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「永遠の煩悩者 第三話(GS+永遠のアセリア)」

ふむふむ (2006-06-25 10:13/2006-06-26 20:28)
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暗闇の中…………俺は走っていた。

走る理由は簡単だ。逃げているのだ。苦しいこと、痛いこと、辛いこと。

いやなことから逃げる……実に俺らしいと思う。

走り続けると暗闇の中にぼんやりと人影が見える。

小さく、青い髪のポニーテール姿の少女、ネリーだった。

俺はネリーに声をかける。ネリーはこちらに視線を向けるが、その顔には悲しみが浮かんでいる。

「どうして逃げちゃったの?ヨコシマ様……」

そして、ネリーの体が金色のマナに変わり、消えた。


「永遠の煩悩者 第三話」
「スピリット集結中」


「どああ!」


ガタンガタン!!


叫び声とともに横島はベッドから転げ落ちる。そして、きょろきょろと辺りを見回し、昨日自分が眠っていた部屋と確認してため息をついた。


「ふう………まったく、なんて夢だよ……」


心臓は早鐘のように鳴り、服にはいやな汗が染み付いている。夢見としては最悪だった。夢の内容と気を失う前の状態を思い出し、ネリーのことが非常に気にかかる。


「ネリーのやつ大丈夫だといいんだが………ちょっと見に行ってみるか」


体にはまだ鈍い痛みが残っていて、動くのはきつかったが、気合を入れて立ち上がろうとする。そのとき、ドアが開いたかと思うと小柄な少女が飛び込んできた。


「ラスト、テスハーア!?ラスト、ステスアーン!?」


少女はかなり慌てていて、早口で何かをしゃべるがまったく分からない。


(文珠を使うしかないか………しかし本当に言葉を覚えなくちゃまずいな)


横島が今もっている文珠は三つ。『翻』『訳』の文珠を使えばあとひとつになってしまう。こうも毎回のように文珠を使っていては、文珠がいくつあっても足りなくなる。ため息をつきながら横島は『翻』『訳』の文珠を発動させる。


「エトランジェ様!大丈夫ですか!痛いところはありませんか!水飲みますか!」


「ちょっと落ち着いて!俺はぜんぜん大丈夫だから!」


横島は体を動かして元気なことをアピールする。実際はけっこう痛いのだが………
少女は良かったと言って微笑むが、突然表情を変えて背筋を伸ばす。


「私はヘリオン・ブラックスピリットといいます!。永遠神剣第九位の『失望』の使い手で………え〜と〜〜〜とにかくがんばります!!」


すごい勢いで喋る、ヘリオンと名乗る少女。黒髪で年は13才ぐらいだろうか。髪はツインテールで纏めていて、まだ幼さを残す少女だった。


(う〜ん……五年後が楽しみな子だな〜)


この男が最初に女の子を見て思うことは、たいていこんなものである。ヘリオンは不思議なくらい背筋をピンと伸ばし横島を見つめている。


「えーと、もしかして緊張してる?」


「い、いえ!緊張なんてしていないんですよ!!」


ぶんぶん手をふって否定する。こちこちに固まった体と、妙な言い回し、どう見ても緊張している。横島には何でこの少女が緊張するのか分からなかったが、今はネリーが無事なのかどうか確かめることにした。


「ところで、ネリーは大丈夫だったのか?」


「はい!ネリーちゃんには傷ひとつありません。ネリーちゃん泣きながらエトランジェ様を運んでらしたんですよ」


その言葉に横島は胸をなでおろす。彼は自分が傷つくのは本当にいやだが、自分のせいで女性が傷つくのはさらに恐れるのだ。


「ネリーちゃんはヒミカさんに剣の稽古をしてもらっているんですが……エトランジェ様のことが気がかりでぜんぜん集中してないようでしたよ」


「じゃあ、元気なところを見せにいかないとな」


―第二詰め所 訓練所―


訓練所では昨日であったスピリットたちが剣の訓練をしていた。訓練所にはいると、ヒミカと訓練をしていたネリーが横島に気づいた。そして涙を浮かべながら横島のほうに弾丸を思わせるスピードで突撃をしかけてきた。


「ゴファ!!」

体が本調子でない横島にネリーのぶちかましが入る。たまらず崩れ落ちそうになるがネリーはそれを許さない。横島の腰に手を回し、内臓が破裂するのではないのかと思うほど締め上げてくる。


「ヨコシマ様!ごめんなさい!ネリーのせいで……」


「ネ、ネリー!分かったから離し……グオオ!」


だがネリーの手は緩むことなく横島を締め上げる。


(くっ、ここまでか……)


目を閉じ、最後のときを迎えようとする横島。しかし、パコンと言う音が聞こえると腰を締め付けていた圧力が消える。何事かと目を開けるとネリーは頭を抑えて唸っていて、その隣ではネリーを大きくしたような女性が手を上げて怒っていた。


(怒っててちょっと怖いけどなかなかの美人だ。よしここは……)


横島が怒っている女性にいつものルパンダイブを仕掛けようとしたとき、女性と目が合う。その目には苛立ちや憎しみといった負の感情が込められていた。その圧力に負けて、横島はルパンダイブの発動に失敗してしまう。仕方なく無難な挨拶から始めることにした。


「ええと、俺の名前は横し「報告はすでに聞いているので結構です」


横島の挨拶はあっけなく潰された。そして女性は淡々と喋り始める。


「私の名はセリア・ブルースピリットといいます。まず貴方にどうしても聞いておかなければならないことがあります。今日、貴方をスピリット隊の副隊長とし、第二詰め所のスピリットの指揮をさせろと言う御達しがありました。もし、貴方がこの申し出を拒否、逃亡した場合、我々を処刑するとのことです。」


その言葉にその場の空気が凍りつく。


「貴方の決断はお聞かせください」


居間にいる全員の視線が横島に集中する。横島はスピリットたちを見渡すと誰もが心配そうな顔をしている。ただハリオンだけは穏やかな顔をしていた。


「…………わかった。俺は……副隊長になる………」


横島は副隊長になることを了承する。この状態で断る度胸など横島にはないし、なにより彼が女性を見捨てることなどできはしない。


「それは〜私たちのようなスピリットと戦うってことですよ〜」


のんびりした声で本当にスピリットを殺せるのかと、聞いてくるハリオン。その顔はいつものニコニコ顔だが、目は真剣そのものだった。


「…………やるしかないんだろ」


しぼりだすかのような声で答える横島。しかし、やると答えた横島の心中は本当にできるのかと疑念があった。どうしても自分が見た目麗しい女性たちを殺すことが想像できなかったからだ。彼女たちを殺し合いの場に立たせない為にスピリットの解放などと言って王宮に乗り込み、結局は自分がスピリットを殺す立場になってしまうという馬鹿さ加減に自分を呪いたくなる。
そんな横島の心中を知らないスピリット達は、横島の言葉に素直に喜んでいた。


「それだけ聞ければ十分です。しかし、戦いは私たち任せて貴方は後方に待機してください」


「セリア!ヨコシマ様は私たちの隊長になるのよ。神剣の位だって私達より高いのだし、もう少し部下らしい態度をしたらどうなの!」


規律や階級を重んずるヒミカが反発する。ただ、それは横島を信頼していたからではない。自分たちの上官だからという理由だった。


「ヒミカ……私はいくら神剣の位が高くても背中を預ける気にはならないわ。それに私は人間を信用できない!」


そういって横島を睨みつけるセリア。彼女の目には人間に対する不信感がありありと見て取れる。その目を見て、びくっと震える横島だが、横島自身はセリアの反応が当然と考えていた。人間から奴隷に近い扱いを受けているのに信頼など、できようはずもない。


「それに、彼はユート様と同じように戦いがないハイペリアからやってきたのよ。実戦経験がない者に隊長なんて役がこなせると思う?」


「それは………」


ヒミカは沈黙した。セリアの言うことがもっともだったからだ。生きるか死ぬかの戦いの場で、戦いをしたこともない素人の指示で戦う………正直にいえば、ぜったいにいやだった。だが、この場で横島を一番信頼している人物であるネリーが反論する。


「そんなことないよ!ヨコシマ様はとっても強いんだから!!きっとセリアより強いんだよ。シアーもそう思うでしょ」
「う〜わかんないよ〜〜」


横島と戦い、そしてもっとも信頼しているネリーが横島を擁護する。その言葉を聞いたセリアは、ずっと訓練をしていた自分より強いはずないと怒り出す。あーだこーだと言い争いをする二人にハリオンがもっとも良い解決策を言う。
それは――――


――――――どうしてこうなるんだろう。


目の前にはポニーテイルを揺らしながら、刃のない西洋剣の素振りを繰り返すセリアがいる。ときおり、こちらに殺気じみた闘気をこちらに送ってきて、とても怖い。ちなみに俺の手にも刃のない日本刀が握られている。扱う神剣の形に合わせているのだ。


「それでは〜これよりヨコシマ様とセリアさんとの〜模擬試合を始めます〜」


つまりはそういうこと。どちらが強いのか分からないなら戦わせればいい。あまりにも簡単で正しい意見だった。だが、いくら刃がない西洋剣でも叩かれればまちがいなく痛い。横島はこの勝負から逃げることを決める。


「いま、俺ちょっと腹がいたくて………」


勝負から逃げ出そうとする横島だが、ハリオンが近づいて内緒話のように喋りだす。


「セリアは〜強い人が好きなんですよ〜。ヒミカや他の子たちだって強い人の方が好きですし〜。もちろん私も〜」


そういって笑うハリオン。彼女は横島の扱いを覚え始めていた。さすがみんなのお姉ちゃんである。


その言葉に横島は煩悩メーターが一挙にあがる。彼の脳内ではセリアたちに囲まれてウハウハな自分がいた。


「それじゃ俺がこの戦いに勝ったらウハウハ?」


「はい〜ウハウハですよ〜」


その言葉を聞いた横島はいきなり手に持った日本刀の素振りを始める。煩悩全開でにやにや笑いながら刀を振るう姿はかなり怪しい。セリアはその笑みを『自分に勝つことができると考えているから笑っている』などと考え、よりいっそうの気合を入れる。


「二人とも準備はいいですね。それでは模擬戦……開始!」


ヒミカが戦闘開始の掛け声がかかると、セリアは猛然と横島にむかって突進し、袈裟懸けに切りつけてくる。そのスピードは確かに速いがシロの動きよりは遅い。スピリットの高い身体能力は『神剣』を持つことによって発揮される。『神剣』がなければスピリットの身体能力は、人間より少し強いぐらいなのだ。人狼やバトルジャンキーと戦える横島からすればその剣閃は遅くすら見えた。


(よし!十分見えるぞ。回避して反撃だ!)


横島は迫り来る剣を横に飛んで避けるが、反撃せずに顔をゆがめる。その顔には苦痛の色が見えた。


(やばい……そういや俺って病み上がりで、体動かすのもきつかったじゃないか……しかもネリーのさば折り食らっちまったし……)


横島は自分が病み上がりだったことを忘れていたようだ。そんなこととは露知らず、セリアは横島に剣を振るい続ける。単純に剣で切りかかってきたネリーとは違って突きや払いなど剣術を学んだ動きの剣を、横島は体の痛みと戦いながら必死に避け続けていた。


「のわ!」「うわ!」「おきょ!」「もきょ!」「へきょ!」


横島は『本当に人間?』と問い詰めたくなるような奇妙な動きと変な声をあげながらセリアの剣を避ける。そのあんまりな様子にヒミカは頭を抱え、ハリオンは………やっぱりニコニコしている。ヘリオンは目を丸くして驚き、ネリーやシアーは笑い声をあげて面白がっていた。しかし、セリアはその様子に本気で怒りを覚えていた。


(なんで………なんで当たらないの!こんな無様な動きなのに!!!)


目の前で「うきょ」とか「もきょ!」とか言いながら自分の剣を避けるヨコシマと名乗るエトランジェ。剣術を習い、磨き続けてきた剣技が一回もあたらないという現実にセリアの怒りが爆発する。


「ちょこまかと!いいかげん攻めてきたらどうですか!!」


そう怒鳴り、さらにスピードを上げて横島に強力な一撃を叩きつけようと突進する。


(くうぅ……まずい、このままじゃ避け続けているだけでやられちまう。………行くっきゃない!)

横島も体中が悲鳴をあげていて、これ以上避けるのは不可能と判断して刀を握りしめセリアにむかって突撃する。そして二人の剣がぶつかり合った。


だが、横島は刀の特性をよく理解していなかった。重量のある西洋剣と厚みがなく薄い日本刀が正面からぶつかれば………


ボギ!!


「んなっ!?」


当然こうなる。横島の刀は根元から折れ、刀身が空中に高く舞い上がる。セリアの剣は刀を折ったために多少威力が落ちたがそのまま横島の胸に直撃する。


「ぐうぅ!!」


たまらず崩れ落ちる横島を見てセリアはようやく落ち着き、息を整える。


「はあっはあっ………どうやら私の勝ちのようで「セリア!あぶない!!」


突然の警告にいったいなにが危険なのか分からなかったセリアだが、次の瞬間理解する。目の前に銀色の鈍い光あったからだ。横島の折られた刀身が空中に舞い、そのまま重力に負けて落ちてきたのだ。


「!!!」


けっこうな勢いがある鉄の塊が顔に当たれば痛いぐらいではすまない。あまりにも突然のことで反応できないセリアに刀身がぶつかる―――――寸前で突如現れた光の剣が刀身を叩き落した。


「えっ?」


呆然と光の剣を見つめるセリア。いったいどこから現れたのかと見ると、エトランジェがうずくまりながら手から光の剣を出していた。


(この剣は彼が?マナも神剣の気配も感じないけど……)


光の剣……横島の霊波刀をセリアが呆然と見ている最中、横島はあほな妄想に浸っていた。


(負けちまったけど、女の子の危ないとこ助けたんだからきっとウハウハな展開に!)


彼の脳内では美化200%状態の横島と『助けてくれてありがとう』といって擦り寄ってくるセリアの姿が映し出されていた。だが、現実はそうあまくなかった。


「エトランジェ様……その剣はいったいなんですか?」


どこか感情を抑えた声で聞いてくる。横島は自分の想像(妄想)とは違う雰囲気にがっかりするが、気を取り直し答え始める。


「これは俺の世界の霊力という力で作った剣で、霊波刀っていうんだ。まあ、俺はハンズオブグローリーって呼んでるんだけどな。けっこう珍しい能力なんだぜ。」


自分の能力を説明し、さりげなく自分を力の凄さをアピールする横島。さっきから睨まれたり怒られたりしていたので少しでも自分の凄いところをアピールして少しでも好感度を上げようとしているのだ。だが……


「そうですか……つまり私は手加減されていたということですか」


返答はあまりにも冷たい声だった。その言葉に自分の失策を悟った横島は必死に言い訳を始める。


「ちょっと霊力を使うの忘れていただけだって!それに今の俺は体中が痛くてあんまり霊力が操れない状況だから……」


「なるほど、じゃあ私は力の大半が使えず、しかも動くのすらつらい状態の貴方に助けられたわけですね」


(墓穴掘ったーーーー!!!!)


本来なら、動くのも厳しい状態の人間に助けられれば、胸の一つも高鳴りそうだがセリアにとってそれは屈辱だった。セリアの放つ絶対零度の空気により訓練所にいる誰もが動けなくなっている。いや、一人だけ動ける人物がいた。


「え〜と、それじゃ〜どちらの勝利にしましょうか〜」


ほのぼのオーラを放ち、絶対零度の空気を中和するハリオン。彼女のほのぼのパワーは、場のマナにすら影響を与えそうだった。


「そうね、普通に考えれば刀を折られたヨコシマ様の負けだけど……」


そういってセリアを見るヒミカ。ヒミカはこの先セリアが何と言うのか、だいたい想像がついていた、


「……今の勝負は引き分けとしましょう。それで今さっき助けられたことは忘れてください」


それだけ言うと、セリアはすたすたと訓練所を出て行った。


「ちよっと!セリア!!………すいませんヨコシマ様。セリアはプライドが高くて見栄っ張りで素直じゃありませんがとても優しい子なんです」


「わかってるって、俺は彼女に似た人をよく知っているから」


彼の脳裏には照れ隠しにコンクリートを破壊する拳で殴りつけてくる上司の姿が思い浮かべられていた。


「ヨコシマ様―かっこよかったよー」
「よ〜」
「なんていうか……とにかく凄かったです」


ネリー、シアー、ヘリオンが口々に褒めてくる。ロリコンではない横島だがやはりかわいい女の子に褒められるのは嬉しいらしく、少し表情が緩んでいる。


「それで〜その霊力という力はハイペリア………ヨコシマ様がいた世界では〜だれもが使える力なのですか〜?」


「いや、だれもが使えるってわけじゃないけど………」


「そうなんですか〜〜……少しあちらでお話しませんか〜?」


美人のお姉さんの頼みを横島が断るわけがない。


「この横島忠夫、お供させていただきます!どこまでも!!」


「私たちもお話したいー」
「したい〜」
「あの……できれば私も………」


自分たちもと言うスピリット隊の年少組みだが、その願いは聞き届けられることはなかった。


「あなた達は訓練をしていなさい。まだまだ未熟なんだから。」


「「「えーーー!!」」」


「私から一本取れたら今日の訓練を終わりにしてもいいわよ」


ヒミカが年少組みを挑発する。


「やったー!シアー!ヘリオン!同時に仕掛けるよ!!」
「わかったなの!」
「了解です!」


「ちょっ、ちょっと!三人がかりは少し……」


その様子を見ながら、横島たちは訓練所を出て行った。


―第二詰め所 寝室―


「それでは〜お話をするまえに〜」


ハリオンは自分の永遠神剣『大樹』を取り出す。そしてのんびり〜とした魔法の詠唱を始める。


「マナよ〜癒しの力に変わってください〜ア〜スプライヤ〜」


横島の体が緑色の光に包まれる。突然のことで慌てる横島だが、光が収まると体の痛みが消えていることに驚いた。


「ふふ〜お姉さんは回復魔法が得意なんですよ〜」


ニコニコと笑うハリオンに横島の頬は自然と赤くなってしまう。


「そ、それでなんの話しなんすか?」


「別にたいした話じゃないんですよ〜、ただヨコシマ様の世界の話が聞きたいな〜と思ったので〜」


「わかりました!この俺の武勇伝を聞かせてあげます!」


横島は自分の世界の話を面白おかしく、妙に横島が活躍したことにしてハリオンに話した。


「う〜ん、やっぱりユート様の話と少しちがいますね〜。ユート様の話にはお化けさんなんかでてこないと聞いていたんですけど〜」


「……そのユート様って言うのは?」


「ヨコシマ様と……たぶん同じ世界からいらした〜エトランジェ様ですよ〜」


横島は自分の同じ境遇の人物がいることに少しだけ安心を覚える。そしてユートなる人物に会いたくなった。


「そのユートとかいうやつは今どこにいるんすか」


「今は〜ラキオス領土のラースの町に現れた謎のスピリットの討伐に向かっています〜」


その言葉に横島は驚いた。一般人かどうかは知らないが、こんな妙な世界であんな王の為にスピリットを殺しているというのが信じられなかった。だが、横島の疑問は次のハリオンの言葉で納得した。


「妹さんを……人質に取られているんです………」


つまり、貴様が戦わなければ妹を殺すと脅されているわけだ。いくらなんでも酷すぎる。間違いなくラキオス王が考えたことだろう。横島の心に暗い怒りの感情が生まれた。


(あの王………必ず!!)


「それで〜他に聞きたいことはありませんか〜」


その言葉に現実に引き戻される横島。ここで憤っていても仕方がないと思い、暗い感情を抑える。横島には頼まなくてはならないことがあった。


「すいません、実は言葉を教えてほしいんですけど……」


「あらあら〜いまこうして私と喋っているじゃないですか〜?」


「実はちょっとずるしているんで、本当はさっぱりなんです」


「ずるってなんなんですか〜」


「それはちょっと……」


横島はさっきの話で文珠のことだけは話さなかった。これは自分の切り札であり、その力と反則性からおいそれと教えるわけにはいかなかったのだ。もしも、あのラキオス王にばれたら目も当てられない。


「よく〜わかりませんが、わかりました〜じゃあさっそく言葉の勉強を〜始めましょうか。お姉さんな先生が手取り足取り教えてあげますよ〜」


「ついでに腰もーーー!!」


お姉さんな先生→魅惑の女教師→生徒との禁断の授業という訳が分からない方式が横島の脳内で生まれ、それを律儀に守ろうと横島の下半身が動き始める。だが、やはり世界はそう甘くはなかった。ハリオンに飛びかかろうとした横島に三つの影がぶつかってきたからだ。


「ぐはつ!!」

「ヨコシマ様―助けてー!」
「助けてー」
「あの……できれば私も……」

突然あらわれて助けを求めるネリー、シアー、ヘリオンの三人。いったいなにから助けてほしいのかと思ったがすぐ理解した。目の前に赤い鬼が出現したからだ。


「ふふ、まさか三人がかりで襲い掛かってくるとは思わなかったわ」


ヒミカが永遠神剣「赤光」を持ち、すさまじい熱量を放出させながら近づいてきた。少し目がやばい。


「なにいってんのー別に三人で戦っちゃだめなんて言ってなかったじゃない」
「じゃない〜」
「その……私はノリでつい……」


三人が横島の後ろのほうに隠れながら文句をいう。横島は必死に三人を引き離しにかかるがうまくいかない。


「ヨコシマ様……三人を庇わないでください……」


「別に庇っているわけじゃないぞ!」


このままじゃ絶対にまずい事態になる。今までの数々の経験が横島に警鐘を鳴らす。とにかく逃げようとする横島だが少し遅かった。


「そんなに小さいことばかり気にするから胸が大きくならないんだよー」


「なっ!なにをいっているの!!あなただって胸なんてないじゃない!」


「へへん!ネリーには未来があるんだから」


どこかで見た光景に頭を抱える横島。もうこの先の展開が目に見えるようだ。


結局――――


「ヨコシマ様も胸が合った方が嬉しいよね」


「そりゃーないよりはあったほうが…」


ブチ!!


いつもひどい目にあうのは―――――


「どうせ!わたしは!!もう!!!成長しないわよーーーーーー!!!!!


そして、部屋に地獄の炎があふれた。


「あぎゃーーーーーー!!!!」


横島なのである―――――――


―第二詰め所 寝室―


「あーー酷い目にあったなー」


ヒミカの呼び出した炎は、なぜか(いつもどうり)横島だけをこんがりと燃やして真っ黒にした。その先はハリオンが回復魔法をかけてくれて復活したが、正気に戻ったヒミカは首が折れるんじゃないかと思うくらい頭を下げて謝った。さすがに、今回は横島に非があるわけじゃないので多少は腹が立ったが、まあいつものことだし、ヒミカがいつかお詫びをするというのであっさり許す。ちなみに騒ぎの三人には夕食が全てリクェム(ピーマンそっくりの野菜)の刑を食らって落ち込んでいる。


「さてと……」


窓に目を向けると日もすっかり落ちていた。横島は身支度を整えると窓を開ける。


「いくとするか……」


横島は窓から飛び降り、王宮の方に走り出した・


―王宮―


横島は王宮に入り、兵士の見回りを避けながら王の寝室に向かっていた。


(しかし無用心だなー、見回りっていってもぜんぜん回り警戒してないし)


この世界……ファンタズマゴリアの人間たちは、スピリット達を戦わせるだけで自分たちは剣で殺し合いなどしたことがない。さらにスピリットに人間は殺せないので警戒をする必要などまったくないのだ。覗きで鍛えた隠行などを使うまでもなく王の寝室に到着した。


「ごかあぁー!ごかあぁぁー!!」


ラキオス王……ルーグウ・ダイ・ラキオスは横島に気づくことなく、高いびきをあげていた。その横からそっと近づく横島。


(おい、『天秤』さっさと出て来い)


『なにを考えている?主よ』


(いいからさっさと出て来い)


手に光が生まれ、横島の手に『天秤』が握られる。そして横島は『天秤』をポイと投げ捨てた。


『なにをする……主』


不機嫌そうに横島に問いかけをする『天秤』。すると横島は得意そうな顔をして返事をする。


(昨日のやつは神剣の強制力とか言っていたからな。つまり神剣さえ持ってなけりゃ、あんなことにはならないってことだ)


その返答に『天秤』はどこか馬鹿にした声で答える。


『ああ、確かにその通りだぞ』


その返事に満足した横島は『操』の文珠を持ち、ラキオス王に使おうとするがその時


『主はこの国のスピリットを殺したいのか?』


『天秤』の声が横島の頭に響いた。


(なにいってやがる『天秤』!俺はスピリットを解放させようとしているんだぞ)


自分がスピリットという女性達を自由にさせようとしているのに、なぜそれがスピリットを殺すことになるというのだろうか。横島が『天秤』に敵意を向ける。だが『天秤』は気にもとめず淡々と喋りだす。


『ラキオスの周辺は非常にキナ臭くなっている。ラースの町に正体不明のスピリットが現れたと緑の妖精が言っていただろうが。そんな状況で妖精を解放し武装を解除したらいったいどうなるかな』


(そ、それは………)


『自分達が剣を捨てたから、むこうも捨てるだろうとでも考えたのか?そんなことはない。スピリットの解放などしたら一日でこの国は消えるな。そしてスピリットは処刑されるか、捕虜となって結局は殺し合いの道具にされるだろう』


(……………)


横島はなにもいえなくなった。その通りだったからである。ただ女性を殺し合いの道具にするのが許せず、奴隷のような扱いを受けるのが許せなかったからスピリットを解放させようとした。だが、それが何を生むのかまったく考えていなかったのだ。


(だけど、こいつを残しておいてこの国が良くなるとは思えない……)


『ならば機を待て。力と情報を集め、先を読み、動くべき時に動くのだ。』


(俺なんかに先を見通す力なんて……)


『くだらん正義感などで大局を見失うから先が見えなくなるのだ。心を捨て、大きな意思を感じ取れば主はより強くなれるだろう』


横島はその言葉を聞き、苦虫をつぶしたような顔をするがすぐに表情をあらためる。


(『天秤』悪いが俺は心を捨ててまで強くなる気はない。こんな俺を愛してくれた女がいるからな。…………スピリットについては話してくれて助かったよ、もう少しで取り返しがつかなくなるところだった。とりあえずやれるだけやってみるさ)


横島が礼を言ったことに『天秤』は驚いたがすぐに調子を取り戻す。


『やはり段階をふませる必要があるか……』

「何か言ったか?『天秤』」


『別に言ってないぞ……それでラキオス王をいったいどうするつもりだ』


その言葉に考え込む横島。もう『操』の文珠を使うことなどは考えていなかったが、この男には色々と恨みがある。悩む横島だったが何かを思いついたのか邪笑を浮かべる。


(これなんかどうだ、『天秤』)


『操』の文字を消し、別な文字をいれる横島。『天秤』はその文珠を見て『良いのではないか』と呟いた。そして、ラキオス王に文珠を使う。


バサバサ!


(んじゃ、帰るか『天秤』)


『ああ』


そういって横島は第二詰め所に帰っていった。


バサバサ!


何かが抜け落ちる音が聞こえる。ラキオス王の方から……


ラキオス王に使われた文珠は……


『禿』


あとがき

のんびり書くことを決めたふむふむです。
永遠のアセリアは結構長いので、メインストーリーをどんどん進めていこうと思っていたのですが、キャラをちゃんと作り足場を固めないと大変なことになると教えられたので、ゆっくり書いていこうと思います。前回は横島に違和感があった人がいたので今回は少しがんばりましたが、少しは横島らしくなりましたか?悪いところがあったらどんどん言ってください。がんばって糧にするので。


ではレス返し


<蓮葉 零士様

楽しみにしてくれてありがとうございます。確かに永遠のアセリアは長いので息切れを起こしやすいのかもしれません。ならば息切れを起こさないペースでまったりとかんばろうと思います。次回も応援お願いします。

<覇邪丸様

確かにラキオス王は本当に外道です。原作でこいつと並ぶのはソーマぐらいでしょうか?いずれ彼には制裁があるでしょう。まあ今回で十分制裁はくらいましたが……
次回もがんばります。

<七誌様

彼は人外キラーで子供にはもてるので……厄介なロリに目をつけられたものです………彼らしいともいえますが。彼と時深のコンビはかなり面白そうです。いろいろネタがあるんで期待してください。次もがんばります

<ルウナ・イクリプス様

この話は永遠のアセリアを知らなく分かるように書くつもりなので、本編を知らなくても面白いといわれるとすごく嬉しいです。がんばって完結させるので見ていてください。

<rin様

人外キラーな彼ですが、女性達をさすがにあっさりとは落とせません。一癖も二癖もありますから。ちゃんと仲良くなる過程をがんばって書くつもりです。一番の難所はセリア嬢でしょう。ちなみ今回ラキオス王に使ったのはある意味「呪(のろい)」です。

<KOS-MOS様

幼女の風呂乱入などは……色々考えてます。基本的に横島が酷い目にあいますが……
天秤はなかなか手ごわい相手です。横島の人外キラーパワーが天秤にも通用するでしょうか。次回もがんばります。

<とり様

スピリットと横島の絡みがメインのひとつでもありますのでがんばって生きたいと思います。今後もがんばって書いていくので応援よろしくお願いします。

<飛竜のしっぽ様

今現在のスピリットと人間達の関係は最悪です。ですが横島が来たことにより……
あと今の状態は第一章の最初の戦闘で、まだ魔龍退治までいってません。次は第一詰め所の人たちとの交流です。

<Xeno様

ご指摘ありがとうございます。自分はずっとエトランジェをエトランジュと勘違いしてました。もし指摘がなかったらずっと間違え続けるところでした。今後はこんなことがないようにがんばります。

<夜須様

確かに横島にしては正義感が強いかもしれません。自分が横島を原作から勝手に強くしてしまったのかも……がんばって横島らしさ目指します。ご指摘ありがとうございました。

<うにーく様

強制力の疑問ついては………物語の都合という言い方をしなければ、城を破壊したりするとラキオス王と一緒にレスティーナ王女や佳織も殺してしまうからでしょうか。まあそれならもっと別な方法がありそうですが。まあ横島は人間達ぐらいなら神剣の力など頼るまでもないので、今回はこうしました。

<鮭缶様

文章が薄い言うのはどうしたらいいのか正直よく分かりません。ただ「推敲」の方法を勉強し、書き上げて少なくとも一日は放置して改めて見てみることにしました。書き上げて即投稿などという馬鹿はもうしません。ご指摘、ご指南ありがとうございました。

<あかつき様

感想ありがとうございます。これから、横島にはたくさんの試練が訪れます。横島を応援してあげてください。


では第四話で……

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