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「新たなる物語 その3 (まぶらほ+クリス・クロス+色々)」

タケ (2006-07-19 11:05/2006-07-19 11:07)
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作者注:なぜか消えてましたので,再投稿します。


「やっばー!ファイヤーウォールの設定が甘かったわね。異物の進入を許しちゃったわ。」

何も無い空間に、ホログラフィーのようなディスプレイと全身をローブで隠した人影が存在していた。
その人影は、さっきからディスプレイを覗き込んで唸っている。

「進入対象は『迷宮の魔道書』。能力は異空間を形成し、人間の魔力を喰らう事。危険度A+。
A+の魔道書は世界図書館に厳重に管理されている筈なのに、どうやって抜け出したのかしら?」

口調は軽いのだが、今の状況はかなりやばい。お仕置きは御免である。

「こいつは魔力の多い場所に辿り着くと異空間を展開し、創り出す迷宮に多くの贄を閉じ込める。
 クリア条件を達成すれば力を失うけど、全員がゲームオーバーになると魔力を全て喰われる。
 しかも異空間を展開中は、こいつは無敵となり、私ですら滅ぼせない。
 かと言って、今捕まえようとしても隠れてしまうし。」

ディスプレイ上の光点が、ある位置で停止した。即座に異空間が展開される。

「あーあ。でも展開したばかりだし贄を集める必要があるから、多少は干渉出来るわね。
 誰を派遣しようか?迷宮の構成は……あれ?見た事がある場所ね。何処で見たんだろ?
 確か……あの子達を見つけた世界!……と言う事は、元はあいつ……ギガントなの?
 あ、しかもこの座標って………ふふふ、これは宿命ね。彼なら………いけるわ!」

彼女はお気に入りのおもちゃを前にした子供のように、笑いながら計画を練っていく。

「それじゃ、あの子達も一緒に呼びましょう!待っててねー、和樹君ー。」

どうやら、彼女は和樹に何か厄介事を押し付けるつもりの様だ。結構いい性格である。


まぶらほ 新たなる物語

第6話


リーラとネリーが僕の恋人になってから、2週間が過ぎていた。
今、僕は自分の寝室に珍しく1人で眠っている。今日は2人とも仕事が残っているのだ。

あれから週に4,5回は彼女達とベットを共にしている。勿論、避妊はしているが。
リーラもネリーも美人だし凄く敏感なので、つい我慢できなくなってしまうのだ。
2人同時は何となく嫌なので、予定を決めて平等に抱く様にしている。
大抵、彼女達が満足するまでラウンドを重ね、終わった後は寄り添って眠る。
自惚れでなければ彼女達も喜んでくれているようだ。自分の番の日は何となく機嫌がいい。

1人寝は少し物足りないが、彼女達に無理をさせたくは無い。
中々眠れないので、ぼんやりと考え事をする。

「最近は男子達も絡んでこないし、平穏でいいなあ。
偶に女子達が僕を睨んでいる気がするけど……気のせいか。」

最近妙に視線を感じるのだ。振り向くと、クラスの女子が僕をじっと見ている。
すぐに目を逸らすが、クラスの半分以上がそうなのだ。何か悪い事をしたのだろうか?
その中には夕菜もいた。彼女は僕に好意を持っていない筈だ。
すると僕が彼女達を不快にさせたという事か。

「あんまりにも驚かせたんで、警戒されちゃったのかな?」

明日女子に謝った方がいいかな、と思いながら目を閉じた。


◆◇◆◇


回想シーン

数日前の昼休み。場所は2年B組の教室。

「おい、知っているか?最近、この近くにメイド喫茶が出来たらしいぜ。」(仲丸)

「俺も行って来たぜ。すっげー美人ばかりだし、料理も美味い。」(佐野)

「俺も美人のメイドさんに囲まれて、『御主人様』なんて呼ばれたいぜー。」(浮氣)

「ああいうメイドに御奉仕されてえー!」(大黒)

授業が始まるまで15分はある。食事を終えた僕達は、思い思いにくつろいでいた。

B組男子達はメイド談義に萌えていた。女子が白い目で見ているが、全く気付いてない様だ。
一部危険な発言もあったが、あいつ等程度にやられる娘は………エーファがやばいな。

「あのドジっ子って感じの眼鏡っ子のメイドが特にそそるんだよ。
 お仕置きしてえー。」(浮氣)

やっぱり、エーファに外での仕事は早そうだ。リーラとシフトを見直すか。

あいつ等が話しているのは、僕達が住むビルから車で10分の所にオープンしたメイド喫茶だ。
あそこはリーラの発案で、隊員の接客実習とカモフラージュを兼ねて始めたものだ。
近くにそういう店があれば、周辺でメイド姿を見ても違和感が薄れるし、
その姿に憧れを持つ女性が増えるかも、と言う考えらしい。
オープンして1週間になるが、人気は上々のようだ。
ただし、色ボケした連中しか注目していないとリーラに伝えておこう。

「あんた達、女の子の前でよくそんな会話が出来るわね。恥ずかしくないの!?」(松田)

松田さんが眉をしかめて文句を言う。後ろに何人か女子が立っているが、恐らく賛同者か。

「べつにいいだろ!」(仲丸)

「うっとうしいのよ!………ほんとに男って制服系に弱いんだから!」(松田)

「でも、あそこは正統派なのよ。服の素材もしっかりしているし、
 訓練もきちんとされていて本物みたいなんだもん。私も見習わないと。」(今野)

「料理も凄く美味しいよー、一流レストラン顔負けだし。
 それに1度だけなら、同量のお代わりも安い値段でさせてくれるんだから。」(西脇)

「あんた達はどっちの味方なのよ!」(中田)

騒ぎを何となく聞いていると、横から話しかけられた。

「ねえ、式森君はメイドってどう思う?」

振り向くと杜崎さんが立っていた。

「メイドは別に嫌いじゃないね。あの喫茶店の人達は接客態度がしっかりしているし。
 あんな風に一生懸命に仕事をしている人達には好感が持てるね。」

「………もしかして式森君もメイド好き?」

微妙に答えづらい質問だな。

「服装云々じゃなくて、頑張って仕事をしている人が好きなのかな。」

「式森はこないだ振られたばかりだもんなー。癒されたいんだろ?」(仲丸)

唐突に仲丸が話しに混じってきた。何時の間にこっちに着たんだろ?
と思ったら、何故か皆が僕の方に注目している。

「ま、お前は平凡で目立たないが害もない、ちょっといい奴ってポジションなんだし。
 高望みはもうしない方がいいぜ。」(仲丸)

「いい加減、現実を思い知ったろ。所詮お前は夢も希望も人並みが一番て事だよ。」(浮氣)

わざわざ人を馬鹿にしに来たのか、こいつ等。尤も殆どの連中は似たり寄ったりだ。
しかし僕的には、こいつ等の方を哀れみたくなるけどね。

「ちょっと!失礼じゃない!」

「放っときなよ、杜崎さん。馬鹿を相手にしていると自分まで馬鹿に染まっちゃうよ?」

ピタっと周りから音が消えた………そんな感じだった。
うーむ、口が滑ってしまったか。まあ、いい機会かもしれない。
平穏な生活が望みだけども、僕だって何時までも馬鹿にされたくは無い。

「おい、式森!誰が馬鹿だって!あんまり付け上がんじゃ………うぎゃ!?」

仲丸が僕の胸倉を掴もうと手を伸ばしてきたので、その腕を逆関節に取ってやる。
暴れようにも地力は僕の方が圧倒している。下手に暴れれば、冗談抜きに腕が折れる。

「魔法回数の多さ故の選民意識を100歩譲って認めても、付け上がっているのは君達だ。
 確かに君達ぐらいの魔法回数所持者は貴重といえる。殆どの人は数十回なんだからね。
 でも、そういう人達がいなければ社会は成り立たない。そんな態度だと必ず後悔するよ。
 確かに僕は魔法が使えないけど、魔法が絶対と思うのは大間違いだね。」

「仲丸!式森、てめえ………!!!」

浮氣が僕を怒りのこもった眼で睨みつけようとして………急に固まった。

「殆どの魔法は最初に集中又は呪文詠唱、次に対象を選択し狙いをつけて、やっと発動。
 銃で撃つよりも時間が要る。そして、この距離ならナイフには決して敵わない。」

既に僕はいつでも投擲できるように、浮氣にナイフを向けていた。

「ぐっ………!」(浮氣)

「………此の程度で、俺が参ると………ぐぎゃ!!!」(仲丸)

「無駄だよ。痛みで集中できないだろ。下手に魔法を使えば暴発、それぐらい解るだろ?
 それに普段から僕に攻撃魔法をぶつけてくる君達に、武器で対抗して何が悪い?」

いつの間にか誰も声を出す者は居なくなっていた。
視線を向けると、僕の友人達以外は気まずそうに恐れる様に目を逸らす。
自分達の言動を見直す切っ掛けになって欲しいんだが、少しは見込みありか?

「式森、もういいだろ?」

「そうだね………1つ忠告だ。僕も君達のやり方を見習う事にしたよ。
 騙し、不意打ち、何でもござれ。そうしないと非力な僕は抵抗できないからね。」

駒野が声を掛けてきたので、僕は仲丸の腕を解放し、ナイフを手から消す。
最後に軽く殺気を放って、牽制して置く。仲丸達は怯えるように自分の席に戻った。
誰かがため息を吐く。しばしの間をおいて、多少ぎこちなくだが元の喧騒が戻ってきた。

「気迫勝ちって所か?」(駒野)

「これで少しでも反省してくれたらいいんだけどね。」

「ほんと驚いたわ。でも、あの考えには賛成ね。
 うちの流派も魔法の弱点を補う為に練られているんだし。」(杜崎)

「元々僕を相手にしても、別に得にはならないんだから。
 早くそれに気付けば、僕も平穏な生活を楽しめるんだけどね。」


流石にその日は手を出してこなかったが、次の日に教室に入ろうとすると殺気を感じた。
鞄からトンファーを2本取り出し、ベルトに差し込む。それからドアを開けると、

「「天誅ー!!」」

という叫び声と共に魔法が飛んできた。不意打ちのつもりだろうが、バレバレだ。
身を沈めて避ける。射線からすると窓の辺りか。
そちらに目を向けると、仲丸と浮氣が驚愕の表情で固まっている。
荷物を脇に置くと両手にトンファーを構え、一気に距離を詰めた。
今の状態でも100メートルを10秒で走る位は可能だ。

「言葉で解らないのなら、体に刻み込む………!」

それから。2人の弁解も恫喝も哀願も無視して、動かなくなるまで全身をタコ殴りにした。
倒れた2人の鳩尾を爪先で蹴り上げ、反応しない事を確認した後、荷物を持って席に着く。
2人はHRに来た伊庭先生が「保健室に連れてけ。」と言うまで、そのままだったのは余談だ。


◆◇◆◇


「………………あれ?ここは、あの時の!?」

何時の間にか、眠ってしまったようだ。
目を開けると、1月程前に世界の管理人と名乗る女性と会った場所にいるのに気付いた。

直径30メートルほどの円形の空き地。その周りは多くの木が生い茂る、深い森。
円形の空き地の周に沿う様に、5メートルはある8個の十字架が等間隔で地面に刺さっている。
空を見上げると、大きな銀色の満月が浮かんでいた。ここはいつも満月のようだ。
ただし、少しだけ状況が異なっていた。
僕の立つ中央から10時方向にある十字架の根元に、人が2人居たのだ。

「あれ?誰か倒れている………………って、リーラ!ネリー!」

近づいてみたが間違いない。僕に仕える忠実なメイドであり、最愛の恋人達であった。
慌てて揺り起こすと、直ぐに目を開ける。外傷も無い様だ。

「………和樹様?」(リーラ)

「ここは一体………?」(ネリー)

意識も問題無い様だ。深い安堵感を抱きつつ、僕は彼女達を抱きしめる。
胸に感じる温もり。安心できる匂い。抱き慣れた柔らかさが僕の意識を鎮めていく。
彼女達も少し戸惑っていたが、おずおずと僕の背中に手を回し、顔を寄せてくる。
しばらくの間、僕達は無言で抱き合っていた。

「あー、感動の抱擁に水を指す様で悪いんだけど、話を聞いて欲しいんだけどなー。」

突然、頭上から聞き覚えのある声がした。
そちらを見上げると、全身をローブで隠した人影が宙に浮いていた。

「『世界の欠片』いや『世界の管理人』でしたよね。あの時はありがとうございました。」

「お久しぶり、和樹君。その様子だと幸せに過ごしている様ね。」

「お蔭様で彼女達と再会し、二人とも僕の想いを受け入れてくれました。凄く幸せですよ。
 皆が僕を助けてくれましたし、夕菜達も僕と縁を切って新たな生活を楽しんでいますし。」

「「和樹様………。」」

「(………あの子達、やっと君を失った喪失感から立ち直ったばかりなんだけど。)」

「ところで、僕達を呼んだ理由を聞かせてもらえますか?何か問題が起こったんでしょ?」

「御名答!………実はね。」


彼女の話を要約すると。

明日、葵学園に『迷宮の魔道書』と呼ばれる凶悪な魔道書が、
学園生徒の魔力を喰らい尽くす為にゲームを挑んでくるらしい。
そいつはまだ迷宮を現出させずに、生徒達が沢山集まるのを待っている。
だが既に異空間を展開しているので、『管理人』も直接の手出しは出来ない。
また、超越種以上の存在では直ぐばれてしまい、異空間に入る事も出来ない。

ゲームは生徒達がプレイヤーとなって、迷宮にある6つの宝石を集めるというものだ。
勿論その宝石が迷宮の何処にあるかは判らず、迷宮内には沢山のモンスターが徘徊している。
プレイヤーは『戦士』『魔法使い』『盗賊』『僧侶』のどれかのジョブを選択する。
基本的に戦士は前衛で戦い、魔法使いと僧侶は後方支援。盗賊は罠を調べ、宝箱を開ける。
尤も本人の資質から自動的に決定されるし、戦士や盗賊は魔法を使えない。
そして生徒達が通常使っている魔法は、基本的に使用禁止となってしまうのだ。

プレイヤーは最大6人のパーティを結成し、能力を補い合って迷宮に挑む事ができる。
パーティで倒したモンスターは経験点としてパーティ全員に与えられる。
また、パーティ内ではお互いの攻撃が全て無効化される。
誤って味方に斬られようが、味方が放った集団攻撃魔法の効果範囲にいても無傷である。
プレイヤーには初期装備はあるが、基本的にはモンスターを倒すか宝箱を開ける事で、
強力な武器や防具を手に入れ、攻撃力と防御力を上げて成長する。
装備品には魔法の効果が発動する魔法石や傷を癒す治癒薬等もある。

プレイヤーには、ジョブに合わせた体力パラメーターがあり(魔力は魔法使いと僧侶のみ)、
通常は緑だが、ダメージを受けると黄色→赤と変わり、赤になると自力行動不能になる。
パラメーターが0になれば「死んで」しまう。あくまでゲーム内の事で本体に傷は付かない。
ダメージは治癒薬か僧侶の魔法で回復するが、「死んだ」場合はゲームオーバー。
迷宮内には3箇所の『回復の泉』があり、そこで休めば体力と魔力を回復できる。
そこにはモンスターは出現しない。

誰か1人が全ての宝石を集めると(所有者間の融通は可能)、
『迷宮の魔道書』は力を失い、全員が解放される。
逆にプレイヤーが全員「死ぬ」と、全員の魔力が奪われて塵となってしまう。


話を聞いて思ったが、『ダンジョン・トライアル』とそっくりだ。その事を質問すると、

「そうね。迷宮の構成やルールは、あまりにも『ダンジョン・トライアル』と似ている。
 だから『迷宮の魔道書』に宿る意識に『魔王ギガント』が混じっているのは確実ね。
 でもアレは時空を超えて、今まで何万もの人間を喰い散らかした禁書よ。
 以前と違って変な拘りは無いでしょうし。只の人間じゃ絶対勝てないわ。」

瞬間、僕の胸の勾玉が眩い光を放つ。皆の怒りが伝わってきた。
その気持ちは過去を体感した僕にも解る。だが、そうするとかなり厄介だ。
あの時かろうじて勝てたのは、完全なゲームに拘る『魔王』の美学の為だ。
ゲームマスターの都合が良い様に創られたゲームで勝てるわけが無い。
すると、何故僕に知らせにきたのか………。

「………そうか。その迷宮でも僕達の力は制限無く使えるんだね。」

「その通りよ。宝石の守護者はバランスを無視して作られてるし、転職も無いわ。
 ある一定以上の敵には必ず負けるようになっている、最低のゲームなのよ。
 でも貴方達は以前より更に強い力を持っている。勝機は充分にあるわ。」

「いいでしょう。その依頼、お受けします。僕の平穏な生活の為にも。」

「ごめんなさいね。保険代わりにコレを持っていって。きっと役に立つと思うわ。」

『管理人』の手元に金属の球みたいな物が現れ、それを僕に差し出した。
手に取った瞬間、それは僕の内に溶け込むように消えてしまった。

「でも、何故彼女達も呼んだの?」

「リリスとミナを一時的に彼女達に宿らせて、貴方のサポートをして欲しいのよ。
 相手は狡猾な魔道書だし、和樹君1人では負担が大きいわ。
それに異空間では私の加護が薄くなるから、ダメージのフィードバックが来る。
 一瞬とは言え、5人分はきついわよ。それも彼女達が来るなら半減する筈だし。
 これなら成功率は格段に上がるのよ。駄目かしら?」

確かに二人がいれば心強い。出来れば彼女達を巻き込みたくなかったが………。

「リーラ、ネリー。悪いけど協力してもらえるかい?必ず僕が守って見せるから。」

「勿論です!やっと和樹様のお役に立てるのですから。」(ネリー)

「言うまでもありません。私達は貴方のものです。」(リーラ)

本当に僕には勿体無い位のいい娘達だ。絶対に守って見せる。

「それじゃあ、リリスとミナの勾玉を2人に渡して。」

言われたとおり、リーラに赤の勾玉をネリーに青の勾玉を渡す。
二人の手で勾玉が眩い光を放つ。

気が付くと勾玉が首飾りとなって、彼女達の首にあった。
そして、僕の中から2人の気配が消えている。

「こちらこそ、リリス………。」(リーラ)

「………よろしくお願いします、ミナ。」(ネリー)

リリスとミナが、リーラとネリーにそれぞれ話をしたようだ。

「ちゃんと報酬も出すから、頑張ってね。」

『管理人』の軽い言葉を最後に、僕達の意識は闇に呑まれていった………。


◆◇◆◇


気が付くと僕は自分のベットで朝を迎えていた。
胸元を見ると、赤と青の勾玉が無くなっている。勿論リリスとミナのものだ。
すると、まだ朝食の時間には早いのに、ドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ。」

「………失礼します。」(リーラ)

「朝早くから、申し訳ありません。」(ネリー)

入ってきたのはリーラとネリーだった。いつものメイド姿だが、少し違和感がある。
よく見ると、2人とも勾玉の首飾りをしていたのだ。

「君達も『世界の管理人』に会ったのを覚えている?」

「はい。夢かと思いましたが、朝起きたらこの首飾りをつけていまして…。」(リーラ)

「こうして御相談に参った次第です。」(ネリー)

「解った。急いでシャワーを浴びて着替えるから、リビングで待っていて。」

そして僕の部屋のリビングにて朝食を一緒に取りつつ、今日の相談を始めた。
料理係には「今日は相談があるので、部屋に運んで。」と頼んでおいた。

話し合いの結果、ネリーは生徒の振りを、リーラは僕の親戚として登校する事にした。
登校したら、保健室に移動する。紅尉先生は学会に行っているが、紫乃先生が居る。
そこで『迷宮の魔道書』が動くのを待つのだ。多分朝のHR辺りで動くだろう。

リーラがスーツ姿に、ネリーが葵学園の女子制服に着替えた後、
セレンとゲルダに留守を任せて、エルミーラの運転で葵学園へと向かった。


葵学園が見えてきた所で車を降り、僕とネリーは生徒にまぎれるように校門を通っていく。
リーラは少し離れて付いてきた。そのまま来賓用の玄関へと向かう。

2手に分かれて別ルートで移動し、保健室の前で合流した。
中に人の気配がする。もう紫乃先生は来ている様だ。

コンコン

「はい。」

「失礼します。紫乃先生、おはようございます。」

「あら和樹君、おはようございます。朝からどうしました、体調が悪いのですか?
 後ろの2人は恋人?………もしかして保健室のベットで3P!?鬼畜ですね!
 私も混ざってもいいですか!?」

「違います!確かに彼女達は僕の恋人ですが、ちょっと相談したい事がありまして………。」

いきなりペースがあちらに持っていかれた事に慄きつつ、昨日の夢の話をする。

「駄目じゃないですか、和樹君。私も呼んでくれないと!色々聞きたい事があったのに!
 ………事情は解りました。勿論協力は致します。」

「別に僕が行きたくて行った訳ではありません!………ありがとうございます。」

「私も探索を手伝った方がいいでしょうか?」

「それはお任せします。」

その後は『迷宮の魔道書』の動きから意識を離さない為、僕は瞑想に入った。
紫乃先生はリーラとネリーに何やら質問をしていたようだ。
1度注意を向けた時、何故か顔を赤らめた紫乃先生が彼女達の手を取っていて、
彼女達が困惑していたのが解ったが、とりあえず害は無さそうなので放っておいた。


◆◇◆◇


「今日は遅いわね。いつもは始業10分前には来てるのに。」

「どうしたの、玲子。式森君が来ないと寂しい?」

「何よ。沙弓だって、さっきから入り口ばかり見てるじゃない。」

「………気のせいよ。」

ここは2年B組の教室。そろそろHRの時間。
玲子(柴崎玲子)をからかった筈なのに、微妙に墓穴を掘った気がする。

私は杜崎沙弓。最近妙に気になる人がいます。

その人は転校して行った親友が片思いしていた人。
少し前までクラスのほぼ全員に敵視されていた人。
学園でも有数の美少女に迫られたり幽霊になったり復活したりと話題だった人。
そして今の私の中では、学園の誰よりも強く優しい人………多分フリーだと思う。

その人の名前は、式森和樹。

前の印象は優しくて御人好しで、いつも宮間さん達に振り回されている人だった。
だが、あの時。彼が人間に戻れた日。宮間さん達が彼を振ってしまったあの日。
あの日から、彼の評価は私の中で大きく変わってしまった。

クラスメートの絶叫で気を失った私を保健室まで…抱き上げて、運んでくれた。
紅尉先生をワイヤーで牽制した時、その動きは私でも捉えられなかった。
そして、初めてまともに見てしまった笑顔………今でも脳裏に焼き付いて離れない。
これは間違いなく恋だろう。千早には悪いけど、私も譲る気にはなれない。

また、彼の変化に気付いたのは私だけではない。
先程話していた玲子に、片野坂さんや春永さんも私と一緒にあの笑顔を見ている。
あの後、私を含め彼女達も彼と仲良くなり、直ぐに彼女達も同じだと気付いてしまった。
そして、4日前。彼は絡んできた仲丸君と浮氣君を言葉と殺気で黙らせ、
次の日逆ギレして襲い掛かった彼らを瞬時に叩きのめしてしまった。
あれで他のクラスメートも彼に注目するようになってしまったのだ。

彼を隠していた落ち零れ魔法使いのレッテルが剥がれてしまうと、実にお買い得なのだ。
回数が1桁とは言え、世界中の魔術師の血筋が凝縮している事。
今回でばれてしまった、抜群の運動神経。意外に整った顔。さりげない優しさ。
今ではクラスの女子の半数以上が彼に興味を持っているのだ。彼は気付いていないが。
その中に宮間さんが居たのは笑うしかない。逃がした魚は、本マグロか天然トラフグか。


結局、式森君が来ないまま始業のチャイムが鳴り、伊庭先生が入って来た。
そして出欠を取ろうとした時………………校内方法から奇妙な声が聞こえてきた。

”お集まり頂いた紳士淑女の皆さん。我が迷宮へようこそいらっしゃいました。”

それから何やら説明が延々と聞こえてきた。(作者注:『管理人』の説明を参照。)
冗談にしては手が込んでいる。みんな最初は笑っていたが、段々気味が悪くなってきた。
誰かが教室から出ようとしたが、何故か開かない。当然、窓も開かない。

”これから皆さんを冒険へとお連れします。命がけのスリルをお楽しみ下さい。”

その声が聞こえたのを最後に、目の前が真っ白になり、何も聞こえなくなった。


葵学園の生徒と教師全員を巻き込んで、命を懸けたゲームが始まる。
魔法が使えない世界で、彼らは立ち向かう事が出来るか。
和樹達は『迷宮の魔道書』、もしくは『魔王ギガント』の野望を打ち砕けるのか!?
バトルシーンに不安を残しつつ、今回はこれで終幕としよう。

続く


まぶらほ 新たなる物語

第7話


放送が聞こえてきた瞬間、リーラとネリーが僕に身を寄せてくる。
空間に変調が無いかを探りつつ、僕も彼女達を抱きしめた。
変身が早すぎたら警戒される。迷宮が展開された瞬間でなければならない。

”これから皆さんを冒険へとお連れします。命がけのスリルをお楽しみ下さい。”

(来た!)

「ミッション・スタート!」

周りが白い光に包まれる中、僕の腕の中と傍に力を持つ存在が現出するのを感じた。


◆◇◆◇


気が付くと、そこは何処かの通路だった。周りは石壁になっている。
腕の中を見ると、リーラとネリーが居た。ただし、姿が変わっている。

リーラは鎖帷子に『ミスリルの胸当て』。頭をポニーテールにして、額飾りを着けている。
腰に『氷結剣』を下げて、右手に『光の腕輪』。左手に『鏡の盾』。
ネリーは僧服に似た魔術師のローブを身に着け、その上に『水の羽衣』を纏っている。
そして右手に『炎の杖』を握っていた。そして2人とも左手に『パラメーター』がある。
その格好はリリスとミナと同じだ。どちらの胸にも勾玉が輝いている。

僕もいつもの忍者装束に身を包んでいる。腰には村正を挿している。
ただ、左手にいつもは付いていない『パラメーター』がある。
そして、傍に残り2人の仲間が立っているのに気づいた。ユートとジャスティだ。
そう言えば、暗いのに姿がはっきりと見える。ユートの『灯火』の魔法のお陰だ。

「目が覚めたか、マスター?それともゲイルと呼ぶ方がいいか?」(ジャスティ)

「そっちがいいね。じゃあ、マスターの呼称は無し。僕はゲイルだ。」

「じゃあ、彼女達もかな。リリスにミナ、起きなよ。」(ユート)

「ん………?」(リーラ)

「ここは………?」(ネリー)

リーラとネリー、もといリリスとミナも目覚めた。

「2人とも調子はどう?」

「………異常はありません。」(リリス)

「私もです………和樹様、何を?」(ミナ)

僕も軽く体を動かしてみる。身のこなしも村正から感じる力もいつも通りだ。
思い付いてネリーを抱きしめてみると、いつものいい匂いがする。
この世界では嗅覚も存在する様だ。

「ふんふん………どうやら、上手く行ったみたいだ。」

記憶通りに『パラメーター』を操作し、異常が無い事を確認する。
この『パラメーター』は数値を占めすだけででなく、色々な機能を秘めた優れものなのだ。
どうやら皆も異常は無い様だ。僕達は上級職の状態で、このゲームに挑む事が出来る。

「かず………ゲ、ゲイル。まず何処に向かいましょうか?」(リリス)

「ちょっと待って。まずはパーティを組まなくちゃ。」

まだ、ゲーム上はパーティを組んでいないのだ。

「では、ゲイル様のパーティに皆さんが登録するでよろしいですね。」(ミナ)

「ミナ………呼び捨てにしてよ。」

僕がリーダーに誰も依存は無い。僕は皆の登録番号を聞き、『パラメーター』に入力する。
何故か頭の中に登録番号が浮かんできたのだ。変な所までそっくりに出来ている。
皆の目の前に『パーティ登録に合意しますか。YES OR NO』という文字が浮かんでいる筈だ。
手を伸ばし、宙に浮かんだ『YES』を掴む動作をして、皆は僕のパーティに所属した。

「今から『地図』で確認するよ。」

盗賊にはこの迷宮の地図が与えられる。これも前と同じだ。
自分が通った道が明らかになるが、今居る通路の他に3箇所の部屋が表示されている。
これは『回復の泉』だ。地図の中で綺麗な上向きの正三角形を作っている。

「まずはここから1番近い回復の泉に行こう。それまでにある扉や宝箱は全て開ける。」

「当たりがあると楽なんですが。」(ミナ)

「………その前にお客様が来ましたね。」(リリス)

リリスが指差した方向から、骸骨剣士が5体向かってくるところだった。

「魔法は勿体無いからいいや。肩慣らしと逝こうか。」

僕はそいつ等に向かって走りながら、村正を抜き放つ。

「それ!」

横薙ぎの一閃が5体全部に襲い掛かる。内3体が消滅する。
残り2体が襲い掛かってくるが、動きが遅すぎる。
軽々とかわし、もう一度村正を振るう。それで骸骨剣士は全滅した。

「おいおい、俺達の出番が無いぜ。」

ジャスティが笑いながら近づいてくる。

「錆びた長剣が5本だけか。せめて治癒薬ならいいのに。」(ユート)

「置いとくしかありませんね。」(ミナ)

「次は私とジャスティが相手をします。ゲイルは下がって後衛の護りを。」(リリス)

「はいはい………では行こうか。」

こうして僕達は2度目の冒険へと挑む。信頼できる仲間と愛する者達が共にいるのだ。
僕達が負ける要素は無い。待っていろ、『迷宮の魔道書』。


◆◇◆◇


ホブゴブリンの斧が、戦士に振り下ろされる。

「ぎゃあああっっっっ!!!!!!!」

その一撃をまともに受け、戦士が崩れ落ちた。最早動かない、既に「死んで」いるから。

「く、来るな!『火炎弾』!」

壁を失い無防備となった魔法使いの杖先から炎の塊が飛び出し、ホブゴブリンに命中する。
それなりのダメージは与えたようだが、まだ戦闘可能だ。

「だ、誰か助け………ぐぎゃあっっっっ!!!」

直接戦闘が出来ない魔法使いの悲しさ、斧の一撃で魔法使いも「死んで」しまった。
パーティは全滅。ゲームオーバーである。

葵学園の生徒達が迷宮に取り込まれてから、2時間が過ぎた所だ。
既に1/3の生徒が「死亡」。残りの生徒も殆どが苦戦している。
まともにパーティで行動している者達など1割程度である。宝石を集めるどころではない。

良くも悪くも葵学園の生徒達は、魔法使いのエリートだった。
確かに元の様に魔法が使えれば、ここまで苦戦しなかっただろう。
だが、それは言い訳にもならない。エリートだろうが一般人だろうが「死んだら」終わり。
彼らは自分のジョブを生かせなかった。魔法使いの才能がある故に、それに固執した。
突然の出来事に混乱した。強烈な痛みで戦意を失った。肉を斬る感触に耐えられなかった。
実戦における覚悟の無さ。それが極めて明確に生死を分けたのだ。

エリート達は只の負け犬となった。別に、誰もそれを攻めたりはしない。
だが、そのトラウマはこの先の人生で必ず顔を出すだろう。様々な岐路に立たされた時に。
それに打ち勝つも飲み込まれるも、全て彼ら次第だ。その前に死が間近に迫っているのだが。


◆◇◆◇


先へ進む僕達の視界に、10数匹のモンスターが入って来た。
汚れた包帯に身をくるんだ人型のアンデットモンスター、マミーだ。
展開した地図上で矢印が指しているのは、間違いなくこの先だ。
この先に4つ目の宝石がある。こいつらは守護者の尖兵か?

「ミナ、ユート!一気に片付けるよ!」

「『炎弾乱舞』!」

「『聖光』!」

ユートが放った無数の火炎弾と、ミナの両手から放たれた浄化の光がマミー達を包み込む。
炎と光が治まった場所には、3体のマミーが残されただけだった。

「『雷撃』!」

ジャスティの雷神剣から迸った無数の稲妻が、止めを刺した。
その先に扉が見える。1度に3人は入れそうな、両開きの扉だ。

罠がある事も考え、慎重に近づく。皆は2歩下がって、僕の後を付いてきた。
一応扉を調べるが、罠はない。鍵も掛かっていないようだ。
隊列を組み替える。扉を背にするのを前提に、前衛に戦士を集中させる。

「開けるよ?」

皆が頷くのを確認し、扉をそっと開ける。
罠の発動は無い。視界内にモンスターはいない様だ。
僕を先頭に、リリス、ジャスティの順に部屋の中に入る。
其処には何も居ない様だ。続けて、ユートとミナが入って来る。

中を見回すと、10メートル四方の部屋だ。奥に祭壇があり、棺の様な物がある。
其処に近づこうとした瞬間、頭の中に警鐘が聞こえた。

「来るぞ!」

僕が皆に警告を発した瞬間、棺が開いて、中からマミーが起き上がった。
ただし先程のマミーとは違い、包帯は防腐処置をされたように見えるし、妙に偉そうだ。
そいつがこちらを向いた瞬間に、何処からとも無く5体のマミーが現れる。
更に5体、また5体という様にして、とうとう30体を超えるマミーが僕達の前に立ち塞がった。

「マミーは王家の財宝を守る為に埋葬された死者だと言う話だけどね。
 そいつらを召還できる所を見ると、こいつが親玉。マスターマミーとでも呼ぼうか。」

「アンデットなら、それ相応の扱いをしてやりましょう。」

リリスは氷結剣を戻し、アンデットに威力を発揮する『降魔剣』を呼び出す。
ジャスティは雷神剣を構え、ユートとミナは魔法に集中する。

「壁となっているマミーを倒しても、大元を断たないと意味が無い。
 ユート、僕に『加速呪』を。ジャスティは『雷撃』。ミナは『聖光』。
 リリスは降魔剣で後衛を守って!」

「ゲイルはどうするのさ?」(ユート)

「マスターマミーと直接戦闘をする。加速した僕の移動なら、マミーの壁をすり抜け、
マスターマミーの所までいける筈だ。アイツの余裕を無くさせて、召還を止める!
こんな所で梃子摺っていられないよ!」

「すぐに援護に向かいます!」(リリス)

「頼むよ…。」

「『加速呪』!」

僕の体が緑色の淡光に包まれる。

「『聖光』!」

「『雷撃』!」

ミナとジャスティの魔法によって、1/4程のマミーが消滅する。一瞬、隙が出来た。
僕はマミーの集団に飛び込み、奴等が反応するよりも速く駆け抜ける。
僕の試みは成功し、マスターマミーの目の前へ移動できた。

「はっ!」

抜刀した村正の一閃がマスターマミーの胴を薙ぎ、返す刃が更にダメージを与える。
だが、流石にこの程度では消滅しない。拳を振り上げて、殴りかかってくる。
戦士とは違い、防御力に欠ける僕は距離を取ってかわし、すぐさま斬り込んで行く。

マスターマミーの攻撃は僕に当たらない。逆に僕の斬撃は確実にダメージを与えていく。
攻撃の手を休めない僕に、マスターマミーも僕との戦闘に集中せざるを得ない。

「『炎弾乱舞』!」

後ろで再び、ユートの魔法が炸裂する。

「その方を傷つける事は許さない!」

僕の一撃をかわしたマスターマミーを、援護に来たリリスの降魔剣が襲う!
その一撃は村正よりも効果があったようだ。動きが鈍っている。
後ろに注意を向けると、ジャスティがユートとミナを背に3体のマミーと戦っている。
更に7体のマミーが、『足止呪』を掛けられたのか動きを止めている。ここが勝負時だ。

「いくよ、リリス!」

僕とリリスは2方向から連続して斬りかかる。
僕をかわせばリリス、リリスをかわせば僕といった感じで、確実に削っていく。

「『火炎弾』!」

更にミナの炎の杖から、魔力の消費無く『火炎弾』が放たれる。
炎に弱いマミーには、それなりに効いている様だ。

そして………。

「くらえ!」

配下のマミーを倒して駆け付けたジャスティの一撃が、マスターマミーを消滅させる。
残った7体のマミーを倒すのは、大した手間ではなかった。


僕達は回復の泉を目指しつつ、扉と宝箱を見つけたら片っ端から開けてきたが、
治癒薬や再生薬、魔法石、武器や防具しか見つからない。
専用の武器と防具を持つ僕達は武装を替える必要は無いので、武器や防具は置いていった。

だが、ようやく変化が生じた。この迷宮にはそこそこの罠が仕掛けられていたので、
感に引っ掛かったら僕が調べていたが、ある場所であからさまな落とし穴を見つけた。
そう、それは『ダンジョン・トライアル』で村正を見つけた場所にそっくりだった。
罠の発動部分である石版に村正を突き立てると蓋が崩れ、四角柱状にくり貫かれた穴になり、
一方の壁に梯子が付いていた。底まで降りて『罠感知』をすると、壁の一角に仕掛けがある。
そこを押すと壁がどんでん返しに裏返り、
裏返った壁の中央部にピンポン玉くらいの宝石が埋め込まれていた。
『鑑定』した所、トパーズらしい。かなり強力な魔力を感じた。
その宝石の入手を『パラメーター』に登録すると、地図上に矢印が現れ、ある1点を示した。

予定通り回復の泉へ向かい、体力・魔力を回復させた後、矢印に示した場所に向かうと、
6体のケルベロスが目的地の前を塞いでいた。周りには「死んだ」生徒が大勢居る。
『ダンジョン・トライアル』では、こいつにケインを殺された。だが、あの時とは違う。
ユートとミナが遠慮なく強力な魔法を使い、弱った所に残りの3人で一気に斬りかかる。
大して手間も無く殲滅した。奥に進むと部屋があり、宝箱があった。
開けると、さっきのトパーズと同じ大きさのルビーが輝いていた。
ルビーを『パラメーター』に登録すると再び地図上に矢印が現れ、また1点を示した。

3つ目の宝石はサファイヤだった。
宝石を守るアンデット・ナイト4体が「死んだ」生徒達を操ってきて、大分苦戦した。
悪いけど僕達は万能ではない。多少の苦痛には目を瞑ってもらう事にした。
死者を駆逐する『聖光』の2人掛けで、アンデット化した全員を「滅ぼす」。
全員が気の毒なくらいにもがき苦しんで消えたが、本当に存在が消えたわけじゃない。
その後苦戦するも、アンデット・ナイトを殲滅した。

そして今、4番目の守護者を倒したところである。


『管理人』が言った事は本当だった。
自分だけでなくジャスティやユートがダメージを受けても、僕の方に痛みが来る。
リーラとネリーが居なかったら、ここまで無事に来れたか解らないだろう。

「今度はここか。」

マスターマミーの棺の蓋の裏に埋め込まれたエメラルドを『パラメーター』に登録すると、
矢印はまた一点を指したが、ちょっと気になった事があった。
今まで宝石があった位置とこの矢印の位置を結ぶと、逆五芒星を描いている。
邪を呼び込む逆五芒星は、確かに此の呪われた迷宮を構成するに相応しい。
だが、そうすると最後の宝石は何処にあるのか?

「1度、回復の泉に行こう。連戦が続いたからね。一息つきたいし。」

誰も異論は無いようだ。殆ど完成した地図を見ながら、最短距離で進んでいった。


◆◇◆◇


――― 杜崎沙弓視点

「開いたよ。」

春永さんが立ち上がった。隠し扉を発見し、その鍵を開けたところである。

「じゃあ、下がって。」

春永さんが後方へ下がった。その手には短剣を握っている。
私は両刃剣と盾を構え、同じ装備の駒野君と共に扉の前に並ぶ。
玲子と片野坂さん、紫乃先生は『パラメーター』を操作している。
私には見えないが、何らかの表示がされているのだろう。

「行くわよ………。駒野君、開けて!」

駒野君が扉を蹴りつける。隠し扉は奥に向かって開いた。

「やはり、居たか。」(駒野)

巨大な黒犬が2匹。さっき戦った相手だ。紫乃先生がヘルハウンドだって言っていた。
こいつは口から火を吐く能力がある。

「『硬化呪』!」

玲子が空を掻くような仕草をしてから、杖を突き出す。
地系統の防御補助呪文が私達2人を包む。これで草々ダメージは食らわない。
ヘルハウンドが低く構えたように見え、次の瞬間、迸る2筋の火炎が私達に注がれる。

「がっ!」(駒野)

「くっ!」(沙弓)

駒野君と私は何とか苦痛に耐える。先程も食らったが、生身より痛みが酷い。
麻痺しない分、洒落にならない。だが、まだまだ大丈夫だ。
私達は攻撃に転じ、1匹ずつ相手にする。
何度か遣り合っている内に駒野君がかわし損ね、
その鋭い爪で胸を皮鎧ごと、斜めに切り裂かれた。鮮血が迸る。

「「『治癒』!」」

痛みが急に無くなった。片野坂さんと紫乃先生が『治癒』の呪文を使ってくれたのだ。
更に、

「『水膜』!」

玲子が耐火炎の防御膜を私達2人に張った。これで火炎にも対処出来る。

やはり強い。さっきは1匹を2人で相手したから良かったが、1対1では厳しい。
魔法の援護のお陰で、受けたダメージは大した事無いが、相手にもダメージが行かない。
そこに後ろから青い光が飛んだ。私が相手していたヘルハウンドが、氷に包まれる。

「今です!駒野君の相手に集中してください!」(紫乃)

どうやら紫乃先生が青色の魔法石を使ってくれたようだ。たしか中型が1個あったし。
こうなれば後は簡単だ。2人がかりで残ったヘルハウンドを倒し、氷の中の1体を仕留めた。

「やっと、ね。」

結構やばかった。僧侶が2人居なかったら、どちらかが「死んで」いたかもしれない。

「こいつはもう意味を為さない。初期装備の鎧に変えるか。」

駒野君の皮鎧は、ずたぼろに切り裂かれたままだ。
損失した装備の補充は、モンスターを倒して手に入れるか、宝箱を見つけるしかない。

「宝箱があったよ。」

普段と違い、きびきびとした春永さんが宝箱を見つけた。
念入りに罠を調べて、蓋を開ける。

「大型剣が2本入ってた。質もいいし、結構攻撃力が上がりそうだね。」

どちらかと言うと守備重視の私達には攻撃力の増加はありがたい。
私達は武器を持ち替える事にした。


此処に移動した時は驚いたが、家が退魔士の所為か、頭を切り替えるのは慣れていた。
私のジョブが戦士だったのも大きい。早い内に仲間が見つかったのも救いだった。
少し移動した所で玲子と春永さんに合流し、じゃんけんで私がリーダーとなった。

その後、駒野君と片野坂さんが合流し、5人パーティとなったのだ。何故か私がリーダーで。
先へ進む内に、他の生徒がちらほらと倒れていた。駆け寄ってみると「死んで」いた。
全体的に戦士と魔法使いの「死体」が多い。片野坂さんが僧侶で良かった。

しばらくして、全滅したパーティを見つけた。だが、良く見ると1人だけ息がある。
重傷だが「死んで」いなかった様だ。それが紫乃先生だった。
そして式森君の話を教えてくれた。お陰で希望が持てたが、それと同時に気分が沈んだ。
彼が連れていたという女性2人が気になったのだ。それは私だけではなかったが。

紫乃先生も僧侶だったので、私達のパーティはダメージを引き摺る事が無くなった。
玲子が使える魔法は地と水で、攻撃力に欠けるが補助には最適だ。
更に紫乃先生はモンスターに詳しかったので、確実な対処を取る事が出来た。


私達が隠し扉から出ると、鎧武者が5体現れた。

「きついわね。」

単純に相手の数が多い。私達の功撃力は上がったが、駒野君は防御力が下がっている。
更に魔法を連発したので、玲子達の魔力値が残り僅かなのだ。
治癒薬は3つあるが、足りるだろうか。

ゲームオーバーの予感を予感を感じつつ、諦めずに剣を構える。
誰も逃げ出す様子は無い。

(式森君が居てくれたら………。)

ふと、そう思った時、

「部屋に戻るんだ!僕達が相手をする!」

後ろから斬撃?が飛んできた。それを受けて、鎧武者達がひるむ。
何時の間にか駆けつけた式森君の刀から放たれた1撃だった。
鎧武者達は目標を式森君へと変える。多分、その強さに気付いたのだろう。
その隙に私達はさっきの部屋に戻った。それを見て、式森君がじりじりと下がる。
逆に鎧武者達は、距離を詰めて襲い掛かっていった。

「「『雷撃』!」」

次の瞬間、式森君と鎧武者達を、緑白色の無数の稲妻が絡め取る。
光が収まった後には無傷の式森君と、鎧武者の装備だけが残されていた。
どうやら式森君は、私達を魔法に巻き込まない様にしてくれたらしい。
信じられない魔法の威力に、思わず後ずさりする。

「大丈夫?怪我は………しているね。ちょっと待ってて、仲間が来るから。」

其処に4人の冒険者がやって来た。だって、そうとしか表現できない。
特徴のある大振りの剣を構え、物語の騎士のような全身鎧を身に付けた金髪の美形。
黒い髪をショートカットにした、僧侶風の美少女。手に赤い宝石の付いた杖を持っている。
杖を持ち、金属のような短着を着込んだ、いかにも魔法使い風の大人しそうな少年。
そして綺麗な銀髪をポニーテールにまとめた、戦士風の美女。
どう見ても、ファンタジーの冒険者達ではないか。

「ミナ、治療を。」

「はい。『大治癒』!」

暖かい光が私達を包み込む。残っていたダメージが痛みと共に消え去った。

「その様子だと魔力が無いみたいだね。もう少し行くと回復の泉がある。一緒に行こう。」

ありがたい申し出だ。式森君は春永さんと『情報交換』している。

「ねえ、式森君。この人達、誰?生徒や先生には見えないんだけど?」

「彼らは僕の守護者でね。『迷宮の魔道書』の陰謀を潰す為に来てくれたんだ。」

式森君は簡単に事情を説明してくれた。彼の話じゃなかったら、冗談だと思ったろうが。

「じゃあ、貴方達は人間なんですか?」

片野坂さんの質問に、リリスさんとミナさん(そう名乗ったのだ)が頷いた。

「はい。私達は式森様の忠実なメイドです。」

「メ、メイド!?」

「あー、その話はまた今度。回復の泉に行かないとね。後、装備を整えた方がいいか。」

そう言って、式森君は私と駒野君に鎧武者の装備を手渡した。

「鎧はこっちの方が防御力が高いよ。日本刀は予備の武器に持っていけばいい。」


装備を整えた私達は、式森君達と共に回復の泉へ向かった。
途中でモンスターに遭遇したが、私達が行動を起こす前に、あちらが全滅させてしまった。
1度通った所らしく、罠に引っかかる事無く、無事に回復の泉に着いた。
其処には30名ほどの生徒が集まっていた。だが、誰もが戦意を失っているのが解る。
装備的には前の私達と同じくらいの人達も居たが、全快した様なのに誰も動こうとしない。

「何よ、これ………。ここはシェルターじゃないでしょ!」

彼らは解っているのだろうか。全員がゲームオーバーしたら、私達は喰われるのに。
この状況では戦闘放棄としか思えない。命が掛かってるのが解らないのか!?

「杜崎さん、誰もが強いわけじゃないよ。特に今は皆、魔法が使えないんだし。」

解っている。私達だって式森君に助けられなかったら、ゲームオーバーだった。
でも………。

「………回復したら、私は宝石を探しに行くわ。皆はどうする?」

ただ待っているなんて出来ない。私は出来る事が在るのに諦めたくはない。
皆を見ると無言で頷いてくれた。

それからしばらくの間、沈黙が続いた。ここに居る誰もが口を開こうとしなかった。
玲子達の魔力が半分ほど回復した時、式森君がゆっくりと立ち上がった。

「僕達は回復した。先に行くよ。」

その声を聞いて、彼の仲間も立ち上がる。先に居た人達が馬鹿を見るような目を向けた。
式森君は、そんな目を向けてくる生徒達に向かって、右手を伸ばす。

「皆、見てごらん。」

彼の右手の上に現れたピンポン玉程もある4つの宝石が、空中で螺旋を描く様に旋回する。
トパーズ、サファイヤ、ルビー、エメラルド。これほど大きく美しい宝石は初めて見た。
その光景を見た生徒達がざわめく。その声に、下を向いていた人達も顔を上げる。

「半分以上が既に集まっている。心配しなくても大丈夫、僕達は帰れるんだから。」

ざわめきが大きくなった。周りの生徒から諦めムードが消えて行く。
その目には、消えかけていた希望の光が宿っていた。

「心が折れない限り、諦めない限り、僕達は絶対に負けたりはしない。」

そう言い残し、式森君達は出発した………。迷いの無い足取りで。

………そうだ、とても簡単な事ではないか。何故、気付かなかったのだろう。
確かに勝つ事は難しいかも知れないが、私達が負けを認めなければ負けではない。
改めて彼を見直した。私達も彼に甘えてはいけない。元の世界に戻る為に戦うのだ。

そして、式森君の事も絶対に諦めない。例え彼女が居たとしても構わない。
別に独占したいとは思っていない。ただ、私が彼の傍に居たいのだから。

ふと横を見ると、玲子達が熱い目で彼が去った方を見ている。
もしかして、私もあんな目をしているのだろうか?
それだけでなく、他の女子達も同じ目をしている。私の前途は多難のようだ。

「和樹君、やっぱり素敵です。お姉さんも決して諦めませんよ!」

紫乃先生、貴方もですか!


◆◇◆◇


――― 松田和美視点

私達の前方から、オーガが5体も近づいてきた。

「ちょっときついわね。」(玖里子)

「大丈夫です!突撃あるのみです!」(夕菜)

「逃げるわけにはいけません。まだ1つも宝石を見つけていませんし。」(凛)

「んじゃ、一発派手なのを逝くか。」(伊庭)

「畜生、何で俺が前衛なんだ…。」(仲丸)

「(まだ言ってる)…私も前に出なきゃだめかしら。」(和美)

何故こんな現象に巻き込まれたのか解らないが、勝負となれば負ける気は無い!
………そう思っていたのは何時までだったろうか。

私達の絶対的なアドバンテージたる魔法が使えない事が、こんなに不便とは思わなかった。
最初のパーティは4回目の戦闘で潰れたが、戦士の仲丸君と盗賊の私は生き残った。
その後、同じようにバラけた者達とパーティを組んだが、全然思い通りにいかなかった。
ゲームと違って攻撃されれば凄く痛いし、手にしている武器も防具も貧弱だ。
魔法使いが魔法を使っても、一気に片が付くような事は無いし。
自信を持っていた私の策略も、こういう状況では大して役には立たなかった。
それに攻撃をくらうと痛いから前衛に立つのを嫌がるわと、連携も上手くいかなかった。

それでも一生懸命宝箱を漁り、装備を整えつつ、何とか生き延びてきた。
その後、私達は夕菜達のパーティに合流した。伊庭先生も魔法使いとして加わった。
このパーティには夕菜を始め、優秀なメンバーが丁度良く揃っていたのが幸運だった。
モンスターを倒すのは任せて、私は罠の発見・解除と探索に集中し、
装備のグレードを高めた事によって、次々に迷宮を進んでいった。
と言っても、未だ私の地図は1/4しか埋まってはいない。先はまだまだ長い。

「『風牙』!」

伊庭先生が魔法発動の動作をすると、緑の淡光がオーガ達を球状に包み込み、
その球体内部に無数の真空の刃が閃いた。オーガ達は体中に裂傷を負う。
風系統の攻撃呪文は、さほど威力は無いが、複数目標にダメージを与えられるのだ。

「はあぁぁっっ!!」

戦国時代の武将の様な武者鎧を纏った凛ちゃんが、大型剣でオーガに深手を負わせる。

「おらっ!」

右手に長剣を左手に丸盾を構え、硬皮鎧を着込んだ仲丸君が、オーガに1撃を当てる。
身軽さを生かしたヒットアンドウェイで自分を守りつつ、ダメージを蓄積させていく。
嫌がっている割には、中々見事な攻撃だ。この方法で無ければ、とうに死んでいただろう。

「キシャー!」

………何で夕菜の掛け声を聞くと、背筋が寒くなるのだろう?
彼女は右手に戦斧を左手に大型盾を構え、鎖帷子を着込んでオーガに突進する。
仲丸君と違い、多少の攻撃は盾と鎧で防ぎ、猛攻で反撃する、外見に似合わぬ戦法だ。
あの装備があってこそだが、何故あんなに重い装備のままで動けるのだろうか?
まあ、頼もしいのは間違いない。オーガ2体を相手取ってくれているし。

「少しは治療する苦労を考えてよね…。『治癒』!」

玖里子先輩がダメージを受けた夕菜に回復魔法をかける。
地味ではあるが、このパーティの要だ。何故か、このポジションが板について見える。

私も、先に金属の刺が付いた鞭を振るい、オーガ1体を牽制し続ける。
盗賊なので攻撃力は無いが、素早さを生かしての牽制なら充分に可能だ。

その後、対峙していたオーガを倒した凛ちゃんが夕菜に加勢し、
1対1になった夕菜が数合の打ち合いで1体を仕留めたので、一気に楽になった。
夕菜が私の前のオーガと死闘を繰り広げ、仕留めた時にはオーガ5体は全滅していた。
受けたダメージを全回復させ、私達は再び迷宮の奥へと進んでいった。


「………皆、生きてる?」(和美)

「何とかね。でも、もう魔力が空っぽだわ。」(玖里子)

「痛てぇ、痛てぇよ!治癒薬はねえのかよ!」(仲丸)

「あったら、とっくに使ってます!」(夕菜)

「無念………。」(凛)

「ゴブリンと遭遇しても「死ぬ」な、こりゃ。」(伊庭)

突然だが、私達はズタボロになっていた。全員、体力表示がギリギリ黄色と言う所。
1発攻撃を食らえば動けないだろう。それ以前に痛みで死にそうだが。

しばらくモンスターが出現しなかった。それで油断していたのかもしれない。
扉があったので開けてみると、広い部屋になっていた。奥に宝箱が見える。
中に入り、みんな吸い寄せられるように宝箱へ向かった。
突然、扉が閉まる。そして壁の1角が溶ける様に崩れ、モンスターが姿を現した。
今思えば、さっさと逃げればよかったのだ。
でも宝箱が気になったし、体力・魔力も充分にあった。それが過信となった。

姿を現したのは、通路なら完全に塞いでしまう程巨大な、九つの頭を持つ蛇だった。
ギリシャ神話に出てくるヒュドラだった。首を切っても再生する厄介なモンスターだ。
戦士が3人居るが、1人辺りに3つの首が襲い掛かるのだ。そうそうかわせない。
かわし損ねた仲丸君が一撃で黄色表示になった。長剣で反撃するが鱗で弾かれる。
凛ちゃんと夕菜が同時攻撃で首を1つ斬り飛ばしたが、少し経つと再生した。

私はパーティ全員の体力値を一覧表示していたが、
戦士3人の表示はあっという間に黄色表示になってしまった。
玖里子先輩が急いで『治癒』を使うが、3人同時の回復は出来ない。
伊庭先生が魔法で攻撃しても、全然弱る様子は無い。治癒薬も底をついた。
戦士の壁が乱れた隙を付かれて、後衛の私達もダメージを受け、黄色表示となった。
伊庭先生の最後の魔法で怯んだ隙に、全速力で扉へ移動し、何とか抜け出したのだ。

「大丈夫かい?」

突然話しかけられた。振り向くと忍者の格好をした式森君が近づいて来た。
その後ろに彼のパーティのメンバーなのか、見た事の無い4人が付いて来る。
全身鎧を身に付けた金髪の美形。僧侶風の黒髪の美少女。
魔法使い風の大人しそうな少年。綺麗な銀髪の戦士風の美女。………誰?

「この人達、うちの生徒?」

「生徒じゃないよ。僕の大切な仲間さ。………リリス、ミナ。」

式森君の言葉を聞き、2人の美女が私達の体力値を回復させてくれた。
何で戦士が『治癒』を使えるかは解らないが、この際どうでもいいわ。

「松田さん、『情報交換』しない?この周辺の地図とこの先のモンスターについて。
 こちらからは人数分の治癒薬と魔法石を10個、回復の泉への道を提供しよう。
 後は僕達への質問は拒否、でどうかな?」

「乗るわ!」

あまりにも美味しい条件だ。好奇心が疼くが、背に腹は変えられない。
『パラメーター』を介してアイテムを移し、『地図』を見せてもらう。
………驚いた。私の『地図』と合わせると、迷宮が全て映し出されている。

「………この先に居るのはヒュドラか。1体ならいけるな。ありがとう、松田さん。」

式森君が笑顔を私に向ける。…う、コレはきついわ。あの沙弓を落とすだけの事はあるわね。

「ああーっ!!!」

突然、夕菜が叫んだ。

「貴方、リーラですね!何でここに居るんですか!」(夕菜)

「道理で、見覚えがあると思ったわ………。」(玖里子)

「何故、ここに!」(凛)

「知り合いなの、夕菜?」(和美)

「私達3人で海外旅行に行った時、東カロリン諸島の上空で機銃で落とされたんです。
 救助を求めて彼女達が住んでいた城に行ったんですけど、門前払いされて!
 この人達は凶悪なメイドなんです!メイドは悪なんです!良く顔を出せましたね!」

リーラと呼ばれた女性は一瞬怪訝な表情になったが、すぐに表情を元に戻す。

「………私もまた顔を合わせるとは思いませんでした。確かに、あの時は失礼致しました。
私達も敵の上陸に殺気立っていたので、適切な対応を取らなかったのはお詫び致します。
 ですが水銀旅団と共に、私達の城を攻撃した貴方達に言われる筋合いはありません。
 また、貴方がメイドの素晴らしさを理解できるとも思っておりません。」

「何ですって!」

「………ちょっと待ってもらえないかな、宮間さん。」

式森君がリーラさんの前に立つ。

「事情は良く解らないけど、彼女達が迷惑をかけたなら僕が謝罪するよ。」

「!?………し、式森さんには関係ありません!」

「いいや、僕はこの2人の恋人であり主人でもある。彼女らの不始末は僕の責任だ。」

時が止まった。イカレタ兄さんが変なポーズを取ったわけでないけど、そんな感じだ。

「な、な、な、何ですってえぇぇっっ!!!」

夕菜の絶叫が響き渡る。………いや私も驚いたけどね。
玖里子先輩や凛ちゃんは固まっているし、仲丸君は凄い顔で石化している。
伊庭先生はその様子を面白そうに見ている。

「話を聞く限りじゃ、リーラ達が一方的に悪いわけじゃ無さそうだし、許してもらえない?」

「メイドの肩を持つんですか!?大体、何で貴方がメイドの主人なんですか!?」

「彼女達は僕を望んでくれ、僕は彼女達を守りたいと思った。それだけだよ。
 だから宮間さん。君が、君達が彼女達を傷つけるのなら、僕は決して許さない。
 僕は失った絆を紡ぎ直すのではなく、新たな絆を、大切な人達を守る方を選ぶ。
 例えそれで友達ですら居られなくなっても、彼女達の方が大事だからね。」

式森君はゆっくりとこちらを見つめる。私達は彼の雰囲気に飲まれ、反論すら出来ない。

「さようなら。」

最後にそう告げると、式森君はヒュドラの居る部屋の方へ歩いていく。
あの4人もそれが当たり前のように彼の元に集まり、隊列を組む。
まるで幾多の戦場を共に駆け抜けた、かけがえの無い仲間のように。

そうか。式森君が振られたのではなく、夕菜達が彼に振られたんだ。
私の疑問は、あまりにも重苦しい沈黙の中で解消された。

「んじゃ、回復の泉に向かおうぜ。後は式森が何とかするだろう。」

伊庭先生の暢気な声が、固まっていた私達を動かした。
私達は押し黙ったまま、式森君に教えてもらった地図を頼りに進んでいく。

そして半分ほど進んだだろうか。突然、目の前が真っ白になり、何も聞こえなくなった。
そう、最初に此の迷宮に連れてこられた時のように………。


随分長くなってしまった迷宮の冒険も、次回がクライマックス!
果たして、和樹達は無事に迷宮から脱出できるのか?
更に、遂に夕菜達と決別をした和樹!無意識に立てていくフラグ!
収拾が付くのか不安だけれど、次回も派手に逝きます!

続く


まぶらほ 新たなる物語

第8話


「ん………あれ?」

気が付くと、僕は柔らかいベットに寝ていた。

松田さん達と別れ、僕達はヒュドラと対峙した。
『前』と同様に斬っても斬っても再生する首には梃子摺らされたが、所詮僕達の敵ではない。
ユートとミナの強力な魔法攻撃と、僕とリリスとジャスティの猛撃の前に遂に息を引き取った。
その後、宝箱から5つ目の宝石、アメジストを手に入れた。そこまでは覚えている。
だが、それからの記憶がはっきりしない。一体どうなったんだ?

「あら、和樹君。目が覚めたんですか?」

「………紫乃先生!?ここは!」

「葵学園の保健室です。よく寝ていましたね。御2人もそこに居ますよ。」

指差された方を確認すると、リーラとネリーが僕の両脇のベットで寝ていた。
2人とも首に勾玉をしたままだった。感じる波動はリリスとミナのものだ。
僕は胸元に意識を集中する。ジャスティ、ユート、ゲイルの波動が返ってきた。

「ありがとうございます、和樹君。
貴方のお陰で私達はあの迷宮から抜け出し、現実世界に戻る事が出来ました。」

紫乃先生が僕に深々と頭を下げる。顔を上げた先生の目は妙に熱っぽいものだった。

「………いえ、本当にこれで終わったんでしょうか?」

「何か問題でも?」

「僕が集めた宝石は5つだけ。まだ、最後の1つが揃ってなかったんです。
 それに、まだ『迷宮の魔道書』を倒してはいないんです。おかしいですよ。」

「でも、ここは間違いなく私の保健室ですよ。見間違える筈が無いです。」

「………『前』にこれとよく似た状況になりまして。」

『魔王』を倒したと思った瞬間、現実世界の病院に似た場所に居た、苦い記憶が蘇る。
あの時早く気付いていれば、リリス以外が全員死ぬなんて事は無かったのに。
あの時はリリスに薔薇の花の匂いを嗅がされ、何も匂わなかった事で気付いたが、
迷宮内では嗅覚も存在していた。ここが元の世界じゃないと否定する材料は無い。

ふと気付くと、教室のある方から多くの奇声が聞こえてくる。
耳を済ませてみると喜びの雄叫びの様だ。元に戻れた生徒達が無事を喜んでいるのだろう。
余程嬉しいのだろうか、今夜は貸切で飲むぞー、という声まで聞こえてくる。
………待てよ。飲み……食事……味!?もしかして!?

「………ここは?」(リーラ)

「………和樹様?」(ネリー)

雄叫びの所為か、リーラとネリーが目を覚ました。

「大丈夫?何か変な所は無い?」

「特に問題ありませんが………。」(ネリー)

「終わったのですか?宝石はあと1つ残っていた筈ですが?」(リーラ)

「それを今から確かめる。」

僕は愛用の短剣を呼び出し、制服の左腕を捲り上げる。
露出した左腕に短剣を当て、軽く引く。
僅かな痛みと共に左腕に赤い線が生まれ、血が流れ出した。

「和樹様!?」(リーラ)

「何を!?」(ネリー)

「和樹君!?」

声を上げる3人に構わず、僕は流れ出した血を舐める。
すると………血特有の鉄錆の味どころか塩気さえ感じない。いや、味が全くしない。
また、この忌まわしい手法を使ったのか!プレイヤーに絶望を与える為に!

「ここは………現実世界じゃない。まだ僕達はあいつの手の内に居るんだ。」

「そんな!?」(ネリー)

「味がしないんだ、全くね。ゲーム中に食事した事は無いから気付かなかったけど。
 あいつは魔力を取り込む事しかしてないから、味が解らないのだろうね。
 以前の反省から嗅覚には対処したようだけど、味覚は忘れていたみたいだ。」

「失礼します。」(リーラ)

リーラが僕の腕を取り、傷口に舌を這わす。が、直ぐに顔を青くして離れた。
味に敏感なリーラが血の味を感じないはずは無い。

「では………。」(リーラ)

「あいつの性格の悪さが良く解った。おそらく皆が油断した所を襲う気だろう。
 「死んだ」生徒達を操って、まだ「死んでいない」生徒を「殺す」つもりだ。」

「どうします?」(ネリー)

「ほっとく訳にもいかないけど、下手に動くとやばい気がするしな………。」


『私を呼んで下さい。』

突然、僕の頭に聞き覚えのある女性の声がした。初めて聞く、だが聞き覚えのある声。

『和樹、貴方の想像通りです。ここは未だ『迷宮の魔道書』のテリトリー。』

『貴方はここから脱出し、『迷宮の魔道書』の野望を砕かねばなりません。』

『こうしている間にも、無事な生徒達が襲われています。』

『その為にも、私の名前を呼んで下さい。』

「そんな事言われても………。」

『貴方は私の名前を知っている筈です。そうですよね………ゲイル。』

「!?」

突然、僕の中に1つの名前が浮かび上がった。
『魔王』の戦いで共に戦った最後の仲間。あの虚構世界で助けられなかった彼女。

「クラリス!」

僕が叫んだ瞬間、右手に『管理人』がくれた金属の球が現れる。
それが一瞬で伸びて、両刃の長剣となった。
ただし、刃の真ん中に大きな穴が5つ縦に並んでいるが。

『覚えていてくれたんですね。もっと話したいのですが、今は戦いの時です。』

確かにその通り。今、僕の耳には悲鳴が聞こえている。生徒達が襲われているのだ。
長剣を握り、軽く振ってみる。不思議な銀色の剣で非常に軽い。この穴は何だ?

『赤と青の勾玉よ。仮初の主より、本来の主の下に還れ。』

僕の胸の首飾りに5つの勾玉が揃う。すると体が急に熱くなってきた。
僕の全てのチャクラが勝手に廻りだし、魔力を引き出している。
忍者にならない限り、全チャクラを自分の意志で廻せなかった筈だが…。

『迷宮を組み上げし宝石達よ。汝等の主はここに居る。』

『この剣に集いて、その秘めたる力を示せ。』

僕の頭上にトパーズ、サファイヤ、ルビー、エメラルド、アメジスト、
あの迷宮で手に入れた5つの宝石が現れる。
5つの宝石は長剣に向かって飛び、空いた穴へとはめ込まれた。
まるで元から一つであったように。

『和樹。私が手助けできるのはここまでです。後は貴方の戦いです。』

『この剣を媒介にして、貴方は宝石の数だけ魔術を行使できます。』

『信じて下さい、貴方の力を。貴方には仲間が、大切な人達が居る事を忘れないで。』

『貴方の想いが実現する事を強く信じて下さい。それが魔術の原点。』

その思念を最後に、クラリスの声は聞こえなくなった。

「………………………。」

大きな魔力を汲み出し、練り上げて収束させ、
それを元に様々な術式を編み上げる事で奇跡を引き起こす。それが魔術。
だが魔力を収束させる事と術式を編み上げて魔力を現象へと移行させるのを、
同時に行なう事は僕には出来なかった。

僕は長剣をじっと見つめる。埋め込まれた宝石は、勾玉と全く同じ色。
ふと頭の中に、最近勉強中の魔術の知識が浮かんでくる。
それは『呪いの藁人形』等に代表される『類感魔術』。
『形が似通ったモノ、元が同じモノは互いに影響を及ぼす』という、古い魔術。
もし宝石と勾玉の色が同じなのが、偶然ではなく必然だとしたら………。
いや、偶然を必然へと変える。それが魔術師だ。ならば………信じてみよう。

「………リーラ、ネリー。今から僕は『迷宮の魔道書』を滅ぼしにいく。
 危険が待っているけど、僕を信じて付いて来てくれるかい?」

あの時、夢の中で彼女達に尋ねた問いをもう一度。

「「勿論です。」」

彼女達の声には怯えは無かった。ただ、僕への信頼があった。
今、解った。『管理人』が彼女達を巻き込んだ理由が。
僕の退路を断ち、迷わせない為か。随分と人が悪い。
だが彼女達を守る為なら、僕は奇跡でも何でも起こして見せる。

全身のチャクラを廻し、引き出した魔力を体内で練り上げられていく。
宝石の魔力の波長を感じ取り、同色の勾玉の魔力の波長と合わせていく。
すると5つの宝石が輝き、体内から汲み上げた大量の魔力が宝石へと収束する。
練り上げた魔力の維持は剣がやってくれる。後は術式の構成のみ。
そして僕のイメージに答えて、剣が術式を編み上げていく。
魔力の収束と術式の構成、その2つを剣がサポートしてくれているのだ。
これなら僕でも魔術を行使できる。

「我が斬撃は世界の壁をも斬り開く!『迷宮の魔道書』の元へ導け!」

虚構世界を切り裂くイメージと共に、勢い良く長剣で空を斬る。
すると目に映る世界が歪んでいき、真っ白な光が僕達を飲み込んでいった。


◆◇◆◇


僕達は荒野に立っていた。枯れ木と石ころだけが転がっている、寂しい場所だった。
リーラとネリーが不安そうに僕の腕を掴んで来る。軽く抱きしめて安心させる。

辺りを見回すと、50名くらいの生徒達が倒れていた。特に怪我はしていない様だ。
服装は学生服に戻っている。元通りに魔法が使える様になったのだろうか?
その中に駒野、杜崎さん、柴崎さん、片野坂さん、春永さんも居た。
駒野に近寄って、軽くゆする。直ぐに目を覚ました。

「………式森!?ここは何処だ!?何が起こったんだ!?
 元の世界に戻れたと思ったら、あの時「死んだ」奴等が日本刀で斬りかかって来て…!」

「たちの悪い罠に引っ掛かったんだ。元の世界に戻れたと思わせて油断した所をついて、
 生き残った生徒を皆殺しにしようとしたんだろう。まずは手分けして皆を起こそう。」

4人で手分けして起こしていく。倒れているのは何故か僕の知り合いばかりだけど。
夕菜、玖里子さん、凛ちゃん、紫乃先生、伊庭先生、松田さん、仲丸………等々。
とりあえず全員を起こして、今までの経緯を殆ど全て話した。
さっき、夕菜達にはキツイ事を言ってしまったから少々気まずいが、仕方が無い。

「じゃあ、その『迷宮の魔道書』ってのを倒さないと元に戻れないって事か?」(伊庭)

「その通りです。そうしないと「死んだ」人は戻ってきません。」

「ザラマンダー!………駄目です、精霊が答えてくれません。」(夕菜)

「こちらも、刀に鬼が降りてきません。」(凛)

「私の符も駄目ね………。」(玖里子)

「やはり魔法の使用は無理か。」

「式森君、何か手があるの!?」(杜崎)

「ここはアイツのテリトリーなんだ。まずは姿を現してもらおうか………クラリス!」

5つの宝石をはめ込んだ美しい長剣が、僕の手に現れる。

「おいおい、そんな剣1本でどうするんだよ?」(仲丸)

『お黙りなさい、屑が。やっと最終ゲームの舞台が整ったのです。静かにしなさい。』

突然、校内放送から流れたあの声が僕達の耳に響いた。
何時の間にか、僕達の目の前に道化師(ピエロ)の格好をした存在が立っていた。

『お見事です。よくぞ我が迷宮を攻略し、5つの宝石を集めました。
 この世界の能無し共では決して攻略できないと思っていましたが、嬉しい誤算です。』

「てめえ、誰が能無しだって!」(仲丸)

『お前達の他に誰が居る、虫けら。そんな、存在を削らずには使えぬ力など興味は無い。
 大体、本物の魔術師は此処に居る彼と其処の女だけではないか?
 私の領域内で力が使えぬ時点で、お前達は虫けら以外の何者でもない。』

道化師が示したのは僕と紫乃先生だった。紫乃先生には後で詳しく聞いてみよう。

「お前が『迷宮の魔道書』か?」

『不本意ながら、そう呼ぶものが多いですね。しかし、何故その名を?』

「僕はお前の食事を邪魔するように、『世界』に頼まれたのさ。」

『成程、その人とは思えぬ力。選ばれし者でしたか。名はゲイルと言いましたね?』

「その名で呼ぶな。それは僕の半身の名前。お前風情が呼んでいいものではない。
 僕の名は式森和樹。此の名前、地獄に落ちても忘れるな。」

『ほう、大した度胸ですね。我が力の欠片を奪って、強くなったつもりですか?
 生憎、その宝石達には迷宮を構成し、維持する能力しか持たせていません。
 我が魔力の1/3が込められていますが、それだけでは正に宝の持ち腐れです。』

「さっき見たんだろ?僕が此処に来た方法を。この宝石は僕の守護石と共鳴できる。
 お陰で魔力の収束が容易になり、魔術を行使できる様になった。充分頼りになるさ。」

『ほほう………まさか、そんな使い方があるとは。面白くなってきましたね。』

余程余裕があるのか、道化師はゲラゲラと笑い出す。
かなり不快な笑い声だ。吐き気がしてくる。

「迷宮の地図を全て埋めても、最後の宝石の在り処は解らなかった。
 お前が6つの宝石を集めれば勝ちを認めると言ったのは出鱈目か?」

『いえいえ、嘘は言ってませんよ。あの迷宮から脱出するには5つの宝石が必要です。
 そして5つ集め、試しをクリアした者が、迷宮の裏側で眠る私の元に来れるのです。
 裏側も迷宮の一部ですよ。後は私の持つ最後の宝石を手に入れれば、君の勝ち。
 私は全ての力を失い、君達は元の世界へと帰れます。6つ目の宝石はコレです。』

道化師の手に大粒のダイヤモンドが現れる。
今までの宝石がピンポン玉なら、これは野球ボールくらいだ。
そいつを道化師は耳まで裂けた大口で飲み込んでしまった。

『最後のゲームは簡単です。私を倒し宝石を手に入れる、それだけです。ただし………。』

道化師の姿がどんどん大きくなる。見る見るうちにドラゴンへと姿を変えていった。
全長約10メートル。誰が見ても邪竜を連想させるであろう、実に禍々しいものだった。

『この私を倒せたらですけどねえぇぇぇーーー!!!』


とすん
どすん
ばたん

鈍い音が連続して聞こえたので後ろを見ると、せっかく起こした生徒達が殆ど寝ていた。

「………居眠りしてる場合じゃないんだけど?」

「気絶したんだよ。俺はタイミングを逃したんだけどな。」

僕のボケにすかさず駒野が突っ込む。やはり、君とはいいコンビになれそうだ。

意識がある学園関係者は、駒野と杜崎さんに柴崎さん、紫乃先生に伊庭先生か。
リーラとネリーは起きている。顔色が悪いが、真っ直ぐに僕を見つめている。
夕菜達は平気かと思ったが、安らかに気絶している。
股間がびしょ濡れなのは見なかった事にしよう。気絶した全員がほぼ同じ状況だし。

「冗談はさておき、大丈夫なのか?」

「正直あいつに、ふざけるなって言いたいけどね。ウェイトの差が有り過ぎる。」

勿論、諦める気など全く無い。僕の後ろにはリーラとネリーが居るのだ。
愛する人達を危険にさらす事も、彼女達より先に死ぬ事も決して許されない。
一緒に帰るんだ、元の平穏な世界へと!

あの時の誓いを口にする。

「君達は僕を僕のままで認めてくれた。君達が僕に本気で仕えてくれるのなら、僕が君達を守ろう。
僕は君達の信頼を裏切らない。足りない所は補い、共に苦難を乗り越え、幸せを分かち合いたい。」

僕の言葉が聞こえたのか、リーラとネリーは僕に向かって微笑んでくれた。
信じています、と唇が動いたのが解った。

「『迷宮の魔道書』!お前に2つ聞きたい事がある。」

『いいでしょう。ただし命乞いは聞きませんよ!』

「迷宮内で「死んだ」生徒達は何処に居る?」

『そんな事ですか。そこにありますよ。』

ドラゴンの爪先が示した方に何時の間にか魔法陣があり、その上に数百個の紅い球が浮いていた。

『今は紅い球に封じていますが、私を倒せれば元に戻ります。で、2つ目の質問は?』

「あの迷宮はお前が考えたものでは無いだろう。誰が考えたんだ!?」

『………良く解りましたねえ。確かに私のオリジナルではありません。
 私は元々『迷宮の魔道書』では無く、未完成の魔道書だったんですよ。
 何故なのか知りませんが、創造主は私に「人喰い」の力を与えました。
 私は人を喰らう事によって、その知識と記憶と力を自分の物に出来ました。
 創造主と別れ、人を喰らいながら時空を移動する内に、ある人間に出会いました。
 彼は魔力は無いですが知識に貪欲な人間で、私を受け入れたので契約をしたんです。
 その人間は多くの人を集め、奇妙な装置の中に1つの仮想世界を創り上げました。
 それが中々面白そうだったので、そいつの耳に色々吹き込んでみたんです。
 そしたら見事に暴走して、かなり酷い無茶をやってくれましたよ。
 仮想世界に集められた256人の苦痛と憎悪の感情は、堪らなく甘美な物でした。』

「………その男はどうなったんだ!?」

『今まで得た力で異空間を作れる様になりましたが、それだけでは大した事は出来ません。
 しかし、彼の作った世界を再現できれば、更に多くの贄が手に入ると考えたのです。
 あの仮想世界が幕を閉じたと同時に彼を喰らい、その知識と記憶を奪いました。
 そして彼から得た記憶より迷宮を作り出し、多くの人間を喰らう内に、
 私に『迷宮の魔道書』という呼び名が付いたのです。本当の名は既に忘れました。
 ふふふ、つい長い昔話をしてしまいました。彼の事も今となっては懐かしいですね。
 そうだ、私の事は『ギガント』と呼んで下さい。あの時、彼が名乗った名前です。』

『魔王ギガント』。『ダンジョン・トライアル』の製作者、江崎新一が名乗った名前。
奴を皆で1発ずつ殴ろうとは思っていたが、別に殺したい程強く憎んでいたわけではない。
………どうやらその他諸々を含めて、こいつを消す必然性が出来上がったようだ。


「ならば、ギガント。そろそろ始めようか?」

『鴨打ちばかりでも飽きが来ます。久し振りの戦闘です。私を楽しませて下さいよ!』

余裕のつもりか、先手を譲るようだ。愚かな事に。

「楽しめはしないさ。お前は恐怖の内に滅びるのだから。」

まともにやれば、5人がかりでも勝てない。あいつはいわば此のセカイの神なのだ。
だが今の僕は、仮初とは言え魔術師の力を得た。奇跡を起こす者なのだ。
長剣を構え、全てのチャクラを廻し、魔力を練り上げていく。

「………かつて人間に戻れた時に、僕は自分の魔力を5つに分けた。
 僕の超越存在に匹敵する魔力が、世界に歪みを起こすのを防ぐ為に。
そして、その魔力から守護者を創造した。この勾玉は彼らの召還ゲート。
 彼らの力は、例え世界から隔絶されようと僕の元へ届く!」

クラリスの言葉を思い出し、僕がこれから紡ぐ言葉が実現する様に強く念じる。
僕の魔力が宝石へと収束し、剣が術式を編み上げる。望むは魔力の同期共鳴。
5つの勾玉は僕の魔力を分割し、波長をずらして結晶化させた物だ。
それぞれの波長が異なる故に、完全にリンクできるのは紫の勾玉だけだった。
だが5つの勾玉の波長を完全に同期させ、5つの勾玉と同時にリンクできたら?
チャクラを廻す事で、紫だけで無く全ての勾玉から魔力を汲みだせるのではないか?
僕の意志を受けて剣の宝石が全て輝き、同調するように勾玉の発する光も強まる。

「全ての宝石と勾玉の同期共鳴によって、僕は嘗ての魔力を1時的に取り戻す。
 それを元に編み上げられた魔術は、例え神であっても抵抗する事は出来ない。
 その力をお前を完膚なきまで滅ぼす為に使おう!僕の怒りと共に!」

5つの勾玉の波長が完全に一致する。五色の眩い光が絡み合う様に長剣へと収束する。
すると長剣に、先程とは比べ物にならないほど凄まじい力が練り上げられていく。
その光の色は混じり気の無い白。あらゆる闇を打ち砕く光。

「………見せてやる。苦痛と恐怖をもたらすものを。怒りの発現を。人を超える力を………。
 今、お前の目の前で見せてやる!」

きぃぃぃぃん!!!

その瞬間、セカイが悲鳴を上げた。嘆き、怯え、震え、哀願した。
助けてくれ、と。滅びたくない、と。創造主の心を映したかの如く。
既にギガントは攻撃するどころか、逃げる事も身動きすらも出来ないでいる。
僕の魔力に気圧されているのだ。まさしく、蛇に睨まれた蛙の如く。

『馬鹿な、人間風情がこれ程の力を!?………そ、そうだ。大事な事を言ってませんね。
 此のセカイを創ったのは私。私を滅ぼせば、セカイも崩れ、後ろの人間達も…!』

「そんな事ぐらい予測済みだ。………此の魔力を全てお前にぶつけるわけじゃない。」

長剣の切先で空中に正位置の五芒星を描く。軌跡は魔法陣となり、僕の願いを解き放つ。
後方に巨大な『迷路』が出現し、数百の紅い珠を含め、此処に居た全員を中に包み込む。
あえて表現すれば、CCさくらの「メイズ」のカードを使った状況だ。(解るかな?)
僕は『迷路』を背にして、ギガントと対峙している。
長剣に収束された魔力が半分ほどになったが、こいつを滅ぼすには充分だ。

「あの『迷路』は宝石に刻まれた術式を応用して、僕が創り出した新たな迷宮。
 『迷路』に居る者に対しては、あらゆる攻撃が無効となる。僕がそう定義した。
 例えセカイが崩れても、送還魔術を行使するまでの間くらいは充分維持できる。
 既に詰んでいる。お前が今まで弄んできた者達の怒り、とくと味わうがいい!」

『!?………………い、嫌だ!た、助けて、くれ………!私は、滅びたく、ない!
 貴方に仕えます!主の望みを、全て叶えましょう!だから、助けて………!!!』

泣き喚き、哀願するドラゴンなど滅多に見れるものではない。
中々面白いが、既に答えは決まっている。

「お前が今まで喰らってきた人達が同じ事を言った時、お前はどう答える?」

『う、あ………た、助けてぇぇぇ!!!』

さて、後は此の練り上げた魔力にギガントを滅ぼす意志を込め、発動させるのみ!
こいつを滅ぼすのに相応しい、あるゲームの主人公が使う必滅の魔術をイメージする!

「光射す世界に、汝ら暗黒、棲まう場所なし!」

僕のイメージを受けて、刃に収束した魔力を包むように高密度の術式が編み上げられる。

「渇かず、飢えず、無に還れ!」

地を蹴り、荒野を疾駆する。一瞬にしてギガントとの距離を詰める。

『い、嫌だぁぁぁっっっ!!!』

長剣を大上段に構え、そのままギガントの頭部目がけて高々と跳ぶ。
構えた刃が獣の如き咆哮を上げる。

「レム○ア・インパクトォォォォォ―――――ッ!」

爆発的な光に包まれた刃が、導かれるようにギガントへと吸い込まれていく。
同時に、発動した必滅の術式がその内部へと浸透していく。

「昇華!」

僕の声が、セカイに響き渡る。
その刃から発された光が、セカイを白い闇の中に閉ざした。

その光が消えた時にはギガントは既に跡形も無く。
地面には月面を彷彿とさせる巨大なクレーターが出来上がっていた。


ゆっくりと『迷路』の上に降り立つ。
下を見ると、『迷路』から脱出しようとする5人と気絶した生徒達が目に入る。
リーラとネリーが僕に気付いて、嬉しそうに手を振ってきた。
そして空から雪のように紙片が降って来て、僕の手の中へと集まってくる。
集まった紙片は導かれるようにまとまっていき、1冊の本へと変わる。
本が形成されると同時に、僕の目の前に大粒のダイヤモンドが現れる。

「これで全ての宝石が揃った。いい加減、元の世界へ帰るとするか。」

行使した魔術は『迷宮の魔道書』の元に来るのに1回、魔力を勾玉から引き出すのに1回、
『迷路』を創るのに1回、『魔王ギガント』を滅ぼすのに1回。後1回残っている。

「今、6つ全ての宝石が集まった。今こそ迷宮は閉じられる。仮初の死は幻となる。
 『迷路』に在りし者を全て、光射す我らの世界へと送還せよ!」

最後の魔術が発動する。長剣が白い光を放ち、『迷路』が光の粒子へと変わっていく。
落下する感覚と共に目の前が真っ白になり、何も聞こえなくなった。


◆◇◆◇


「ん………あれ?」

気が付くと、僕は再び保健室に立っていた。傍にはリーラとネリーが寄り添っている。

「今度こそ戻れたんだろうな。」

血を舐めてみるか迷っていると、

「失礼します。」

リーラが僕の首に手を回して、顔を寄せてくる。そのまま深くキスを交わす。

「うん……うんん……」

舌を絡ませ、お互いの唾液を交換する。リーラの唾液には不思議な甘さがある。
確かにこれは現実だ。この味を再現するのは、あのトカゲでは不可能だ。

「ん…どうでしょう?現実だと解りました?」

「良く解ったよ、ありがとう。…ネリーにもね。」

ジト目でこちらを見ているネリーを胸に抱き寄せ、ディープキスを交わす。
ネリーも積極的に応えてきた。

「和樹君、私もいいですか?」

「駄目です。」

「………意地悪。」

拗ねる紫乃先生を無視し、ふと思いついて長剣を呼び出す。
すると、現れた瞬間に5つの宝石は崩れ去り、穴の開いた剣だけが手元に残った。
それもあっという間に元の金属球へと変わり、僕の手から宙へと浮かび上がる。
そして、足元に落ちていた『迷宮の魔道書』であった本の中へ吸い込まれていく。
今度は本が宙に浮かび上がる。浮かんだ本はオレンジ色の結界球に包まれていた。

『管理者の名の下に『迷宮の魔道書』を回収します。ご苦労様でした、和樹。』

結界球から、クラリスの声が聞こえてきた。

『細かい事情は今夜の夢で話します。それでは………。』

クラリスの声が消えると同時に、結界球も消えてしまった。

「………今は昼休みか。食事を取ったら、教室に行くか。じゃあ、学食へ行こう。
 食事を終えたら、先に家に戻ってくれる?此のダイヤも預かっといて。」

「「承知いたしました。」」


何食わぬ顔で教室に移動すると、全員が自分の席で突っ伏している。

「………駒野?何があったんだい?」

「………………おう、式森。すまんが話す気力が無い、眠らせてくれ………。」

どうやら気力を使い果たしたらしい。生死を懸けた戦いは彼らでも辛かった様だ。
他のクラスや職員室を覗いても、これより酷い光景ばかりだった。
伊庭先生に次の授業について聞いてみると、

「全て自習。動けるなら帰宅してもいいぞ。教師の一致した意見だ。特にお前はな。」

という答えがサムズアップと共に返ってきた。

とりあえず、友人達をほっとく気にならなかったので、
職員室のポットで5人分のコーヒーを作り、教室へと持っていった。

B組の連中はそれから2時間ほどで何とか起き上がってきた。
僕は復活した友人達と差し障りの無い会話をしつつ、彼らが帰るまで一緒に過ごした。
何故か杜崎さんと柴崎さんが妙に熱っぽい目で僕を見ているのが気になったけど。
それに女子の殆どが、彼女達と僕を睨んでいるし。コーヒーが欲しかっただろうか?
駒野を除いた男子連中は、まるで財産を根こそぎ失ったみたいな雰囲気で黙り込んでいた。


◆◇◆◇


此の場所に来るのも3回目だ。

家に帰ると、リーラもネリーも自室で深く眠ってしまったそうだ。疲れたのだろう。
今日はルイーゼが給仕をしてくれた。その後、いつもより速く眠りについたのだが………。

「いらっしゃい、和樹君。」

昨晩と同じ場所で、同じ格好をした『管理人』が、僕の前に浮かんでいる。
僅かに覗く口元が、嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

「………確か、ここは僕の精神世界ですよね。変ですよ、その言い方は。」

「細かい事は置いといて、御苦労様。そして御免なさい。私の調べが甘かったわ。
 読み取れた『ダンジョン・トライアル』もどきの迷宮なら大丈夫と思ったけど、
 あいつの性質の悪さは私の予想を超えていた。貴方が居なければ確実に負けていたわ。」

「あの剣があったればこそです。それよりも聞きたい事が………。」

「解ってるわ。あの娘の事でしょう?」

『管理人』が懐からカードを取り出し、宙へ飛ばす。カードは光を放つ。
光が治まると、そこには僧侶服姿の穏やかな笑みを浮かべた女性が立っていた。

「初めまして、かな?クラリス。」

「久し振りでいいわ、和樹。………御免なさい、貴方の力になれなくて。
 マスターが私達を連れ出す時、皆は貴方の守護者になるのを承諾したけど、
 私はマスターの手伝いを望んだ。消えたくなかったけど、もう戦いたくなかった…。」

「君は優し過ぎたんだ。戦いが嫌いなのは皆も知っていたよ。誰もそれを攻めやしない。
 君は僕達の大切な仲間だ。今までも、そしてこれからもずっとね。」

「ありがとう、和樹。私はこれからも貴方達を、貴方達の世界を見守っていくわ。
 マスターと共に、世界の均衡を崩す歪みを除去する。それが私の選んだ道だから…。」

その言葉を最後に、クラリスは光の粒子となって、カードへと戻る。

「………あの娘ったら無茶するんだから。これで当分眠っちゃうわね。」

「もう1度逢えて話せて嬉しかったです。ありがとうございます。」

「…リーラさんとネリーさんには、報酬を枕元に置いておくわ。大した物じゃないけどね。
 和樹君には本当に感謝している。クラリスも無茶したけど、貴方が居なければ大惨事だった。
 私の代行者にスカウトしたいくらいよ。特別に、望みを1つだけ叶えてあげる。何でもね。」

「………あのダイヤモンドを貰ったから別にいいですけど、もし望めるなら。
 リーラとネリー、そしてメイドの娘達が幸せで在る様に。それが僕の幸せでもあるから。」

「貴方はもっと自分を知った方がいいわよ。でも、それでこそ和樹君なのね…。」

『管理人』は僕の側に移動すると、フードに隠れた顔を寄せてくる。
右頬に柔らかい感触を感じる。

「お休み、可愛い和樹君。今日の貴方は本当に格好良かったわ。1人占めは勿体無いわね。
 ………そうだ、和樹君に仕えている娘達や好意を持つ娘達にも見せてあげましょ!」

最後の方が良く聞き取れなかった。何時もの様に僕の意識は闇に呑まれていった………。


◆◇◆◇


次の日。僕は身体を強く揺すられて、目を覚ました。
すると、リーラとネリーが僕のベットの両脇に立っているのに気づいた。
2人とも、どこか熱っぽい目で僕を見つめてくる。夜のお楽しみの時の様に。

「お、おはよう。どうしたんだい?」

「申し訳ありません。実は………夢を見たんです。その………。」(リーラ)

「昨日の出来事が夢に出てきたんです。迷路の中で見えなかった筈の光景まで。
 あの時の和樹様………いつもよりも素敵でした…。」(ネリー)

「私達は2日以上1人寝でしたのに………あのような御姿を見せられては…。」(リーラ)

「はしたないと思われてもいいです。でも………抑え切れないんです…。」(ネリー)

彼女達は潤んだ瞳で僕を見つめながら、メイド服を脱ぎ捨てていく………。
その後、閉じられた寝室から競い合うような嬌声が、絶え間なく聞こえてきた。


通常より1時間早く起こされたのが幸いし、何とか何時もの時間には食堂へと向かえた。
リーラとネリーには特別に半日の休暇を出した。多分昼まで起き上がれなさそうだし。
そう言えば彼女達の枕元に、金貨や宝石が詰まった宝箱が置いてあったらしい。
帰ってきたら『鑑定』してみるか。


………今日はどうしたのだろうか?
メイド達が僕を見ると顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに目を逸らす。
なのにずっと見つめられている気がするのだ。セレンですら照れているように見える。

「どうかしたの、セレン。何か様子が変だけど。」

「い、いやー。ちょっと変わった夢を見てね…それでね………。」

「………例えば、僕がドラゴンと戦っていたとか?」

「あ、ああ………。」

『管理人』さーん!あんた、何を考えているんですかー!?

「どうも、あたし等全員が同じ夢を見たらしいが………ほんと、アレは反則だよ。
 あんたは仕え甲斐のある主人だし、みんなも結構気に入ってたのは確かだが…。
 お陰で御主人様としてじゃなく、1人の男として意識する子が増えたみたいさね。」

「へっ!?」

「まあ、あまり気にするな。絆が深まったと思えばいいさ。」

そう言って、セレンは足早に去っていく。それを呆然と見送っていたが、気を取り直す。
セレンが言った事は良く解らないが、メイド達に嫌われた訳ではない様だ。
なら、別にいいや。そろそろ学校に行かなくては。


その後、学校に行った後も色々大変だった。

まず、昨日の御礼を言いに保健室に行ったら、紫乃先生が何故かロングコートを着ていた。
椅子に座ると何故かドアの鍵を閉め、コートを脱ぐ。その下は妖艶な黒の下着姿だった。
そのままベットに引きずり込まれそうになって、慌てて上着を使った空蝉の術で抜け出す。
何故こんな事に忍者の力を使わねばならないのか凄く疑問だったが、背に腹は変えられぬ。
隙を見て彼女の脇を擽り、落とした上着を拾い上げ、ドアを蹴り破って逃走した。

授業中は昨日の影響かクラスメートも大人しく、平穏に過ごせた。
ただ何故か、女子達から感じる視線の数と無言の圧力が、前より増大していたが。

昼休み。杜崎さんと柴崎さんに屋上へと連れ出され、何と2人から同時に告白された!
夢かと思ったが弁当は美味いし、頬を抓ると痛い。「恋人が居るから」と断ったのだが、

「愛人でもいいわ、傍に居させて!」(杜崎)

「メイドでもOKよ。いっぱい御奉仕しますわ、御主人様!」(柴崎)

等と言って来たので、ずっこけてしまった。顔は真っ赤だが、目が本気だったし。
落ち着くのを待って話を聞くと、彼女達も昨日の出来事を夢で見たらしい。
それで想いが溢れて、僕に告白したそうだ。一体どんな夢だったのだろう?
何とか説得して、返事は待ってもらう事にしたが、どうしたものか?

『迷宮の魔道書』の陰謀は阻止したが、僕の周りに揉め事の種が尽きる事は無いらしい。
それでも、以前のように剣や魔法で攻撃されないだけ、ましと考えるべきか。
とりあえず、僕に平穏が訪れるのは、もう少し先のようだ。


圧倒的な力で見事に迷宮を脱出した和樹。その姿に魅せられ、周りの好感度も上昇中。
作者から見れば、刺したくなるほど幸せに見えるが、本人は今一つ理解していない。
今回は幸せなのか疑問が残るが、ここで幕としよう。

続く


後書き

やっちまいました…。

コンスタンス・マギーよりも無能かも知れない、妄想SS書きのタケです。
自分の妄想が爆発しまくった作品になってしまいました。
読んでくださる方の反応が怖いです。長くなった割にまとまらないし。
しかも別作品ネタに走りました。多分4つは入っています。主に台詞。


話は変わりますが、皆様からのレスは非常に嬉しいです。
好意的なものばかりで、非常に励みになります。ありがとうございます。

では、その2の後書きで書けなかった方も含め、レス返しです。
2006-06-17 15:22時点でですが。

>にゃら様。
ありがとうございます。これからもお付き合い願います。
>フィン様。
ありがとうございます。期待に答えられる様に頑張ります。
これを期にクリス・クロスをお読みになられてはどうでしょう?
>ショウ様。
作者名共々ありがとうございます。
作品の内容は覚えているのに、作者名はとっさに出なくて困ります。
>D,様。
和樹達が使用しているのは魔術です。この世界の魔法より上位にあります。
ボーンシャー城は、魔術が廃れた後に創られた設定にしました。
ユート達は何気なく使っていますが、実は複雑な手順で発動しています。
メイドは次回に目立たせたいなあと思ってます。
ところで、メイドガイって何ですか?
>ルビス?様。
付き合いに関しては、私も同意見です。私的に1番リーラ、2番千早、3番沙弓です。
両親については全く考えてませんでした。そう言えばそうですね。
原作でも和樹君が両親に相談する事は無かったし。案外「了承!」で終わりかも。
メイド闘争は考えてません。大体、叩きのめした相手に惚れ込むとは思えないんで。
千早も出したかったんですが、これ以上キャラを操る技量が無いです。
彼女には思い入れがあるので、チョイ役にしたくないですし。
>皇 翠輝様。
次回が何時投稿できるか解りませんが、頑張ります。
賢人会議は敵役にいいですね。情報提供者としてディステルも出したいです。
>菅根様。
夕菜と和樹の絆が戻る事は無いです。彼女の護衛は伊庭先生に任せます。
次回が何時投稿できるか解りませんが、頑張ります。
>夜深様。
ありがとうございます。原作のまぶらほは2巻からの幽霊編がメインだと思います。
ここで玖里子と凛の救済が入りますし。後、紫乃先生がいいんですよ。
ここまでの夕菜は嫌いじゃなかったんですけどね。
頑張って考えますので、出来ればお待ちください。
>黒子壱号様。
今回はクリス・クロス風味です、一応。
でも、クリス・クロスとまぶらほは戦闘タイプが随分違うのが難点で。
つい、まぶらほ寄りになりました。更に別作品のネタにも走っちゃうし。
期待に添えなかったかもしれませんが、もう少しお付き合い下さい。
>甲本昌利様。
和樹君を幸せに、がテーマの作品ですが、今回は怪しくなりました。
でも平穏で幸せだと話が出来ませんし。今回は『管理人』への恩返しです。
B組連中にバレたとしても、何とかなるでしょう。
今回の事で、和樹君の強さは明らかになりましたし。
>DNM様。
ありがとうございます。
今回の話ではなるべく再現してみましたが、どうでしょう?

それでは、次の話で会えます様に。

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