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▽レス始

!警告!壊れキャラ、男男の絡み有り

「革命の日(まぶらほ+ネタバレにつき未記入)」

LD (2006-03-14 17:20)
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梅雨明けの空は、妙に青かった。

何物にも遮られない太陽の光が窓から降り注ぎ、部屋の中を暖めている。

夏を感じさせる暑さだ。

「――ふう」

玖里子は紅茶を一口飲み、ため息をついた。

書類仕事が、ついに片付いて『しまった』のである。

これから、『ある用事』のために、他校まで出かけなければならない。

その『ある用事』というのが、気を重くさせている原因だ。

しかし、やらなければならない。

これは家からの命令なのだ。

個人的な感情を挟む余地はない。

それに、『彼』を狙っているのは風椿家だけではない。

玖里子がためらえばためらうだけ、先を越される危険性が増える。

早々に覚悟を決めなければならない。

「――しかたがない、か」

覚悟を決めるのは、車中でもできる。

玖里子はそう思い、とりあえず出かけようとした。

そのとき。

「玖里子さん!!」

ドアが、ずがんっ、というありえない音を立てて開いた。

これはドアだけでなくて、壁まで修理が必要かもしれない。

とっさに修理費の概算をして、開いた相手に請求しようと考え、張本人を見る――

「あら、あなたは宮間の…」

夕菜、といったか。

たしか明日にでも転校してくる予定の生徒だ。

少々強引な手を使われたので、記憶に残っていた。

宮間家なら、支払能力に問題はないだろう。

修理費の請求を割り増しすることを考えながら、とりあえず用件を確かめることにした。

「なんn「和樹さんはどこですか!!」――…」

…。

なんなのだ、この女は。

他人の家の建具を壊し、そしてこちらの言葉を遮って怒鳴るとは。

宮間家が落ちぶれたのは、このあたりに原因があるかもしれない。

しかし、『和樹』…。

あの『和樹』だろうか。

やはり宮間家も狙っているのだろう。

もっと早く動くべきだった。

だが、なぜここに怒鳴り込んでくるのだろうか。

彼とこことの関係なんて、端から――そうか、そういうことか。

「あなた、知らないのね」

「? 何をですか?」

「『和樹』君、ここにはいないわよ」

「ええ!? どういうことですか!!
 隠すとためになりませんよ!」

たちまち夕菜の右手に顕現する火の精霊。

部屋の調度を焼き尽くすのに十分な量である。

その在りように冷や汗と頭痛を覚えながら、玖里子は口を開いた。

「落ち着きなさい。
 私はこれから彼のところに向かう予定だから。
 あなたも一緒にくる?」

「え、いいんですか」

たちまち夕菜は無邪気な笑みを浮かべ、精霊が姿を消す。

玖里子は再びため息をついた。

わざわざ宮間を『彼』の元へつれていくのは、おおきな失点だ。

しかし、あの魔力をここで暴れさせられると、いくら後々請求するとはいえ、たまったものではない。

ただヤりさえすればいいのだ。

『彼』に関してなら、多少あとからでも挽回はできる。

そう玖里子は判断し、夕菜を車で連れて行くことにした。


「ええ!?
 和樹さん、葵学園に入学してないんですか!?」

「そうなのよ」

探魔士によって、葵学園にあった『式森和樹』の個人情報がばら撒かれた。

そこには葵学園に入学したとの記述があった。

しかし――、

「ウチの事務のミスなのよね」

合格通知を出したことと、入学することとは、必ずしもイコールではないのだ。

エリート校である葵学園においても、例外は存在する。

和樹は葵学園の入学を蹴って、一般的な高校に進学したのであった。

しかし葵学園の事務は、恣意か過失か、和樹が入学したつもりで書類を作成してしまったのである。

当然、4月の頭でことは発覚したのであるが、書類とデータの訂正が6月までそのままだったのだ。

「ふぅ――」

思わず、玖里子はため息をついてしまった。

ことによると、何人か首をきらなければいけない。

面倒なことである。

憂鬱になり、玖里子は窓の外へ顔を向けた。

空が、憎いぐらいに晴れている。

と。

住宅地にあって、一際大きく、目立つ建物が見えた。

学校だろう。

「ついたようね」

到着したのは、郊外にある男子校。

そこそこ有名な進学校である。

本当に和樹が入学したのが、この学校だ。

奇しくも、葵学園とおなじ全寮制である。

いや、だからこそ彼が入学したのだろう。

夕菜からも、学校が見えるようになった。

なにやら、気合を入れている。

「和樹さん、浮気してたら許しませんよ」

「ないない、ここは男子校よ」

しかし、このとき。

それがある意味、真実になっているとは。

少なくとも玖里子は、知るよしもなかったのである。


「ようこそお越しくださいました」

車から降りた二人は、応接室に通された。

校長が丁寧に応対する。

玖里子は――そのほうが話が早いので――葵学園の生徒としてではなく、風椿家として連絡を入れたのだ。

そうすると学校側としても、下にも置かぬ扱いにせざるをえない。

校長は、自分の生徒と同年代の少女に、へりくだってみせた。

しかし玖里子は、その様子を当然のものとして、用件をきりだした。

「早速ですが、式森和樹くんを呼び出していただけませんか」

「申し訳ありません。
 もうしばらくお待ちいただけませんか」

実にタイミングが悪かった。

学校側は、この時間に和樹を呼び出せない理由があったのだ。

しかも、部外者には漏らしてはいけない類の。

「どういうことでしょう。
 事前に連絡をいれていたはずですが」

「ええ、承っております。
 しかし、現在学校行事の最中でして。
 前々から予定していたことですから、なにぶんスケジュールの変更がきかず。
 申し訳ありませんが、あと1時間ほどで終わるとおもいますので」

冗談ではない。

なぜ私がこんなことで1時間も無駄にしなければならないのか。

ただでさえ、宮間夕菜をつれてくるはめになったというのに。

これ以上の面倒は御免である。

玖里子は口を開こうとした、が、しかし。

先に夕菜が切れた。

「どういうことですか!
 私と和樹さんを引き裂こうというのですね。
 今すぐ会わせなければ容赦しませんよ!」

キシャー!

夕菜は手に火の精霊を顕在させる。

これには校長がおののいた。

ここは魔法におけるエリート校ではなく、彼も魔法とは縁のない人物だ。

いまだかつて、ここまで攻撃的な魔法を、これほど間近で見たことがない。

冷や汗があふれ、歯の根があわなくなる。

玖里子は事後処理の面倒をおもい、またため息をついた。

しかし一瞬で気を持ち直すと、この夕菜の暴走に乗ることにした。

手遅れだし、宮間家に責任を被せてしまえばいい。

それに、自分もこんなことは、さっさと済ませてしまいたいのだ。

椅子から立ち、校長の傍により、目線を合わせて、言う。

「彼女、見ての通り暴発しやすいですから。
 案内してくださるほうが、双方のためになりますよ」

にこりと笑う。

なおのこと震え上がった校長は、這うようにして応接室をでて、案内のための教員を呼びに行った。


二人が案内されたのは体育館だった。

どうも、学校行事の最中らしい。

どんな内容なのかは、なぜか「見れば分かる」の一点張りだった。

教員の様子から、それは説明が難しいから、ではなく、説明をしたくないからのようだった。

どんな行事なのかしら。

二人の間に、不安がつのる。

体育館の扉の前に来ると、教師が止まった。

そのまま、ためらった様子で固まる。

早くしてほしい、と玖里子は思うが、その尋常でない様子に、催促の声を上げづらくなる。

いや、自分がしなくても夕菜が、と思い、横を見ると。

夕菜は首をかしげていた。

「玖里子さん、音楽が聞こえませんか?」

「音楽?」

なにやら、ポップな曲と歌声が聞こえてくる。

先月のオリコンチャート8位の曲だ。

玖里子にも聞き覚えがあった。

音の元は、体育館の中のようである。

「カラオケ大会、なのかしら」

なるほど、学校行事としては、いささかふさわしくない。

部外者には、あまり見せたくないだろう。

しかし、それだけにしてはガードが固すぎる。

まだ何かあるのだろうか。

二人が中の様子を想像し始めたのに気付いたのか。

教員が折れた。

「いまから扉を開けますが。
 決して声を上げないでください」

「理由を聞いてもよろしいですか?」

「この学校の生徒にとって、とても楽しみな行事の最中だからです。
 ぶち壊しにはしたくないのです」

「分かりました。
 声を上げないことを約束します」

「ちょっと待ってください。
 和樹さんを呼んでくれるんじゃないんですか!?」

また夕菜が暴走しかける。

しかし、そんな様子にも気付かないほど沈痛な面持ちで、教員は答えた。

「彼はこのイベントの主役なのです。
 とりあえず今は、一目見るだけにしていただけませんか。
 後ほど、かならずお会いさせますので」

「…わかりました。
 今は我慢します」

夕菜の魔力が静まる様子をみて、玖里子は安堵のため息をついた。

いい加減、幸福がなくなってしまいそうな勢いである。

しかし、と玖里子は考える。

和樹が行事の主役?

事前調査では、無趣味で成績もあまりよくない、平凡以下の生徒だった。

その彼が主役とは。

いったい中で何が行われているのだろうか。

その疑問に答えるように、教師が扉に手をかけた。

「では、いいですか。
 扉を開けますよ」

そうして、扉は開かれた。

中にあったのは熱気。

体育館いっぱいの男子生徒が、暑苦しいまでの熱気を発散している。

まるでアイドルのコンサートのようだ。

いや、まさしくその通り。

ステージの上では、着飾った女の子3人が、マイクを片手に歌を披露している。

きれいだ。

思わずそう言ってしまうほど、ステージが絶妙だった。

ステージに当たる色とりどりのライト、それに映えるよう作られた華麗な衣装。

そしてなにより、それを着る女の子たち。

整った顔立ちをしている。

少々動きがぎこちないが、それも愛嬌のうちだ。

スピーカーから聞こえてくる歌も、なかなかうまい。

少々声が低いが、耳障りというほどではない。

いま売り出し中のアイドルユニットだろうか。

と、急に扉が閉じてしまった。

教員が閉めたのだ。

「なにをするんです!?」

まだ和樹を発見できてないのに。

いらただしげに問う玖里子に、しかし教員は答えた。

「そろそろ、声を出してしまうと思いましたので。
 あそこで声を上げられると、こちらも困ったことになりますから」

「おっしゃる意味がよく分かりません。
 夕菜、あなたからも言って――夕菜?」

加勢を頼もうと横を見ると、夕菜の様子がおかしい。

目を見開き、口を震わせて、しきりになにかをつぶやいている。

「和樹さんが…和樹さんが…和樹さんが…和樹さんが…和樹さんが…」

尋常ならざる様子に、そちらを見なかったことにした。

教員に振り向き、質問を変えることにした。

「それで、和樹くんはどこにいたのですか?
 ステージ上には見当たりませんでしたが」

「いえ、ステージ上にいましたよ」

「…三人の女の子しかいないようでしたが。
 そもそも、彼女らは何者ですか?」

「私からは、式森和樹くんがこの行事の主役だとしか言えません」

「つまり、あの女の子たちは前座、ということでしょうか?」

「いえ、あれこそこの行事の目玉です」

「はっきりおっしゃっていただけません?」

玖里子は苛立っていた。

そもそも、この件は気が進まないのだ。

なのに、やたらと厄介ごとばかり起きる。

面倒をかける夕菜は、肝心なときに役に立たない。

一体、なにが起こっているというのだ。

口を開くのをためらっている教員に、ますます苛立つ。

「つまり、和樹くんはステージ上にいるんですね」

「ええ、まあ」

「しかし、ステージ上にはあの3人組しか見えませんでしたが」

「…そのとおりです。
 ステージ上には3人しかいません」

「それはおかしくありませんか?
 あそこにいた3人はスカートをはいていましたよ。
 式森和樹くんは男――」

――え?

まさか。

まさかまさか。

そういうこと、なのだろうか?

問いかけるような目線に、教員は頷いた。

「ステージ右にいた子、その子が式森くんです」

玖里子はそのまま、意識を手放した。


その学校には、姫制度、というものがあった。

郊外の男子校で、女っ気が全くない校内に潤いを。

しかし、女の子を実際に連れてくるわけにはいかない。

ならば、ということで。

勢い余って、かわいい男の子に女装させてしまったのだ。

しかも、学校公認で。

もっとも、平常授業は普通の制服で、スカート姿は行事の時に限るのだが。

細かいところは省くが。

つまるところ。

和樹は女装して、ステージで活躍していたのである。


その後、保健室で目を覚ました夕菜と玖里子は、そのまま控え室に通された。

丁度、ステージが終わったのである。

控え室までの道中、案内に来た生徒会役員に姫制度についての説明を受けた二人は、いろいろな意味で暗くなった。

「そうね、たしかに校外にバラしたくない話ね」

「部活動の地区大会とかで遠征することはあるんですけどね。
 今年の『姫』たちは成り立てですから、まだ経験してませんし。
 正直、3人への悪影響を考えると、あまり会っていただきたくないのですが」

「ごめんなさいね。
 私も気が進まないけど、仕方がないの」

これからのことを思うと、とても頭が痛かった。

控え室に入って、また一騒動あった。

3人の『姫』が着替える前だったのだ。

『姫』になって、まだ2ヶ月弱。

行事以外では(比較的)普通に男の子として生活しているのである。

それなのに、女装姿を外部の人間に見られた。

しかも女の子に。

たちまち『姫』たちはパニックになったのだ。

生徒会長らに静められるまで、いろいろと大変だった。

「で、あなたが式森和樹ね」

「ええ、そうです」

ゴスロリ、というのだろうか。

やたらとレースのついた豪奢なワンピースに身を包んだ――よく見れば男子とわかる――生徒が、観念した表情で答えた。

「あなたの家系、優秀な魔術師が多いのよ。
 ハッカーのおかげで、そのことが知れ渡ってね。
 実家から子種をもらってくるように命令されたんだけど――」

「子種!?」

「そうなの。
 でも、ねぇ」

再度、和樹を見る。

確かに、よく見れば男子と分かるのであるが。

実にかわいらしい。

そこらへんの女よりも、よほど。

おまけに、羞恥に顔を赤らめ、うつむき加減だ。

庇護欲をかなり刺激する。

「たたない、なんてことは、ないわよね」

「…」

ますますうつむいてしまう。

まさか。

そんな玖里子を押しのけるように、夕菜が和樹に食らいついた。

「和樹さん! 夕菜です。
 覚えてませんか?」

「夕菜…さん?」

「そうです、夕菜です!
 結婚するって約束はどうなるんですか!?」

「結婚!?
 なんのこと!?」

「忘れちゃったんですか、あの約束!
 私が引越しする日、雪を降らせてくれたじゃないですか」

「雪…じゃあ、君があのときの」

「思い出してもらえましたか!
 そうです、あのときの結婚の約束です!」

「そうだったね。
 でも、ごめん。
 その約束は、あきらめてもらえないかな」

「ど、どういうことですか、和樹さん!」

「…好きな人がいるんだ」

「誰ですか、その不届き者は!?」

「それは…」

言われてから、しまった、という顔をする和樹。

しかしそれは、嘘がばれることを恐れるものではなくて、隠し事がばれることを恐れる顔だ。

まさかまさか。

再度、とてつもない不安が、玖里子の胸に押し寄せる。

和樹は一瞬だけ、この部屋の誰かを見た後、生徒会長に視線で訴えた。

生徒会長は、それに答えた。

「和樹君、大丈夫だ。
 なにがあっても、僕らが祝福してあげるよ」

「…ありがとうございます」

そう言って、和樹は椅子から立ち上がった。

そして部屋の隅で、事の成り行きを見ていた二人の『姫』に近づいた。

いまや、和樹の顔は、羞恥以外のもので赤くなっている。

和樹は二人の『姫』のうち、背の低い一人の前に来ると、真っ赤な顔で、うつむいてしまった。

まさかまさかまさか。

玖里子の不安は、すでに確信に変わろうとしていた。

夕菜は、いまから起きようとしている事態が、よく分かっていないようだ。

逆に、生徒会長をはじめとする部屋の面々は――もう一人の『姫』ですら――わかっているようだ。

暖かい空気が、部屋に流れている。

それに後押しされるように、和樹は口を開いた。

「陽一、君が好きなんだ!」

その瞬間、部屋の空気が固まった。

和樹は、緊張と不安と、いろいろなものがない交ぜになって。

陽一は、あまりにも突然の出来事に。

他の男たちは、二人の邪魔をしないように。

夕菜は、脳が認識を拒否して。

玖里子は、不安がピンポイントで的中してしまったために。

「…」

と、そのとき。

陽一の目から、涙が。

「え、よ、陽一?!
 ごめん、いやだったろう」

「違うよ、いやじゃないよ」

「え?」

「突然だったから、驚いただけ。
 和樹こそ、僕は男だけど、いいの?」

「構わないよ。
 僕はどうしようもなく、陽一のことが好きなんだ」

「嬉しい!」

和樹に抱きつく陽一。

それを見て、部屋の中が沸きかえった。

おめでとう。

よくやった和樹。

いいもの見たぜ。

めでたいなぁ。

ここまで引っ張りやがって。

これで安泰だ。

部屋の男全員が、口々に祝福する。

女二人は固まったままだが。

和樹が一度、陽一の肩を持って、体から離す。

そして手をとると、手前に引き上げた。

立ち上がる陽一と、それを胸で受け止める和樹。

二つの影が、そのまま一つに重なろうとした。

しかし、そのとき。

陽一が、ふらり、と体を揺らすと。

そのまま力が抜け、和樹の胸に倒れこんでしまった。

「陽一?
 …どうしたんだよ、陽一」

ただならぬ様子に、生徒会長が駆け寄ってくる。

「ちょっとごめんよ。
 …いかん、意識がない。
 誰か! 救急車を呼べ!」

「わかりました!」

「え、そ、そんな!!」

たちまち狼狽する和樹。

陽一を抱えたまま、床に座り込んでしまう。

「陽一、冗談でしょ? 陽一!」

「いかん、和樹。
 陽一をゆするな」

意識を失ったものを揺すぶるのは厳禁である。

しかし、半ば錯乱した和樹には、そのことが分からない。

「陽一! 陽一!」

「落ち着くんだ和樹!」

「そんな、嘘でしょ。
 せっかく、せっかく気持ちを確かめられたのに」

「和樹、陽一を離すんだ。
 安静にさせなきゃいけない」

「そんなこと――そんなこと。
 僕が認めない!」

「和樹?」

様子がおかしい。

和樹の目の色が尋常ではなかった。

それに生徒会長が気付いたときには、全てが遅かった。

「僕が! そんなことは! 認めない!
 うわあああああぁぁぁぁぁーーーー!!!」

和樹の雄たけびとともに、光が炸裂する。

魔法の発動に伴う光だ。

貴重な和樹の魔法が、いま消費された。

光は部屋を埋め尽くし、窓や扉からあふれ、周囲を太陽のように照らす。

しかし、光は目を焼くことはなかった。

暖かい、癒しの光だった。

やがて光が収まると、蛍光灯に照らされた元通りの部屋が、そこにはあった。

いや、ひとつだけ。

和樹の抱いている陽一だけが、そのありようを変えていた。

ステージ用のかつらが床に落ち、しかし頭からは豊かな髪が、床に垂れている。

胸は倍ほどに膨れ上がり、そのせいか陽一は苦しそうな顔をしている。

とっさに和樹がブラジャーのホックを手探りではずすと、すぐに顔が和らいだ。

その様を見た生徒会長が――和樹の殺意を込めた視線にさらされながら――陽一の体に触れると、その変化がすぐに分かった。

陽一は、女の子になっていたのだった。


よく分からないながらも、駆けつけた救急隊に陽一を預け、生徒会長が付き添って病院へ行った。

本来なら和樹がついていくところだが、彼は女装したままであることと、生徒会長から用事を言いつけられたので、後から行くことになった。

「陽一のつかっていたブラシ、洗濯前の下着を持ってきなさい」

フェティシズム漂う台詞だが、生徒会長は真剣な顔で、なおかつ事態が事態だ。

渋々、和樹は承諾し、着替えてすぐに行動した。

ちなみに、玖里子と夕菜は再び保健室に収容されていた。

そして陽一は。

意識を失ったまま病院に運ばれ、そこで目を覚まし、生徒会長から事情を聞いていた。

やがて、遅れてきた和樹が病室に駆け込んできて、通行証代わりに手荷物を生徒会長に渡し、陽一に駆け寄って手を握り、

そのまま意識を失った。

今度は陽一が慌てたが、生徒会長は落ち着いて言った。

「おそらく、無茶な魔法の使い方をしたせいだろう。
 明日にでも目を覚ますさ」

「会長は、今回のこと、分かっていらっしゃるんですか?」

「推測だけどね。
 しかし、おそらく事実だろう」

そして会長が語った内容は、数日後、医師によって裏付けられた。

「元から女の子だった?!」

「どういうことです?」

「やっぱりね」

それぞれ、三者三様の反応を返したが。

最後の生徒会長の一言に、視線が集中した。

「知ってたんですか!?」

「まあ、そうかな、って思ってたって程度だよ。
 陽一、最近貧血が多かったり、関節やお腹が痛くなったりしてたろ」

「それが、どうかしたんですか?」

「いわゆる、予兆というやつだよ。
 僕も又聞きでしかないから、正確なところは先生に聞こう」

そういって、医師に目を戻す。

咳払いをしてペースを取り戻すと、医師は話し始めた。

「いわゆる「半陰陽」と呼ばれる状態です。
 ごくまれに、染色体の異常や遺伝子伝達に何らかのミスが生じた場合に、見た目は男なのに、染色体は女性である場合があるのです。
 魔法の影響を受けなかったサンプルを調べた結果、陽一さんはこれに該当すると判断しました」

「判断しました…て、ねぇ」

「急に言われても…」

思わず顔を見合わせる和樹と陽一。

にこやかに笑いながら、生徒会長が補足する。

「陽一に起きていた不調は、ホルモンバランスの変化などが原因だと思うよ。
 で、激しい動悸のせいか、あるいは純粋にタイミングが悪かったのか、あのとき倒れてしまった。
 それを和樹は魔法で治そうとしたんだけど、原因が体のつくりにあるからね。
 あまりある魔力で、体を作り変えてしまったんだよ」

「和樹の魔力ってすごいんだね」

「あと6回だけどね」

謙遜のつもりで言った和樹の一言が、部屋を暗くする。

「ごめんね、和樹。
 貴重な一回を僕のために…」

「いや、だって陽一のためだから。
 悔いはないよ」

「でも――」

「じゃあ、こうしよう。
 和樹は陽一に、貴重な魔法回数を使った。
 そこで陽一は、人生の何割かを和樹のためにつかうこと。
 つまり、」

「「つまり?」」

「とっとと結婚して、和樹に尽くすこと」

「け、結婚?!」

「な、なにを言い出すんですか会長!」

そうですよね、先生。

和樹がそうふると、しかし医師は面白そうに肯定した。

「いいところに気付くわね。
 陽一君の体は、すでに女の子。
 何枚か書類を書けば、すぐに戸籍も変えられるわ。
 そうしたら結婚もできるわよ」

「「そ、そうなんですか!?」」

「しかし、あなたたちって、あの子の後輩なのよね。
 奇縁というかなんというか」

「あの子?」

「豊実琴っていうんだけど、知らないかしら」

「何代か前の『姫』ですよね」

「あら、さすが生徒会長。
 じゃあ、この症状についての情報も?」

「ええ」

「あの、どういうことなんですか?」

「その実琴はね、私、豊真琴の弟なのよ」

「「ええっ!?」」

「でね、その彼女もね、半陰陽で性転換した女性なのよ」

「「ええっ!!?」」

「さすがに、個人の病状に関することだからね。
 それほど広まってはいないけど」

「一度聞いたら、忘れられない話よね」

けたけた笑う二人と、顔を見合わせるしかない二人。

「まあ、その彼女にカウンセラー頼むから。
 経験者だから、心強いわよ」

「『姫』制度についても、理解あるしね」

「本来なら、ここで男として生きるか、女の子になるか決めるんだけど。
 もう女の子になっちゃってるしね。
 そこの和樹くんと、いい仲なんでしょ。
 女の子について、じっくりと勉強しなさい」

口々に言われて、もう頷くしかない二人。

顔を見合わせて、どちらからともなく笑った。

体についての不安も消えて、性別の壁も消えて。

ごく幸せなカップルとして、これからやっていける。

そんな祝福を、全身で感じて。

二人は身を寄せ合って、なんとなく、キスをしてみた。


ちなみに。

後から事の顛末を聞いた玖里子は、脳が限界に達したため、三度寝込んだ。

「もう、勘弁して」


あとがき
というわけで、if:和樹が別の学校に入学していたら、をお送りしました。
…ちょっと変えすぎましたが。

勘のいい方はタイトルでオチが読めたと思いますが、これは「つだみきよ」作品のクロスです。
(プリンセス・プリンセス、革命の日)

前にちょっと思いついたのを、最終巻発売記念にいっちょ書いてみるか、と一念発起したものの。
最終巻であれこれ書かれてしまったせいで、うまくキャラを登場させられず。

本当は、原作における生徒会長の『姫』時代にしようと思ってたんですが。
予定を変更してオリジナルな時代に。

なんとか真琴を出すことができましたが。
いざまとめてみると、まぶらほキャラが凛すら出てこない始末。

もうダメダメですが。
大目にみてもらえるとうれしいです。

それでは、最後までお読みくださり、どうもありがとうございました。
またそのうち、ネタが沸いたころにお会いしましょう。

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