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「GSきす 〜第六章〜(きゃんでぃそふと+GS)」

キャンディ (2007-01-29 15:49)
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「ふむ・・・」


 館長は目の前に提出された用紙を見て隻眼を細めた。
 今、彼の目の前には一人の女性が手を後ろに組んで立っていた。


「これが娘からの報告ですわ」
「よもや、この松笠でそのような・・・」


 女性の名は美神 美智恵。
 令子の母親であり、ICPOの超常犯罪課(通称オカルトGメン)の特別顧問である。


「して美神殿。この件と我が竜鳴館にどのような関係が?」
「先のアシュタロス戦役では、神魔族が動きを封じられ、人間のみで戦う事を強いられてしまいました。今回ももし同じような事が起これば、我々だけで戦うのは厳しいと判断します」


 アシュタロス戦でもギリギリ寸前だったというのに、彼クラス、もしくはそれ以上の魔族が出て来て、再び冥界とのチャンネルを遮断されては人間に今度こそ勝ち目はない。


「橘館長。この学校には多く素質のある生徒がおられるようですね」


 その言葉に館長の目が鋭くなる。


「令子から報告を受けました。潜在的に優秀な力を秘めている者がかなりいると・・・」
「ふ・・・子供達を戦場に送り込むという訳か? そのような事をしなくても、GSには優秀な卵がいくらでもおられるだろう?」


 GSのエリートが育てられる六道女学院やアマチュアでも活躍しているGS。
 一人でも戦力が必要なら、そういう所から力を借りれば良いのではと館長が返すと、美智恵も館長と同じような笑みを浮かべた。


「橘館長。我々が欲しいのは、並の悪霊を退治出来るレベルのGSではありません。強力な魔族と戦う事の出来る戦士なのです!」
「許可!!!!!!」


 力いっぱい込めて叫ぶ美智恵の言葉に、館長は服の袖から印鑑を出し、用紙に押した。
 『済』の文字がデカデカと押された用紙には何人かの生徒の名前が載っていた。


「美神殿、差し当たって修行をする生徒に儂からも何名か推薦したい者がおる」
「は? それは構いませんが・・・」
「して? 生徒達の修行は誰に?」
「それにはご心配及びません。各々、優秀な師を選んでおります。1ヶ月でモノになると・・・」
「甘い!!!!」
「は?」
「美神殿。我が竜鳴館の生徒を甘く見て貰っては困る。1ヶ月など不要!! 1週間・・・1週間で貴女方に匹敵する力を身に付けよう!!!」
「そ、そんな無茶な・・・」
「儂が竜鳴館館長! 橘 平蔵である!!!!」


 竜の咆哮の如き館長の言葉に、美智恵は何も言い返せなかった。


「だから早く私に修行つけてくだちゃいよ!!」


 相変わらず妙神山では、パピリオがダメ天使に向かって叫んでいた。
 真っ暗な部屋でゲームをし続けるミカエルは気だるそうに返した。


「ちょっとパピー。もう少し言葉選んでよ。私は資産100兆円の社長だよ? 日本全国もう青色に染めちゃってんのよ? 社長に暴言吐くなんてダメダメだよ」
「ダメダメなのはアンタの頭でちゅ! たまに外に出ると言ったらアキバにゲーム買いに行くだけじゃないでちゅか!」
「違うよ。メイド喫茶にも行ってメイドさんとお話するんだ。日々の鬱憤を聞いて貰ったりね」
「アンタ、本当に神なんでちゅか?」
「・・・・・・・老師」


 ミカエルとパピリオのやり取りを部屋の外から見て、小竜姫が横にいる老師に話しかける。


「何も言うでない、小竜姫よ・・・」


 パピリオがミカエルに対してタメ口なのを止めようともせず、何処か諦めの境地に達しているかのような2人。


「ミカエル様、いる〜?」
「? 美神さん?」


 その時、ふと後ろから令子が声をかけてきた。


「今日はどうしたんですか?」
「ちょっとミカエル様にお願いがあって来たの」
「ミカエル様に?」
「ええ。ミカエル様・・・私に修行つけてくれない?」


 その言葉に小竜姫、老師、パピリオは驚愕し、ミカエルは「あ、ビンボー神に取り付かれた」と呟き、丸っきり聞いちゃいなかった。


 薄暗い地下の空洞。
 その場にデミアンとグリーフがいた。
 そして、2人は膝を突き、ある女性に対して膝を突いていた。


「グリーフ、貴様の所為で神族やGSどもに私達の存在が知られてしまった。この責任、どう取る?」
「好きにして」
「・・・・・・・ちょっとは考えなさいよ」


 戸惑う事無く答えるグリーフに女性は呆れ果てる。
 紫色の長い髪を結わえ、両肩を剥き出しにした黒いボディスーツと赤い腰布を巻いたかなりのスタイルをしている。
 しかし、その赤い瞳は蛇のように鋭く、デミアンですら冷や汗を掻いていた。


「ってゆーか、何で地上に出たの?」
「・・・・・・約束」
「約束、ねぇ」


 意味ありげな笑みを浮かべ、女性は顎を掌に載せて呟く。


「ま、既に上じゃあどっかの誰かさんが雇ったネズミがコソコソと嗅ぎ回ってるようだし・・・」
「ちっ・・・下等生物どもめ。なら、もう一度私が・・・」
「それなら心配無用よ。既に手は打っておいたわ」


 立ち上がろうとするデミアンを女性が制した。


「それに・・・相手が美神 令子達なら私も出る」


「〜〜〜♪」
「「・・・・・・・・・」」


 放課後、帰り道でカニとフカヒレはジ〜ッとスバルを見ていた。
 普段、クール、というか余り感情を表に出さない彼が何故か陽気に鼻唄を歌っていた。


「何か急にスバルの奴、元気になったな」
「だよね〜」


 その理由は雪之丞が家から出て行ったのだが、スバルは決して語らない。


「お、そうだ。たまにはゲーセン行かね?」
「おいおい、スバルがゲーセンに誘うなんて雨でも降るんじゃね?」
「あはは。言えてる言えてる」


 カニとフカヒレにしてもスバルが一転して明るくなったのは疑問だが、少なくとも最近までの陰鬱とした彼よりはマシだ。
 なら、此処は素直に彼の誘いに乗ろうと2人も、スバルが変わった事は考えないようにした。
 しかし、その時であった。
 ヒュオッと風の切れる音がした。


「へ?」


 それと共にフカヒレの頬から血が流れ、地面に羽が突き刺さった。


「な、ななななな!?」
「お、おい、フカヒレ・・・」


 思わず尻餅を突いてしまうフカヒレに、カニが驚愕する。
 スバルも驚いていたが、頭上を振り返った。
 すると、そこには電柱に何かが立っていた。
 女性、のスタイルをしてはいるが、明らかに人間ではない。
 身体は体毛で覆われ、両腕には鳥の翼がある。
 足は猛禽類のような鋭い爪を持ったモノだった。


「な、何だアレ?」
「・・・・・・・・土永さんの親戚か?」
「この状況でそんな事を考えられるお前が羨ましいよ」


 かなりズレた台詞を放つカニに、スバルは目を線にしてツッコミを入れる。


「お前が伊達 スバルじゃん? 伊達 雪之丞の弟の」
「(兄貴がらみ?)」
「雪之丞は何処じゃん?」
「何言ってんのか、さっぱり分かんねぇぜ?」


 雪之丞の名前が出てスバルはピクリと反応するが、化け物は不敵に笑う。


「しらばっくれても無駄じゃん。調べはバッチリ付いてるんだからね」
「(くそったれ! あのバカ兄貴に関わると、やっぱりロクなことしやがらねぇ・・・!)」


 内心、舌打ちするスバル。


「雪之丞の居所を吐かないとお前のお友達どもが大変な目に遭うじゃん!」


 そう言って化け物は翼を振るった。
 先端の鋭い羽がカニに向かって放たれる。


「しま・・・カニーーーー!」
「何のぉ!」


 叫ぶスバル。
 しかし、カニは目をキラーンと光らせると、尻餅を突いているフカヒレの髪の毛を掴み、自分の前に持って来た。


「へ? はぉ!」


 プスッとフカヒレの額に羽が突き刺さる。


「な・・・!?」
「ナイス、カニ!」
「な、仲間を盾にだと!? お前、それでも人間か!?」
「はん! フカヒレなんざ生きてたって社会のゴミにしかならねぇんだから、ボクが有効に使ってやんのよ!」
「カ、カニ・・・テメー、覚えてろ・・・」


 額からドクドクと血を垂れ流しながらフカヒレが呟くが、更に化け物が放ってきた羽を悉く、カニはフカヒレでガードした。


「あ・・・風呂上りの春子(ギャルゲーキャラ)がバスタオル広げて俺を誘ってる・・・」
「よっしゃカニ! そのままフカヒレを盾にして逃げろ!」
「お前ら、人としてその判断は恥ずかしくないの?」


 化け物に何故か人間の倫理観を唱えられるスバルとカニ。
 しかし、スバルの中では『カニ≧レオ>>>>陸上>>>>>夕飯の材料>>>ブルマ>>>>>>フカヒレ>親父・兄貴』という構図なので、カニが無事なら構わなかった。
 カニはフカヒレの髪の毛を引っ張り、逃げ出す。
 カニはフカヒレより背が低いので当然、フカヒレは引きずられて行く形になった。


「ちっ! 逃がすか!」


 化け物は逃げるカニに向かって先程よりも強力な羽を飛ばす。
 ソレを見たスバルは、流石にアレを喰らってはフカヒレも死ぬと思い、思わず彼らの前に立った。


「! スバル!?」
「ぐぁ!」


 化け物の羽は、スバルの肩を貫いた。
 スバルは派手に仰向けに倒れ、制服が血で赤く染まる。


「! スバル! おい、スバル!」
「カニ・・・逃げろ」


 駆け寄って来るカニに、スバルは肩を押さえながら苦痛の表情で言う。


「ちっ・・・予定外じゃん。まぁいい。今度は、あの小娘・・・」
「主よ! 聖霊よ! 我に邪を滅す力を貸し与えたまえ!」
「! ぎゃああああ!!」


 突如、化け物が光に包まれ、悲鳴を上げた。
 カニは驚いて後方を振り返る。
 そこには、黒い服に赤いジャケットを羽織った眼鏡の中年男性が本を開いて立っていた。


「お前は・・・!?」
「退け、ハーピー。彼らに手を出す事は許さん」
「ちぃ!」
(相手が悪いじゃん・・・此処は!)


 ハーピーと呼ばれた化け物は焦げた身体で男性を睨みつけると、フッと姿を消した。


「オ、オッサン、誰?」
「ふむ・・・酷い傷だな」


 呆然と尋ねてくるカニに対し、男性は膝を突いてスバルの傷を見る。
 そして傷の状態を見て、スッと傷口に手を当てた。


「応急処置だが、心霊治療(ヒーリング)で傷を癒そう。主よ、其の慈悲深き御力で、穢れし肉体を清めたまえ」


 ポゥッと男性の手から温かい光が発生する。
 すると肩から流れていた血が止まり、苦しんでいたスバルの顔が段々と穏やかになっていった。


「すっげー・・・どうやってんだ? なぁ、おっさん?」


 カニがまるで魔法でも見るかのように男性に詰め寄る。
 男性は優しい笑みを浮かべ、カニに言った。


「君も覚えてみるかい?」
「ふぇ?」
「私の名は唐巣。美神くんの母親に頼まれ、君に修行を付けに来たのだよ、蟹沢 きぬくん」
「・・・・・・・・・は?」


 男性―唐巣のいきなり出て来た言葉に、カニは唖然となった。


 彼女、椰子 なごみは個性豊かな竜鳴館生徒会のメンバーでも特に変わり者である。
 決して他人を寄せ付けず、孤高の立場を貫く性格。
 放課後、彼女は誰もいない屋上で一人過ごす。
 誰にも邪魔されない彼女だけの空間。


「・・・・・・・・・・帰るの・・・嫌だな」


 既に夕陽が傾き始めた西の空を見て呟く。
 その時、視界がグラッと揺らいだ。


「! 何・・・?」


 次の瞬間、フェンスとコンクリートだけだった屋上の風景が、いきなりジャングルのような密林へと変化した。


「な・・・!?」
(これは・・・!?)


 余りに突然の出来事に椰子は驚き、周囲を見回す。
 すると、茂みの中からカサカサと蠍が数匹出て来た。
 密林に蠍なんかいたか、と心の中でツッコミを入れながら、椰子は逃げ出した。
 しかし、蠍は彼女を追いかけて来る。


(いきなり屋上がジャングル? そんな事、実際にある筈が無い・・・けど)


 頭の中で冷静に現在の状況を分析しつつも、蠍に追われているという恐怖が、思考能力を鈍らせる。
 が、そこでハッとなる。


(蠍に・・・追われる?)


 獣や蜂の大群じゃあるまいし、蠍が人間を追いかけるなんて聞いた事が無い。
 それ以前に、みっともなく逃げる自分の姿が非情に腹が立った。
 蠍のその形状がそう強く思わせる。
 二本の鋏、節足がアレと重なった。


(私が・・・・逃げる? カニから?)


 ハッキリ言って違うのだが、椰子は、クルッと振り返ると大きく息を吸い込み、鋭い瞳で呟くように、それでもハッキリと聞こえる声で言った。


「潰すぞ」
「ひぇ!?」
「バカ! 声出すな!」


 途端、何処からか声がした。
 椰子は足元に落ちている石を拾うと、思いっ切り声のした方へと投げつけた。


「ぎゃん!」


 野太い男の悲鳴がした。
 すると周囲の景色が密林から元の屋上風景へと戻った。
 ソレと同時に、2人の人物が姿を現す。
 一人は褐色の肌に豊満な胸をした黒髪の女性だった。
 何故か笛を持っている。
 そしてもう一人は、2mぐらいある大柄な男性だ。


「・・・・・・誰?」


 額に大きな瘤を作った男性を「ドジ」やら「マヌケ」罵っていた女性は、椰子の方を見て、笑みを浮かべる。


「やるわね。タイガーの幻術を見破るだなんて・・・いつから幻覚だって気づいたの?」
「・・・・・・別に。幻覚だなんて知らなかった・・・」
「? じゃあ何故?」
「・・・・・・ただ常識的にあり得ないと思ったから。後、カニ・・・じゃなくて蠍なんかに追われるのがムカついたから」


 その蠍の正体はビー玉だった。
 コロコロと屋上に転がっている。
 椰子は冷笑を浮かべ、女性を刺すように睨んだ。


「貴女・・・GS」
「そうよ。日本最高のGS、小笠原 エミよ」
「・・・・・・それで? 私に何の用ですか?」
「本当なら、私の趣味じゃないんだけどね・・・」
「?」
「まぁお金払って貰った訳だし・・・椰子 なごみ。アンタは今から、この私の弟子な訳」
「・・・・・・・・・・・・・」


 ビシィッと椰子を指差して高らかと言い放つ女性―小笠原 エミに、本人はどうコメントして良いのか分からなかった。


「ふ〜ん・・・まぁ、あのお姉さんが来てから、何かあると思ってたけど、そういう事」


 その頃、竜宮ではエリカがある人物と対面していた。
 エリカの横に立つ良美は、不安そうにチラチラとその人物を見る。
 彼女の対面に座っているのは、皺だらけの顔と真っ白な髪の毛、そして黒衣に身を包んだ老人だった。
 老人の横には赤い髪と服を着た無表情の女性が直立している。


「如何にも。君は光栄じゃぞ・・・このワシの指導を受ける事が出来るのじゃからな」
「私も暇潰しでオカルト関連の書物とか読んだりするけど・・・あの伝説の錬金術師がこうして目の前にいると思うと感慨深いわね」
「ふっふっふ・・・君は実に賢い。このワシの偉大さが分かっておるのだからな」


 相手は年配。
 しかもその眼光は、数多の修羅場を潜り抜けて来た威圧感さえ感じる。
 良美など既に圧倒されてしまっている。
 だが、エリカは違った。
 相手が如何に格上か分からないが、姫の名は伊達や酔狂ではなく、怯むどころか挑戦的ですらある。


「この松笠で妖怪や化け物の類が何か企んでるから、此処に住む私たちを鍛える・・・館長らしいわね」
「エ、エリー?」
「私が世界をこの手に握るのに此処は重要な出発点。それを人外の連中に勝手な事されちゃ困るのよね」


 エリカは席から立ち上がると、机に手を載せ、目の前の人物を切れ長の瞳で見据えた。


「そいつ等を此処から追い出せるのなら、貴方の知識、存分に吸収させて貰うわよ、ドクター・カオス」
「ふっふっふ・・・任せておけ。この中世において『ヨーロッパの魔王』と呼ばれたドクター・カオスが、お前さんを一人前の錬金術師にしてやろう! な〜っはっはっは!!!!!!」


 甲高い笑い声を上げる老人ことドクター・カオス。
 ここに中世の天才と現代の天才が手を組んでしまった。


「レオ〜、晩御飯だぞ〜?」


 乙女は晩御飯(とはいってもオニギリだが)が出来たので階段の下からレオを呼ぶ。
 しかし返事は無い。


「アイツ、どうしたんだ?」


 ここ最近、レオの様子はおかしい。
 それ以上に目に余ってしまう。
 高校に入り、再会した時以上に今のレオは腑抜け切ってしまっている。
 アレはテンションに身を任せないというより、何もかも諦め切ってる、というような感じだった。
 やはり素奈緒に怪我を負わせてしまったのが悔しかったのだろうか。
 しかし相手は化け物。
 レオに責任は無い。
 乙女もその辺りは分かっていた。


(だがいつまでも、あの状態でいる訳にもいかんだろう・・・しょうがない)


 此処は姉として弟に喝を入れてやろうと意気込んで階段を上がる。


「レオ、入るぞ?」


 ノックして扉を開ける。


「レオ?」


 レオの部屋は真っ暗だった。
 電気もつけず、幼馴染連中が出入りしている窓にカーテンまでかけている。
 そして部屋の主はベッドの上で膝を抱えて座り込んでいた。


「どうしたんだ、レオ? 明かりもつけないで」


 手探りで部屋の電気のスイッチを押して明かりをつけようとすると、不意にレオが声を上げた。


「乙女さん・・・」
「ん?」
「俺・・・近衛の奴、傷つけたの2回目だ・・・」
「は?」


 いきなりなレオの発言に乙女は眉を寄せる。
 そして明かりをつけず、ベッドに歩み寄りレオの顔の前で手を振ってみる。


「レオ? どうした?」
「今度も・・・俺の所為で・・・」
「おい、レオ?」
「俺・・・俺・・・またアイツを・・・」
「レオ、落ち着け!」


 子供みたいに震えた声で呟くレオ。
 思わず乙女は声を荒げた。
 乙女はレオと素奈緒の間に何があったのか分からない為、ただレオを宥める事しか出来なかった。


 乙女はレオを何とか宥めた後、素奈緒の家の前まで来ていた。
 素奈緒は今も怪我の療養をしている。
 すると彼女の家から誰かが出て来た。
 長い髪にスーツを着こなして好青年だった。
 見送っている素奈緒に軽く頭を下げ、手を振って去って行った。
 その際、乙女とすれ違いになり、彼女はその青年の背中を振り返る。


(出来る・・・)


 武門の家に生まれた故の直感であろうか、乙女は青年が只者ではないと察知した。


「あ、鉄先輩」
「・・・・・こんばんは」


 素奈緒は乙女に気づき、声を上げた。
 乙女を家の中に招きいれ、お茶を入れる。
 まだ怪我が治り切っていないようだが、ギプスなどはしていない所を見ると大怪我ではないようだ。


「すいません、学校休んじゃって」
「いや。あんな目に遭ったんだ。身体だけではなく心も癒した方がいい」
「はい・・・」
「先程の男性は?」


 素奈緒の両親は役者で、しょっちゅう家を留守にしている。
 先輩としては、可愛い後輩がこんな夜中に男を家に連れているのは、どうしても気になった。
 まぁ素奈緒がそんなふしだらな事をするような人間ではないと乙女は良く分かっているが。


「オカルトGメンの西条 輝彦さんです」
「オカ・・・なんだソレは?」
「公務員のGSの人です。まぁ悪霊とか妖怪専門の警察ですね」
「? そんな方が何故、お前の家に・・・」


 全く接点が見出せず、首を傾げる乙女。
 素奈緒は湯飲みをテーブルに置くと、真剣な表情で答えた。


「怪我が治ったら・・・私に修行を付けてくれるって」
「修行?」
「はい。今、松笠ではこの前のような化け物が何かを企てるそうなんです。それで、美神というGSの人が私に素質があるから修行を付けてくれるって」
「ま、待て待て! そんな・・・一般人をわざわざ危険に巻き込むつもりか!?」


 デミアンと戦った乙女には分かる。
 アレは一朝一夕で勝てるような相手ではない。
 乙女にとって、そのような事は許される事ではなかった。


「でも、私達を本格的に推薦したの館長らしいですよ?」
「館長が・・・一体何故・・・?」
「それに私、西条さんに言われたんです。『今は一人でも悪に立ち向かう正義が必要だ』って・・・!」


 なら自分の住む松笠市を悪人にいい様にされたままではいられない。
 素奈緒は自分の中に流れる正義の血が燃え滾ったと拳を握り締めて力説する。
 それを聞いた乙女は、素奈緒とレオを重ねて見てしまった。
 素奈緒は怪我を負わされながらもこうして恐れず、逆に立ち向かっていこうとする。
 逆にレオは素奈緒を傷つけられ、塞ぎ込んでしまっている。
 余りにも正反対過ぎた。
 それについ乙女は訊いてしまった。


「近衛・・・お前とレオに何があったんだ?」
「え?」


 いきなりレオの名前が出て唖然となる素奈緒。
 乙女は家や学校でのレオの状況を話した。
 それを聞くにつれ、彼女の表情は怒りで満ちていった。

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