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「機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF STORY (3) (SEED)」

ダヌ (2006-10-18 00:08/2006-10-18 22:08)
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「大人たちの都合で始めた戦争に、若者を送って死なせ、そこで誤ったのを罪と言って、今また彼らを討ってしまって、誰が明日のプラントを担うのですか?」

かつて私は法廷でこう言った。
象徴であったパトリック・ザラが倒れたとはいえ、当時なおザラ派の力は強かった。
その力を削ぐことを目的として、その罪を許された少年。
もちろん本人にそれを伝えるわけにもいかず、あの茶番のような私の演説となった。
だが、あの時の私の想いは確かに本物だった。
悩み、苦しみ、世界の矛盾を直に感じた彼のような若者たち。
彼らにこそ平和な世界の担い手となってほしい。
そう願い、願わずにいられない自分に嫌悪を覚えもしたのだが。

そして今、私は一人の若者に大きな負担をかけている。
その青年の名はアスラン・ザラ。
元評議員議長パトリック・ザラの息子であり、ザフト伝説のエース。
彼は自身の希望で評議会議員選挙に出馬し、圧倒的な得票率で当選した。
時代が英雄を欲したのだろう。
もちろん陰では相当な非難や陰口を叩かれていたようだ。
曰く、『戦犯の息子』、『真の姿は軍国主義者』、ひどいものでは『裏切り者』という言葉もあった。
ただ、彼はそれらの非難に一切反論することはなかった。
その言葉が真実の一面を捉えていると考えていたのだろうか?
だが、心の傷をえぐり続けられるというのはどれほどの苦痛なのだろうか?
その傷から目を背けることなく、苦しみながらも、自分のできることを行うという彼の姿は痛ましく、そしてそれ以上にその姿は人を惹きつけるものだった。

当時の私は穏健派と強硬派の狭間となる中道派を率いていた。
地球との融和政策をとりながら、プラントを守るための軍備増強も厭わない、それが私の方針だった。
穏健派、強硬派とのバランスを取らなければならない、不安定な地盤に立つ評議会議長。
そんな私に力を貸してくれたのが彼だった。
二十歳も越えぬ青年が、旧ザラ派の穏健派をまとめ、中道派につく。
それがどれほどの苦難だったか、想像に難くない。

親子とも兄弟ともいえないような微妙な歳の差にも関らず、私と彼は意気投合した。
人は私たちの関係を教師と生徒のようだと揶揄したが、実際はそうでもない。
確かに彼に教えを与え、導いてきたつもりではあるが、私の方も彼から学ぶことは多かった。

彼はきっと迷い苦しむ者なのだろう。
その名の持つ意味と現実の自分に迷い、目指したはずの未来と現実に苦しむ。
それでも彼は足掻き続ける。
だが、その姿がどうしようもなく人を惹きつける。

ラクス・クラインやキラ・ヤマトは天高く空を舞う鳥のような存在なのかもしれない。
しかし彼には翼などない。たくさんの荷物を背負い、時に道を迷いながら山を登るちっぽけな人だ。
だが、その山頂は鳥すら飛ぶことのできないほどの高みにある。
そう信じてしまうものが彼にはある。

私は彼と出会い、もう一度、人の可能性を信じることができるようになった。
彼のような若者たちが平和な世界に暮らせるよう私は尽力しよう。
そう。運命など打ち破る何かが人にはあるのだから。
人が人らしく生きる世界のために。
彼が彼らしく生きることができる世界のために、私は生きよう。

この決意を『デスティニー・プラン』などと呼んだら、タリアに笑われてしまうかな?


機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF STORY(3)


アスランのザクとシンのインパルスがミネルバに着艦する。
ミネルバはザフトが開発した最新鋭艦である。
インパルスを始めとする、セカンドシリーズの運用艦であり、ザフトの象徴たることを期待されて建造されたのだが、二人が降りたモビルスーツデッキは喧騒に包まれていた。
シンとアスランが着艦したのも、ビーコンを先導してくれた幾人かの技術スタッフしか気づいていない。
想定すらしなかった突然の襲撃にクルーは不安を感じているうえに、シンのように新兵が多かったことがその一因となっていた。
アスランはザクから降りると、幾つかのことをシンに指示し、ブリッジへと足を向ける。
だが、ふと思い出したようにデッキの中央部で足を止め、混乱しているクルーに話しかけた。

「諸君、私はアスラン・ザラである!」

不思議とよく響くその声にクルー達は耳を奪われる。
彼らにとってその名はよく知るものだった。
前大戦の英雄として広く知れ渡っているアスラン・ザラの名。
元評議会議長パトリック・ザラの息子であり、先の大戦では大きな戦功を挙げ、特に連合の『ストライク』を討ったことはプラント内でも大きく報道された。
その後、特務隊へと編入され、『公式上』、戦争を終結へと導いた英雄の一人として知られている。
戦後はザフトにおけるトップエリートであるフェイスでありながら、評議会議員となり、ギルバート・デュランダル議長の率いる中道派と協力してザラ派穏健派をまとめあげている若手政治家のホープでもある。
現在はミネルバとセカンドシリーズを中心としたニュー・ミレニアム計画の責任者でもあり、直接の交流はなくとも、彼らにとってアスランは上司と呼べるような存在であった。
彼らにとって雲の上にいるような存在であったアスランの突然の登場にクルー達は動揺を抑えることができない。
ざわつきながらもアスランの言葉に耳を傾けようとするその雰囲気を感じ取りながら、アスランはさらに言葉を続ける。

「突然の襲撃事件で、諸君が動揺するのは仕方のないことかもしれない。だが、ニュー・ミレニアム計画の責任者として、私がこの艦に集めたクルーはザフトの精鋭である。これからどのような事態になっていくかは未だ不明であるが、各々の力を発揮してくれれば、乗り切っていくことができると私は信じている!そして、何が起きろうと、このアスラン・ザラが諸君を守る!私を信じて、今はそれぞれができることを行ってほしい!」

アスランはそう言うと、ブリッジへと繋がるエレベーターへと向かう。
さっきとは異なる背後の喧騒を感じながら、アスランは一人苦笑していた。

「道化だな…俺は…」


シンは消えていくアスランの姿と一変したデッキの雰囲気に困惑していた。
普段自分が見る姿とは全く異なる『アスラン・ザラ』の姿。
これほどの数の人間に影響を与えることのできる自分の『保護者』に複雑な思いを抱いていると、突然後ろから声をかけられる。

「シン、無事だったようだな。」
「シンのことだから一人で無茶しちゃうんじゃないかって、心配してたのよ?」

腰まで伸びた銀髪をなびかせ、どこか落ち着いた雰囲気で声をかけてきたのはレイ・ザバレル。
シンとはアカデミーの同期で、類まれな美貌と優秀な能力を持つ、ミネルバのモビルスーツ・パイロットだ。
一見無愛想で、面白みのなさそうな男だが、つきあってみると意外に面倒見のよい性格をしており、シンの同期の中ではリーダー的な存在をしている。
そして、どこか茶化したような雰囲気で話しかけてきたのが、ルナマリア・ホーク。
同じくシンとはアカデミーの同期であり、レイとシンに続く成績で卒業したエリート候補生の一人でもある。
だが、そのような素振りを一切見せることはなく、誰とでも打ち解けることができる明るさが魅力の少女である。
シンは二人の顔を見ると、歳相応の表情を見せながらその言葉に応える。

「ったく、お疲れ様の一言とかないのかよ?」
「あら?疲れたのはアスランさんの方じゃないの?」
「んなわけないだろ!いっつも心配かけてるのはあの人の方だろ!」
「いや、それはないな。」

無表情でコメントするレイにいささか気圧されるシン。
自分の方が不利だと悟ったのか違う話題をふる。

「そういやレイとルナは何してたんだ?」
「私たちのザクは動かせる状態じゃなかったのよ。」
「襲撃で格納庫が倒壊してしまっていたからな。ようやく動かせる状態になったらもう終わっていた。」
「そっか、まぁ仕方ないな。あ、そうだ。今からガイアのパイロットを捕虜にしないといけないから、保安部の方に連絡してくれないか?バッテリーが切れてるみたいだし、こっからは保安部のお仕事だからな。」
「わかった。すぐに連絡しよう。」
「すまないな。」
「気にするな。俺は気にしない。」

そう言うと、レイは連絡のために通信機の方に向かっていく。
残されたルナマリアはシンに話しかける。

「襲撃犯の顔って見たの?」
「いや、まだだ。」
「どんな顔してるのかしらね?」
「そうだな。ま、あと数分もすれば見れるだろ。」
「ちょっと楽しみね。」
「何がだよ!また戦争しようなんて奴に会いたいわけないだろ!」
「あ…ごめん。」
「いや、俺の方こそごめん…」

そう言うと、シンはガイアに目を向ける。
深紅に燃えるその目には、確かな憎悪が篭もっていた。


アスランがブリッジに着くと、そこにはデュランダルにカガリ、そしてミネルバのクルーの中に、艦長であるタリア・グラディスの姿が見える。
常に凛とした姿を崩さないタリアがげんなりしたような顔でアスランに目を向ける。
国家元首を二人もミネルバによこしたのはアスランなのだから、無理はない。
後でワインの一本でもプレゼントしよう、と思いながら、アスランはデュランダルに報告を始める。

「3機のうち、ガイアは奪還に成功しましたが、残る2機には逃走を許してしまいました。申し訳ありません。」
「いや、アスランはよくやってくれた。現在の状況は、タリア説明してあげてくれないか?」
「はい。現在アーモリーワンの外部には敵艦艇がおり、港部は攻撃を受け、倒壊。発進可能な艦艇は当艦のみです。」

その言葉を聞き、アスランは即座に判断する。

「ミネルバで追いましょう。ミネルバは高速艦ですので、逃げられることはまずないはずです。私にも責任がありますので、追跡に参加します。よろしいでしょうか、議長?」
「ああ、頼むよ…タリア、アスラン。」
「では、議長と代表はすぐに下船を。」
「いや、私はここに残るよ。残って報告を待っていられる状況ではないよ。」

デュランダルの予想外の言葉に驚く一同。
一瞬動揺したアスランだったが、すぐに落ちつきを取り戻し、その言葉に応える。

「議長どうか下船してください。」
「私には権限も義務もある…許可してくれ。」
「議長には議長の戦場があるはずです。どうかここは私どもにお任せください。」

しばし対峙する二人。その雰囲気に周りの人間ははらはらさせられるが、根負けしたのはデュランダルだった。

「分かった。私は私の戦いをしよう。」
「出すぎたことを申し上げて、申し訳ありません。」
「いや、私を止めてくれるのが君の役割だからね。感謝するよ。それでは姫、少々遠回りになりますが、よろしいでしょうか?」

それまでの流れに困惑し、呆然としていたカガリは、突然かけられた言葉にあたふたしてしまう。

「あ、ああ。私は構わない。」
「それではこちらの方に。」
「出口までお送りいたします。」

そう言いながら歩き出すデュランダルとアスラン。
慌ててカガリはその後を追うのだった。


『我が艦はこれより正体不明の敵艦を追うために発進準備に入る。発進は10分後。各員は所定の作業に就き、各自準備に入れ。』

突然聞こえてきたタリアの声に驚きながらクルーはそれぞれが発進の準備に取り掛かり始める。
それはモビルスーツデッキも同様で、慌しく動く技術スタッフの中、シンたちもパイロット控え室へと急ぐ。
その人ごみの中、ふとシンがガイアに目を向けると、保安部がガイアから捕虜を引き出すのが見える。
意識を失っているのか、全く反抗する様子は見えない。
そして、何よりもシンにとって意外だったのは…

「女の子…?」

それがシンが初めて『敵』を見た瞬間であった。


一方アスランは、デュランダルとカガリの見送りについていた。

「アスラン、必ず帰ってくるのだよ。」
「もちろんです。あの方々の面倒まで議長に押し付けれませんし。」

旧ザラ派の議員たちの顔を思い出しながら、アスランは応える。
そんな二人を見ながら、カガリも伝えるべき言葉を探すのだが、うまく見つからない。
そんなカガリにアスランは形式的な言葉を投げかける。

「代表も、どうかご無事で。」
「あ、ああ。」

どこかぎこちない遣り取りに胸を押し潰されそうになりながら、カガリはデュランダルの後を追う。
そして、ドアがと閉まろうとした瞬間…背後でかすかな声が聞こえた。

「心は常に君と共に…」


〜つづく〜

あとがき
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。なんだかアスランをヨイショしすぎた感がありますが、多目に見てください。続きは来週っぽいです。次回も読んで頂けたら嬉しいです。それでは失礼します。

レス返しです。お言葉ありがとうございました。
○一読者さん
政治的な話はもう少し後になりそうですが、気長につきあってもらえたら嬉しいです。
○戒さん
シンはステラとは面識はありません。そのへんはこれからということでご勘弁ください☆

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