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▽レス始

「.hack//Splash プロローグ(黄昏の腕輪伝説+.hackシリーズ)」

箱庭廻 (2006-10-11 00:38)
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【THE WORLD】

 全世界で2千万人を超えるユーザーを誇るオンラインゲーム。

 そして、今なおユーザーを増やし続ける剣と魔法の世界。

 人々は仮想現実の中で巧みな剣技を操る剣士になり、数々の呪紋を使いこなす呪紋使いになり、業烈なる技を誇る重槍使いになり、二振りの剣を操る双剣士、巨大な斧や剣を操る重斧使い重剣士になってもう一人の自分を演じる。

 それはもはやもう一つの世界といっても過言ではなく。

 その中はもう一つの現実とも言える。

 電想世界【ザ・ワールド】。

 その中で異変が起ころうとしているとは、誰が気づけたのだろうか。


【.hack//Splash】

 プロローグ 開幕異譚


【Δ たゆまぬ 夕暮れの 草原】

 紅の鎧を着た剣士が草原の中を歩いていた。

 さくさくさくと足音がする。

 目元を覆うヘッドマウンドディスプレイから聞こえるクリアな音は、そんな音まで拾って伝えてくる。

 初めてプレイする人間ならば驚くだろうが、それを聞く本人はそんな音は聞きなれていた。

 それもそのはず、彼はこのゲームの調整者デバッカーだった。楽しいゲーム世界を提供するには、こういった影の努力も必要であり、人知れずバグや調整ミスを直している。

 そして、今回はBBSに書き込まれていたバグを直しに来たのだ。

 紅の軽鎧を着た剣士は、視界に見えた草原の景色に目を留めた。

「おっ、あそこか」

 そこには土をむき出しのまま窪んだ穴。

 本来ならば水が湧き出しているはずの幻の泉なのだが、どういったわけか水が干上がっている。

「まったく、なんでこういう変なバグが起きるのかね?」

 泉の付近まで近寄った紅の剣士は指を鳴らすと、何もない虚空から巻物のように広がるスクリーン画面を出現させた。

「ちょいちょいと修正して……」

 スクリーンを指で叩き、修正用スキル――デバックスキルから泉の修復用スキルを選択し、スクリーンとは別の空手を泉に向ける。

「へいさ!」

 スクリーンを指が叩いたと同時に、向けた掌に光が宿る。

 そして、泉が放たれた光に包まれた。


 ――瞬間だった。


 光に包まれた泉からまるで飛び出したのは――紅の影。

「あ?」

 クルクルと空高く飛び出したその陰に、幻の泉にて発生するイベントキャラグランパかと思ったデバッカーはその影を見上げて。

 逃げ遅れた。


 リィイィインッ。


 地面が揺れる。

 突如視界がチラついた。

「なっ、なんだっ?!」

 直下型の大地震のようにグラつく視界に、慌てて周りに目を向ける。

 右、ノイズ。

 左、揺れている。

 上、空が黒ずんだ。

 下、地面が崩れていて――巨大な腕が見えた。

「は――?」

 ドスンツ!

 言葉に出すよりも早く、紅の剣士の身体を地面から出現した巨大な腕が貫いた。

 血は出ない。

 悲鳴も上がらない。

 ゲームだから。

 ただ灰色に染まっていく。HPが尽きて、ゴーストと呼ばれる状態へと移行していく。

「こんな奴……このエリアに居たっけ?」

 自分の身体を貫く見たことのないモンスターを見て、デバッカーは呆然とそう呟いた。

 しかし、異変はそれで収まらなかった。

「あ、あれ?」

 視界がドンドン遠ざかっていく。

 紅の剣士の体が地面から浮き上がっていく。

 ゴースト状態で操作が利かない紅の剣士は超能力のように空へと浮き上がり、そして。


 ――紅の十字架に固定された。


「な、なんだよ、これ? こんなイベント、仕様にあったか?」

 磔のボディ、異常なエリア、見たことのないモンスター。

 知らないイベントとしか思えない。

 そして、地面から生えた腕が眩い光を放ち始める。

「お、おい。何をする気だよ?」

 早回しで凍り付いていく水のように物質化していく【光】。

 腕の周りで円状に硬質化していくそれはまるで【腕輪】のように見えた。

 光が強くなってくる。

「お、おい! 何する気だ!! 止めろ、やめろよ!!」

 たかがゲーム。

 たかがゲーム。

 理性はそう語るが、目の前で見える光は理性を潰してなおありあまるほど。

 ――怖い。

 そして、光が最高潮に高まり――

「や、やめえぇええええええええええええええええ――」


 その瞬間、ゲームは遊びの域を超えた。


【リアル】

 おめでとうございます。

 そんな一文が目の前に映っていた。

「は?」

 俺――国崎秀悟は中学校から帰ってきた自分の机の上のパソコンに呆然としていた。

 むしろ驚愕したといってもいい。

 とはいっても、帰ってきたらいきなりパソコンが人型になっていたとか、巨大人型メカのパイロットになってくれとかいう美少女がスクリーンに映っているとか、あまつさえパソコンが盗まれていたとかいうわけではない。

 スクリーンには。

『件名:『.hackers』限定キャラ当選のお知らせ。
 差出人:CC社 ネットワーク事業部
 送信日:201X年X月X年
 おめでとうございます。
 厳選な抽選の結果、貴女様【ユーザーID********】は
 『.hackers公式限定エディションキャラクター』プレゼントに
 ご当選なさいました。                     』

 などというメールが映っている。

「は? ホ? Why?」

 なんだこれ?

 CC社って……あのザ・ワールド作ってるところだよな?

 なんで俺にそんなところからメールが?

 俺、ザ・ワールドやってないのに……

 テュルルテュルルテュルル。

「あ?」

 着信音に携帯を取り出すと、ディスプレイに見慣れた名前があった。

「もしもし、怜奈か?」


 そして、俺はこの電話で今回のメールの原因を知ることになった。


【リアル】

 異国の声がイヤホンの下で滑らかな言葉を発していた。

 普段の生活では聞きなれない発音。

 僕――如月 陸はそのヒヤリングの声を聞きながら、参考書にシャーペンを走らせていた。

 あんまり勉強は好きなほうじゃないけど、頑張らないと。

 そう思って、気合を入れてヒヤリングに意識を集中する。

「あっ」

 そうしたら、そのヒヤリングの声は知り合いのサムライが時々漏らす地声に似ていることに気付いて、笑ってしまった。

 字を書く文字が震えてしまう。

 アルファベットが変な象形文字になっていく。

「ダメだ、集中出来ないや」

 パソコンに繋いであるイヤホンを耳から外し、ヒヤリングを流していた再生ツールを操作する。

「んー。 ちょっと休憩しようかな?」

 腕を伸ばすと、固まっていた筋がパキポキと情けない音を立てた。

「あららら」

 ――ピコン。

「あれ?」

 着信音に設定しておいた電子音が、外したイヤホンから聞こえた。

 そして、新着メールのお知らせ。

「誰からだろう?」

 メールボックスを操作して、送り主の名前を見る。

 そこには。


 ――闇の女王の名が記されていた。


 かくして役者と舞台が揃う。

 これより広げられるのは伝説の再演か。

 それとも新しい伝説か。

 はたまた未曾有の悲劇か。

 それは見てのお楽しみ。


 はてさて、波より砕けた物語を語りましょう。

 波より発した飛沫の物語。

 これより開幕であります。

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