次の日の朝、横島は肌寒さを感じて目を覚ました。
何故寒いのかと不思議に思い隣を見るとそこにサラマンダーはいなかった。
どこに言ったのかと辺りを見回したが小屋内にもサラマンダーはいない。
というよりも昨日小屋内にいた使い魔たちがほとんどいなくなっていた。
横島は何故だろうかと疑問に思いつつ、あくびをこらえて小屋の外へと向かった。
すると小屋の外の広場には多くの使い魔たちとその主人である少年少女たちがいた。
少年少女たちが呼びに来たから使い魔はいなかったのである。
「ルイズちゃんは来てないんかなー」
そう言いながら辺りを見回す。
ある者は昨日初めて呼び出した自分の使い魔とあいさつをするために。
そしてある者は自分の使い魔を他人に自慢するためにつれまわしていた。
しかしどこにもルイズの姿は無い。
あきらめて誰かにルイズの部屋の場所を聞こうと思ったその時だった。
「フレイム、ついてらっしゃい」
そこには昨日一夜を共にしたサラマンダーとその主人である少女がいた。
赤い髪の美しい少女だった。
そして巨乳だった。
まるでメロンのように大きなその胸を、ブラウスのボタンをいくつか外す事によって全面的に強調していた。
まさに凶器。
横島に対する最終兵器。
それを目にするやいなや横島は彼女の前に高速移動していた。
「僕、横島! どうです美しいお嬢さん、ちょっとそこで休んでいきませんか? さぁっ! さぁっ!!」
横島は彼女の手を引いて小屋のほうへ引っ張っていこうとした。
突然現れた横島に目を丸くしつつ引っ張られていく彼女。
何も言わずについて来るので、このままいけるかもしれないと横島は思った。
しかし彼女はすぐに我に帰り、横島の手を振り払った。
「あら積極的ね。でもあたし、迫るのは好きだけど迫られるのは好きじゃないの」
そういうと彼女は微笑を浮かべながらフレイムに命令した。
「フレイム、おしおきしてあげなさい」
フレイムが息を大きく吸い込む。
やばい気配に、あわててフレイムにアイコンタクトを送る横島。
(一つ屋根の下で寝た使い魔仲間だろ!? 俺の恋路を邪魔するな!)
(えろうすんまへんなー旦那。ご主人の命令は絶対やさかい)
瞬きするまもなく決裂した交渉。
半泣きになって逃げの体制に入る横島。
その背中にに向かって火を吐き出すフレイム。
火の直撃を受けて横島の背中に火がついた。
「熱ちちちちちっ! 水! 水はどこだー!!」
「う、うわー!! こっちくるなー!!」
背中に火を背負い走り回る横島。
いきなり火だるまが迫ってきて、必死に逃げ回る少年少女たち。
そして驚きのあまり暴走しだす使い魔たち。
横島が背中の火を消そうと地面を転がりまわる。
暴走した使い魔に体当たりされ地面に倒れる少年少女たち。
パニックに陥る少年少女たちにつられてますます暴走する使い魔たち。
そして使い魔たちに踏みつけられる横島と少年少女たち。
「ぎゃああああー!!!!」
そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
「あ、あら? これは私が悪いのかしら?」
30分後、ぼろぼろになった少年少女たちと使い魔たちが地面にころがっていた。
まさかの展開に冷や汗を流す彼女。
「いきなり何さらすんじゃー!! 死んでまうやろが!!」
「ごめんなさいね。でもあなたも悪いんじゃなくって?」
全身を煤で真っ黒にした横島が立ち上がり、彼女に抗議した。
冷や汗を流しながらも冷静に言い訳をする彼女。
「あたしは小屋に連れ込まれそうになったから使い魔に身を守ってもらっただけだわ」
「う、確かにそうかもしれん」
「まぁあたしもちょっと過剰防衛気味だったし、おあいこってことにしない?」
そういって手を差し出し握手を求めるキュルケ。
強引にナンパしたら火達磨にされた。
全然おあいこになってない。
しかしこの程度のこと日常茶飯事である横島には全然問題ではない。
迷うことなくその手を握り返す横島。
「あたしはキュルケ。フレイムのご主人様よ」
「俺は横島忠夫。ルイズちゃんの使い魔だ」
二人は固い握手と共に自己紹介を済ませた。
「ところでルイズちゃんの部屋知らない? 昨日から探してるんだ」
「あら、ちょうど今から行くところだったのよ。一緒に行きましょ」
キュルケは横島とフレイムについて来るよう言い、ルイズの部屋に向かって歩き出した。
かなりの早足で。
横島もあわてずに同じ速度でついていく。
あらかじめその速度で移動する事を知っていたかのような対応だった。
そして二人とも決して後ろをふりむかずに寮へと進んでいった。
「お、おまえら……おぼえとけよ……」
「キュ、キュルケさん……ひどい……」
彼らの背後ではぼろぼろになって転がっている少年少女たちの恨みのこもった声が響いていた。
フレイムは目を回し倒れ伏す使い魔たちのほうを見て一声鳴いた。
そしてあわててキュルケと横島を追いかけた。