西暦2015年……全ての人類は滅びた。
一人の少年を残して。
少年は願った。
新しいヒトの世界を。
新しい命を。
やがて少年の元へ十と四の魂が集い、三つの魂が分かれた。
少年達は長い長い眠りについた。
悠久の時が流れる。
新しい世界……三つの魂は少年を求め、今、目覚めた。
「…………」
某港町のカフェテラスで蒼銀の髪に赤い瞳、そして雪のような白い肌の少女が本を読んでいる。黒いシャツの上に白い女性用のスーツと同色のズボンを穿いており、年不相応の不思議な雰囲気を醸し出している。
「レイ! お待たせ!」
「や」
と、そこへ荷物を抱えて少年と少女がやって来た。少年は銀髪にレイと呼ばれた少女同様の赤い瞳と白い肌。青いTシャツにジーンズとラフな格好をしている。一方の少女は朱金髪に青い瞳と蒼銀の髪の少女とは対照的な顔立ちで、更に服も黒い半袖のカッターシャツに、黒のジーンズと、着ているものまで対照的だった。
「ん、アンタの分のチケット」
「…………ありがと」
「そっちは?」
「必要なものは買い揃えておいたわ」
そう言い、蒼銀の髪の少女――レイ・アタナミは、椅子の下に置いてある三つのリュックを見せる。
「Danke!」
ニコッと笑って礼を言う朱金髪の少女――アスカ・ラングレー。
「じゃ、早く行こうか」
そして銀髪の少年――カヲル・ナギサに言われ、それぞれリュックを背負うと、レイはテーブルにコーヒーの代金を置いて歩き出した。
「いよいよねぇ、ハンター試験」
潮風に当たりながら、船の甲板でアスカが呟く。
ハンター……珍獣・怪獣、財宝・秘宝、魔境・秘境……“未知”という言葉が放つ魔力。その力に魅せられ、追う者達の事を総称して、そう呼ぶ。
上記だけでなく、国際的な犯罪者や、未だ発見されていない食材など、ハンターが追う者は幅広い。そして、年に一度行われるハンター試験。超難関であるその試験に合格した者だけが、ハンターと名乗る事を許されるのである。
アスカが、ついハンター試験、と言葉を漏らすと、あちこちで失笑が零れた。彼女達以外の乗客は、明らかに旅行者と言うような連中ではなく、ハンター試験の受験希望者だという厳つい風貌をしていた。
「おい、嬢ちゃん達もハンター試験受けるのか? やめときな」
そこへ、受験希望者の一人が笑みを浮かべながら言って来た。
「ハンター試験じゃ死人が出るのは当たり前だ。俺の相棒なんて去年の試験で、谷底に落ちて死んじまったんだぞ?」
「フ〜ン……でも、そんなの試験を受ける人間からしたら当たり前じゃない? ご忠告だけ、ありがたく受け取っておくわ」
飄々と答えるアスカに、男は舌打ちして、その場から離れて行く。
「受験希望者諸君!!」
その時、マストの上の方から声がしたので顔を上げると、そこにはこの船の船長が乗っていた。
「この船は、カール港へ向かう。そこから諸君は、ザバン市のハンター試験会場を目指す訳だが……」
チラッと船長は受験希望者を見下ろす。この船に乗っているだけで、6〜70人はいる。皆、自信満々な笑みを浮かべているが、彼はニヤッと笑った。
「ハンター試験の受験希望者は数百万人にまで達する! そいつ等、全員を審査出来る程、試験管側に人的余裕は無い! そこでだ!」
パチン、と船長が指を鳴らすと、巨大な砂時計がマストのてっぺんに設置された。
「ハンターである事の最低条件である強さ。それを見極めさせて貰う! この砂時計の砂が落ち切るまで諸君には戦って貰う! そして最後まで立っていた者達のみをカール港へと送り届けよう!」
ザワっと乗客達がどよめき出すが、やがて皆、笑みを浮かべてそれぞれの武器を構えた。
「海に落ちたり、死んだ者はその場で失格だ! では…………始めぇ!!!」
船長の合図と同時に、怒号が響き渡った。受験希望者が一斉に騒ぎ出し、それぞれ戦い始める。アスカ、レイ、カヲルもそれぞれ散開して戦いに参加している。
「ずえりゃああああああああ!!!!!!!」
掛け声と共にアスカは自分よりも遥かに大きな男を放り投げて、海に捨てる。当初、小娘と思って見くびっていた受験希望者達も冷や汗を垂らして彼女を見ている。
「フッフ〜ン……さっさと来なさい」
余裕ぶった笑みを浮かべてゴキゴキと指を鳴らすアスカ。が、その時、背後から大男が彼女に対して棍棒を振り下ろして来る。ハッとなってアスカは振り返ったが、次の瞬間、男の両腕がバキッと鈍い音を立てて“くの字”に折れ曲がった。
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!」
激しく転げ回る男。ふと見ると、レイが無表情で棒を持って立っていた。
「アスカ……油断し過ぎ」
「はいはい」
軽く笑って流すアスカだったが、レイがいる事に気付いていたので敢えて背中を隙だらけにしていた。現に、レイの背中も隙だらけである。昔は、お世辞にも仲が良いとは言えなかったアスカとレイだったが、今では抜群のコンビネーションを発揮するまでになった。
「そういえばカヲルは?」
「あそこ」
レイが指差す方を見ると、カヲルは両手に拳銃を持って、笑いながら撃ちまくっていた。一応、ちゃんと急所は外している。
「レイ、久し振りに、どっちが多く倒せるか競争しない?」
「…………望む所」
「よっしゃぁ!!」
そう言い合い、二人は再び戦い出した。アスカ、レイ、カヲルの戦いをマストから見ていた船長は、ジッと目を細めた。
「アスカ・ラングレー、レイ・アヤナミ、カヲル・ナギサ……か。どうやら、間違いないようだな」
船長は、その三人の特徴と乗客名簿を確認して、つい先日、自分の前に現れた少年の言葉を思い出す。
『もし、その三人がハンター試験受ける為に貴方の船に乗ったら、バトルロイヤル形式で頼むよ』
それは穏やかな顔立ちをした黒髪の少年だった。5000万ジェニーもの大金を目の前に出し、少年はそう依頼して来た。船長は、その少年から素性を聞いて驚きを隠せなかったが、彼はそうは思わせない笑顔で言った。
『多分、その三人しか残らないだろうからね』
『どういう事だい? アンタと何か関係でもあるのかい?』
『昔馴染みだよ。あ、それと……』
Prrrr!
その時、携帯の着信音が鳴り、少年は『失礼』と断って携帯を取る。
『もしもし、クロロ? 何か用? え? ヨークシンで手伝い? う〜ん……まぁ気が向いたら手伝ったげるよ。でも高いからね……うん、バイバイ』
携帯を切ると、少年は何やら愚痴るようにブツブツと呟きながら、やがてニコッと笑う。
『じゃ、よろしくね。あぁ、もし依頼通りしてくれなかったら、僕はともかく、他の面子の報復が怖いんで、その辺は理解しててね』
何とも言えないおぞましいプレッシャーを放ちながら、少年は笑顔のまま去って行った。船長は、ドッと冷や汗を流し、目の前の大金を見つめるのだった。
「言われた通り、やってみたが……本当だな」
砂時計もほぼ砂が落ちている。甲板では、アスカ、レイ、カヲルと他数名しか残っていない。大半の受験希望者があの三人によって、海に落とされてしまった。そして、残った他数名も三人によって海に落とされると、ほぼ同時に砂時計の砂が落ち切った。
「そこまで!!!」
船長が終了の声を上げると、パ〜ン、と船員が終了の合図を鳴らす。そして、船長がマストから降りて、横に並ぶアスカ、レイ、カヲルを一瞥する。
「今ので失格になった奴は今後、別ルートで会場に辿り着いても門前払いだ! お前ら三人、俺が責任を持って連れてってやる」
「ありがと、船長」
「と、その前に聞いて良いか?」
ふと、船長が質問すると三人は眉を顰めた。
「ハンターを目指すには、それなりに理由ってもんがある。良くも悪くも、合格者ってのは、その目的に達しようとする意志が強い者だ。お前らは、何でハンターを目指す? 金か? 地位か? それとも復讐か?」
「…………人を探しているの……」
そうレイが言うと、アスカは一枚の古ぼけた写真を見せた。それには、アスカ、レイ、そして二十代ぐらいの女性と一緒に写っている黒髪の少年が笑っていた。その少年を見て、船長は目を見開くが、気付かれないよう帽子を深く被る。
「A級首である幻影旅団に並ぶ国際テロ組織……“黙示録”を探しているんだよ、僕らは。その首領に用があってね」
「黙示録は、熟練ハンターでも手が出せねぇ危険な連中だ。一体、何で……」
「関係ないわよ。ただ、あの馬鹿に会ってぶん殴ってやりたいだけよ」
腰に手を当てて笑みを浮かべながら答えるアスカ。レイ、カヲルも恐怖を微塵も感じさせない様子で、小さく微笑んでいる。
「(なるほど……あの男が注目したがる筈だ)」
彼女達は、ただのガキではない。幾つもの修羅場を潜って来た戦士だ。船長は、“彼”に頼まれて三人に注目していたが、自分自身、彼女らが何処までやれるのか見てみたくなった。
「そうか……ありがとよ。いい理由だ。カール港まで、もう少し日にちがかかる。それまで、ゆっくり休んで鋭気を養いな」
そう言って、踵を返す船長。アスカ、レイ、カヲルは顔を見合わせてキョトン、となるものの笑顔を浮かべて船室に戻って行くのであった。
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