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▽レス始

「月の剣と太陽の杖(ネタバレにつき未記入)」

 (2006-10-08 15:50)
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夢を見た。

それはある一人の青年の物語。

英雄に憧れるごくごく普通の男の子は、長い旅路の果てに本当の英雄になった。

かつて英雄と呼ばれた戦士。どんなに辛い時も笑顔を忘れない魔法使いの女の子。数多くの仲間に支えられて。

だけど、彼はこう言った。

「ただ一人の英雄なんて必要ない。この世界に生きるみんな、だれもが英雄なんだ」

そして、彼等は最後の戦いに赴いた。

敵は世界。護るものは誰かの生きる明日。

結末は分からない。いつもそこで目が覚めてしまうから。

でも、きっと彼なら……


月の剣と太陽の杖

第0話 出会い  〜Who Are You?〜


――リィンバウム。

周囲を異世界に囲まれたこの世界を人々はそう呼んだ。

異なる世界は四つ。過去の大戦の影響で今では機械や廃墟が存在するだけとなった鋼の世界『機界ロレイラル』。鬼神や竜神、それを祀る者や妖怪が住む『鬼妖界シルターン』。天使や悪魔、幽霊などの霊的存在たちの世界『霊界サプレス』。幻獣や獣人が暮らす自然豊かな『幻獣界メイトルパ』である。

これら四つの世界によって作られた輪の中心にリィンバウムは存在した。

かつてはリィンバウムの豊かなマナを奪おうとする異界の侵略者の脅威に怯えていたが、『エルゴの王』が作り上げた結界により世界は平穏を取り戻した。

一時期、その結界が弱まるという事態が起こったがそれはまた別の話。

現在、世界には平穏が戻ってきている。


―――かに見えた。


……これは、後に『傀儡戦争』と呼ばれることになる争いを戦い抜いた英雄たちの物語である。


「いい加減起きないか! 今日が何の日だか、幾ら物覚えの悪いキミでも忘れた訳じゃないだろう!」

大声と共に布団が剥ぎ取られた。

「¥$#@*!?」

何かに驚いている相手から寝惚けきった意識で布団を取り返すと、今度は簡単に取られないように体に巻きつける。

「ん〜〜〜。あとごふぅん……」

お約束の言葉を呟きつつ、意識を手放そうとするあたし。

「はっ! 僕は一体……何か大変な物を見てしまったような……って、こら! 二度寝するんじゃない!」

「ぅぅ〜〜〜。ネスぅ、うるさい〜〜〜」

「ふ、ふふふふふふ……。いい度胸だな、トリス。キミがそのつもりならこっちにも考えがあるぞ」

そう言うと部屋から出て行ったらしく、時折廊下から怒りを押し殺せていない笑い声を響いてくる。

ただでさえ人が余り寄って来ないっていうのに、そんなことしてたらますます距離を取られると思うんだけどなあ。

もっとも本人はそういったことには興味が無いのか気にした様子もないけど。

「ふぁ……」

朝の五分は何よりも貴重なのですよ。と思いながらあたしは再び眠りの淵へと落ちていった。


ゆさゆさ……ゆさゆさ……

「お〜い、トリス〜? そろそろ起きないと本気でマズイぞ〜?」

のんびりとした声と共に揺さぶられるが、その口調の所為か全くと言っていいほど危機感が感じられない。

むしろその声と揺すられるテンポが丁度、子守歌のようで……ぐー。

「あ〜、ダメか」

しばらくゆさゆさと揺さぶり続けていたが、一向に起きる様子が無い事に諦めたのかあっさりと揺するのを止めた。

「ごめんな、トリス。兄ちゃん助けてやりたかったけどもうダメみたいだ。恨むなら小さい頃から全然治る様子のない自分の寝起きの悪さを恨んでくれ」

「満足したかい、マグナ。ならそこを退きたまえ」

淡々とした声がした。

何かがオカシイ。

のんびりとしたいつもの朝だったはずが、急に気温が下がった気がする。

でも、それだけじゃない。

高まる緊張感。ごくりと誰かが息を呑む音がやけに響く。

そして―――


ぎゅいぃぃぃぃぃぃんっ!!

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………」


ケーキ屋のアルバイトPさんの証言。

「いやー。びっくりしましたよぉ。何がって朝お仕事に行こうとしてたらですね。いきなりすっごい音がしたんですよ。もー、耳がおかしくなるかと思いましたよぉ。え? どんな音かって? うーん。何といいますか……そう、漢の浪漫の音でしたかねぇ」

※プライバシー保護のため音声を変えております。


「ふぁ……おふぁよぉ、ネスぅ……マグナぁ……」

「タ、タフだなお前……」

あれだけのことをされてまだ寝惚けているのを見てそうマグナが呟いた。

「ふぁ……その髪どうしたのマグナぁ……イメチェン?」

ちなみにマグナの髪はいつものぼさっとしたものからやたらとソウルフルなものに変貌を遂げていた。……ところどころ焦げてるけど。

「はぁ……いいから早く起きるんだ」

と、呆れた――というより疲れきった顔で言うネス。

「んー……はれ? あたし、ネスとデートの約束してたっけ?」

「全く兄妹そろってこれだ。今日はキミたちが召喚師になるための試験の日じゃないか!」

「……あ、そっか」

ぽん。と手を打つ。

いやー。すっかり忘れてたわ。

「さっさと支度しないと間に合わなくなるぞ?」

「はいはい、わかってますって」

「そもそも、キミは派閥の一員であるという自覚が足りなさすぎだ」

あ、やば。お説教モードに入ったかも。

「授業はサボってばかりだし、たまに顔を見せたかと思えば、居眠りばかりだし……」

「よく見てるわね。ホント……」

「まあ、いい。とにかく、試験の日は来てしまったんだ。結果がどうなるにしろ全力を尽くすんだぞ。今日まで不真面目なキミたちの面倒を見てくださった、ラウル師範のためにもな」

むー。それを言われると弱い。

ラウル師範……ネスのお義父さんには物凄くお世話になってるからなぁ。

「だいじょーぶだって。まかせてちょうだい♪」

「キミは簡単にそういう事を……!」

あたしの言い方が気に入らなかったのか再びお説教モードに入るネス。

でも、そう何度もお説教されては堪らんのですよ。

「はいはい。……でさ、ネス?」

うっふっふっふっふ……。少しはお返ししとかないとねー。

「……なんだ?」

「そこにいると、あたし着替えられないんだけど?」

「あ……」

「……俺はいいのかよ」

話をよそにようやく髪型を直し終えたマグナがそう突っ込む。

「何? 見たいのマグナ」

「ばっ……!!」

「馬鹿なことを言ってるんじゃない! お前もいつまでもぼさっとするなマグナ! 準備は終わったのか!」

「その暇も無く引きずられてきたんだけどなあ」

「何か言ったかい、マグナ?」

にっこりと微笑みを浮かべながら大型の電球みたいなもの――機界ロレイラルの召喚獣ライザーをぐりぐりとマグナの顔に押し付けるネス。

「イエ、ナニモイッテマセン。ダカラソノライザーサンヲハナシテクダサイ、ネス」

ああ、あの頭はライザーの雷にやられたのね。

……ってことはさっきのドリル音もかな。あ、思い出したら奥歯が(泣)

「とにかく着替えるから二人とも出てく!」


あたしとマグナは小さい頃に起こした事故が元でこの場所に連れてこられた。

蒼の派閥――召喚師を育成し統率するための組織。

どういうわけかあたしたちには召喚術に必要な素質があったみたい。

そのおかげで、ここで一人前の召喚師になるべく今日まで訓練の日々を送ってきた。

もっとも、孤児だったあたしたちには選択の余地はなかったのだけど……

今でこそ仕方ないことだと思うけれど、連れてこられたばっかりの頃は何も分からずに泣いてばっかりだったなぁ。

召喚術は使い方を間違えれば、恐ろしい災いを招く。

あたしたちが起こした事故もそういったものの一つだった。


やたらと威圧感のある重厚な扉を叩く。

「蒼の派閥召喚師見習いマグナ、ただいま参りました」

「同じく召喚師見習いトリス、ただいま参りました」

「おお、待っておったぞ二人とも」

中に入ったあたしたちをにこやかに出迎える初老の男性。それに、

「時間ギリギリか……てっきり試験を受けるのが怖くなって逃げたかと思ったぞ」

厭味ったらしいことを言う中年のおやじ。

ちなみに、初老の男性がラウル師範で中年のおやじがフリップ。

立場とかを考えると本当は『様』を付けなきゃいけないんだけど、心の中でまで『様』付けしたくない。

「お前たちのことじゃ。大方ネスが起こしてくれるまで眠りこけておったのじゃろう?」

「あははは……やっぱりわかります?」

「フン。大した自信ではないか。どこの馬の骨とも知れぬ『成り上がり』の分際で」

あはははは。そういうことを試験の前に言うかな普通。

召喚師は『血』に拘る人が多い。それはある種の特権意識といってもいいのかもしれない。貴族なんかと一緒。だから、あたしたちみたいな庶民上がりの術者を蔑視する風潮がある。

「フリップ殿。今の発言は、試験監督として不謹慎ですぞ?」

「……コホン。では試験を開始する!」

ラウル師範に窘められて改めてフリップが試験の始まりを宣言する。

「マグナ。トリス」

「「はい」」

居住まいを正す。

「それぞれ目の前のサモナイト石を用い、自身の助けとなる下僕を召喚してみせよ」

目の前に並べられた黒、赤、紫、緑の四色のサモナイト石。

石にはそれぞれ属性がある。黒なら機属性、赤は鬼属性、紫は霊属性、緑は獣属性。あたしたちの使う召喚術はまずこの石を使って召喚獣となる異世界の住人と契約を結ぶところから始まる。

裏を返せば、この石が無いと召喚術は使えないってこと。

もちろん魔力の相性の問題もある。相性が悪ければどんなに卓越した召喚師でも術を使う事はできない。

全ての召喚術を使えるのなんて、伝説のエルゴの王くらいのものだ。

だからあたしは、今の自分と一番相性のいい属性の石を選んだ。

隣を盗み見るとマグナはもう石を選び終えていたみたい。

……待っててくれたんだ。

思えば、マグナとも付き合いが長い。それこそ記憶のおぼろげな小さな頃からずっと一緒にいた。だからと言って兄妹なのかどうかは分からないのだけど。

一応、対外的には兄妹ということになっている。

その方が色々とやりやすいらしい。

それはさておき、集中、集中……っと。

「「古き英知の術と我が声によって、今ここに召喚の門を開かん……」」

詠唱は同時に始まった。

「「我が魔力に応えて異界より来たれ……」」

精神を集中させる。

少しずつ周りの音が消えていく。

「新たなる誓約の名の下にトリスが命じる」

石を通してもう一つの世界へと続く門を創り出す!!

「呼びかけに応えよ……異界のものよ!!」

声と共に目が眩むほどの閃光が部屋を満たした。

続いて轟音。それも二つ分。

そして、光と音が収まった時あたしの前には、

「ありゃ?」

随分と可愛らしい着物姿の女の子が立っていた。

普通の女の子じゃないのは頭についている狐耳のおかげで一目で分かるんだけど……

「ここ……どこ?」

舌っ足らずな口調で不安そうに辺りを見回す女の子を見てるとちょっと大丈夫なのかなって思い始める。

だって、僕って護衛獣のことでしょ!?

召喚主を守り、身の回りの世話から何までサポートしてくれるっていう話(ネス談)なのにこんな可愛らしい女の子に……まあ、身の回りの世話はともかく。護衛なんていう場合によっては危険極まりないことができるとは……ねぇ?

でも、そんなあたしの心配はラウル師範の一言で吹き飛んだ。

「ほう。シルターンの妖怪か、これは凄い力を持っているのう」

「え? そうなの?」

「……(コクリ)」

あたしの問いかけに小さく頷く女の子。……って、あ。

「ごめんね。急に知らない所に来て驚いちゃったよね? あたしはトリス。あなたのお名前は?」

「ハサハ……」

うーん。まだ、ちょっと怖がってるみたい。どうしよう。

あたしがそう考えている隣では、

「ふむ、マグナはロレイラルの機械兵士を召喚したのか。二人とも立派になったのう」

「あはは、なんとか成功して良かったです」

少し涙ぐんでいるラウル師範に、まだ緊張した顔で笑うマグナ。

ほっ。よかったぁ。マグナも成功したんだ。

そうあたしが安堵の息を吐いていると、

「さて、それでは試験を始める」

とかいうとんでもない言葉が聞こえた。

え? 今のが試験じゃなかったの?

なんて思ったりもしたのだけれど、よくよく考えればあの性悪のフリップ『様』がそう簡単に合格させてくれるわけないんだよね。

「お前たちには今召喚した護衛獣と共にこれらと戦ってもらう」

部屋の奥の召喚陣が光を放ち、そこから複数のモンスターが姿を現す。

うわ、ちょっと数多すぎない?

「怖い……」

ぎゅ。とあたしの服の裾を掴むハサハ。

そりゃそうだよね。突然見知らぬ場所に呼び出されて「さあ戦え」なんて怖いに決まってる。

「大丈夫よ、ハサハ。おねえちゃんが守ってあげる。おねえちゃんこれでも強いんだから」

「おねえちゃん……」

うん、大丈夫。大丈夫。大丈夫。

そう自分にも言い聞かせる。

「そうだな、大丈夫さ。一人ならともかく、ここには四人もいるんだ。だったら」

「「みんなで頑張れば何とかなる」」

顔を見合わせて軽く笑い合う。

うん。きっと大丈夫!

「よし、それじゃ俺とレオルドが前に出る」

「なら、あたしたちはサポートに回るね」

「ああ、頼むよ。行こう、レオルド!」

「イエス、マスター」

愛用の大剣を抜きモンスター目掛けて走り出したマグナの後に追随する形でレオルドが続く。

マグナは召喚術よりも剣術の方が得意だし、レオルドは戦闘が本職だ。

なら、あたしがすることは二人が戦いやすい状況を作ること!

「あたしたちも行こう、ハサハ! 後ろについてきて!」

「ん……!(こくん)」

二対一の形になるよう敵を誘導し、硬い相手にはあたしの使える術(岩をぶつけるだけだけどね)で先に弱らせる。

時々少し危ないところもあったけど、特に大きな怪我も無く最後の一体まで追い詰めた。

もう少しで終わる。

そう思ったときだった。

バチッ。

「……? おねえちゃん、何か変だよ……」

「空間ニ湾曲ノ反応アリ。警戒態勢」

最初に気付いたのは護衛獣の二人。

バチバチッ。

「む……。これは一体……? フリップ殿まだ何か……?」

「いや、試験はこれで全てだが……」

怪訝そうな声をあげるフリップ。彼がこんな声を出すのは始めて聞いた。ってことは彼が何かしたわけじゃないことになる。

「一体何が起きるっていうのよ……」

まずい、正直もう魔力も残ってないし、マグナたちだってそろそろ限界のハズ。

「むぅ、二人とも早くそこから離れなさい!」

バチバチバチバチバチバチッ!!!

召喚陣から光が溢れ出す。

それもモンスターを召喚したときよりも遥かに強い光。

目が焼かれてしまうんじゃないかっていうほどの光の嵐の中、あたしは守るようにハサハを抱きしめた。

「大質量ノ転移ヲ確認。該当データナシ」

「こわい……こわいよ、おねえちゃん。おっきくてこわいのがくるよ!」

不意に――それまでの光は何だったのだろうと思ってしまうほど急に光が収まる。

そして、そこには、得体の知れない、ナニカがいた。

不定形の身体に翼を思わせるものや爪、所々についた甲殻。まるで、本来在るべき姿を中途半端に溶かしたような異形。その中で、おかしなことに女性の上半身に良く似たものだけが形を保っている!

少なくともあたしはこんな存在がいるなんて聞いたことがない!

「るぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉん」

誕生の産声はその場にいた全員を凍りつかせるほどに不気味で、ただ、恐怖しか感じられなかった。

あたしたちが固まっている中、そいつは身体から触手を伸ばして残っていたモンスターに襲い掛かると――

「う……そ……食べ……た?」

信じられない。

召喚獣を食べる存在なんて聞いたことない。

コレはナニ?

ワカラナイ。ワカラナイ。ワカラナイ。

「ぉ……ちゃ…………おねえちゃん! しっかりして!」

「トリス! 危ないっ!!」

意識を失ったのは恐らく一瞬だったと思う。

でも、その一瞬でそいつには十分だった。

全てがスローモーションになる。

あたし目掛けて伸びてくる肉の触手。

両手を広げて前に立つハサハ。

突き飛ばそうとするマグナ。

楯になろうとするレオルド。

なんとか怪物を倒そうと詠唱するラウル師範とフリップ。

触手の一撃を受けてレオルドが吹き飛ぶ。

それと同時にマグナの手があたしとハサハを突き飛ばす。

発動する二人の召喚術。

現れるロレイラルの機兵とメイトルパの翼竜。

二体の攻撃を受けてもビクともしない怪物。

逆に触手を伸ばして二体を捕らえ、喰らいつくす。

召喚獣が喰われた反動で倒れる二人。

そして、倒れ込むあたしの目の前で、体勢を崩しているマグナの身体に触手が巻きつこうとしていた。


いや……

誰か……誰か、助けてっ!!

マグナを……あたしの……あたしのお兄ちゃんを助けてっ!!!!

あたしにできることなら何だってする!

だから!


思いは真摯。祈りは純粋。願いは切に。

召喚術において基本となるのは心。

元より異世界の存在を喚びだし使役するのが召喚術。

ならば彼らを従えるのは言葉ではなく、心。

故に心からの叫びは必ず届く。

それを人は時に「奇跡」と呼ぶ。


カッ――――――――ドォンッ!!


再び光が召喚陣から溢れ出したと思うと爆発を起こした。

閃光と爆風の中、声が響く。

「『アクセラレイター』……」

それは一瞬の出来事だった。

マグナに巻きつこうとしていた触手が全て切り落とされ、ぐいっと腕を掴まれたと思ったら、あたしたちは意識は失っていないものの倒れているラウル師範たちのすぐ側にいた。

そして、あたしたちの前には身の丈程もある奇妙な形をした武器を持った青い髪の青年の後姿。

「……倒しきれてなかったのか」

呟き、武器を構える青年。

「キミたちはここにいるんだ。あいつは――僕が、倒す」

厳しい表情で告げると青年は敵に向かって駆ける。

迎え撃つ触手を時には切り落とし、時にはかわしながら間合いを詰めていく。

凄い。あたしたちが束になっても敵わなかった相手を一人で……。

「彼は一体……?」

呆然と呟くマグナ。

無理もないと思う。もうダメだと思ったらいきなり助かって、気がつけば安全な場所に移動してる。その上、助けてくれた人が目の前で人間離れした動きをすればねぇ。

ああ、ダメだ。あたしもちょっと混乱してるっぽい。

夢に出てきた『英雄さん』に似てると思うなんてどうかしてる。

見物しているしかないあたしたちを余所に彼は次々と怪物に攻撃をくわえていく。でも、それが効いているようには見えない。

「どうしよう。何か手伝えることはないのかな?」

「トリス、ちょっと様子がおかしい。何かを探してるみたいに見えないか?」

「え? そう言われてみれば確かに……」

彼が繰り出した攻撃は全て同じ場所に当たっていなかった。まるで、何かを探すように。

「もしかして……レオルド! あいつを調べてみてくれ!」

「イエス、マスター。スキャン開始―――――――体内ノ一部ニ他トハ異ナル反応アリ」

「それはどこにあるんだ?」

「ココカラミテ左側ノ甲殻ノ真下デス」

「聞こえたか!? そこを狙ってみてくれ!!」

叫ぶマグナ。

「ありがとう!」

礼を残して再び彼の姿が消える。

瞬き一つの間にマグナに教えられた場所の前に移動すると、躊躇いなく武器を突き刺す!

「ぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

苦悶の叫び。四方から襲い掛かる触手。

だが、彼はそれらを無視してさらに奥へと武器を押し込んだ!

「……これで、終わりだッ! 『フルフラット・マルチブラスト』ッ!!」

叫びを切り裂いて雷鳴が鳴り響く。

びくん。と一度振るえ怪物の動きが止まった。

「本当に、これで、よかったのか? ア――――」

呟きは怪物の爆発音で掻き消され、トリスたちまで届くことはなかった。


「や、やったーーーーー!!」

「すごい……」

歓声をあげるあたしたちの所に照れくさそうな顔をして彼が戻ってくる。

「えっと、ケガはない?」

「うん! あなたのおかげだよ!」

「そっか、良かった」

戦っているときとは一転して朗らかな笑みを浮かべる青年。

そこであたしは目の前にいる彼の名前も知らないことに気付いた。

いや、まあ、そんなこと気にしてる暇もなかったってのが正しいんだけどね。

「あの、助けてもらっておいてあれなんだけど……あなたは一体、誰、なの?」

おそるおそる尋ねる。

ごめん。名乗ってもいなかったね。と、彼は恥ずかしそうに頬を掻いた。

「僕は―――」


さあ、始めよう。

新たな英雄の物語を。

全ては、ここから始まるのだから。


「僕は、アシュレー。アシュレー・ウィンチェスター。ARMSの一員だよ」

そう名乗り、彼――アシュレーは笑った。


あとがき

はじめまして! この度、無謀にも読み専から書き手に挑戦してみた燕といいます。

しっかし、今どきSN2とWA2のクロスを書いて一体何人の方が元ネタ分かるのやら。

いやね、書き始めたきっかけが同時に新作の発表があったっていうだけなんですよ(笑)

でも書くのにおよそ一月……。あはは、我ながら筆が遅いです。

何はともあれ、稚拙乱文に付き合っていただきありがとうございました。

かなりの見切り発車なもので、続きはいつになるか分かりませんがのんびりと書いてきますー。

……ちなみに補足説明ー。

アシュレーさんが怪物を倒すのに使ったのは手持ちの散弾を一気に全弾発射するという豪快さんな手法です。

ゼロ距離から散弾の雨……えーと、どこのショットガン使いなんでしょ(笑)

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