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「NARUTO 九房武芸帖 (NARUTO×いろいろ)」

こるべんと (2006-08-07 10:58/2006-08-07 11:03)
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第八章『夕日 紅の乱』


さて、カカシ班が全員自宅で静かに眠っているその夜。
居酒屋・酒酒屋で一杯ひっかけようとやって来たカカシは、目の前の惨状に回れ右してBダッシュで帰宅しようとした。
が、何者かの力強い手に手首を掴まれて引き戻されそうになる。
カカシは全体重を前方に傾けて、店の中に連れ込まれないように必死になっていた。

「おいっ!!何しっかり掴んでるんだ、ガイ!!」

「久方ぶりに出会った友に対してそれはないだろう!!マイ、ライヴァル!!」

「そうだぞ!!カカシ、今夜は嫌でも俺たちの仲間に入ってもらうからな!!」

「ゴリラや珍獣と一緒に檻に入る趣味は無い!!とっとと俺を解放しろ!!」

「「いやだっ!!」」

読者の皆様も想像してみて欲しい。
一日の疲れを癒そうと居酒屋へ足を運んでみれば、そこに待っていたのは演歌の静かな調べと焼き鳥の甘い香りではなく、カウンターに山と詰まれたお銚子とウオッカの空瓶。そして、仲間内でも有名な酒乱女だったとしたらあなたはどんな行動をとるだろうか?
甘い言葉を囁きながら彼女の部屋へ送る?
近くのホテルに部屋を取って看病する?
否!!そんなことが出来る状況ではない!!
カカシはその酒乱女・夕日紅を見て思いっきり溜息をつくと、他の二人に説明を求めた。

「で?一体どういう飲みかたすると、こんなことになるの?」

「初顔合わせで、自分の女人生に絶望するとこうなるんだよ。原因はどうやら、日向宗家嫡子の日向ヒナタらしい」

その言葉にカカシは思い当たることが多すぎて、もう一度今度は厨房の裏口から逃げ出そうとした。
逃がすものかぁぁぁぁぁぁぁぁと、鷲の爪のようにガイの右手が戦闘用ベストの襟を掴んでいたので結局それは叶わなかった。

「思い当たることがあるようだな。それなら、お前にはこの状況を理解する義務があるぞカカシ」

「は〜い・・・・で、そのヒナタちゃんはどんなことをしたの?」

「それが事の発端は初顔合わせのときの・・・・」

ここまで話してアスマは少し考え込むと、話を切って無駄にダンディな表情でセブンスターを口にくわえて煙を吐き出した。
そしてスポットライトの輝きを浴びながら、『木の葉峡谷春爛漫』をBGMにグラス一杯のウイスキーを片手に悠然と語り――だそうとして寝ぼけた紅のビール瓶攻撃をくらって倒れた。

「何をするつもりだったの?アスマの奴、思いっきり勘違いしてるみたいだったけど?」

「あの情熱をもう少し別の方向に傾けて欲しいものだな・・・しかし、どうする?!ページの都合上、これ以上アホな会話はできんぞ」

「それを言ったら身も蓋もないだろう。仕方がない、それじゃ次ページに回想としてまとめて読んでもらうということにしよう」

よきかな小説。便利だぞ、回想攻撃。


カカシ班が校舎3階のテラスで話していた頃、紅班の下忍候補生たちは演習場を見渡せる小高い丘にいた。
犬塚キバ・油女シノそして日向ヒナタの担当上忍・夕日紅は、今年新人上忍に格上げになったばかりの駆け出しの身でありながら新人班を受け持つという大役に就くほどのキャリアを持つ。
腕力の劣るくノ一故に幻術系のサポート技を強化し、弛まぬ努力が生んだ経験と実力を困難な任務においてもいかんなく発揮し貢献してきた。
だからこそ、今回異例の担当に抜擢されたのだろう。
受け持ちになった3人も、それぞれの親が凄腕の忍者や武人というだけあって才能の片鱗があり、教えがいのある班になるのは間違いなかった。

「さて、あなたたちの夢を聞きたいわね。将来はどんな忍になりたいの?」

「もちろん最強の忍犬使いになることに決まってんだろ!!」

これは、犬塚キバ。彼の一族は代々忍犬使いで、その活躍ぶりは諸国や各隠れ里にまで轟くほどの勇名ぶりだ。
その根拠は年を重ねるうちに、忍犬自体が忍術を使い人語を話すようになるということに現れている。
代表される口寄せ動物、蝦蟇・蛞蝓・蛟は人語を喋るとして一般にも知られているが、犬となると発生例が極めて少ないのだ。

「・・・・・特にない」

次が、前にも紹介した油女シノ。彼の一族は蟲使いであったが、口寄せではなく彼らの秘伝の方法でその力を発揮する。
それは、『胎蟲依存』(奇壊蟲の術)という極めて異様な秘術で、生まれた胎児のころからその体内に何万匹もの蟲を巣くわせ、成長するとチャクラを餌代わりにして戦闘のほとんど一切をまかせるというものだ。
ここまでなら、後は最終試験の説明をして解散するはずだった。
しかしこの後、日向ヒナタの発言があの恐ろしい『シュラリストの宴』を起こすことになるとは、このときあの現場にいた誰にも想像することはできなかった!!

「わ・・わたしの夢は、下忍のまま引退してナルト君と一緒に田舎で幸せな余生を送ることです」

「余生って・・・ヒナタ、まだ若いんだからもっと夢を持たないと」

「今言ったことが私の夢です」

頬を赤く染めながら、それでも自信をもって話すヒナタに紅は何となく『何か』の血が騒いだ。
それでも彼女は上忍。ここは一つ、『大人の対応』をしなければ。
気を取り直すと、もう少し詳細を聞こうと話を伸ばすように会話を再開した。

「ヒナタ、余生って言ってもどんなことをして暮らすつもりなの?」

「あ・・あの・・興奮しないで聞いてくれますか?」

「ふふ・・・安心なさい。忍者は皆、自分の感情を抑制する術を心得ているから」

「な・・ナルト君に一日中、私の身体を弄んでもらうんです。イケナイことをたくさんされて、ナルト君に逆らえなくなるくらい愛してもらうんです・・・・すでに溺れてますけど」

『溺れる・・・・弄んでもらう・・・・・・』

その言葉に紅の心は凍りつき、魂の蝋燭が突風に煽られて消えそうになった。
キバなどは顔から色が失せ、真っ白になって身体がどんどん薄くなってきている。

ただ一人、シノだけが無事だった。
いや、果たして無事だったと言っていいのだろうか?

「それは、すばらしい。結婚式には必ず出席させてもらう。」

「・・・ありがとう、シノ君」

「すばらしいのかっ?!ヒナタ、その選択で本当に後悔しないのかっ!!」

我に返ったキバが、慌てたように確認を要求した。
しかし、ヒナタは『本当に幸せそうな笑みを浮かべて』コックリとうなずいた。

その時・・・・凍りついた紅の身体からチャクラが煙のように勢いよく立ち上った・・・

そして、次の瞬間!!

その瞳に『シュラリストの魂』が燃え上がったかと思うと、彼女の周囲に存在する小石や破片が浮かび上がり、コンクリートの床にピシピシとひび割れが入りだしたではないか!!
シノの体内に潜む蟲たちも恐怖におののき、赤丸などは失禁しながら震えだす始末。
紅からは戦闘民族も裸足で逃げ出しそうになるほどの殺気が放たれているが、向けられているヒナタはそれをものともせずに座っているのだからなお恐ろしい。

「先生、そんなに怖い顔すると身体に毒ですよ?」

「ふふふ・・・・ヒナタ、不順異性交遊っていう言葉を知っているかしら?」

「私たちの恋はそんな無軌道なものじゃありません。結婚するに当たって両親も了承してくれて、今では式の計画まで考えようとしてくれています!!」

「結婚式ィィィィィィィィィィィィィィイ!!」

紅はヒナタが放った言葉の弾丸によって脳に衝撃を受けた。
意識を失いかけた彼女の脳裏に、過ごしてきた28年間の女人生が走馬灯のように蘇ってきた。
思えば下忍になってからのこの19年間、女として一度もそんな経験をしたことはなかった。
戦争中だからと男とのつきあいを一切避け、女体を使えば楽な任務も全て実力のみでこなしてきた。
そうこうするうちに周りの女友達たちは彼氏を作って結婚までし、気がつけば女人生崖っぷちの28歳(今年で29歳)である。
慌てて周囲を見渡してみても、周りにいるのはお世辞にも『いい男』とは言えないような奴らばかりしか残っていない。

『はたけカカシ』
ビジュアル的にはかっこいい顔もするし、写輪眼を持つだけあってかなりの実力者。
エロ本集めなんて趣味さえなければ、女がいてもいいはずなのにもったいない男。
読んでいるときの表情がなんともいやらしく、とてもではないが付き合いたいとは思えない。

『マイトガイ』
実力的にはカカシと引き分けるほどだし、担当としての信頼も厚い。
問題はビジュアルとそれに同調するように熱すぎる性格だけだ。
食堂でプロテインをご飯に振りかけるのだけは、お願いだからやめてもらいたい。

『猿飛アスマ』
カカシと同じくビジュアル的にも、実力的にも問題なし。
ヘビースモーカーなのはまだ許せるが、タバコを吸うときのナルシズムめいた表情だけが問題。
『俺、かっこいい!!』的なポーズを鏡の前で練習するのはやめて欲しい。

が、そんな変な男連中の中にいてもモテル奴はモテル。
例えば、特別上忍・『月光ハヤテ』には暗部くノ一の彼女がいたりする・・・・・・
ようするに、

『世の中何でこんなに不公平なのさ、こんちくしょぉぉぉぉぉぉ!!カムバァァァァァァァァク!!ティィィィン・エイジャァァァァ・ドリィィィィィィィィィィム!!』

と声高々に叫びたいのだ!!
その思いがまた魂を燃え上がらせたかと思うと、紅は体勢を立て直しまたしっかりと座りなおした。

「そう・・・幸せな日常を夢見ているのね。でも、ナルト君だったわよね――彼にどれぐらいの財力があるのかしら?あなたが望む性活・・・もとい生活を手に入れたいと思ったら、それこそ莫大な費用と土地がいるのよ?」

「それに、同棲っていうのはあなたが考えているほど楽なものじゃないのよ。暮らしているうちに相手の粗が見えくるし、それをお互いに受け入れられなくちゃいけないの」

『あまり考えたくない話を唐突にきりだし、言葉に詰まったところで【少女の夢】でしたと終わりにする』

と考えた紅の行動だった。ここまでなら、半分以上作戦は成功していたと言っていいだろう。
だが、目の前に座っている少女の未来の旦那は、泣く子も黙る『餓狼』である。
ヒナタは微笑んで、それこそ愚問とばかりに返答した。

「先生・・・・ナルト君って凄いんですよ。海外の大手銀行に隠し口座が一つあって、しかものんびり暮らせるような土地までちゃんと持ってるんです」

「家事全般もきちんとこなせるし、私が気がつかないことにまで気を配ってくれて・・・・『私なんかがナルト君のお嫁さんなんかでいいのかな?』何て考えちゃうくらいです」

想像しながら萌えるヒナタのその言葉で、世界は数分ほど停止した・・・・・
何のことは無い彼氏自慢のお惚気話だが、今の紅にとっては回避不能の超必殺技攻撃をされたに等しいダメージとなっていた。


やがて、紅はゆっくりと立ち上がるとよろめきながら少しずつ後ろへ下がった。
その顔はなぜか大ダメージを負ったかのように血まみれで、息は絶え絶え目も光を失いかけていた。
そして、

「わ・・・我が偉大なる【三十路連合】に、栄光あれェェェェェェェェェ!!」

と叫ぶなり爆発して、そこから姿を消していた。
3人とも呆然とするなか、キバがやっとこさ口を開いた。

「じ・・・自爆したのか?」

「いや・・・おそらく恥ずかしさに耐え切れなくなって逃げたんだろう」

「シノ君の言うとおりだと思うよ。ほら、あそこに・・・・」

ヒナタが指差した先を見ると、何か泣き叫びながら里に向かって爆走する紅の後姿が見えた。
残された候補生たちは、ただただ呆れてみていることしか出来なかった・・・・


【三十路連合】

古代中国の皇女・売 鋸利伊(ウレ・ノコリィ)は、絶世の美女と呼ばれるほどの美しさを持っていた。
その彼女を狙って、多くの皇帝や王たちがこぞって求婚にはせ参じたが、望みの高い彼女は全ての求婚を断った。
やがて、幾年もの時間が流れ、その美しさは次第に陰を帯び三十路になった皇女はひどく落胆した。
そこで彼女は、健康と美容促進のため、仲間の皇女と共に一大プロジェクトチームを結成した。
それこそが、三十路連合である。
ちなみに彼女の墓碑には、

『散らば散れ 咲く日もあろう 三十路華』 (ちらばちれ さくひもあろう みそじばな)

という有名な句が記され、世界中の女性に勇気を与えているという。

                      木の葉書物館――『三十路連合〜奇跡の美容法〜』より抜粋


「へぇ〜・・・そんなことがあったの。そりゃ、紅がヒナタちゃんに勝てる要素は一つもないな!!」

「うむっ!!ヒナタは容姿・品行・家柄と三拍子そろった【木の葉撫子】だが、【木の葉・三十路連合】のリーダー格である紅には土台無理な話だ!!」

回想シーンが終わって二人とも好き勝手なことを言って盛り上がっているが、自分たちのことを棚上げしていることまでしっかり忘れているようである。

そして、その後ろで一人の夜叉がゆっくりと立ち上がったことにも気がついてはいなかった。
気がついてさえいれば・・・・・いや、これ以上の言及はよしておこう。

『いや、本当なんですよ!!私は何も知らないんです、見てないんです!!まさか、あの紅先生が・・・いやっ!!何も喋りませんよっ!!』

                                  居酒屋店主の証言より、一部抜粋


一つだけ言わせてもらえば破壊された店の看板には、

『三十路連合 参上!! 夜露死苦!!』

と、ラッカースプレーで書きなぐられていたらしい・・・・・・・・


「「「俺たちの安否はどうでもいいのかっ!!」」」


第九章 『僕らの一日半戦争!!』


翌朝、カカシ班の3人は開始時間の15分前に演習場に到着していた。
が、ここに先に来ているはずのカカシの姿がない。
サクラは何かブツブツと言いながら、かなり苛立っている。
サスケも冷静な表情をしているが、つま先をコツコツと鳴らしながら黙っていた。
ナルトはそんなことにはお構いなしに、ポーチの中身を確認し傷薬や軟膏のチューブをカルサンのポーチに入れると軽く準備運動を始めた。

『さて、この演習でカカシ先生の実力を引き出さないことには納得がいかない。まずは表技で様子を見て、それからもう一度チャンスを見計らって影技で戦闘・・・・』

ナルトが頭の中で戦闘イメージを膨らませていると、背後からのんびりとした声が聞こえてきた。

「やぁー諸君、おはよう!!」

「おっそーーーーいっ!!」

サクラの怒りはもっともである。
結局、カカシは開始時刻を3時間も過ぎておきながら悠然と準備をしだした。
カバンから目覚まし時計が取り出され、正午ジャストにアラームをセットして丸太の上に置かれた。

「ここに鈴が二つある。これを昼までに俺から奪い取ることが、この試験の最終課題だ。ちなみに、取れなかったやつは弁当抜き!!」

ナルトは聞いていなかったが、この最終試験を受けるに当たってカカシは『朝食抜き』を付け加えていた。
当初はかなり激しくなるので吐き戻さないようにという考慮かと思われていたが、真実を知ったサスケとサクラはあからさまにゲンナリとした顔をした。
反対にナルトはネジから話を聞いていたし、一週間水だけで任務に就いたこともあったので特に問題なかった。
経験の差がこのようなところにも如実に現れているのだから、改めてナルトの凄さを思い知らされる。
にしても、やはり少々大人気ない話だとは思う・・・・・

「鈴は一人ひとつずつでいい。ふたつしかないから・・・・・必然的に一人は丸太行きになる」

小さな美しい音をたてる鈴に、3人の目が自然に注がれる。

「鈴を取れなかった奴は、任務失敗ということで失格!!つまり、この中でも最低一人はアカデミーに戻ってもらうことになるわけだ」

ここまで話して初めてカカシの右目が鋭く光り、サスケとサクラは気圧されたかのように真剣な表情になった。
ナルトはそれを聞いてもまったく動じることなく、戦闘靴の脚甲が反射する陽光に眼を細めていた。

「手裏剣も使っていいぞ。俺のこと殺すつもりでかかってこないと、鈴は奪えないだろうしな」

「で、でも先生!!危ないわよ!!」

サクラが慌てて言い返した。
が、ナルトがそれを聞いて吹き出したので今度は怒り出した。

「ちょっと!!何がそんなにおかしいの!!」

「いや〜・・・・あんまりにもズレタことほざいてるからつい。っていうか冷静に考えろってばよ。お前の実力で、上忍を殺せるとでも?」

そこまで言われて気がついたのか、サクラは不機嫌そうに下唇を強く噛んだ。
カカシはナルトの言葉に、少し認識を改めた。
実のところ、カカシはナルトのことを典型的なバトルジャンキーだと思っていた。
だが、分析能力も持ち合わせているならば、これほどやっかいで手ごわい奴はカカシが記憶している敵の中にもそうはいない。
よく『柔よく剛を制す』という言葉を聞く。小さな力であっても、相手の力を利用したり工夫することで自分よりも実力の高い敵を倒せるという意味だ。
だが、それが通じるのはあくまでもルールのあるスポーツや勉学の話。
自分たちが身を置くこの修羅の世界においては、『弱肉強食』という言葉が一番重要視されるのだ。

「ふふ・・・・まっ!!俺のことも少しは認めてくれたみたいで嬉しいよ。んじゃ、そろそろ始めようか・・・・よーい、スタート!!」

カカシの合図を皮切りに、各自ほぼ同時に散会した。


しかし、ナルトにはすでにこの試験の意図が判断できていた。
三人一組という編成に対して、たった一人が落ちるという言葉の裏に隠された真実。
知ってしまえばたやすく理解できるが、まだ任務経験のない候補生たちには初歩的なトリックが難問に化けて見えるのだ。
答えが分かっている以上、すぐに行動に移すべきだろうが生憎あの二人とうまくやれるとは思っていない。
それに、どこぞの主人公が経営する何でも屋のようなことをするつもりはさらさらない。
そんなことをして時間と労力を無駄にするくらいなら、自分自身の鍛錬や他の見込みのありそうな奴らと一緒に行動していた方がまだためになる。
だが、いずれこの木の葉を餓狼の下位組織に置くことになったとき、先見者に選ばれた自分が勝手な行動を取れば後々問題になるだろう。
アメとムチを使い分け、生かさぬように殺さぬように蛇のごとき狡猾さで支配していくこと。
力押しで言うことをきかせるのは簡単だが、その度に『お得意様方』のお手を煩わせるわけにはいかないのだ。
裏社会で嫌われるものは、

『詮索屋・金食い虫・役立たず』

の三つである。このうちどれか一つでも満たそうものなら、切り捨てられて養分にされるのが裏社会の最低限のルールだ。
今ここで考えられる賢い選択は、

『スカシブラックの自称天才に、色ボケピンクとうまくやっていく』

しか残されていないことに、ナルトは深く溜息をついたのだった。


「忍足る者、基本は気配を消して隠れるべし」

とはいえ、上忍であるカカシには候補生たちの気配を読むことなどたやすいこと。
隙をうかがうサスケとサクラの位置を、カカシは風向きと気配だけですでに把握していた。

――よし、皆うまく隠れたな・・・ん?ナルトの気配が感じられない?!

そう頭が判断したのと同時に、カカシは首筋に冷たい空気を感じた。
振り向いた瞬間、眼前にナルトが迫っていた。
カカシは驚愕に眼を見開き、バックステップで距離を取った。
が、ナルトは少しも追撃しようとはせず、ただ微笑みながらそこに突っ立っているだけだ。
カカシはいぶかしみながら、ナルトに声をかけた。

「へ〜・・・こりゃすごいな。俺がまったく気配を感じ取れないなんて、今までこんなことなかったからなぁ」

「おいおい・・・そりゃ、簡単な任務ばっかりやって腕が鈍ってるだけなんじゃねーの?」

「厳しいこと言うね・・・・まあ、実際そうなんだけどなぁ」

暗部を離れてからというもの、カカシに来るのは『ランクA』と銘うった『ランクB』か『ランクC』辺りの任務だけだった。
時代が移り変わるに連れて組織自体の見えないところに腐敗が進み、受理する任務のランクがごまかされていたり、実際の金額以上の報酬を受け取って一部を行政府の幹部が着服することなどざらだった。
そのため、カカシ自身最近はサボりがちなところがあった。
その鬱積した日々に終止符を打ってくれそうな気がして、カカシはナルトを自分で受け持つことに決めたのだ。

「さて、お前は実際どんなことが得意なわけ?銃を下げてるわけじゃないみたいだし、遠距離から攻撃するつもりならとっくに俺は死んでるだろうし」

「へぇ・・・・そこまで理解できてるなら話は早いってば。俺がここで確かめたいのはあいつらが使える連中かということと、先生自身の実力だってばよ。なぁ、写輪眼のカカシ・・・・」

最後の言葉に、カカシの右目が鋭く光る。
カカシ自身、ナルトの実力の高さはすでに把握していたが、どこまでコントロールが可能なのか知りたいと思っていただけに思わぬ好機だった。

「ほう!!俺のことまでしっかり調べてあるわけだ・・・だが、調べてるだけじゃなあ!!」

カカシは言うが速いか、今度は自らナルトとの距離をつめ勢いをつけて左わき腹に回し蹴りを放った。
常人なら入院半年コースだが、ナルトにしてみれば止まっているのも同然。
体さばきで軽くいなすと、また距離を取り何かを投げるように下方から右腕を勢いよく振り上げた。

「クルダ流交殺法表技・刃拳!!」

言い放ったナルトの腕からは何も飛んでこなかった。
いや、そう見えただけでカカシの右目は放たれた『赤いチャクラ』が一瞬現れてすぐに消え去ったのを確認していた。

『飛び道具か?どこへ消えた・・・ん?この風切り音は・・・まさかっ!!』

気がついたときには、カカシは身体を上半身と下半身にキレイにぶった斬られていた。
鈍い音を立てて肉体が地面に落ち、あたり一面にどす黒い血液がしみこんだ・・・
が、よく見てみればそこには変わり身専用の丸太がちゃっかり転がっている。
ナルトがそれを確認していると、別の方向からのんびりとした声が聞こえてきた。

「驚いたな。拳風だけで真空波を巻き起こし刃にして放つとは・・・・『クルダ流交殺法』なんて聞いたことのない体術だ、よかったら詳しく教えてくれないか?」

「先生、忍は仲間内でも自分の武器を簡単に教えるのか?体術については教えられないけど、本気で戦ってくれるならこれをあげてもいいってばよ」

ナルトはポーチから一冊の本を取り出し、カカシに表紙を見せた。
その題名を見たとき、カカシの右目が最初よりもはるかに驚愕したように見開かれた。

「そ・・それは・・・幻の18禁小説!!イチャイチャスレイブ!!ど、どうやって手に入れたんだ?」

カカシは今にも飛びつかんばかりに興奮し、鼻息が馬並に荒くなってきている。
ナルトは獲物が自分の手のひらに落ちてきたことを確認し、さっそく交渉に入った。

「ん?知り合いの古書コレクターから読まないからって譲ってもらったんだってば。先生ほどのフリークなら、この未開封本がどれだけの価値があるかわかるよな?」

『イチャイチャスレイブ』。読んで字の如く、いやらしくて過激な行為に及ぶ二人の男女の物語だ。
書物や映像などの大衆文化には『審査』が必要になる。
その内容いかんによっては、日の目を見ることなく闇へ封印されてしまうこともある。
イチャスレも例外ではなく、あまりの内容の過激さに審査委員会から出版差し止めをくらった。
おかげで書店に並べられたのはわずか一週間だけで、売れたのはたったの数十冊というからその希少価値の高さは十分にうかがい知れる。
一冊の値段は当時、消費税込みで70両。それが今では、その倍以上の値段で買い求められているのだ。
ちなみに、その内容を大幅に再編集して出版されたのが、ごぞんじ『イチャイチャパラダイス』である。

「本気を出せば本当にくれるんだな・・・本当だなっ!!」

「取引で嘘つくほど、馬鹿じゃねーってば」

「よし、わかった・・・・他の二人を相手したらすぐに始めよう。待ち合わせの場所はどこにする?」

「んじゃ、この川を挟んで向こう側の原っぱにするってばよ」

「よし!!男に二言はなしだ、本気で戦ってやる。そして、必ずイチャスレを俺の物にしてみせる!!それまで待っているがいい、フハハハハハハハハ!!」

まるでRPGに出てくる中ボスのような台詞を残して、カカシは風と共に姿を消した。
ナルトも次の戦闘を楽しみにしながら、自分もゆっくりと歩きながら別の場所へ移動した。


この光景を見て、サスケは動揺を隠せなかった。
ナルトはカカシに対して真っ向から戦いを挑み、何らかの攻撃で大ダメージを与えそうになったばかりか、変わり身の術まで発動させるという信じられないことをやってのけた。
昨日のトラップもそうだったが、これで確信した。

――奴は間違いなく、俺の道の障害になる!!

普段から演習でナルトのレベルの高さは認識していたが、よもやここまでやるとは思ってもみなかった。
もっとも、サスケはナルトの本当の実力を知らない。
だが、アカデミーに入学して以来ずっとトップの成績を収めてきた(ネジの足元にも及ばないが)サスケにとってこれ以上の屈辱は無かった。
あの男――うちはイタチを自分の手で殺すそのときまで、自分は常に最高の位置にいなければならないのだ。
それを超える者など、断じて許してはならない。
サスケは場所を移しながら、胸に湧き上がる焦燥感を押さえようと必死になっていた。


サクラはさらに混乱していた。
昨日の一件を思い出せば安易に理解できたはずだが、所詮凡人でしかない彼女はそれに気がつくことなく自然にサスケのことを気にしだした。

『サスケ君、どこへ行ったのかしら?!』

身を低くしながら木々の間を走り抜ける。
試験というこの状況においても、己の力を試さず他人を頼る者は絶対に大成しない。
サクラはその心構えにおいて、最初から失格だった。
おまけに、音を立てながら移動するという基本的なミスをしていることからも、サクラの戦闘関係の演習レベルの低さがうかがい知れる。

『まさか・・・もう先生に!!ううん、そんなことないわ・・・・サスケ君のことだもの、一番に鈴を取るはずよ!!』

と、そのとき目の前の茂みの間から『銀色の物体』が見え隠れしているのを発見した。
それがカカシだと根拠ゼロで決め付け、何とか隠れて様子を見る。
視線の先でカカシが読書をしていたので、偶然ながら一応危機を回避したらしい。

『セーフ!!まだ、こっちには気がついてない!!』

まったくもって、うかつな候補生だ。隠れる瞬間にまで大きな音を立てておきながら、それに気がつかない上忍がいるわけがない。
カカシが自分に背を向けて別方向に歩いていくのを確認すると、サクラも用心しながらサスケを探そうと行動を再開する。
が、そうは問屋がおろさない。

「サクラ、後ろ・・・・」

「へ?」

とっさに振り向くと、目の前にカカシが迫っていた。
その直後、眼の前に木の葉が舞い落ちて風に流れカカシの姿が崩れるように消えうせた。
サクラはそれをボーッとした表情で見つめるだけで、何の行動も起こさなかった。
気がついたとき、背後でまた何かが動く音がして一瞬緊張した。

「さ・・・サクラ・・・・」

「っ!サスケ君!!

一番聞きたかった声が聞こえたことで安心しきったサクラは、眼の前に出現した光景に言葉を失った。

「さ・・・サクラぁ・・・・助け・・・て・・・くれ・・・」

片腕が肘から下まで切り取られ、背中には数本以上も刃物が突き刺さっている。足首はありえない方向に捻じ曲がり、満身創痍の状態で自分に助けを求めている。

「あ・・・あ・・・あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

この恐怖の光景に、サクラは凄まじい悲鳴を上げ泡を吹いて気絶してしまった。

「ありゃ・・・少しやりすぎたかな?」

あっさり倒れてしまったサクラを木の上から見下ろしながら、カカシは頭をかきながら呟いた。


太陽がそろそろ真上に達しようとしているころ、サスケは一人開けた場所に立っていた。
背後からサクラの悲鳴が聞こえたのを確認すると、後ろに立っているカカシに声をかけられた。

「忍の心得・・・その2・幻術。サクラの奴、あっさりひっかかっちゃってなぁ」

「(フン・・・まあ、サクラのレベルならそんなところだろう)だが、俺は簡単にはやられないぜ?」

サスケの自信たっぷりの言葉に、カカシは内心溜息をついていた。

『はあ・・・・お前みたいな自意識過剰なガキが、いったいどうすればトップで卒業できるのかねぇ?やはり、上層部が手をまわしてたっていう噂は本当か・・・つまんないねー』

おおよそ上忍らしくない台詞を心の中で呟いているが、サスケはすでに攻撃態勢に入っているため一応真面目なふりをすることにしたカカシであった。

「さて、アカデミートップの実力・・・どんなものかな?」

「フン・・・舐めてると痛い目にあうぜ!!」

「ふふ・・(早く攻撃してこいよ・・・・ったく、ナルトから本がもらえなくなったらどーしてくれる!!)」

サスケの手から、3枚の手裏剣がすばやく放たれた。
カカシはそれをあっさりと回避する。

「馬鹿正直に攻撃しても駄目だよ!!」

冷静なときのサスケは的確な判断力と実力を発揮できるが、頭に血が上っただけで動きが雑になる傾向があるとイルカの通知表のコメント覧に記してあった。
カカシはうまくそこまで誘導しさっさとナルトのところへ行くつもりだったが、これぐらいでは引っかかってはくれなかった。
サスケが不敵な笑みを浮かべると、カカシの周囲のどこかで糸が切れるような音がした。
するとその直後、横から短刀が矢のようなスピードで飛んできた。

『トラップかっ!!』

油断して少しバランスを崩したのを、サスケは見逃さなかった。
そのまま背後に現れると、左足で後ろ回し蹴りを放った。
カカシはそれを左手の甲で防御すると、余った右手でサスケの左足を掴みガッチリと拘束する。
しかし、サスケは怯むことなく勢いを利用して右拳を固めて打ち下ろした。
もちろんそれもカカシの左手に防がれて拘束されるが、それはサスケの思考の範疇でのできごとだった。
右手と左足を拘束されたことにも動じず、サスケはまた勢いよく身体の向きを入れ替えながら残った右足でカカシの顔面を狙った。
それもカカシの交差した両腕に阻まれるが、両腕でふさがれたことを利用して直接鈴を奪取する千載一遇のチャンスを手に入れ、サスケは勝負を決めにかかった。

『くっ・・・こいつ!!』

しかし、サスケの攻撃はカカシがすばやく後方へ飛んだことによって、惜しくも防がれてしまった。

『む、【くさっても鯛・滅びてもうちは一族】・・・・才能はあるんだけどなぁ・・・』

もちろん、サスケの他にも秀でた戦闘能力を見せた者は数多く存在する。
だが、それは天与の才であったり努力の結果であったりと種類は様々だ。
先程の言葉を借りるなら、サスケは間違いなく天与の才を持つものだろう。


「・・・・・・・・あれ?・・わたし・・・」

サスケとカカシが戦っている間、少し離れた森の中でサクラは目を覚ました。
頭を2・3度振って意識がはっきりしてくると、さっきの恐怖映像がまた脳裏によみがえってきた。

『――そうだわっ!!サスケ君が死にかけてて、それでわたし・・・・!!』

「サスケくーん!!わたしを置いて死なないで――!!どこなの――!!」

サクラはまたもやサスケを探して、森の中に響き渡るような大声で叫ぶのだった。


「まっ!実力があるってことは認めてやるよ」

サスケはフンと鼻を鳴らすと、おもむろにすばやく印を結んだ。

『馬・虎ァァァァァァァ!!』

『なっ?!その術は下忍ができるような・・・・くっ!!【炎を操るうちは】はダテじゃないってか!!』

カカシは驚愕に眼を見開いた。
サスケが組んだ印は中忍レベルの物で、卒業したばかりの下忍に扱えるような代物ではなかったからだ。
サスケはそんなカカシを尻目に大きく息を吸い込むと、超怒級の火の玉を口から放った。

「火遁・豪火球の術!!」

とんでもない火力が地面を抉り、カカシは炎に包まれて見えなくなった。
しかし、煙が薄くなったその場所にカカシの姿はなかった。

『くっ!!どこへ行った・・・上かっ?!』

サスケはカカシの姿を探して、慌てて周囲を見渡した。
そのとき、地面が崩れて下から伸びてきた手に足を掴まれた。

「なにっ!!」

「ふふ・・・土遁・心中斬首の術」

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ・・・!!」

サスケは叫び声と共に地面に引きずり込まれ、首だけ出して身体はすっかり埋まってしまい身動きが取れなくなってしまった。

「忍の心得・その3・・・忍術だ。やっぱり頭角を現してきたか、でもまだまだ甘いな」

「くそっ!!」

カカシとの実力差を思い知らされ、サスケは一人悪態をつくのだった。


正午30分前、カカシはナルトの前に姿を現した。
ナルトはカカシを確認すると、座っていた岩の上に本を置き真っ直ぐに向き合った。

「先生の実力、楽しみだってばよ・・・」

「ふふふ・・・それじゃ見せてやろう、これが写輪眼だ!!」

カカシは額当てをずらすと、赤い輝きに三つの巴紋が刻まれた瞳が現れた。
それこそが、カカシの戦歴に多くの功績を残す力となった武器『写輪眼』だ。
カカシは腰を低く落とすと、瞬時に前に出て勢いをそのままに延髄蹴りを放った。
が、驚くべきことにナルトはそれを右甲軽くガードした。
カカシはなおも右拳を繰り出しでボディーを狙うが、それも左足の脛で弾かれてしまう。
それからしばらくの間、カカシの攻撃が続くがほとんど弾かれてしまっていた。

「はぁ〜・・・・足を使って自在にガードし、時には手も使う。防御も完璧か、こりゃかなり骨がおれそうだ」

「いや、実際良い攻撃何発もくらってるし。これ以上のガードは少し本気を出さないと俺でも難しそうだってばよ」

「ん?ということは、俺はお前に本当の意味で認めてもらえたわけか」

「ああ!!だからここからはもっと本気でいく。そして、先生自身の眼で見て俺を認めてもらう!!」

カカシはますますうれしくなった。
他人を認め、そして自身の実力を確かめてもらうことは共に戦う者同士にとって、この上も無く幸せなこと。
それが互いの信頼につながり、本当の意味でのチームワークが生まれるのだ。
一人の強者がワンマンで引っ張っていくチームなど、最初はうまくいっていても必ず途中で空中分解を起こしてしまう。
それが単に仲間割れや意見の相違ならいいが、それが元で殺し合いに発展することも十分に考えられる。

「んじゃ、改めていくってばよ!!クルダ流交殺法影技・爪刀!!」

「こいっ!!ナルトォォォォッ!!」

ナルトが振りぬいた右足から放たれた真空波は、地面の小石を巻き上げ凄まじいスピードで迫ってくる。
しかし、そこは写輪眼の力。卓越した洞察力でナルトの動きを先読みすると、致命傷を避けるように距離を詰めクナイで斬りつける。
ナルトの身体に初めて傷がつく。
しかし、猫に引っかかれたような小さな傷だった

「あれ?もう少し傷が深くなるように攻撃したんだけどな・・・・・お前どういう身体してるわけ?」

「へへへ。これも、『意志力』がなせる技だってばよ!!」

「意志力って・・・・本当に体術なの?クルダ流交殺法っていう名前の、超能力じゃないだろうな?!」

「ウ〜ン・・・・3500年前にいた『スカー・フェイス』っていう人は、雷よりも速く攻撃できたって話だけど」

「体術じゃない!!そこまでいったら、人間の領域を超えてるよ!!」

「忍者だって、一般人から見れば十分人間じゃないってば。まっ!とにかくクルダ流は無敵の体術だってことだってばよ!!」

ナルトは身体を低くすると、走り出しながらそのまま攻撃に移った。

「クルダ流交殺法九煌流・悪夢の咆哮 (ナイトメア・ハウリング)!!」

カカシの眼前からナルトの姿が、また消え去った。
最初のことを考えて、今度は目を閉じて全神経を研ぎ澄ませナルトの位置を探る。

ウォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・
ウォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・

すると、狼が吼えるような音が向こうから聞こえてきた。

『この音はあいつの神速のスピードが鳴らす、風の音だろう。ということは・・・!!』

カカシは眼を開き、音で位置を察知してナルトの姿を確認しようとした。
が、またしてもそこにはナルトの姿は無かった。
しかも、音だけが自分を取り巻いている上に、姿も気配もまったく感じられないのだ。
と、そのときさっきまで見えなかった金色の髪が、眼前に突如姿を現した。

「クルダ流交殺法表門死殺技・渺阯!!」

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!! ズドォォォォォォォォッ!!

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

零距離で放たれる凄まじい拳撃の嵐をカカシはまったくガードできず、そのままふっとばされて川に落ちてしまった。

――ナルトの右手には、鈴が二つ握られていた。


気がついたとき、カカシは木の根元に寄りかかっていた。
横を見ると、ナルトが自分の身体にチャクラを帯びた手をかざし、自分の傷を癒していた

「お前、掌仙術まで使えるの?すごいなぁ〜・・・・・」

「おっ!!気がついたってば。先生やっぱ上忍だなぁ、初手を察知して回避したし渺阯までくらって生きてんだもの」

「おいおい・・・俺のレベルに合わせて攻撃してきたんだろ?」

「それでも、あそこまで対応できるのはやっぱり先生が実力者だからだってばよ!!で、先生ってば俺のこと認めてくれた?」

「ああ・・・お前は強いよ」

「へへ・・・」

嬉しそうな顔を見ていると、この間見たあの冷たい眼差しが嘘のように思えた。

――まったく、こいつは本当に先生にそっくりだ。


まだ少年だった頃のカカシは、父親の理不尽な死がトラウマになって規律と任務を一番に重んじ、他人の生死など意に介さず冷徹に生きようとしていた。
仲間との絆なんて邪魔なだけと常に孤独に身をおき、アカデミーの演習でさえ相手を半殺しにしたことがあった。
だから、カカシの周りには友達なんてひとりもいなかったし、本人も作りたいとは思わなかった。
ある時、担当上忍だったカヤクと二人で話したことがあった。

「カカシ。君が強いのは分かるけど、もう少し他の二人に合わせられないかな?ね!」

「先生、あの二人――特にオビトなんかに合わせていたら日が暮れちゃいます。出来ない奴はほっといて、残りの人数だけでやればDランクならすぐに終わりますよ」

「でも、カカシの言うとおりに毎日していたらオビトは任務に参加できなくなってしまうよ。それでもいいのかな?僕はさみしいな」

「規律を守れない奴や任務を疎かにするような奴は、チームには必要ありません。オビトがやめて他の奴が入隊してくれば、任務の効率も上がると思うのですが?」

カヤクはその言葉に少し悲しそうな眼をしながら顔を伏せ、そしてカカシの両肩を掴み真っ直ぐな瞳で見つめながら、やさしく説き伏せるようにゆっくりと話し出した。

「君はまだ経験も浅いから理解できないかもしれない。けど、これだけは言っておくよ。チームに必要のない人間なんていない。誰だって気がつかないだけで、すばらしい才能を持っているものなんだ。それを感じられるようになったなら、いつかすばらしい忍者になれるよ。ねっ!!」

いつでも足手まといだった親友は、そのきっかけをカカシにくれたままこの世から消えうせた。
自分が殺したも同然だった。
あのときほど、自分の愚かさを呪ったことはない。
だからだろうか。朝、任務が始まる前に早起きして慰霊碑におまいりに行くと、あの頃の自分自身を戒めたくて何時間も佇んでしまうのは。
あの時、自分にカヤクの言葉が理解できていたなら、あんな結果は回避できていたかもしれない。
親友が好きだと言っていたチームの少女は、大戦終結後、両親と一緒に里を出て行った。
里の入り口の前で背中を見送って以来、音信不通のまま消息は掴めていない。


ナルトの任務経験を調べたとき、ある表記がカカシの眼に飛び込んできた。

『任務において、仲間を死なせたこと一度としてあらず』

里人に虐げられ、常に暗い裏道を歩きさまよっていた少年。
その少年は、自分の師が教えてくれたことを体現していたのだ。
一騎当千の力を持ちながらもそれに溺れず、他者のことを自然に考えられることは、戦う者として絶対に必要な素質の一つだ。
隊長クラスになれば任務の成否、部下の死亡など多くのことが責任となって重くのしかかってくる。
特に隊員の命に関することは、一番重要な事柄だ。
かつて、カカシの実父・はたけサクモは、その取捨選択を迫られて隊員の命を選んだ。
今日においてそれは至極当然のことだが、名誉と戦歴の誉れが重要視されていた大戦時に、その行動は誰にも賞賛されることなく、いわれのない誹謗中傷の果てにサクモは自害してしまった。
そのトラウマは今でも癒えることなく、カカシの心に大きな傷痕となって残ったままだ。
大戦後、自分自身を見つめなおしたカカシは他者との付き合いを少しずつするようになった。
最初の内はなかなか打ち解けられず、話もろくに出来ない状態だったが、しばらくすると二人の友人が出来た。
それが、アスマとガイの二人だ。
そのうちの一人、マイト・ガイとは親友同士で勝負しあうほどの付き合いだ。
カカシは担当上忍に任命されたとき、一つ心に決めたことがあった。
多少厳しくても、すぐに理解できなくても、本当の意味で仲間を大切にできる下忍班を作りたいと。
それが長く罪悪感に苛まされてきた、カカシが出した答えだ。


「さて、お前はこの試験の【正解】を理解しているか?」

この言葉に対して、ナルトは当然のように【チームワーク】と答えた。
カカシは眼を細めて少し微笑むと、今度はその理由を尋ねた。
すると、ナルトはこう答えた。

「放りなげた石はしばらく飛んでいって、いずれは地面に落ちてくる。自由には限りがあって、そこについてくるルールや責任を蔑ろにはできない」

「それは任務にも言えることで、自分ひとりで突っ走って行ってできることには限界があるんだってば。だからそれ以上のことをしたかったら、仲間の意見や協力が必要でそれを大切にしなくちゃいけないんだってば!!」

「そのとおりだ。いくら力を持っていようとも、それを効果的に発揮し任務に生かしていくためには、チームワークを優先して動かなければならない」

と、ここで一旦カカシは会話を切った。
そして、また質問した。

「しかし、それがわかっていながら、お前どうしてあいつらと一緒に鈴を奪いこなかった?」

カカシの残念そうな表情に、ナルトは今までとは違う表情を見せた。
おもむろに、カルサンのポーチからクシャクシャに丸められた2枚のメモ用紙を取り出し、それをカカシに見せながら話し出した。

「試験が始まる前に、あいつらに渡したメモ用紙だってば。二人ともすぐに捨てちまったけど、これが先生の質問への答えだってばよ」

カカシはその一枚に書かれた文章を読み、しばらくすると今度は本当に嬉しそうな顔でナルトを見た。
メモにはこう書かれていた。

『この試験について話したいことがある。西側の広場に集合してくれ』

「お前って本当に凄いな〜!!ナルト、お前合格!!」

「やったってばよ〜!!」


この様子を執務室の水晶玉で覗いていた猿飛たちも、ナルトが持つ別の顔に驚いていた。

「カカシの作戦を逆手に取っての見事な行動。なかなかやるじゃないですか、こいつ」

特別上忍・森野イビキの言葉に、他の者たちも心の中で感嘆していた。
『忍は裏の裏を読め』という言葉があるが、ナルトはそれを見事に実践して見せたのだ。

「カカシの試験はちとキツイものがある。何せ子供は素直じゃからの〜」

猿飛の言葉に、隣に立っていたダンゾウもうなずく。

「ナルトは試験前にあのメモを二人に渡し、その行動をチェックしていたのだろう。しかし、【鈴は2つだけ。最低でも一人が脱落する】というカカシの言葉を信じ込んだ二人はメモを無視。自分本位な行動を取り、鈴を奪取しようと一人でヤッキになった」

その続きをゲンマが話す。

「この後、二人が不合格を言い渡されたとしても、【協力する意思】を見せたあいつだけは合格を考慮する余地があると判断される。1人でも合格が認められれば、他の班に同行できますからねぇ。最後まで、他の二人を見捨てなければ・・・・」

「では、そのときには俺のいる【拷問部隊】にさっそく・・・」

スパァァァァァァァァァァン!! スパァァァァァァァァァァァァン!!

イビキは自信を持って火影に申請したが、ダンゾウとゲンマの『ツッコミハリセン』の一撃によって危ないところで却下されたのだった。


『ジリリリリリリリリリリリリリリィィィィィィィッ!!』

目覚まし時計のベルが鳴り響き、試験終了が高らかに伝えたれた。
最初に集合した丸太の前に3人が座ったとき、その表情からして疲労の度合いが見て取れた。
ナルトは手加減したとはいえ死殺技を放っただけあって疲労が大きく、カバンからペットボトルのお茶を取り出して一息に半分も飲んだ。
だが、他の二人はそれさえ出来ず丸太の前にへたり込んで、下を向いて苦しそうに息をしている。

「おーおー・・・腹の虫が鳴っとるねぇ、諸君!!で、この試験の合否の判定だが・・・・」

サスケとサクラはまだ下を向いていたが、それでも耳だけは澄ませて一言一句を聞き逃すまいとしていた。

「サスケ、それにサクラ。お前たち二人は、アカデミーに戻る必要もないな」

明るい声で話すカカシに、二人の表情がパッと明るくなる。
それだけで、すでに自分たちは合格したと思っているようだ。

『しゃ――んなろ――!!愛は勝つ!!』

サクラは心の中で、思いっきりガッツポーズを決め、

「フン・・・」

サスケも不敵な表情で、自分の力を認められたと判断し合格を確信した。
が、ナルトはカカシの言葉に対して特に動揺するでもなく、むしろ喜ぶ二人を怪訝そうに見ていた。

「カカシ先生、ということはこの二人・・・・」

「ああ・・・お前の考えてるとおり、こいつらには忍者になる資格もアカデミーに戻る意味もない!!」

その冷たい言葉に、二人の表情が凍りついた。
真っ先に抗議の声を上げたのは、サクラだった。

「ちょ、ちょっと!!それいったい、どういうことよ!!確かに、鈴は奪えませんでしたけど、どうしてそんなことを言われなくちゃならないんですか?!それに、何でナルトだけが合格なんですか!!」

鈴を奪うことは出来なかったが、自分の抱いた夢までも真っ向から否定されるとは思わず、サクラは怒りに任せてカカシに食って掛かる。
もちろん、この時点でナルトが鈴を奪取したとは思っていない。

「お前ら二人とも、忍者になる資格のないガキだってことだよ・・・・」

カカシはあくまでも静かな口調だが、そこには有無を言わせぬ迫力が感じられる。
ナルトは奪取した鈴を手の中で転がしながら、まだ黙って聞いていることにした。

「なら、本当に資格がないかどうか・・・・確かめて見やがれ!!」

サスケは言うがないなや、拳を固めてカカシに殴りかかった。
しかし、カカシはそれをいとも簡単に捌き、逆にサスケの利き腕を捻って組み伏せて頭を踏みつけた。

「サスケ君を踏むなんて、ダメーー!!」

サスケは悔しそうな顔をするが、関節を完全に決められてまったく身動きがとれない。
カカシはさらに力を込めて踏みつけると、右目で思い切り睨みつけた。

「お前ら、忍者舐めてんのか?あぁ!!何のために班ごとのチームに分けて演習やってると思ってる?!」

「・・・だから、さっきからそれが聞きたいんです」

サクラの質問にカカシは盛大な溜息をつくと、ナルトを一瞬見て、それからゆっくりと言葉に出した。

「・・・ったく、それはチームワークだ」

「「!!」」

心底呆れたようにカカシが話すと、サクラがハッとした表情になった。

『――チームワーク・・・って、ちょっと待って!!』

「鈴が2つしかないのに、どうしてチームワークなわけぇ!!3人で必死に鈴を奪ったとしても、1人が我慢しなくちゃいけないなんてチームワークどころか、仲間割れするだけじゃないですか!!」

明らかに矛盾したこの正答に、サクラはさらに抗議した。
カカシは本当に頭が痛くなってきて、しばらく気持ちを落ち着けるとまた睨みつけた。

「当たり前だ!!この試験は技と仲間割れするように、不公平な条件を仕込んであるんだよ!!仕組まれた状況下にあっても、自分の利害に関係なくチームワークを優先できる者を選抜することが目的だった。その2点に関して、合格に相応しいのはナルトだけだ!!」

カカシはサスケを解放すると、近くの手ごろな岩に腰掛け、ウエストポーチからさっきの紙くずになったメモ用紙を取り出し困惑する二人に突きつけた。

「これに書いてることをお前たちが理解していれば、俺はここで全員に合格を宣言していただろうな・・・」

サスケもサクラも漸く意味に気がつくと、ナルトを見た。
ナルトは手の中の鈴を、玩ぶように空中に放り投げていた。

「ナルトはこの試験の正答を察知し、お前たちに収集をかけた。理解できなくても集まっていれさえすれば、作戦の立てようもあったはずだ。しかも驚いたことに、ここに指定された場所は俺が一番察知しにくいと考えていたところなんだよ・・・・ここまで言えば、ナルトがいかに考えていたか理解できるだろ?」

「それなのに、お前らときたら・・・・・サクラ!!お前はどこにいるのかわからないサスケのことばかり考えてたな!!任務に私情を挟んで、それでうまくいくと思ってるのか?恋愛にうつつを抜かしたいなら、忍者にならずに一般人やってろ!!」

「サスケ!!お前は最初から二人を足でまといと決め付け、個人プレーに奔った!!【うちは】の肩書きなんて、実戦になれば何の役にも立たない!!去年のNO.1ルーキーの足元にも及ばないくせに、思い上がるな!!」

正論を突きつけられ、サクラはまったく反論することが出来ず黙って俯き、サスケは屈辱に顔を歪めながらカカシを睨んだ。
カカシの言葉はなおも続く。

「確かに、忍者として卓越した個人技能は必要だ。だが、それ以上に優先されるのはチームワーク!!」

「任務は命がけのものばかり。それを達成するためには、一人ひとりがチームを動かすための歯車になることが重要になる・・・誰か一人が勝手な行動を取れば、それは即!!死に繋がるといっても過言じゃない」

カカシは3人に背を向けると、日時計を模した石碑の前に立った。
その表面を撫でていると昔の記憶がまざまざと蘇り、カカシは一瞬涙をこぼしそうになった。

「これは慰霊碑・・・ここには数多くの【英雄】たちの名が刻まれている。だが、ただの英雄じゃない・・・任務中に殉職した英雄たちだ。ここには、俺の親友の名も刻まれている」

カカシは眼を閉じると、少しの間だけ黙祷を捧げた。
すると、ナルトが呟くように言った。

「・・・・・先生、忍者にも餓狼にも・・・英雄としての価値はないってば。俺たちは誰かの命を糧にして生きる、罪人なんだから」

「なぜ、そう思う?」

「自分にとって都合のいい現実だけを認めて、他の辛いことすべてから目を背けていたら、命を奪って得た結果――価値あるものを次に繋げられない。俺たちは屍の山を築き上げ、その先も生きていかなくちゃいけないんだってば」

「それに・・・英雄っていうものは、他の誰かが自分たちに都合のいい象徴として創りあげた偶像のことだってばよ。本当に英雄だと思うなら、その姿は心の中にだけ留めておけばいい」

カカシはナルトの言葉に、同じ殺人者としての覚悟を感じ取った。
少し振り向いて右眼で見たその顔には、さっきまでの少年らしい感情などどこにも見当たらなかった。
そこに座っているのは、一人の殺人者であり、『男』だった・・・

「ああ・・・本当は、英雄なんて言って讃えるものじゃないんだけどな。【証】となる物がないと、不安でたまらなくなるんだよ。忍者って言っても・・・・ただのちっぽけな人間だ」

ナルトは未開封のペットボトル入りのミネラルウォーターを取り出すと、慰霊碑にかけてもいいかとたずねた。
カカシはただうなずいて答えただけだった。
言葉なきその空間には連帯感があった。
そして、骨のない墓に眠る戦没者たちへの敬意があった。
大量の水をかけられた慰霊碑は、陽光にきらめきを放ち二人の周りの空気を少しだけ涼しくした。
その場に入っていくことの出来ない悔しさを、サスケとサクラは噛みしめていた。

カカシは右目をまた鋭くして、サスケとサクラに声をかけた。

「お前ら・・・最後にもう一度だけチャンスをやる!!午後からはさらに厳しい、鈴取り合戦だ・・・参加したい奴だけ弁当を食え・・・・と言いたいところだが、鈴を取れなかった二人は飯抜きだ」

「ナルト、お前は単独合格の可能性があるから帰ってもいいぞ。ただし!!他の奴に弁当を食わせたら、お前も道ずれ失格だ!!」

カカシは3人に背を向けると、姿を消してしまった。

「昼飯は持ってきたから、別にいらないんだけどな・・・・・」

ナルトは手渡された弁当を見ながらしばらく黙っていたが、憔悴しきった二人のところへ歩いていくと目の前に出した。

「食え・・・腹、減ってんだろ?」

「ナルト・・・・あんた、話聞いてなかったの?!あたしたちに食べさせたら、あんたまで失格になるのよ?!」

だが、ナルトは何を言っているのかという表情をしただけで、サスケにも弁当を出した。
サスケは怪訝な顔をしたが、キッとした表情でナルトを睨みつける。

「くっ!!てめぇに情けをかけてもらうつもりはねぇ!!」

だが、それを鼻で笑ってナルトは言い返した。

「情け?笑わせるな・・・俺はこのまま不合格になりたくないし、お前らに元気を養ってもらうために弁当を出してるんだってば」

「あんた・・・こんなことしていいの?」

サクラの疑問に、ナルトはポーチから銀細工のブローチを取り出し、サスケとサクラに見せた。
非常に細かな細工が施され、牙をむいた狼の顔が模されている。

「餓狼に入団したときに、【牙ノ誓】を立てた証としてもらうものだってばよ」

ナルトは眼を閉じて、静かに話し出した。

「第一条・決して仲間を見捨てることなかれ。第一条補則。場合によっては、その場において始末せよ・・・・・」

「俺たちは心に牙を持つ獣・・・闘うことに意味を求めても仕方がない。罪悪を捨てて、鬼も眼を背けるような所業をやることも当然ある。それでも、戦う理由を自分なりに見つけたいから、俺たちは何かを捜し求めて牙を揮うんだってばよ」

「それを見つけるためには、一人よりも仲間がいたほうが頑張れる。だから、俺はこの弁当を差し出してる・・・これが情けになるか?答えろ」

サスケは顔を赤くしてただ一言、

「いや・・・違う・・・」

と、呟くように答えただけだった。

「じゃ、早く食ってしまえ・・・ってはや!!梅干ご飯だけにしとけ!!長時間、日なたに放置されてたから、おかずが悪くなってる可能性があるってばよ!!」

ナルトから弁当をもらうと、二人ともよほど腹が減っていたらしく凄まじい勢いで食べ始めた。
ナルトはおにぎりを二つと沢庵を取り出すと、ゆっくりと味わいながら食べた。

カカシはこの光景を見ながら、微笑んでいた。
ナルトはそれを察知していたが、落ち着いて食べたかったので言わなかった。
そのとき、

ドゴォォォォォォォォォォォォォ!!

凄まじい爆発が起きて、煙の中からものすごい形相をしたカカシが現れた!!

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「くっ!!」

「先生、足元に気をつけろってばよ」

「へ?」

ナルトの言葉に一瞬足元を見たカカシだが、時すでに遅し!!
迫り出した木の根っ子に足をひっかけて、勢いよく地面に顔面を叩きつけてしまった。

「んぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

形容しがたい痛みにカカシは暫し、のたうち回った・・・・

「ナルト・・・・もう少し大きな声で注意を促してくれないか?」

「いや・・・これは何と言うか・・・・ごめんなさい」

カカシはミイラ男のように包帯をグルグルに巻いた隙間から右目をのぞかせ、ようやく一言話すことができた。
かなり痛々しいケガなのだが、ギャクにしか見えないのがなんとも悲しい。

「で・・・・お前ら、ごーかっく!!」

「へ?!合格・・・どういうことですか?!」

一瞬唖然としたサクラだが、突然の合格宣言に思わず大声で驚いてしまった。
カカシは微笑みながら、その理由を話した。

「お前らが始めてだ。今まで俺の試験を受けた奴らは、『素直なだけ』のボンクラばかりだったからな。忍の世界で掟やルールを破る奴は、誰からもくず呼ばわりされる・・・・だがな、仲間を簡単に見捨てるような奴は、それ以上のくずだ!!もっとも、俺自身が親友から教えられたんだがな・・・・」

ナルトは話すカカシの瞳に、一瞬涙が光ったような気がした。

「これにて、演習終了!!第7班は明日より任務および訓練を開始する!!」


カカシの高らかな宣言によって、3人はこの試験に合格を果たした。
しかし、ナルトは一緒に帰る道すがら、その影を見つめながら考えた。
今こうして自分たちの影は重なっている。それは、同じ道を行くようにも見える。

だが、この重なりはとても脆く、儚い物・・・・
よく見れば、重なっているのはサスケとサクラ。そして、ナルトとカカシに分かれている。

同じ道を歩いていく気がしているだけで、俺たちは最初からてんでバラバラに歩いている。
自分の目的と守りたい物しか見えていなくて、そこへ突っ走っていくだけで精一杯なんだ。
ナルトは夕焼けの空を眺めながら、自分がこの里に染まらないように決意を新たにした。

そして、自らに脈々と流れる【修練闘士】の血に誓った。

『俺は俺にとって大切なものだけを、この手で守りたい』

と、強く誓った・・・・・


あとがきのようなもの

皆様、2週間ぶり(3週間かも)にお届けすることが出来ました。前回のレスにもためになる意見が数多くあり、今回はそれを少しずつ取り入れてみたつもりです。

さて、恒例のレス返しです!!

Bonze様>
始めまして。拙作を読んでくれて、ありがとうございます。ダークな展開をしつつ、時にはギャグを描きつつ楽しく書いています。
マチとヒナタですか・・・ほぼ、間違いなく・・・いえっ!!これ以上は何も言えません!!

(首に巻きついた糸のような何かを外そうと、こるべんとは必死だった!!)

読石様>
ありがとうございます!!感想は作者のエネルギーの源です!!
ヒソカさんですか・・・・あの人は気をつけないと何をしでかすか・・・んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

(何かを言おうとしたこるべんとの額に、ジョーカーの絵札が突き刺さった!!)

アト様>
毎回毎回、間違いのご指摘をありがとうございます!!そして、申し訳アリマセン!!
誤字だけならいざ知らず、文章構成において決定的なミスをしていたとは・・・・
これは本当は『9メートル階下のテラス』と書いて1階にいることを表現しようとして、見事に勘違いをしてしまいました。どうすればこんな勘違いをするのか、自分でも情けないです・・・・

スリーマンセルを原作どおりに組みましたが、ナルトは常に彼らと一緒に行動するわけではありません。
自分の鍛錬もしますし、ヒナタに念を教えたりします。別の班との任務も考えていますので、楽しみにしていてください!!
幻影旅団の名前と、ノブナガにフェイタンを今回は出しました。彼らは時々出てくるだけなので、本編自体のバランスは保たれるつもりです。次は中忍試験辺りでの登場を考えています。

Campari様>
本当ですね。『アル』じゃなくて『ある』でした!!
口調が間違っているとキャラクターのイメージまで変わってしまうので、今後気をつけたいと思います。
ご指摘ありがとうございます!!

名無しの権三郎様>
そこなんですよね〜・・・・カッコイイ技に限って、恐ろしい身体能力を持つ設定になっているという。
陰流絶命技・霊悪なんて、両手から衝撃波を放って獣魔を寸断してますし、カイ・シンク(悪)は目視できない拳で切刻んでますしね。
これだけの威力のある技を使用していたら、あなたのというとおり尾獣なんて足元にも及ばないかもしれません。
オリジナル奥義もそこのバランスは考えているつもりですが、他にも意見がありましたらばよろしくお願いします!!

ジェナミス様>
本編準拠の班編成。ですが、これからどうなるかは・・・・まだ秘密です!!本当ですよ!!
ヒナタとの関係を紅先生が知ってしまいました。連合にはその他、木の葉や他たくさんの売れ残り・・・
いえ!!誰とは言いません!!
木の葉の借金王とか顔に火傷した人が入ってるとか、そんなこと言ってませんよ!!
だから、私を解放しなさい!!出番をやらないぞ!!

(こるべんとはマフィアに捕まっていた!!)

イタクァ様>
誤字の指摘、ありがとうございます。間違いがないようにチェックしているのですが、まだまだ足りないようです・・・・・今後さらに気をつけます。

鬨様>
ナルトの班編成に関しては、私も同じようなことを考えていました。
でも、よく考えてみるとバラライカや張がそこまで手を貸すとは考えにくいですし、幻影旅団は自分たちの好きなことを楽しむ人たちですから、彼らも木の葉に脅しをかけるとは考えませんでした。
そこで、カカシ班に登録しながらも、別行動を取る権利のようなものを考えています。
別班との任務では、今のところガイ班との任務を考えています。バイオレンス物にするつもりなので、楽しみにしていてください。


今回も多くのレスをありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします!!
では、また次回でお会いしましょう!!

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