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▽レス始

「狩人の世界に現れし福音者達  外伝・追憶〜前編〜(エヴァ+HUNTER×HUNTER)」

ルイス (2007-02-14 18:18)
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 全てが終わった日。


 この世の全てが赤く染まった。


 たった一人生き残った少年は……地獄を見た。


「うああああああああ!!!!!!!!」

 少年――シンジ・イカリは悲鳴と共にベッドから跳ね起きた。汗は止め処なく溢れ、その顔は青白く、恐怖で歪んでいる。

 パシャ、っと水の零れる音がしたので目を向ける。そこには小さな女の子が桶一杯の水を零し、驚きの表情を浮かべていた。

「人……?」

 信じられない、と言った様子でシンジは女の子に手を伸ばす。

 人は滅びた筈だった。いや、厳密に言うと人は一つの生命体になった筈だった。拒絶という名の心の壁を取り除かれ、原初の海へと帰っていった。自分と、最後まで拒絶する心を忘れなかった少女を残して。

 しかし、女の子はシンジに怯え、彼の手を振り払って部屋から飛び出して行った。

「ぁ……」

 シンジは、恐る恐る手を引いて、掌を見つめる。すると、ドクン、と胸が勢い良く鼓動し、胃の中のモノが込み上げる。

「ぐ……あぁ!」

 嘔吐物を布団の上に吐き出す。激しく咳込むシンジの脳裏に、あの日の記憶が蘇る。全ての人の心が流れ込んで来た感覚。他人を恐れ、全てを一つとすることを望んだ結果の世界。

「僕が……皆を……」

「あ〜あ、布団汚しちゃった」

「!?」

 扉の方から声が聞こえた。思わずシンジは振り向く。

「ほら! さっさと布団から出て! 洗濯するから!」

 長くサラサラの金髪を無造作に結わえ、深い緑の瞳を持った少女だった。歳はシンジと変わらない。青い長袖の服とスカートを着ており、化粧などをしている様子は見られない。しかし、少女の容姿にシンジは見惚れて言葉を失った。

 しかし、少女は自分の言葉に無反応なシンジに無視されてると思い、額に青筋を浮かべる。そして無遠慮に彼の方へ歩み寄って来ると、思いっ切り布団を剥ぎ取ってやった。

「うわ!?」

 勢い余って床に落っこちるシンジ。

「ホラ! とっとと起きる!」

「…………」

「聞こえてんのかな〜?」

「あ……はい」

 ズイッと顔を寄せられてシンジは頷いた。すると、そこへ先ほど、逃げ出した女の子が顔を覗かせた。

「お風呂入れたよ」

「よし! アンタ、お風呂入んなさい」

「…………え?」

「ずっと寝っぱなしだったから臭うのよ! お風呂入ってサッパリしてこいっつってんの!!」

 ゲシッ!

 思いっ切りシンジの尻を蹴っ飛ばして部屋から追い出す少女。

 シンジは唖然となり、女の子に連れられて風呂場へと向かった。


 お風呂は命の洗濯。

 かつて、そう言っていた女性がいた事を思い出しながら、シンジは浴室の天井を見上げた。

「記憶……ある」

 それは今の状況、正確に言うと、今の世界の記憶だった。

 あの審判の日の後、自分がどうなったのか覚えていない。隣にいた少女の首を絞めた後の正確な記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている。が、眠りについたのだけは確かだ。

 その後の記憶がある。文明が滅び、赤い海になった人類は長い年月を経て再び還って来た。火を使い、石器を使う時代からやり直した。

 そして、今の世界は自分が知る時代とは全く別の流れになっている。

「やり直し……きいたんだ」

 気の遠くなるような永い時を経て、人類は再び生活している。そして、今、自分はこの世界に目覚めた。

「アスカは……どうなったんだろう……」

 自分と同じ最後まで生き残った少女の名前を呟く。だが、すぐにもう死んでると結論付けた。あの場で生き残ったとしても、これだけの永い時間が過ぎたのだから、生きてる筈がない。

「結局また……一人ぼっちか」

 知らない人間の中で恐怖して生きていく。それが、自分の選んだ結果とはいえ、心の中が鬱になるのは避けられなかった。

 がらっ!

 いきなり浴室の扉が勢い良く開かれる。

「え?」

「あ、この子達も一緒に入れてくれる? ガス代も馬鹿にならないからさ」

 唖然となるシンジに対し、少女は遠慮もなく素っ裸の子供達を中に入れる。

「じゃ、よろしくッス!」

 ビシッと片手を挙げて扉を閉める。子供達は和気藹々と体を洗って、湯船に入って来た。

「ちょ、ちょっと……」

「兄ちゃん、どっから来たの?」

「え?」

 不意に一人の子供に質問を吹っかけられた。

「お兄ちゃん、お名前は?」

「ずっと寝てたけど、どこかお病気なの?」

「お風呂上がったら遊んでくえゆ?」

 次々と質問をまくし立てられ、シンジは戸惑う。

「あ、えっと、僕は……」

「あ! そうそう!」

 がらっ!

「うわ!?」

 再び浴室の扉が開かれて少女が顔を見せる。今度はシンジも慌てて湯に深く体を沈ませる。

「君の名前、聞いてなかったよね。教えてくんない?」

「名前?」

「そ。名前」

 シンジは、頭にある記憶でこの世界では外国のように苗字が後に来るのが一般的だというのを思い出して名乗った。

「シンジ……シンジ・イカリ……」

「シンジ……か。私、テレサ。この孤児院経営してるんだけどね……」

 少女は名乗ると、苦笑いを浮かべると顔の前で手を合わせた。

「ゴメン。赤ちゃん、泣いてるからご飯作ってくんない?」

 シンジとテレサの自己紹介は、奇妙な所から始まった。


 悠久の時を寝ていたとはいえ、かつては万能家事として働いていたシンジにとって、料理を作るのは朝飯前だった。しかし、リビングにいる子供の数を見て愕然となる。

 その数は20人。それも下は0歳〜5歳と低年齢ばかりだった。テレサは泣いている赤ん坊を抱きかかえ、あやしている。

「いっただき!」

「あ……」

 料理を更に盛っていると、子供の一人が摘み食いをしたり、また他には『ニンジン嫌いだから入れないで』とか注文して来たりと大変だった。

 何とか料理を全部作り終えてテーブルに並べると、やはり子供は食べてる間は、そちらに夢中になる。シンジは、フゥと息を吐いて三角巾を取ると、赤ん坊を寝かせつかせたテレサが礼を言ってきた。

「ありがと。いや〜、助かったわ」

「僕が料理できなかったらどうするつもりだったの?」

「それはホラ…………………………考えてなかったわ」

 アハハ、と笑うテレサにシンジは苦笑した。彼女の腕の中でスヤスヤ寝ている赤ん坊を見る。

「可愛いでしょ?」

「え? う、うん」

「でも、こんな子を捨てる親が沢山いるんだから……やってらんないわよね〜」

「この子達……皆、君が養ってるの?」

「まぁね。私も捨て子だったから、この子らの気持ちが良く分かるのよ」

「捨て子……」

 それを聞いて、シンジは父親に捨てていかれた時のことを思い出す。

「私もこの孤児院で育ったんだけど、3年前に院長が死んじゃって……」

 ソレと同時に、自分以外の子供達は皆、里親に引き取られて行ったとテレサは語る。物心付いた時から世話になっているこの孤児院を潰したくなかった彼女は、一人で孤児達を引き取り、面倒を見ているというのだ。

「凄いんだね……」

「ん? 何か言った?」

 テレサがシンジに顔を向けると、再び赤ん坊が泣き出した。

「ああ! また泣いた! おむつ!? それともお腹空いた!? ヤベ! 私、母乳出ないッスよ! シンジ君、出る!?」

「出ないよっ」

「あぁ〜! どうしよ、どうしよ!?」

「って、僕に言われても……」

 2人して慌てる。その様子を見て、一人の子供が呟いた。

「何だかお兄ちゃんとお姉ちゃん、お母さんとお父さんみたい……」

「「へ?」」

 2人同時に間抜けな声を上げる。

「あはははは! ちぇい!」

「いた!」

 テレサは大笑いすると、そう言った子供の頭にチョップした。

「私ゃまだ15よ? 子供なんている訳ないっしょ。それに、私のタイプはもっとイイ男なの」

 高収入で優しくて背が高くて家事万能で家族を大切にしてくれる、と色々と理想を並べるテレサ。

「で、後は浮気しても許してくれる人」

「そんな人間いないよ……」

「じゃ、一生独身で良いわよ」

 シンジのツッコミにテレサは不機嫌そうにソッポをむく。

「テレサお姉ちゃん、私たちのお母さんじゃないの?」

 すると女の子が不安げに言うと、テレサは赤ん坊をシンジに渡すと、その子を抱き締めた。

「ん〜ん! 私は皆のお母さんよ!」

「言ってること矛盾してるよ……」

「イイじゃない。美人で若くて健康的で尚且つ血の繋がってない、お母さんなんて、ある意味、究極の萌えよ」

「意味分かんないよ……」

 此処まで勝手というか横暴というか、気が強い女性は自分の知る限り2人しかいない。けれど、彼女達とは何かが違う。そんな感じがした。

「テレサお姉ちゃん!」

 その時、子供の一人が血相を変えて入って来た。

「どした〜? とうとうアコタさん夫妻が離婚した? 私、絶対にあっこの夫婦は上手くいかないと思ってのよね〜」

「そんなんじゃないよ! 怖いオジサン達が門の前でカイを……」

 子供が言うや否やテレサは飛び出して行った。子供たちも食事を中断し、部屋から出て行く。シンジは何事かと思い、赤ん坊を抱えたまま、出て行った。


「よぉ、お嬢ちゃん」

 孤児院の入り口では、黒服にサングラスをつけた男達が複数並んでおり、その中心には、頬に大きな傷のある男がいた。

「これはこれは。カッスール組の人達じゃないッスか。ま〜た、性懲りもなく来たんスか?」

 男達は、泣いている男の子を盾にし、孤児院の中に入って来る。テレサは眼光を鋭くし、相手を睨みつける。

「この孤児院の下には特殊な鉱石があるんでな……先代の婆さんが死んで、ようやく手に入ると思ったのによ」

「だから、私が死ぬまで待ってくれないかな〜って前から言ってるっしょ?」

「そんな長い間、待てるか!」

 男は激昂し、拳銃を男の子の額に当てる。

「ひ……」

「殺されたくなかったら、権利書寄越しな」

「い・や♪」

 テレサはニコッと笑顔を浮かべると、掌を合わせた。そして、掌を離し、何かを投げる動作をすると、次の瞬間、男の子を捕らえていた黒服の男が吹き飛ばされた。

「な!?」

「だから何度も言ってるけど、私、ハンターよ。一般人が数だけ揃えたって意味無いに決まってるじゃない」

 そう言って彼女は、ハンターの証であるライセンスカードを見せる。

「ハンター……」

 シンジは目を細め、テレサを見つめる。

「(何だ……彼女の手に……何かが……)」

 薄っすらとだが、彼女の手に何かが見える。

「さ〜! どんどん行くわよ〜!」

 テンションを上げて、テレサは両手を振るうと、次々と黒服達が吹き飛ばされる。

「な……に……!?」

「カイ! おいで!」

 テレサが叫ぶと、カイと呼ばれた少年は駆け出し、彼女の後ろに隠れる。

「くそったれ!」

 男は歯噛みし、子供たちに拳銃を向ける。テレサはその前に、手を振るうと、次の瞬間、銃が暴発した。

「ぐぁ!」

「命まで取ったりしないわ。とっとと帰りなさい」

「くそが……おい、退くぞ!」

 倒れている黒服達に向かって叫ぶと、男は手を押さえながら逃げるように帰って行った。

「やれやれ。典型的な悪役ッス……ね……」

 そう言った時、一瞬だが彼女は表情を歪めた。しかし、それは正にほんの僅かな間で、誰も気づかない。

「今の……何?」

「ん? 何が?」

 ふとシンジが声を上げると、テレサは振り返った。

「今……君の手……いや、違う。指の間に球みたいなのが見えた……」

 シンジのその言葉にテレサは驚愕の視線を向ける。そして、ゆっくりと彼の方へ歩み寄って来ると、両手で頬を押さえてきた。

「え? え?」

「君……」

 ジッと、テレサはシンジを見つめる。新緑の瞳に見つめられ、シンジは頬を染めた。

「(“隠”で見えない筈の私のオーラが見えた? オーラは垂れ流し状態なのに……“凝”じゃない……でも……この子……)」

「あの……」

「ふふ……シンジ君、いいハンターになれるッスよ」

「は?」

「さ! ご飯の続き続き! 今日はシンジ君のお目覚め記念パーティーもあるからね〜!」

 テレサはシンジの頬から手を離すと、パンパンと手を叩いて子供達と院の中へ入って行く。

「晩御飯は私が腕によりをかけて作るッスから! 期待しててよ!」

 グッと腕を握るテレサに、シンジはキョトンとなりながらも、やがて微笑を浮かべ、彼女に続いて入って行った。


 〜あとがき〜

 お久し振りです。バレンタインですが、今回はシンジの過去編です。本編では、多分、話の流れで載せられないと思い、番外編という形で載せます。
 この話でシンジが今の考えに至った理由が明らかになります。シンジの能力と名前から今後の展開は予想付くと思いますが……では後編で。では、テレサの紹介です。


 名前:テレサ
 年齢:15歳
 血液型:O型
 身長:155cm
 体重:40kg
 出身地:不明
 念の系統:放出系
 詳細:孤児院を一人で経営する少女。本人も捨て子で、孤児達を養う為、ハンターにまでなった行動力抜群な人。海辺に打ち捨てられていたシンジを保護し、後の彼に多大な影響を与える。細かいことは気にしない性格で、一人で土地を狙うマフィア相手に孤軍奮闘している。ちなみに彼女の念を教えた人は、物凄い若作りの婆さんだったりする。

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