「じゃあ、ルシェラは今から行く学院の卒業生なんだ」
これまでの話を聞いて俺はそう結論付けた。
「はい、そうです。良いところですよ」
ルースは自分の母校が余程好きなのか、そう付け足した。
「もうすぐですね」
馬車乗ってから数時間。
ようやく目的の場所が見えてきた。
「……大きいな」
そうして見えてきた場所は、想像よりずっと大きな建物だった。
ゼロの使い魔と名も知られぬ使い魔
「ん? 何か向こうの方が騒がしいな……」
俺は声が聞こえてくる方を見た。
なにやら、学生らしき人だかりが見える。
如何やら、何らかのイベントでもしているようだ。
「なぁルシェラ。今日は行事か何かをしているのか?」
俺は、ルシェラがこの学院を卒業した、と聞いたので質問してみる。
「……何も無かったはずですよ」
ルシェラは、昔を思い出すように目を閉じてから言った。
「じゃあ、何をしているんだろうな?」
ルシェラも知らないとなると、俺に解るわけが無い。
「見に行っても良いですよ」
俺が考えていると、ルシェラは唐突に言った
「良いのか?」
確かに見には行きたいが、素朴な疑問が一つでてくる。
「良いですよ。今日は挨拶をしに来ただけですから」
その疑問の答えをルシェラはあっさり答えてくれた。
「諸君! 決闘だ」
俺が生徒たちの集まっている場所に着いたときには、場の盛り上がりは最高潮にまで達していた。
何やら決闘をするとか言っている。
「何をしているんだ?」
俺は一人の男子生徒Aを捉まえ訊く。
「ああ、今からギーシュと平民が決闘するらしい」
男子生徒は、嫌な顔一つせずに教えてくれた。
「決闘?」
俺がそう尋ね返すと、男子生徒Aは気を良くしたのか更に言ってくる。
「ああ、決闘だ。僕も含めて皆ギーシュが勝つと思っているよ。まあ、どうせなら平民が勝ったほうが面白いんだけど……」
「ああ、そうか。教えてくれてありがと」
長くなりそうだったので、早めに会話をやめて決闘を見ることにした。
「あ、ちょと話はまだ……」
何か言っているけど無視だ無視。
「とりあえず、逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか」
金髪の男――男子生徒だからたぶんギーシュ――が言った。
それにしてもこの男の外見……阿呆か?
黒いマントの下にフリルのついたシャツを着ている。
そして手には薔薇を持っている。
その金髪とあいまって妙にバカっぽく見えるのは俺だけだろうか?
少なくてもこの世界の住人じゃない俺にはそう思えた。
「誰が逃げるか」
ギーシュがそう言うと、もう一人の少年――つまり平民――が言った
……この少年何処かで見たような気がする。
何処だったかな?
絶対見たことあるんだけど。
「さてと、では始めるか」
ギーシュがそう言う。
すると少年が、「先手必勝」と言わんばかりに走り出した。
如何やら俺が考えている内に、話が進んでいたようだ。
俺は考えるのを一時中断して、この戦いを観戦することにした。
ギーシュはそんな少年を見ても余裕な顔をしている。
と言うか、構えようともしない。
どう言う事だ?
戦う気が無いのか?
それとも別の何かがある?
そう思いながらも見ているとギーシュが薔薇を振った。
花びらが1枚中を舞う。
すると花びらは甲冑うを着た女戦士の様な人形になった。
大きさは人間と同じくらいだが、その身体は金属で出来ているようだ。
その人形が少年の前に立ち塞がった。
「なんだこりゃ!」
少年は俺の気持ちを代弁するように言った。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「て、てめぇ……」
「言い忘れたな。僕の二つ名は青銅だ。青銅のギーシュだ。だからこの青銅のゴーレム「ワルキューレ」がお相手するよ」
如何やらギーシュは魔法で戦うようだ。
魔法か……そう言えば魔法を初めて見たな。
今度ルシェラの魔法も見せてもらおう。
それはそうと、ギーシュは魔法で戦うって言っているけどやばくないか?
相手は平民で、魔法を使えないんだぞ。
俺の予想は的中してしまった。
少年は一方的に殴り蹴りされ、酷い事になっている。
「やるだけ無駄だと思うがね」
ギーシュは薄く笑いながらそう言う。
「全然利いてねえよ。お前の銅像、弱すぎ」
すると少年はそう言い返す。
その瞬間、ギーシュの顔から笑みが消えた。
そして、また一撃が入る。
それは少年の右腕に中った。
グキ、と鈍い音が鳴る。
少年の右手はあらぬ方向を向いていた。
……如何してここまでできるんだ。
俺はそう思った。
いくら決闘だからって、いくら貴族と平民だからって、なんでここまで同じ人間を傷つけられるんだ?
なんで人を骨折させて平気な顔をしていられるんだ?
……そう思うけど、俺は動けない。
正直に言うと怖いからだ。
自分も少年と同じ目に会うかも知れない。
俺は、自分の弱さの所為で止めに入れない事にイラつき拳を硬く握った。
その時だった。
「いやぁ……。もう……やめて……」
隣から搾り出すような泣き声が聞こえたのは。
「え?」
俺は驚いて隣を見る。
そこには、一人の女子生徒が泣いていた。
年は俺と同じぐらいか少し下で、茶色い髪をしている可愛い顔立ちの少女だ。
そんな少女が泣いていた。
……!?
熱くなっていた思考が一瞬で冷えた。
理由はわからない。
でも、この少女の涙を見た瞬間に一つの覚悟だ出来た。
それだけは解った。
「大丈夫」
そして、彼女の頭を慰めるように優しく撫でながら言う。
「え!?」
撫でられた事に驚いたのか、少女がこちらを向いく。
もう大丈夫……かな。
そう思い手を離す。
「……俺が何とかするから」
そして俺は、少女の方を向くことなくそう告げた。
……いてぇ。
そう思った俺は、体の状態を確認する。
殴り蹴りされ、体のいたる所が悲鳴を上げている。
特に右腕はひどい。
右腕はあらぬ方向に曲がっている。
……骨折は確実だな。
俺が体の状態を確認していると「ワルキューレ」が近づいてくる。
いつの間にか、その手に剣を持っていた。
俺に剣が中るぐらいまで近づいてきた。
――ああ……俺は死ぬんだな――
漠然とそう思った。
そして「ワルキューレ」が剣を振り上げて……
そこまで見て俺は目を静かに閉じた。
シンヤは走りだした。
ギーシュが「ワルキューレ」に剣を持たしたから。
如何やら止めを刺しにいくようだ。
まずい! あいつ止めを刺す気だ!
「ワルキューレ」が剣を振り上げたのを見て、俺はそう悟る。
「間に合うか? いや間に合わせてみせる!」
そう言い、俺は自分に出せる全速力で走った。
「ギーシュもうやめて!」
聞いたことがあるような声がギーシュを止めようとする。
しかし剣は少年に向かって振り降ろされる。
間に……合わない?
「くそ!」
走るだけでは到底間に合わない。
だから俺は、買ってもらったばかりの剣を抜いた。
「間に合え!!」
剣は振り下ろされた。
あとがき
今年も今日で終わりですね……。
と言う訳で、5話更新です。(何が?
え〜今回は自分の予想以上に長くなりそうなので一度切りました。
此処で切ったのは、話的に区切りが一番良かったからです。
それはともかく、今日出てきた男子生徒Aと女子生徒はレギュラーキャラにする予定です。
男子生徒Aはオリキャラですけど、女子生徒はちゃんと本編に出ています。
女子生徒が誰だかわかりますか?
レス返しを
>文月様
戦闘シーンについてはこれからも精進します。
やはり心情とかは難しいですね……。
でもできるだけ不自然に成らないように頑張ってみます。
では次回でまた。
今年は残り少ないですが良いお年を……
そして来年も良い年でありますように……