――――夢を見ている。
世界とアイツを天秤にかけたときの夢を―――
「恋人を犠牲にするのか!? 寝覚めが悪いぞ!」
「どうせ後悔するなら、てめえがくたばってからだ、アシュタロス!!!」
何度も見た夢……俺がアイツを殺して、世界を守ったときの夢……だが今日の夢はいつもの夢ではなかった。
俺が悲しみにくれているとき、アイツ……ルシオラが現れこう言ったのだ。
「しかたないだろう、横島……何かを成すには代償が必要なものだ」
まるで、ルシオラの形をした『なにか』がしゃべっている。
そう感じた俺は
「おまえはだれだ?」
目の前の『なにか』に問う。
「私の名前は…「センセーーーーイ!!!」
「ぐは!」
突然、すさまじい大声による音波攻撃。
続けて
「ぐぼ!!」
フライングボディプレスによるコンボが入る。
そしてとどめの
「センセ!センセ!」
と言いながらの顔面なめなめ攻撃が追加ヒットする。
「シロ!やめろ!なめんなー!だからといって噛むなーーーー!!!」
「永遠の煩悩者」
第一話 「異世界からの招待」
「んで、朝っぱらからいったいなんなんだ」
あれから5分以上かかって、ようやくシロをなだめた俺は目の前の馬鹿弟子に説明を要求する。すると、シロは涙でうるんだ目をむけながら
「先生がいなくなってしまう夢を見たんでござるよ……」
シュンと消え入りそうな声でそういった。
「先生は拙者の前から消えてしまうなんて事はないでござるよね?」
いつも元気いっぱいのシロとは思えない声と潤んだ瞳のギャップに横島は
「俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない」
と危ない人のように繰り返していた。
いつもの呪文?を唱え終えて、シロの方を見ると不安そう目でこちらを見ていた。それを見た横島は見るものを安心させる笑みを浮かべながら
「俺はどこにも行かないよ。守るべきものがある世界だしな」
力強く宣言する。
「その守るべきものには、拙者は入っているでござるか?」
期待と不安を込めた目を向けてくる。
「なにいってんだ、当然だろ!」
「センセー!!」
嬉しさ極まったシロが横島に突撃しようした時、突如として横島の頭が燃え上がった。
「アッチーーー!!」
シロは慌てて横島の頭を叩いて火を消そうとする。幸い、たいした火ではなかったようですぐに消し止められた。今の炎を狐火と判断したシロは
「タマモ!いったいなにをするでござる!!」
後ろに振り向きながら、いまにも噛み付きそうな勢いで吼えるように叫ぶ。そこには、切断されて壊れたドアの残骸と、息をきらし、顔を赤くしたタマモがいた。
「妙な胸騒ぎがしたから心配になってきてみれば、いちゃいちゃしてるからよ!!」
顔を真っ赤にしながらタマモが叫ぶ。息をきらしていた事を考えると事務所から走ってきたのだろう。鈍い横島にしては珍しくそのことに気づいた。
「いや……俺なんか心配してくれてありがとな」
ついさっき頭を燃やされたのにもかかわらずタマモに礼を言う横島。セクハラによる自業自得とはいえ、毎日のようにしばかれ、切られ、燃やされている横島にとってみれば、これぐらいはコミュニケーションの一部なのかもしれない。
「私は、ただあんたがいなくなったら油揚げが食べられる量が減るから……それだけよ!」
顔を赤くし、そっぽを向くタマモ。その様子は大変ほほえましく、良きツンデレの素質十分である。
「タマモ!先生に向かって無礼なことを!」
「なにいってんの馬鹿犬!あんただって横島に色々と奢ってもらっているみたいじゃない!」
「狼でござる!」
いつもの光景、いつもの日常。今日も除霊とセクハラの一日が始まるのだ。二人が言い争いをしているのを横目に見ながら着替えを済ませる。
「おーい、事務所に行くぞー」
「ハイでござる」
「わかったわ」
そして、俺たちは事務所に向かって歩き始め――――
―――クスクス。
どこからか笑い声が聞いた。
「今なにか言ったか?」
「別に……」
「いってないでござるよ」
―――準備ができましたわ。
あどけない声の幼女の声が聞こえる。だが、なぜかその声を聞いていると背筋がぞっとした。
(逃げないと!逃げないとまずい!)
俺の霊感が最大限の警告を発している。その警告は、俺の身に何かが起こると伝えてきた。次の瞬間、俺は文珠を手のひらに呼び出し逃亡体制を整える。
――――フフ、いい感覚をしてますわ。
「シロ!タマモ!俺から離れろ!!」
「「えっ?」」
いきなり離れろと言われて、なにがなんだか分からない顔をする。
――――もう遅いですわ。
突如として横島の周りに複雑な魔法陣が形成される。その魔法陣からは霊力がまったく感じられない。だか、何かまずいものであることには間違いなかった。
「先生!!」
「横島!!」
二人は横島の方に向かおうとする。。
「馬鹿!こっちにくるな!!」
そうこうしているうちに、魔法陣が光を放ち始める。
――――有限世界で会いましょう。
さらに魔法陣が大きな光を放つとそこに横島の姿はなかった。
「永遠の煩悩者」
第一話「異世界からの招待」
「ここ……どこだよ?」
俺は周りの木々を見ながらつぶやく。気がついた時、俺はうっそうとした森の中にいた。周りに人口物は見当たらず、いつのまにか夜になっていた。
(確か魔法陣に囲まれて……その魔法陣が発動したらここにいた……ということは)
「空間転移の魔法陣か……時間移動の魔法陣か……」
俺はそう結論付ける。というよりもそれ以外考えられない。霊力を感じなかったのは不思議だが新しい種類の魔法だろうと納得する。何気なく上を見上げると星空が見える。都会のネオンの光がないおかげか星が近く感じた。
「マリアがいてくれたらな〜」
彼女は以前に中世ヨーロッパに飛ばされたときは一瞬で時代と場所を答えてくれたのである。
「シロもタマモもいないしな〜」
このことについては良いことか、悪いことか判断できなかった。転移に巻き込まれなかったと考えれば幸いで、巻き込まれていたとしたらはぐれてしまった事になる。
「ここでじっとしててもしょうがないし、とりあえず歩くか」
特に悩むことはなく、楽観的に考える。横島は海の中、月、過去などあちらこちらにいったことがあり、この程度のことでは今更慌てる事はない。
歩き続けて数分後、横島は幻想的な光景をみた。白い翼を広げる仮面をつけた女性と黒い翼を広げた黒髪の女性が対峙していた。二人とも刀を持ち、殺気を放っている。次の瞬間、黒い翼の女性が白い翼の女性に飛び掛り刀と刀をぶつけ始めた。
(は、速い!シロ……いや小竜姫様ぐらい速いぞ!)
50メートルはあった距離が一瞬でゼロになり、居合いの構えから刀を振る。並外れた動体視力を持つ横島でさえ何とか見えるほどの速さだった。その様子を呆然と眺めていた横島だったが、黒き翼を持つ女性と目が合った。
「ラスト、ラハテ・レナ。ソサレス!」
いったい何といったのか横島には分からないが友好的でないことは確かである。なぜなら、黒髪の女性から無機質な殺気が伝わってきたからだ。また、女の目には感情というものがまったく込められておらず、横島をぞっとさせる。
(やばい、早くここから逃げないと!)
もし戦いになったら、あれだけの戦闘能力を持つ相手と真正面から戦うのは自殺行為と判断した横島は得意のゴキブリのような逃げ足で逃げ出そうとするが―――
突如として地面から表れた黒い手のようなものが、横島を絡めとられる。
「どわーー!なんじゃこりゃー!」
逃走に失敗して転げまわる横島。彼が逃げられないのは非常に珍しいことである。黒い手のようなものを振りほどきながら、ちらり黒髪の女性を見るとこちらに手を向け「何か」の力を発動させているように感じた。恐らく、この黒き手はあの女が放った魔法なのだろう。身動きできない横島を、黒髪の女性がその隙を見逃すはずはなく、疾風のごとく突撃してくる。咄嗟に横島は文珠に『守』の文字を入れ、攻撃に備える……しかし文珠が使われることはなかった。
「くっ!」
苦しげな声が聞こえたかと思うと、仮面を着けた女性が横島を庇っていた。庇った際に付けられたと思われる傷からは、痛々しく血が流れている。
(俺を庇って傷ついたのか?……冗談じゃない!!)
横島は『守』の文珠を『癒』に変更して白き翼の女性に使い、傷を癒す。
「ラスト、クミノル、コルーレ・ユーラス」
聞いたこともない言葉で驚いているが今は逃げることを考える。
(おそらく、アイツの狙いは俺……俺が逃げればこっちの方においかけてくるはずだ)
文珠を二個取り出し、『高』・『速』の文珠を発動させる。
「見せてやるぜ!横島忠夫の逃げ方ってやつを!」
つい先ほど逃げるのに失敗したせいか、いつになく気合が入っている。
「ぬりゃぁぁーーーーー!!!」
超加速でもしたのか?と言いたくなるほどのスピードで駆け出す横島。追ってくる気配は感じたが途中であきらめたのか見失ったのか気配が消えた。
「いったい、なにがどうなっているんだ」
あれから、逃げ切ったは良かったが、横島はまだ森をさまよっていた。
(しかし、聞いた事のない言葉だったな……しかもあれだけの戦闘能力を持っているのに霊力をまったく感じなかったぞ……それに翼みたいなもの出てたし……)
横島はここがいったいどこなのかさっぱり検討がつかなかったが、次に人にあったら『翻』・『訳』の文珠を使うと決めていた。
(まあ、言葉さえ通じれば何とかなるだろう)
この非常にポジティブ(考えなし?)なのが横島なのだろう。そして『翻』・『訳』の文珠はすぐに使われることになる……
「どわーーー!」
横島の頭の上すれすれに直径1メートルはあるかというか火球が飛んでくる。
「ラキオスのエトランジュ……殺す」
「だから!俺はGS見習いの横島ただ…のわーー!!」
あれから、すぐに赤髪の少女を見つけたので、『翻』・『訳』の文珠を使い、後ろから話しかけたのだ。だが、振り返った少女を見て横島は後悔した。彼女は双剣のような物を持ち、目にはまったく感情というものが込められていなかったからだ。それでも自己紹介しようとしたのだが、その返答は
「マナよ火球となりて敵を焼き尽くせ!ファイアボール!」
だったのである。
「ちくしょーー俺がなにしたってんだよ!」
迫りくる火球をサイキック・ソーサーと天性の反射神経で避け続ける。
(また逃げるしかないか……)
残り五つしかない文珠のひとつを取り出し、逃げる準備を整え始めたところで――――声が聞こえた―――
『やれやれ、またにげるのか』
(なに?)
頭の中に直接語りかけられる。
『まったく、あの程度の敵に情けない』
(あの程度って、あんな炎くらったら消し炭になっちまうぞ!つーか、お前だれだ!)
『マナをオーラに変えればあんな火球など恐るるに足りん、それと私はお前のパートナーだ』
(マナって何だよ!それに俺は謎の声をパートナーにした記憶なんてないぞ!)
頭の中でまったくかみ合わない会話をしていたせいか、集中力を欠いた横島に特大のファイアボールが迫る。
「!!サイキック・ソーサー!」
避けられないと判断した横島は咄嗟にサイキック・ソーサーを作り出し直撃に備える。しかし、サイキック・ソーサーの前方に別の障壁が出現した。
バーン!!
障壁とファイアボールがぶつかるが、障壁はファイアーボールを簡単に防いだ。
『ふむ、無意識のうちにマナとオーラの扱いを覚え始めているようだな、やはり主は追い込んだほうが良さそうだ』
横島の頭の中からの声は観察者のような響きがあり、酷く横島を不快にさせる。
(いったいお前はだれなんだ?さっさと答えてくれよ……)
横島は己の内にいると思われる存在に疲れた感じに語りかける。いくらトラブルに慣れているとしても、いきなり見知らぬ土地に飛ばされて殺されかければ当然だろう。
『確かに、いつまでも主の中にいてもしょうがないな……それにマナは直接食った方がうまいだろう』
横島の体から黄金色の光があふれ出す。いきなりの体が光りだしたことに驚いた横島だったが、すぐに落ち着いた。この光は自分に害を与えることはないと、直感的に判断できたからだ。やがて光は収束して一本の日本刀になった。
「剣……これがお前の正体か……」
『そうだ、私の名は『天秤』という。主よ、私を手に取れ、そして赤の妖精のマナを私に食わせるのだ』
言われるままに横島を空中に浮かぶ日本刀の形をした『天秤』を手に取る。次の瞬間、すさまじい力が『天秤』から流れ込んできた。だが同時に意識がぼんやりとなる。
「マナよ火の雨となりて降り注げ!フレイムシャワー!」
回避不能な正に火の雨が降り注ぐ。だが横島は特に慌てることもなかった。
「マナよオーラに変わり、俺を守れ」
ついさっきファイアボールを防いだ障壁とは比べ物にならないほど強固な障壁が形成されフレイムシャワーを防ぐ。だが、その声は横島の声とは感じが違い、どこか高圧的だった。
『さあ主よ、今度はこちらの番だ。赤の妖精を切り裂き、私にマナを』
(そうだ、俺はマナを集めなくてはならない……)
『天秤』を構え、赤髪の女に突撃する。そのスピードは今までの横島の比ではない。女は槍を構え防御の体制をとったが、構わず『天秤』を槍に叩きつける。パワーに差があったらしく槍が空中に舞い、女の体制が崩れた。そのまま『天秤』で切りつけようとした横島だったが、女の目を見て動きを止めた。その目には感情が込められていないように見えるが、ほんのわずかに恐怖の感情が込められていたのだ。急速に横島の意識が覚醒する。
(俺はいま何をしようとした?なぜ彼女を殺そうとした?)
普段の横島なら戦いからは逃げることを第一に考える。逃げられない状況ならともかく、『天秤』のおかげで身体能力が向上した今なら問題なく逃げられたはずだ。
(ついさっきまでの俺はいったいなにを考えていた?くそ!頭が痛い!!)
頭を抑えて苦しがる横島に『天秤』があきれた声が聞こえてきた。
『なにをしている主、早く私にマナを食わせろ』
その声が聞いたとき横島の中である考えが生まれた。
(天秤!いま俺の考えを操っただろ!!)
『操るとは人聞きが悪いな。私は主の命と私の渇きを満たすために力を引き出す為の暗示をかけただけだというのに』
(ふざけんな!!今の俺なら彼女を殺さなくても十分逃げられたはずだ!それにマナを食うとはどう…言う……意味だ……)
横島は急激な眠気を感じ始める。さらに体からは力が抜け、立ち上がることさえ困難になっていく。
『どうやら急になれない力を使った反動がきたようだな。先ほどの赤の妖精も姿を消したようだ』
その言葉を聞きまわりを見渡すと先ほどの女性の姿はなくなっていた。とはいってもこんな危険地帯で倒れたら命に関わる。必死に睡魔と闘い、力を入れる横島だが、限界が来たのかその場に倒れこんだ。
(くそ……こんなところで……)
『案ずることはない、もうじき白き妖精たちがやってきて主を保護するはずだ。』
まるでこれから起こることが分かっているかのような口調だった。
(お前はいったい何なんだ?『天秤』)
薄れ行く意識の中で疑問を投げかける。
『私は主を導くものだ』
自信に満ち溢れた答えを聞きながら横島の意識は闇へと落ちていった。
あとがき
お初にお目にかかります、ふむふむと名乗っております。
初のSSでクロス長編という冒険家です。右も左も分からない状態ですので、ここが悪いとか、ここはこうしたほうが良い等がありましたらガンガンいってください。それとGS美神については知っているのを前提に書いていて、永遠のアセリアについては知らなくても大丈夫なように書くつもりです。
しかし永遠のアセリアってどれぐらいの知名度なんだろう……
それでは第二話で……