守りたかった人がいた。
守れなかった人がいた。
守ることすら出来なかった人がいた。
助けたかった人がいた。
側に居たかった人がいた。
側にいることも出来なかった人がいた。
そのせいで、駄目になった人がいた。
そのせいで、辛くなった人がいた。
それが、何故か、我慢できなかった。
ある英霊?の物語
第1話 とりあえず、いらっしゃい。
「………ここはどこだ?」
目の前の煉瓦造りの壁を見ながら、そう呟く。
光量が妙に少ない、まぁ、たいまつが光源なのだから、当然といえばそうなのだが。
「で、どこだろうな?」
「私が聞きたいですよぉ………誰なんですか、貴方?」
先程より幾分落ち着きを取り戻したが、未だ泣きそうな顔をしている、誰か。
まぁ、会話も出来ない位慌てるわ、泣き喚くわしていたのからしたら何倍もいいのだが。
気がついたらどことも知れない場所、誰とも知れない相手がいたら普通慌てる。実際俺だって訳が分からなかったし
「その問いに関しては俺も聞きたい。Who are you?」
「日本語で通じますぅ、私日本人ですよぉ………」
その子の顔が余計に歪む。
いや、日本人、なのか?
雪のように白い肌と、羨ましい位綺麗な銀髪は腰の辺りまで伸びていて、涙で濡れた瞳は真紅の色。
背丈からして俺と同年代(多分、俺より上)なんだと思うけど、くしゃくしゃに歪ませた顔を見ていると、むしろ年下に思えてくる。
慰めるのに必死だったので、気づかなかったけど、どうみても日本人らしくない。
「ごめん。ぱっと見外国の人に見えたから」
「………これでも私、友達からは日本人形みたいってよく言われるんですけど…………」
「その子は日本人形を大いに勘違いしている」
もしくはお人形みたいに可愛い、とでも言いたかったのだろう。実際、目の前のこの子は服装の突飛さを抜かせば、アイドル並みに可愛いけど。
ていうか、何でこの子真っ赤な外套―――聖骸布―――なんて身に着けてるんだ?………今何か変な言葉が、頭に
「沙織ちゃんのことはどうでもいいんです!そういう貴方こそ、そんなアーチャーみたいな格好で日本人云々言わないでください!」
「いや、俺あいつほど色黒くないから。って、アーチャー?」
一瞬頭の中にやたらいい笑顔浮かべる赤い人が浮かぶ。いや、あの人は好きだけどね。待受画面にも入れてるし。
「そうですよ。というか、まんまあの人です。それにしても綺麗ですねその白髪?染めたんですか?もしかして、地毛?」
いや、なんで貴方があの人を知ってるんですか?やったんですか、あのゲーム?
年齢的には問題ないかもしれないですけど、なんか、ねぇ?
「って、ちょっとストップ!」
少し落ち着いたのか、こちらを興味津々で見てくるその人の眼前に手をかざす。
「地毛も何も、俺は髪なんて染めてな」
言いかけて。
かざした自分の手が随分と日に焼けたような色なのに気付く。
「………あ〜…………つかぬ事聞くけど、俺赤い服に白髪?」
出来れば違って欲しいなぁ、と思うんだけど。
その問いに、その子は首を縦に振って返してきた。
ははは………これって世に言う憑依物って奴なのかな?
………………………寝たい、何もかも忘れて。起きたら夢だったってオチにしたい。
で、十数分後。
「えっと、つまり俺も君も、生粋の日本人で、何の因果かこの体に入ってる訳なんだが………」
「はい。」
俺よりも落ち着いた表情を見せる彼女。いや、凄いね。先刻までの慌て振りは何処に?
周りが慌ててると逆に自分が落ち着くっていうあれか?
「まず、俺はどう言う訳かアーチャー、というか、エミヤの体に入ってる。で、君は」
「容姿の特徴聞いてると、イリヤちゃんっぽいですよね。」
「そうだな。俺たちが知ってるイリヤよりも年齢は上みたいだけど。」
あれ?でも、確かイリヤってホムンクルスだから、年取らないんじゃなかったか?
向こうも同じことを考えてるみたいで、顎に手を当ててむぅ〜、とうなってる。
「………まぁ、その辺は置いておこう。問題は他にも有る訳だし。」
「ですね。まず何よりここがどこなのか、ってことです。」
そう。ここがどこなのか。
順当にいけばここは、Fate世界(ネットだと型月世界とだったか)だと思われる。
「ちなみに、タイプムーン作品、どのくらいやったことある?」
「大体はやってます。月姫は歌月もやりましたし。ホロウはまだやってないですけど。」
「俺はFateが途中、って所。ネタはネット小説やら何やらで大体わかるけど。」
つまり二人合わせれば大体の流れは掴めるわけだ。これは結構アドバンテージになる。…………と、いいなぁ。
「で、そんな君に聞くけど、この風景、見たことある?」
言って辺りを見渡す。煉瓦造りっぽいこの建物は広さにして、ちょっとした体育館位。向かって右手の方には、壁に沿うように階段が螺旋状に作られてる。
天井は…………明かりが少ないから、暗くて見えづらいが、相当高いところにある。ぶっちゃけ塔だろう。
「…………無いですね。造りは欧州っぽい感じがしますけど」
「だな。……………う〜ん、何か、どっかで見た気もするんだが…………」
胡坐をかきながら、髪の毛を掻き毟る。あ、意外とエミヤの髪って硬い。てか、ごわごわする。きちんとトリートメントしろよ。
「………………」
「ん?」
同じく横座りになって、足を楽にしているその子がこちらを何か言いたげに見てくる。
「何?もしかしてお尻痛いとか?」
俺たちは今、その建物の中心(床によく分からない記号やら円やらが書かれてるから、おそらく召喚陣だと思われる)に腰を下ろしてる訳で。
まぁ、こんな石畳じゃ痛くもなるだろう。
「あ、それは大丈夫です!」
わたわたと両手を前で振るその子。うん、演技でやってるんじゃなきゃ、非常に可愛らしい動作だ。
「そうじゃなくて、さっきの質問です。」
「さっき?」
今までの会話を振り返る……………あ。
「俺が誰かって事?」
「はい。まず、何よりそれが先だと思いますけど」
あ゛〜〜〜、そうだな。うん、分かってたよ、分かってたからそのジト目はやめて欲しい。
「俺の名前ね。名前は……………」
「はい。」
「名前は…………………………」
「……………はい。」
「………………………………………」
「……………………………………………………」
「…………………………………………………………………エミヤ シロウ?」
「何で疑問系なんですか?」
「いや、本当にわかんないんだって!!」
そう。何故か俺の名前が頭からすっぽりと抜け落ちてる。
それ以外の事、例えば親がどんな仕事してるとか、どんな学校行ってたとか、趣味やら、性癖(?)やらははっきりと思い出せるのに、名前に関する部分は綺麗さっぱりと抜け落ちてるのだ。
「……………(ジト〜〜〜〜)」
「うん、俺も自分で何言ってるんだと思うし、いきなりそんな事言われても、十中十信じられないけどその擬音付きそうなジト目は勘弁して。」
血潮は鉄でも、心は硝子だから、今の体。
「そう思うなら本当の事を言ってください。」
「別に嘘を言ってるつもりはないんだけどね…………」
あ、ちょっと涙出てきそう……。
「つまり私から名乗らないと言うつもりはない、ってことですね。いいです。分かりました。」
つまり私への信用はその程度なんですね、がっかりです。って顔が言ってます。
「いや、そういうわけ」
「私の名前は………………あれ?」
お願いだから聞いてよ、俺の話。………って
「荒れ?」
「名前は……あれれ?」
うん、何とな〜くオチが見えてきた。
「………………………いりやすふぃーる・ふぉん・あいんつべるん?」
「………OK。信じるし、信じてもらえたね?」
「…………………はひ(涙)」
うん、俺も泣きたい。
「とりあえず、名無しはお互い辛いから見た目の名前でしばらく呼び合おう。」
「…………はい。ただ、そうすると本物に出会ったときまずくないですか?」
む。それはそうかも。ここが型月世界で更にFateゲーム内だった時、衛宮士郎やイリヤスフィールに出会う確率は阿呆程他界、もとい高い。
「う〜ん、じゃあサーヴァント名で行く?」
「ですね。そうすると、私は………」
「う〜ん…………フェアリー、とか。」
「じゃあそれで」
いいの!?いや、半分ネタなんだけど
「?どうしたんですか?」
「いや、本当に良いのかなって……」
「だって、素敵じゃないですか。妖精なんて。可愛らしいって言う代名詞ですよ。」
言って立ち上がると、くるりとその場で一回転。ま、喜んでくれるならいいけどね。
「じゃあ改めて、よろしく、イリヤ、もといフェアリー」
立ち上がり、彼女にすっと手を差し出す。
「こちらこそ。シロウ、もといアー……もとい、お兄ちゃん♪」
「な、なにぃ!!?」
「いいじゃないですか、この体なら問題ないでしょう?私も兄がほしかったですし。」
差し出した手を両手で掴みながら、子悪魔みたいな顔で笑う。いや、確かにそうだけど、なんというか、自分と同い年位の見た目の人にそう言われるのは非常に違和感が。
………ま、いいか。うん。何かそう思うので良しとする。
「…………全く。まさにフェアリーと言った所か。悪戯好き、と言う意味でもな。」
「あら。淑女(レディー)のちょっとした冗談くらい、笑って受け止めるのが紳士というものよ。アーチャ−」
振った自分が思うのもなんだが、ノリノリだな。
「さ、行きましょう。エスコートも紳士の仕事よ」
「やれやれ、とんだレディーもいたものだ。まぁ、ご指名とあらば仕方あるまい。」
端から見たら、笑われそうな演技。
仕方ないさ。俺も彼女も、まだ頭が現実に追いついてないんだから。演技でもしてないとやってられない。
イリヤの手を恭しく掴みながら、舞踏会の場にでも行くように台座を二人で降りる。
向かうは目の前の木製の扉。
その扉が外側からこちらが歩くのを見定めたように、開く。
差し込む光。次いで逆光で顔が見えづらい小さな影。
「…………誰ですか、貴方達は」
どこかで聞いたような声。
「開口一番がそれか。やれやれ、とんだマスターもいたものだな。」
とりあえず、お約束。はてさて、一体誰が出てくるやら………………へ?
「………残念ですが、私はマスターではありません。」
そう、小さく答えたのは、長い髪を二つに分けて頭に妙に大き目の丸い飾りをつけた、小さな少女。
知っている、この子は良く知っている。小さいくせにやたらと食うこの胃袋は宇宙な少女を。
ぶっちゃけ、俺の目の前にはリコ・リスが怪訝そうにこちらを眺めていた。
ごめん、これは予想してなかった。
あとがき
どうも。知ってる人にはお久しぶり(といっても、旧夜華に2、3話送った程度ですので知らない人が多いでしょうけど)で、知らない人は始めまして。柘榴と申します。
はてさて、何となく書いてみたくなって送ったこの憑依+DS+Fateなんて訳分からない作品。果たして皆さんに受け入れてもらえるのでしょうか?ちなみに作者は運命もってませんw
一応この後2、3話位は脳内プロットは出来てるんですけど、それ以降は見切り発車な状況。無茶ですねw
とりあえず、こんな駄文を読んでいただきありがとうございました。
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