔術師に関係あらへん魔族がやったことになる」

 問うたのはフェイト、答えたのは千草だった。
 千草の答えにフェイトは更に質問を続ける。

「けれど、魔法使い達はいい顔はしないだろうね」
「ふん、そないな腰抜け放っておけばいいねん。
 最後に勝つのはウチラや。後々の分け前のことを考えても、抜けてもらえば好都合や」
「…そう」

 千草の答えにフェイトは頷く。
 納得したから、ではなく理解したからだ。千草が、既に自分を見失っていると。

(まあ、彼女は所詮この程度の人間ということだね)

 悪魔を御するのに必要なのは、強大な魔力でも知識でもなく、己を見失わない意志力だ。
 この女にはそれがない。いや、あったとしても不足していたと言うべきか。

(まあ、いいや)

 フェイトは肩をすくめると、ポケットから氷の破片のような物を取り出す。

「じゃあ、僕は仕掛けを発動させてくるよ。
 ラーク」

 使い魔が跳び、その尻尾につかまる。

「天ヶ崎千草が利用されるのは確実か…」

 人気のないシネマ村を眼下にしながら、フェイトは呟く。
 親書の伝達失敗を理由に現長、近衛詠春の不審を主張し、同時に娘をさらい擁立。その魔力でリョウメンスクナを復活、使役。その血筋の正当性と、リョウメンスクナの力を背景に新政権を樹立するのが、天ヶ崎千草とその支援者達の目的だ。
 だが、メドーサ達が本気でその計画に賛同しているとは思えない。

「彼女たちが何を企んでいるのか…」

 彼女達の最終目的は人界最強の道化師、横島忠夫への復讐だと言うのは明らかだ。
 問題はその方法だ。関西呪術協会に取り入ったところで、彼らが横島忠夫討伐に乗り出すわけがない。
 では、メドーサ達の目的はリョウメンスクナを自分の戦力にするためか?

「それとも違う気がするな…」

 いくら伝説の鬼神とはいえ、ここまで大掛かりなことをしてまで手に入れようとするものだろうか?

「まあ、今夜中にでも分かるだろうね」

 ならば慌てる必要もない。
 フェイトが結論づいた頃、ラークは目的の場所について。それはシネマ村の中に掘られた堀だった。よどんだ水の中に、フェイトはメドーサから受け取った、ガラス片のようなものを投げ入れた。
 水、とそれには書かれていた。


「なんで本気を出しませんの?センパイ?」
「お前などに本気を出すまでもない」

 何度目かの打ち合いの後、刹那と月詠は距離をとって対峙する。互いの間合いから紙一重の距離だ。
刹那の手には夕凪のみ。借りた刀のレプリカは既に砕け、柄だけが足元に転がっている。
 刹那の回答に、月詠は不満げな顔をする。

「う〜ん…どうしても、烏族の力を使ってくれへんのですかー」
「くどいぞ!」

 烏族、その言葉に神経を逆撫でされ、刹那は殺気を増す。
 月詠はため息をつく。どうやら、言葉で引き出すことは無理らしい。

「なら、しかたがありませんなー。
 こちらから本気をださせてもらいますー」

 言うと、月詠はもう二歩分下がり、完全に間合いの外に出る。

「これは横島さんと戦うまでとっておきたかったんですけどー…」

 そう言ってから、月詠は目を閉じ、小さく息を吐く。
 そして『力』が立ち上った。月詠から漏れる力を察して、刹那は息を呑む。
 それは、気でも魔力でもなく…

「霊力!?」
「はいー。そうですよー」」

 そして、霊力が収束した。


 魔法と霊能。
 その両者の発現には共に体内の霊脈――チャクラが重要になる。
 魔法ではチャクラをパイプにして魔力を流し、放出、吸収し、霊能ではチャクラをつかって魂が発する霊波を加工、増幅させる。 
 共にチャクラを使用するため、魔法使いも霊能力者も常人よりもチャクラが発達している。それは片方が使えるものは、もう片方を習得するもの(魔法使いでも霊能力者でもない人が習得するのに比較すれば)比較的容易だということだ。

「ウチ、何かこの術と相性が良かったようなんですー」

 異形に変わった月詠は、楽しそうに言う。いや、異形と言うにはそれは美しかった。
 それは血を固めて作った鎧、あるいは血染めのドレスだった。両手に持った小太刀もその影響を受けてか、白刃が黒く染まっていた。

「メドーサはんも少し驚いてましたえー」

 そして頭は、飾り帽子のような兜と、白い面で覆われていた。

「これ、凄いんですよー?こうなると気の流れが凄く良くなるんですー」

 それは魂と肉体を入れ替え、肉体を付属物に貶め、常人異常の力を得る魔性の技。

「これ―――魔装術、って言うんですよ」

 無表情な筈の仮面で、しかし明らかに笑いながら月詠は言って、消える。
 刹那の背筋を悪寒がかける。
 予感の求めにしたがって、刹那は刀を右に振る。

 ぎゃんっ!

「!?」
「ふふふ…よー凌ぎましたなー」

 二本の黒刀を夕凪が受け止めていた。
 三本の刃が噛みあう向こうに、魔装術の装甲を纏った月詠の、白い仮面が見えた。

「いきますえ〜」

 小太刀に、夕凪ごと弾かれる。
 後ろに飛んでバランスと間合いを取る刹那。そこに月詠が追いすがる。
 魔装術を発動させる前より、数段速い。

「にとーれんげきざんてつせーん」
「くっ…!」

 叩きつけられる高速の斬撃を刹那は夕凪で辛うじて弾いてゆく。
 霊能である魔装術で、気による身体能力強化の力が増しているのは、チャクラの伝導率が上昇したためだ。
魔装術は肉体と霊魂の関係を逆転させる。全身のチャクラ強化はその効能の最たるものだ。変換率が百パーセントに近い仮面が発現した魔装術では、そのチャクラの伝達率は魔族や神族などの、本質が霊魂である存在に匹敵する。
 そしてチャクラは、同時に気の伝達回路でもある。
 速度も力も増している月詠の攻撃を凌げるのは、一重に月詠自身が制御し切れていないからだ。速さも威力も増しているが、太刀筋が雑になっている。
 だが刹那と打ち合うたびに、その粗も消えてゆく。己の身体能力を御し始める。

「てーい」
「っ!?」

 ついに月詠の小刀が、刹那の腕を捕らえる。
 浅い傷だったが、出血が新撰組の白と青の布地を赤く染める。

「せっちゃん!?」
「雷鳴剣!」
「うひゃぁ」

 強引にふるって発した雷撃を孕んだ斬撃。
 流石に防ぎようがなく、月詠は間合いを取り、魔装術を解く。
 一方、傍目からでも分かる程に、布地に広がった赤い色に、木乃香は顔色を変えて駆け寄ろうとする。

「せっちゃん!?大丈夫!?血、血が…!」
「来ないでください!」

 刹那の言葉に、木乃香は立ち止まる。

「私は大丈夫です。お嬢様は安全な所に」
「け、けど…血が…!」
「近づくと邪魔になります!」
「―――っ」

 心を鬼にした言葉で、ようやく木乃香は近づくのを諦める。
 刹那は防御力もない、動くのに邪魔な胴を脱ぎ捨て、羽織の袖を切って腕に巻いて止血する。
 その間、月詠は黙ってそれを待っていた。

「随分と余裕だな」
「余裕なわけではありませんよー。ただ不意打ちで倒しても意味がないだけですー。
 それに、全力を出していただく前に倒れてもらいたくありませんー。
 さあ、今度こそ見せてくださいー」

 魔装術、発動。
 どうやら、刹那が応急処置をしている間に何も仕掛けてこなかったのは、体力の回復を待つためでもあったらしい。
 粘ればあるいは魔装術が使えなくなるかもしれない。
 しかし―――そこまで持つか?

(烏族の―――力)

 それを使えば、あるいは互角以上の闘いも出来るし、木乃香をつれて離脱するのも容易だろう。

(けれど…それでは正体を…!)

 自分の正体を知られてしまえば、木乃香の元から去らねばならない。影から密かに守ることすら許されなくなる。

「いきますえー、センパイ。
 本気―――出してなぁ」

 無邪気ともいえる純粋な殺気を発しながら、月詠が飛び掛ってくる。
 その太刀筋は、既に魔装術によって得た気の強化を完全に御している。
 このままではやられる…!
 それを察して、

(お嬢様を…守るためならば―――!)

刹那は覚悟を決める。

(お別れです、お嬢様…!)

 刹那は、己の奥に眠らせておいた血を―――己の半身を呼び起こす。


 翼が広がる。


 木乃香は、目を見開いた。
 あの怖い人が刹那に飛び掛った次の瞬間、刹那の背中が光ったような気がした。
 そして、刹那の姿が消える。それほどの加速だった。
 赤く不気味なドレスを纏った人の黒い剣が虚空を斬る。その背後に刹那が立っていた。
 その時点になって、木乃香は刹那が背負った光の正体を知る。

「翼や…」

 純白の、大きな翼。
 異常なほどの加速は、この翼の羽ばたきによるものだった。
 さらに木乃香には分からなかったことだが、翼を開放したことと同時に、刹那のチャクラも、気の容量も増大している。その強化率は、魔装術を展開した月詠に引けをとらない。いや、制限がない分、刹那が上回る。

「斬岩剣!」

 背後からの斬撃を、月詠は体を地面に投げ捨てて回避。そのまま側転を入れて立ち上がり、声を上げる。

「それが刹那センパイの本当の力ですかー」
「…その通りだ。この姿を見た以上、勝ちはないと知れ!」
「ふふふ…。嬉しいですわー。けど、ウチだって簡単にはやられませんえー?」

 月詠の興奮に応じるように、魔装術の輪郭が僅かに揺らぐ。
 霊力と気の同時利用は、全く別のことを同時にするものであり、それには極度の集中を必要とする。その集中を支えるのはプロとしての意識と、彼女の中に巣食う戦いを求める修羅。
 月詠がたった一日で魔装術を完成させたのは、気を使うことで鍛えられたチャクラ以上に、その修羅の存在こそが大きな理由だったのかもしれない。

「ほな、やりまひょかー?」

 嬉しそうに二刀を構える月詠。

「……」

 無言で必殺の構えを取る刹那。

 一触即発の空気。
 それを破ったのは――


 ドンッ!


 それは、大地を揺らす衝撃だった。

「きゃっ」

 木乃香が尻餅をつく。
 強かに打った腰は痛かったが、痛みよりも目の前に聳え立ったそれへの驚きが大きかった。

「な、なんやあれ…?」

 見上げるほどに大きな黒い石版のようなものが、シネマ村の城壁のすぐ外に立っていた。
 それも複数、まるでシネマ村を覆うように。
 空を見上げているうちに、その板を支えにするように、半透明のドームが形成されていく。

「あらー…時間切れですかー。残念だですー」
「な、何だアレは!?」
「水角結界、ちゅーもんや」

 声は、橋のたもと―――木乃香がいるのと反対側だった。
 見れば、そこに女がいた。熊と猿の式神を引き連れた、着物を扇情的に着崩しためがねの女。
 それは一昨日の夜に木乃香をさらおうとした―――

「―――猿女!」
「誰が猿や!?」

 そういえば彼女は名乗っていたっけと、千草の隣でたったフェイトは思った。


 エヴァは非常に不機嫌であり、不満だった。
 理由は、自分の近くで騒いでいるバカ。

「おっし!クリーンヒット!」

 横島が小躍りする理由は、中に浮かぶ道真。

「くっ…小娘の分際でよくもぉぉぉっ!」

 怒りに燃える道真。その右腕は、肩から先がなかった。

 エヴァの霧にまぎれた襲撃は、止めを刺すにはいたらなかった。とっさに身を捻り直撃は避けたものの、エヴァの剣は脇の下から入り道真の腕を切り飛ばしていた。
 その結果に足しては、エヴァは不満ではない。問題は、その経過。

「ふぅ…茶々丸がやられてエヴァちゃんが追い詰められていた時はどうなるかと思ったけど。
これなら二人で協力すれば、倒せるかもな」

 問題は、その成果に横島の活躍が大きく関わっている点だ。

「調子に乗るな、横島。貴様などいなくても私独りで何とかなった」
「は?何言ってんだよ、俺が駆けつけた時なんかやられる直前だったじゃないか?」
「そんなわけがあるか!私は闇の福音だぞ!?」

 言い返しながら、けれども本当は、横島が言っていることの正しさを、エヴァが誰よりも理解していた。
 横島の力はエヴァや道真と比べてしまえば、ワンランク下がる。だが前衛―――サポート役としては最高の働きをしていた。
 道真の式神の接近を全て阻止して、エヴァが砲台としての役割に専念できるように動き、同時に道真が大規模な術を使えないように、ある時は気を引きある時は邪魔をする。それも霊力を集中できない左腕を抱えてだ。
 僅かな力の差によって傾いていた天秤は、横島という小さな重りの存在で、逆の方向に傾いた。このまま行けば勝利は確定だろう。しかしこのまま勝ってしまえば…

(それは、私がこの怨霊に劣っているという証拠ではないか!?)

 それは認められない。闇の福音として、最強の悪の魔法使いとして、敗北したままなど認められるものではない。

「もういい!後は私一人でやる!貴様はさっさと近衛木乃香の護衛にでも回っていろ!」
「なっ!んなわけいかんだろうが!」

 一方横島としてもこのままエヴァが単独で戦うなど認められるものではなかった。
 横島はエヴァとは対照的な精神構造だ。
 横島にとって自分が戦う敵は、自分より強いのが当たり前だった。
 更には丁稚、貧弱なボーヤ。落ち担当。などと言うキャプションが自分が弱者であるという事実を受け入れることの抵抗をなくさせていた。
 それ自体は問題ない。ただその思考回路では、エヴァのような自分を強者とし、その事実をよりどころとする人物の気持ちを考えることができない。
 故に、無意識かつ簡単に、逆鱗を踏みにじる

「エヴァちゃんだってタイマンで勝てるわけないだろう!?」
「――っ!?貴様…っ、私があの虎の威を借る残りカスに劣るとでも言うのか!」
「当たり前やないか!相手は菅原道真!伝説の京の怨霊だぞ!?
 真祖の吸血鬼なんて、真ん中にエルサレムって書いているT字方の世界地図前にして世界征服宣言するような生き物が勝てるわけないだろうが!?」
「良くわかった!まずは貴様を血祭りに上げて私の実力を魂に刻み込んでやる!」

 がるるるる、とにらみ合う二人。
 その間に無視されていた道真が、咆哮した。

「うおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!!!!!」

 肩口から雷が放出され、その雷光が収束し、物質化する。
 閃光が収まったそこには、再生された腕があった。

「げ、ピッコロさんかよ…」

 荒く息をつく道真を見て、横島が呟く。
 しかし回復したのは外見だけ。霊体自体はかなり傷ついている。

「このまま押していくぜ、エヴァちゃん!」
「…出過ぎた真似はするなよ?貴様はおまけだ」

 不機嫌そうに言いながら、横島の背後に回るエヴァ。
 矜持が内側から苛むが、自分の論理が子供のそれであることもまた理解できるからだ。
 息が整った道真は、エヴァと横島を眺めて、脂汗の浮かぶ頬にせせら笑いを浮かべてみせる。

「ふんっ。さすが人界最強の道化師を名乗るだけはある」
「ぼ、僕は単なる貧弱なボーヤ…じゃなくてか弱い女の子なんですが?」
「勘違いするな、京の怨霊。貴様の敵はこの私だ!」

 睨まれて萎縮する横島と、軽んじられて怒り狂うエヴァ。
 二対一の構図で、にらみあい、互いに動くタイミングを探る。
 両者がその機会を得る前に、その気配がした。

 ―――っ!

 大気ではなく、空間そのものを伝播したかのような、軽い衝撃。
 何か、巨大な術が発動した。それを感じ取る。

「ほう…ようやくか」
「…心当たりでもあるのか?」
「教えてやる義理はないが…そうだな、姫君の身でも案じろとでも言っておこうか?」
「木乃香ちゃんのことか!?」

 横島が問い詰めようとした時、携帯が鳴る。
 至近距離で高圧電流を流されて、よくも壊れなかったものだと感心しながら、横島は着信を見る。
 西条だ。
 嫌な予感を覚えて、横島は道真を警戒しながら通話ボタンを押す。

「どうした西条?二股かけてた女にでも刺されたか?」

 冗談交じりの台詞に帰ってきたのは、洒落の含まれない言葉だった。

『すまない横島君!朝倉君や桜咲君達と分断された!』


つづく

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