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▽レス始

「魔除けの鐘を鳴らす者達(ネタバレのため未記入)」

太刀 (2006-03-25 20:51/2006-03-25 21:10)
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「はぁぁぁぁぁぁぁ―――――!」

人里まで3日はかかる山奥の中に1人の少年が立っている。中学生くらいの年齢。
顔立ちは中性的で美形として充分に通用する。華奢に見られがちな容姿だが、そこには鍛えに鍛え絞り込んだ肉体があった。
刀剣に例えればレイピア。儀礼用に多様される剣だが、『突き刺す』という一点において特化した剣。
額から吹き出す大粒の汗が頬をつたい大地に落ちる。そんな事を気にも止めず少年。
碇シンジは全神経を集中して前を見る。
目の前に聳えるは数十メ−トルはあろう大岩。

「シンジ!まだだ!もっと氣を練るんだ!」

気合の入った息吹と共に全身が黄金色に輝く少年の背後から青年が叫ぶ。
日本刀を片手に持ち、赤いマントを纏った青年。ドモン・カッシュが弟弟子である碇シンジの氣の高まりを感じていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!」

青年の叱咤を受け、シンジの氣が限界まで高められる。

「そこだ!そこで放て!」

ドモンが叫び声と共にシンジに技を打ち放つタイミングを教える。


「流派・東方不敗が最終奥義―――」

シンジは練りに練った氣を右手に集中させた。

「見せろシンジ。オマエの力を!俺達の師マスタ−アジアが編み出した究極奥義を!」

シンジが右腕を突き出し技の名を叫ぶ。次の瞬間、爆音が山々に響きわたる。
鳥達が一斉に飛び立つ。空が鳥で埋めつくされた。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・・・」

シンジは方膝を付きながらも粉々に砕け散った大岩の残骸を見て、初めて自分が技に成功したのを知った。
ドモンは肩で息をする弟弟子に「良くやったな」と祝福の声をかけた。

「はい!」

満面な笑みを浮かべドモンの祝福に応えたシンジはグッと両手でガッツポ−ズを取った。


「おめでとうシンジ君。遂にマスタ−の奥義を会得したのね」

夕食の席。ドモンの恋人レイン・ミカムラが熱々のシチュ−の皿をシンジに手渡しながら奥義の成功を賞美した。

「レイン甘やかすな。成功したとはいえ一回だけだ。それにまだまだ錬度を積まなければ本当に会得した事にはならない」

「ドモンったら本当は嬉しいのに憎まれ口を言わなくもいいじゃない」

「なぁ――!レインいつ俺が嬉しがった!?」

恋人の言葉におもわず反論する。

「はいはい。ドモンは嬉しがっていません。それよりもせっかくシンジ君が作ってくれた料理が冷めちゃうわよ」

季節は夏といえ、ドモン、レイン、シンジが野営している場所は、冬に降り積もった雪が未だ残っている山岳地帯。
パチパチとはぜる焚火と手に持った皿が唯一、温かさを与えてくれる。
ドモンはレインに何かまだ言いたそうだったが、口論で口下手なドモンがレインに勝てる事がないのを分かっているのか、不満をやや残しながらシチュ−を口に運んだ。

今夜のメニュ−は山菜のシチュ−に川魚を数匹、塩をまぶして串焼きにしている。
初めは交替にやる筈だった料理は、今ではシンジが総て引き受けている状態だ。レインも料理を作れないことはないのだが、サバイバルに近い修行を行う時は、どうしても食材が限定されてしまう。
シンジはそんな中で、食材の調達が上手かった。
簡単な罠で野ウサギを初めとした小動物を捕らえたり、簡易でこさえた長弓で鹿や猪といった比較的大型な獲物も狩ってくる。
食用植物についても図鑑が頭の中に入っているのではないかと思える程の知識がある。

それらは総て机の上で覚えたのではなく、体験して身につけてきた。
シンジは幼い頃、実の父親に捨てられた。
捨てられた訳は分からないが、父親が自分を捨てたという事実だけは幼いシンジでも理解できた。
誰もいない駅のホ−ムでただ泣いていたシンジに声をかけてくれたのが、武者修行の旅をしていた東方不敗マスタ−アジアと一番弟子のドモン・カッシュの二人だった。
それから色々とごたごたがあったのだが、碇シンジはマスタ−アジアの二番弟子となり各地を旅してきた。
その旅の道中で様々な生きる術を教えてくれたのがマスタ−アジアだ。
生みの親より育ての親という言葉があるように、シンジはマスタ−アジアを実の親よりも慕っている。
そもそも母親の名前は辛うじて覚えているが、自分を捨てた男親の名前は忘却の彼方へといっている。

食事を終え、お湯の沸いたヤカンをとりカップに注ぐ、コ−ヒ−の香りが漂ってきた。
レインが「ふ〜、ふ〜」とコーヒ−を飲みやすいよう冷ましながら少しづつ喉に通している。
しばらく、まったりとした空気が辺りを支配した。

「そうだシンジ君。貴方に手紙が来てるわよ」

レインは定期的に送られてくる荷物の中にシンジ宛ての手紙があったのを思い出し、テントまで取りに行った。

「手紙?僕にですか?」

シンジは首を捻りながらレインから手紙を受け取った。白い封筒には『碇シンジへ』としか書かれていない。差出人の名前も書いていないのによく届いた物だと軽く驚いた。

「誰からだ?」

「わかりません」

ドモンが差出人を聞いてくるが、シンジは首を横に振った。
この場所で修行していることは、一部の人しか知らない。
それも殆どがドモンの関係者だ。
咄嗟に思い浮かぶ相手は、『チボデ−』『ジョルジュ』『サイ・サイシ−』『アルゴ』のシャッフル同盟の4人か、未だレインと恋人の座を争っているアレンビ−ぐらいだ。
仮に5人が手紙を書いてきたとしても、それはシンジではなくドモンに宛てた手紙である筈だ。
ともかく、このままでは埒があかないので封筒を破り、手紙を取り出した。


来い 碇ゲンドウ


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

口を半開きにして呆れているシンジに、何事かとドモンとレインが横から手紙を覗き込んだ。

「悪戯かしら?」

レインは、ごく一般的な意見を言った。

「ゲンドウ。どうやら、このふざけた手紙を書いた奴の名前みたいだが、シンジ心当たりはあるか?」

「・・・・・・いえ、こんな礼儀も意味もない事を書く人物に覚えはありません」

ドモンの問いにキッパリ答える。
『来い。碇ゲンドウ』この内容で何をしろと?
来いとは何処へ?何時?誰が?何故?まったく分からない。
ゲンドウ。この名前はどこか記憶の奥底に引っかかる。何処かで聞いた名前だろうか?
どこだったろう?碇の姓を名乗っている以上、僕の関係者か?だが心当たり以前に僕にも親戚がいたのか?
いや・・・・居たな。母さんの妹である霧島マイ(旧姓 碇マイ)叔母さんに一人娘の霧島マナ。
10年以上前に別かれてから一度も会ってないので忘れていたよ。

「あれ?まだ何か入ってる」

白い封筒には厚みが残っていた。指先で掴み、取り出すとIDカ−ドと女性が写った写真があった。

「・・・・・・・・・・この人は、いったい何をしたいんだ?」

シンジは写真に写った女性を見て、素直な感想を言った。
濃い藍色の髪をした女性はタンクトップにショ−トパンツ姿で胸を強調するように上半身を折り曲げている。ご丁寧に胸の谷間に『ココに注目!!』とまで書いてある。
駄目押しは口紅がベッタリと付いたキスマ−クだ。
申し訳ないように「私が向かえにいくから待っててネ(ハート)」と記載されているが、何処に?と悩むしかない。

「シンジ君、お付き合いする人は選んだ方がいいわよ」

こめかみに手をあてたレインが溜息を吐きながらシンジに忠告した。

「ちょ、ちょっと待ってください!本当に知りませんよ!」

シンジにして見れば、姉とも言えるレインに誤解されるのは心外だ。証拠を隠滅するように手紙と写真を焚火の中に捨てた。
炎に迎えられた手紙と写真は数秒もたたず灰となった。

「一週間後でしたっけ?コロニ−行きのシャトルが発つのは?」

手紙の事は是でお終いとシンジは内容を切り替えた話を持ち出した。

「ああ。オマエの修行が思ったより速く終わったからな。あと二月か三月はかかると思っていたのだが」

ドモンも元からふざけた手紙に興味がなかったので簡単に話しを受けてくれた。


シンジの修行に一段落ついた事が分かったレインが直にコロニ−行きのチッケトを予約したのだ。幸いにも一週間後の便に空席があった。この便を逃すと次のシャトルは一月後まで空きがない。
最近、宇宙の方もキナ臭くなってきた。
噂では地球連邦軍所属のティターンズがコロニ−にG3(毒ガス)を使用しようとした話が、ネットに飛び交っている。
宇宙で暮らす者にとって毒ガスは絶対的タブ−ともいえる。
一年戦争時代のジオン軍でさえ毒ガスを使う事だけは控えていた。ティターンズは、この記事内容は誹謗中傷だと言い張っているが、現に毒ガスを充満させたボンベを使うギリギル寸前の所で破壊した映像が残っている。

その映像を見たティターンズ幹部の公式会見の発表は

『これは、我が栄光あるティターンズを貶めようとするコロニ−側テロリストの謀略であり、我等にとっては耐え難い屈辱である。
このような現政権に不満を持つテロリスト共の存在を許すのは全人類にとって大いなる損失にして暴挙にあたる。
地球園の安全は我等ティターンズが存在する事で初めて守られる。
今後、このような事が起こらないよう我等はより一層、職務に励むのを皆様がたに約束する』

ゴツイ眼鏡を顔にはめ込んだハゲのオッサンの会見の後、スペ−スノイドに対するティターンズの弾圧はより酷くなった。
何時、第2のジオンが生まれても可笑しくないとこまで来ているのが現状だ。
殖民時代のイギリスと同じような政策を、地球連邦が各コロニ−に行う限り軋轢が消える事はないだろう。
今の地球連邦の政府高官の殆どは親から地位をゆずり受けた二世代議員。宇宙の現状を知らないので平然と無茶な要求をしてくる。
一発触発に近い、この中で地球連邦軍所属。第13独立外部部隊ロンド・ベル隊率いるブライト=ノアと一部の良識ある政治家が動いているが、かなり難しい状態に至っていた。


「ドモンのゴットガンダムのオ−バ−ホ−ルも最終段階まで進んでるし、シンジ君のネオシャイニングガンダムも7割近くまで修復してるわよ」

今回の帰省の目的は、レインの父親であるミカムラ博士とドモンの父親であるカッシュ博士に修理を頼んだモビルファイタ−を受け取りに行く事だ。
一年前に起きたデビルガンダム事件。その時に受けたゴットガンダムのダメ−ジは想像以上に深刻で設計者であるミカムラ博士に修理を頼んだのだ。
ちなみにシンジのネオシャイニングガンダムも、その時大破した。

「父様とカシュ小父様。速くドモンとシンジ君に会いたいってメ−ルしてきてるわ」

「そうか、父さんとミカムラの小父さん仲良くやっているのか」

メ−ルの内容に安堵するような表情を見せる。デビルガンダム事件の発端を思い出したのだ。

「・・・父様?・・・・・・・父さん?・・・・・・・父親・・・・・・・???」

ドモンとレインの会話を聞いたシンジがブツブツと独り言を繰り返していた。今の話で自分の記憶の奥底に刺さった棘のような物が抜けそうなのだ。


「あっぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!」

突然シンジが大声をあげた。声で人の感情が読み取れるのなら、シンジが出した声はテストで分からなかった問題がテスト時間終了ギリギリに、突然の閃きで解答できたものだったろう。

「思い出した!思い出しましたよ!ドモン兄。レインさん。碇ゲンドウって確か僕の父親の名前です」

「「はぁ!?」」

ドモンとレインの声がユニゾンしたように重なる。二人の前に居る弟分の少年は、喉に刺さった魚の小骨が取れたようなスッキリした表情を二人に見せていた。


けたたましい警報音が広大な発令所に響きわたる。

「目標は依然、第2新東京に対し進攻中」

「目標を映像で確認。主モニタ−に回します」

ロンゲと眼鏡のオペレ−タ−達が司令官に報告する。

「15年ぶりだな・・・・」

「ああ、間違いない。使徒だ」

白くなった髪をオ−ルバックにしている初老の男の言葉に、司令官席に構えている男が相槌を打つ。

「来るべき時がついに来た。あれは人類にとって避けることのできない試練だ」

「そして使徒の再来はSTMCが本格的に活動を開始したこと証明している、か」

「全ての終わりと始まり・・・それを演出するのは奴等ではない」

「ああ、そうだな」

赤いサングラスをした強面の男が淡々と喋る。オ−ルバックの男も呼応するように肯いた。

「とりあえず、我々Nervは使徒を全て撃退しなければならない」

「うむ・・・・15年前の事件の後始末をしなければな」

騒然とする発令所。ロンゲの男が東海湾岸にて連邦軍部隊が目標と戦闘を開始したと伝える。

「無駄なことを・・・・・」

オ−ルバックの男は使徒の力を知っているのか一言呟いた。

「・・・零号機を起動させる」

「何!!零号機は、この間の起動実験で・・・」

「碇司令、凍結した零号機の発掘作業は終了していません。零号機の即時起動は困難です」

赤いサングラスの男の言葉に、一番強く反応したのは白衣姿の金髪の女性だった。

「ベークライトの除去には爆弾を使っても構わん。起動準備を急がせろ」

女の言葉を、ものともせず碇司令と呼ばれた男は作業を進ませる。

「零号機を起動させていいのか?まだ指令権が連邦軍からこちらに移ったわけではないぞ」

「岡指令はN2地雷を内陸部で使用しない。直に指揮権は我々Nervに委ねられるはずだ」

連邦軍極東支部の司令長官を務める岡健太郎の作戦能力と人柄を知っての判断だ。
いくらシェルタ−に地域住民の避難が済んでいるとはいえ、N2地雷を使用すれば死者は少なくとも万単位で出る。
ある程度、使徒の情報を入手している岡が、効果がないと分かっていて多大な犠牲を民間人にしいる作戦をとる筈がない

「零号機のパイロットはどうしますか?」

零号機を起動させるのは納得したが、肝心のパイロットが居ないと、女は姿勢を変えず、両手を組んだままの男に言った。

「・・・レイを起こしてくれ」

「使えるのかね?」

「死んでいるわけではない。それに、予備が届くまでの時間稼ぎにはなる」

「・・・・分かりました。レイは直にでも発進準備に入らせます」

女は内心、予備とよばれたパイロットを迎えに行った親友の葛城一尉が間に合っていればと舌打ちしたが、気持ちを切り替え作業に当たった。
ちなみに約束の待ち合わせ時間から2時間は過ぎていた。


「待ち合わせは無理か、非常事態宣言が出てるみたいだし・・・・しょうがないシェルタ−に行こう」

ノリのきいた白いシャツに黒のパンツ。
怪我をしている訳ではないが左腕に幾重にも包帯を巻いている少年。碇シンジは途方にくれたように溜息を吐きながら、待ち合わせの駅から近くのシェルタ−に向おうとした。
かれこれ2時間も駅の待合室で待ったが、誰一人来ない。
駅員や利用客は一時間前に避難している。
シンジも速く避難するよう言われたが、待ち合わせもあるし大抵の事なら対処できると思ったのだが、自分の判断は甘かったと後悔していた。

ドモン兄やレインさんが手紙の送り主である父親に一度、会ってみた方がいいと薦められたので来たが駅に着いた途端、避難勧告。
自分を捨てた訳など今更どうでもいいが、確かに一度くらい会ってみるのも一興と思ったのも確かだ。だが、いい加減待つのはやめることにした。


チュドォォォォォォォォ――――――ン!!!

「なっ!」

突然の爆発音に身構える。

「なんだ、アレは?」

爆発音がした沿岸部をみると頭を無くし、代わりに胸に白いお面を付けたような化物が工場を破壊しながら進んでいた。


「あれが使徒か・・・・・・」

シンジが使徒の存在に驚いている同時刻、使徒が進攻している近くのビルの屋上から葉巻を咥えたアイパッチの男が使徒を見下ろしていた。

「しかし・・・奴らに興味を持っているのは我がBF団だけではないようだな。ここは一つ試してみるか。諸葛亮孔明のいう通り、使徒が本当に人類の敵なのかどうかな」

屋上の上から男が使徒に向かい掲げた腕を振るった。振り下ろされた腕から衝撃が生まれ使徒を攻撃する。
使徒と男の間にあるビルを破壊しながら衝撃波がはしる。だが使徒に当たる直前、八角形の赤い壁が衝撃波を全て遮った。

「ふん、何か強力なバリアのようなものを持っているのか」

男は、自分の攻撃を防がれたにも係わらず冷静に使徒の能力を見極めようとした。
そんな男とは対照的に、戦闘を監視していたNervのオペレ−タ−日向マコトが信じられないモノを見たかのように叫んだ。

「こ、これは――。いや、そんな馬鹿な・・・!」

「どうした?」

「な、生身で使徒と戦っている者がいます!」

「そ、そんな・・・非理論的な・・・!何かの見間違いでしょう?」

Nervの技術部長を務める金髪の女性。赤木リツコは自分の常識を砕きそうな報告に目を回した。

「え、映像で確認した限りでは・・・・そのようにしか・・・・」

報告した日向も正直信じられないが、目の前のモニタ−に映る情報が誤報でないと示していた。

「・・・・碇」

「ああ、そんな真似が出来るのは奴らしかいない。ちょうどいい零号機発進までの時間を稼いでもらおう」

メインモニタ−に映る男はBF団幹部、十傑集の一人『衝撃のアルベルト』その力は一個師団に匹敵する。


「クッ・・・・近づいてくる!」

シンジは使徒が何かと戦いながら此方に向ってくるのを見た。
飛んでくる瓦礫を躱し、交通標識を踏み台にし飛び上がる。ともかく視界を確保できる場所に行きたい。
ビルの窓枠を使ってシンジは屋上まで駆け上がった。

あれは?

使徒を見たシンジが、何者であるか考える。
恐竜帝国やDrヘルの機械獣でもない。機械・・・ロボットというよりも生物に見える。生体兵器だと妖魔帝国の化石獣か?
一年戦争が終結してからの7年間の間に現れた組織の兵器ではないかと思ったが、どうやら違うみたいだ。
どうする?ここに愛機はない。生身で戦うには体格差がありすぎる。
ぶっちゃけ無理だ。
ならば三十六計逃げるに限る。
隣のビルに飛び移ろうとしたシンジだが、背中の産毛の逆立ちを感じ咄嗟に横に飛び退いた。

グシャ!

シンジが先程まで居た場所が衝撃波で砕かれる。鉄筋製コンクリ−トの建物が脆いガラス細工のように壊されていく。

「ほお・・・・避けたか。少しは腕をあげたようだな、小僧」

「しょ、衝撃のアルベルト!?」

シンジは向かいのビルから此方に飛び降りたアルベルトの姿を見て、すぐに構える。
こんな所で会うとは思ってもいない相手。師匠マスタ−アジアのライバルを名乗る男だ。
デビルガンダム事件の時、BF団と何度か衝突があった。そのときドモンと共にシンジはアルベルトと闘った事がある。

「なんで?なんでオマエが此処に?」

「マスタ−アジアは弟子に言葉使いを、教えなかったようだな」

アルベルトは葉巻の煙を吐きだすと、右腕をシンジに向けた。
衝撃がシンジを襲う。
シンジは逃げ切れず津波を全身に受けたようなショックで吹き飛ばされながらも、左腕の包帯を解き氣を練り込む。
柔らかな包帯に鋼鉄以上の硬さと刃物の鋭さが宿ると、シンジはアルベルトに向って放つ。東方不敗の技の一つマスタ−クロス。
唯の布を剣よりも鋭い刃と変える気孔術の奥義。マスタ−アジアは、この技を使い生身で何体ものモビルス−ツを倒してきた。

「甘いな、濃はここだ!」

キィィィィ―――ン

一直線に飛んでくる刃と化した包帯を、衝撃波を宿した右腕で弾く。とても包帯と生身の人間が当たったとは思えない耳障りな金属音。
弾かれアルベルトから大きく外れた包帯だが、シンジが包帯を持っている左腕の手首を右手で掴むと直線的な動きが、蛇のような動きに変わる。
完全に躱したと思ったアルベルトだが、躱した方向から蛇のような動きをする包帯に不意をつかれた。

「ちぃ!小僧が!」

浅いな、肉は切ったが骨まで達していない。思わぬ反撃を受け、衝撃波を宿していなかった左腕に幾筋もの血が流れるが致命傷ではない。
あの程度のダメ−ジでは戦闘に支障をもたらす事はない。シンジが受けた衝撃波のダメ−ジも深刻な程でもないので、初撃は互いに痛み分けと言ったところだ。

まずいな――、今の一撃で仕留めれなかったのは大きいぞ。
アルベルトがシンジを格下と侮っている内に決定打を与えたかったのだが、その前に本気にさせてしまったようだ。
遠距離戦に持ってかれたら不味い。師匠ほどの十二王方陣大車輪が使えない僕じゃ遠距離戦闘になったら、ただの的だ。
ここは離されないよう接近戦を挑みたいが、全身に衝撃波を纏うことができるアルベルトに迂闊に近づくと衝撃波で肉体が砕かれる。厄介な相手だよ。
これならデス・ア−ミ−の方がよっぽど楽だ。
デビルガンダムが己のDG細胞から生み出す、働き蟻のようなデス・ア−ミ−だが連邦軍のジェガン並の能力があり、本来なら生身の人間に倒せる相手ではないのだが、アルベルトと戦っていると、そう思えてくる。

マスタ−クロスで中距離戦に持ち込んでも、奴には衝撃波以上の技がある。
アレは東方不敗が最終奥義でもなければ太刀打ちできない。いくら最終奥義が使えるようになったって所詮は俄仕込み。
師匠やドモン兄みたいに戦闘中に使えるレベルじゃない。氣を高めるのに時間が掛かりすぎる。まだ実戦じゃサポ−トしてくれる仲間でもいない限りは不完全と言われても仕方がない技だ。
どうする?今更逃がしてくれる雰囲気でもない。
たまたま見つけたライバルの弟子への軽い小手調べ程度だったかもしれないが、手傷を負わせた事で本気にさせてしまった。
逃がしてくれないなら、逃げれる程のダメ−ジを負わせればいい。最終奥義以外でアルベルトの衝撃波を破れる技が、僕にはまだある。

「小僧、覚悟しろ」

シンジが危惧したように全身に衝撃波を纏ったアルベルトが向ってきた。どうやら接近戦が、お望みらしい。
小僧一人にアレは使うまでもないと判断したのだろう。本気になったアルベルトの体術はシンジを上回る。
だからこその接近戦だが、逆にシンジにも勝利の可能性が見えた。

体術が自分より達者なアルベルトに遠距離から連続衝撃波で攻められたら逃げるしか手がないが、接近戦を行う事は此方の攻撃も相手に届く事を意味する。
いくぞ!師匠のダ−クネスフィンガ−やドモン兄の爆熱ゴットフィンガ−を参考に編み出した僕の必殺技を!!!


「僕のこの手に紫電が疾り」

自己暗示に近い鍛練で刷り込んだ言葉に反応して、身体中の氣が活性化し右手に集中する。


「全てを貫く雷光やどる」

電気ウナギ程じゃないが、人間にだって体表には微弱な電気が流れている。
元よりない能力を後天的に身につけるよりも、元から持っている能力を伸ばす方が楽なのは決まっている。会得する為の修行が、両足を封じられ冬のエベレストの制覇が楽なのかどうかは疑問だが・・・・・

とにかく過酷な修行の末、シンジは五元素のように氣を循環させる事で莫大な力を生みだせるようになった。それらを全て生体電気に変換した際の破壊力は、樹齢1000年の大木を一撃で切り裂く稲妻なみの威力がある。


「喰らえ!必殺――」

シンジがアルベルトを迎え撃とうした瞬間、使徒の攻撃を受けたビルが崩壊した。
目の前の相手に集中しすぎて使徒の存在を忘れていた。二人はビルの崩壊に巻き込まれ崩れ落ちる瓦礫と共に落下していった。


あとがき


こんにちは。おひさしぶり。はじめまして。
久々の投稿となる太刀です。

元ネタはス−パ−ロボット大戦αを基準に、碇シンジがマスタ−アジアの弟子として育ったという構成です。
マスタ−アジアとアルベルトがライバル関係なのはスーパ−ロボット大戦64のネタです。

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