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「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第十一話(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2007-03-04 04:18)
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〜鬼畜世界の丁稚奉公!!   第十一話「それぞれの思惑」〜


―リーザス城 謁見の間―

氷の魔人サイゼルとその使徒ユキが逃げ去った後の謁見の間。
散乱するガラスの破片、こびりついた氷と雪、欠けた大理石や血の痕がここで激しい戦いがあったことを物語っていた。

マリスはその惨状にため息をつきながら修繕に要する費用を見積もった。

そして新たに謁見の間に現れた存在・・・明らかに人間ではないモノたちがランスと対峙している。
その傍らには先の戦いで負傷した横島が倒れ伏しているが、彼らには横島を害するつもりはないらしい。
人型になった日光が横島の負傷の具合を調べているが、その様子から察するに大事はないようだ。

とりあえずの危機は去ったと判断したマリスは横島にヒーリングをすべく、注意を払いながら近付こうとするが・・・。

「何の用だ?サテラ」

眼前に立つ少女に向かってランスが放った言葉に思わず足を止める。

「ふん。まさかお前が王になっているなんてね・・・ますます、倒し甲斐が出来たってものだわ。わかっているだろうが、お前を殺すのはこのサテラだ。一年前の屈辱、決して忘れていないからな」

小柄でまだ少女とも言っていい容貌に似合わない、不遜な態度で言い放つサテラ。

「・・・ランス王、お知り合いですか?」

「ああ、前にな。多感症ですぐにイってしまう可愛い魔人だぞ。がはははは!」

「・・・魔人」

やはり・・・という気持ちと増え続ける厄介事に頭が痛くなる。

「き、貴様!なんて説明をするんだっ!」

「本当のコトだろうが。すぐにイってしまう身体を修行で治して、俺様に抱かれに来たと・・・」

「こっ・・・殺すっ!!シーザー!!」
「ハイ、サテラサマ」

本気なのか冗談なのか、挑発し続けるランスに対して怒りを爆発させるサテラを、傍らにいたもう一人の少女が押し留める。

「・・・サテラ。私たちの任務を忘れてはダメ」

「でもハウゼル!サテラは侮辱されたんだぞ!」

「・・・・・・ここで争ってもどうにもならないでしょう?それに、彼らの邪魔を私たちはしてしまったのよ?」

ハウゼルにしてみれば危うく姉が殺されてしまう場面に出くわすところだったのだが、サテラの認識はそれとは異なっていた。

「・・・ふん。あのままじゃコイツらはサイゼルに殺されていたに決まってる。サテラはそれを助けてやったんだぞっ」

魔人と人間の絶対的な力関係を信じて疑わないサテラは、つい先ほどまで目にしていた状況をも否定していた。
それが半ば、ランスと自分の立場をなぞらえるためだとも気付かずに。

「サテラ・・・」

「・・・分かった。我慢する。でも後のコトは知らないよ」

真剣な眼差しを向けるハウゼルにとうとう折れるサテラ。

「ふふ、ありがとう」

拗ねたようにそっぽを向くサテラに苦笑を零し、ハウゼルは一歩前に出てランスと向かい合った。

「仲間の非礼をお詫びいたします、リーザス王ランス殿。私は魔人ラ・ハウゼル。人間との融和を目指す魔人筆頭ホーネット様の部下です」

「ほう・・・」

――人間との融和。

人間には俄かには信じがたい言葉ではあるが、確かに先代魔王ガイは人間への不干渉を宣言していた。
尤もそれは魔王自らは、という意味に過ぎず、その配下の魔人達は好き勝手に暴れまわっていた。
そして人間側も魔人に対し、戦争を仕掛けた歴史がある。

決して相容れない・・・敵対するのみの間柄。それが人間と魔人の絶対的な関係だった。

マリスは勿論、ランスとしてもハウゼルの言葉は俄かには信じがたいものだった。

「可愛い女の子の言葉を疑うのは忍びないが・・・日光さん?」

いつの間にか横島を抱えてランスの傍らに立つ日光に視線を向ける。
日光は鋭い眼差しはそのままに、緊張こそ解いてはいないが、サテラやハウゼルと敵対するつもりはないようだ。

「・・・彼女の言葉に嘘はありません。またリーザス王に仇なすコトもないでしょう」

他ならぬ『魔人殺し』の言葉である。
ランスもとりあえずは信じることにした。

「まぁ、日光さんのいうコトだし信じるか。で、最初に戻るが・・・一体、何の用でここにきたんだ?」

「私たちが来たのはリトルプリンセス様の護衛のためです。このリーザスに保護されている・・・と聞き、我が主ホーネット様の命により微力ながら馳せ参じました」

「リトルプリンセス・・・美樹ちゃんのことか。魔人に追われている魔王というのもおかしな話だと思っていたがなぁ。そういえば、さっき散々暴れまわってくれたサイゼルとやらにそっくりだが・・・君とはどういう関係なんだ?」

髪型や服装こそ違うが、顔立ちや仕草が酷似している。
察しの鈍いランスでさえそのコトに気付くほどに。

「・・・サイゼルは・・・私の姉です。あの・・・姉の此度の振る舞いも併せて・・・その・・・」

サイゼルのことを指摘された途端、歯切れの悪くなるハウゼル。
気絶している横島の方へチラチラと視線を向ける様は、自分自身を魔人と名乗った少女の仕草としてはあまりに似つかわしくなかった。

「・・・あぁ、確かに大いに邪魔をしてくれたもんだな。散々俺様をコケにしくさった挙句、あちこちをぶっ壊してくれたんだ。『お仕置きの一発』をくれてやらねば気が収まらなかったんだが」

先ほどのサイゼルとユキとの戦い。
戦局は確かにランスや横島側に傾いていたとも言えるが、元々の地力を考えればどんな拍子でひっくり返されるか分からない。
己の強さに絶対の自信を持っているランスだったが、こと戦いのプロでもある彼はそのことを良く理解もしていた。

プライドの高さ故、そしてハウゼルとの交渉を自分の思い通りに進めるため、口にすることは決してないが、ここら辺の計算高さは流石とも言える。
意識してやっているかどうかはまた別の話ではあるが。

「で、さっきの会話からも分かったが、君達は敵対しているんだろう?だが、俺様たちの邪魔をした。理由くらいは聞かせて貰いたいんだがな」

ジロリと足元の横島を睨む。
当の横島は日光に膝枕をされながら寝かされており、マリスのヒーリングを受けている。
その横島の脇腹をつま先で小突きながらランスは言い放つ。

ううう、と呻きながらも目を覚ます様子はない。

「・・・・・・・・・それは」

突如苦しみ始めたサイゼルを見た瞬間、人事不省に陥っていたハウゼルには詳しいことは分からなかったが、サテラとシーザーが日光を持つ少年を止める形で乱入したことは理解していた。
人間達に敵対することはない、と告げたハウゼルではあったが、先の自分達の行動がソレとは反することに等しいコトとも分かってはいた。

説明せねば納得して貰えないのも分かる。
しかし、なんと答えれば良いのか、ハウゼルには上手くまとめることが出来なかった。

「・・・そのことに関してはハウゼル個人の問題だ。ランスには関係ない。私たちの目的はあくまでリトルプリンセス様の護衛だ」

口ごもるハウゼルを見かねたのか、助け舟を出す形でサテラが口を挟んだ。

「そうは言うがな、コトの落とし前だけはハッキリとしとかんとなぁ」

ニヤリと、大きな口を歪ませて不敵な表情を浮かべるランス。

「何が言いたい?」

「簡単だ。姉の無礼の対価を妹が身体で返す。俺様としてはそれで十分だ」

「なっ・・・!いきなりなんてことを言うんだ馬鹿っ!!」

「・・・サテラ?」

ランスの言葉を聞くなり、顔を真っ赤にして怒り出すサテラ。
『身体で返す=戦う』という図式で理解したハウゼルはサテラの突然の爆発に戸惑ってしまった。

サテラはランスの性根を嫌と言うほど知っているため、すぐにランスの言葉の真意に気付いたが、根っからの常識人であり生真面目なタイプのハウゼルにとって、仮にも一国の王が出会いがしらに『身体を要求する』などという不埒な発想をぶつけてくるなど考慮の外だったのだ。

「ハウゼルも黙っていないで何とか言えっ!この馬鹿を付け上がらせるととんでもないことになるぞ!?」

「でも私たちは元々そのために来たのだから・・・。別におかしくはないでしょう?」

来水美樹の護衛をするためにリーザスに留まる以上、カミーラやレイ・・・サイゼル達との戦いは避けられない。
一番良いのは美樹が魔王の血を覚醒させ、リトルプリンセスとして即位することなのだが、これまでの経緯から考えてもすぐに説得が上手くいくとは思えないからだ。

「な、な、な・・・何を言ってるんだハウゼル!?サテラはそんなことしない!絶対しないぞっ!!」

きょとんとした表情を浮かべるハウゼルにサテラは絶叫する。

「がははははは。中々物分りがいいじゃないか、ハウゼルちゃん。それとサテラも自分が相手にされないと思って拗ねるんじゃない。お前も平等にちゃんと可愛がってやるぞ?」

「誰がそんなこと思うかっ!!・・・あぁもういいっ!とにかくリトルプリンセス様を出せ!ハウゼルもさっき言ったが、私たちはホーネット様の使者だ。そのことを伝えてくれればリトルプリンセス様も分かってくれる」

強引に話を戻そうとするサテラに、表情を引き締めなおすハウゼル。
ランスもハウゼルの言質を取り付けたせいか、最早先ほどの件を追求するつもりもなくなったようだ。

「ふーむ。コイツはこう言っているが・・・日光さん、信用していいものだろうか?」

「・・・ええ、美樹様の御意志は変わることはないでしょうが。それでも面会させねばこの場は収まらないでしょう。・・・彼女らも必死ですから」

先ほど魔人を屠る機会を邪魔されたうえに、横島を傷つけたことに対して正直憤懣やるかたなしといった心情だったが、サテラやハウゼルの事情をまったく知らないわけでもなく、強く拒絶することも出来ない。
勿論、日光は美樹を魔王に即位させることを阻止せねばならない立場ではあったが、それは全て美樹と健太郎の意思を優先している上での行動である。

「分かった。マリス、美樹ちゃんを呼んでくれ」

ランスの指示に頷いたマリスは謁見の間で既に後片付けを始めている召使の一人に言付ける。
10分もすればこちらへ来るだろう。

「それと・・・」

若干手持ち無沙汰になったランスに、不愉快な光景が目に付いた。
軽く力を込めて拳を振り上げる。

「いい加減に起きやがれこのクソガキッ!」

――ぼかっ!

「あだっ!!」

「ぴぎゃっ!」

何が気に入ったのか、ライトニングドラゴンの幼生態、はるまきは横島の腹の上で丸くなっていたが、慌ててリアの懐へと戻っていった。

ランスにしてみれば、いつまでも暢気に、しかも日光の膝の上でオヤスミ中なのが腹に据えかねたのだろう。
言いがかり、難癖、憂さ晴らし。
どれを取ったとしても、横島にとっては災難としか言いようがない。

ランスに頭を叩かれた横島は、その痛みと衝撃で飛び起きた。

唐突に何が起こったのか把握できなかったようだが、自分を見下ろすランスにズキズキと痛む頭から状況を察する。

「な、何してくれるねん!めっちゃ痛いやないかっ!!」

「うるさいわっ!偉そうに啖呵切っておきながら呆気なく気絶しやがって!貴様がさっさと始末しないから話がややこしくなったんだよ!」

「う・・・ぐぅ・・・」

理不尽な言い分なのだが、否定できないところもあった。
分が悪いと感じた横島は周囲を見渡し、自分の味方――日光の姿を探す。
先ほどまで横島の頭を膝に乗せていたため、日光はすぐ後ろで正座したままであった。

「気分は如何ですか?横島様」

ジロリとランスに抗議の視線を向けていた日光だったが、横島が自分を探していることに気付くとすぐに向き直って安否を気遣った。

「あ・・・日光さん。スンマセン・・・大丈夫でしたか?あの後どうなったか・・・俺にはよく分からなくって」

ハッキリとしない頭を振りながら、状況を思い出そうと試みる。

「ご心配なく。サイゼルは撃退できました。図らずもホーネット派の魔人が乱入することで彼らが逃げ出す形で決着いたしましたが・・・」

「・・・ホーネット派?」

「ええ、すぐそこにいます」

日光の指差す方向に目を向けると、やはり目立つのは見覚えのある巨大な石人形。
そしてその前に立つ小柄な少女が二人。こちらには見覚えがなかった。

二人とも目を覚ました横島を凝視している。

「・・・・・・すっごい睨まれているんスけど、俺、何かしましたか?」

ボソボソと小声で日光に問う横島。
心当たりはまったくなかったが、自分と言う人間を良く知っている横島としては、たとえ気絶中とはいえ己の不埒な行動を制御できているとは思っていなかったからだ。

「いえ・・・その様なことは。ただ横島様は昨日お話したとおり、魔人にとって注視されてしまう存在ですから・・・」

不要なことをランスやマリスには聞かれないよう小声で返す日光。

「ううう・・・なんつー迷惑な・・・。あんな可愛い女の子に注目されているというのにちっとも嬉しくない・・・・・・」

ハウゼルとサテラが向けてくる視線の意味するものは疑念と不審・・・明らかな敵意こそ窺えないが、決して好意的なものではない。
この場に憚るものがなければ、すぐにでも何事かを問い詰めてきそうな気配すらある。

(なんだかなー・・・苦労のわりに全然報われない・・・)

それこそ命懸けで戦った挙句、この境遇ではあんまりではないか。
もう少し役得というものがあってもええやんか・・・と。

先ほどまで日光の膝枕&マリスのヒーリングを受けていたことを伝えれば少しは横島の気分も変わったであろうか?
・・・恐らくまったく記憶に残っていないことを悔しがるだけであろう。

苛立たしげに見下ろしてくるランス。
新たに現れた魔人達の視線を一身に浴びながら、横島は疲れたように息をついたのだった。


一方、熱い眼差し?を横島に対して向けている二人の魔人も、今までの認識を覆しかねない(サテラにとってはランスもそうではあったのだが)少年に驚きを隠せなかった。
自然と視線が厳しくなるのは仕方のないことである。

「・・・ハウゼル、やはりあの人間がサイゼルを?」

「ええ・・・間違いないわ。前にサイゼルと感覚を共有したときに見た人間と同じ姿ですもの」

「けど・・・どういうこと?どこから見ても普通の人間・・・そのはずなのに、魔人と同じような気配を放つなんて・・・」

「・・・違うわ。魔人と人間、その両方を・・・二種類の魔力を持っているのね、彼は」

「そんな馬鹿なっ・・・!人間から魔人に生まれかわってもそんなことにはなり得ないのに・・・」

「・・・・・・今はこれ以上は分からないわ。リトルプリンセス様がここに留まると仰ったなら、彼に聞く機会も出来るかもしれないけど」

ハウゼルの言葉に一瞬、顔をしかめるサテラ。
サテラ自身の本音からすれば、人間界に留まって居たくはないのだ。

「・・・全てはこれからのリトルプリンセス様との話し合いで決まる、か」

「・・・・・・・・・」

サテラとハウゼルはこれ以上の話をすることなく、静かに美樹が現れるのを待つことにした。


「王様・・・ホーネットさんからの使者が来ているって・・・」

侍女に案内された美樹が脅えた顔で謁見の間に現れた。

「ああ、ここにいる。日光さんの側にいるといい。こいつらが何かしたら俺が守ってやるから」

横島は完全にシカトされている。
とは言え、美樹がこの場にいる以上、離れるわけにもいかない。

「大丈夫・・・です。この人たちは私に何もしません・・・」

「そうなのか?」

「ええ、先ほど言ったとおりです」

そう言いながらも美樹を守るように傍らに立つ日光。
横島も日光に倣うように、緊張こそしてないが、油断なく魔人達を見つめている。

「サテラさん・・・ハウゼルさん・・・いくら来られても、困ります・・・」

戸惑いながら落ち着かない美樹の前にサテラとハウゼルは静かに歩み寄ると、膝をつき臣下の礼を取った。

「美樹様。サテラ達と一緒に、ホーネット様の元へ来て下さい。事態は切迫しています。このままだと、ホーネット様はおろか、貴女まで危険です。どうか、魔王として自覚を持って君臨して下さい。そうしないと、この混乱はおさまりません。ケイブリスの野郎をおとなしくさせるのは、貴女が魔王になるしかないのです」

「や、やめて下さい・・・私は魔王になんかなりたくない・・・健太郎くんと一緒に日本に帰りたいだけなの・・・」

「リトルプリンセス様!いい加減にしてくださいっ!」

激昂して立ち上がるサテラに対して横島が身構え少なからぬ殺気を放つ。

声は小さくとも悲痛な叫びとなった美樹の願い。
それを自分達の都合だけを押し付け、美樹の言葉を一蹴したサテラの言い分を易々と認めるわけにはいかなかった。

ランスや日光も同じ想いなのだろう。
そんな考えを持つ者が横島だけではないことが、すぐ傍らで発せられた剣呑な気配からも窺える。

一触即発の緊張が謁見の間に広がった。


「サテラ・・・これ以上はやめておきましょう」

沈黙を破ったのはもう一人の魔人、ハウゼルだった。

「ハウゼル!!サテラは・・・!」

「貴女の気持ちも分かるわ。でも、ここへ来る前にホーネット様にも言われたでしょう?無理強いでは何も解決しないの。それではあのケイブリスと何も変わらないわ」

「くっ・・・」

ハウゼルに諭されたサテラは俯いたまま黙り込んでしまった。
そしてハウゼルは再び美樹の下に傅いた。

「美樹様・・・先に言ったとおり私達は無理強いをいたしません。それがホーネット様の意志であり、またガイ様の遺志でもあります。ですが、私達に残された時間が少ないことも分かっていただきたいのです。魔人界の混乱はやがて人間界をも巻き込むでしょう。そうなった時、美樹様がその力を揮いにならなければ全てが壊れてしまう。決断を下されるのはその時でも構いません。私達はその時を迎えるまで美樹様をお守りにきたのです」

柔らかな声でゆっくりと言葉を紡ぐハウゼル。

「そんなこと・・・言われても・・・」

「私達を拒絶なさっても構いません。私達は私達の都合で美樹様をお守りし、影となり、仕える為にここへ参りました。今から私達の主は貴女です」

有無を言わせない断固とした宣言。
穏やかなままの口調が逆にその意志の強さを表していた。

そして、ハウゼルの一方的な口上をただ聴いていた横島はどうしようもない憤りを覚えていた。

(・・・やっぱ駄目だ、サテラとかいう娘と違って少しは『分かる』相手かとも思ったけど・・・・・・)

「アンタ等・・・物分りの良さそうなこと並べてはいるが・・・本当にこの娘の・・・美樹ちゃんの願いや希望は結局のところ全然、全く少しも構いやしないって言うのかよっ!?」

「・・・忠夫さん?」
「横島様・・・」
「横島殿・・・・・・」
「・・・・・・ふん」

「魔王になれ?そうでなければ魔人界とやらが混乱する?たった一人の小さな女の子を犠牲にしなければならない魔人界なんざロクなもんじゃないってコトだろうが!さっさと他のヤツを魔王にしろよっ!それが出来なければとっとと潰れてしまえっ!!」

叫びながら横島は己の放つ矛盾に、心の中で悲鳴を上げていた。
所詮、余所者の・・・何て安っぽく欺瞞に満ちた言葉だろうか。
大体、たった一人の最愛の恋人を犠牲にして世界を守ることを選んだ男が、どのツラを下げてそんなことを言えるのか?

「な、なんだお前はいきなり・・・貴様には関係のない・・・いや、魔人界がケイブリスの手に落ちれば、間違いなく人間界も・・・」

突如叫びだした横島の勢いに、気圧されるように後ずさったサテラだが、すぐに気を取り直して言い返すが・・・。

「やかましい!俺は美樹ちゃんがここの世界に来た理由とか聞いた!一方的に連れ去られ、無理やりに魔王の血を継承されたってな!この娘は・・・この娘はそのクソッタレな血の恐怖にずっと脅えながら3年もの間、逃げ続けていると言っていたぞ!?」

「それは・・・・・・私達とて不本意であることに偽りはありません。先代の魔王ガイ様の遺言さえなければ・・・美樹様も与えられた宿命から解き放たれていたでしょうから・・・」

ハウゼルとてまだ幼い美樹に全てを押し付けることに抵抗を感じているのは間違いないのだ。

だが、魔人にとって魔王の命令は絶対。
尤も魔王が死した後、その強制権からは解き放たれているのだが、それでもホーネット派の魔人達はそれを堅持しようとしている。

「遺言だと!?そんなクソ野郎の言うコトを律儀に守るためだけに、アンタ達は殺しあってるというのか!?だったら自分達だけでやってろよ!この娘に構うんじゃない!!」

「ガイ様を侮辱する気か!?威勢だけはいいようだがな・・・何も知らない人間風情が吠えるな!!」

「何も知らないワケじゃないって言ってるだろうがっ!だいたい―――」

今にもサテラに掴みかからんとする横島に、主の危機を察したシーザーがその巨躯を滑らせるように前へと突き出そうとするが・・・。


「うるさい、黙れ」

いつの間にか喉元に突きつけられた抜き身の剣に、思わず横島は身体を硬直させる。
確かめるまでもなくランスの仕業であった。

「・・・ランス・・・王」

「ヨコシマ、貴様の言い分なんぞは正直どうでもいい。だが、ここはリーザスでこの俺様が王だ。それは理解しているな?」

底冷えするような据わった声色。
眼光は鋭く、刺すような視線が横島を射抜く。

「う・・・は、はい」

不満はあるが、とりあえず頷く。
突きつけられた剣は今も殺気を伴って、横島の首に当てられている。

「――ならいい。・・・さぁ、ハウゼルちゃん。美樹ちゃんを守りにきたのだろう?俺様に異存はない。ならさっきの続きをする必要があるんじゃないか?」

ランスは横島の返事を聞くなり、あっさりと剣を引き鞘に収める。

「え・・・あ、は、はい」

ハウゼルは一瞬、何を言われているのか理解できなかったが、すぐに気を取り直す。

「――リーザス王ランス殿。これより私達はリーザス軍の末席に加わります。美樹様狙う魔人が来たときはすぐにお知らせください。その時は私ラ・ハウゼルとサテラが先陣を切って戦います」

ホーネット軍の司令官を担っていただけあって、中々に堂に入った敬礼をして見せた。

「うむうむ。期待しているぞ。当然アッチもな。がははははは」

「は・・・はぁ・・・」

「ふんっ・・・・・・勝手にやってろ」

今ひとつランスの事を捉えきれないハウゼルに、横槍を入れられ毒気を抜かれたサテラ。
あれほどのコトを人間に言われて収まりなど簡単に着くはずもないのだが、ここでこれ以上騒ぎ立てても意味がないことくらいは理解できた。

そして、上機嫌となったランスの陰で、やはり収まりのつかないはずの横島はと言うと・・・。


(あああああ・・・怒らせちまったぁあ!勢いと言うか何かこー抑えの効かない怒りが沸々と・・・ってそんなことはどうでもいい!うわっめっちゃ睨んでるよ!殺気ムンムンだよ!殺意に満ち溢れているよ!!あー俺のバカバカ馬鹿!!あのサテラって娘も見た目こそ小さいけど魔人なんだよな!?今から謝るか!?ごめんなさいって・・・・・・いやいや、俺は間違ってない・・・間違ってないぞ多分。間違ってないと思う・・・間違ってないといいなぁ・・・)

無言の叫びを撒き散らしながら頭を抱えて踊り狂っていた。
傍から見ればただの『アブナイ人』である。

「・・・あの忠夫さん?」

そんな横島に対して果敢とも言えるほどの呼びかけをする魔王様こと来水美樹。

「・・・・・・あ、何、美樹ちゃん。俺は今、ひっじょーに悩ましい問題に直面していてだなぁ・・・」

「ありがとうございますっ」

満面の笑みを浮かべて、ぺこっと可愛らしくお辞儀をする美樹。

「へっ?どしたの突然」

「嬉しかったです。忠夫さんの言葉が」

「ん?な、なんで?俺、なんか美樹ちゃんが喜ぶようなコト言った?」

真っ直ぐな純粋に好意的な視線を向けられて戸惑う横島。
それが今の横島には何より痛い。

助けを求めるように日光の方へ視線を逸らそうとするが・・・。

(・・・ニコリ)

思わずドキリとするほどの穏やかな微笑を浮かべて横島を見つめている日光と目があった。

(な・・・なんだって言うんだ・・・・・・そ、そうだ、マ、マリス様は・・・)

キョロキョロと視線を巡らせてマリスを探す横島。

そのマリスはというと先ほどの横島の啖呵に思わず耳を傾けてはいたものの、すぐに己のすべき事を思い出し今は謁見の間の片づけを指示し続けていた。
横島が無言で助けを乞うたとて、気付くはずもない。

(えーとえーと・・・リア様っ!)

何をとち狂ったか、横島はリアにまで助けを求めようとした。

リアははるまきを胸に抱きかかえながらぽけーっと玉座に座ったままであった。
横島が自分を見ていることに気付き・・・・・・しばらく見つめあった後、ぽんっと右拳を左の掌に叩く。

そしておもむろに後ろからランスを腰抱きにタックルをかます王女様。

「ねぇダーリン!もしリアが魔王になっちゃっても・・・ダーリンはリアのこと守ってくれる?」

「いや、退治する」

しごくあっさりと切り返すランス。

「えー!じゃあ、あの美樹って娘はどうするのよう!?」

「保護する。助けてやる」

「ぷうっ!ダーリンの馬鹿馬鹿馬鹿っ!!」

「だったら魔王になんてなるな。お前はお前のままでいい」

「え・・・・・・」

たっぷりと5秒は固まった後。

「・・・・・・そ、そうよね!リアはリアのままで愛されているんだもの、うん。困らせるようなこと言ってゴメンね、ダーリン」

手の平を返したようにご機嫌になるリア王女様。
横島のことなど端から地平線の彼方である。

(あ、あかんわ・・・犬も食わぬ夫婦漫才・・・)

放り出されたはるまきが悲しげに「がおぉ・・・」と啼いているのが哀愁を誘う。

いよいよ助けを求める相手のいなくなった横島は美樹に向き直る。

「え、えーと美樹ちゃん?」

「なに?忠夫お兄ちゃん」

・・・・・・・・・・・・・・・。


「――おぷすっ!!」

「わ、わ・・・忠夫お兄ちゃん、いきなりどうしたの!?鼻血、鼻血がっ!日光さん日光さん・・・どうしようティッシュ・・・あ、私のハンカチがあったっけ!?」

「落ち着いてください、美樹様。とにかく横島様を壁に寄りかからせるか・・・決して床にそのまま横たわらせてはいけません。あぁ、先ほど私もしたのですが頭を高い位置に置くように膝枕が良いでしょう・・・。そう、そうです。グッドですよ美樹様」

親指を立てて美樹に突き出す日光。

「のぉおおっ!のおおおっ!!」

「け、痙攣し始めてるよっ!?」

「問題ありません。次に服を脱がして楽にしてさし上げねばなりません」

「じゅ、順番を間違えてないかなぁ?」

「そんなことはありません。さ、美樹様は横島様が暴れないように押さえつけていてください。その間に私が上着を取りますので」

「はーい。さ、忠夫お兄ちゃん、大人しくしててね」

がしっ!!

美樹の細腕からは想像を絶するほどの腕力が発揮され、横島の頭を押さえつける。

「ぐわああああ・・・い、痛い、美樹ちゃん痛いって!!」

無駄な抵抗を試みてはいるが、びくとも動かない。
これも魔王の力の片鱗なのだろうが、本来の力の万分の一も使ってはいないだろう。

その間にも横島の上着は日光の手によって脱がされていく。

「おおおお・・・美女と美少女に前から後ろから好き勝手にされているう!?な、なんだかドキドキが止まらないっ!!うおおお・・・がくっ」

横島、本日二度目の気絶である。

「あらら・・・寝ちゃった・・・おーい」

ぺしぺしと軽く頬を叩くが起きる様子はない。

「少し寝かせてさしあげましょう。今日は・・・いえ、今日も横島様は私達のためにとても頑張ってましたから・・・」

「・・・そろそろ健太郎くんの様子も見に行きたいんだけどなぁ・・・」

「では私が交代いたしましょう。美樹様はお気遣いすることなく健太郎様の看病をなさってください」

「うーん・・・もうちょっとだけ忠夫お兄ちゃんのお世話するよ。それでも目を覚まさなかったら日光さん、後はお願いね?」

「ええ、了解いたしました、美樹様」


目の前で繰り広げられる謎空間。
ラブは相変わらず一方通行だが、コメに関してはそこらじゅうに飛び交っている。

「なぁ、ハウゼル・・・」

「なぁに、サテラ?」

「サテラはとても帰りたい。今すぐにだ。リトルプリンセス様のこともどーでもいい」

「容易に同意はしかねるけど、本心はそれを否定できないのよね・・・困ったわ・・・」

魔人界より新たにやってきた戦力、サテラとハウゼル。
彼女等の任務は前途多難であった。


第十一話   完


後書きのようなもの

・・・・・・・・・。

えーと。

前回の更新から2ヶ月半近く?

『ごめんなさい』

言い訳はしません!ええ。
戦国ランスで全CG&ほぼ全イベントコンプ。全国版を2週し、猿殺しで納得がいくまでキャラを育成したりとかしたけど、言い訳はしませんとも!!


さて、肝心の本編ですけど、全然話進んでませんね。
日光さんが壊れかかって、美樹ちゃんの妹フラグが立った・・・と。
とは言っても美樹ちゃんが横島に恋愛感情を抱くことはないです。彼女は健太郎くんひとすじですから。
ついでにハウゼル&サテラとの敵対フラグでしょうか?
ただし、決定的な亀裂が生じないよう、ランス君に動いてもらったつもりです。

しかし、本来なら前回の話に繋げるべき内容かも。
でもようやくハウゼル、サテラの顔見せが終わり、強制イベント終了と言ったところでしょうか。

次回の更新は・・・なるべく頑張ります!

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