一日の終わりにふさわしい、世界を茜色に染め上げる夕焼け。
しかしその夕日が染め上げているのは、見渡す限り一面の荒野。
そこにただ一つだけ、ぽつんと立っている赤茶けた鋼の塔。その上に一人の男が立っていた。
漆黒のマントを羽織り、夕日を見つめるその眼差しは、慈愛で、憎悪で、優しく、だが険しい。
光と闇という相反する彩に染められて、しかしその横顔は穏やかだった。
その顔立ちから察するに、男はおそらくは二十代前半、もしかしたら十代後半ぐらいの年齢だろう。それならば少年と呼ぶべきか。
そして、世界を染め上げていた夕日がその残滓を残して沈んだとき、
「またここで夕日を見ておったのか?」
後ろからかけられた声に、夕日を見ていた少年は振り返り、返事を返した。
「ああ。ここからの眺めも変わってしまったけど、それでもここでなら昔を、皆との時間を、楽しかった時期を、再確認できるんだ。おまえもそういう場所が一箇所はあるだろう?」
少年の視線の先には、そろそろ壮年に差し掛かりそうな男が立っていた。
胴着のような服を着て、腕を組んで立つその男は、目を細め、
「そうじゃな。たしかにあるな。それも何箇所も」
ひどく懐かしそうに、そう言った。
「過去に囚われておる訳ではないが、確かに思い出す、懐かしむ場所はあるな」
「だろう?」
同意を得られて、少年はわずかに微笑んだ。
「しかし、いつまでもこうしておる訳にもいかんのだぞ?今こうしている時にも………」
「わかっているさ。だからここに来たんだ。決めるためにさ」
そう言った少年の顔は、穏やかだったが、その瞳は力強かった。
「ほう。決めたのか。ならばもういいな。皆の所に行くぞ、横島」
そう言って男は少年、横島忠雄を促した。
「そうだな、天竜」
横島も同意し男、かつて天竜童子と呼ばれていた男に頷きを返した。
踵を返し、空を飛んでいく天竜を追い、横島も飛び去ろうとして、
「そういえばもういいんだったな」
すぐ右手の鉄骨にに嵌っていたいくつかの玉、文珠を見やり、
「ありがとうな。今まで役目を果たしてくれて」
瞬間、そこにあった全ての文珠が消え去った。それと同時に、塔が崩壊を開始した。
「さて、行くか」
崩れる塔を見やり、一瞬目を細め、しかしすぐに前を向き、横島は天竜を追って飛び立った。
崩れる塔は、かつて『東京タワー』と呼ばれていた。
「お、やっと来おったな。待っとったで」
「皆さんもう待ちくたびれてますよ。肝心のあなたが最後まで悩むのはいいですけど、それもほどほどにしておきなさい」
横島と天竜がそこについた時、その場にいた者たちが一斉に二人を、正確には横島を見やった。
「みんな。待たせて悪かった。ようやく決心ができた」
横島はその視線にこたえ、頷いた。それを聞いて、周りにいた者達もほっと、安堵の息をこぼす。
気が楽になったのか、あちこちで話し声が聞こえる。
「ようやくか。長々と待たせよったな」
「とは言え、決められたのなら、よかったですよ」
「アシュタロスの氾濫を契機に起こった終末戦争。その始まりより三千年か」
「その戦いで失われてた命を思うと気が沈みますね」
「せやな。いくら決められた時間とは言え、さすがにな」
ここに来た時、最初に話し掛けてきた二人――神と魔王――が、そう言って肩を落とすのを見て、横島はと天竜は、
「世界の羅針盤、アカシックレコードの終着点、か」
「その時までもう間がないのじゃ。この期に及んで決めていなかったら、ぶった切っておったぞ」
そう言って天竜は傍らに置いていた剣を横島に向けた。
「だから決めただろう?ちゃんと間に合うように」
「まあそうじゃがな」
そう言って天竜は剣を戻し、
「さて、行くか。決めたのなら決心が鈍らぬうちに行動に移さねばいかん」
少し離れたところにある門に向け歩き出した。
「もうほかの者達は決め終えている。神魔界は現状での世界の隔離、わしら竜界は他の幻獣達と一緒に狭間において守る者となることに決めた。妖精界は現状維持、冥界も、月神界もな。残るは人間界だけだ。そう、人間界唯一の生き残りのおぬしの、な」
それを聞き、横島は苦笑した。
「人界代表なんて俺には過ぎた役目だよ。それより守るんならまずは自分の嫁さん大切にしろよ。他人よりまず自分だからな」
「おぬしにそれを言う資格はあるまい?」
それに横島は苦笑を深め、
「それは皮肉か?まあ大事にしてくれるのなら文句なぞ無いが」
「無論じゃ。誰が好き好んで最愛の存在を、翠蝶姫を蔑ろになんぞするか」
「ま、そりゃそうかっと、ここか」
横島は目の前の門を見上げ、
「さて、ここでいいぜ。じゃあな。パピリオによろしく」
「それではな、義兄上殿」
その言葉を別れの挨拶にして、横島は天竜と別れ、独り門をくぐった。
残された天竜はしばらくその門を見つめ、
「どのような選択をしようと、決して悔やむなよ、横島。今までさんざん苦しんだのだ。だから幸せをつかめ」
その呟きを残して立ち去った。最愛の妻の待つ、彼の城へと。
「決めたの?」
門をくぐった横島を待ていたのは、何もない真っ白の空間だった。そこに響く声を聞き、横島は答えた。
「おう。きちんと考えて、後悔のないように決めてきた。だから姿を現してくれ、世界意思」
横島が答えると、目の前の空間に影が滲み出し、人影を形作る。
その影は次いで色を付けていき、程なく一人の少女の姿をとった。
「まったく。待ちくたびれたよ。相当悩んだみたいだね」
目を細め、世界意思という役割を持つ少女は、嬉しそうに言った。
「仕方ないだろ?これからの世界を決めるなんて、そんなにすぐ決めれるかよ」
肩をすくめて横島が言う。
「まあ、前口上なんてもういいよ。それより、本気で時間がなくなってきてるから、ちゃっちゃと行くよ」
「おう」
宇宙意思が言い、横島が答え、また意思が言う。
「それで、どうするの?」
「文珠の『創世』を使う。ただ出力が足りないから、力を貸してほしい」
意思はそれを聞いて、ちょっと驚いたように、
「え?『創世』?『復元』とか『回帰』とか『再生』じゃなくて?」
それにこたえ、
「そんなことをしてもまた繰り返すだけだ。意味がないよ」
「でも、また会いたくないの?」
その言葉に横島はわずかに眉を震わせ、
「会いたくないわけがないだろうが!?」
それまで静かだったが、声を大にして咆えた。
「確かに会いたいさ。でもな!たとえ時を戻しても、過去に戻ったとしても、会えるのはあいつらに似た誰かだ!そんなものなど望んじゃいない。そんな再会なんてごめんだね!」
そこで正気に返ったのか声を絞り、
「すまない。取り乱した」
「ううん。私も無神経だったよ。ごめん。でも『創世』だと、どんな世界になるかわからないよ?」
「わかっている。でも、この先の世界にはもう羅針盤はないんだ。なら、その世界の行く末は決まっていないんだ。だったら、可能性と運にかけるさ」
それを聞き世界意思はやれやれと肩をすくめ、ため息を吐き、次いで苦笑してから横島に向き直り、言った。
「まったく。君は本当に面白いね。OK。その願いは聞き届けるよ。力を貸す条件にお願い聞いてもらうけどね」
「お願い?」
怪訝な顔を浮かべる横島の前で、いたずらを思いついたチェシャ猫のような顔で、
「そ。たとえ新しくしても、またアシュタロスみたいのが出てこないとも限らないでしょ?だからそういうのを防いでほしいの。私の代わりに。簡単に言えば掃除屋かな?」
「?そんなことで良ければかまわないけど」
「よし。なら契約成立ね。あと、文珠の効果を世界隅々まで届けるために、粉々になってもらわなきゃいけないんだけど」
意思が笑顔ですごいことを言った。
「ってそれ死ぬだろ!?」
「そうよ。だから掃除屋稼業は死後の魂にやってもらうから。じゃあ行くよ」
「ちょ、ちょっと待てよ!そんな事言われてもってその右手のエネルギー球体はなんですかってぎゃ―!」
そう言って意思は、横島の返事を聞く前に横島の体を粉々に吹き飛ばした。
「じゃあね横島。がんばって。おもに私の暇つぶしのために」
宇宙意思がそう言って笑った瞬間に、この世界は終わりを向かえた。
ちなみに、横島はぎりぎりで文珠を体内に生成して、自分の霊気全てと文珠全てに『創世』の概念を込める事に成功していた。
<後書きですたぶん>
どもです、はじめまして
えっと。初投稿です。拙い文章ですけどよろしくお願いします
一応これ、私の処女作になります
ちなみに長編のプロローグだったりします
てかはじめてが長編って大丈夫なんだろうか?
ってわけで次が第一話になるわけなんですが、GS以外の作品に世界が飛びます。
しかも文体も多分変わってこんな風じゃなくなると思います
つまらないかも知れませんけど、気に入ってくれる人がいればがんばれそうです
いや、非難のレスが多ければここでやめて違うの書くかもしれませんけど、
一応はできる限り続けようと思います。
ではではでは
それにしても長い後書きだな
というか文体がおかしいし、キャラが固定してないし。
こんなん投稿して大丈夫なのだろうか?