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▽レス始

「WILD JOKER 巻20(GS+Fate)」

樹海 (2007-02-14 21:49/2007-02-15 06:00)
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豚肉を煮て脂を落とし、冷水に漬ける。
 簡単な料理だが、タレと合わせると実に美味い。これにライスとミソスープ……この国では味噌汁と言うらしいが、それを用意する。
 「何だか夫婦みたいだな」
 リビングで料理を待ってくれているであろう男の顔を思って、バゼットはふとふふ、と笑顔を浮かべ、慌てて頭を振って想像を追い払った。い、一体何を考えているのだ、自分は!
 折角自分で料理が作れるようになったので今日は遂に一人で料理をさせてもらったというのに……ただそれだけなのに。頬をほんのりと赤く染めて、飾りつけの為に箸を動かす彼女の姿を見れば、故郷の両親は嬉し涙を流し、一方時計塔の面々は自分の眼と正気を疑う事だろう、きっと。

 料理はなかなか好評だった。矢張り自分の手料理を褒めてくれる相手がいるというのは嬉しいものだ。以前の自分はそれこそ早く食べれるものをと考え、それこそ缶詰やジャンクフードも愛用していたものだったが、最近というかここ数日でみっちりと栄養バランスというものを叩き込まれた。栄養バランスを考えないという行為は、肝心要の際に体調を崩して戦闘に支障を来たす事があるのだという。これまでの自分はそんな事はなかったが、そういう可能性があるのならば時間を割く意味はある。
 ランサーとの食事が終わり、お茶を飲みながらたわいのない話をする。
 穏やかな時間。封印指定の魔術師達とやりあってきた自分にはこんな時間は本当に久しぶりというか初めてな気がする。本当に今が聖杯戦争の最中である事を忘れてしまいそうで…………聖杯戦争?
 「そうでした!今は聖杯戦争中なのでした!」


 WILD JOKER 巻20


 突然叫んでテーブルを叩いて立ち上がった彼女に呆れた様にランサーは呟いた。
 「……本気で忘れてたのかよ」
 何事もやると決めたら全力疾走、なのはいいが……。

 「こうしてはいられません!ランサー、すぐ調査を……」
 「あー、まあ落ち着け」
 そう言いつつ、ずいっとバゼットの前にお茶とお茶請けの和菓子を差し出す。思わず受け取って一服する彼女を座らせると、頭を掻きつつランサーは地図を出してくる。
 「まあ、多少は調べておいたからよ……とりあえず説明するわ」
 「……調べてくれてたんですか」
 「……お前俺が何しに昼とか夜に出てたと思ってたんだよ」
 人間である彼女は睡眠を取らねばならないし、食事も取らないといけない。そしてその食材はランサーが買ってきてくれていたので(彼女に任せるとつい以前の如き買い物をしてくるので)、てっきり買出しに行ってるのだと思っていた。そう言うと、『あーまあ、確かにそれも間違いじゃねえけどよ……』と何かがっくりきていた。

 とりあえず気を取り直してランサーはバゼットに現状の説明を行う。
 「実は聖杯戦争自体は殆ど動いていない」
 と、言いつつ、判明しているマスターというかサーヴァントの所在だと、地図の二箇所に丸をする。ちなみに地図は冬木市全図だ。 
 「これ以外の他のマスター、というかサーヴァントの居場所は?」 
 二箇所しか丸をされなかった事に不審を感じてバゼットは問いかける。確かに当然の事だろう、丸をされた箇所はいずれも冬木の聖杯戦争の三大家系、遠坂の屋敷も間桐の家もアインツベルンの城がある郊外にも丸が為されていない。
 「だからこの二箇所だ」
 「え?」
 当然と言わんばかりに告げられた言葉にバゼットは思わず驚きの声を上げる。それが示す所は。 
 「全てのサーヴァントとマスターはこの二箇所に集まってる」
 「……同盟を組んだ、という事ですか」
 複数のサーヴァントを相手にする危険は言うまでもない。単純に相手の戦力が倍以上になるというだけでなく、戦術の幅が大きく広がるからだ。これで向こうの戦力が一人だけ突出しているという事ならもう少し楽なのだが、生憎そんな甘ったるい考えが出来る程バゼットは事態を楽観などしはしない。
 「……そればかりでもないんだが、まあそいつは順番に話そう」


 「ここが今マスターとサーヴァントが集まってる中では最大勢力だな。衛宮邸と呼ばれてる日本風の屋敷だ」
 「衛宮……」
 ランサーの言葉にふと思い出した情報がある。一応、聖杯戦争に関する情報は集められるだけは集めた。正確な情報があるとないでは生存の確率は大幅に異なる。増してや今回の相手は封印指定の魔術師よりある意味危険な、英霊という人類の奇跡達を相手どらねばならないのだから。その中の一つ、第四次聖杯戦争にその名があった。ロード・エルメロイ鏡ぁ∋計塔の名物講師である彼が相変わらずの仏頂面で語ってくれた名前にその名前があったと記憶している。
 「ん?何かあるのか?」
 「いえ、前回の聖杯戦争に参加した魔術師殺しと名高かった魔術師が衛宮切嗣と言いまして。何か関連があるのかと思ったのです」
 確か彼は前回……。
 「まあ、いい。実の所勢力としてはここが最大勢力だ。セイバー、バーサーカー、ライダーに加えてイレギュラークラスであるジョーカーの四体のサーヴァントがいるだけじゃなく、聞いてた聖杯戦争に関わる主要魔術師の家系、遠坂、マキリ、アインツベルンの三家の代表全員がここにいる」
 「アインツベルン……ならば間違いなさそうですね」
 確か衛宮切嗣は前回アインツベルンの家に雇われて参加した筈だ。アインツベルンの家系がそこにいるというならば、矢張り既に死去したとはいうが、彼の縁者が関わっているからアインツベルンも加わったのだろう。
 実際はただ単にイリヤが士郎を気に入ったのと、ギルガメッシュという危険極まりない存在がいるからだけなのだが、そこまでは知らないからそう判断を下す。
 しかし何という厄介な話だ。全ての聖杯戦争の根幹に関わる三家全てが同盟を組むとは。何百年と戦い続けた三家同士が率先して同盟を組むとも思えないから、間に入ったのは衛宮の人間だろう。衛宮切嗣の後継者とは余程の人格者なのだろうか、いずれにせよ同盟を組んでもいいと思わせるとは何とも交渉に長けた危険人物に違いない、と少々ならず過大評価を下す。
 まあ、間に入った点は間違いではないが。
 そこでふと気になってランサーに問いかけた。
 「ところで何です、そのイレギュラークラス、ジョーカーというのは」

 「ああ、それか」
 本来、聖杯戦争で呼ばれるクラスは七つ存在する。剣の騎士セイバー、槍の騎士ランサー、弓の騎士アーチャー、騎兵ライダー、暗殺者アサシン、魔術師キャスター、狂戦士バーサーカー。しかし、過去の聖杯戦争においてはそれ以外のイレギュラーなクラスが出現した事もあるという。そのぐらいの知識はある。だが、そのジョーカーというのがどんなクラスであるのかは分からない、そうバゼットが言うと、ランサーはもっともだ、と頷いた。 
 「正直、俺もそいつがどんな特徴を持つクラスなのかまでは分からん」
 まあ、それは当然だろう。
 「一応外見は現代風の外見してるな。普段俺が街に出る時みたいとか、セイバーみたいに着替えてるのかとも思ったが、戦闘時も同じ服装のようだからあれが本来の英霊としての姿なんだとするとかなり近代の英雄って事になる」
 そう言いつつ服装、見た目などを説明する。バゼットにもその服装、ジーンズにジージャンという格好が英霊本来のスタイルというならばここ百五十年以内の英雄(ジーンズの登場はその頃)の筈、いや日本人風の外見でジーンズの形状などを考えると更に現代に近い時代とは分かったが、心当たりはない。はて、そんな近代にケルト神話の大英雄クーフーリンと張り合える程の英雄なんていただろうか?
 「あーどうも異世界の英雄らしいぞ。まあ、手の内まではさすがに明かしてくれなかったが」
 「異世界?」
 成る程、それなら理解出来る。他ならぬ五つの魔法の中には個を保ったまま無限の数の平行世界を渡る魔法がある。マスターがその魔法の使い手である宝石翁ゼルレッチの弟子である遠坂の家系のものであるというし、そうなると異世界に干渉しての召喚を行ったというのだろうか?実は単なる事故なのだが、下手に深読みしてしまう。
 「しかし随分詳しいですね」
 ふと気になってランサーに問いかける。よくそこまで分かったものだ、と本気で思う。
 「ああ、さっき言ったジョーカーって奴と話してな」
 「…………は?」

 「ああ、最初は別にわざわざ会ったとかじゃねえぜ?以前に教会で他のマスターに会った事あったろ?」
 「ありましたね」
 ランサーがバゼットの表情に浮かんだ怒りの匂いを感じ取って即先手を打つ。そういえば確かにあの時、遠坂の魔術師と同年代と見える少年の二人のマスターと出会った記憶がある。
 「あの時、外で連中の連れてきたサーヴァントと話す機会があったってだけの話だ」
 成る程、それならば納得がいく。彼らもマスターならばサーヴァントを連れてきて当然であろうし、自分の場合もランサーは『どうも気分的に嫌な気がするから』と教会に入る事を断った。他の英霊もそうであるとしたら外でばったり会ったとしてもおかしくはない。
 成る程してみると教会は英霊すらあまり入りたくない、と感じさせる結界でも張って脱落者を護る態勢を整えているという事だろうか?或いはそれ以外に何か理由でもあるのだろうか?教会では戦闘は控えるよう伝えてあったからそこでサーヴァント同士が会ったとなれば自然と話ぐらいしかする事はあるまい。
 とはいえ、それは今すぐに関係のない事と即考えを切り換える。

 「んでまあ、その時に顔を見知ってたからな。街でばったり会った時にもう少し話をする機会があったって事だ」
 ふむ、この戦闘狂でもある英霊が攻撃はしなかったのかと思ったが、ランサーによると『おいおい、街中でやりあえってのかよ?』と逆に問われてしまった。……確かに神秘は隠蔽されるべきです。関係ない者が巻き込まれるというのも本意ではありません。む、確かにここはランサーの言葉が正しいのを認めましょう。
 「それでどうです?外見はごく普通の人間としか思えないような感じですが」
 「まあ、性格的には面白い奴だな」
 バゼットの問いにくっくっく、と笑いを堪える。不審に思って聞いてみると……。

 『んでどうする?ここでやるか?』
 『いやじゃ!』
 『……おいおい、サーヴァントってのは聖杯戦争を戦う為に呼ばれたんだぜ?俺も思いっきり戦いたいから召喚に応じたってのによ』
 『お前が戦いたくて召喚に応じたなら、俺は美人と一緒に過ごす為に応じたんじゃ!あ、一定年齢超えてりゃ美少女も全然おっけー!』

 何とも奇妙な、全然戦意のない発言だ。だが、さすがに一瞬唖然としたバゼットはしばらく黙ってその話を聞いた上で真剣な表情で尋ねた。
 「成る程……外からだけ見れば英霊とは思えませんね。では戦闘力はどう見ましたか?」
 到底強く見えずとも実は強い、という事なら十分ある。セイバーにした所でただ単に外見だけを見るなら(目を見ればさすがに一発で分かるが)到底伝説のアーサー王には見えまい。その問いにランサーは一言で答えた。
 「厄介だな」
 ランサーの返答にバゼットも渋い表情になった。ランサーがこういう言い方をする相手というのは下手に「強い」相手よりも危険と考えた方がいい。

 「バゼット、お前も経験はないか?つかみ所のない、けれど強かった、って奴には」
 確かにある。見た目はごく穏やかな人物なのに、恐ろしく厄介極まりない相手というのがいた。下手に戦意バリバリの相手や見るからに危険な相手などより注意を払うべき敵というのがいるのを百戦錬磨のバゼットはよく知っている。
 「こいつは霊体になった俺を正確に見極めやがった」
 「?サーヴァントは他のサーヴァントの気配をある程度感知出来るのでしょう?」
 確かに、その通り、と頷いた後でだが、と告げる。それは人間の感覚でいえば匂いのようなものなのだと。キャスターならばまた話も変わって来るだろうが、通常人間が匂いだけで正確な位置が分かるか?と問いかける。増してやサーヴァントがいるのは分かっても、それがどのサーヴァントなのかまでは分からない。
 「なのにあいつは『あれ、何してんだ?』とな。ごく無造作に俺に問いかけてきたよ」
 実はその後に「おっさん」と続くのだが、何か悲しいので黙っておく。
 まあ、その事ではっきり分かるのは相手が霊体となったサーヴァントの姿をはっきりと視認していたという事実。

 「何度か殺気とか闘気をぶつけてみたんだがな……全部受け流された。ありゃあ相当そういうのに慣れてるな」
 「鈍感なだけというのではない、ですよね?」
 「ねえな。最後に別れる時それだけなら気絶するようなのをぶつけてみたんだが……周囲の人間がちょっと震えて周囲を見回す程度に拡散されちまった」
 「……それは」
 仮にも幾多の戦場を駆け抜けた英霊の殺気。それをあっさり流してしまうとは。
 まあ、実際の所横島は殺気や闘気の類には慣れている。雪之丞ともよくやりあっていたし、何より小竜姫とかワルキューレの闘気に晒され、更にその上、斉天大聖孫悟空の闘気やら魔神アシュタロスだのメドーサだのの殺気に晒されたりしてたのだ。ついでに美神令子の怒気にも。クーフーリンの殺気が如何に凄くとも人間のものである事には変わりはない。
 もっとも彼から殺気をぶつけられた時、それをあっさり拡散させた方法がクーフーリンの背後にいた超ミニスカの美女への煩悩だったというのが横島らしいちゃ横島らしいかもしれないが。

 「ま……あいつの本音は最後に聞けたからな」
 最後にランサーが投げかけた一言……それが横島の本質を曝け出した。
 『お前となら結構楽しい戦いが出来そうだ。どうせなら真っ向から思いっきりやり合いたい所だな』
 その言葉に。
 『そういう戦いがお望みならセイバーとでもやっててくれ。……戦いなんてのはもっと泥臭いもんだ。格好良く戦って自分自身の満足しか残せないぐらいなら、どんな卑怯な手段でも使って護りたい者全員で笑う道選ぶぜ、俺は』
 そう返した横島に……だからこそランサーは厄介な相手だと認識したのだ。
 英霊は何らかの心残しがあるからこそ、聖杯の呼びかけに答える。ランサーの場合、生前の最後の戦いはゲッシュを破らされては力を削がれての何とも不満足な戦いだった。だが、あいつは……。
 「まあ、人質とか取るようなタマじゃねーだろうが、あいつは土下座だろうが裸踊りだろうが自分が恥掻く事で護りたい者を護れるなら平気でやるだろうぜ」
 つまりそれは恐ろしく強靭でありながらしなやかな、折れる事なき剣という事。

 「セイバーに関しちゃ、ありゃ真っ直ぐな騎士って奴だな。とはいえ強いのは間違いない」
 セイバーは剣の騎士の呼び名にふさわしい英霊だ。正直ランサーの望みには一番合う英霊の一柱だろう。彼女もまた姑息な手段よりは正面からの堂々たる一騎打ちを望む英霊だ。剛勇無双、下手な小細工など不要。……もっとも生前のランサー自身がそうであったようにそういう英雄は絡め手に弱いのも事実だ。
 単なる真っ向勝負ではともかく、バゼットの切り札と自分の切り札、双方を使えば絶対確実とは言わないが彼女だけなら何とか出来る目算もある。
 「ふむ、最優のサーヴァントと称される彼女が何処の英霊なのかは気になりますが……女性で剣のとなると矢張りジャンヌ・ダルクあたりでしょうか?」
 等と第四次聖杯戦争でキャスターことジル・ド・レエがしたのと同じような間違いをしてたりする。まあ、分からないでもない。まさかアーサー王が女性だなどと普通は思わないだろうし。
 「とはいえ、農民出身の彼女がクー・フー・リンと剣と槍を交わせる程の剣の達人であったとも思えませんし…」
 実際、彼女の絵は旗を持っている場面が多いが、彼女自身士気を鼓舞するが、前線に出なくて済むというか人を殺さなくて済む旗持ちを好んだという話もある。

 バーサーカーとライダーに関しては以前にアインツベルンと間桐に試しの襲撃を掛けてみた際にやり合ったのである程度予測もつく。バーサーカーは二人にとってはある意味天敵のような英霊だ。
 一撃必殺。
 二人が持つ宝具はいずれもそう呼ぶのが一番一般的な宝具だ。しかし、バーサーカーの正体は彼の大英雄ヘラクレス。その宝具は自動蘇生による復活、十二の試練。一度それで殺されれば、その試練を乗り越えたとして次からその一撃は効かないという正に反則ものの英霊だが、理性がないお陰で技を使ってこないのが幸いという所か。
 ライダーはさすがに機動性に関してはランサーに次ぐ英霊だが、今の段階ではこちらは彼女の騎乗するであろう宝具次第という所か。

 「ま、そういう事だからよ。今一番厄介なのはこの同盟なのは間違いないな」
 確かに厄介です。
 内心そう愚痴る。正体不明のサーヴァントというだけでも厄介だというのに最優のサーヴァント、セイバーと天敵でもある最恐のサーヴァント、バーサーカーがいる。加えて聖杯に関する知識も豊富と来ている。 
 「……出てきた所を一対一で襲撃をかけるぐらいしか思いつきませんね」
 魔術師の家に襲撃を掛ける気にはさすがになれない。ただでさえ厄介な状況なのに地の利まで相手にある状態での戦闘などまっぴら御免だ。かといって人目のある真昼間から襲撃かける訳にもいかないし、アーチャーの襲撃を警戒して最近は夜はまず出てこない厳戒態勢だというからこれもまた望み薄だ。まあ、聖杯戦争の最中にマスターが外をうろつく等という行動を取っていれば自身を囮とした罠か、或いは何か罠を仕掛けられても食い破る自信のある自惚れ屋の自信家ぐらいのものだろう。


 「んでこっちの寺だが、こっちにはキャスターとそのマスター。それにアサシンとアーチャーがいる」
 既にキャスターの陣地と化しているというが、異常は全くといってない。
 「……実はキャスターとも街中であった」
 「何ですって?」
 何とも言い辛い表情でランサーが告げる。
 「……いや、その……買い物に来ててよ」
 は?キャスターが……買い物?と考えて、まあ下手にマスターを外に出すより安全と踏んだのだろうと思う。
 「……………思いっきり惚気られた」
 ……はい?
 ランサーが言う所だと、『え?聖杯?そんなの貴方にあげる。私は今の幸せな生活があればそれでいいのよ』とかあっさりと言われたらしい。夕べはマスターが激しくて、とか顔をほんのり染めて、いやんいやんと顔を振る姿は……どー見ても新婚の新妻そのものであったという。
 「……今回の聖杯戦争は異常だらけなようですね」
 それしか言えなかった。

 「んでアサシンなんだが……こいつがまた分からん」
 何でも彼の姿はこの聖杯戦争の場たる日本の侍なのだという。恐ろしく長い刀を持ち、恐るべき技を振るう男。そこまではいい。問題は……。
 「……アサシンが日本の侍?」
 はて、日本の侍というのは西洋の騎士にも通じるクラスの筈。忍者ならばともかく、侍でアサシンとはどうも違和感が漂う。
 「ああ。アサシンって奴は普通影からこそこそと襲撃かけてくるようなイメージがあったんだが…」
 この柳洞寺にて遭遇したアサシンは堂々と姿を現し、『アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎』と名乗りを上げてきたという。どう聞いてもアサシンのイメージのそれではない。
 「自分から名前を名乗ったというのですか?」
 「ああ、んでまあちょっくら調べてみたんだが…」
 言いつつ、『宮本武蔵』を取り出す。
 「この日本で一番有名らしい剣豪のライバルとして名前があった」
 ただし、その相手に卑怯なやり方で挑んだのかと言うとこれまたそんな事はなく、事前に日時も場所も決められ、立会人もいる堂々たる決闘で敗れたのだという。むしろ卑怯な手段を取ったのは日本一有名な剣豪の方らしい。
 門番として、サーヴァントを通さず、と立ちはだかる相手だがそれ以外の人間相手ではごく普通に通しているらしい。何でも一人の少女とは仲良くなったというか……普通の人間のように応対していたのだという。
 「やり合ってみたのですか?」 
 「少しな」
 手合わせをした結果から言うと、おそらく強さで言うならばサーヴァントの誰より弱く、誰より強いという。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、ランサーが言うにはサーヴァントの能力という面から言えば、日本出身の英霊というホームグラウンドで戦える英霊にも関わらず、性能面ではむしろどのサーヴァントよりも低いのだそうだ。だが、その技で性能をカバーしているという。
 それだけでも驚きだ。技で誰よりも優れ、それ故に能力の低さを補えるサーヴァント。ランサーをして遂に彼を越える事は出来なかったという。それ故己の陣地の中でのキャスターを見る事は敵わなかったという。 
 「……分からんのは宝具だ。奴が振るってた刀はどう見ても宝具の類じゃあなかった」
 というか、そんな普通の鉄の塊でゲイボルグと打ち合えた事自体驚きだ。ジョーカーって奴同様切り札が見えん奴なのが気になる所だったという。

 「んで最後のアーチャーなんだが……」
 「?」
 言葉を濁すランサーに疑問を抱く。
 「こいつは殆どキャスターの陣地にいねえみたいでな。単独であっちこっちうろつき回ってるみたいで遂に捕捉しきれなかった」
 何でもキャスターもアーチャーに狙われるよりはこちらの味方にしておいた方がいいと引き込んだようで、どのような能力を有するサーヴァントかなのかも殆ど知らなかった。
 「……かろうじてセイバーのマスターを付け狙ってるらしい、って事は分かったんだが……」
 そのお陰で衛宮邸は常時警戒態勢で、隙をつくのは大変困難な状態だ。まるで隙を作るな、と警告しているようにも思える。


 「と、まあ、今分かってるのはこんなもんだが……」
 「……異常といえば異常ですね。サーヴァント同士が戦わずむしろ聖杯を放棄しているようにも見える」
 嘗て聞いた聖杯戦争はいずれも血で血を洗う激戦。第四次聖杯戦争でも生き残ったのは僅かだという。それに比べ、今回は未だ一体のサーヴァント、一人のマスターもリタイアしていないという有様だ。まあ、実際はキャスターの当初のマスターがぶち殺されているのだが。
 「いや、それ以上に異常があんだよ、わかんねえか?」
 だが、バゼットの呟きに返ってきたランサーの言葉は更なる異常があると告げられる言葉だった。
 「それ以上の異常…?」
 不審そうに呟くバゼットにランサーは地図を改めて指差しながら告げる。
 「いいか、こっちの家にセイバー、ライダー、バーサーカーにジョーカー」
 衛宮邸を指差し。
 「んでこっちにキャスター、アサシン、アーチャー」
 更に柳洞寺を指差し、それぞれの陣営の名のサーヴァントを告げる。
 「わかんねえか?俺がランサー。全部あわせりゃ八体いるんだよ、サーヴァントがな」
 「ああ……」
 言われてみて思い出した。聖杯戦争開幕当時、言峰教会に赴いた際、その話は聞いていた。それ故異常と認識していなかったのだが……ランサーに伝えるのをすっかり忘れていた。なまじこれまで一人で物事を解決してきた為に誰かに相談するという習慣がなかった故のミスだった。
 慌ててその旨謝罪すると、ランサーからは『おいおい、そういう大事な事はしっかり伝えてくれねえと困るぜ?』と叱られてしまった。しかし、ランサーのその後の小声で呟いた、『ま、そういう所も可愛いんだがな』とはどういう意味だろう?

 「んでどうする?矢張りまだ聖杯戦争を続けるかい?」
 これだけの異常、かてて加えて自分がのんびりしている間に他のサーヴァント達は全て同盟を結んでしまったという極めて不利な状態だが、それでも戦うのか、とランサーは面白そうな表情で問いかける。当然だ、彼はそれでも構わないのだ、ただ楽しい戦いが出来るのならば。そんな彼女の英霊、幼少の頃より憧れていた彼の姿に彼女の心も再び固まる。
 「当然です。時計塔の老人達に『こういう理由で馬鹿らしくなったので帰ってきました』などと言う訳にも行かないでしょう」
 そんな彼女の言葉にランサーは僅かに、本当に微かに頬を緩ませる。こんな事を言えるようになったのは心に余裕が出来たからだろう。これから赴くのは死地。だが、それ故に余裕なき態度では死中の活すら求められはしない。
 「んでどっちから攻める?」
 決意を示されたのならば、後は己は戦うのみ。
 「決まっています」
 そう告げ、バゼット・フラガ・マクレミッツはその指で地図の一点を指した。
 「柳洞寺からです」
 かくして停滞せし聖杯戦争は再び動き出す。

『ロード・エルメロイ鏡ぁ
TYPE−MOONのCharacter matterialに掲載された時計塔の名物講師。
自分自身は平凡な魔術師、されど彼が教える弟子達は皆王冠(グランド)の地位を得なかった者はいない、という他者の才能を見抜き、それを育てる才に極めて優れた人物。
その解説を見る限り、どうにもFate/Zeroのライダーこと征服王イスカンダルのマスターの未来の姿っぽい。

『後書きっぽい何か』
申し訳ありませんが、今後レス返しを省略させていただきます
……いや、何と言いますか返すのが苦痛なレスが増えてきたもので…

えー今回は暫く出てきてなかったバゼットさん達です。
この後二本ばかり日常を描いた後、本来の聖杯戦争の姿、戦争へと移って行く予定です
バゼットさん達が動いた事により、状況は流動的になっていく予定です

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