「和樹さま大丈夫ですか?」
「ああ、封印を解いた反動でまさか動けなくなるとは思わなかった」
アイオリアとの戦いの後、和樹は高熱により寝込んでしまった。
「でも、宮間の襲来の方が大変だったな」
自称和樹の妻を名乗る夕菜は当然のような顔をして和樹の看病に現れ、寝る間もおしんで看病していた姉妹と大乱闘を繰り広げたのだ。
「和樹さーん!!!!!!」
声と共に飛びかかってきた影を回避する。影は盛大にコンクリートの地面にダイブした。
「酷いじゃないですか!和樹さん!!病気が治ったのなら何で会いにきてくれないんですか!?…ッハ!?もしかして和樹さん、まだうつるかもしれないって気を使ってくれたんですか!!もぉ〜私たちは夫婦なんですから気にしなくてもいいんですよぉ〜」
怒鳴り出したと思えば、今度は悶えだす和樹たちは変な物を見るような目で見つつ、距離をおく。
「ヤッホー!か〜ずき♪体治ったのね」
玖里子が和樹の肩をポンと叩く。
「おかげさまでこの通りです」
「玖里子さんがアレをおさえるのに協力してくれたおかげですよ」
悶えている夕菜を指差して神代が言う。
「のんびりしていると再起動してしまいます。さっさと行きましょう」
「あれ?澟ちゃん、いつからそこにいたの?」
―――――――――――――――――――
「……やはり、あれは和樹か…」
「あ?ディステル、なんか言ったか?」
背の高い、金髪の女性ディステルの漏らした言葉に隣にいた陰気な感じのする男ヴィペールが反応した。
「今回のミッションはかなり危険だな」
「何言ってやがる。あんなガキどものどこが危険なんだよ」
突っかかってくる男を無視してディステルは和樹たちの監視を続ける。
(望んだような再会はできそうにない…か)
「おい!何か言えよ!!」
「黙れ…」
「うわちゃぁぁ!!」
頭に火がつき転げ回る男を睨み再び監視に戻る。
(それにしても、あの女どもはなんだ!?)
冷静、冷徹で知られる彼女の目には嫉妬という名の炎が燃えていた。
―――――――――――――――――――
チャイムが鳴っても担任は現れず、暇を持て余していた和樹が昼寝の体勢に入ろうとしていた。
「弟子に「却下」……」
「沙弓、あんたいい加減諦めなさいよ。兄さんはあんたのことを思って言ってくれてるんだから」
すでに習慣とかしたような沙弓の弟子志願を和樹が断る風景がそこにあった。
「そうだ。兄さん、今度の日曜日空いてる?抽選でチケットを手に入れたんだけど『大ドイツ展』いかない?」
「和美、その抽選って雑誌の最大10人の団体チケットだよな?」
顎に手を当てて思案しつつ聞く。
「え?そうだけど、それがどうかしたの?」
「今度の日曜にクロードがこっちに来るんだよ。だから久しぶりに兄弟で行こうかなと思ってさ」
(ゲッ!あのバカ弟がくるの!?ふざけんじゃないわよ!!でも、団体チケットだって言っちゃったしぃ。私のバカ!!!)
脳内でうっかり和美が和樹LOVE和美にぶん殴られた。
「ねぇ、和美。それ私も参加していい?」
救いの言葉がすぐ隣からかけられた。
(沙弓=聖闘士志願者、クロード=聖闘士……沙弓にクロードを任せればよし!!)
「ええ!いいわよ!全然問題ないわ!!」
和美は読み違えていた沙弓は和樹だから弟子志願していたのだということを…
「ダメです!!和樹さんは私と二人っきりで『大ドイツ展』に行くんです!菫さんからペアチケットをもらったんです!!」
いつの間にかやってきた夕菜が乱入してくる。
「何言ってんのよ!なんでアンタみたいな破壊魔、兄さんが一緒に行くわけないでしょ!!」
和美と夕菜の手に精霊の光が集まりだす。
「二人ともほどほどになぁ」
そそくさと退避した和樹が一応注意するが恐らく聞こえてはいないだろう。
――――――――――――――――――――
和樹はちょうど校門を出ようとしていた。もちろん帰るためである。ただ珍しく一人で。
普段は千早や神代の部活が終わるまでお気に入りの場所で昼寝にいそしんだり、保健室で紅尉の危険な視線を感じつつ、任された財閥の仕事をこなしたりしているのだが、今日はなんとなく一人で帰ろうと思った。
(なんか懐かしいにおいを感じたんだよなぁ)
そんなことを考えながら歩いているとすぐ隣にある車道を外車が通り過ぎた。その瞬間、視界が暗転した。同時に肺から空気を奪われる不快感を感じた。
「ッ!」
(真空化魔法!?)
反射的に小宇宙を高め、魔法を打ち消す。
和樹を捕まえるために車から降りた数人の男の手から逃れる。
「ハァハァ…」
和樹と男たちの間に距離が生まれるのを待っていたかのように火球が放たれ爆発した。男たちは慌てて車に乗り込んで去っていく。普段の和樹なら身体能力を駆使して追跡するところだが、失われた酸素を求める体が言う事を利かず断念した。
「あーらら、いっちゃったか。メルゼデスの280SEクーペなんて、また渋い車を使ってんな」
「…伊庭先生」
「よっ」
今日赴任した新しい担任の伊庭かおりがいた。
―――――――――――――――――――――――
「勝手なことを!いったいどう言うつもりだ!」
室内にディステルの怒声が響く。蒼い双眸が怒りに満ちている。
「いいじゃねぇかよ。タイミングが良かったから、やっちまおうと思っただけだ。捕まえたらトランクにでも投げ込んで、サンフランシスコに送っちまえばいい。あとは仲間がやってくれる」
「相手はあのグラード財閥の御曹司だぞ、下手な真似をすれば我々は一網打尽だ」
「だけどね」
黙って聞いていた小柄な女性が口を開いた。
「ヴィペールの言うことも間違ってはいないわ。たまたま失敗しただけよ。成功していたら問題なしじゃない」
「いや、どう転んでも失敗していた。例の連中の力を借りなければ成功する事はない」
(貴様らは知らないのだ和樹には小宇宙がある)
―――――――――――――――――――――――
『大ドイツ展』のゲート前に山瀬姉妹、和美、玖里子、凜、沙弓、夕菜、かおりがいた。
「なんで、伊庭先生までいるんですか?」
「式森に誘われた」
睨んで言う夕菜の視線を受け流しつつかおりが短く答える。
「それにしても和樹おそいわね」
「クロード君を迎えに行ってそれから荷物を星の子学園に置いてから来るって言っていましたよ」
「ついでにクロードっていうのは腹違いの弟」
玖里子の言葉に千早と和美が応える。
「悪い遅くなった」
「はじめまして、クロード・式森です」(ギリシア語)
和樹と緑がかった黒髪の美少年が現れた。
「「「「え?」」」」
「おい、式森、あいつなんて言ったんだ?」
「『はじめまして、クロード・式森です』だそうです」
「コラ!クロード、あんたは日本語しゃべれるんだから日本語しゃべりなさいよ」
和美がしかるとあらためて初対面のメンバーの方を向いて挨拶する。
「はじめまして、クロード・式森です。兄と姉がお世話になってます」
「風椿 玖里子よ」
「神城 凜です」
「杜崎 沙弓」
「伊庭 かおりだ」
「宮間 夕菜です。私のことはお義姉さんと呼んでください」
それぞれ簡単な自己紹介を済ませる。最後の一人の言った戯言などには耳を貸さず、和美の前に立つ。
「やぁ、姉さん久しぶりだね。前にも増して腹黒そうになったじゃないか」(ギリシア語)
「久しぶりねクロード。もうとっくに任務で死んだとばかり思っていたわ」(こちらもギリシア語)
「「……」」
その場にいたもの(和樹以外)の目に和美とクロードのバックに龍と虎の影を見た気がした。
「ねぇ、和美ちゃんってクロード君と仲悪いの?」
「ええ、二人とも極度のブラコンですから」
「私たちなんて今だに嫌われてるし…」
ブラコンのクロードにとって従者とはいえ、和樹と同じ宮で生活している姉妹が羨ましくて仕方が無いのだ。
和樹を先頭にゲートをくぐる。中に入ってすぐ和樹と玖里子がパンフレットを買い、全員でのぞき込みながら、どこに行くか検討を始めた。
「私、このドイツ王室の秘宝がいいです」
「私も」
と夕菜&和美。
「刀剣・防具一覧もなかなか」
「僕もそこを見てみたいな」
と凜&クロード。
「この帆船のエリア面白そう」
「あ、近くにドイツの有名なお菓子店がある」
と千早&神代。
「式森君はどこがいいの?」
「みんなに任せるよ。俺が期待していたコーナーないし」
「期待していたコーナー?」
「神話コーナー」
「さすがにそれはないと思う」
「和樹って神話好きだもんね」
「へぇ〜、式森君にはそんな趣味があったの」
行き先を決めるのを任せた和樹、沙弓、玖里子。
「端から見てけばいいじゃん。いくらたくさんあるっていっても、帰るまでには全部見終わるだろ」
お互いに譲らず、いつまでも口論していそうなのを見てかおりが言う。
「伊庭先生、そのメガネは?」
「美青年対策」
「はあ?」(一同)
―――――――――――――――――――――――――
秘宝エリアでは終始目を輝かせ、ときおり「結婚指輪にいいかも」といって手を伸ばそうとする夕菜と、いくつかが偽者と気づいて係員を呼びつける和美がいた。
帆船エリアは「乗れないのかなぁ」という神代と菓子屋でドイツ展限定のお菓子を食べることができてご機嫌の千早がいた。
そして今は武器エリアにきている。
クロードは自分が使っているからか、弓矢の飾られているのをじっと見ている。
「どうだ。使いやすそうなのはあったか?」
「う〜ん、やっぱり自分のが一番かな」
「そっか……(ここからギリシア語)最近の聖地の様子は?」
「みんなは指令で忙しい。ここ最近各地で伝説のバケモノが多発しているよ」(ギリシア語)
「近々、俺も戻る」(ギリシア語)
「わかった」(ギリシア語)
クロードから離れると熱心に見ている凜の隣に立つ。
「気に入ったのはあった?」
「私は日本刀が一番です」
「自分のだれでも一番か…」
「え?」
「独り言だよ」
和樹の方を見た凜に微笑んでみせる。彼女の顔が真っ赤になったがとくに気にしなかった。
ふと気配を感じて顔を上げた少し離れたところに、長身で金髪の女性が見えた。
(ディステル?あの懐かしいにおいは彼女か?)
二人の視線が重なった。和樹はさっき凜にしたように微笑んだ。ディステルの顔に赤みがさす。
(怒ったかな?)
「和樹さん、どうしたんですか?」
「え?知り合いを見かけた気がしたんだけど、」
もう一度ディステルがいたほうを見るが、見当たらない。
「気のせいだったみたいだ」
「そろそろお昼にしないかってみんな行ってますよ」
「わかった」
―――――――――――――――――――
会場内にもうけられたカフェで昼食をとっていると夕菜がいないことに気づいた。
「あれ、宮間さんは?」
「さっきトイレに行きましたよ。千早さん気づかなかったのですか?」
「うん」
千早と凜がそんなことを話していると、隣にいた和樹とクロードが立ち上がった。
「微弱だから無視していたけど…」
「無視できなくなったな」
「どうした?お前たち」
かおりが不思議そうに聞くと二人は申し合わせたように同時に口を開いた。
「「敵がきた」」
あとがき
お久しぶりです、アーレスです。
ノー・ガール・ノー・クライ編です。
ここの夕菜がさらわれても和樹たちは心配しなさそうだったので、必死に考えました。
それではまた………君は小宇宙を感じたことがあるか!?
レス返し
>皇 翠輝さん
後々のためやったんですが、自分でもそう思ってしまいました。
>D,さん
封印した理由は次回あたりで、
>ななしさん
すみません。
>六彦さん
貴鬼の努力と聖闘士たちの血です。
>御気さん
クロード君は和樹と同じ式森、その他のメンバーは徐々に明かしていこうと思っております。