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▽レス始

「見習いが往く(ドラえもん+機神咆哮デモンベイン)」

ガーゴイル (2006-03-18 00:41)
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――あれは、僕が六年生になる日の前日だった。

『――■■■君。ボク、未来に帰る事になったんだ……』

……嘘だ!
固まった僕の第一声が、其れだった。
だけど、本当だった。
――もう、如何しようにも無い。
あいつは、僕と同じぐらい泣きそうな顔で、そう言った。
法律だの何だのと、当時の僕では絶対に理解出来ない説明をし、あいつは締め括るように――

『猶予は一年。あと一年、ボクはこの時代に居られる……』

今直ぐにではない。
僕は、思わず少しほっとした。
しかし、あいつは固い顔のまま、

『……■■■君。君に話さなければ為らない事が在るんだ……』

――あいつが言うには、僕の未来はこれから大きく変化するらしい。
予想も出来ないぐらいに、大きく。
もしかしたら、僕の命だけではなく、世界の命運に関わるぐらいに。
法律の所為で、あいつは未来の道具でのアシストは出来ないと言った。

『――君の未来は、君自身の力で造らなきゃ駄目なんだ』

理不尽だ、と僕は最初泣きながら怒った。
だけど、あいつの真剣な顔を見て、僕は其れ以上何も言えない。

『――コレを見て』

あいつは自慢のポケットに団子みたいな手を突っ込んで、何時もの如く現代の科学理論では当て嵌まらない現象を引き起こす。
取り出したのは、鋼鉄の塊。
僕よりも大きな、命を持たない刃金の騎馬。

『――コレは、この時代の最高技術を駆使してボクが造った、君に出来る最後の手助け……』

全身があいつと同じ、澄み渡るような蒼で塗られた其れは、電灯の光を鈍く輝かせる。

『特訓しよう、■■■君。コレを乗りこなせるようになる為に、君が強くなる為に――ボクが居なくても、大丈夫になる為に……頑張ろう、■■■君』

――その日から、僕とあいつの特訓は始まった。
先ずは基礎体力、其れから技術を得る為に修練の繰り返し。
自転車の練習もした。
アレに乗る為には、自転車ぐらい乗れないと駄目だ。
僕は何度も泣いたし、何度も止めそうになった。
だけど、止めなかった。
馬鹿な僕にでも解る。
――あいつは僕が心配なんだ。
自分が居なくても大丈夫か、この先起こるであろう大きな変化に耐え切れるか。
あいつが安心して未来に帰れるように、僕自身が未来に負けないように。
僕は――強くなりたかった。
そして……一年が過ぎた。
あいつが未来に帰るその日、僕はあいつを後ろに乗せて、アレを見事に乗りこなして見せた。
無免許だけど、あいつの道具のお陰で捕まる事は無かった。

――まだまだだけど、安心して。
――君が居なくても、僕は頑張れるから。

最後に、僕は言った。
あいつは、泣いて頷いた。
僕も、大泣きで頷いた。
二度目のさよなら。
最初と違うのは、あいつが二度と帰ってこない事。
あいつが居なくなった翌日。僕は小学校を卒業した。
――あいつが居なくなっても、僕は修練を止めなかった。
毎日鍛え、毎日反復する。
友達等に心配されたが、僕は曖昧に笑って誤魔化した。
そんな事を三年ぐらい続けて――
僕は、家を飛び出した。
あ、誤解しないでね。
ちゃんとパパとママから、了解を得ている。
あいつと別れて以来、僕は外の世界への憧れが益々強くなった。
あいつと一緒にやった大冒険が、忘れられなかったんだ。
揉めに揉めたけど、結局パパとママは許してくれた。
三年間バイトで貯めた路銀を持って、僕は外の世界へと飛び出した。
先ずは、アメリカに行ってみよう。
……思えば、この選択が運命の分かれ道だった。
軽いノリで米国のとある街へと行った僕は、其処で様々な“運命”と遭遇した。
師と仰ぐべきであろう魔導探偵とその相棒、赤貧に喘ぐ自分を迎え入れてくれたシスターと子供たち、何故かつっかかってくる電波マッドと人造人間、色んな意味で助けてくれた覇道の姫とその執事……そして、

愛すべき人と、娘と呼べる子。

――何か、色々在った一年だったな。
この一年を振り返って、僕は色々な意味を含んだ吐息を漏らした。
――息は、眠らぬ街――アーカム・シティ――の夜闇へと融けて、消えた。


『大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代』
魔術と科学、富と貧困、光と闇――様々な存在が混在する此処――アーカム・シティ――を見事に例えた、言葉である。
繁栄都市で在るが故に、この街の闇と陰は深く、濃い。
毎日のように起こる怪奇事件も、その側面の一つに過ぎない。
さて、空を見てみよう。
――闇に紛れ、楼閣を駆ける、異形の姿。
今日も、この街で何かが起こっているようだ。
さあ、今日も今日とて始まる。
闇と光の、止めどない追いかけっこが。
ゆっくりと眺めてみようじゃないか。


目の前の天を駆ける異形の存在を視認し、男は眉を顰めた。
年頃は十代後半か。
蒼い大型サイドカーを駆るその姿は、彼を年よりも大きく見せる。
大きなゴーグルとヘルメットで顔の上半分を隠し、黒いズボンとジャケットを靡かせ、薄暗い道を威風堂々と突き進む。
彼は溜息を吐いて、サイドに座る相棒に言う。
「……眠い。ルルは大丈夫? くするの相手してて、あまり寝てないんでしょ」
「……だいじょうぶ、ねむくない」
相棒――奇妙な衣装を着た白髪の少女――は、夢見るようなおぼつかない口調で言う。
紫と金、色違いの両目が、ぼーと寝惚けたように闇を見据える。
「――ほんまかいな。ま、さっさとお仕事片付けようか」
――光が迸る。
何と、少女の身体が光に導かれ、解けていく。
その姿は――紙片。
無数の紙吹雪。
年代を積み重ねた情報の嵐は、少年と鋼鉄の騎馬に纏わり付く。
変化は劇的。
親友が創ったその機体は知り合いの○○○○の改造と、最愛の相棒の力で魔力強化が施されている。
――サイドカーは獣に似た鋭利なフォルムの大型装甲バイクへと進化した。
鋼の咆哮が、雄々しきリズムを刻む。
少年も、大きく変貌していた。
髪は長くなり、全身から色素が抜け落ちていた。
白き長髪は独りでに絡まり、長い三つ編みを形作る。
両眼は紅く変わり、右眼に紙片が集まり蒼いモノクルとなる。
服装も大きく変わっていた。
全身を覆うのは、黒いボディスーツ。
背には、細かな文字が綴られた本のページが縦に連なった巨大な装甲翼が形成されていた。
同時に、全身から爆発するように魔力が放射される。
「……あくせす。まがくへいそう“blue fox”、おーるこんぷりーと。……いけるよ」
肩に乗った小さなマスコット――小さく変貌した少女――の言葉に頷きを返し、
「ありがと。――じゃあ、行こうか!」
ハンドルを握り込む。
爆発的な魔力が流れ、エキゾーストパイプから火花に似た魔力の残滓が迸る。
――大加速。
闇を引き裂く、光の咆哮。
……捉えた!
彼の眼に、宙を行く異形が映る。
鳥に似た羽根を生やし、魚に似た鱗を全身に鏤め、顔は狼に酷似し、大きく開けた咥内から牙を覗かせた不気味な姿。
「――合成動物。何処の誰かは知れないけど……下衆な真似を」
……どんな命でも、奪いたくない。
少年は暗き感情を込め、呟く。
優しく、弱い少年の心に重圧が圧し掛かる。
「……だいじょうぶ?」
肩に乗った少女が、無表情に問い掛ける。
長い付き合いの彼には、その顔が僅かに暗く見えた。
――心配なのだ、少年の事が。
「――大丈夫。心配してくれてありがとう」
彼は、わざと明るく笑い、
「――君も、好きでこんな姿で生まれきたわけじゃない。だけど、君はこの街で人を手にかけてしまった。……御免、僕には如何する事も出来ない。だから――」
彼が呟く毎に、手に力が満ちる。
ハンドルから両手を離す。
機体制御は相棒に任せてある。
緑に似た光が、彼の手に陣を刻み、手の中で風が吹き荒れる――
「僕を恨んで、死んで」
顕現化。
現れたのは、大型の旧式ライフル。
緑に塗られた其れは、銃身に自らの名を刻んでいる。
その名は――
「イア、ハスターッ!」
“名状しがたき者”と呼ばれ、風の支配者たる存在。
以前の事件で、近所に住む○○○○がサングラスの爺と結託して創り上げた呪法兵装。
水属性たる自分等とは相性は悪いが、師匠から――死闘という名の試験の褒美として――譲り受けた二挺よりも射程距離が長い其れは、意外と重宝する。
スコープを覗く暇など無い。
両手で銃を構え、目視で狙いを付け、トリガーを引く。
――旧支配者ハスターの力が、銃を通して発揮される!
陣風一閃。
天を穿つ、風の弾丸。
唸りを上げ、其れは確実に異形を捉え――

爆ぜた。

ぼと、ぼと、と湿っぽく妙に重みを感じさせる雨が、屋根と道を紅く汚したのだった。


「…………」
元の姿に戻った少年は、空ろな目で空を見上げた。
「……この街で一年頑張ってきたけど、僕の駄目駄目ぶりは変わらないな」
脳裏に、この一年の出来事が流れる。
爆発事故。
火炎の中で、魔導書たる少女との契約。
巨大なる模造神の戦い。
師匠達との出会い。
ルルイエにて眠る神の分体――娘――との出会い。
千の無貌の干渉。
世界を再び閉じ込めようと、発動する謀略。
火山の底に封じられた神の目覚め。
――そして、神の庭での決戦。
「…………」
思案に耽る少年の隣で、少女は夢見心地な目付きで少年を見つめ、
「……んッ……」
徐に、唇を合わせる。
不意の出来事に、少年は目を見開き飛び退いて、
「な、なななななな何行き成りすんですか!? こんなへたれな僕だけど男は狼なのよ気を付けて!」
電波か。
少年はヒートする思考を無理矢理押さえ付け、顔を真っ赤にして叫ぶ。
しかし、少女は少しも顔色を変えず、
「……だいじょうぶ」
何時もの、のんびりとした口調で、確りと、
「……だめだめだけど、かっこいいよ」
彼女は、オッドアイに少年を映し、
「……わたしは、だいすきだよ」
少女は少年が好きだ。
言葉を教えてくれた彼が。
世界を教えてくれた彼が。
優しさをくれた彼が。
温かさをくれた彼が。
――少女は大好きな少年を上目遣いに見上げ、何時の間にか出来るようになった笑顔で、

「……ずっと、いっしょにいようね」

其れは、純粋な想い。
何も知らなかった、無垢なる少女の想い
様々な事を学んだ、純真な少女の想い。
共に戦い生き抜いた、比翼なる少女の思い。
確固たる、少女の想い。
――少年は、一瞬呆けた表情を浮かべ、そして……
「――ありがとう、ルル」
目の前の愛しい少女を、抱き締めた。
胸板に、少女の熱い吐息の感触を感じる。
腕の中でくすぐったそうに笑う少女の感触を受け止め、彼も全ての思いを言葉に籠める。
「僕も、大好きだ。ずっと、一緒に居よう。僕と、ルルと、くするの三人で――馬鹿みたいにあったかい、家族を作ろう」
元・邪神の分身たる義娘の笑顔を思い浮かべ、少年は少女を見つめる。
少女も、少年を見つめる。
「喜びを分けると倍に為り、悲しみを分けると半分に為る。幸せは……一緒に居ると其れだけでうなぎ上り」
少年は、はにかんだ笑みを浮かべ、
「出会ってから今までありがとう。これからずっとありがとう。そして――愛している」
誓約。
少年は少女の腰に手を廻し、背を抱き締め――
「……うん。わたしも――あいしてる」
少女も、彼の背を思い切り抱き締めた。
そして、そのまま二人の姿は重な――

「あ〜……ラブシーンなら他所でやってくれないか、お二人さん」

――らなかった。
見ると、何時の間にか真ん前に男が立っていた。
目深に帽子を被り、クシャクシャになった煙草を咥えた、見るからにやる気の無さそーな警察官だ。
その隣には、額に青筋を浮かべた大柄な警察官が、憤怒の表情で立っている。
この街の名物の一つ、凸凹警察官コンビこと――ストーンとネスだ。
「貴様等……こんな夜中に往来で見せ付けるかのように本官の目の前で不純異性交遊とは――警察を愚弄しているのかぁぁぁぁぁッ!!」
「まあまあ落ち着いて、ストーン君。……しょっ引かれたくなかったら、とっと逃げた方が良いよ、お二人さん」
今にも飛び掛りそうなストーンを抑え、二人にシニカルな笑みを見せるネス。
――少年の行動は早かった。
少女をサイドに乗せ、鋼鉄に燈を容れる。
爆発音に等しいリズムを響かせ、少年はとっとと逃げる。
――遠い背後で、野太い男の怒声が飛んできたが、一向に無視した。


――さて、改めて紹介しておこう。
少年の名は、“野比 のび太”。
かの魔導探偵“大十字 九郎”の元で様々な技術を学び、彼から“魔導探偵見習い”の称号を贈られた見習い魔術師。
少女の名は、“ルルイエ異本”。
運命に導かれ、のび太の相棒であり伴侶である魔導書。
――物語が紡がれるのは、解き放たれた世界。
アーカムで大きく成長したのび太と、ルルイエ異本ことルルが綴る物語。
彼等は――逞しく生きる。


あとがき
初めまして。
最近色んな所で出てくるガーゴイルです。
此処に投稿するのは初めてですが、宜しくお願いします。
――さて、行き成り解り辛い作品で申し訳御座いません。
舞台設定としては、アルEND後のループが解かれた世界。
アーカムを訪れたのび太がある事件に巻き込まれ、世界の存亡を賭けた戦いを繰り広げた――その、一年後。
一年前の事件に関しては、直接書く気は一切在りません(時折話や時の分の説明に出てくるだけですハイ。ごめんなさい)。
何故、ルルイエ異本と契約出来たか、義娘とは誰か、どういう風に九郎達と出会ったか。
回想や会話で、御察しを(土下座)。
――さて、実はこの話ぶっちゃけ筆休めとして書いた作品。
超不定期を予定しておりますので……更にぶっちゃけますと更新遅いです。
ではでは、何時まで続くか解りませんが、どうぞ宜しくお願いしますです。

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