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▽レス始

「.hack//G.S. レベル8(.hack+GS)」

脳味噌コネコネ (2006-09-23 01:18/2006-09-23 04:27)
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「ん? 俺のことか?」

猫PCの目線は真っ直ぐに蛍の目を見ている。間違いはない。

「そう。君キミ」

蛍の前まで来て動きを止めた猫PCの視線が、今度は蛍の右腕に向いた。
何だか興味深そうに見回している。まるで何かが見えているような、そんなものを蛍は感じていた。

「あれ……君は……!?」
「え? 君……ハ……!!」

猫PCに遅れて走ってきた水色の髪のPCが、猫PCの隣に並んだ。
その顔を見た途端、驚愕の表情に変わる蛍と、顔を真っ赤にして驚きの声を上げる水色の髪のPC。

「えっと……えっとえっと……ごめんなさい!」
「どうしたんでちゅか?」

それはパピーや、猫PCにはまったく意味の解らない会話だ。
何故驚くのか、何故謝るのか、一体何があったのか、パピリオは問いかけた。

「さっき……見られたPCだ……。にしても、よく見たら君、男の子だったんやなぁ……」

蛍の顔色は青い。リアルのパピリオの顔色も青い。今現在少年に訂正された者の顔色は真っ赤だ。猫PCには意味が解らない。
会話が途切れる。誰も言葉を発しない。水色の髪の少年が、二歩ほど後ろに下がった。
その時になって、やっと蛍が口を開いた。

「あぁ……あんま気にせんといてくれ。余計辛い」
「え……でもボク! あの……その……」

今にもショートしそうなほど真っ赤な顔で口ごもる姿を見ると、ショックが増すような気がして蛍は辛かった。

「ほんと、気にしなくていいから。むしろ俺なんてさっきまで君のこと女の子だと思ってたし。おあいこだよな? な?」
「え……そうなの? ……あうぅ」

まだ赤の抜けない顔が下を向く。だいぶ傷付いているようだ。
これまで水色の髪の少年『エルク』は、何度も女性に間違えられてきた。
それはエルクを操るプレイヤーも同じである。
そんな所を両親に気に入られたせいで髪は伸ばさされ、いつになっても声変わりせず、身長も低い。
また、口下手で、人の目を強く気にしてしまう性格であるため、今までろくに友達もできなかったのだ。

「そりゃこんなこと言われたら傷つくよな……。ごめん」
「ほえ?」

慰めるために肩を叩いて、近い距離で目を合わせて謝る蛍。

「俺は、今の体は女でも、心は男だって信じてるし」
「……」

ゲーム内での自分の体が、例え男のものでないとしても、心が男なのだから別のいい。
彼にとって、嘆くのは嘆きたくなったその時だけのもの。一度嘆いてしまえば、不条理なんてもう気にしない。
例え何があっても、立ち向かうことも逃げることも、いつだって出来るのだから。

「だから、おあいこだよな?」
「う……うん。……おあいこ……うん」

彼には妹だと思っている少女がいる。その少女とエルクは似ても似つかないけれど、何故か、弟のように見えた。
エルクにとっても蛍は、心強い何かをくれる『姉』のように、見えていた。

「それで君……さっきなんか言おうとしてたみたいだけど?」
「ああ、僕? 別にいいよ。あえて何か言うなら、いいものを二つも見せてくれてありがとう、かな」

そういうと猫のPC『ミア』は、走り出した。

「その腕輪は、大切にするといい」
「へ?」

蛍の真横を通り過ぎた時に小声で呟かれた言葉に、蛍が驚く。
時々見えるような気がするけど、実体のない腕輪が、見えている者もいるのだろうかと、彼は考えにふけった。

「待ってよぉ! ねぇミアったらぁ!」

エルクもミアを追いかけて、次第に見えなくなった。
また一つの出会いが、蛍の心に刻まれる。いくつもの出会いが、彼の心の道しるべ。
元の体ではなく、今の体が真に自分のものであると思えるまで、そこまで歩ければ彼には幸がある。

「あ、オルカからメールがきまちた」

このタイミングでのメール、自分にも関係があるのかと、蛍は考えた。
オルカはただバルムンクを呼びに行っただけである。それでメールを送ってくるということは、何かがあった、ということだろうか?

「急用が出来たので落ちるみたいでちゅ」

それがどんな急用なのか、彼には気になって仕方がなかった。

「変わりに二十分くらいしたらカイトっていうPCが来るみたいでちゅから、
 カオスゲートで合流ちてくだちゃいって書いてまちゅ。
 それまではマク・アヌの案内をしながら冒険の準備をするといいって言ってまちゅ
 それと、エリアワードはΔ激怒する 情熱の 旋律をオススメしてまちゅ。スパイラルエッジっていうレア双剣があるみたいでちゅ」

本当に急な話であるが、いろいろと考えてくれている所、やはり親切である。

「カイトって言ったら……あのPCか」
「知ってるんでちゅか?」

パピリオはカイトというPCを知らない。知っているのは、オルカに最近出来たらしい新しい仲間ということだけだ。

「ああ。昨日データドレインの巻き添え食わしちまった奴だ」
「……無事、だということでちょうか?」

おそらくそう見て間違いないと思えたから、蛍は少し救われた。
自分のような目にあわせてしまったならば、本当に辛かっただろうから。

「でもあのPC、確か双剣士だったよな……。スパイラルエッジって二人分あるのか?」
「初心者向けの双剣だから、ステータスはあまり高くないみたいでちゅ。だからカイトにはいらないみたいでちゅ」

何とも至れり尽くせりだ。友情でなくとも見返りを求めない姿勢は賞賛に値する。

「パピーは、パピィにならなくていいのか?」
「そんなことちまちたら蛍が危険でちゅ!」

優しい気遣いではあるが、だからこそ蛍は、悲しかった。
自分のせいでパピリオの大好きなゲームは、ゲームでなくなってしまったような気がしたからだ。

「俺はパピリオが楽しんでくれた方が嬉しいぞ?」
「……」

だから彼はこう言ったのだ。しかし、それによってパピーの声が途絶える。
歩みも完全に止まっている。悲しんでいるような、泣いているような、そんな気がした。

「そんなに死にたいんでちゅか!」

その言葉が重くて、辛くて、嬉しすぎた。

「それで蛍が死んだら、ルシオラちゃんより辛いじゃないでちゅか! ヨコチマより、ずっと辛いじゃないでちゅか!!」

人気の少なくなっていた道の真ん中。蛍は、涙を流した。
涙腺が弱くなってるとか、心が弱くなってるかもしれないとか、そんなことはどうでもいいのだ。

「パピリオは、俺が死んだら悲しいか?」

彼女は今、誰よりも自分を案じてくれる存在に、思えた気がしたから泣いた。

「当たり前でちゅ……だって……」

彼女が誰よりも、自分を必要としていることが痛いほどにわかる。

「わたちの世界に色を塗れるのは、ヨコチマだけじゃないでちゅか……」

色のない世界でなど、誰も生きたくはないのだから。

「そっか……。ありがとな」

この絆だけは、守り通さないといけない。
何故ならこの絆は、自分の心が決めた兄弟の絆だ。

「道案内、お願いできるか」
「…………はいでちゅ!」

いつも命がけで生きてる彼を、どれだけ心配してくれていたのだろうか?


「まず、このあたりが道具屋でちゅ!」

このあたり、という言い回しを使うのは、道具屋が一つではないから。
近づかなければ道具屋を営むNPCには話しかけられないため、一つだけでは行列が出来てしまうのだ。

「なんかNPCって生きてるように見える……」

客に対して声付きで受け答えするNPCの姿は、異様だった。
台詞が毎回変わっているのはいいとして、客寄せまでやっているのには驚きだ。

「全部まとめて道具屋って呼ぶのもあれでちゅから、一般に商業区って呼ばれてまちゅ。
 武器屋の集まりなら鍛冶区、妖精の大きな倉庫があるのが保管区、魔法アイテムを売ってるのが魔法区でちゅ」

商業区だけでもかなり広い。此処に来て蛍はやっと、自分の住む町の広さを知ったのだ。

「あの、買い物するときにNPCに見せてるカードは何なんだ?」

蛍の指差す方には(マナー違反)、NPCにカードを渡しているPCがいる。

「ポイントカードでちゅよ。エリアを攻略ちたときや、お買い物をちた時にポイントが加算ちゃれて、買える品物の種類が増えるのでちゅ」
「なるほどなぁ……。あそこでPCが店をやってるのは?」

一人のPCが、非常に多種様々な品物を売っているのが目に付く。
普通の道具屋と比べて圧倒的に値段が安く、また、カードを使わなくてもあるものなら何でも売っているようだ。

「商業ギルド『○ナカ』の人でちゅ。此処では行商の人しか見れまちぇんけど、ギルド本部はスーパーみたいになってまちゅ」

○ナカとは、なんともアレな名前である。

「あの名前はアリなのか?
「何でも、ギルドマスターっていうギルドで一番偉い人が、現実のあのスーパーの経営者をやってる人らちいでちゅよ?」

危ない会話だ。非常に危ない会話だ。可能な限り回避して欲しい会話だ。

「ギルドっで確かいろいろあるんだよな?」
「はいでちゅ。冒険者ギルド『ダンジョンマスター』を初めに、たくちゃんのギルドが作られているんでちゅ。
 ただ、PK(プレイヤーキラー)集団なんていう名目を掲げるギルドもありまちゅから、気をつけてくだちゃいね?」

PK集団の話は聞いたことがあった。PK可能エリアで一般PCをキルするのが活動目的という恐ろしいギルドだ。

「そういや、エリアに入って直ぐにPKに殺される可能性もあるんだよな……」
「安心ちてくだちゃい。レベル10以下のPCは攻撃が禁止されてまちゅから、今の蛍がキルされることはないでちゅよ」

10を越えたらどうなるのか、それは考えないことにする蛍であった。
それよりも、自分の世界の広さを感じていたほうが、ずっと心が楽だったのだ。
自分はこの世界の住人である。自分ならあの建物を登れるだろうし、川を泳ぐことも出来るだろうと、蛍は想像を膨らませた。
彼が冒険するのは、ダンジョンだけじゃない。この広い大きな町も、彼にとってはダンジョンなのだ。


ダンジョン内    ミアとエルク


「ん? どうしたんだい? エルク?」

ダンジョン2階で、歩みを止めSP回復に勤めていたエルクの様子が、見てわかるほどに急に変わった。
何かにすごく驚いているようで、叫び声らしきものも聞こえる。意味が解らなかった。

「エルク?」
「ねぇミア! 僕大変なことしちゃったんだけど、どうすればいいのかな?」

声を聞けば、彼が慌てているのがよくわかる。

「大変なことって……何?」
「……撮っちゃってた……スクリーンショット」

スクリーンショットを撮ってしまったとはどういうことだろうか?
もしかしたら、何かまずいものを撮ってしまったのかもしれない。
そう考えたミアは、聞いてしまった。

「一体、何を写したんだい?」
「ほ……ほ……蛍さんの……その……」

勘の良いお友達は既に気付いているであろう、途切れ途切れの言葉が、ミアにはよくわからない。

「蛍さんが……物陰で……その……」

結局エルクが写したものはわからず、そのまま二人はダンジョン攻略を続行した。
エルクが写したもの、それは、物陰にいる蛍の姿。
目撃してしまった驚きからコントローラーを滅茶苦茶にいじってしまったのが原因である。
スクリーンショットのフォルダに残された数枚のやばすぎるデータのことを、エルクは胸の奥にそっと閉じ込めた。


 あとがきです
出会いだったり、ちょっぴり感動だったり、世界観を説明して見たり、後の最後で大ボケをかましてみたりした脳味噌コネコネです。
あとがき書いている間に一度閉じてしまったため、二度目のあとがきです。正直辛いです。
自分なりに世界観を押し広げようと奮闘しました。堀下げるネタが増えたので成功だと思っておきます。


 レス返し

シャミさん
蛍、エルク双方とも同情してやってください。
でうが、これによって原作よりも扱いやすくなったので、都合はよろしいのです。
冥子はこれからもっと成長していきます。そうじゃないと八相の相手は勤まりませんから。
フィアナの末裔の二人には、ゲーム内よりも、むしろリアル方面で活躍してもらう予定です。それでも出番は少ないのですが、決める時には決めるようにして存在を残せるよう頑張ります。

寝羊さん
そういえばうででんの作者様もエルクを女キャラだと思ってたようですね。
僕も何度か性別の判断に苦しんだ経験があります。そして育てていたのに途中から使用不可になって辛い思いをした思い出もあります。
ちなみに僕は最近スポーツドリンクばかり飲んでます。
そして、冥子さんの成長伝説はまだ始まったばかりです。(裏ヒロイン?)
さらに、オルカの脱毛伝説&育毛伝説も始まったばかり……?

シヴァやんさん
ヤスヒコの暴走はまだ止まりません。このネタでいじってあげないと本当に出番がなくなります。
それにこれは、ヤスヒコがThe worldをゲームではなく一種の世界であると見ていた結果でもあるので。
女キャラだと思わせてエルクを出したのは、先の気になるように仕向ける作戦です。
続きが気になると読む意欲が湧くので、こういった描写は大切にしていこうと思っております。

秋桜さん
今回早速出番を削がれてしまったので、この後のオルカには不安が一杯です。前回の件もあって精神面も不安ですね。(笑
原作で最も出番の無い仲間キャラという不名誉な一面があるので、これからの活躍は……。むしろリアルのヤスヒコのほうが出番多いです。
蛍はこれから戦闘能力だけでなく、様々な面で成長していきます。この作品の主人公とヒロイン両方の役割をこなしていく事になるので、格好よかったり可愛かったりする予定です。


スパイラルエッジの話が出てきたことから解るとおり、次回はなつめっち(広めましょう)が登場いたします。蛍、カイト、なつめっちの双剣士三人組が大活躍します。お楽しみに。

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