※これは、「新星」救援作戦後に、ラクスの引きが少し遅かった場合のIFストーリーです。
ただ、少しパラレルワールドの要素も絡んでいるので、書いている内に少し登場人物の性格や各国の状況などが変わるかもしれません。
というか、変わります。
前作で不遇だった人達の扱いが良くなったり、良かった人達が逆に悪くなったりする可能性があります。
(コズミック・イラ70、六月下旬)
「マーレ隊の副隊長ですか・・・」
「そうだ。ユーラシア連合軍が、コーディネーターの傭兵を使ってL3宙域で海賊行為を行っているそうなので、その討伐に赴くマーレ隊長の補佐を行って貰う」
「海賊行為ですか・・・。でも、それは国際法に・・・」
「違反しているな。だが、正規のユーラシア軍人は一人もいない事になっているし、自分達がこの戦争に勝てば些細な問題だと思っているんだろうな。君の祖国である日本が、太平洋戦争時に都市部に無差別爆撃を受けたり、原爆を落とされたりしても、アメリカ人で罪を問われた軍人が一人もいなかった事と同じだ」
戦争が始まって五ヶ月あまり、ユーラシア連合軍の戦況は思わしくなかった。
艦隊は壊滅的被害を受けて、残った戦力も月に居候をしながら戦力の回復を行っており、唯一無事に残っている「アルテミス要塞」も、その守備戦力と共に貝のように閉じこもって、その身を守る事で精一杯の状態であったからだ。
「大西洋連邦はアメリカ合衆国が前進で、ユーラシア連合は旧ヨーロッパ各国が前進になっている。連中に進歩というものは存在しないからな。勝てば全てが許されるのさ」
「新星」攻略部隊の救援作戦を無事に成功させてまた生き残る事に成功した俺は、人事部のハゲ部長に呼び出されたのだが、今日は彼はそこにはおらず、見た事のないオッサンから新たな人事異動を交付された。
いきなり副隊長への出世ではあったが、再びマーレの下に付くという事は、どうやら俺に死んで来いという事なのであろう。
さすがに、今回ばかりは俺も生命の危機を感じつつあった。
「明日の朝九時に、ナスカ級高速戦艦(ダリ)とローラシア級巡洋艦(アンバー)からなる部隊が発進する。君は、今から急いで合流してくれ」
「了解です!」
だが、軍人である俺には、軍の命令に逆らう度胸は存在しなかった・・・。
「「カザマ!」」
軍本部を出た俺が、自分の「ジン」の調整を行うべく軍事工廠に向かおうとすると、本部ビルの入り口で二人の男に呼び止められた。
「ミゲルとジローか・・・・・・」
「カザマ、元気がないじゃないか」
「戦死の他に、謀殺の危険まで増えたからな・・・。やっと、縁が切れたと思ったのにな・・・」
「そうか・・・。そうだよな・・・」
俺の返事で、ミゲルも口を噤んでしまう。
俺とマーレの抜き差しならない状況は、先の「新星」救援作戦時の状況で十分に承知していたからである。
「だが、これで生きて帰ってくれば良い事があるそうだから、絶対に生きて帰って来いよ!」
「良い事?」
「ああ。おっさんからの伝言だ。(ザラ国防委員長の引きで、お坊ちゃま達の教官任務の後、クルーゼ隊に配属予定)だそうな。ここで踏ん張れば、絶対に良い事があるんだから、絶対に生きて帰って来い!」
ジローは、繰り返し俺に生きて帰ってくるように言い続ける。
「俺は大丈夫さ。でも、マーレにも都合というものがあるからな。できれば、あいつの下に就く前に引っ張って欲しかったな」
「副隊長任務を経験して貰って、それをお坊ちゃまの達の教育に生かして欲しいとの、ザラ国防委員長のお言葉だそうだ」
「そうか。一応は俺の事を考えてくれているんだな」
「だから、絶対に帰って来いよ!」
「ミゲル。ジロー。心配するなよ。俺は、絶対にここに帰ってくるさ」
だが、俺のその願いは永遠に叶えられる事はなかった。
(一時間後、ザフト軍軍事工廠内)
「どうして、俺の(ジンカスタム)がここにあるんです?」
俺の「ジン」は各地の戦線を回っている内に、カスタム化され高性能機になっていた。
軍事工廠内に運び込まれた俺の「ジン」は、更にバラバラにされて、各部の改良が行われているようであった。
「君は、(シグー)という新型機の事を聞いた事があるかね?」
「(シグー)ですか?確か、(ジン)の後継機というか、指揮官やエース用の高級機だとか・・・」
俺が愛機の姿を求めて工廠内をうろついていると、いきなり一人の中年男性に話しかけられる。
顔を見ると、どこかで見た事があるような気がした。
「私は、プラント最高評議会技術委員長のユーリ・アマルフィーだ。カザマ君の噂は良く聞いているよ。(黒い死神)は、地球連合軍の恐怖の的だからね」
「そうですか。でも、人殺しとして有名になっても、良い事なんてありませんよ。仕事だから、やっているんです」
独立を目指して戦っている、プラントの最高評議会議員に言う事ではないと思ったのだが、俺はいつでもこんな感じであった。
「君は変わっているね。でも、ただの殺人鬼でない事に安心したよ」
「どうしてですか?」
「君が今回の任務を無事に終了させると、うちの息子が君のお世話になる事が決まっているからだよ」
「はあ・・・」
「誰かから聞いていないのかね?」
「俺が、教官になるって話ですか?」
「生徒にうちの息子が入っているんだよ」
「無事に帰れたら、ちゃんと教えますよ」
「ありがとう。それで、先ほどの話の続きだ。(シグー)は、まだ80%の出来でね・・・。今回の君の任務で、少し試験を行ってデーターを取ってきて貰いたいのだよ」
「それで、内部を色々といじっているんですか」
「機密のために、外部は君の(ジンカスタム)で、内部は新しい(シグー)の試験型という事だね」
アマルフィー技術委員長の指摘通りに、中身は「シグー」になっているらしいが、外部は俺が乗っていた黒い「ジン」そのものであった。
「武装の試作品もあるんだ。90mmマシンガンの試作品と、刀身を長くした重斬刀と、防御力の不足を補うシールドも完備されている」
「シールドですか。悪くないですね。(ジン)は、防御力が低いですから」
「ジン」は、さほど丈夫な機体ではなかったので、開戦以来、意外と多くの機体が艦船の防御火器やMAの攻撃で落とされていた。
本当に開戦初期は、Nジャマーの影響で敵のミサイルや砲撃が当たらなかったのだが、敵も次々と対策を立ててきたので、少しずつではあるが、確実に損害が増えてきていたのだ。
元々、戦力も人口も少ない我々にとって、損害の増加は戦争の行方を左右する重要なファクターと考えられ、その対策の第一弾がモビルスーツ用のシールドという事らしい。
そんなわけで、「ジン」にシールドを装備させれば、少しは被害が減るかもしれなかった。
それと、「76mmの重突撃銃では威力不足」とよく言われていたので、急遽威力と口径を増した火器の開発も行われたようだ。
「だから、ちゃんと帰ってきてくれよ」
「データを得るためですね」
「そういう事だ」
数時間後、改装と調整を終えた「ジン」に乗って、俺はナスカ級高速戦艦「ダリ」に向かうのであった。
「おお!カザマじゃないか。よく来てくれたな」
「どうも・・・・・・」
俺は鬱な気持ちを抑えて、艦内の司令室にいるマーレに挨拶に行ったのであるが、彼はこちらが拍子抜けするほどのご機嫌ぶりであった。
俺を嬉しそうな声で歓迎し、肩などを叩いたりしたのだ。
「お前が来てくれるなら百人力だな。作戦も成功したようなものだ」
「ありがとうございます(何だ?急にどうしたんだ?悪いものでも食べたか、陽気にでも・・・。しかし、プラントは温度管理をされているし・・・)」
俺は心の中でかなり失礼な事を考えていたが、今までが今までなので仕方がないと思う事にする。
「それで、新型機の試作品を持って来たんだって?」
「ええ。(シグー)の試作機です。外見は、機密保持のために(ジン)のままですが・・・」
「そうか。現地に着くまでに、納得するまで調整を行ってくれ。整備士達には協力するように命令を出しておくから」
「ありがとうございます(正直、気味が悪いな・・・)では、私は(シグー)の調整に入りますので」
「そうか。期待しているからな」
「お任せください(絶対に、何か企んでやがるな)」
俺は怪しさ200%のマーレの元を辞して、格納庫へと向かった。
「マーレ隊長、随分とご機嫌ですね」
カザマが司令室を辞した後、マーレの隣で静かにしていた腹心の部下が話しかけてくる。
「ふふふ。無茶を言ってみるものだな」
「無茶ですか?」
「ザラ国防委員長のご子息達の教官任務に就くはずだったカザマを、借りる事に成功したんだからな」
「でも、それに何の意味が?」
「わからないのか?」
「わかりません」
「奴は、今回の任務で生きて帰れないんだよ」
「はあ?」
「敵の海賊に殺されるか、俺に謀反の罪を問われて、始末されるかのどちらかなのさ!」
「ですが・・・・・・」
「大丈夫さ。俺が必ず証拠もなしに、確実に始末してやるから。(黒い死神)は、死んで伝説なるか、反逆者としてその評判が地に落ちて死ぬかのどちらかの未来しか残っていないんだ。これは、決定事項なのさ!」
「はあ・・・(何で、この人はここまで・・・?)」
さすがに、付き合いの長い彼でも、ここまでカザマに拘る自分の上官の心情が良く理解できなかった。
(同時刻、軍本部国防委員長室内)
「カザマさんを、マーレ隊長の下に付けたとお聞きしましたが・・・」
カザマが、すぐにアスラン達の教官任務に就くと思っていたラクス・クラインにとって、マーレ隊副隊長への異動は晴天の霹靂であった。
「アスランには、最高の教育を受けさせたいからな。カザマ君に、指揮官としての経験を積ませたかったのだ」
「彼は、(オペレーションウルボロス)で見事な指揮を執りましたが・・・」
「正式な指揮権の下ではないからな。それに、いきなりクルーゼの下というのも、周りの反感を買いやすい。ここで、マーレの下で成果を上げてくれれば・・・」
ザラ国防委員長は、強硬派のリーダーとしても動いているので、それなりに気を使わねばならない人も多かった。
そして、更に悪い事に、マーレとの様々な確執についても把握していなかった。
最も、多忙を極める国防委員長職にある彼が、一パイロットの詳しい状況を知らなくても当然であるのだが。
「そうですか・・・(せめて、もう三日早く言っておけば・・・)」
だが、その三日の遅れは、将来に渡ってラクス・クラインに大きな損失を与える事になるのであった。
(一週間後、L3宙域の某地点)
「では、作戦を説明する。ここから少し離れた地点にある、資源を取り尽くした小惑星が今回の目標だ。表向きは、中立国の輸送船を狙う海賊のアジトという事になっているが、実態はユーラシア連合軍のコントロール下にある、プラント向けの積荷ばかりを狙う通商破壊部隊というわけだな。戦力は鹵獲した(ジン)に乗っているコーディネーター傭兵が数人と、あとは普通のモビルポッドが最低でも十機以上という事だ。それと、巡洋艦クラスの艦艇が一隻と小型艦艇数隻も確認されている」
「つまり、俺達はそれらを全て破壊し、基地も使用不能にするわけだ。何か質問は?」
俺の説明にマーレが補足を入れてから質問を受け付けるが、特に何もないようであった。
「カザマ、俺も(ジン)で出る。戦果の確認をしなければならないからな」
「了解です」
「それと、傭兵に手ごわい奴がいたら・・・」
「一番高性能な俺の(シグー)で対応します」
「頼む」
ここ一週間の俺に対するマーレの態度は、今までとは比較にならないくらいに優しかった。
嵐の前の静けさなのか、俺を油断させて討ち取るつもりなのかはわからなかったが、「シグー」の調整と訓練も無事に終わり、俺は意外と完成度の高いこの試作モビルスーツをちゃんと乗りこなすまでになっていた。
「では、マーレ隊、発進だ!(カザマの最後の時だ!)」
マーレを隊長に、副隊長である俺の「シグー」を含めた九機のモビルスーツ隊は、海賊のアジトを破壊すべく、艦隊を出撃するのであった。
(同時刻、海賊のアジト内)
「意外と早く知られてしまったようだな」
「そうですね。ですが、十分に元は取ったと思われます」
「そうだな。では、我々は(アルテミス要塞)に引き上げるとするか」
この海賊のアジトに見せかけた部隊を指揮していたのは、「アルテミス要塞」の司令をしているガルシア少将であった。
万が一の事を考えて、海賊達でユーラシア連合軍に所属している者はいなかったが、自分が討たれては話にならないので、参謀と共にザフト軍の攻撃が始まる前に退避する事にしたのだ。
「ガルシア司令!私を戦わせてください!」
「カナード特務准尉か・・・」
「私でしたら、何機かの(ジン)を落とす事が出来ます!」
引き揚げ準備をしていたガルシア少将に対して、一人の長髪の少年が残留して戦う事を志願する。
「だがな。お前は軍に所属していて・・・・・・」
カナードの志願に、参謀の一人が反対の意見を唱えようとする。
カナード特務准尉は忌々しいコーディネーターであったが、ユーラシア連合軍がモビルスーツの開発と配備を行うための、それなりに大切な駒であったからだ。
「では、今ここでクビにしてください!」
「なぜ、そこまで拘る?」
「私が倒す事を目標にしている男は、最高のコーディネーターです。ザフト軍の一般将兵に負けるわけにはいきません!」
「なるほどな。だが、残るとなると、万が一の事態の時は・・・」
「自決します!」
「そこまで言うのなら許可しよう」
「ガルシア少将!」
「良いではないか。例の機動性を改良した(ジン)があったよな。あれで出撃したまえ」
「ありがとうございます!」
カナードは感謝の言葉を述べると、臨時の司令室を後にした。
「ガルシア少将、お戯れが過ぎますぞ!」
「別に、宇宙の化け物が殺し合ったところで我々が困るわけでもない」
「ですが、モビルスーツの開発計画が・・・」
「金のために同胞を裏切るコーディネーターなどいくらでもいるさ。アレは所詮使い捨てなのさ。さあ、我々は引き揚げるぞ!ついでにデータの収集も忘れるなよ!」
ガルシアと数人の幕僚達は、それだけを言うと臨時の司令室を後にするのであった。
「マーレ隊長、目標を確認!敵は、通常の(ジン)が三機。カスタム機と思われる(ジン)も一機確認できました!」
艦隊を出撃した九機のモビルスーツは敵に察知され、既に、前方で防衛線を張っていた。
「カザマ!頼んだぞ!」
「了解!」
マーレの命令で、俺はそのカスタム化された「ジン」に、マーレを含む八機の「ジン」はその他の敵に向かって攻撃を開始する。
「へえ。足のスラスターを強化しているのか。まるで、○ク高機動型みたいだな」
そんな事を考えながら、新武装である90mmマシンガンを撃つと、敵の「ジン」は、それをスルリとわかしてしまう。
どうやら、敵の「ジン」は高機動性能のアップに特化していて、「シグー」との機動性能差がそれほどないようであった。
「やっぱり、簡単には当たらないか」
その後も、「シグー」の高機動性能を生かして射撃の応酬をしながら戦っていると、敵方の他の傭兵の乗った「ジン」やモビルポッドが次々と撃破されていく光景が確認できた。
「ちっ!俺以外の連中は!」
「お前も後を追うんだ!気にするなよ!」
「ふざけるな!俺は、お前達などとは出来が違うんだ!」
「嫌だねえ。傲慢で鼻持ちならない奴は!」
「俺は、最高のコーディネーターであるキラ・ヒビキを討つまでは死ねない!」
「最高のコーディネーターか・・・」
マシンガンの弾が尽きたので腰に装着し、(新兵器を捨てると怒られそうだから・・・)長めの重斬刀を抜くと、向こうも少し細身の重斬刀を抜いて俺に突撃をかけてくる。
「だから、俺はお前のような雑魚には負けない!」
「(黒い死神)を舐めるなよ!」
お互いのモビルスーツが、重斬刀で鍔迫り合いをしながら戦っていると、敵の「ジン」部隊とモビルポッド部隊は全滅し、こちらは一機の「ジン」を失っただけのようだ。
更に、接近したローラシア級巡洋艦の砲撃で、小惑星基地の表面施設は壊滅的打撃を受け、僅かに生き残った海賊達が、小型のランチで脱出を図ろうとしていた。
「バカが!てめぇらは皆殺しなんだよ!」
マーレが狂ったように笑いながら、無抵抗の海賊達を重突撃銃で撃ち殺していく。
マーレのしている事は、特に違反行為でもなかったが、彼の心の中の狂気を再確認した俺は少し気分が悪くなる。
彼らが軍人で降伏でもしていたら話は別なのだろうが、実際には彼らは非正規戦闘員なので、惨たらしく殺されても文句は言えなかったからだ。
やはり、この一週間のマーレの機嫌の良さも、彼の芝居だったのであろう。
そして、その事を再確認できた俺は、少し安心してもいた。
「(やはり、サディストの変態だったな・・・)」
「人間性の欠片もないな!」
敵のパイロットは、マーレの行動を口汚く罵る。
「最高のコーディネーターだか何だか知らないが、そんな本当にいるかどうかもわからない奴の抹殺を試みるお前も、同じくらい歪んでいるだろうが!」
「奴は必ず存在する!俺は奴を殺す事で、その存在意義を確立するんだ!」
「うわっ!歪んでやがるぜ!」
「うるさい!雑魚の癖に!とっとと死にやがれ!」
「こっちだよ!バーーーカ!」
「ふざけるなぁーーー!」
俺は「シグー」を最高速度で飛ばしながら、味方の砲撃の影響で破片の散乱する小惑星のそばを縫う様に飛んでいく。
「待ちやがれ!」
「(やっぱりな。奴は、まだガキなんだ。それに、才能は俺の上を行くかも知れないが、実戦経験のなさが響いたな)」
彼は俺の真後ろに付けば簡単に銃撃できると信じているらしく、素直に俺に付いてくる。
だが、障害物だらけの宙域を最高速度で飛びながら、重突撃銃のマガジンを交換して正確な射撃を行える人間などこの世に存在するはずもなかった。
普通はスピードを少し落とすか、俺を追いかける前に弾装を交換すれば良かったのだ。
現に彼の射撃は大きくブレて、俺の「シグー」に命中する気配を少しも見せなかった。
「待ちやがれ!」
「早く、次の弾装を込めて撃ってみなよ!」
「ふざけるな!」
俺は後方から追いかけてくる「ジン」に向かって、シールドの裏に仕込んでいた物をばら撒いた。
「ふん!そんなゴミ・・・っ!しまった!」
俺がシールドの裏に仕込んでいたものは、接触信管の付いた普通の小型機雷であった。
まさかそんな物が撒かれるとは思わなかった敵の「ジン」は、小型機雷の爆発に巻き込まれてしまう。
「今だ!」
そして、俺は爆発が完全に消えない内に、素早く引き返して敵の「ジン」の手足を重斬刀で斬り裂いて達磨状態にしてしまう。
「これで、俺の勝ちだな」
俺は、重斬刀を敵の「ジン」のコックピットに突き付けるが、彼はあの爆発で意識を失ってしまったようで、何の反応も示さなかった。
「カザマ!よくやったな」
海賊の討伐もひと段落し、俺も「ジン」の改良機の確保に成功した事を知ると、ご機嫌そうな声を発しながらマーレが近づいてくる。
「切り落とした手足と本体があれば、解析は可能でしょう。それと、敵のパイロットですか」
「そうだな。これで、残りの仕事は一つになったわけだ」
「一つですか?敵の(ジン)の解析なら艦内で・・・」
「違うな」
「例のアジトの調査ですか?」
「違うな!敵へのスパイ行為を行った、ヨシヒロ・カザマの処刑をさ!」
「何っ!」
俺が視線をマーレに向けると、マーレとその部下達の「ジン」合計七機と、ローラシア級巡洋艦が俺に火器を向けていた。
「説明をお願いできますか?」
「さっき、言った通りだな」
「他の連中は、マーレ隊長の世迷言を信じるのか?」
「さあな。信じる信じないは別の次元の話なんだよ。こいつらに、俺に逆らう度胸なんてないのさ。プラントに残した家族のために、出世のために、お前の死に口を噤むんだよ」
「そうか・・・。マーレ、一言いいか?」
「何だ?」
「お前って、やっぱり最低のクズ野郎だな!」
「殺せ!」
マーレの怒鳴り声を聞くと同時に、俺は「シグー」を再び障害物の方向へと飛ばしていく。
「追いかけて殺すんだ!」
マーレの更なる命令で、六機の「ジン」が俺の「シグー」を追いかけてくる。
「部下任せかい!ヘタレのマーレ君!」
「偉そうに!六対一で、嬲り殺しになりやがれ!」
「お前達には、良心というものが存在しないのか?」
俺は、彼らの善意に期待して説得を試みてみる。
この際、生き残るためには何でもしなければならないだろう。
「へっ!てめぇが死ねば、マーレの引きで出世できるからな!俺は奴の弱みを握ったんだ!」
「秘密を隠すために、後で消される可能性のあるわな」
「何っ!」
俺は動揺して動きを止めた一機の「ジン」を重斬刀で斬り裂き、更に一番近くにいる「ジン」にも斬りかかった。
「近距離で銃撃なんてして!同士討ちになるぜ!」
残りの「ジン」が重斬刀を抜いている間に、先に斬りかかった一機の「ジン」を真っ二つに斬り裂き、その「ジン」の重突撃銃を奪って、距離が少し離れている二機の「ジン」のコックピットに銃弾を撃ち込んだ。
「何て強さだ!」
「やっぱり、(黒い死神)を討つなんて不可能だったんだ!」
「うろたえるな!これで、三対一だ!」
「今更、参戦かい?マーレ君」
「うるさい!死ねぇ!」
「マーレ隊長ぉ!」
「しまった!」
俺は「シグー」の高速性能を生かして、二機の「ジン」の間をすり抜け、俺を狙って銃撃したマーレは、不用意な銃撃で味方の「ジン」を一機撃破してしまう。
「マーレ君。(ジン)一機撃破だ。撃墜申請を出しておいた方が良いよ」
「絶対に殺してやる!」
マーレは今までに見た事がないほどに激怒し、俺と全力で重斬刀で一騎討ちを始めた。
「くそ!銃撃では、マーレ隊長まで・・・」
「主砲の砲撃では、マーレ隊長まで・・・」
残り一機の「ジン」とローラシア級巡洋艦は、攻撃のタイミングを失って、ただその場に立ち尽くすのみであった。
「ちくしょう!死兵を作ってしまうなんて!」
「隊長として無能だからだろう」
「絶対に殺してやる!」
「何回も聞いたよ」
俺はマーレを激高させ、その正常な判断力を奪う事に成功していた。
「これで、真っ二つだぁ!」
「そんな大振りの攻撃が当たるかい!」
俺はマーレの渾身の斬撃をかわして、重斬刀を持っている腕を斬り落とす事に成功する。
「何ぃ!」
「マーレ君、冷静にいかないと」
「くそっ!」
「これで逆転だな!死ねぃ!マーレ!」
俺がマーレに止めを刺そうとすると、今まで静観していた「ジン」が重突撃銃を発射して、俺の撃破を試みだした。
「ちっ!」
「俺のツキはまだあったようだな。あばよ!」
「逃がしたか!」
さすがに、プロのパイロットの射撃は無視できないので、俺はマーレの後退を確認してから、射撃を加えてきた「ジン」への攻撃を開始した。
「何で、当たらないんだよ!」
「腕が悪いからだ!」
俺は、「シグー」のシールドで敵の銃撃を防いだり、回避しながら敵の「ジン」に接近する。
「こなくそ!」
だが、敵の「ジン」のパイロットは意外と腕が良いようで、重斬刀を抜いて俺の「シグー」と斬り合いを開始し、戦況はこう着状態に陥ってしまった。
「腕が良いな!決定打を出せない!」
「俺は緑服だが、開戦以来の生き残りだ!」
「だったら、俺の気持ちも察して欲しかったな」
「マーレ隊長のしている事は、違法で理不尽この上ない!だが、俺はプラントで生きていかねばならない!家族もあそこに住んでいるんだ!お前みたいに、地球に戻れないんだ!」
「そうか・・・・・・。でも、俺が住める国なんて、地球上に存在しないのさ・・・・・・」
「カザマ・・・。お前・・・」
「今だ!動きが止まったぞ!(アンバー)!砲撃を開始しろ!」
例のアジトの砲撃のために、モビルスーツ隊と行動を共にしていたローラシア級巡洋艦「アンバー」のブリッジ近くまで後退する事に成功したマーレは、斬り合いをしている二機のモビルスーツに向かって砲撃命令を出した。
「味方も巻き込んでしまいますが・・・」
「艦長!俺の命令に逆らうのか?」
「いいえ。砲撃を開始します(すまない。二人とも・・・)」
「主砲・各種火器発射用意!外すなよ!」
「それで良いんだ!」
砲撃命令を出したマーレの目には、今までに見た事がないほどの狂気の光が燈っていた。
「うん?回避だ!」
「なぜ、身を引く?」
理由はよくわからなかったが、急に殺気を感じた俺は「シグー」を無意識に移動させていた。
すると、自分のいた場所を巡洋艦の砲撃が通り過ぎ、俺と戦っていた「ジン」は回避が間に合わずに、主砲のビームが直撃して爆発した。
「味方を巻き込むのか!マーレ!」
「ちっ!もう少し、気を引いていれば良かったのに!役に立たない奴だ!」
「そこまで腐ったか!マーレ!」
俺は、仲間すら使い捨ての道具にするマーレが許せずに、爆発した「ジン」の重突撃銃を拾って、マーレの追撃を再開した。
「絶対に殺す!」
「なっ!(アンバー)に命令する!奴から俺を絶対に守るんだ!奴の進撃を阻止しろ!」
マーレはそれだけを命令すると、後方にいるナスカ級高速戦艦「ダリ」に向かって全速力で退却を開始する。
「逃げないで戦えーーー!」
「その内、気が向いたらな!」
俺が全速で「シグー」を飛ばしてマーレの「ジン」を追っていると、その進行方向上に「アンバー」が立ち塞がって砲撃を開始する。
「何で!マーレの命令を聞くんだ?」
「上官の命令だからだ・・・」
「そうか・・・。俺は反乱者で、上官の命令を聞く義務もない。邪魔をするなら・・・・・・」
「仕方がない。それが軍人というものだ」
「奴を告発するという手もあるのだがな・・・」
「世の中、絶対に正義がまかり通るというわけでもない・・・」
先ほどの「ジン」のパイロットといい、俺はここまでマーレの命令に逆らえない彼らに驚くと共に、マーレの背後にある勢力の恐ろしさを我が身を持って体験していた。
「艦長はそう思うのか・・・。では、覚悟してくれ!」
「悪いが、落とすさ!(黒い死神)!」
俺の「シグー」に向かって、「アンバー」が激しい砲撃と対空射撃を加えるが、敵である地球連合軍でモビルスーツが運用されていないせいで、その密度は思ったほどではなかった。
「すまない!俺は、死ねないんだ!」
「やはり、落とせなかったか・・・・・・」
俺は「アンバー」のブリッジに、ありったけの弾を撃ち込んでから、重斬刀で砲塔や機関部に斬撃を加えていく。
どのくらいの時間、攻撃を加えていただろうか・・・・・・。
多分、一分ほどなのだろうが、一時間以上に感じた「アンバー」への攻撃が終わった瞬間、ダメージが限界を超えた「アンバー」は艦体の各部を誘爆させながら、その形を崩壊させていく。
あまりに早く爆沈してしまったので、脱出者もいないようであった。
「これで、俺のザフト軍人としての人生は終わったな・・・・・・」
俺が直接倒してはいない数も含めて、本来なら味方である「ジン」を七機とローラシア級巡洋艦一隻を沈めてしまったのだ。
いくら弁解しても、俺の罪が消える事もないであろう。
「俺は、これからどうしたらいいんだ・・・・・・」
俺は自分がしてしまった事の重大さに改めて気が付き、目から溢れてくる涙をぬぐう事もしないで、一人泣き続けるのであった。
コズミックイラ70、七月一日。
ヨシヒロ・カザマは、海賊のアジトの壊滅には成功したものの、ナスカ級高速戦艦「ダリ」と予備機を含む「ジン」三機の残存戦力で逃げ帰ってきたマーレ・ストロードの告発により、反逆者として指名手配される事となったのであった。
(七月三日、プラント本国、アカデミー主任教官室内)
「そんな・・・・・・。カザマが、反逆なんて・・・・・・」
「黒い死神」が、スパイ行為を咎められた腹いせに自分の部隊を壊滅させたという噂はザフト軍中に伝わり、全軍に大きな衝撃を与えていた。
彼を教官として迎え入れるはずであったスズキ教育部長も、ショックを隠し切れない様子であった。
「おっさん!これは、絶対にマーレの罠だ!カザマが、そんな事をするはずがない!」
「だが、マーレの(ジン)のカメラに、味方を撃破するカザマ機の映像が残されていたそうだ。画像への細工等は認められなかったそうだ・・・」
「そんな・・・・・・」
マーレは、自分が都合の悪い発言をした部分をカットし、カザマが味方機を撃破する映像のみを提出して自身の正当性を訴えていた。
その事に多少の疑問を感じる者も多くいたが、肝心のカザマの弁明がなかったので、ザフト軍としては、マーレの証言を証拠として受け入れる旨の決定をするしかなかったのだ。
「それで、カザマの代わりに、誰がアスラン・ザラ達の訓練を行うんだ?」
「ミゲル。頼まれてくれないか?」
「俺がか?」
「マーレも候補に挙がっているが、俺は奴を信用していない!」
「だが、奴は逃げ帰って来たにも拘らず、強硬派の軍人の中で三番目の実力者に出世した。表面的にはただの隊長だが、ユウキ司令、クルーゼ隊長の次と目されている」
ジローの言う通りで、コネがあってそれなりに戦功をあげているマーレは、かなりの速度で出世を果たしていた。
「あの作戦自体は成功したし、損害のほとんどはカザマの仕業になっているからな・・・・・・」
「俺は、ザラ国防委員長に失望したよ・・・・・・」
「おっさん!そんな事を誰かに聞かれたら・・・・・・」
「聞かれても構わないさ。左遷なんてしやがったら、辞表を叩きつけてやる!」
「俺も、ザラ国防委員長はな・・・・・・。彼もマーレが怪しいとは思っているが、処罰して自分の派閥の力を落としたくないんだろうな。カザマは政治的には無色だったが、コーディネーター至上主義者のマーレとは仲が悪かった・・・。しかし、政治家ってのは、あんなものなのかね?」
「ミゲルまで!」
国防委員長の顕職にあって忙しいパトリック・ザラには、一パイロットに構っていられる時間が少なく、腹心の部下の報告を聞いて、それを参考に判断するしかなかったという所なのだろう。
そして、今回の件もプラントとザフト軍の中で顕著になっている、強硬派と穏健派の派閥争いが原因の根底にあるとも言えた。
「となると、カザマのように理不尽な扱いを受けて、前線で使い潰されないような手段が必要になるかな」
「クライン派に属せと?」
「現実問題として、そうでもしないとマーレに使い潰されるぞ!確かに、今回の戦争はプラント独立のためではあるが、そのための人柱になるのはごめんだ!ザラ国防委員長が気に入らなければ、クライン議長の派閥に入って、無茶な命令をかわさねば生き残れない」
「おっさんの言う通りかもな・・・・・・」
「俺も、ハイネとよく相談しておこうかな・・・」
「ミゲルは、例のお坊ちゃん共のお守りを頼むぞ」
「俺、教えるのは苦手なんだけど・・・・・・」
「マーレよりはマシだ。あいつに教わったら、人格が歪むからな。それと、あのメンバーの中のアスランとイザークには要注意だ。余計な事を話すなよ。お父様やお母様にチクられる可能性がある」
スズキ教育部長は、ミゲルに忠告をする。
「そういえば、そうだったな・・・」
五人のお坊ちゃん方の内、アスランと父親であるザラ国防委員長と、イザークの母親であるエザリア議員は強硬派に属し、ニコルの父親であるアマルフィー技術委員長と、ディアッカの父親であるダット・エルスマン議員は、穏健派寄りの中立派に属し、ラスティーの父親であるマッケンジー特別軍需委員長は、財界人として完全なる穏健派に属していた。
それだけに、この五人と接するには、かなりの気を使う必要があったのだ。
「カザマは、向いてると思ったんだけどな・・・。だが、いない奴の話をしても仕方がない。ミゲル。頼んだぞ」
「わかったよ。善処してみるよ」
わずか三人の軍人の愚痴にに近い会話内容が、後のプラント分裂を予言していたとは、現時点では誰も気が付いていなかった。
「このままってのもね・・・・・・」
マーレの部隊を撃退し、その罠を噛み砕いた俺は、これからどうしたものかと思案に暮れていた。
「そろそろ、推進剤もバッテリーも心許ないか・・・・・・。例のアジトで残飯漁りでもするかな」
俺は、とりあえずエネルギーが空っ欠寸前の「シグー」を、破壊されたアジトに向けて移動させる。
宇宙空間では、最低でも酸素等を補給しないと生きていけないからだ。
「うん?あれは、先ほどの」
例のアジトに近づくと、先に撃破した敵の「ジン」の胴体部分が視線に入り、コックピットハッチが空いてパイロットが中から這い出てきた。
どうやら、俺の攻撃で今まで気を失っていたようだ。
「案内でもさせるか・・・。おい!そこの歪んだパイロット!酸素やら食料の場所に案内しろ!」
「シグー」の重突撃銃を敵のパイロットに向けると、彼は素直に手を挙げて頷いた。
「余計な事をすると、肉片になるからな」
「ふっ!様子を見ていたぞ。裏切り者になって、帰る場所もない癖に」
「なればこそだ。俺に捕虜の扱いだとか、国際法だとかの常識はもう通じない。身の危険を感じたら即座に殺す」
「さすがは、(黒い死神)というところか」
「雑魚扱いしていた癖に・・・・・・」
「戦いは、心理戦だからな。お前が激高してくれれば良いと思ったのだが・・・・・・」
「腕が良い事は認めるが、経験不足だな。訓練はちゃんとしているようだが」
「やはりそうか・・・。このままでは・・・・・・」
「このままでは、何だ?」
「いや。抵抗はしないから、物騒な物はしまってくれないか?」
「わかっているとは思うが・・・」
「立場は、お前が上なんだろう?」
「そういう事だ」
俺は、例のパイロットを拾ってアジトの中に入るのであった。
「ふえぇ。酸素って、美味しいよな」
「酸素は、無味無臭だ」
「つまらない男だな・・・」
例の捕虜に銃を突き付けたまま、無事だった与圧区画でヘルメットを外して酸素を吸うと、心が少しずつ落ち着いてくる。
例の捕虜も同じようにヘルメットを外すが、彼は長髪で女のような顔をした少年であった。
多分、俺よりも二〜三歳下であろう。
そして、例の海賊のアジトは、ローラシア巡洋艦の砲撃でかなり壊れていたが、無事な部分もかなり存在し、多くの物資等が残っていた。
「酸素・水・食料・医薬品・金塊・アースダラーの札束か。これだけあれば、慎ましく生きていけば一生ものだな。いや、少し贅沢も・・・」
アジト内を探索すると、予備機の「ジン」や「モビルポッド」や奪った積荷など多くの物資が残っていて、この海賊のリーダーが使用していたと思われる部屋の金庫には、活動資金や財産としてのアースダラーの札束や金塊や宝石まで残っていた。
やはり、海賊にしては少し資金等を多く持っていたので、彼らを操っていたのは、ユーラシア連合軍だったのであろう。
「俺への分け前は?」
生意気にも、長髪の少年は俺に分け前を求めてくる。
「いるのか?つまらない人生を送っている男が」
「お前だって、これからは復讐に生きるんだろうが!」
「どうしようかと思っている」
「どうしようかって・・・」
俺の意外な答えに、長髪の少年は声のトーンを落としてしまう。
「オーブに逃げて、これで会社を興して別人として生きるという道もあるからな」
俺は神妙な表情をしながら、海賊の首領の部屋?(司令官室?)の金庫の中に入っていた、金塊を手に持って見つめていた。
「復讐をしないのか?」
「考えなくもないけど、軍人を辞められたのだから良い機会とも言えるな。それに、俺は生き延びたし」
「そうか。俺は軍に戻るからな!」
「ユーラシア連合軍にか?」
「そうだ、あそこにいれば、最高のコーディネーターの情報が入り易いからな」
「そうか?」
「どういう事だ?」
「だって、お前ってユーラシア連合軍で秘密に属する部隊に所属しているんだろう?かえって、情報を遮断され易いような・・・」
「そんなはずは!」
「それに、最高のコーディネーターがどんな職業で何人なのかも知らないが、民間人なら軍人であるお前が復讐を果たして殺したら、大問題になると思うけど・・・・・・。それに、同盟国軍の軍人だったらどうするんだ?」
「軍を離脱する!」
「脱走兵は死刑だぜ!」
「それは・・・」
「それに、最高のコーディネーターなら、軍でエースクラスの活躍をするんだから、有名になるだろう。現に、俺程度でもそれなりに名前が知られているんだからさ。それがないという事は、ただの民間人に紛れている可能性が高いわけだ」
もう一つ、彼には言わなかったが、最高のコーディネーターとやらが見つかれば使い勝手の良い彼がいなくなってしまうので、俺が彼の上司なら、なかなか見つからないと言って誤魔化すであろう。
「お前、鋭いな」
「お前が、考えなしのバカなんだ」
「何だと!」
「事実じゃないか」
「否定できない・・・・・・」
長髪の少年は、俺の言葉で落ち込んでしまう。
「さてと。無駄話はここで終了させて、俺の仕事を手伝ってくれ。早くしないと、ハイエナ達が集まってくるぜ」
「仕事?」
「ここの格納庫には、旧式巡洋艦を改良した輸送船が置かれていた。これに、ここら辺にある金目の物を全部集めて積むんだよ」
「何で俺がそんな事を!」
「最高のコーディネーターを探すんだろう?金はあっても邪魔にならないはずだ。モビルスーツの部品やら、モビルポッドやら、金目の物を俺達で集めて売り払って明日への資金を稼ぐのさ!」
「逞しいな・・・。お前は・・・」
「俺の名前は、ヨシヒロ・カザマだ!カザマでもヨシヒロでも好きに呼ぶが良いさ!」
「カナード・パルスだ」
「よろしくな!カナード!」
こうして、俺と無愛想なコーディネーターの少年との、おかしな珍道中が始まるのであった。
「よーし。これで、最後だ!」
「しかし、欲張りだな。カザマは・・・・・・」
「ザフト軍の退職金が期待できない以上、これが手切れ金代わりというわけだな。それに、その(ジン)の部品は俺が撃破した奴なんだ。俺の好きにするさ」
「味方だったんだろう」
「元だ。俺も攻撃されれば、反撃くらいするさ」
あの後、俺とカナードは、アジト内で酸素を吸って水と食事を取り、「シグー」と予備機として置かれていて無事だった「ジン」を急いで整備してから、要塞内とその周辺に漂っていた金になりそうなジャンクや物資の回収を急いで行っていた。
俺が前に聞いた話によると、こういう物資は急いで回収しないと、情報を聞き付けた他のジャンク屋に取られてしまうそうなので、時間との勝負であったのだ。
「カナード!一秒を急げば、それだけ実入りが増えるぞ!組織に所属してない俺達の頼れる物は?」
「金だ・・・・・・(というか、俺はまだ離脱していないぞ・・・)」
カナードには少し言いたい事もあったが、ここは素直に答えておく事にする。
「カナード君、正解!」
「しかし、本当に欲張ったな・・・」
年上のおかしなコーディネーターに振り回されているカナードは、自分が軍に戻るという事すら記憶から消えそうになっていた。
「本当なら、ザフト軍に回収されていたんだけどね。マーレが、逃げ出しやがったからな」
「戻ってくる事を考慮しなかったのか?」
「残存モビルスーツが三機で、マーレ以外はヒヨコ連中だったからな。あいつは、最初から勝てない勝負はしない」
「ナスカ級の戦艦がいただろうが」
「俺は、ザフト軍屈指の艦船キラーだった。護衛のない軍艦は、鈍重な豚だ。無駄な損害が増えるだけだな」
「なるほどな・・・」
俺達は、大西洋連邦軍が民間に放出した旧式巡洋艦を改造した輸送艦で二隻の小型貨物船を引っ張り、その中に大量の物資を整理もしないで大量に詰め込んでいた。
更に、船に入らない物は、コンテナに入れてワイヤーに繋いで船に結び付けるという徹底ぶりであった。
「カナード君、労働後の汗って気持ち良いよね」
「窃盗じゃないか・・・」
「所有者がいなくなったから、窃盗ではないな。自称ジャンク屋の俺達の初業務というやつだ」
「減らず口を・・・・・・」
俺は「シグー」に乗って船の護衛を行い、「ジン」を船に積んだカナードに輸送船の操縦を行わせていた。
彼は器用で何でも操縦できるようなので、輸送船の操舵を任せていたのだ。
「一人だと、限りなく不安なんだが・・・」
「省力化されているから、一人でも大丈夫だろう?最悪、交代でモビルスーツで引っ張れば良いんだよ。宇宙なんだから、大丈夫だって」
「お気楽な性格をしているな・・・・・・」
「悩むと毛が抜けるよ」
「大きなお世話だ!カザマ、前方に輸送艦らしき反応だ!」
何だかんだ言っても、カナードは律儀に前方からの艦船の接近を知らせてくれる。
「同業者かな?」
「俺達は、いつジャンク屋になったんだ?」
「ついさっきだ!」
「目視できるぞ!古い軍の輸送艦を改良した物のようだな」
カナードの言う通りに、前方から一隻の輸送船が見えた。
確か、あれはジャンク屋などがよく根城にしているタイプの船であったはずだ。
「こっちは、巡洋艦改造の輸送船だ!胸を張れ!」
「武装は、ほとんど撤去されているが・・・」
「最悪、攻撃してきたら、俺が沈める!」
「そちらの方が、早そうだな」
「おいおい!物騒な話は止めてくれよ!」
俺達の会話を聞いたのか?突然、前方の輸送船から若い男の声が入ってくる。
「何者だ?名を名乗れ!」
「俺の名前は、ロウ・ギュールだ。しがないジャンク屋さ」
「そうか。ついさっき同業者になった者だ。横取りには、死を持って償って貰う」
「さすがは、(黒い死神)・・・」
「ちなみに、秘密を知っている者も始末する。こっちは、追い込まれているのでね・・・」
俺は「シグー」の重突撃銃を、彼らの船のブリッジに向けてから引き金に指を置いた。
現時点で、俺の事を知っているロウは、かなり危険な要素を孕んだ男であった。
あの戦闘から丸1日。
もしかすると、ザフト軍から密かに行方の捜索を依頼されている可能性もあったからだ。
「待って!私達は、ある方からあなたを迎えに行くように頼まれたの!」
「女の声?」
「俺の仲間の山吹樹里だ」
「それで、誰に頼まれたんだ?」
「俺だよ。久しぶりに会ったら、随分と迫力が増したものだな。さすがは、元ザフト軍のエースってところかな?」
「その声は・・・・・・」
「何だ、親の声を忘れたのか?随分と親不孝になったものだな」
「親父か・・・・・・」
「シグー」の無線に入ってきた声の主は、久しぶりに聞く俺の親父の声であった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
俺とカナードは、回収した物資の管理をロウ達に任せ、彼らの母艦であるホームの部屋で親父と対面していた。
だが、カナードは空気の悪さに居づらくなって退出し、俺と親父は無言のままで一時間以上も対峙を続けていた。
「何か話す事はないのか?」
さすがに、焦れてきたのか、親父が、先に話しかけてくる。
「どうして、俺の事を知っていた?僅かな時間であの場所に着くなんて、おかしいじゃないか」
俺は、一番疑問に思っていた事を聞いてみる。
あのマーレが言うところの反逆事件から丸一日ほどで、親父がその情報をちゃんとキャッチし、ジャンク屋のロウ達の船に便乗して俺達をちゃんと見つけたのだ。
何か裏があって当然というべきなのだろう。
「あるところから、情報が入ってきたんだ。ロウ達に関しては、俺が偶然に仕事を頼んで便乗していたんだ。場所が近いのも、本当に偶然だったのさ」
「そうか・・・・・・。それで、知っていたな」
「ああ。あれだけ活躍すればな。レイナ達は、ザフト軍のエースになんて興味はないが、俺はオーブのモルゲンレーテ社でモビルスーツの開発を行っているからな。その手の情報は集まり易い。母さんが、心配していたぞ。(ヨシヒロが戦死したらどうしよう)と」
「そうか・・・・・・」
「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ?」
一通り話を聞いた親父は、俺にこれからの事を尋ねてくる。
「俺は勝手に軍人になった挙句に、反逆者として指名手配されている。俺と関わると、巻き込まれて一緒に死ぬぞ」
俺としては、親父に心配して貰って嬉しかったが、家族にこれ以上迷惑をかけられないので、突き放すような返事をしてしまう。
「だが、謀略に巻き込まれただけなんだろう?」
「何でそう思うんだ?」
「舐めるなよ。俺はお前の倍以上も生きているんだ。大方、家族がナチュラルだから、疎まれて消されかけたんだろう?」
そんな事だけで消されるとは考えたくなかったが、あのマーレなら考えられなくもない事であった。
「だが、俺がお尋ね人である事実は消えない」
「そうだな。だが、手はなくもない」
「どういう事だ?」
「お前がプラントに飛び立つ日に、俺は何を渡した?」
「ヨシヒロ・アマミヤのIDか!」
確かに、俺はオーブの宇宙港で親父にIDを貰い、それを常に持ち歩いていた。
「そうだ。お前はこれから、ヨシヒロ・アマミヤとして生きて行くんだ」
「それで、技術者にでもなれってか?」
「俺としては、そうして欲しいのだが、状況がそうも言っていられなくなった。オーブは現状でかなり危うい状態にある」
「そうか?中立国として、上手くやっているじゃないか」
俺のオーブの印象は、「上手くやったものだな」というものであった。
ウズミ代表が開戦初期に中立宣言を出し、北欧のスカンジナビア王国と共に、戦争で途絶えがちな物資の中継港として繁栄を謳歌しているオーブは、かなり上手く立ち回っているという印象を受けていた。
過去の歴史を振り返ると、こういう国はいくつかあった。
「実は、お前がプラントにいられる状態なら、それほど憂慮する事もなかったのだが、お前がプラントを出されてしまうような状態だと、大変な事になってしまうかも知れない・・・」
「よくわからないな・・・・・・」
「詳しい話は、後で俺のボスから聞いてくれ。さて、お前も回収したし、ヘリオポリスにでも帰ろうかな」
「ヘリオポリス?」
「L3宙域にあるオーブの資源コロニーだよ。レイナ達からのメールに書いてあったろうが。レイナとカナは、そこの工業カレッジに通っていて、俺はモルゲンレーテ社勤務なんだ」
「そうか」
「暫くはゆっくりと休むんだな。軍人ってのは、色々と大変だったんだろう?」
「まあね」
「それじゃあ、家族の元にレッツ・ゴーだ!」
「俺は、これからどうなるんだ?」
意外と巻き込まれるタイプのカナードの心配をよそに、俺達はオーブの資源コロニー「ヘリオポリス」へと向かうのであった。
これからの俺の運命は、まだ誰にもわからない・・・・・・。
あとがき
すいません。ステルヴィアは最終話で少し詰まっています。
それで、こんなのを書いてるし・・・・・・。