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「これが私の生きる道!新外伝12新世代達の休日編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-12-19 14:29/2006-12-19 15:03)
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(コズミックイラ9○の春、クライン邸内)

「今日は、家族が全員揃っているね。数ヶ月ぶりの事じゃないかな?」

「ええ。サクラもヨシヒサも、軍務が忙しいですからね」

ある春の日の朝、俺達家族は久しぶりに全員が揃って朝食を食べていた。
日頃は、地球軌道上で任務に就いているサクラとヨシヒサが、休暇を貰ってクライン邸で食事を取っていたからだ。

「サクラ、ヨシヒサ。任務の方はどうなんだい?」

同じくテーブルについていたお義父さんが、ヨシヒサ達に軍務の事を尋ねる。

「毎日、訓練ばかりだけどね」

「それと、ナンパもでしょう。また、新入りの整備士の女の子にフラれていた癖に・・・・・・」

「余計な事を話さないでくれよ!姉さん!」

「私は、事実を語っただけよ」

ヨシヒサの報われないナンパライフは、相変わらずのようであった。

「ヨシヒサは、俺よりも容姿が良い癖にモテないよな・・・・・・」

「お父さんと違って、中身がないからよ」

「姉さん、それはないのと違う?」

俺の疑問にサクラがキッパリと即答し、ヨシヒサは微妙に傷付いたようだ。

「お兄ちゃん、モテないの?」

「そうよ。サツキ。ヨシヒサお兄さんは、モテないのよ」

今年で七歳になる次女のサツキの質問に、サクラは丁寧に答える。

「サツキ!お兄さんは、モテモテなんだからな」

「じゃあ、彼女がいるんだ」

「ああ。俺は、寄港先ごとに女がいるのさ!」

「ヨシヒサ・・・・。そんな嘘をついて虚しくないか?」

ヨシヒサの誰でもわかる嘘に俺は呆れてしまう。
まだ子供のサツキですら、胡散臭いと思っているようだ。

「父さん、ここは話に乗っておいてくれよ」

「我が息子ながら情けない!俺がお前の今年の頃には、多くの女性と浮名を流していたぞ!」

「それって、本当の事?」

「ああ。アカデミーに入った頃だったから、十六歳だったな。週末には、ミゲルやハイネと出かけて多くのナンパを成功させたものさ」

「ミゲルとハイネって、アイマン司令やヴェステンフルス司令の事?」

「そうだ。俺達三人は、常に一緒に行動して多くの女性を撃墜したわけだな」

「へえ」

「勿論、一人でも多くの戦果をあげている。アスランやイザーク達と飲みに行った先で、多くの女性を撃墜し、俺は公私共に撃墜王の称号を得るに相応しい活躍をしたわけだな」

ヨシヒサが興味津々に話を聞くので、俺は自慢気に過去の話を始める。

「何で、俺は駄目なんだろう・・・」

「お前には、こう訴えかけるものがないんだな。女性を口説く時は、その時その時を真剣にいかねばならないのだよ。わかったかな?」

「フムフム。なるほど」

「お母さん、お姉さん。お父さんは、何のお話をしているの?」

「サツキ。お食事が終わったのなら、お祖父ちゃんと一緒に遊んでいてくださいね」

「サツキ。バラの手入れを手伝ってくれないかな?(婿殿も迂闊だな・・・。私は、知らないからな・・・)」

「うん。わかった」

「お母さん。私も部屋に戻るから、あとはヨロシクね」

「任せなさい。サクラ」

俺とヨシヒサの危うい会話をこれ以上幼い娘に聞かせないように、ラクスとサクラはサツキを食堂から退室させ、サクラ自身も自分の部屋に戻ってしまう。

「お前は基本的に王子様なんだから、上手くいかないはずはないんだ!気合を入れていけ!」

「わかったよ!父さん!」

「俺の名に恥じない活躍を期待しているぞ!」

「頑張るよ!」

「お話は、そこまでで宜しいですか?」

突然、ラクスの冷たい声が割って入り、俺とヨシヒサは首を声の方向に向ける。

「母さん。いえ。これはですね・・・・・・」

「ラクス。俺は、不甲斐ない息子に渇を入れようと・・・・・・」

「ヨシヒサ。恋愛は一生懸命に真面目にするものです。わかりましたか?」

「はい!」

「では、部屋に戻ってください」

「了解です!」

母親の恐怖から短時間で脱出できたヨシヒサは、一目散に部屋へと駆け出した。

「じゃあ、俺も・・・・・・」

「ヨシヒロ!別に過去の事をどうこう言いません!知っていますから!でも、それを自慢気に話さないでください!子供への教育というものをですね・・・」

「スイマセン!」

「それでなくても、昔からサクラとヨシヒサ時も・・・・・・」

俺が過去に遊んだ事のある女性の大半は、最初はどんな人かも良くわからなかったが、意外と上流階級の女性が多かったらしく、子供達の学校に行くと同じく親になっていて、「お久しぶりです。ご活躍ですね」と話しかけられる事が多かった。
俺は、そんな過去の事をおくびにも出さない女性の逞しさを再認識すると共に、表面上はニコニコ笑っているラクスにも恐怖したものであった。

「とにかく!父親らしい発言と行動をお願いします!」

「了解です!」

俺は四十歳を過ぎて、自分の妻にお説経をされるのであった。


「じゃあ。行ってきます。お父さん」

「えっ!俺と出かけるんじゃないの?」

「ごめんね。お父さん。友達と会う約束があるから」

部屋に戻っていたサクラは、服を着替えて薄化粧をして俺の前に姿を現した。
こういうサクラを見ていると、昔のラクスが思い出されるが、サクラは昔のラクスとためを張る美しさと、ラクスが永遠に求めて手に入れられなかったスタイルの良さを(特に胸が・・・)を誇っていた。

「なっ!友達!?それは男か?女か?」

「男よ。女もいるけど!」

「ガッデム!俺の可愛い娘を狙う不届き者め!」

俺は、可愛い娘に近づく不届き者の抹殺を決意する。

「お父さん。ただの友達なんだけど・・・・・・」

「父さん。俺も一緒なんだぜ」

「ヨシヒサ。その中に彼女はいるのか?」

「いないよ。友達だもの」

「お前は、一人くらいものにする甲斐性を見せろ!」

「何か、対応がサクラと逆じゃない?」

「男はそれで良いんだよ!サクラに近づく男の身元を探って、社会的に抹殺っうべっ!」

俺は急に後頭部に感じた衝撃によって、気を失ってしまう。

「お母さん!」

「お母さん、父さんは大丈夫なの?」

倒れた自分の父親の後ろには、フライパンを持った自分の母親が立っていた。

「これくらいでは、平気です」

「昔は、歴戦の勇士だったのに・・・・・・」

ヨシヒサは、後からの気配に気が付かなかった自分に父親の不甲斐なさにガックリときていた。
「黒い死神」はザフト軍の伝説であり、自分も尊敬していたので、その凋落振りに落胆を隠せなかったのだ。

「軍務を長年離れていますからね。それよりも、時間に遅れますよ」

「そうだったわ!急がないと」

「そうだね」

「サクラ」

「なあに?お母さん?」

「お相手は、婿になってくれる方を望みますわ」

「そういう事は、二十歳を過ぎてからね」

ラクスは自分が嫁に行ってしまったので、(本名はカザマだが、クライン家当主として活動する時のみクラインの苗字を使っていた)サクラが婿を取ってクライン家を継ぐ事を願っていた。

「母さん。俺も頑張るからさ!」

「期待しないで待っています」

「何でこんなに対応が違うんだ?」

一方、カザマの家には、親類縁者が山のようにいたので、ヨシヒサは適当な時期に結婚してくれれば良いと考えていた。

「時間がない!行ってきます!」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

二人は、ラクスの見送りでクライン邸をあとにするのであった。


「というわけで、お父さんが暴走して大変でした」

集合場所に指定されていたアプリリウス市内の某喫茶店内で、サクラは紅茶を飲みながら今朝の出来事を語っていた。

「きっとカザマさんは、娘の事が心配なんだよ」

サクラの向かいに座っている一人の若い男性が、サクラに諭すように言う。
彼の名前はアルベルト・エディンといい、あのグリアノス司令の息子であった。
今年で二十二歳になる彼は、長身・黒髪でモデルのような容姿をしていて、周りからは「絶対に母親似だ」と言われていた。
不幸にして父親の才能を継がなかったらしく、モビルスーツのパイロットにはなれなかったが、艦長としての才能に優れ、若くしてナスカ級高速戦艦「ダーウィン」の艦長を務めていた。

「男の人って理不尽ですよね。自分は若い頃に散々遊んでおきながら、自分の娘には過保護に接するんですから」

「それを言われると厳しいね。昔は、俺も遊んだ口だからね」

アルベルトは、笑いながら若い十代の頃の事を思い出していた。
普通なら、女性の反感を買う返事であったが、彼の容姿と性格の良さがそれをなくさせていた。

「そうですね。めくるめく女性遍歴の数々。昔を思い出すと・・・」

「ヨシヒサ君は、その手の話を聞いた事がないわね・・・」

「ミユキさんと俺の、愛の物語の事ですよ」

「そんな物語は存在しないわ」

「そんな・・・・・・。でも、これから作れば良いわけで!」

「私は、年下はイヤ!」

ミユキにきっぱりと否定されたヨシヒサは、数秒だけ落ち込んでいたがすぐに復活する。

「ヨシヒサ君も(ヴィーナス)のモビルスーツ隊隊長に就任したんだから、もう少し落ち着きなさいよ」

「結婚してから落ち着きます」

あれから二年。
クルーゼの娘であるミユキは、地球軌道上で訓練を続けている「ミネルバ」級戦艦三隻に搭載されているモビルスーツ隊全体を統率する立場になり、ヨシヒサも「ヴィーナス」のモビルスーツ隊を統率する隊長に出世していた。

「クルーゼ隊長。カザマ隊長は、任務の時は真面目ですよ」

ヨシヒサの隣に座っていた銀髪の若者がミユキに反論する。
彼の名前はエリオット・ジュールで、今年で十六歳。
先月、アカデミーのパイロット科を主席で卒業した若手のホープであった。
苗字からわかるように、彼はイザークとフレイの子供である。

「さすがは、我が列機の後輩だな。俺の事を良くわかっている」

エリオットは、ヨシヒサの下に配属されていて、二番機を務める事が多かった。

「エリオットお兄様。お腹が空いた」

「好きな物を頼めば良いじゃないか・・・」

更に、エリオットの隣に座っている金髪の少女が、楽しそうにメニューを眺めていた。
彼女の名前はミリア・エルスマンで、あのディアッカとアヤの娘であった。
今年十五歳で、アカデミーの管制科に所属している彼女は、成績は優秀ながらも少し天然が入っていた。
それでも、十五歳とは思えないスタイルの良さと、(特に胸はサクラをも超えていた)ミスアカデミーに選ばれるほどの可愛さで、圧倒的な男性人気を誇っていた。

「ミリア。いい加減に、エリオットお兄様は止めたら?」

「だって!エリオットお兄様は、お兄様だもの」

サクラの忠告に、ミリアは耳を貸さなかった。
ミリアは小さい頃から天然で、近所に住んでいて真面目で面倒見の良いエリオットを本当の兄のように慕っていたのだ。

「うんとねえ。ビックチョコパフェが食べたい」

「わかったよ。すいません!ウェイトレスさん!」

「エリオットも、大変よね・・・・・・」

「いえ・・・。昔からこうですので・・・」

サクラの慰めに、エリオットは少し顔を赤くしながら答える。

「あと、来ていないのはルシルとレミくらいかな?」

「遅れてすまん!今、そこでレミと会ってな」

「遅刻はしていないわよ」

続けて、金髪の男と黒のロングヘアーの女性が入ってくる。
金髪の方はルシル・アイマンといって今年で二十一歳。
あのミゲルの息子で、ヤキン・ドゥーエ要塞でモビルスーツ隊の隊長をしていた。
そして、もう一人はレミ・デュランダルで二十歳。
あのデュランダル議長の末娘で、彼女は軍人ではなくて遺伝子関係の研究を行う研究員であった。

「まあ。昨日の今日で、急に全員は集まりませんよね」

「ヨシヒサ!もっと早く連絡を寄越せよ!」

今日の集まりの幹事格であるヨシヒサに、ルシルが文句をつける。

「だって。アーサー司令が、急にお休みだって言うから・・・・・・」

特殊対応部隊の司令は、中央に上がったシンに代わって、各部隊の万年補佐役を初めて返上したアーサー司令に代わっていた。

「(ミネルバ)級もボロだからな。あっちこっちガタも来ているんだろう?そろそろ、解体の噂もあるし」

「やっぱりそうなんですか?アルベルトさん」

「艦長仲間では有名な噂だ。でも、カザマさんもアイマン司令もヴェステンフルス司令もアスカ司令も悲しむだろうな」

「そうですね。うちの父上やエルスマン小父さんも悲しむでしょうね」

エリオットも、アルベルトの意見に同意する。

「でもさ。仕方がないでしょう。(形あるものはいつかは壊れる)んだよ。辛気臭い話は止めて、俺が連続ナンパに成功した話を」

「よくそんな嘘がつけるわね・・・・・・」

「じゃあ、ミユキさんと俺の愛の軌跡を」

「そんなものは、始めからないでしょうが・・・」

それから八人の男女は、取り留めのない話を続けるのであった。


「うううっ!俺の可愛いサクラを狙うのはゴリラの息子かぁーーー!」

集合場所である喫茶店を突き止め、端の席でアイスコーヒーを飲みながら、俺はコーディネーターとしての能力を最大限に生かして八人の会話に耳を傾けていた。

「誰がゴリラだぁ!」

「痛っ!いきなり何を!ってグリアノス司令ですか?」

突然、拳骨が頭上に落ちたのでその犯人を確認すると、そこには私服姿のグリアノス司令が立っていた。
彼は、いまだに現役パイロットを続けつつも、「ゴンドワナ」を含む本国艦隊の司令の職に就いていた。

「グリアノス司令、暇なんですね」

「あのな。俺は今日は休日で買い物をしていたんだよ。ところが、偶然に息子達を見つけ、更にそれを尾行している怪しい男がいたと思ったら・・・・・・」

「カザマ君だったという事だ」

「クルーゼ司令!」

「クルーゼか!」

更に、同じく私服姿のクルーゼ司令が声をかけてくる。
彼は権限は持っていたが、通常は部隊を指揮せずに新型・改良型モビルスーツの評価を行うジローの部隊の顧問のような役職に就いていて、毎日楽しそうにモビルスーツに乗っていた。
二人とも五十歳近いはずなのに、信じられない頑丈さであった。

「三人とも五月蝿いですよ。見つかったらどうするんです」

「・・・・・・」

「うっ!ディアッカと・・・イザークぅ?」

そして、最後にいつの間にか隣のテーブルにディアッカとイザークが座ってコーヒーを飲んでいた。

「国防委員長閣下とザフト軍最高司令官が、コンビで何をしているんだ?」

「俺は久しぶりに飯でも食いに行こうと、ディアッカに誘われただけです。そうしたら、なぜかこういう状況で・・・・・・」

「ミリアに手を出す不届き者の始末です。ミリアは可愛いから、心配で心配で・・・・・・」

「わかるわかる。俺もサクラが心配で」

「何を言っているんですか!俺が一番心配しているのは、ヨシヒサなんですけどね」

同じ可愛い娘を持つ父親同士であったが、俺達の対立は宿命付けられていたようだ。

「まさか。ヨシヒサにとって、ミリアは妹のようなもので・・・・・・」


「ミリア、また一段と可愛くなったね。俺の彼女にならない?」

「私がヨシヒサさんの?」

「これから僕達の愛の軌跡が始まるんだよ!」

「よくわからない」


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・(あの節操なしが!)」

「だから、心配なんですけど・・・」

「やれやれ。私の娘を口説いたと思ったら、次はディアッカの娘か。節操のない男だな」

「クソっ!否定できない!でも、俺には可愛いサクラがいるさ!」


「アルベルトさんには、今彼女がいますか?」

「いないけど、好きな人はいるよ。でも、なかなか気が付いてもらえなくて」

「そうなんですか・・・・・・」

アルベルトの視線の先にはミユキがいたので、サクラはガックリと肩を落としていた。


「サクラぁーーー!その美形は止めておきなさい!」

「五月蝿いな。カザマは・・・・・・。しかし、我が息子ながら勿体ない男だな。俺ならクルーゼの娘など選ばん」

「その仮定は成立しない。なぜなら、君がその顔で女性を選択できるわけがないからだ」

「何だと!お前だって仮面男の癖に!」

「私は仮面の下は美男子だからな」

「自分で美男子って言うか?」

「二人とも静かにしてくださいよ・・・・・・」

ディアッカに無理矢理つき合わされているイザークが、誰に言われるでなく自然に仲裁役に入る。
昔の彼では考えられなかった事だ。

「そして、我が娘は・・・・・・」

クルーゼ司令がミユキの視線をたぐると、そこにはルシルの姿が確認できた。

「はあ?サクラはアルベルトが好き。アルベルトはミユキが好き。ミユキはルシルが好きっ事か?」

「そして、ルシルはレミが好きで、うちのミリアは・・・・・・。エリオットか?でも、エリオットは・・・・・・」

若い上に単純な連中で、誰が誰を好きなのかがわかり易かった。
ミゲルの息子のルシルは、レミとの会話を増やそうとしていたし、ディアッカの指摘通りに、ミリアはエリオットに子犬のようにじゃれ付き、彼に兄以上の感覚を抱いている事が確実であった。
あの幼い態度は、少しでもエリオットに構って貰いたいのであろう。
だが、肝心のエリオットは、サクラと会話をするたびに顔を赤くしているので、イザークの息子の本命はうちの娘であるようだ。

「ゴリラの息子のみならず!イザークの息子もかぁーーー!」

「誰がゴリラだ!」

「うちにはあと二人息子がいます。婿に出すのはオーケーですよ」

イザークは、自分の息子がクライン家に入る可能性を知って、笑顔で婿入りに賛同の意見を述べる。

「それはラクスの意見だぁーーー!俺は不許可だぁーーー!」

「ヨシさん。声が大きいですよ・・・・・・」

声が大き過ぎた俺は、ディアッカに窘められてしまう。

「ミリアはエリオットの事が好きなんだから、二人が結婚すればいいんだ!」

「ちょっと!待ってくださいよ!ミリアが結婚なんてまだ早いですよ!」

「ヨシさん。ディアッカ。大声で喧嘩しないでくださいよ・・・・・・」

あくまでも隠密行動で八人を尾行し、盗み聞きしているのでイザークに窘められてしまう。
そうでなくても、中年男性五人が喫茶店にいるので目立つ事このうえなかった。
ウェイトレスも、俺達を不思議そうな目で見つめている。

「それで、デュランダル議長の娘は・・・・・・」

「どうやら、アルベルト君に気があるらしいな」

「「「「デュランダル議長!」」」」

「ギルバートか!」

今度は俺達の前に、長期政権の最高記録を更新しつつあるデュランダル議長が姿を現す。
別にこれといって何の特徴もない普通の喫茶店に、護衛もなしに最高評議会議長と国防委員長とザフト軍最高司令官とザフト軍司令官が二人もいるのだ。
他の客達は、「何事なんだろう?」というような表情で俺達を見ていた。


「何かさ。うるさくない?」

ヨシヒサの一言で、若者達が周囲を見渡し始めたので、俺達はテーブルの下に急いで身を隠す。

「特に知り合いはいないわね・・・」

ミユキの一言で若者達は探索を止め、そろそろお昼の時間になったので、席を立つようだ。

「えーと。お昼を食べてから、ヨップさんの乗馬クラブで遊ぶんだっけ?」

あのエミリアの戦役の後、特殊部隊を率いていたヨップ・フォン・アラファスは、潜入先で知り合ったロシア人の少女と結婚し、アプリリウス市郊外で乗馬クラブを経営していた。
潜入時に負傷して、後遺症が残って軍務を続けられなかったので、デュランダル議長の口利きで資金を借りて第二人生をスタートしていたのだ。

「ヨシヒサ君。あなたの立案した計画なのよ・・・」

ヨシヒサのあまりの適当さ加減に、ミユキは完全に呆れてしまう。

「そういえばそうでした。ロシア出身なのに、太らずに大人の魅力を醸し出しつつあるエカテリーナさんと、美少女である一人娘のタチアナちゃんのどちらにしようかと・・・・・・」

「我が弟ながら重症ね・・・・・・」

「十代の男なんてこんなものさ。口に出すか出さないかの差はあるけど」

「だよな」

アルベルトとルシルが賛同の意見を述べるが、彼らも少し呆れているようだ。

「とにかく。早く行きましょう。お昼はどこで食べるの?」

「例の雑誌に載っていた、イタリアンのお店で良いんじゃないの?」

「ヨシヒサ君。ああいう提灯記事は鵜呑みにしては駄目よ」

「ミユキさん。俺の事を心配して・・・」

「あのねぇ。私も不味かったら嫌だからよ」

「その微妙な部分に俺への愛が」

「ないわよ」

八人の若者達は、とりとめのない話をしながら喫茶店を出てしまった。


「よし!追跡を!」

「カザマ君。それは不可能だろう」

「どうしてですか?」

「周りを見渡してみたまえ」

デュランダル議長の言う通りに周りを見渡すと、ヨシヒサ達に見つからないようにテーブルの下で手に持ったコーヒーを啜っている俺達を、変な人扱いで多くの人達が見つめていた。
彼らにしてみたら、今日のプラントを支えている最高幹部達の奇行が心配なのであろう。

「じゃあ。俺だけで行きますよ。俺はただの中小企業の社長に過ぎませんから」

「君はプラントでは有名人だ。何しろ、あのラクス・クラインの婿だからな」

「そういえばそうだった・・・・・・」

「それに、大きな心配もないだろう。相思相愛のカップルが一つもないのだから」

「確かに、いい年をした男女八人が、休日にグループで仲良く遊んでいますからね・・・」

クルーゼ司令の指摘に、俺を含む全員が首を縦にふった。

「では、私はこれで失礼する。レイが戻ってきているんだ」

そう言いながら、デュランダル議長は先に席を立つ。

「へえ。ツアーはお休みですか」

「そろそろ身を固めるように、説教をしないといけないのだ」

「でも、ミーアちゃんがいるではないですか」

「あくまでも仕事上のパートナーだそうだ」

「ミーアちゃんって、子供が二人もいますよね?」

「だから、(籍くらいは入れろ!)とタリアとこれから説教をする予定なのだよ」

「ははは・・・。了解です・・・」

確かに、プラント最高評議会議長としては世間体等があるので、色々と大変なのであろう。

「まあ。孫に会えるのは悪くない話だがね」

デュランダル議長は、既に六人の孫を持つお祖父さんでもあった。

「では。私はこれで」

「ディアッカ!」

「パパ!」

「イザーク!」

「お父様」

デュランダル議長とすれ違い様に、今度はアヤとフレイが娘を連れて入ってい来る。

「イザーク。何をやっているのよ・・・」

「ディアッカが、ミリアの件で暴走してな。ついでにヨシさんもだけど・・・」

「みたいね・・・。でも、たまのお休みなんだからオトハを遊びに連れて行ってくださいな」

「すまないな・・・。ディアッカと昼食を取ったらそうするつもりだったのだが・・・」

フレイの隣には、見た目が十歳前後の赤い髪の少女が立っていた。
名前はオトハ・ジュールで、若い頃のフレイそっくりの美少女であった。
ちなみに、名前が和風なのはイザークの趣味によるものである。

「お父様。私、お洋服が欲しいです」

「そうか。そうか。じゃあ、お昼を食べてから買い物に出かけような」

「はい!」

イザークは、娘のお願いに笑顔で答える。
彼は唯一の娘に非常に甘い部分があり、娘だけには日頃からは想像もできない笑顔を見せるのであった。
ちなみに、ディアッカは、「あの笑顔は微妙に気持ち悪いです」と俺に漏らしていた。

「ディアッカ。またミリアの尾行?いい加減にしないと嫌われちゃうわよ」

今度は、フレイと一緒に店内に入ってきたアヤにディアッカが窘められていた。

「大丈夫だ。ミリアにはバレては・・・」

「いるよ。パパ。お姉ちゃんが(休日に出かけると、パパが良く付いてくるの)って言ってた」

アヤと一緒に付いてきた金髪の少女がアヤの代わりに答える。
彼女のはディアッカの次女で、名前をエレナといい、年はオトハの一つ下であった。

「なぜだ!ミリアは可愛いが、少し鈍い部分があって・・・・・・」

「ディアッカ。ミリアは私の娘なのよ。当然、私の能力を継いでいる可能性があるから」

「空間認識能力か!」

ミリアは、母親の空間認識能力を継いでいた。
だが、その生来からの運動能力の低さによってモビルスーツのパイロットとしての適正はほぼゼロであった。
だが、味方の管制にその能力を生かせれば、優秀な管制官になれるであろうとのアヤの意見であった。
ちなみに、エレナは運動神経は抜群であったが、空間認識能力を継ぐ事はなく、ごく普通の少女であった。

「パパ。私、お腹が空いたよ」

「そうねえ。私もお腹が空いたわ」

「じゃあ、三人で昼食にでも行くとするか?」

「アヤ、私達と行きましょうよ」

「そうね。一緒に行きましょう」

アヤがフレイの誘いに賛成する。
二人は夫同士が友人のうえ、同じくプラントの外から嫁に来ていたので仲が良く、友人同士であったからだ。

「じゃあ、俺はこれで」

「俺も」

「カザマさん。あまり娘さんに付き纏わない方が・・・・・・」

「カザマさん。サクラも、もう十八歳になった事ですし・・・」

イザークとディアッカが家族と共に喫茶店を出て行くが、その間際にフレイとアヤに軽く忠告されてしまう。

「人生八十年!十八歳などまだ子供さ!」

「何を一人で言っているのかね?私は、用事があるから失礼させて貰うよ」

「へっ?追跡は続行しないので?」

「私は、別にミユキの男関係の事などさほど心配していない。それよりも、早く嫁に行かないと、うちのミサオのような羽目にうべしぃ!」

突然、クルーゼ司令が床に倒れ、後からミサオさんが姿を現した。

「たまに二人で買い物に出かけたと思ったら、試着途中で姿を消して!しかも、私が何だって?」

「ミサオさん。旦那さん、気絶してますよ・・・・・・」

「あら。カザマ君じゃないの。また娘さんの尾行?」

「またって言うほど頻繁にしてませんけど・・・・・・」

「それで、うちのラウが嘴を突っ込んだのね。うちのミユキは美人だから大丈夫!さあ、行くわよ。ラウ!早く買い物を終わらせないと、いつもの仮面屋に行く時間が遅れるわよ!」

「仮面屋って・・・?」

ミサオさんは、俺の疑問に答えてくれないまま、クルーゼ司令を引っ張って店外に出てしまう。

「じゃあ、俺も休みを満喫するとしようかな?」

「バナナかセロリでも買いに行くんですか?」

「俺はゴリラか!」

「痛ぇ!」

グリアノス司令は、俺に拳骨を落としてから店を出てしまう。

「さて、俺も帰るとしようかな?」

ところが、俺の座っていたテーブルには、全員分の伝票が綺麗に纏められて置いてあった。

「コーヒー×5、アイスコーヒー×1、サンドイッチ×3、フライドポテト×3、チョコレートパフェ×2、バナナサンデー×1で、しめて92アースダラーか・・・・・・。いつのまに・・・・・・」

彼らは俺がサクラ達に熱中している間に、好きな物を注文して食べまくっていたようであった。


「というわけでね。何ともチグハグな事をしている連中なんだよ」

時間が余った俺は、従兄弟の義成兄さん家にお邪魔して、同じく暇を持て余していた義則と共に昼食を作ってから通信対戦ゲームで遊んでいた。

「いつの世も恋愛事に変化はなしか・・・」

三人が手作りの焼きそばを食べていると、義則が急にこんな事を言い始める。

「どういう事?」

「先月の日本出張時に、兄貴がこれを秋葉原で見つけてね」

義則が、古い復刻版のコミック本のセットを俺に差し出した。

「○クール○ンブル?知らないな・・・」

「義弘は作品にロボットが出てくるか、旧○ャンプ系の漫画にしか興味がないからな・・・・・・」

「それで、どういう作品なの?」

「サクラ達の状況が、高校のクラス内で起こっている作品だ」

「ふーーーん」

俺が漫画をペラペラと斜め読みしてみると、確かに状況が似ていなくもなかった。

「それで、この主人公らしき不良が、ヨシヒサって事?」

「そう思わないか?」

「思わないな」

「どうして?」

「だって、あのグループ内に、ヨシヒサの事が好きな子が一人もいないから」

友人ではあるのだろうが、あの中にヨシヒサに好意を抱いている女性の存在を全く確認できなかったからだ。

「「確かに・・・・・・」」

「何であいつはあんなにモテないのかね?俺の息子なのに・・・」

「軽いからだろう」

「だろうな」

親戚として、幼い頃からヨシヒサの事を良く知っている二人は即答をする。

「誰に似たのやら・・・・・・?」

「「義弘だろう」」

俺の軽い疑問に、二人はズバっと的確な返事をする。

「俺か?」

「だってさ。お前を変えたのは、幼少の頃の経験と二度の戦争だと思うんだよ。それがなければ・・・・・・」

「俺も、ああだったと?」

「そうだな」

義成兄さんの即答を聞いた俺は、その条件で自分の人生を仮定してみる。


「(レイナとカナの友達の子は可愛いよね。俺に紹介してよ)」

「(○○さん!俺と愛の物語を育みましょう!)」

「(という事は、俺に気があると?)」

「(○○さん!愛しています!)」


「・・・・・・・・・・・・。ありえなくない?」

「そうかな?」

「あくまでも、仮定の話だからな」

「とにかく!そんな下らない想像は止めてゲームを楽しもうぜ!」

焼きそばを食べ終わった三人は、「第十二次世界大戦DXネオジェネシス」のスタート画面を立ち上げる。
「四十歳にもなってゲームかよ!」とか言われてしまいそうだが、このゲームはザフト軍のシミュレーションと遜色のないできだったので、多くの人がプレイする大ヒット商品であった。
このソフトは、先週発売になったばかりで、各国の様々なモビルスーツや装備・設定を選択して自分好みのモビルスーツを作れ、世界中の人と対戦できる点にあった。

「俺は(R−ジン群β)で、宇宙用の高機動パックを装備。ビームマシンガン装備。ビームサーベル×二と十二メートル対艦刀を背中に装備して・・・・・・」

「義弘。随分と古い機体を使うんだな・・・・・・」

「(R−ジン群β)は(R−ジン掘砲虜能改良バージョンで、(R−シグー)とパイロットの腕によっては、ちゃんと互角に戦えるんだよ。過去にミゲルやハイネも使っていた名機だ」

「ふーん。それで、色は黒に赤い左肩と昔のままだな」

「俺の跡を継ぐパイロットが、いまだに現れないからな」

ザフト軍では、俺のパーソナルカラーを継ぐパイロットがいまだに現れていなかった。
申請を出す者は、毎年沢山いるらしいのだが、審査するミゲル・ハイネ・クルーゼ司令・グリアノス司令や多くの歴戦のエース達の審査の目は厳しいらしく、俺が退役して十年以上経つのに、黒とレッドショルダーは半ば永久欠番に近い状態になっているらしい。

「ヨシヒサは?」

「まだまだ、俺から見れば未熟者さ」

「俺達の若い頃にも、こんな昔自慢のオッサンがいてムカついたよな」

「言えてる・・・・・・」

「君達。それは酷くない?」

「義弘もオッサンになったという事だよ。じゃあ、俺からいくとするか。おっ!297連勝の猛者がいる。使用機種は・・・。(R−ジン群β)でパーソナルカラーは紫色か。義弘と似たような設定だな」

「バトルネームは(サツキ)か・・・。日本人なのかな?」

「噂には聞いていたが・・・。週末のみに現れる謎の凄腕プレイヤーか・・・。とにかく、俺の(R−シグー)で瞬時に撃破だ!」

どこかで聞き覚えのある名前であったが、それを考える時間もないままに義則の「R−シグー」は数分であっけなく撃破されてしまった。

「何だ!口ほどにもないぞ!義則」

「マジで強いんだけど・・・・・・」

「お前も、結構勝率は良かったよな」

「総合ランキング3000位以内の俺が子供扱いか・・・・・・」

全世界で一億人を超える人間がプレイしているゲームで、3000位以内という優秀なスコアを持つ義則にしてみれば大きなショックだったのであろう。
現に、現役のパイロットでもこのゲームの愛好者は多数いて、義則よりも順位が低い者は多くいたからだ。
最も、ゲームと実機の操縦は別物であり、ゲームをやり込んでいる義則に負けたからといって、パイロット失格という事もなかったのだが・・・。

「次は俺だ!総合順位1000位以内の実力を見せてやる!」

続いて「R−シグー」を選択した義成兄さんが、例の「サツキ」と勝負を開始する。
ゲームオタクである義則兄さんは、義則よりもこのゲームをやり込んでいるので、更に順位が上だった。

「義則よりは優勢か・・・・・・」

「でも、奴は別格だ・・・・・・」

義成兄さんは、ゲームオタクとしての意地を見せて、義則より1分ほど長く持ったが、俺の予想通りに撃破されてしまった。

「強いな」

「対戦ログを見てみよう!」

義成兄さんが、ゲーム機の端末を操作して「サツキ」の対戦ログを閲覧すると、驚くようなデータが出てきた。

「785勝2引き分け(時間切れ)か。まだ負けた事がないんだな・・・。知らなかった」

「2引き分け後は、ご覧の通りの快進撃ってわけだな」

「ちなみに、引き分けのバトルネームは(ヤマト)と(ザラ)になっているけど・・・・・・」

俺達は瞬時に二人の凄腕パイロットを思い出したが、まさか本人ではないだろうと思っていた。

「それと、わずか15秒で撃破された最低記録保持者が(アスハ)になっている・・・・・・」

「まさかね」

もし本人達だとしたら、よそから凄腕のゲーマーの噂を聞いて興味本位で対戦し、キラとアスランは引き分けに終わり、最後に対戦したカガリは瞬時に撃破され、激怒してゲーム機をぶっ壊して終了というところであろうか。

「その他にも、(バリー)(マック)(レナ)(ジュール)(エルスマン)(ラウ)(アスカ)(レイ)(ルナ)(アイバ)(イシハラ)(ニコル)(ラスティー)(シホ)(マリア)(ハイネ)(ミゲル)(ジロー)(エディン)と聞いた事があるというか、デジャブというか・・・・・・、みんな、結構暇なんだな・・・・・・」

本人でないかもしれなかったが、何となく本人のような感じがしたので、俺は少し呆れ返ってしまう。

「でもさ。トップ10に入っている数人を撃破してこの勝率だぜ。やっぱり、(サツキ)は凄腕なんだよ」

俺達が話をしている間にも、「サツキ」は多くの敵機を撃破していたが、なぜか勝利数のカウントが増えていなかった。

「連勝記録を成績下位者で稼ごうとする卑怯者対策だ。ある程度順位の近い者とやって勝たないと勝利数がカウントされないんだ。ちなにみ、負け数は誰とやってもカウントされる」

「そうかそうか。このシリーズ初参戦の俺が初の敗北を味あわせてあげよう!(R−ジン群β)同士だ。黒い死神の脅威を肌で感じるんだな!」

俺はディスプレイ上で、「サツキ」に宣戦布告をする。

「こんにちは。変わったカラーリングのモビルスーツだね。そのカラーリングの意味がわかっているんですか?」

「俺は、それに近いか互角の実力を有している」

「私は(黒い死神)事はよく知っているよ。だから、本物に代わって倒してあげるね」

挨拶を終えた俺達は、お互いの機体を操作して勝負を開始する。

「所詮は、ゲームの実力者だ!俺が倒してやるぜ!」

ところが、俺のその余裕は一分と続かなかった・・・。


「何で当たらないんだよ!」

敵の紫色の(R−ジン群β)の強さは脅威的であった。
俺は向こうの移動方向を瞬時に計算してビームマシンガンを撃っているのだが、向こうはそれをギリギリで回避してしまうのだ。
更に、こちらが接近すると距離を置くので、なかなか格闘戦に移行する事ができないでいた。

「何だ?こんな凄腕の奴と義成兄さん達は戦っていたのか」

俺は、つい一人事を漏らしてしまう。
少しでも目を逸らすと瞬時に撃破されてしまうので、二人に話しかける余裕がなかったからだ。

「意外と強いな〜。(黒い死神)を語るだけはあるのかな?」

「義弘。(サツキ)は女の子らしいぞ。しかも、意外と若い」

「だが、ネカマである可能性も否定できない」

「義成兄さん!義則!話しかけるな!気が散る!」

向こうの射撃は俺と似たような技術を使っていて、こちらの動きを予想して撃ってくるので、正直ヒヤヒヤとさせられっ放しだった。

「ちっ!弾切れか!」

俺が予備のマガジンに交換しようとすると、向こうはビームマシンガンを捨ててビームサーベルで斬りかかってきた。

「その思い切りの良さは賞賛ものだが、こちらの思うツボだ!格闘戦は大歓迎さ!」

俺は瞬時にビームマシンガンを捨て、背中に装着した対艦刀を抜いて紫色の(R−ジン群β)と斬り結び始める。

「あれ?何でこんなに腕が良いんだ?」

俺は、相手の格闘戦の腕に驚きを隠せないでいた。
このゲームは軍で使っているシミュレーションに近い出来という特徴があったので、かなり細かい操作や動きまで再現できた。
なので、格闘戦が上手な者は上位に行きやすいのだが、プロのパイロットでもない者が格闘戦を行う機会も少ないので、相当にやり込んだゲーマーか、本職のパイロットでゲームが得意な者か、本当に才能がある者しか上位に行けなかったからだ。

「こいつ!意外とやる!というか!このゲームでは・・・・・・」

俺は懸命の操作して敵の攻撃をかわしていたが、遂に対艦刀を弾き飛ばされてしまった。

「バカな!」

そして、続いて来る突撃を足一本を前に出して犠牲にして、回避する事に成功していた。
腕を失うと格闘戦で不利になると、咄嗟に判断したからである。

「さすがは、歴戦の勇士!」

「008○の○ウ・○ラキみたいだ!」

「二人とも、気が散る!」

ビームサーベルを抜いた俺は敵と斬り結び始めたが、やはり少しだけ向こうの方が腕が上のようで、次第に追い込まれていってしまう。

「どうした?(黒い死神)なんだろう?」

「俺達の分まで頑張ってくれよ!」

「相手が凄腕なのと、俺のブランクが決定的なせいで勝ち目がない!」

義則達に気を向けた僅かな隙に、ビームサーベルごと腕を斬り落とされ、続けてくる突きをもう一本の足を犠牲にして防ぎ、その隙に残り一本のビームサーベルを構える事に成功したが、俺に出来る事は、臨終の時を伸ばす事だけであった。

「このまま負けられるか!(黒い死神)の意地を見よ!」

俺は全ての推力を全開にして、敵の(R−ジン群β)に向かって突撃を開始する。
片腕一本で敵に攻撃を仕掛けるのは、あのササキ大尉との一戦以来であった。

「勝ち負けは関係ない!一矢報いてやる!」

敵は俺の攻撃に少し動揺しているようであったが、すぐにビームサーベルを構える。

「このままコッピットを串刺しか!だがな!」

俺は、その昔にアスランとシミュレーションで戦った時と同じ手を使って、敵のビームサーベルを急所から少し外れた部分に刺させる事に成功し、瞬時に残った一本の腕に装備したビームサーベルを首の付け根に刺し込む事に成功していた。

「純粋な腕では勝てなかったが、実戦経験者の泥臭い手段の勝利だな」

結果は、両機爆散で引き分けに終わり、「サツキ」の連勝記録は299勝で止まってまった。

「まさか、そんな手でくるなんて・・・」

「引き分けだから、良いじゃないか」

「今度また勝負してね」

「そうだな。またの機会にな」

俺は、「サツキ」と対戦後の挨拶を交わしてからゲームの画面を切った。

「義弘で何とか引き分けか。誰なんだろうな?」

「サツキか・・・。義弘が家に帰れば・・・・・・」

「まさか!同名の別人に決まっている。サツキは、まだ七歳なんだぞ」

「でも、実際にモビルスーツに乗るわけでもない。更に、お前の血を引いている・・・」

「サツキが、ゲームなんてしたっけな?お義父さんと花の手入れなら良くしているけど・・・」

俺のサツキのイメージは、花が好きでお祖父さんの庭の手入れを良く手伝い、少しマイペースでノンビリしているイメージしか持っていなかった。

「でも、ゲーム機はあるんだろう?」

「あるよ。碌にやりもしない癖に、ヨシヒサが買ったんだ」

「じゃあ、可能性が・・・・・・」

「ないない。絶対にない」

その後、俺達はオタク同士の情報交換を終えてから、それぞれの帰路につくのであった。


「ただいま」

「おかえりなさい」

俺がクライン邸に着くと、夕食の準備をしていたラクスが出迎えてくれた。
彼女は週末や特別なお客さんが来た時には、かならず食事の準備をしていたのだ。

「サツキは?」

「最近、ゲームがお気に入りで、ヨシヒサの部屋でゲームをしていますわ」

「まさか・・・。ゲームって・・・」

「モビルスーツが戦っているようなゲームです」

ラクスはゲームなどしないので、その内容に詳しくはなかったが、簡単な説明で俺はすぐに事情を察してヨシヒサの部屋に走り出した。

「ええい!ヨシヒサの部屋のお宝チェックは省略だ!サツキ!」

俺がヨシヒサの部屋に入ると、サツキはちょこんと座りながらゲームをしていた。

「サツキ。何のゲームをしているんだい?」

「うんとねえ。第十二次世界大戦DXネオジェネシスって奴」

「随分と勇ましいゲームをやるんだね」

「お父さんの昔と同じだぁ」

「ははは。そうだね」

「でも、私って結構上手なんだよ」

俺がサツキのデータを見ると、826勝3引き分けというデータが表示されていた。

「(まさか、七歳の娘に引き分けたなんて・・・)へえ、強いんだね。サツキは」

「本当は二回目の300連勝がかかっていたんだけど、お父さんと同じカラーリングのモビルスーツと引き分けちゃった。引き分けでも連勝記録って止まるんだよね」

「残念だったね(これは、俺の血の成せる技?それとも、俺が弱くなったのか?)」

「でも、また勝ち続けるから良いよ。(ラウ)またやるの?これで、私の18連勝だよ」

「まだだ!エースとして、次こそは・・・」

「俺に代われ!次は俺が勝利を掴むんだ!」

「(エディン)は19連敗だよね」

「次は負けん!」

「次は大穴の私が・・・」

「えーーー!(ギル)は弱いから、勝ち数が付かないじゃない」

「そうだな。総合順位五十万位にも入っていない(ギル)ではな・・・・・・」

「私は、本職ではないからだ!」

サツキは、どこかで聞いた事のあるような連中と画面上で文字の会話を続けながら、次々と相手を撃破し続けていた。
もし、私の予想が正しいのなら、このゲームではハイドラグーンの操作が完全にオートになっているので、「ラウ」には厳しい条件になっているのであろう。
勿論、あくまでも俺の想像の域を出なかったが・・・・・・。

「これで、(ラウ)の20連敗だ」

「うぬぬぅ!次こそは!」

「元ザフト軍最強のエース(エルスマン)参上!」

「今度負けたら30連敗だよ」

「それを言わないでくれ・・・」

「ははは。(エルスマン)は弱いからな」

「(ジュール)は32連敗」

「今度こそぉ!」

「(プラントの将来が心配になってきたよ・・・・・・。あくまでも、同姓同名の別人の可能性も否定できないけど・・・・・・)」

十年後、サツキがザフト軍のパイロットになり、俺のカラーリングを継ぐ事になるのは、また別のお話である。


「ヨシヒサお兄ちゃん。弱い」

「何てこったぁーーー!」

ちなみに、ヨシヒサが買ったばかりのゲームをしなくなったのは、サツキにあっさりと負けてしまったからであった。


           あとがき

最近、忙しいのである程度完成させていた話を仕上げて出しています。
次は、ステルヴィアの方を仕上げる予定です。

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