「まったく、やっと片付いたわね」
アシュタロスの気配が完全に消えた事でほっと一息つく美神。横島も彼女のもとにかけよろうとする。しかし、その時嫌な音が聞こえた。
ビービービービービービービー
映画などである場面に、よく聞こえる音。“警戒音”それは、奥にあるコスモプロセッサから聞こえてくる。
「え〜と」
おそるおそる近づき、モニターを除きこむ横島と美神。そこにはこう表示されていた。
『自爆まで後、15分』
「「えーーーー!!!!!!!!!」」
二人の悲鳴が重なる。
「は、早く逃げましょう!!」
「ちょ、ちょっと待って!! 爆発の規模をしらべてみるわ。どこまで逃げればいいのか確認しないと」
美神が機械を操作して調べる。その結果、美神は顔を更に青くした。
「さ、最悪・・・。この装置、魂の結晶を燃料に使ってるわ・・・・。爆発すれば、南極が丸ごと消し飛ぶわよ!!」
「な、南極が!!?」
「ええ、今から逃げてもとてもじゃないけど間に合わないわ。仮に間に合ったとしても、南極が消滅するような事になれば、地球全土は滅茶苦茶になるわ」
「そ、そんな!!」
「何とか、止めるしかないけど・・・・・。この装置、とても私の手には負えないわ」
「じゃー、もー終わりって事っすかー!! こうなったら、死ぬ前に一発」
美神の答えを聞いて横島が飛び掛ろうとする。しかし、美神は抵抗しなかった。
「・・・・・いいわよ。それで、満足するなら、一発位やらせてあげる」
「!!・・・・美神さん」
横島が覗き込んだ美神の目には諦めの色があった。あの、美神が諦めているのだ。本当にどうにもならない状況だということがわかる。だから、横島に体を任せようとしているのだ。無論、相手が横島でなければ、このような状況であろうと許しはしないだろうが。
「こ、こんな簡単に諦めちゃうなんて美神さんらしくないですよ!!」
「じゃあ、どうするの? 爆発を解除するには何重ものセキュリティを解除しなければいけないけど、はっきり言って、どこをどうしたらいいのか、検討もつかないわ。理解できたとしても15分で解除できるかどうか・・・・。せめて、ヒャクメやカオスがいれば、話も変わってくるんでしょうけど」
「ヒャクメやカオスが・・・・・? そうだ!!」
美神の上から跳び退き、横島は装置に向かって駆け寄る。そして、モニターを調べ、装置の使い方を調べると、考えを実行に移す。
「えーと、これでいいのか? ヒャクメ、カオス、後、佐藤さん、来てくれ!!」
そうして装置を作動させる。すると、その場に突然、3人が現れた。
「な、なんなのね〜」
「ぬぅおっ!!」
「うわっ」
突然、居場所を転移させられ混乱する3人。その3人に対し、横島は急いで事情を説明した。
「コスモプロセッサ、まさかそんなものだったなんて・・・・」
「凄いものだな。開発者には私も一度会ってみたかったものだ」
「本当に凄いのね〜」
「うむ。原始風水盤以上の品じゃな」
その言葉を聞いて、最初に感嘆の声をあげたのは美神だった。そして、技術者3人がある種の尊敬の念に近い感情を抱く。横島は最初、何故、美神まで驚くのかと疑問に思ったが、アシュタロスからコスモプロセッサについて聞いたのは自分だけだった事に気づいて声をあげた。
「あっ、そういえば、美神さんもこいつが何かしらなかったんでしたっけ?」
「ええ。こいつで世界中の富を私のものにってしたいところだけど・・・・・」
そう呟いて、美神はヒャクメに意味ありげな視線をやる。その意図に気づいたように彼女は頷いた。
「ご想像の通りなのね〜。そんな事したら、世界中の神魔が敵にまわるのね〜。これは、因果律そのものを操作するからうかつに使ってはいけないものなのね〜」
「・・・・・やっぱりね。まあ、この装置を使えば、神魔全てを滅ぼす事だってできるかもしれないけど、流石にそこまでは趣味じゃないわ。諦めるかもしれないか。あっ、でも、この装置を使って、装置を停止させる位はいいんじゃない?」
そこで美神が思いついたように手を叩く。どんな願いをもかなえられるコスモプロセッサの力でコスモプロセッサの自爆を止める。それは効率的な手段に覚えた。しかし、カオスが首を振る。
「おそらく無理じゃろうな。装置の力で装置をいじるのは自己矛盾を引き起こす可能性がある。どんな影響がでるかわからんし、多分、禁止事項にも指定されとるじゃろう。それを解除するよりは自爆シークエンスを止めた方が早いし、確実じゃわい」
「それじゃあ、早速、操作にとりかかるのね〜」
答え、3人は装置の操作をいじりだす。しかし、その表情がだんだん、渋いものに変わっていった。
「まずいのー。この装置予想以上に複雑じゃ、15分では間に合わんかもしれん」
「な、何ー!! ちょっとしっかりしなさいよ!! あたしの命が懸ってんのよ!!」
「“あたし達の命”じゃないんですね」
カオスの弱気な発言に怒鳴りつける美神。横島はぼそっと突っ込むが時間がないのでスルーされる。
「そうは言ってもな。自爆を止めるには何重もの暗号をクリアーしなくてはならないからな。装置の仕組みを理解して、それから暗号の解読となると、流石に15分では。せめて、この装置の仕組みについて熟知するものでもいればなんとかなるかもしれんがのー」
「装置を熟知・・・?よし、だったら!!」
佐藤の発言に閃くもののあった美神はコスモプロセッサを操作し、ある人物を呼び出す。そして、その場に現れたのはアシュタロスの幹部の一人、現在オカルトGメンに拘束されている筈の女魔族、ルシオラだった。
「アシュタロスのあんたならこいつの使い方も少しはわかるでしょう!?ちょっと協力しなさい!!」
ルシオラの転送に成功した事を見た美神はガッツポーズをとり、先程と同じように事情説明をし始めた。
「なるほどね」
「事情は理解した? そしたら、早速・・・・・」
話を聞き終えたルシオラが頷く。それを見て、早速装置を止めさせようとする美神に対し、ルシオラは嘲笑うかのように言った。
「事情はわかったわ。けど、何で、私がアシュタロス様とベスパを殺した相手に協力しなくちゃならないのよ」
「なっ、けど、この装置が爆発したら、あんた達だって死ぬのよ!!」
「かまわないわ。私達の寿命はどのみち1年に設定してあるもの。死ぬのが少し早くなるだけ。だから、脅しも無駄よ」
叫ぶ美神に対し、余裕を崩さないルシオラ。怒り狂って、殴り飛ばそうとするが、それも無意味だと気づく。
「な、なあ、頼むよ。このままじゃあ、みんな死んじまう!!何とかしてくれ!! 何でもするから!!」
そこで横島が前にでた。そして、必死に頼みこむ。それを見てルシオラは少し考え込むような仕草を見せて言う。
「・・・・そうね、あなたには助けてもらった恩もあるし。条件次第では協力してあげてもいいわよ?」
「条件、何よ一体」
「コスモプロセッサを使ってアシュタロス様とベスパを生き返らせて」
「なっそんな条件飲める訳ないじゃない!! あんなとんでもない奴を復活させたらどうなることか」
ルシオラの出した条件に対し、美神が絶叫する。それを意に介さずルシオラは言った。
「何も、そのままの形で蘇らせてとは言っていないわ。転生という形でかまわないし、力もある程度落としてもらっても構わない。これで飲めないっていうなら、私は何があっても協力しないわ」
「くっ・・・・・」
美神が歯噛みする。条件を飲まなければ彼女はその発言通り、何をされても協力しないだろうという事はわかる。だからといって簡単に飲めるものでもない。例え、力を失おうと、アシュタロスはその思想と知識だけで危険な存在なのだ。転生先で記憶が戻らない可能性もあるが、逆に言えば戻る可能性もある。しかし、美神が答えを出す前に横島が動いた。
「わかった。それで、本当に協力してくれるんだな?」
「え、ええ、もちろんよ」
不意をつかれたというように自分で出した条件ながら、承諾の意を示した横島に驚くルシオラ。そして、その次のタイミングで自分を無視して話を進めた横島の首を美神がしめた。
「あんた、一体なに、勝手に決めてるのよ!!」
「す、すんません。けど、他にしょうがないじゃないっすか!!」
首を絞められながら顔を青くし、必死に弁解する横島。ルシオラはそれを少し呆れたような目で見、他の面子はいつもの事だと気にせず、装置の解析をすすめる。
「そりゃそうだけど、アシュタロスが復活して、また、何かしでかしたらどうすんのよ!!」
「あっ、それなら多分、大丈夫っす」
そこで、自信あり気な顔をして、横島はアシュタロスから聞いた彼がこのような事をした理由を語った。話を聞き終わった後、美神とルシオラ、そして今度は他の3人も驚いた顔をしている。
「アシュタロス様がそんな事を考えていたなんて・・・」
「なるほどね。筋は通ってるし、多分、本音ね。それなら、確かに大丈夫かも・・・・」
力を落とし魔神という枠から外れれば、アシュタロスの不満は解消される。それならば、彼が二度とこのような事をする可能性は低いかも。
「わかったわ。条件を飲んであげる。だから、何としても止めなさい」
「え、ええ」
そこで美神も決断する。ヒャクメ達も特に不平を述べず、そして残り2分という所で装置は無事停止した。
全ての戦いが終わった後、いくつかの後始末を追え、平和が戻った。パピリオは妙神山の監視下に入るという事で処遇が決まり、他の神魔は拠点を修復し、元の居場所に戻っていった。美智恵はベスパの魂から回収した血清によって復帰、無事、元の時代に戻り、この時代の美智恵と美神は再開を果たしている。なお、この際、美智恵は時間移動能力を封印され、同時にその発言の可能性を持った横島の文珠も封印された。そして・・・・・・・・・・
「ヨコシマ♥」
「う、うわっ、ルシオラ」
「ちょっと、あんた仕事の邪魔よ!!」
「そうです。用も無いのに来ないでください!!」
「いいじゃない、こんな時間に事務所にいるんだからどうせ仕事なんか無いんでしょ?」
横島に抱きついた“ルシオラ”に対し、美神とおキヌが文句を言う。実はここ最近、彼女は毎日のように事務所に遊びに来ていて。戦いの後、横島は彼女とパピリオの刑罰が少しでも小さくなるように努力した。また、アシュタロス達の転生に対しても全責任を負った。アシュタロス戦、最大の功労者という事で彼の発言はそれなりの効力を持ち、結果として大部分丸くおさまったのである。そして、自分達の為に尽力し、自分の能力までも犠牲にした(実は文珠封印にはアシュタロスを勝手に転生させた事に対する処罰の意味合いもある)横島に対し、ルシオラはいつしか好意を強くしていき、現状のような状態になったという訳である。
「横島君は私のもんよ。手をださないで!!」
「美神さん、何、勝手な事言ってるんですか!!」
「先に出会ってた位で勝ったと思わないで頂戴!!」
「まあ、最後に勝つのは私だけどね」
まあ、こんな風に美神除霊事務所はおおむね順風満帆のようです
(後書き)
何とか、連載完結できました。最後の方、間が空きすぎて作風が変わりすぎたり、中盤、色々と騒動を起こしてしまいましたが、本当に何とか(汗)一応、この先も考えてはありますが、続きを書くかどうかはまだ、未定です。それから、この先にちょっとおまけのエピソードがあります。上にある15禁の場面ですが、まったくたいした事はないので、期待は一切しないで(寧ろ、これまでの流れをぶち壊しにしてるのでその辺を覚悟で(って、いうか、ルシオラをくっつけた時点で既に強引ですねOTL))
PS.後、前回感想で幽助達のマイト数を聞きたいという質問があったのでそこだけ回答を。この作品では100マイト=霊力値(妖力値)150程度で換算し、GSの神魔上位は幽白の方に併せてあります。具体的にはこんな感じですね。
黄泉:100万マイト前後
アシュタロス(フルパワー):百数十万マイト
幽助(魔界トーナメント時):14万マイト〜(潜在能力未知数)
仙水:12000マイト
桑原:800マイト(次元刀抜き)