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「司貴聖伝史(まぶらほ+藍蘭島+オリジナル)」

イグレッグ (2006-02-09 16:58)
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司貴聖伝史


第七話 司貴一族の里(後編)


「ねえ・・・夕菜」

「なんですか? 玖里子さん・・・」

カラクリ車の荷台の上に乗って、里の景色を見ていた玖里子が夕菜に声を掛けた。

「・・・さっきから気になるんだけど・・・この村・・・何か違和感ない・・・?」

「違和感・・・・・ですか?」

夕菜も里の景色を見ていると、畑で働く農家の人達をはじめ、この里の村人達を見ていると、普通の村と町と比べてどこか違和感があったのだ。

「たしかに・・・何か足りない気がします・・・」

「そう思うでしょ・・・でもそれが何か判らないのよ・・・・・」

「宮間さん、風椿先輩どうしたんですか?」

和樹が思考している夕菜と玖里子に声を掛けた。

「あっ! 和樹さん、ちょうどよかったです・・・少し聞きたいことがあるんですけど・・・」

「聞きたいこと?」

「はい・・・実は・・・・・」

「カーズ兄ぃーーー!!」

「ん?」

夕菜に訊かれているところ、突然、彼を呼ぶ声が聞こえてきた。その声の主は小さな女の子だった。
そしてその女の子はなんと熊に乗っていたのだ。

「何、あの子!? 熊に乗ってる!?」

「和樹さん。誰ですか、あの子?」

「ああ、ゆきのちゃんっていって・・・司貴の里の中で一番最年少の子だよ・・・・・」

「えっ!? 最年少・・・ですか?」

それを聞いた夕菜は驚いた。

「それどう言う事?」

「うん・・・実は司貴には・・・・・」

「ちょっと和兄ぃ!! れでぃを無視するなんて失礼でしょ!!」

ゆきのという熊に乗った女の子が無視されてると思い、熊のくまくまと共に和樹達の会話に割って入ってきた。

「ああ・・・ゆきのちゃん・・・ごめん」

「すいません、無視していた訳じゃないんです・・・・・」

和樹と夕菜はなぜかゆきのに謝る。

「もう・・・ところで和兄ぃ。この三人のお姉ちゃん達、誰? もしかして・・・和兄ぃのがーるふれんど?」

くまくまの上に乗ってるゆきのが夕菜と玖里子とまだショックから立ち直ってない凛を見て、和樹に向かってからかう様な口調で言った。

「ちっ、違うよ!! ゆきのちゃん! もう、何言ってんだよ!?」

年下のゆきのにこんな事を言われた和樹は顔を赤くしながら、慌てて否定する。

「そんな事言わないで下さい和樹さん!? 私達夫婦じゃないですか!?」

和樹にその事を否定されているその時、今度は夕菜が二人の会話に割って入って来た。そしてその一言が更に状況をややこしくさせた。

「夫婦!? もしかして和兄ぃ・・・『外』の世界にいる間・・・結婚したの!?」

「違うって!!」

「そうよ〜。奥さんのあたしを差し置いて夫婦だなんて失礼しちゃうわ〜」

この状況を面白がってか、次は玖里子が割り込みしてきた。そして和樹の腕にそのナイスバディーな体を密着させてきて、和樹は更に顔を赤くした。

「ちょっと!? 何するんですか風椿先輩!?」

「そうです!! 和樹さんから離れて下さい!! 和樹さんの妻は私です!!」

「別にいいじゃない・・あたし側室でもかまわないから〜」

「ダメです!! 和樹さんの妻は私一人で十分です!!」

「夕菜さんの言う通りです!! 今は一夫一妻制、側室なんて認められません!!」

何時の間にか、ショックから立ち直った凛が乱入してきてしまい、口喧嘩に発展してしまった。
そんな事になってしまった和樹は思わず、頭を抱えてしまった。

「ああ、もう・・・ゆきのちゃんが変な事言うからだぞ!」

「ごめん・・・・・」

「おーい ゆきの! くまくま!」

夕菜達の口喧嘩の最中、ゆきのとくまくまを呼ぶ声が聞こえてきた。その声の主はなんと身長二百センチ以上ある大男だった。
その大男は和樹達のいる方まで向かってきた。

「あ! お父さん・・・・・」

「村雨さん・・・・・」

「えっ!?」

「お父さん!?」

夕菜達はゆきのの父親である村雨が向かっていることに気付き、思わず口喧嘩を中断した。そしてゆきのが乗ってるくまくま以上にでかい二メートル以上ある大きな巨体をみて、夕菜達は唖然とした。

「何!? あの人!?」

「随分・・・大柄な父親だな・・・・・」

「おっ、和樹じゃないか? 里に帰って来ていたんだな・・・・・」

「はい。お久しぶりです。村雨さん」

「久しぶりだな・・・あっ、『外』の世界の客人もいるな・・・オレは不動村雨。こっちの熊に乗ってるのが娘のゆきのだ」

「よろしくね、お姉ちゃん達」

村雨は自己紹介しながら、くまくまに乗ってるゆきのの頭を優しく撫でた。その異常な光景を見て、夕菜達はまた唖然としてしまった。

「どうしたんだ? 物珍しそうな顔で見て・・・・・」

「いいえ・・・ちょっと・・・」

「オレの体型がくまくまよりでかいからか?」

「そっ、そんな!」

「気にするな・・・北辰堂の家系の者は熊よりでかい奴が多い。その分家のオレもでかいのも当然だ・・・」

玄武の加護を受けた地術師の名門『北辰堂』の人間は身長が二メートル以上の者が多いその家系の中で一番身長が低いのは子供のゆきのを除き、身長が百八十センチの者である。

「そうだ・・・ゆきのちゃん・・・佳那汰元気?」

「えっ? 佳那兄ぃ・・・?」

「誰ですか・・・その人?」

「行人くんと同じ五方星の一人だよ。行人くんが水を司る退魔士なら、彼は土を司る退魔士なんだ・・・」

「同時にゆきののハトコでもあるんだよ」

ゆきのの祖母は佳那汰の祖父の弟で、身長は二メートル以上もある巨体で年の衰えも感じさせぬほど、筋肉質の体系で、退魔士としては今でも現役バリバリで、今でも前線で戦ってるのだ。

「なるほど・・・それで式森・・・その者がどうかしたのか?」

「うん・・・三ヶ月ほど前、京都の任務から戻って来てから・・・どうも元気がなかったんだ・・・・・」

「佳那兄ぃが元気ないのってやっぱり・・・あの噂、本当だったのかな?」

「噂?」

ゆきのが言った、その一言を聞いて、反応した。

「うん。なんでも佳那兄ぃ・・・京都の五条大橋という橋の上で、可愛い女の子を見かけて、一目惚れしたんだってよ・・・・・」

「一目惚れ・・・ですか・・・?」

「それで、あれ以来・・・佳那兄ぃ、その女の子の事が今でも忘れられず、呆けているのよ・・・・・」

「ふ〜ん・・・それって忘れられない恋ってやつ?」

「そうみたいだな・・・全く・・・五方星の一員として、一人の退魔士としてしっかりしてほしいものだ・・・」

「悪かったな! しっかりしてなくて・・・・・」

村雨がそう言った直後、その巨体の背後に、槍を持った身長百八十センチの少年が立っていた。

「何っ!?」

「佳那兄ぃ!?」

「佳那汰!?」

和樹達が突然の出来事に驚いた。その少年は例の五方星の一人・北辰佳那汰が気配を消しながら現れたのだ。

「よう! 久しぶりだな和樹!」

「久しぶり」

和樹と佳那汰の二人は同い年なのでそんな事お構いなしに挨拶した。

「もうっ! 佳那兄ぃ!! まちちゃんみたいに気配を消しながら出てくるのやめてよ!! ビックリしたじゃないの!!」

「悪かったな・・・ゆきの・・・・・やっぱり・・・あいつと声が似てる・・・・・」

「何か言った佳那兄ぃ?」

佳那汰とゆきのの二人は会話していたが、ちゃんと話していったゆきのに対し、なぜか佳那汰の話し方はどっか素っ気無かった。

「この男が、さっき会った東方院と同じ五方星か・・・?」

凛が少し疑うような眼をして佳那汰に話しかけてきた。

「ん?『外』の世界の者か?」

「神城凛と申す・・・北辰堂佳那汰と言ったな。さきほど東方院の修練を見ていてなかなかの腕だった・・・それに比べてお前は何だ! 体格はいいし、よく鍛えられている・・・でも何だか今は隙だらけだぞ・・・」

凛は初対面でいきなりきついことを言う。

「隙だらけか・・・こっちのお前は何だか・・・初めて会った時のアイツと同じを言う事・・・・・」

「アイツ? 誰の事だ?」

「別に・・・何でもな・・・ん!?」

佳那汰はそろそろ行こうとした時、夕菜の姿が目に入った。そして夕菜の髪の色を見て、感傷に浸るような眼をした。

「どうしたんですか?」

「いや・・・君があの子と同じ・・・髪の色だったから・・・一番好きなあの子と・・・・・」

「えっ?」

「何でもない! それじゃあ・・・オレ・・・次の任務があるから・・・それじゃあ・・・・」

佳那汰は和樹達にそう言いながら去って行った。

「佳那兄ぃ・・・大丈夫かな・・・?」

「何だか・・・かなり重傷だな・・・・・」

和樹は心配そうな顔で佳那汰を見送った。


カラクリ車に乗ってる和樹達は、ゆきのと村雨と別れて、和樹の家を目指し、もうすぐ到着しょうとしていた。

「皆さん! もうすぐ僕の家に到着します」

「もうすぐ和樹さんの実家ですか・・・和樹さんのご家族にお会いできるのが楽しみです!」

夕菜はウキウキした顔をして、上機嫌だった。

「夕菜・・・何がそんなに楽しみなの・・・?」

「だって! もうすぐ和樹さんのご両親にお会いできるんです。妻として認めてもらう、絶好の機会です!」

それを聞いた玖里子は少し呆れ顔になった。

「夕菜・・・あんたね・・・いくら何でも・・・それは早すぎるわよ・・・・・」

「玖里子さんの言う通りです。私達は今日式森に会ったばっかりです。いくら何でもそれは早すぎます・・・」

「玖里子さんも凛さんも何言ってるんですか! 確かにお二人は、今日和樹さんに会ったばっかりかもしれませんが、私は・・・」

「宮間さん・・・」

夕菜が玖里子と凛に何かを言おうとした時、和樹が夕菜に声を掛けてきた。

「和樹さん・・・何ですか・・・?」

「うん・・・宮間さん・・・ご両親に会うのが楽しみだって・・・言ったよね・・・だけど・・・それは無理だと思うよ・・・・・」

それを言った和樹の顔は哀しい表情になった。

「えっ?」

「僕の両親はとっくの昔に・・・亡くなってるんだ・・・・・」

「えっ!?」

それを聞いた夕菜達は驚き、そして夕菜は和樹に向かって謝りだした。

「ごめんなさい和樹さん! 私・・・浮かれて・・・何て無責任な事を・・・・・」

「いいんだよ・・・もう僕が小さい頃の話だから・・・気に病むことはないから・・・・・」

「和樹さん・・・・・」

「だから・・・そんなに自分を責めないで・・・・・」

和樹は沈んだ顔をした夕菜に向けて、とても明るい笑顔を見せた。

「和樹さん・・・はい」

夕菜もいい笑顔になり、そのいい表情を和樹に見せた。
しかし、そのいい雰囲気を出していたその間に玖里子と凛が割って入って来た。

「ちょっと・・・二人して何、いいムード出してんのよ?」

「そうです! 全く不謹慎な・・・」

「いいや別に・・・そういう訳じゃ・・・あっ!? そろそろ到着しますよ!」

和樹は慌てて言いながら、カラクリ車を自分の家の門の前に停車させた。

和樹の実家は、さっき寄って来た朱堂の家と比べ物にならないほど、はるかに広く立派な純和風な日本屋敷で、その外見は平安時代の貴族の屋敷を連想させるほどだった。

「ここが・・・和樹さんの家ですか?」

「随分と・・・立派な屋敷ね・・・・・」

「九州にある本家とは比べ物にならないな・・・・・」

「ここは和樹さんの家であると同時に司貴星連の総本部である。別名『天地殿』とも言われている・・・・・」

「えっ!?」

「司貴星連の総本部!?」

その言葉を言ったのは緋色の髪をした温和そうな男だった。その男は腰に刀を差し、首元には『夏』の字が書かれていた。

「あなたは・・・?」

「初めまして四将老が一人、唐鶏焔です」

唐鶏という男は礼儀正しく、笑顔で夕菜達に挨拶をした。

「こっ、こちらこそ初めまして・・・・・」

「ちょっと! 唐鶏と言ったけ?」

「はい。あっ、でも里の皆さんから『からあげさん』と言う愛称と呼ばれています・・・」

「それじゃあ・・・からあげさん! さっき和樹の家が司貴星連の総本部って言ったよね? それって・・・和樹はまさか・・・・・」

玖里子は唐鶏に質問してきた。そして彼は彼女に向かって凄い事を答えて来た。

「そのまさかです・・・和樹くんは司貴星連の次期『総帥』及び司貴一族の次期『長』なんです・・・この事、彼から聞いてなかったですか?」

それを聞いた夕菜達三人はものすごく驚いた。

「ええっ!?」

「和樹さんが!?」

「司貴一族の!?」

「「「次期『長』!?」」」

「いや・・・宮間さん・・・風椿先輩・・・神城さん・・・別にそんなに・・・驚く事ないよ・・・・・」

和樹はいまだに驚いている三人を落ちつかせようとした。

「まあ・・・ここで立ち話もなんですし、天地殿に入って、ゆっくり話しましょう・・・・・」

「そうですね・・・それじゃあ皆さん、家に入りましょう・・・・・」

「はっ、はい・・・」

「それじゃあ・・・お邪魔するわ・・・」

「では・・・失礼します・・・」

五人がそう言うと天地殿と呼ばれる和樹の家の門が開き、その門を通りながら入って行った。


天地殿に入った夕菜と玖里子と凛の三人は、その屋敷の広さと見事な造りに感心していた。

「すごいですね・・・・・」

「なんだか・・・広すぎて迷子になりそう・・・・・」

「おや? 中庭が広い池になってます」

凛が池になってる中庭を見つけた。その池になってる中庭はとても広く、その向こう側には舞を踊る立派な舞台が建っていた。

「何ですか? 池の上に建ってる舞台は・・・?」

「あれは・・・『水舞台』だよ・・・」

「水舞台?」

「お正月やお祝い事がある時、司貴一族の中で最高の水術師があの舞台の上で美しい水の舞を踊るんだ・・・・・」

「水の舞って? もしかしてあの行人のボウヤがあの舞台の上で踊るの?」

「それはない・・・あいつが水舞台の上で立つにはまだ早すぎる」

急に広い廊下から一人の男が現れてきた。その男は唐鶏と比べて、厳格な顔をしていて、その感じはどこか冷めている部分があり、その首元には『冬』の字が書かれていた。

「流水さん・・・」

「久しぶりだな・・・司貴一族次期『長』・・・・・まさか『外』の世界の者を連れてくるとは・・・先代『長』と未来見の君は何を考えているのだ・・・・・」

流水という男は今まで会ってきた司貴一族の者達と違い、夕菜達に対して冷たい態度を取った。

「流水さん!!」

流水の冷淡な言葉を聞いて、唐鶏は彼に向けて怒鳴りだした。

「これは失礼した・・・それでは和樹殿、客人もごゆっくりどうぞ・・・・・」

流水は和樹達にそう言いながら、去って行った。

「何よ、あれ! 感じ悪いわね・・・」

「あの人は東方院流水さん・・・からあげさんと同じ四将老の一人で、行人のお父さんなんだ・・・」

「行人のお父さん・・・ですか?」

「うん・・・でもなんか・・・いつもより機嫌が悪かったようだけど・・・行人くんと喧嘩したせいかな・・・・・?」

「機嫌が悪い? あれが?」

それを聞いた玖里子は少し信じられなかった。流水のあんな態度を見て、どこが機嫌が悪いのかと信じられなかった。

「すいません・・・流水殿が大変失礼しました。同じ四将老としてお詫びを申し上げます・・・・・」

唐鶏が頭を下げて、夕菜達にお詫びの言葉を言って、流水の後を追うように去って行った。

「ああ・・・・・」

「行っちゃったわ・・・・・」


和樹達は、天地殿の廊下を歩いている、その最中、夕菜が和樹にある質問をしてきた。

「ところで和樹さん・・・」

「何?」

「からあげさんと流水さんのお二人は四将老と言ってましたよね・・・その四将老って何ですか?」

「ああ・・・四将老とは五方星より更に上の階級で、司貴星連の中枢を束ね、司貴の長の政を補佐する、いわば江戸時代で言う老中みたいなものだよ・・・」

和樹の言う通り、四将老とは司貴一族の長の親衛隊である五方星を含む、多くの退魔士の中で最も優れた者しか与えられない位で、司貴の長に意見できる立場でもある。

「そして行人くんの家系は代々、五方星と四将老を輩出してきたほどの名門で・・・その父親である流水さんも四将老に昇格される前は五方星にいたんだ・・・・・」

「ふ〜ん・・・じゃあ、あの子は五方星であると同時に次期四将老候補って訳ね・・・・・」

「でも、そのせいで・・・親子喧嘩が絶えないんだ・・・流水さん・・・よっぽど行人くんを四将老にさせたがってるんだよ・・・」

「その気持ち・・・わかる気がする・・・・・」

凛は行人に共感していた。自分も九州にある神城の本家にいた頃、後継者の資質を見出され、本家の人間達に跡継ぎの修行を強要されていた。そのせいで本家に対し、強い反感を持ち、挙句の果てには本家を出て、関東の真帆良学園の中等部に転入してしまったのだ。

「あっ、皆さん・・・ここが先代『長』であるお爺様がいる長の間です」

和樹達が話をしている間。ようやく天地殿の一番奥にある長の間に辿り着いた。

「ようやく着きました・・・・」

「ここに入ってから・・・随分あるいたわよ・・・・・」

「本当・・・・本家とは比べ物にならないほど・・・広いな・・・・・」

夕菜達の顔に疲労が溜まっていた。天地殿に入ってから。広くて長い廊下を三十分以上歩いたためもうヘトヘトになっていたのだ。

「天地殿が広すぎるのは、里に何かあった時、一族の皆が全員避難できるように、緊急避難所も兼ねているんだ・・・・・」

「なるほど・・・さすが司貴一族の長だ・・・民の事も考えているんだ・・・」

「そういう事・・・それじゃあそろそろ、長の間に入るから失礼の無いようにお願いします」

「はっ、はい・・・」

和樹はそう言うと、深呼吸をし、長の間のふすまに手を掛けた。

「失礼します! 式森和樹、ただいま司貴の里に戻ってきました!」

和樹が威勢よく声を出し、長の間のふすまを開けた。その部屋には厳格さと温和さを兼ね備えた老人と、その傍らには黒くて美しい長い髪の女性がいた。その女性は和樹に近付き、美しい笑顔で迎えた。

「おかえりなさい、和樹。元気にしていましたか?」

「ただいま・・・姉さん・・・・・」

「えっ? 和樹さんの・・・お姉さんですか・・・?」

「はい・・・式森沙那と申します・・・初めまして宮間夕菜さん、風椿玖里子さん、神城凛さん・・・・・」

「えっ!?」

夕菜達は驚いた。和樹の姉である沙那は、まだ自己紹介もしていないのに、自分達の名前を知っていたのだ。

「どっ、どうして・・・私達の名前を・・・・・!?」

和樹も驚いていた。姉の沙那が彼女達の名前を知っているのか。
もし思い当る事があるとしたら『あれ』しかない。

「姉さん・・・まさか・・・!?」

「はい・・・彼女達の事は未来見で知りました・・・・・」

未来見とはその名の通り、未来を見ることが出来る能力で、この能力は代々、式森家の女性のみが受け継がれる、この魔法社会でもとても貴重な能力なのだ。

「あなた達が和樹と一緒に司貴の来る事も未来見で知りました。玖里子さん・・・まちさんの事、余り悪く思わないで下さい・・・あの子、少し恥ずかしかっただけですから・・・・・」

「そっ、そうなの・・・アハハ・・・・・」

沙那にそう言われた玖里子は思わず、苦笑いを浮かべた。

「・・・凛さん・・・人は誰でも得意、不得意があります。でも努力すれば、不得意な事も克服できます。だからそんなに気を落とさないで下さい・・・」

「はっ、はい・・・」

それを聞いた凛は、少し気が楽になった。前に和樹が言った言葉より励ましになったのだ。

「・・・夕菜さん・・・亡くなった私達の両親の為に和樹に気を遣わせてすいません・・・でも、和樹の為に来てくれて、どうもありがとうございます・・・・・」

沙那は夕菜にそう言いながら、微笑み、頭を下げた。それを見た夕菜は思わず慌ててしまった。

「いっ、いいえそんな! 悪いのは不謹慎なことを言ってしまった私です。沙那さん。どうか頭を上げてください!」

「姉さん・・・宮間さん・・・せっかくここまで辿り着いたんですから、立ち話もなんですし、話はお茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょう・・・・・」

和樹は彼女達にそう言うと、沙那と夕菜達は、長の間の畳の上に敷いてある座布団の上に座った。
沙那はお茶を淹れて、茶菓子と一緒に夕菜達に差し出した。

「どうぞ・・・ここに着くまで、お疲れになったでしょ。ゆっくり召し上がってください」

「はっ、はい・・・ありがとうございます・・・・・」

夕菜達がお茶と茶菓子を頂いている間、和樹が沙那に話しかけてきた。

「姉さん・・・今日、朝から電話を掛けてきたの、姉さんでしょ。司貴一族に係わる重大な事があるから、学校を早退して、里に戻ってきたんだよ・・・それと今日、会ったばっかりの宮間さん達を連れて来いと言ったのも、姉さんでしょ・・・来る途中、仁宇さんから聞きましたよ!」

「はい・・・彼女達が和樹の許へ来るのも未来見で知りました。きっと彼女達が司貴一族を救う希望になってくれる事を・・・・・」

「重大な事!? 司貴一族を救うってどういう意味ですか!?」

「ここから先は・・・わしが説明しよう・・・・・」

司貴一族の先代長である和樹の祖父・式森烈鳳がその重大な事を説明した。

「あれは十二年前・・・ある惨劇が起きて、我ら司貴一族が滅びかけたのじゃ・・・・・」

「えっ!?」

「なんとか、それを食い止めたのじゃが・・・その代わり・・・多くの犠牲者が出てしまったのじゃ・・・・・」

それを聞いた、和樹の表情は少し暗くなった。そんな和樹の顔を見た、沙那と夕菜は心配そうな顔になった。

「そして・・・あの惨劇以来・・・我々司貴一族に子供が一切、産まれてこなくなったのじゃ・・・」

それを聞いた夕菜達は驚愕な顔になった。


後書き

お久しぶりです、イグレッグです。司貴聖伝史の第七話がやっと出来上がりました。今回の本編に出てきたオリジナルキャラの不動村雨は武者斎胡の擬人化です。それと『ながされて藍蘭島』のからあげさんは亜人という設定で擬人化させました。行人のお父さんと対立しているという設定です。感想があったらお願します。

レスです

西手さんへ

感想ありがとうございます、司貴一族に係わる重大な事は次回明らかになります。次回更新できるようがんばります。

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