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「魔除けの鐘を鳴らす者達 第14話 (ス−パ−ロボット大戦)」

太刀 (2006-08-05 18:46/2006-08-06 15:19)
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第14話 ATXチ−ム


そこは戦場だった。
いたる所に銃弾が飛び交い、人の悲鳴と建物が崩壊する音が耳につく。
ほんの半日前までは休日と、言うこともあり多くの人で賑わっていた街も、今では無惨に破壊の爪痕が刻まれている。

極東にある島国の首都がある場所だ。世界有数の防衛力で護られた都市であった。
地球連邦政府は数多くの敵対組織が存在する。
その者達が何故、連邦政府の政治中枢がある南アフリカ大陸のダカ−ルや、軍事力が集結されている南アメリカのジャブロ−や北アメリカ大陸のシャイアン基地を攻め込まないのか?
戦略的に見れば其方を攻略する方が有効だ。
だが、其れ等を無視しても、この島国を征服するのには理由がある。
どういった訳か、この島国には超エネルギ−

『ゲッタ−線』『光子力エネルギ−』『ム−トロン』『超電磁エネルギ−』

と従来とは比べ物にならない程のパワ−を発揮するエネルギ−の研究所が数多く存在する。
どのエネルギ−一つでも手中に収めれば、世界征服が格段と容易くなるうえ、放置しておくには危険すぎる。
暴力によって、抑圧した世界を作り支配しようとする以上。いつ野心家以外とは別の力で覆されても可笑しくは無い。
危険な芽は刈り取っておくに限る。
野心家が危惧する芽。それは超エネルギ−によって可動する特機。ス−パ−ロボットを指す。
それと独自に特機を開発する程の技術力を持つ其々の研究所もだ。


世界から見れば、ちっぽけな島国に何故是ほどの研究所が集中しているのか?
それは、実用化された動力炉は問題ないのだが、デリケ−トな実験やテスト運用は、何故かこの島国でないと上手くいかないのだ。
一度、あまりにも超エネルギ−が集中する極東に危機感を覚えた連邦政府が、北アメリカ大陸のロッキ−山脈の地下にある研究施設に新たなゲッタ−線の研究所を開設した。
そこで、極東支部と同じ実験を行った所、原因不明の暴走事件が起きた。

極東支部では何百回と行われた、危険度レベルDマイナスの実験であった。
一度として暴走など起こした事はない。
強引に新たなゲッタ−研究所を新設したので早乙女博士の協力を得る処か、早乙女研究所に保存されている膨大なゲッタ−線の研究デ−タのみを地球連邦政府の名において徴発しただけであった。

しかし、その場に早乙女博士が居ないでも限り、エネルギ−暴走を止める事はできなかったろう。
暴走してから五分後には、地下施設を含んだロッキ−山脈の半分を完全に飲み込んで消滅したのだ。
施設の職員約2万人や、視察に来ていた連邦政府上級委員の役員達全て平等に死の鎌が首に振られた訳だ。
生存者はなし。
地上にあった民間施設や一般住宅の死者も含めると数百万人は犠牲になった。
被害総額は数十兆円。

超エネルギ−分散計画はアメリカ出身の政治家が、強引なゴリ押しで進めていた計画であり、その政治家も視察に訪れた時にゲッタ−線暴走事件に遭い死亡した。
元々、早乙女博士は計画に反対していた。反対理由の資料をその政治家に渡しのだが、政治家は、受け取りはしたものの一読もせずシュレッダ−にかけたのであった。

計画の根本にあった政治家達の動機は、超エネルギ−によって莫大な利益を我が物にしようとしていただけあって、どんな理由があろうと移転計画は止めれなかっただろう。
だが、移転反対が書かれたレポ−トは正式な手続きで送られた物であり、公式記録に残っていたのが、早乙女研究所にとって救いだった。

当初はアメリカを中心にゲッタ−線に対する抗議デモが続発した。
これは計画を進めていた政治家と同じ利潤を吸おうと参加していた者達が、意図的に流した改竄情報からもたらされた物であった。

だが、公式記録にも残っているレポ−トの内容を発表する事で事態は収まった。
内容を大まかに説明すると、立地条件に在るとレポ−トには書かれている。
極東の海に囲まれた島国でしか特殊な超エネルギ−の実験を行えないのは、地球を巡回する龍脈が関係すると記載されていた。
非科学的な話に突入するが、其れ以上に納得がいく説明がないうえ、被害者の遺族の憎悪が別の連中に向けられたのも大きい。
警告を無視して強引に計画を進めていた、真犯人とも呼べるアメリカ出身政治家の仲間達にだ。
利潤を吸おうと策謀していた政治家の仲間達が一斉に摘発された事もあり、早乙女研究所には何等ペナルティ−を受けるには至らなかった。

これ等の一件で超エネルギ−研究所移転計画を推し進めようとする地球連邦政府の政治家は居なくなった。


「キョウスケ。Bブロックの民間人の避難はすんだわ。でも、是以上は持たないわよ!」

炎が街を焼く戦場で、白き騎士ヴァイスリッタ−の操縦者エクセレン=ブロウニングが隊長代理で部隊を指揮している恋人のキョウスケ=ナンブに、防衛網を一時的にも下げないと崩壊すると無線で話す。

「わかっている。だが、今此処を俺達が離れる訳にはいかん」

極東支部所属。独立遊撃隊ATXチ−ム副隊長キョウスケ=ナンブ少尉は相棒の言い分を理解しながらも、持ち場を離れる訳にはいかないと判断した。

本格的に活動を開始したATXチ−ムの今回のミッションは、首都を強襲してきたDrヘルの機械獣軍団からの首都防衛である。
状況は不利を通り越して劣勢だ。

味方の機体はキョウセケ少尉が駆る真紅の重騎兵アルトアイゼン。
相棒のエクセレン少尉の高機動砲撃専用にカスタマイズされたヴァイスリッタ−。
複座型のヒュッケンバインMk-兇離瓮ぅ鵐僖ぅ蹈奪函マオ・インダストリ−社からの出向でATXチ−ムに所属しているリョウト=ヒカワに索敵や通信を担当するサブパイロットのリオ=メイロン。
ヒュッケンバインの前身となった機体。ビルトシュバインを操るラトゥ−ニ=スゥボ−ダ少尉。

現在。まともに戦闘できる機体は四機しかいない。
ATXチ−ムの四機だけで何百機と攻め込んできた機械獣と戦っている。
他の味方は最初に強襲攻撃を受けた時に撃墜されてしまった。
当初、首都防衛を担当していた部隊はジェガンで編成された1個大隊であったが、多勢に無勢で機械獣軍団の物量に飲み込まれた。
ATXチ−ムが救援要請を受け首都に到着した時には、すでに都市の半分は壊滅していた。

この場にはATXチ−ム以外、まともな戦力は存在していない。
他の戦力は遠く離れた別の場所で、ATXチ−ムとは別の戦いに赴いている。
此方に割ける戦力は極東基地には、もう無いのだ。
極東支部の戦力は使徒戦において壊滅した。その為に極東支部には


『獣戦機隊』  
『マジンガ−チ−ム』
『コンバトラ−チ−ム』
『ゲッタ−チ−ム』 
『ライディ−ンとコ−プランダ−隊』

が残っていたのだが、首都がDrヘルの機械獣軍団に進行される数刻前に九州にある工業地帯。
量産型ゲシュペンストを生産する最大規模の工場地帯が、妖魔帝国に襲撃を受けた。
妖魔帝国の軍勢の規模は是までで最大。
背水の陣を踏まえたうえでの襲撃だろう。だが、裏を返せば妖魔帝国にはもう残存兵力が残っていない事でもある。
ここで妖魔帝国の軍勢を倒せれば、妖魔帝国は恐竜帝国と同様。今後まともな活動ができなる。

ピンチでもあるがチャンスとも言える。
極東支部の長官代理イゴ−ル准将は極東で待機している特機部隊全てに出撃命令を下した。
その判断は間違っていない。
今までにない最大規模の敵戦力を相手にするには、特機部隊全てでも足りない位ぐらいなのだ。

本来、ATXチ−ムも九州方面の作戦に参加する予定だったが、ヒュッケンバインMk-兇裡圈檻味稗裡縫轡好謄爐猟汗阿房蟯崋茲蝓⊆舂鷲隊である先発隊ではなく補給物資の警護もかねた後発隊として極東基地を出る筈だった。
Drヘルの機械獣軍団来襲の報を受けるまでは。


「敵機捕捉!2時の方角に四機。5時の方角に七機。10時の方角に五機。キョウスケ少尉。最初に10時からの敵と2分後に接触します」

複座型ヒュッケンバインMk-兇慮緝座席からリオが、仲間の機体に戦況デ−タを転送しながら隊長代理のキョウスケに予測接触時間を報告した。
T−LINKシステムを活用した索敵レ−ダ−は、従来の熱源探知や金属探知と違い。使用者。念動力の素養がある者の能力によって作動する。
扱う者によって著しく性能が変化するが、敵意や悪意といった感情に属するモノまで感知して敵機を探り出す。
ガンダムデスサイズに装備されているハイパ−ジャマ−といったセンサ−類を誤魔化す、ジャミング装備もT−LINKシステムで動く索敵網から逃れる事は出来ない。

「だんだんと包囲網を狭くしてくる。このままじゃ身動きが取れなくなる」

「リョウト君!なに弱気になってるの!」

後部座席から身を乗り出してパ−トナ−の頭をポカリと叩く。
狭いコクピットでは避けられない。実家の空手道場で幼少の時から、捌きの動きは抜群の技の冴えを見せるリョウトだが、パイロットシ−トの固定ベルトをしたままではリオの為すがままだ。

「あ痛・・・・・・弱気になっている訳じゃないよ。ただ僕達の得意としているフォ−メションを取れない限り持ち堪えられないと思ったんだ」

「あっ、そうなの?」

「そうだよ。酷いな。でも戦況は本当に不味いよ。ゼンガ−隊長が居ない状況で拠点防衛を行うには、状況が不利すぎる」

ATXチ−ムは後衛のヴァイスリッタ−の狙撃で敵機の足を止めて、中衛のヒュッケンバインMk-兇肇咼襯肇轡絅丱ぅ鵑覇阿を止められた敵機に集中砲火を浴びせ、
前衛のゼンガ−=ゾンボルト少佐のグルンガスト零式とキョウスケ少尉のアルトアイゼンで決定打を与えるのが本来の戦い方のだが、ATXチ−ムの剛剣は特別任務の為に一週間ほどまえから極東基地を離れている。

「居ないのはどうしようもない。現状の戦力で戦うだけ」

ラトゥ−ニが達観したかのように呟いた。だが諦めの感情は含まれてない。
どこまでも前向きに生き延びようと言葉の端から感じられる。

「それにリュウセイなら絶対にこんな奴等相手に挫けない」

連邦軍パイロット特殊養成機関『スク−ル』の呪縛に囚われていたラトゥ−ニの心を救った男なら、この程度の危機に心は折れない。屈したりしない。
何時もの調子で戦うだろう。ス−パ−ロボットの底力を見せてやるぜと叫びながら。

「あら〜ノロケなの?ラトゥ−ニも言うようになったわね。ねえキョウスケ。私達も負けれないわ」

「敵機が見えた各機散開!絶対にこの先に通すな!」

相棒の言葉を素気無く無視して、有効射程距離に入った機械獣ガラダK7数機へ左腕に固定装備された3連マシンキャノンを放ちながら、直線的な動きでの推進力なら従来のPTよりも数倍のパワ−を引き出せるバニ−アの火が吹いた。

「撃ち抜く!」

有効射程距離寸前に居た筈の機械獣ガラダK7にアッと言う間に接近する真紅の重騎兵。
あまり高度ではない戦闘プログラムコ−ドのル−チンで動くAIは、アルトアイゼンに照準を定めるのに僅かな時間を必要とした。
機械獣は装甲の厚さと機体耐久力はMSに比べれば、かなり高い。
敵の攻撃を回避するのではなく耐える事を前提に造られている。
実際、連邦軍のジェガンが撃つビ−ムライフル数発分程度なら充分に持ち堪えれる。
一般兵レベルの技量なら攻撃をしている間は、どうしても無防備な姿を晒してしまう。
攻撃を受けながらも反撃する耐久力を持つ機械獣は、多少反応速度が遅いAIでも充分に攻撃してきた敵を狙えて攻撃できる。
だが、真紅の重騎兵の突進力は並ではない。

「止められるなら・・・・・・止めてみろ!!!」

機械獣ガラダK7の光学センサ−を狙って放った3連キャノンが上手い具合に着弾した。
予備センサ−へと直に切り替わるが、反応が遅いAI行動に加え今の攻撃で近接する時間を稼ぐことに成功した。

「どんな装甲だろうと撃ち貫くのみ」

零距離まで間合いを詰めた真紅の重騎兵の右腕が唸る。
回転式弾倉の火力で撃ち出すリボルビング・ステ−クが機械獣の分厚い装甲を突き破る。
一撃で機械獣を破壊すると、流れるような動きで他の機械獣を同じように次々と真紅の重騎兵の振るうランスの餌食となっていく。

「やるわね。キュウスケ。なら、お姉さんも負けてられないわ。知ってる?Eモ−ドのEは『E気持ち』の略なの」

数機の機械獣を苦もなく倒したキョウスケを見て、柄にもなく奮然としたエクセレンが白き騎士の武器。オクスタンランチャ−を狙撃用光学弾倉に切り替える。

「・・・・・まぁ、無理があるわよね」

自分で言っておいて何だが、武装名の省略に苦笑する。
ふざけた言動をしているが、獲物を捉えた瞳は笑っていない。
恋人の男が狼なら、女は狙った獲物を確実に仕留める鷹だ。
猛禽の爪が煌めく。
アルトアイゼンの有効射程距離より3倍以上離れている場所から、此方に向ってくる機械獣の動力炉をピンポイントに撃ち抜いた。

「ヒット!見た。見た。キョウスケ。惚れ直した?」

軽いノリで騒ぐエクセレン。
とても神業のような狙撃を行った者とは思えない。30階建てのビルの屋上から地上にある針の糸を通すような正確無比な射撃の腕前だ。

「ああ、そうだな。だが、無駄玉は撃つな」

「わかってるわよ。手持ちの武器より敵さんの数が多いもんね。本当なら逃げ出したいんだけど」

「逃げたければ逃げろ。止めはしない」

「ん〜・・・・・それができれば苦労はないのよ。此処で逃げたらチョット自分が許せなくなるし」

ATXチ−ムが防衛しているポイントの先には非戦闘員。民間人の為のシェルタ−がある。
都民全てを収容できる巨大な避難施設だ。
網の目のように都内の地下を巡る地下鉄から直通の道がある。
緊急時のみ開く通路から、都民を全て収容するシステムを取っている。

通常の軍隊なら暗黙の了解もあり、見境も無く民間人を殺さない。
戦争が起きる根本的な理由は自国の利益を守る為だ。
食料、人口、土地等と様々な口実が挙げられるが、敵対相手を皆殺し。全滅させる事が本来の目的ではない。

いかに自国にとって都合の良い条件で、相手国を従わせる事が最大の目的だ。
相手を取り込み吸収するにせよ、頭を押さえつけ服従させるにしても、非戦闘員を必要以上に虐殺すれば、その怨みは昏い泥のように残された者達の心に闇を落とす。
それは自国にとって最悪の潜在敵を大量に作る羽目になる。隙を見せれば同じ事をやり返して来る、怨嗟に囚われ復讐を誓った無慈悲な敵をだ。
だからこそ、軍隊は民間人に対して暴行を禁止している。モラルも含めて、何一つ征服者にとって有利に働く事はないのだから。

恐竜帝国のように人類の完全抹殺を理由に挙げるのは解り易い。
爬虫人類との戦いは種としての生存競争。解り合うと解り合わない以前に同じ世界で共存するのは生態として無理だ。
人類が数々の種を滅ぼして繁栄してきたように、恐竜帝国が人類を滅ぼすのは爬虫人類の未来を切り開く為に必要事項であった。
後腐れないように老若男女関係なく、人類に滅びの刃を振るうだろう。
そこには残虐とか無慈悲と言った言葉は存在しない。生き延びる為に必要だからやる。
いたってシンプルで否定できない答えが待っている。

だが、今この首都を攻め込んできている軍隊の首領は一般市民の安全など、まるで考慮していない。
逆らう者は、見せしめに殺せばいいと考えている。
恐怖は確かに人の心を重く縛る。しかし一部の者にとって、それ以上の反発を招く事を理解していない。
同族殺しを一番忌避なく行うのは確かに人類だが、中でもDr・ヘルは最悪の部類に当てはまる。
Dr・ヘルの目的は世界征服。それも人類の統治ではなく。己の欲望をあますことなく実現させる醜い世界を創る事だ。
そこには人としての尊厳も自由も無く。生死すら支配者に弄ばれる世界になる。

現にDr・ヘルの幹部以外の兵士は攫ってきた一般市民にロボトミ−手術を行い、服従電波を絶えず発する機械を脳にはめ込まれる。
前頭葉を大きく傷つける遣り方で改造された兵士は、例え救出して脳に埋め込まれた機械を取り外しても二度と同じ人格と記憶が戻ることはない。


「二度と、あの子のような悲劇を私は見たくないの。だからここは奮発して出血大サ−ビスしないとね」

未だ士官学校に在籍していた時に、偶然助けた元Dr・ヘルの兵士を思い出したエクセレンの表情が一瞬曇るが、直に何時ものおちゃらかな雰囲気に戻る。

「そうだな」

同意するように短く応える。その場にはキョウスケも居た。
簡素な言葉の中に、不退転の覚悟が込められた鋼の意思が伝わってくる。

「それに分の悪い賭けだけど配当はいいわ。幸運でも悪運でもいいから当てクジを引かないとね」

口数少ない恋人の口癖を真似る。
配当は、戦う牙は持たないが今を懸命に生きようとする人達の命。
それと自分の歩んできた人生に誇りを持つ為の矜持。

どちらも失う訳にはいかない。
確かに今のままでは、いずれ弾薬やENが尽き後は物量に押し潰されるだけだが、九州に向った特機部隊にも首都の状況は伝わっている。
あと数時間程、此処を死守すれば妖魔帝国を打ち破った特機部隊が援軍として到着する。
特機部隊が妖魔帝国に敗北する可能性が無い訳ではないが、そんなネガティブな思考で士気を落とす者はATXチ−ムのメンバ−には一人として居ない。
今やれる事は援軍の到来を信じて敵を食い止めるだけだ。


「ヤツ?ヤツって一体誰の事なんだ?」

碇シンジは朦朧とする頭の靄をなんとか払いながら意識を取り戻した。
操縦スティックを握った指先は固まったように剥がれない。いや、うまく力が入らないのだ。
身体がどんよりと重い。
40度の風邪をひき体調を崩しているのにフルマラソンをこなしたような感じだ。
簡単に言えば、一歩間違えば死ぬといった状態だろう。

「だ、だいじょうぶ?シンちゃん?」

シンジの膝の上に腰を降ろしている少女が慌てる。
気が付くなり大きく叫んだ幼馴染の従兄妹である少年に、霧島マナが心配そうな表情を浮かべて声を掛けた。
オリジナルオ−ラバトラ−『サ−バイン』のコクピットには聖戦士が搭乗する座席以外に補助用にと後部座席が手狭ながら設けられている。

後部座席には成人女性と同じ位の体格を持つ、仮死状態のエ・フェラリオのシルキ−=マウが座らせている。
他のオ−ラバトラ−よりも広めに設計されているサ−バインのコクピットだが三人も乗っていると流石に狭く感じる。
激しい機動運動をするオ−ラバトラ−で座席固定できないのは搭乗者にとって危険が大きい。
後部座席は人がギリギリ一人座れる程度しかない。
その為、意識がないシルキ−を後部座席に固定して、自由に動けるマナがシンジの膝の上に座って抱きつくような形で体勢をとっていた。

「・・・・・・だいじょうぶ。とは言えない・・・・・・なんだろう?身体が・・・・・もの凄くだるい」

弱々しい声でなんとかマナに返答するが、何時もの覇気が全く感じられない。
冗談でも、困らせようとする演技でもなく本当にダウンしているように見える。

「なんなのよ、このマシン!?動いたと思ったらシンジのオ−ラ力を根こそぎ吸い取って!?」

ミ・フェラリオのチャム=ファウがシンジとマナの頭の上で騒いでいる。
チャムだってオ−ラバトラ−に乗るのは始めてではない。聖戦士であるショウ=ザマと共に幾度の戦場を潜り抜けてきた。
だが、今回のような現象は初めてであった。
オ−ラバトラ−を機動させるには最初に動力炉であるオ−ラコンバ−タ−に搭乗者のオ−ラ力を起爆剤として注がなければならない。
それにした所でサ−バインがシンジから吸い上げたオ−ラ力は膨大な量であった。
あれ程のオ−ラ力があれば戦艦であるオ−ラバトルシップすら、常時戦闘態勢で数十年は可動できるデタラメなパワ−であった。

「チャム騒がないの。もう大丈夫の筈よ」

様々な計器を確認したマナが落ち着かずコクピット内を飛び回るエ・フェラリオを宥める。

「本当なのマナ?」

「ええ、母様が懸念していた最初の壁を越えて、このコに主と認めされば闇の剣は振るう者を絶対に裏切らない筈よ」

チャムの問いにマナが答える。それを聞いていたシンジが愚痴をこぼした。

「・・・・・・予想より、きつかったのは確かだね。紋章を宿していなかったら間違いなく死んでいたよ」

純白たる闇の剣に乗り込む前にマナからレクチャ−は受けていたが、想像を上回る消耗を強いられた。
常人の数百倍から数千倍の氣を保有しているシャッフル同盟の一人であるシンジは、些かこの機体を舐めていた。
まさか、喋るのも億劫に感じる程、体力。気力。魂力を搾り取られるとは思わなかった。
その身に宿した光と闇の紋章によるバックアップがなければ、全てを奪われていただろう。

「使いこなせなくても狂科学者たる者は、ハイスペックの機体を造るのが、お約束だと母様は言っていたけど目覚めたこのコ本当に凄いわ」

マッドサイエンティストの血を確実に引いているマナが計器から得られる数字に目を丸くしている。
どんなに優れた名剣でも相応しい使い手がいなければ、壁に掛けられた装飾用の剣と何等変わらない。
純白たる闇の剣は自らを使いこなせる主を得た事で、本来の力を発揮できるようになった。
それは開発段階での予想デ−タを上回る驚くべき性能を秘めていた。

「・・・・・・ったく。マイちゃんらしいや」

コクピットシ−トにぐったりとした身体を沈めながらシンジはボヤいた。
気を抜くと意識が途切れそうな瞳に青色の光が見える。
目の前のメイン映像には透明な水の層が映し出されている。
今、サ−バインは慣性飛行状態でひたすら人が住むコモン界とフェラリオ達の故郷である水の国ウォ・ランドルの境界線である天の海の中を突き進んでいた。
機体に掛るはずの超密度の水圧はサ−バインが展開するオ−ラバリアで防いでいる。
並のオ−ラバトラ−なら飛行するのも叶わない天の海を、空を翔る彗星すら凌ぐスピ−ドで飛翔しているだけで、この機体の卓越した性能を示している。

「計算だと、もうそろそろで天の海を抜けれる筈よ」

意識を失っていても一度、機体に火がはいれば主となったパイロットの意思を尊重するようにサ−バインは動いていた。
無意識でも大切な者を守ろうとする潜在意識がオ−ラバリアを張り巡らせ、目的地を目指す考えに反応して飛び続ける。
純白たる闇の剣は、始めて真なる自分の使い手となった少年の目的を最優先するように動いている。
MSの機体制御をサポ−トする高性能コンピュ−タに属する様な物などオ−ラバトラ−には搭載されていない。
オ−ラマシンは操る者のオ−ラ力と共振して作動する。
コクピットに操縦スティックや搭載されている武器を発射させるトリガ−など付いているはいるが、最終的にはオ−ラ力を通してオ−ラマシンを制御している。
そう言った意味では意思を反映させるモビルトレ−システムやシンクロシステムとも共通する所があると思わせる。

「そう・・・・・なら、その間は休ませて貰うよ。こんな所で死んだらイルイちゃんに会わす顔がないし・・・・・・」

瞼を閉じて呼吸を整え体力の回復に全力を注げば、少なくとも動ける程度にはなれると思う。

「・・・・・・ねえ、シンちゃん。イルイちゃんって誰?」

消耗しきった身体に僅かでも休息を与えようとしたシンジだが、冷たい声を放つ従兄妹に回復する機会を遮られた。
自分が知らない女の子の名前。それも愛しそうに感情を含ませて言えば嫌でも気になる。
マナの心情を考えれば聞かずにはいられない質問だった。

「なにって、僕の義妹だよ」

「妹?えっ・・・・・なんで?ユイ叔母様の子供はシンちゃん一人の筈じゃないの?」

機械関係に掛けては博識な知識を持つ少女が呆気にとられる。
幼い頃、マナがシンジと別れたのは赤毛の幼馴染が母親と共にドイツに旅立った半年後。
その時に碇ユイが懐妊しているとの覚えは無い。
更に言えば、その三ヵ月後にはシンジは実の父親である碇ゲンドウに捨てられた。
その時には碇ユイは公式発表では死亡が確認されている。

「ああ、実はね・・・・・」

不可思議な表情を見せるマナに簡単に事情を説明する。
2年前にバイストンウェルに召喚されたマナは、その間に起きた出来事を知らない。
イルイと一緒に暮らす様になったのは実質二ヶ月にも満たないが、今では師匠であるマスタ−アジアや兄弟子であるドモン=カッシュと同じくらいシンジにとって大切な人になっている。

「そうなんだ。マスタ−アジアさんが頼んだ」

掻い摘んだ短い説明だがマナは大体の事を理解して、納得するように首を縦に頷かせた。

「ところでシンちゃん。その子とワタシ。もしもピンチだったらどっちを先に助けてくれる?」

「イルイちゃん」

ちょっとした悪戯心でシンジを困らせてやろうと軽い気持ちで聞いたら、母親達が決めたマナのフィアンセである少年は迷うことなく即答した。
そりゃ〜気持ちいい位の返事で切り替えしてきた。

「はははは・・・・・ねぇ。シンちゃん。ちょっと目を瞑って歯を食いしばって」

渇いた笑顔で拳を固めたマナはシンジに要求する。
別にシンジにとってはマナを蔑ろにした答えを言ったつもりは無い。
命に係わるピンチなら流石に即答は出来なかったが、この従兄妹の幼馴染なら大抵のピンチなら自ら乗り越えられると思っての回答であったが、乙女心は複雑であった。


あとがき

前半でのATXチ−ムの戦闘はドレイク軍とシ−ラ達が激突する寸前の時間帯で行われています。


レス返し  

イスピン様> 世界観はスパロボαなので存在はします。出番があるかどうかは定かではないですが。

ATK51様> オーラバトラ−は搭乗者の能力次第でポテンシャルが著しく変わるので機体性能もそうですが肝心なのは聖戦士能力の高さですね。 
シンジは種としての人類に絶望はしていませんが、仲間以外の一般市民に対して必要以上に希望をもっていません。
ある意味、達観しています。
こいつ等はこんな者だと。

Jack様> スパロボの二軍は分岐で兵力分散した時に使わないキャラで、三軍になると居たことすら忘れられる悲しきキャラなので扱いも結構酷いです。

左京様> 恋人は複数いても心のオアシスは一人だけですね。シンジの場合。

15様> 三つの力を一つにした時、本来の力を発揮できる。ゲッタ−じゃないですよ。
当初は乗り回しもしますが、最終的は今後の展開次第と言うことで。

β様> シンジにとって、あの少年は命の恩人であるバビル君でBFであるとは知りません。
衝撃のアルベルトは誇り高いでの馴れ合い展開は難しいですね。

アルテミス様> 人脈はデビルガンダム事件時でかなり豊富になっているのでNervを離れても充分に戦えます。

草薙様> S2機関が搭載されるまで、どこまでいってもヒモ付きの拠点防衛用機体としか扱えないですからね。エヴァは・・・・・・

AL様> 暗示によって身体能力を上げる手段は似たようなモノです。

羅陰様> 最後はやはり初号機を中心にもっていこうと思っています。
シルキ−はエ・フェラリオに転生させられますが、シンジ付きになるかは未定です。

シセン様> まぁ当分は竜玉のパワ−を扱いきれないのでリミッタ−をつけての搭乗になります。
四人の巫女の内、三人はエヴァキャラから出張ってもらいます。残りの一人は未定です。

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