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!警告!インモラル、バイオレンス、壊れキャラ、男女の絡み有り
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「剣の魔法使い〜第四話・後編(まぶらほ)」

ラフェロウ (2005-10-15 21:39)
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―――――カッコーーンッ――――――――――

風流な日本庭園にししおどしの音が響く。

チョロチョロと流れる水のせせらぎが微かに聞こえ、なんとも心地よい気持ちにさせてくれるだろうこの屋敷は今――


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


無言で睨み合う二人の爺さんの発するオーラに蝕まれ、居心地が悪くて堪らなかった。

二人の間には暗雲が渦巻き、目線の間で何度もスパークが起きている。

その二人の後ろにはそれぞれ護衛であろう女性が二人ずつ座っているが、その表情は硬い。

その原因は、中央で睨みあう二人の爺さんである事は一目瞭然。

「・・・・・・・・・・・・・・神城の。お前ぇ、家の坊に手ぇ出したそうだな?」

長髪でゴツイ爺さんがそう口を開いた。

190を超える身長と、ムキムキのマッシブな肉体。真っ黒な長髪で前髪もオールバック状になっている。

口髭も長いが手入れをしてあるのかツヤツヤしている。まぁどうでも良いが。

「・・・・・・・・・・・・・・・何のことじゃ杜崎の。意味が分からんがもうボケたかの?」

それに返すのは坊主頭の小柄な爺さん。

だがその肉体は細身ながら年を感じさせない見事なモノで、足腰もまったく曲がっていない。

二人とも一応今年で60代後半なのだが、全然そうは見えないあたり怖ろしい。

長髪の老人、名を杜崎 重蔵。杜崎家現当主にして沙弓のお祖父ちゃん。

対する小柄な老人、名を神城 厳禄。神城家現当主。自称凛のお祖父ちゃん。

どちらも九州に本家を持つ、名家にして退魔の一族。

その仲の悪さはその手の業界ではかなり有名。

で、その退魔の当主二人が対面しているのは神城家本家の奥座敷。

杜崎家にしてみればライバルの総本山だが、ここは神城本家の人間が住まう家であり、道場などは別にある為邪魔は少ない。

で、杜崎家当主がライバルである神城家を直接尋ねたのだ、当然その訪問理由はかなりの重要な話なのだが。

「とぼけるんじゃねぇ。お前ぇん所の娘、凛だったか?あれが家の坊に斬りかかったそうじゃねぇか?」

威圧感バリバリの、ちょっと893さん的雰囲気の重蔵。

その睨みに睨みで返す厳禄。

「知らんな。凛は今東京じゃから、そっちのボケ・・・もとい勘違いじゃろ?」

バチバチと会話の中でも視線が火花を散らしている。

同席している女性達の胃がキリキリ鳴っている可能性もある。

「その東京に居る坊がお前ぇの所の娘に襲われたんじゃい。孫の沙弓がこっち来て説明したんじゃ、間違いない。」

「ほぅ?当主の孫娘がわざわざなぁ・・・。だが、凛は婿に会いに行っただけじゃ、そんな事にはなっとらんぞ?」

ギスギスした空気がさらに重くなる。

重蔵の額にも、厳禄の頭にも青筋が浮び、ピクピクしている。

「家の坊・・・あぁ、名前は和坊ってんだが、その坊がいきなり斬られかかったそうだ。そん時相手は良人だの自由だの言ってたらしいがの。」

重蔵の言葉に、厳禄の眉がピクッと跳ねた。

「杜崎の。その坊主の名前なんて言うんじゃ・・・?」

「あん?名前か、式森和樹だ。と言っても、数年後には杜崎和樹になっとるじゃろうがな。」

そう言ってガッハッハッと豪快に笑う重蔵。

「なんじゃと?どういうことじゃ、なぜ杜崎と式森が関係しているっ?」

目を見開く厳禄。凛の良人候補の式森和樹が、ライバルである杜崎家と繋がっているなんて初耳なのだ。

「はんっ、そんなん決まっとるだろ。孫の沙弓が坊と幼馴染での。何度も家に来たことがあるんじゃ。いやぁ、坊はいい男だぞ?何せ吾相手に怯まずに居るくらいだ。あの度胸には驚いたっ」

当時の事を思い出して楽しそうに笑う重蔵。

和樹と沙弓は小学校からの付き合いで、千早を間に挟んだ関係であったが、直に沙弓と和樹も仲良くなり、彼女は二人を本家である杜崎家に泊まりで招待することも多かった。

そして、寡黙な沙弓が男(小学生だが)を連れてきたと本家で騒ぎになり、それを聞きつけた重蔵が孫の連れてきた相手がどんなか品定めする為に殺気全開で和樹に会いに言ったのだが、和樹はその殺気をモノともせずに礼儀正しく挨拶した。

その度胸と見た目、そして沙弓の信頼の度合いを見て重蔵は和樹を甚く気に入り、もう孫のように可愛がっていた。

毎年夏休みや冬休みに、沙弓に言って和樹を連れて来させたりしていた。

さらに和樹は剣技に関しては抜きん出た実力を持っていたため、本家でもあっと言う間に知れ渡り人気者になっていた。

杜崎家の女性陣の間では、彼のトレカが大人気だとか。広めたのは沙弓と千早。

前から男の孫が欲しかった重蔵が彼を本当の孫扱いするようになったのは会ってから一年経たずの事で、何と和樹達の中学入学式にわざわざ参列して沙弓と千早、そして和樹にエールを送っていたのは和樹達三人の恥かしい過去である。

もしも住んでいる場所が近かったら父兄参観や運動会にも出てきていただろう。

しかも堂々と沙弓と和樹の祖父と名乗って。

兎に角、重蔵にとって和樹はマジで可愛い孫的存在であり、沙弓の婿なのだ(彼の中では既に決定事項)。

で、そんな大切な孫がライバルである神城の娘に襲われたと知れば、孫馬鹿一代な重蔵が黙っているはずも無く、こうしてわざわざ神城家本家まで殴りこんできたのだ。

本当なら知った直後に殴りこみをかけようとしたのだが、事が事なだけに正式な会談としないと拙いと周りが判断してこの日の会談と相成った。

なお、激昂する重蔵を止める為に数名の杜崎家の人間が病院送りになったのは余談である。

「ほう、目敏いな杜崎の。式森の血を狙って早々に孫を送り込むとはの。」

皮肉を込めた言葉を返す厳禄。

「はん、お前ぇの所と一緒にするない。吾は血なんてどうでも良いんじゃ。単純に和坊が欲しいだけだ。」

その言葉に、お付の女性二人がうんうんと頷く。

この二人、杜崎家お庭番の者で、MKFの会員でもある。

因みにMKFとは「杜崎家(M)和樹(K)ファンクラブ(F)」の略である。

会員数は本家と分家の約2/3に上り、なんと男性も会員に入っている。

まぁ単純に和樹の強さに惚れてなのだろう。その筈だ。彼が杜崎家に遊びに行くとケツに視線を感じるのは気のせいだ。

「なんじゃと?式森の血なぞどうでも良いと抜かすかっ」

「そうだ。そんな物無くっても坊には価値があるからのぅ。」

「馬鹿な、報告では運動も勉強も駄目な落ちこぼれと聞くぞっ!」

「上辺だけしか知らん人間は皆そう答える。あの坊の実力は、分かる人間にしか分からんよ。」

厳禄の言葉を鼻で笑う重蔵。

それに対して米神をピクピク痙攣させる厳禄。

「まぁ、お前ぇの所が何しようが、坊は家の沙弓と結婚するから無駄じゃい。なんせ沙弓は吾自慢の孫じゃしのっ」

ガッハッハッと豪快に笑う重蔵。

「はっ、あんなノッポなだけの娘の何処が良いんじゃ。」

「・・・・・あんじゃと?」

厳禄の言葉にギロリと睨む重蔵。

それに睨み返す厳禄。

「あんなデカイだけの娘より、家の凛の方が数倍良いに決まっとる。なんせ小柄で愛らしいからのぉ・・・。」

脳裏に孫(直接ではない)の凛の姿を思い浮かべて幸せそうな表情になる厳禄。神城家の当主がただの孫馬鹿爺さんに見える。

「けっ、胸無しぺチャパイ娘が男を満足させられるかい。その点沙弓はボンッ!キュッ!ボンッ!じゃからの、なんの心配もないわ。」

「抜かせ、時代はプチなんじゃ、しかも凛は常時巫女服じゃからポイントアップじゃなっ」

「そっちこそ、そんな見てくれでしか男釣れんのか?沙弓は時代の最先端のツンデレじゃい!」

和樹襲撃事件から一転、ただの孫自慢になってきている。

実はこれ、この二人が会談すると必ず起きる現象で、互いに孫の魅力を語り続ける。

しかもいつ撮ったのか分からない写真まで持ち出して自慢する。手に負えない孫馬鹿である。

やがてヒートアップすると相手の顔に唾掛け捲りながら舌戦を繰り広げ、決着がつかないとそのまま道場での激闘に移行してしまう。

そしてその様子を、お付の人達が呆れて見ているのが両家会談の様子である。

「で、これが和樹様の・・・・。」

「きゃ〜、凛々しい〜っ」

「ねぇねぇ、これは?」

「あぁ、それは三年前の写真で・・・。」

で、お庭番の女性達も和樹の写真を取り出して神城のお庭番に見せていたり。

しかもさり気無くお風呂などの盗撮写真が紛れているあたり怖ろしい。と言うか仕事しろよあんた等。


何百年も仲の悪い両家だが、トップ達の関係はただの喧嘩友達だったりした。


剣の魔法使い〜第四話後編〜「激闘!剣魔 対 人狼」


「むっきゅっ、むっきゅっ、むきゅむきゅ〜♪」

「こらキュア、歌いながらポ〇キー食うな。俺の頭にカスが落ちるだろ。」

「むきゅ〜。」

時刻は夕暮れ。本日も何とか無事に学生のお勤めを終えた和樹が、頭にペットのキュアを乗せて家路へと足を進めていた。

キュアは片手に裕子から貰ったポッ〇ーの新作『ビター&ビネガー』を食べていた。・・・美味いのか?

「やれやれ、どうにか体力が戻ってきたな。」

一週間前に食した凛の殺人弁当の威力によってこの一週間フラフラだった和樹。

たぶん一般人なら死んでたかもしれないその威力に、さしもの和樹も体力が根こそぎ奪われていた。

お陰で某マッドに捕まりそうになるわ、その妹に襲われるわ、玖里子に襲われるわと大変だった。

まぁ、その殆どを護衛を申し出た凛のお陰で助かったのだが。

なお、そんな光景を見て当然夕菜が嫉妬、凛との激しいバトルになったのは言うまでも無い。

「まったく、なんで普通の食材で三途の川が見えるような料理ができるんだ。つーか料理じゃねぇし。」

「むきゅ?」

「凛の手料理だよ。お前も死んでも食うなよ?下手すると進化するぞ。」

生物に劇的変化を与えるほどの料理なのか?

まぁそれはさて置き。

本日は恋人達が皆用事(B組男子制裁)の為に出払っているため、一人(と一匹)でトボトボと寂しく帰宅する和樹。

本日の制裁理由は、弱っている和樹を血祭りに上げようとした愚か者達を滅する事。

遠くの方で聞きなれたクラスメイトの悲鳴が上がったが、和樹には聞こえなかった。事にした。つまり無視。

普段なら二人、最低でも一人は恋人達が居てそりゃぁもうイチャイチャとして帰るものである。

偶に相手に連れられて物陰や草むらに押し倒されたりするが。逆も然り。

「むきゅ?むきゅむきゅっ」

「あん?どうしたキュア?」

キュアが何かに気付いて和樹の頭をペシペシと叩いた。

そんな毛玉が右手に持った食いかけの〇ッキーで示す先には、巫女服型袴姿の少女が一人。

刀を抱え、キョロキョロと油断無く・・・と言うか殺気だって周りを見る仕草は正しく怪しい人。と言うか挙動不審だ。

「どうした神城、これから辻斬りか?」

「っ!?――って、なんだ式森か・・・・・ってどういう意味だそれはっ!?」

話しかけられ驚く凛だが、その後相手が和樹だと分かり安心――しかけて和樹の軽いジャブに激しく反応する。

本当に弄り斐のある少女だ。

「いや、傍から見てかなり怪しいぞお前?どうした、何かあったのか?」

「いや・・・それが・・・。」

お弁当事件以来態度が割と軟化した凛に合わせて態度を変え始めた和樹。

そんな和樹の言葉に口篭る凛。キュアは相変わらずポリポリとお菓子食ってる。

「そう言えば式森、確か剣術の心得があるのだったな?」

「あん?いや、まぁ、それなりだが・・・。」

突然縋るように見上げてくる凛にちょっと引く和樹。

確かに和樹の剣の腕前はかなりの物だが、彼は正確には剣の担い手であり、使い手ではない。

故に剣の腕前はどれほど努力しても二流止まりなのだ。

彼が完全に使える剣はただ一振り。しかし、その剣は未だ彼の剣ではない。

「謙遜せずとも良い、考えてみれば私の刀を何度も易々と避け、あの時も私が気付かずに攻撃を受けていたのだ。」

凛の言うのは、彼女が和樹の命を狙って襲撃してきた時の事だろう。

「そこで相談があるのだ。実は今私は―――」

凛が事情を話そうと口を開いたのと同時に、和樹は首筋にチリチリとした感覚を受けた。

そして、自分達を見ている視線にも気付いた。

―――後方・木の上・敵意あり―――

そしてその気配の主に視線を向けようとした瞬間、気配が動いた。

「――――ちぃッ!!」

――速いッ

和樹達が迎撃体勢を取る前に間合いまで接近された。

攻撃対象は・・・凛。

それを感じ取った和樹は素早く庫から剣――小回りの利く短刀を取り出して迎え撃つ。

「疾―――ッ」

「ッ!?」

凛を狙って進む襲撃者の顔面を薙ぐ一撃。だが――。

「なにっ!?」

襲撃者はそれを人とは思えないスピードで屈んで避け、凛へと肉薄する。

漸く事を察した凛が迎撃に移るが遅い。

刀を抜刀する直前で顔面に鋭い一撃が迫る。

―――――ガキィッ!!――――

少しだけ抜刀できた刃で相手の一撃を受けるものの、その反動で下がらせられる。

そして無防備な腹に放たれる一撃。

「かはっ!?」

鳩尾をやられたのか息を吐かされる凛。

そのまま追撃を仕掛けようとする襲撃者。

だが、その追撃はされることは無かった。

「うらぁッ!!」

「――ッ」

横合いから放たれる二つの斬撃。

上下同時に迫るそれを、またも常識外れのスピードで避ける襲撃者。

そのまま距離を取るようにして下がっていく。

「大丈夫か神城!?」

「げほげほっ、・・・ああ、峰打ちのようだ・・・。だが、しつこいぞ駿司っ!!」

叫ぶ凛。その相手は無論襲撃者である。

「まだまだだね、凛。」

「くっ」

柔和な笑顔の青年、二十歳前後で背が高め、長髪を後ろで束ねているのが特徴的。

そんな青年に悔しそうな顔を向ける凛ちゃん。

「それに、式森君だったかな?」

「貴様は――――」

名前を呼ばれて向き直る和樹。

それでも得体の知れない襲撃者相手に直には警戒を解かないのか、両手に湾曲したナイフを持っている。

「僕は神城駿――「ストーカーだなッ!?」――え?」

相手の台詞を遮って叫ぶ和樹君。青年呆然。

そりゃナイフ突き付けられてストーカー呼ばわりである。呆然ともするさ。

「そうなんだろ神城、あいつストーカーなんだな!?しかも今襲われたし!よし、俺が証人になってやるから今すぐ警察行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれるかな式森君っ!?」

「なんだストーカー。文句があるなら警察の人に言え。」

どうやら和樹の中では凛が襲われた→しかも凛はしつこいと言った→よってストーカー。と言う、凄い理論が成り立っていた。

と言うかこじ付けもいい所だ。無理矢理過ぎる。

「だ、だから、僕はストーカーじゃないんだって!!」

「と言ってるがどうなんだ神城?」

「えっ?」

突然話を振られて焦る凛。

和樹を見れば目線で「大丈夫だ、俺が助けてやる」と訴えててちょっとトキメキ。

青年を見れば「凛、お兄ちゃんを助けて、誤解を解いてくれ」と訴えててかなり萎え萎え。

どうやら青年はストーカー扱いだけは嫌なようだ。

「あ〜・・・その・・・赤の他人です。」

凛っ!?

「・・・・えぇい、冗談だ。一応私の剣の師なんだ、あいつは。」

「なんだ、知り合いか。そうならそうと言えよなストーカー(偽)。」

「君が言わせなかったんじゃないかっ!それになんだいストーカー(偽)ってっ。僕は神城駿司、凛の保護者だよ。」

何とか冷静になるように勤めつつ、自己紹介を済ます駿司。

「ふ〜ん。」

それに対して興味無さげな和樹。

ストーカーじゃなかったのが残念なようだ。

「誰が保護者だ、このサディストが。私は絶対に戻らないぞっ!」

「でも僕は本家から命じられての事だから、はいそうですか、じゃ帰れないんだよ。」

どうも話を統合すると、彼は神城本家から凛を連れ戻しに来ていて、しかも凛の剣の師で保護者。

で、凛はそれを拒否している。となるようだ。

「ところで式森君、面白い武器を使うんだね?と言うか何処から出したんだい、それ?」

駿司が指差すのは、未だ和樹が両手に持つナイフ。

グルカナイフ。

敵兵はおろか味方さえも恐怖の淵に陥れた鬼神の兵士、グルカ兵。

その兵士達が持っていた愛刀。それが和樹が両手に握るナイフ。

その見た目もさることながら、一番の特徴はその湾曲ゆえに間合を誤魔化す能力。

さらに、厚い刃は筋肉はおろか骨すら切断すると言われている実用性の高い得物である。

因みに駿司の疑問は、最初凛に襲い掛かった時は小太刀のような武器を右手で使っていたのに、その数秒後には両手にグルカナイフを持っていた事を指している。

最初の時は和樹は背を向けていたので懐などから出したのかもしれない。

だが、二本のグルカナイフがどう考えても和樹の懐から出せる大きさではないと思える。

一本が約50cm。それが二本。あと小太刀みたいなのが一本。まるで手品である。

「最近手に入れたモノでね。しかも実際に兵士が使ってた本物だ。見た目以上に厄介だぜ?」

そう言って和樹は駿司の服の袖をナイフで示す。

「――ッ・・・・驚いたね、完璧に避けたと思ったのに。」

駿司の服の袖が二箇所切れていた。

「担い手を名乗ってるんでね。これくらい出来なきゃナイフに悪い。」

「なるほど・・・ここ一週間見ていて大した事無いと思ってたけど・・・能ある鷹は爪隠す・・・かな?」

「いや、神城の料理食っただけだ。」

「しっ、式森っ!」

和樹の言葉に凛が真っ赤になる。

が、対する駿司は真っ青だった。

「し、式森君・・・き、君・・・た、食べたのかい・・・凛の料理を・・・っ」

「ああ、食べた。食べ尽くしたさ。口が異質な感触に蹂躙され、食道が荒され、胃が溶ける感覚を味わったがな。」

思い出したのか顔が青い和樹。そんな和樹を尊敬の眼差しで見る駿司。

「凄いよ式森君・・・本家でも凛の料理を食べられたのは僕と当主様だけなのに・・・感動したよっ。」

「ふふっ、あんたも凄いな・・・。」

なんか解り合っちゃってる二人。

そんな二人の解り合う理由にされた凛は怒っていいやら嘆いていいやらでプチ凹み中。orzな感じで。

「むきゅむきゅ。」

そんな凛を慰めるキュア。右手に持ったポッキ〇を差し出している。

「うぅ、ありがとうキュアさん。おのれ式森に駿司め・・・そんなに言うなら後で特製の弁当作ってやる・・・ッ」

なんか物騒な事を呟く凛ちゃん。また寮の調理場が破壊されてしまう危険性&和樹達の命の危機。

「で、話は戻るけど、凛。彼を婿にするんじゃなかったの?」

「う、煩いっ!式森なんぞを婿にするなんて・・・そんな・・・でも・・・あ、いや、違うっ。兎に角違うのだっ!!」

何やら真っ赤になって叫ぶ凛ちゃん。若干駿司の和樹を見る目が怖くなった。

「じゃぁ、婿の話はお流れだね。それなら本家に戻って修行したほうが良い。さぁ帰るよ凛。」

「い、嫌だ、私は帰らないぞっ!」

「我侭言わない。」

「嫌だ、絶対に嫌だっ!!」

傍から見ると家出した妹を連れ戻そうとする兄に見えなくもない。

実際そんな関係だろうし。

「わ、私を連れ戻したいなら・・・式森に勝ってからにしろっ!!

「何故にっ!?」

ぐいっと引っ張られて間に入らされる和樹。

そして和樹の後ろに隠れて駿司を睨む凛。

そんな光景にまた若干和樹を見る目が怖くなる駿司。

「おいこら神城っ、なんで俺を引っ張り出すっ!?」

「煩い、可愛い後輩の危機だ、助けろ、男だろっ!」

「可愛い後輩なら会った瞬間殺そうとはしないだろっ!」

「えぇい昔の事をグチグチと・・・だったらまた私の愛情弁当を食わせてやるからっ!」

「そっちの方が俺にとっちゃ地獄なんですけどねぇっ!?」

ギャァギャァと言い争う二人。

間に入れない駿司。

そんな駿司にパタパタと飛んで(浮いて?)お菓子を差し出すキュア。

その目は「まぁこれでも食って待ってろ」と語っていた。

「あ、どうも。・・・ぶほっ!?

渡されたお菓子を食べて噴出す駿司。

キュアが渡したのはポッキー新作『ビター&ビネガー』。しかもワインビネガーとかデザートビネガーではなく、ただの酢。

普通にキッツい味である。よく食えるなキュア。

「兎に角、私は帰らないからなっ!!」

舌戦を一時中断して駿司に向き直る凛。

「そうか・・・なら、一週間後に僕対凛と式森君で試合をして、勝ったら葵学園に残ってもいいよ。」

「一週間後だな・・・望むところだ!!」

「ちょ、俺の意志は!?ねぇっ!?」

和樹の言葉に答えずに、駿司は場所と時間を指定して人間離れした脚力で去っていった。

「あの脚力に反射速度・・・ライカンスロープ(獣人)、それも人狼かぁ?滅茶苦茶強敵じゃねぇか・・・。」

「す、すまない式森。だがああしないと私は・・・。」

「あ〜もうっ、分かったよ。協力すりゃ良いんだろ?まったく、何で俺まで・・・。」

ブツブツと文句を言いつつも、キュアを再び頭に乗せて寮へと足を向ける和樹。

そんな和樹を見つめる凛。

「おい、どうした?早く帰って、とりあえず作戦会議するぞ。」

「わ、分かった。」

二人は夕暮れの帰り道を、珍しく仲良く帰った。


次の日から、対駿司戦に向けての特訓に入る二人。

と言っても一週間では出来ることが限られるため、凛は対人戦闘訓練。

和樹は凛の手料理によってボロボロになった身体を回復する事に努めた。

訓練場所は、面白そうだと言う理由で首を突っ込んできた玖里子が提供。

和樹は凄く嫌だが精密検査などを保健室で行ったりした(なんで保健室で精密検査できるかと聞かれれば、そこにマッドが居るから)。

「ほらほら、ガードが下がってるわよ。」

「くっ、分かっているっ!!」

落ちた体力を回復するためにリハビリしている和樹の視線の先では、魔具を装備した沙弓が凛と戦っていた。

何故仲の悪い沙弓と凛が一緒に居るのかと言うと、和樹達が知る中で一番格闘能力が高いのが沙弓だったから。

そこで和樹と凛は沙弓に頼みに行き、沙弓は相手が凛なので嫌がったが和樹の精魂込めた(色々な意味で)説得で了承。

説得した日の夜に、彼女の部屋から甘い声がしていたり、ギシギシと軋む音がしていたり、次の日沙弓の腰が重そうだったり、それなのに肌が艶々していたりしたのは・・・まぁ和樹が頑張ったからという事で。

で、現在トレーナーとして凛を指導している。

沙弓は身長も駿司と似たようなものだし、彼女のスタイルもヒット&ウェイが多い。その為相手にはもってこいなのだ。

で、和樹はどんなリハビリをしているのかと聞かれれば、筋肉トレーニング主体のモノである。

なにせ凛の手料理で一週間半寝たきり(学校でも殆ど寝てた)だったため、体力がガタ落ちなのだ。

まぁ、化物じみた体力と回復力を持つ和樹だったからこそこの程度だったのだ。

物は試しと和美が凛の料理(作っている時に少量を盗んでた)を仲丸達にお仕置きとして食わせてみたところ、仲丸達は未だ体調不良。

不死身耐性の無かった連中はまだ病院である。

もうなんか、某戦艦の殺人シェフ三人すら一人で超越してるっぽい凛ちゃん。

そんな料理を完食&試食してた和樹の胃袋は鋼鉄製かもしれない。もしくはミスリル?

思わず【胃袋は鉄で出来ている――胃液は硫酸で、歯はチタン――幾たびの料理を食して不敗――】なんてフレーズが浮んでしまう。

電波と思って聞き流して。

で、当の和樹君は

「244〜、245〜、246〜。」

未空にカウントをしてもらいながら腕立て伏せ。

で、その背中にはタオルと敷いて乗っている那穂。

体育座りで眠る彼女の腕の中には同じく眠っているキュア。

そんな一人と一匹を乗せてひたすら腕立てをする和樹。

既に玉のような汗が滴り、床に敷いたタオルに水溜りが出来ている。

そんな彼を囲むのは式森ハーレムの面々。

沙弓に頼みに言った時に事情を聞かれてこうして首を突っ込んでいるのだ。

愛する和樹を全面的にバックアップするべく、何か作ってるケイとか矢夜とか。

何やら計画を立てている和美とか一子とか来花とか。

玖里子が用意させた簡易キッチンで和樹達の為に精のつく料理を作っている千早とか紗苗とか夕菜とか。

そんな光景を眺めてお茶してる紫乃とか玖里子とか。

因みにここ、玖里子が用意したトレーニング場で、それなりの広さがあり、空調完備。

ミニ試合場が二つあり、その他諸々のトレーニング機材有り。

さらにシャワー・お風呂付きで、お風呂は30人が入れる大浴場。

かなり上等な場を提供してもらっている面々。

玖里子としては、和樹の実力が知りたいという理由もあるので快く貸してくれた。

因みに、現在この面々が泊り込みで合宿している。

日中は学校、朝と夜はここでトレーニング。それに皆付き合っているのだ。

玖里子や紫乃は仕事の都合で帰ったりするが、それ以外の面々はここに泊まって和樹達をサポートしている。

まぁ、寮に帰っても和樹が居なくて暇な連中が遊びに来ているようなものだが。

ただ、千早と夕菜、そして紗苗が居てくれるのは大変ありがたく、毎日の朝食・夕食に栄養を考えたトレーニングメニューを作ってくれる得点がある。

それ以外の面々も、色々とサポート(勉強とか)をしてくれるのでありがたい。

何せ能力だけなら葵学園一のB組女子の主力が集まっているのだ。駿司戦での作戦も考えていたりするが、ほとんど凛に却下されている。

流石に卑怯な手だけは使いたくないようだ。提案していた和美達はちょっとしょんぼり。

で、大分体力が戻ってきた和樹君。

最近ご無沙汰だった恋人達との時間も忘れない。

夕菜と凛が居ない間にコソコソと数名を物陰やシャワー室などに連れ込んで情事に突入している。

雪江と怜子をトレーニングマシンを使いながら抱いたと思えば、今度はシャワー室で涼と来花を。

お風呂場で一子と和美を抱いた後はトレイで裕子と未空を美味しく頂き、その後夜の建物の外でケイと矢夜を。

夜皆が寝静まった時に那穂を夜這いしてドキドキプレイ。

訓練と言って早朝から沙弓と物陰で。朝食と言いつつ千早を頂く。


鬼畜皇子 完 全 復 活 !!


なお、グッドタイミングで様子を見に来た紫乃が乱入したり、一応担任なので見に来たかおりを連れ込んだりした和樹。

もう夜の生活において心配事は無さそうだ。と言うか普通にエロいぞ和樹、羨ましい(←電波です)

で、トレーニング4日目の夜。

灯りが落ち、月明かりだけが射すトレーニング場の一角で抱き合う人影。

「ん・・・式森君・・・・。」

「紗苗・・・良いのか・・・?」

「・・・・うん、式森君に・・・・あげる・・・。」

月明かりでも真っ赤になっていると分かる顔で頷くのは、秋葉紗苗。

夕菜・凛達と同じく、和樹と肉体関係無しだった彼女だが、終にこの日深い関係へと発展するようだ。

再び唇を合わせ、抱き締めあう。

やがて和樹が舌を差し込むと、紗苗はビクッと身体を振るわせるが、徐々に和樹の舌を受け入れ、口内を優しく舐られてウットリとした顔を浮かべる。

やがて紗苗も舌を絡めたり、和樹の口内へと差し入れたりして濃厚なキスを交わす。

流し込まれた和樹の唾液を美味しそうに飲み下し、逆に自分の唾液を流し込んだり。

そんなキスを交わしている内に足にきたのか、紗苗の身体が震え、和樹に凭れ掛かってしまう。

「ぷはぁ・・・・式森・・・くぅん・・・・。」

熱に浮かされた顔の紗苗。その口からは唾液が橋となって繋がっていた。

「可愛いよ、紗苗。」

「・・・くぅん・・・やぁ・・・あふ・・・っ」

優しく横たえさせられ、身体を弄られる紗苗。

それに対して赤い顔でイヤイヤするのが余計に和樹を興奮させていると気付いていない。

紗苗の服を徐々に脱がし、半脱ぎ状態にして彼女の敏感な部分を責め立てる和樹。

次第に紗苗の口から甘い声が漏れ始め、同時に彼女の下半身から水気のある音が聞こえだす。

和樹は真っ赤になっている紗苗の反応を楽しむように胸を揉みくだしたり、乳首を摘んだり捏ね繰り回したり、口に含んだり。

それだけでもう甘い声を抑えられない紗苗。

「やっ、式森くん・・・・そこは・・・・ふぁっ」

終に和樹の顔が下半身まで到達してしまう。

紗苗の秘所に顔を埋めて唇と舌で丁寧に、壊れ物を扱うように舐めて解す和樹。

その光景を顔を覆った指の間から見て恥かしがる紗苗。

「やぁ・・・ダメっ・・・もう・・・もう・・・っ・・・くはぁぁっ・・・」

「・・・イッちゃった?」

ビクンビクンッと身体を数回痙攣させた紗苗の顔を覗き込む和樹。

紗苗は顔を赤くしながらも頷き、和樹の唇に自分の唇を合わせた。

「式森君・・・きて。」

「ああ。」

紗苗に誘われ、相棒を解放する和樹。

その大きさと形に一瞬驚く紗苗だが、直にそれに手を出して触りだした。

「熱い・・・それに硬い・・・あ、ここは柔らかい・・・これが入るんだ・・・・。」

「あぁ。・・・良いか?」

和樹の問いにこくんと頷き、身体をおずおずと開く紗苗。

狙いを定め、紗苗が辛くないようにゆっくりと挿入する。

「くっ・・・熱っ・・・・うぁ・・・痛・・・っ」

「大丈夫か?」

「・・・・だい・・・じょうぶっ・・・良いよ・・・このまま・・・っ」

気丈にも涙を浮かべながら続きを諭す紗苗。

何度やっても最初だけは苦手だと思いながら腰を進める和樹。

そして和樹のそれが紗苗の奥へと到達する。

「・・・・これで・・・私も・・っ・・・式森君の・・・モノっ」

「あぁ・・・もう放さないからな。」

「・・・・・うんっ」

やがて痛みが落ち着いた紗苗をゆっくりと優しく責め上げ、絶頂に導こうと奮闘する和樹。

そんな和樹の様子にさらに興奮して高まる紗苗。

数回体位を変更し、座位へとなった状態でキツク抱きつく紗苗。

「式森くんっ・・・私・・・私もう・・・っ・・・くふぅぅぅぅぅ・・・っ!!」

「くッ!」

ギュッと和樹へとしがみ付き、背中に爪痕を残してしまう紗苗。

そんな紗苗の頭と背中を抱き抱え、短く声を漏らす和樹。

二人の身体がビクンビクンッと数回震えた後、紗苗が脱力して和樹にしな垂れかかる。

「・・・式森くん・・・凄く・・・熱いよ・・・。」

どうやら中出しなようだ。本気で鬼畜な男め。

その後、脱力してしまって歩けない紗苗をお姫様抱っこで抱えてお風呂場へ。

そのお風呂場でも身体の洗いっこなどをしてイチャイチャして、濃厚なキスをかました回数すでに二桁。

そして平然と当然の如く和樹の部屋に戻り(女子は二部屋に分かれて寝ている。)、二人一緒の布団で朝を迎えた。

で、早朝から居なかった上に歩きが不自然な紗苗を和美達が怪しみ、その日の体育の時間に問い詰める事に。

色々な方法で尋問された紗苗は抵抗空しく陥落。決め手は雪江が見た和樹の背中の爪痕だったり。トレーニングウェアから着替える時に見られたっぽい。

で、その夜。

お風呂に入ろうとした和樹を出迎えた恋人達総勢14人。

彼女達の視線が肉食獣のそれであり、しかもまだハーレム参入を話していないはずの紗苗がそこに居る。

「あの・・・・・・・・・・・もしかして俺風呂間違えた?」

『Noー、Noー、Noーっ』

一応言っておくと女湯と男湯がちゃんとある。そしてここは男湯。

「あの・・・・・・・バレたのは良いとして、お仕置きですか?」

『Noー、Noー、Noーっ』

「あの・・・・・・・・・・まさか全員とですか?」

『Noー、Noー、Noーっ』

「まさか・・・・・・・・・・両方ですかっ!?」


『Yes!Yes!Yesッ!!』


全員が寸分の狂いもなく頷く。

お仕置き。それは和樹を玩具にしたりする行為。当然和樹に自由は無い。

イきたいのにイかせて貰えなかったり、入れたいのに入れさせてくれなかったり・・・etcetcな辛いんだかエロいんだか判らないお仕置き。

そして全員と。

そのまんま。全員と頑張ってすること。ぶっちゃけ15P。死に晒せ鬼畜め(←電波です)

で、鬼畜皇子な和樹君が拒む理由は簡単。疲れる。それだけ。

どんだけ化物なんだというツッコミも、鬼畜皇子には届かない。

この後和樹は風呂へと引きずり込まれ、全員参加の阿波踊りの刑(射精は禁止)に処されたり、全員の身体を和樹自身の身体で洗わされたり(射精して良いかは相手の許可による。大抵が許可してくれない)。

その後場所を移しながら全員との行為を続けさせられ、終わったのが夜中の3時となっている。

因みに夕菜はこの日は用事があって帰っており、凛は何故か朝まで眠っていた。たぶん犯人は料理に一服盛ったのだろう。

で、初参加となる紗苗は和樹と和美達に散々可愛がられ、翌朝立てなかったとか。

和樹が紗苗を抱いたことを言い出さなかったのは、単純にこれがあったから。

普段ならこの数倍のお仕置き等があるのだが、流石に決闘間近で体力と精神力をゴッソリ削ることは和美達もしない様だ。

和樹も紗苗との事は事が終わってから言うつもりであり、紗苗もその為に黙っていたのだ。

まぁ、和美達を欺き続けるなんてまず不可能に近いのだが。


ナニは兎も角、決闘の日と相成ったこの日。

決闘の会場と化した場所に立つは、神城の人狼こと神城駿司(凛が人狼だと言ってあるので皆知ってる)

それに対するは神城凛と式森和樹。

『L・O・V・E!ガンバレ和樹〜っ!!』

応援団多数。

「むっきゅっ、むっきゅっ、むきゅきゅ〜っ!!」

あと毛玉一匹。

「・・・・・・・・・どういう事かなこれは?

「「あ、あははははは・・・・。」」

爽やかな笑顔に青筋を浮かべている駿司。

その視線から目を逸らす二人。

一応正式な決闘が完全に見世物と化している。

玖里子に至っては撮影機材持ち込んで和樹達の活躍撮る気満々である。

あとエリザベートが面白そうだと見に来ている。

式森ハーレムのメンバーに至っては、全員がお揃いのチアガール衣装を着てポンポン持って応援中。

どうやらケイ達が作っていたのはこの衣装のようだ。

キュアも『和樹LOVE』と書かれた旗を両手に持ってパタパタと応援中。大変愛らしい。

因みに式森チアーズ(今命名)は、勝負の後にこの格好のままベッド戦闘へと突入するつもりらしい。

今夜はコスプレですか、ハーレムで。流石鬼畜。

で、戦いをお祭りのイベント感覚にされてしまった駿司、若干怒り気味。

そりゃ真面目に挑んだ戦いの相手がチアガール連れて現れたら怒りもするものだ。

「まぁ、君が女性にだらしない事は普段の君の行動を見ていれば分かるけど・・・少しは罪を感じないのかい?」

全然。

即答ッ!?

駿司の皮肉交じりの言葉を平然と返す和樹。それに突っ込むのは当然凛ちゃん。

「何よあの男、爽やかそうな顔して嫌味な奴。」

「式森くんを馬鹿にするなんて・・・神城駿司、いつか呪い殺すリストに追加・・・っ」

「式森君は私達を心から愛してくれているのだから、罪なんてあるわけないじゃない。」

駿司の台詞が聞こえた式森チアーズからブーブーとブーイングの嵐。

この時既に駿司に対する評価はB組男子達とほぼ同じ扱いにされてしまった。

哀れ駿司。

「・・・・・・・・・・・・。と、兎に角。この勝負に僕が勝ったら大人しく本家に帰ってきてもらうからね?」

「二言は無い。絶対に勝ってみせる!」

言外に、「協力してくれた式森の為にも!」と意気込んで、「あ、いや、別に感謝の気持ちであって他意は・・・っ」と一人で慌てている凛ちゃん。

そんな凛ちゃんの様子に和樹は?を浮かべ、駿司は笑顔に青筋を浮かべた。

流石凛のお兄ちゃん、彼女がどういう状況か理解したらしい。

「それじゃ、始めようか。」

「あぁ、さっさと終わらせて帰らせてもらう。――――神城?」

前に歩み出ようとして凛の腕に遮られる和樹。

「すまない式森。ここは、私一人に行かせてくれ。頼む。」

真っ直ぐな瞳で和樹を見つめる凛。

その瞳には闘志が宿り、己の決意を告げていた。

「・・・・・・・一人で勝てるのか?」

「分からん。だが、私とて一人の剣士だ。正々堂々と、勝負したい。自分の未来の事でもあるからな。」

剣士として、武士として、誇りを持って戦いたい。そう彼女の瞳は訴えていた。

元々自分の事であり、和樹はそれに巻き込んでしまっただけの話。

ならば自分が戦うのがせめてもの償いだと彼女なりに考えたのだろう。

「・・・・・・・・ふぅ。ほんと、頑固だな。」

嘆息して頭を掻く。そして、虚空から一本の刀を取り出した。

それは、藍色の鞘に収められた刀。一見普通の刀にも見えるが、凛にはそれが淡い光を放っているように見えた。

そして和樹はその刀を凛へと差し出した。

「式森、これは・・・?」

「銘は水憐。魔法付加に適した鉱物で出来た刀だ。剣鎧護法を使うお前なら上手く扱えるだろ。」

そう言って和樹は刀を渡し、後ろへと下がった。

「式森・・・すまん。」

凛は水憐を鞘から少しだけ引き抜く。淡い藍色の刀身が露わになる。

「見事な刀だ・・・ありがたい。」

和樹の方を頭だけ向けて視線で礼を伝える。

それに対して和樹は、ただ頷くだけだった。

「凛一人で戦うのかい?」

「ああ。無謀かもしれない、それでも私はお前に一人で勝ちたい。だから・・・。」

自分の刀を地面に横たえ、水憐を腰に挿す。

そして、流れる動作で水憐を鞘から引き抜く。

「この水憐で、貴様を打ち倒す!」

「面白い、凛がこの一週間でどれだけ強くなったか、見せてもらうよ。」

互いに刀を抜き、正眼に構えて睨みあう。

一瞬触発。何か切欠があれば互いに切り出すであろう、タイミングの取り合い。

「和樹ったら、自分の刀を上げるなんて・・・羨ましいわ、神城。」

「妬まないの、沙弓。でも、あの刀、魔法刀よね?」

「うん、確か水憐だったかな?紫乃さんと一緒に旅行に行って手に入れた刀だって言ってたけど・・・。」

和樹の妾三人が、凛の刀を眺めながら会話する。

ただ、全員がチアガールの衣装なのが緊張感を台無しにしている。

「あの、魔法刀ってなんですか?」

和樹が戦わないと分かって注意を千早達に向けた夕菜が聞いてくる。当然彼女もチアの衣装だったり。

最初の頃はギスギスした関係だったが、最近では夕菜の性格改善がなされてきた(!?)ため、普通に友好を持っている。

和樹さえ絡まなければ良い子なのだ、彼女は。

「魔法刀はね、刀身の金属に魔法金属、魔法銀とか魔法石とかを混ぜて作った、魔法剣の刀版のことよ。普通の魔法刀なら魔法剣同様に、属性付加がされてて、火が出たり風を起したりするけど、あの水憐は違うの。」

「何が違うんですか?」

和美の説明に食い入るように聞いてくる夕菜。

父親が考古学者な為か、彼女は割とこういった話に興味を持つ。

「あの水憐は、なんの属性効果を持たないの。その代わり、持ち手が刀にかけた魔法効果を倍増する能力があるのよ。」

「という事は、刀に剣鎧護法を使う凛さんにとっては・・・。」

「まさにうってつけの刀って訳。和樹は魔法使えないから使わなかったし、ちょうど良かったのね。」

「へ〜。」

などと呑気に会話している外野陣。

真面目に勝負の成り行きを見守っているのは、沙弓と玖里子、それにエリザベートに数名のハーレムメンバーだけ。

後の連中は何やら道具を持ってゴソゴソしている。

そして彼女達の視線の先に居る二人、凛と駿司は互いに動けないでいた。

いや、凛が動けず、駿司は様子を見ているだけのようだ。

凛の頬を汗が伝い落ちる。

相手は神城の人狼と謳われた男、一瞬の油断が命取りである。

対する駿司は、余裕のある笑みを浮かべたまま。それが凛に多大なプレッシャーを与えている。

沈黙が支配する二人の間。

風が一陣舞う。

「むきゅしゅっ!」

キュアがクシャミした、その瞬間、二人が同時に動いた。

「――――ッ!!」

「―――っ!」

水憐に剣鎧護法を付加させて切りかかる凛、それに対して獣人特有の桁外れのスピードで迫る駿司。

「はっ!」

「ふっ!」

凛が放つ斬撃を刀で逸らし、さらに間合を詰めようとする駿司。

だが凛はすり足の要領で身体を半身ずらして駿司の進路から外れ、接近を許さない。

その動きに駿司は嬉しそうな笑顔を一瞬浮かべ、手に持った刀で素早い連撃を放つ。

――――キンッキンッ!―――ギャキィッ!!―――

互いの刀がぶつかり、競り合い、火花を散らす。

凛の水憐の能力によって強化された剣鎧護法の力が、駿司の連撃を弾く。

だが防御の間を縫って放たれる鋭い攻撃が何度か凛の服や皮膚を掠める。

幾度と無く続く打ち合い。

凛の顔に焦りが浮ぶ。

「(このままでは体力が勝る駿司に競り負ける!くそっ、式森の水憐のお陰で良い勝負に持ち込めているのにっ・・・負ける訳にはいかない、私はもう本家には帰らないんだ!ここで・・・式森の、夕菜さんの、玖里子さんの・・・皆の居る場所で私は・・・私はぁぁぁっ!!)」

ギリッ・・・と歯を噛み締める凛。

脳裏に浮ぶのは、厳しい本家での修行の日々。

来る日も来る日も修行に明け暮れ、友達も無く、遊びも知らずに過ごした幼少時代。

普通の豆腐屋の娘として生まれたのに、素質が在ると言われて連れて行かれたあの日。

そして、葵学園にきての騒がしい毎日。

失いたくない、もう戻りたくない。

何より、自分にこの刀を与えてくれた彼の信頼を裏切りたくない。

その思いが、凛の闘志を高ぶらせた。

「私は・・・負けないっ!!!」

「なにっ!?」

凛の叫びと共に水憐の刀身が輝き、剣鎧護法が力を増す。

刀身が淡い藍色を纏い、駿司の刀を弾く。

「―――しまっ!」

「もらったぁぁぁぁぁっ!!」

生まれた僅かな隙。その隙こそが、凛の強い願いが生んだ産物。

剣鎧護法を纏った水憐を握り締め、袈裟懸に刃を振る。

その刃は駿司の身体に吸い込まれ―――――――空を切った。

「なっ!?」

「残念だったね、凛。」

驚愕する凛の後ろからする声。そして首筋に当てられる刀の感触。

消えた駿司が、凛の真後ろに存在していた。

「な、何故・・・・?」

「凛、僕は人狼だよ?」

人狼。ライカンスロープ、または獣人と呼ばれる亜種族において、最速の名を冠する種族。

それが、神城駿司であった。

「・・・・・手加減していたのか・・・・。」

「いや、僕は人間と同レベルで戦った。もし僕が人間の剣士だったら凛の勝ちだったね。」

だが駿司は人狼だ。一週間前も、自分が気付かぬスピードで接近されて一撃を喰らったのだ。

何が良い勝負だ、何が競り合うだ。自分は最初から相手にすらなって居なかった。

その事を痛感して、凛は一筋の涙を流した。

自分の中の傲慢と奢り、そして弱くて情けない自分に対して。

手に握った水憐を見る。その刀すら、自分の事を情けないと嘆いているように思えた。

「・・・・・・私の・・・・・負けだ・・・・。」

水憐をそっと鞘に収めて俯く凛。駿司はその言葉を聞いて刀を引いた。

唖然としているのは外野陣。

「嘘・・・全然見えなかったわ・・・。」

「何よあれ・・・反則じゃないっ」

一子と涼が愕然とした表情で呟いた。

二人だけではない、他の女子達も同じだった。

皆、凛が必死に修行していたのは知っている。この一週間、寝食を共にしてきたのだから。

だからこそ、手加減されて負けた彼女が不憫でならなかった。

「神城の人狼・・・噂以上ね。」

「く、玖里子さん、人狼ってあんなに強いんですかっ?」

「それはそうよ、獣人の中で最速・最強と言われていたのが人狼なんだから。」

「妾も人狼は初めて見るが、人虎でもあれほどの速さは持っておらぬぞ。」

玖里子の隣で観戦していたエリザも玖里子の言葉に頷く。

因みに人虎とは東アジア等に住んでいる虎の獣人で、パワーに関しては獣人一と言われている。

「・・・・・・・・・すまない式森・・・私は・・・・。」

黙って待っていた和樹の元へと戻ってくる凛。

顔は俯いていて表情は見えないが、彼女が落ち込んでいるのは言われずとも分かる。

「・・・・・・・・・・・・。」

そんな凛に対して何も声をかけずに駿司の元へと歩き出す和樹。

「式森っ、水憐を・・・っ」

凛が顔を上げて和樹に刀を返そうとする。

「・・・・・・・・・・持ってろ。」

「・・・・え?」

「お前が持ってろ。そして使いこなせ。お前なら出来る。俺が保障してやる。」

背中を見せ、少しだけ顔をこちらに向けている和樹。

凛には、その背中が果てし無く大きく、遠いものに見えた。

「式森・・・・・。」

「心配するな。お前は何処にも行かせない。俺が奴を・・・・・・・・倒す。」

虚空から一本の剣が現れ、それを引き抜く和樹。

Sの字に見える鍔を持つ剣、カッツバルゲル。

その剣を持って、決闘の場へと向かう和樹。

「式森・・・・・・・・・・・頼む。」

凛は、そんな和樹に頭を下げるしか出来なかった。


「やる前に、一つ良いか?」

「なんだい?」

睨みあう二人。駿司も和樹の雰囲気に対して笑みを消していた。

「何故神城に拘る。別にあいつじゃなくても良い筈だ。」

「さぁね。僕にも分からないよ。なにせ本家の命令だからね。」

「本家の命令なら、凛を悲しませても良いと言うのか?」

「彼女の為だから仕方ないさ。それがゆくゆくは彼女の幸せになるんだ。」

事も無げに言い切る駿司。その言葉が引き金となった。

「そうか。もう良い。」

「もう良いのかい?」

「ああ・・・・もう――――――黙れ―――――」

ドンッ――と地面を抉るような加速で踏み込む和樹。

彼の瞳には一切の情が消え、ただ目の前の対象を倒す事しか考えていない。

風を切って唸りを上げる剣が、駿司の刀とぶつかる。

「いきなりとはね。ちょっと反則じゃないのかい?」

「何の反則だ?決闘のか?そんなモノは知らんッ」

甲高い金属音が立て続けに響く。

明らかに凛との戦いよりもハイレベルな攻防。

ドイツの傭兵達が使用していた、ドイツの俗語で「喧嘩用」を意味する剣。

文字通り、騎士や剣士としての立会いではなく、ただ喧嘩をするかのように振るわれる剣。

だが、その剣の乱舞が駿司を抑えている。

「(何なんだ彼は・・・西洋剣を使うから騎士道に通じる剣術かと思ったが、まるで違う・・・。だが的確な攻撃を繰り出してくる。何なんだ一体・・・っ)」

駿司は内心困惑していた。

剣術にしてはお粗末、だが常に攻防を優位に運ぶ戦い方。

自分が使う所謂刀を用いた剣術とは違うそのスタイルに、駿司は知らず知らず飲まれていた。

そもそも、和樹に剣術のスタイルなぞ存在しない。

彼は剣の担い手。剣を担うだけに特化した存在。故に彼は一流にはなれない。使い手ではないのだから。

だが、そんな彼だからこそ可能にする戦法があった。

「殺ァ――――ッ!」

「ッ!?」

和樹が腕を大きく振りかぶり、頭ので剣が隠れたかと思えば、次の瞬間には別の剣が握られて振り下ろされた。

ガギィンッ!と鈍い音を立てながら刀で防御しつつ後退する駿司。

和樹の手に握られていたのは、カッツバルゲルではなく、緩やかな弧を描いた刃を持つ剣、ファルシオン。

振り下ろされたその剣の威力は、駿司が慌てて後退した事が証明している。

あのまま受けていたら、おそらく駿司の刀は折れていただろう。

いくら魔法で強化していても、それが業物であっても、刀は切り裂く事に特化した刀剣。

それ故刃は脆く、折れ易い。江戸時代などで十手と呼ばれる棒が使われたのは、刀の脆さを狙っての事。

それに対して和樹のファルシオンは重さで断ち切るタイプの刀剣。

しかも短めのその刀身は、狭い場所や乱戦には持って来いの武器。

間合も短くなるが、振るわれるその一撃が大きい。

「(彼の能力は何なんだ?何も無い所から刀を取り出したり、今も剣を持ち替えたり・・・魔法か?いや、魔法の発動は感じられないし、何より彼の魔法回数は低い。ならば一体・・・。)」

和樹の能力を危惧する駿司。

彼の能力は、種を知らなければ魔法か手品かというレベルの芸当である。

「凄い・・・あれが式森の実力なのか・・・・。」

自分よりも明らかにハイレベルな攻防を繰り返す和樹を見つめる凛。

その胸には、和樹から渡された水憐が握られていた。

「凄いわね、あれが和樹の実力なの?」

「いいえ、まだまだです。」

玖里子の疑問に、千早が笑顔で答える。

和樹の能力を詳しく知っているのは千早と和美、それに沙弓や来花などだ。

紫乃やかおり、葉流華達も知っている。

だが、何故そんな力を持つのかは、実は和樹と、そして千早しか知らない秘密。

十年前の夏に起きた、あの事件の当事者だけが知る事だった。

「和樹さん・・・凄い・・・。でも・・・なんだか・・・。」

「そうね。和樹・・・怒ってるわね。」

恋する乙女のスキルなのか、無表情の和樹の中から怒りの感情を感じる夕菜と、幼馴染故に理解している和美が呟く。

和樹が怒っている理由。

それは、駿司が凛の気持ちを考えずに居るから。

合宿中、駿司が凛にとって兄のような存在であった事は聞いていた。

なのに目の前の男は、事も無げに言い放ったのだ。泣いている凛に対して、それが幸せだと。本人の意思を無視して強制することが彼女の為だと。

和樹は怒った。ふざけるな。何が幸せだ、何が彼女の為だ。

凛の意志を無視するのが幸せなわけがない。彼女は今、ここに居るのを選んだのだ。

だからこそ和樹は剣を振るう。

その身体は守る為の身体。

泣いている者を、悲しんでいる者を救う為の身体。

故に和樹は剣を振るう。

泣いている人を見たくない。自分の前で悲しんで欲しくない。それは我侭。自分勝手なエゴ。

なれど、彼は剣を振るう。

その身体は剣の担い手。剣を振るう事こそが彼に出来る唯一の事。

だから彼は剣を振るう。

大切な人を悲しませ、泣かせる存在を打ち砕く為に。

「ガァァァァッ!!!」

「ちぃっ!!」

―――ガギィンッ!ギギャンッ!!キャァンッ!!!―――

野獣のような咆哮を上げて乱打する和樹。

一見無秩序な攻撃も、全てがその剣を使用するのに適った方法をとっていた。

「ふっ!」

「らぁッ!!」

駿司の牙突を左手に現れたボロック・ナイフで牙突を防ぎ、ナイフの突起を用いて軌道を無理矢理逸らせる。

そして肉薄した駿司目掛けてファルシオンを振り下ろす。

「ぐっ!」

だが、その剣が駿司に届くことはなく、駿司の左手が和樹の右腕を掴んで止めていた。

獣人特有の高い身体能力。それ故力も普通の人間よりも遙に高い。

「ふっ!」

「せいっ!」

ほぼ同時に互いの胴目掛けて蹴りを放ち、それがヒットする。

脇腹がミシッ・・・と軋みを上げるが、それに構わず二人は戦闘を続行する。

一度離れ、また斬り合い、膠着したら蹴りや拳の応酬。

もはや剣術も礼儀も存在せず、ただ相手を倒すだけを目的とした、決闘とは呼べないモノと化していた。

言うならば激闘。そう言うしかなかった。

最初は応援していた一子達も二人の姿にただ呆然と見守るだけになっている。

何度目かの斬り合いの後、駿司が放った拳が和樹の右頬を捉え、その威力に体制が崩れる。

「もらったっ!!」

駿司が刀を振り下ろす。ファルシオンでは間に合わない。ボロック・ナイフでは競り負ける。

瞬時にそう判断した和樹は躊躇い無く剣を離し、また新しい剣を呼び出す。

――――――ガギィッ!!―――――

「何ッ!?」

「へッ、甘いぜッ!」

刀を受け止めたのは、40cm弱の刀剣。しかし異質なのは、刀を受けている方の刀身。

まるで鮫の歯のように並ぶ凹凸が、刀を受け止めていた。

それを見た瞬間駿司は拙いと判断して刀を引こうとするが、一瞬和樹の方が早かった。


――――――バキィンッ!!―――――


甲高い音を立てて、駿司の刀が折れた。

和樹が手にした剣、ソード・ブレイカーによって。

相手の剣を受け流し、刀身を折る事を前提に作られた守りの剣。

細く脆い刀にとっては、まさに最悪の剣である。

「やれやれ、本当に君の戦い方は奇抜だね。」

「生憎、剣術なんて真っ当なモノ習ってないんでな。」

距離を取って睨みあう二人。

駿司の刀は折れたが、負けを認める気は無いらしい。

それもそのはず、獣人はその肉体こそが最大の武器。手持ちの武器が無くても戦えるのが彼らなのだから。

「ほう、それでよくここまで強くなれたね?」

「教えてくれるんだよ、俺のここがな。」

そう言って左手の親指で自分の心臓を示す和樹。

駿司はその言葉に頭を傾げるが、唯一、千早だけが深く頷いた。

「これは・・・僕も本気を出さないとかな?」

「出すならどうぞ。だが俺が勝つがな。」

自信を持って答える和樹に駿司は笑みを浮かべ・・・そして消した。

「うぐぅぅぅ――――グアァァァァァァッッ!!!

身体を丸め、震えたかと思えば、駿司の身体がメキメキと変化を始め、手や顔から体毛が急激の伸びる。

さらに顔の骨格なども変化していく。

「あれは・・・・まさか獣化するのかっ!?」

エリザベートが叫んだ。

「獣化って・・・なんなの?」

「言葉の意味そのままじゃ。身体を獣へと変質させ、さらに野生に近い力を得る、獣人の最大にして最強の能力。しかし、現代において獣化できる獣人なぞ居らんと思っておったが・・・何という男じゃ。」

「ちょっと・・・それってヤバイってことっ?」

「そうじゃ、獣化した獣人はおよそ普通の人間の数倍の力を持つ。あの男ほどの手誰が獣化したら・・・それこそ獣人でもない限り勝てはせぬっ!」

エリザベートの言葉に全員の顔が青くなる。

そんな中でも和樹はまったく気負いせず、獣化していく駿司を睨んでいた。

やがて完全に獣化し、上半身が狼のそれに変わった駿司がゆっくりと和樹の方を見た。

その瞳が和樹の瞳と合わさった瞬間、駿司の身体がブレ・・・消えた。

「ッ!!―――ちぃッ!!!」

素早く剣を換えて身構えた和樹の正面に駿司が現れ、その爪を振るう。

鈍い音と共に数メートル吹き飛ばされる和樹。

落下点に砂埃が上がる。それと同時に夕菜達の悲鳴も。

「いやぁぁぁぁっ!!和樹さんっ!!」

和樹の元へと走り出そうとする夕菜を、玖里子が止めた。

「離してください玖里子さん!和樹さんが、和樹さんがぁっ!!」

「落ち着きなさい夕菜ちゃん!和樹なら無事よっ!」

「え・・・・?」

玖里子の言葉に視線を向けると、砂埃の中座り込んでいる和樹のシルエットが浮んだ。

やがて砂埃が晴れると、そこには2メートルを超える大剣を盾に攻撃を防いだ和樹の姿が。

「やれやれ、スピードだけじゃなくパワーまで上がるのか。卑怯じゃねぇか?」

「君こそ、とっかえひっかえ武器を交換しているじゃないか。」

軽口を叩き合う二人。

一歩間違えば死に繋がる戦いにおいて笑う二人。その考えは、夕菜達では理解し得なかった。

ツヴァイハンダーを杖にして立ち上がる和樹。

殴られた時切ったのか、口から流れる血を拭い、地面に大剣を突き立てた。

「そっちが本気で来るなら、こっちも本気を出さないとだよな?」

「おや、まだ何かあるのかい?楽しみだね。」

「言ってろ。―――――我、契約の主、剣の担い手、魔剣の宿主、漆黒の炎を冠する者なり―――」

ゆっくりと目を閉じ、呪文のような言葉を紡ぐ和樹。

その途端、そよいでいた風が止み、空気が張り詰める。

「―――我、幾多の剣を束ねし者、その名において契約を行使す―――」

和樹がゆっくりと右手を上げる。掌を上にし、指を曲げる。

「―――現れよ我が契約の剣よ、我と我の敵を囲い、血濡れの闘技を開催させよ―――」

和樹を中心に、30メートルほど離れた空中に、次々と大小様々な刀剣が虚空より現れる。

全てが切っ先を地面へと向け、和樹の周囲に円状に現れ続ける。

やがて円を描くようにして剣達が列をなし、虚空に直立する。

「こ、これは・・・・っ」

その光景を見回す駿司。

何百本もの刀剣が、自分達を囲むようにして空中に存在しているのだ。

その光景を周囲から見ている夕菜達も息を呑む。

唯一、この現象を知っている千早と和美、そして沙弓だけは静かに成り行きを見守っていた。

「―――始まりには咆哮を、終りには勝利を―――今ここに生と栄光を懸けて戦わん―――」

和樹の右手が握られ、そして勢い良くその右腕を横へと広げる。

瞬間、空中の剣達が連続して地面へと落下し始め、次々に地面へと突き刺さっていく。

やがて刀剣達が壁のように円状に立ち並ぶ。


「―――ソード・コロセウム―――ッ!!!」


高らかに声を上げる和樹。

剣の闘技場。円形に突き立つ剣はまるべ壁のように存在し、まさに闘技場のようになっていた。

そしてその中心に立つ者こそこの闘技場の王者にして支配者。

彼を倒さなくばここから出られない。まさに闘技場。

この場の戦いにおいて、あるのは勝利と敗北、ただそれだけ。

「覚悟は良いか、神城駿司。――――俺がお前を打ち倒す。」

「――――くはははっ、これが君の奥の手か・・・面白い。全力で受けて立つよ。」

対峙する二人。

その光景を、文字通り観客として見るしかなくなった外野陣。

「な、なんなのよあの魔法は・・・・。」

「魔法じゃないわ。」

呆然とその光景を見てた玖里子の呟きを、和美が否定する。

「あれは剣の闘技場。和樹だけが行使できる和樹だけの結界。あの結界内は和樹の領域。和樹が100%の力を発揮できる場所。」

「そしてあの闘技場には、選ばれた者しか入れない。主である和樹と、その敵だけ。」

「もしも他の人が入ろうとすると、壁を構成している剣達が襲い掛かるの。だから皆、何があっても入っちゃ駄目だよ。」

和美の言葉を沙弓が受け継ぎ、千早が皆に注意を諭す。

特に夕菜は、何かあれば直に入っていこうとするだろうから。

「あそこは本当にコロセウムなの。勝つか負けるか、それが満たされない限り消えない結界。」

「それじゃぁ、和樹かあの人狼が勝つまで・・・。」

「戦い続けるの。それがあの結界の怖ろしい所よ。」

和美の言葉に全員が息を呑む。

どちらかが倒れるまで続く死闘。

勝者ならば良い、だが敗者ならば・・・?そんな不安が胸をよぎるのだろう。

「駿司・・・・・・式森・・・・・・。」

凛はただ呆然と、その二人を見ているしかなかった。

和樹がツヴァイハンダーを引き抜き、構える。

巨大な大剣。恐らく和樹が持つ剣の中でも上位の大きさを誇る剣だ。

対する駿司は鉄のように硬くなった爪をギラリと光らせる。

睨むあう二人。

風に煽られて舞い散る葉が地面に落ちた瞬間、二人の足元が爆ぜた。

どちらも人間の限界とも言えるスピードで加速して肉薄する。

スピードは駿司が遙に上。だがここは和樹の闘技場だ。

この領域を支配している主は、当然この領域を知覚できる。

「ぜいッ!!」

「っ!?」

横薙ぎに振るわれるツヴァイハンダーの一撃を、紙一重で避ける駿司。

完全に死角を狙ったにも関わらず、和樹はまるで知っているかのように攻撃してきた。

これは駿司に多少の動揺を与えた。

「はぁッ!!」

「グゥッ!!!」

ガキィッ!と火花を散らす剣と爪。

ツヴァイハンダーの思い一撃を、その人外な筋力で押し止める。

押し切ろうとする大剣の軌道を逸らし、素早くその爪を振るう。

シャッ・・・と風が薙ぎ、和樹の頬に四本の赤い筋が出来る。

ギリギリで駿司の爪を避けた和樹だが、その隙を疲れて剣を弾かれてしまう。

そして大きく崩れた上体へと迫る爪。

「――――っ!?」

が、その爪が和樹に届く前に駿司は後退した。いや、せざるをえなかった。

駿司の鼻先を狙ったかのように迫る物体。それは和樹が最初使っていたカッツバルゲルだった。

後ろへと飛び退き、身構える駿司の目に映ったのは、和樹の周囲をまるで衛星のように回る4本の剣。

カッツバルゲル、グラディウス、ファルシオン、シャムシールがクルクルと回る様子は、まるで剣の踊りのように思える。

「驚いたね、そんな事も出来るのかい?」

「まぁな。ただ、色々と制約があってね。だが・・・ここでなら自由に扱える。」

和樹の言うとおり、普通の場所では彼が使役できる剣の範囲は約半径3メートル。

それ以上の距離では操作ができない。だがこの空間においてはその制約が外される。

その代わりに別の制約が付いているが、それは今現在では特に意味は無い。

「さぁ、舞え、ソード・ダンスッ」

和樹の声と共に4本の剣が駿司に襲い掛かる。

それを人狼自慢のスピードで避けるが、避けきったところに和樹の大剣が襲い掛かる。

逆に和樹へと攻撃をしようとすると4本の剣が邪魔をして深く踏み込めない。

牽制・奇襲・防御・攻撃、その全てを備えたほぼオールレンジ攻撃。

1対1の戦いでありながら、多対1で戦っている気分の駿司。

だが和樹の方も、そう簡単に扱っている訳ではない。

自分の行動と同時に4本の剣を操るのだ、桁外れの集中力と精神力が必要になってくる。

互いの身体に細かい傷痕を残すが、決定打にならない。

「グオォォォォォォッ!!!」

獣の雄叫びを上げて加速する駿司。4本の剣が迎撃するが、全て抜けられる。

「おぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

迎え撃つ和樹の大剣。数撃斬り合い、渾身の力を込めた一撃を放つが、避けられる。

大型の剣故小回りが効かない。直には戻せず、防御に間に合わない。

ならば簡単だ、ツヴァイハンダーを放せばいい。

「――――――ッ!!!」

和樹はすぐさまツヴァイハンダーを放り出し、新たな剣を庫より呼び出す。

とは言え、現在ほとんどの刀剣を闘技場の結界として使用しているため、ほとんど剣が残っていない。

在るのは強力だが、それ故使えない剣ばかり。つまり、使えば間違いなく相手を殺してしまう剣ばかりなのだ。

そして和樹が取り出したのは、ジャマダハル。

得意な柄を持っており、2本の平行したバーと、その間に渡された握りとなる棒から構成される突剣タイプの武器。

剣とは呼べない見た目だが、相手が爪を武器にしているのなら、似た様なスタイルになるジャマダハルを選択した。

爪と剣がぶつかり、ギリギリとせめぎ合う。

両手にジャマダハルを装備した和樹と、爪を突き立てようとする駿司。

互いに同時に腕を払い、駿司は手とうを、和樹は打突を放つ。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

咆哮し、殴りあうように攻撃を繰り出す二人。

爪と剣先がぶつかり、軌道を逸らして直撃を避けるが、腕などの末端にどんどん傷を作っていく。

弾かれるようにして距離を取る二人。

その姿はズタボロで、あちこちから出血している。

互いに肩で息をし、この戦いが終焉に向かっていることを示していた。

「認めるよ、君は強い。落ちこぼれだなんて評価していた自分が情けないよ。」

「俺もだ。あんたもただの狗かと思ってたが、どうやら違うようだな。」

互いに笑いあう二人。

戦った二人だけが分かる何かが、そこにあった。

「次で決着をつけようか。」

駿司が腰を落とし、爪を構える。

「そうだな、賛成だ。」

和樹はジャマダハルを庫へと戻し(放った剣などは既に回収されている。使用しないと勝手に回収されてしまう)、新たに庫から刀を取り出す。

薄い山吹色の鞘に収められた刀。その刀が放つ魔力に、駿司は気付いた。

「妖刀かい?」

「似たような物だ。これでも使わないと、あんたの速さには追いつけないんでね。・・・使いたくないけど。」

「はは、そうかい。それじゃぁ・・・・。」

「いざ・・・・。」

「「尋常に―――――勝負ッ!!!」」

ほぼ同時に二人の姿が消えた。

いや、消えたように見えただけであり、二人は一瞬で亜音速レベルまで加速していた。

駿司は爪で切り裂こうと構え、目を見張った。

和樹が、今まで加速状態の自分に対して防戦一方だった和樹が、自分と同じスピードに達しているのだ。

そして、和樹の持つ刀が鞘から引き抜かれ・・・刀身が消えた。

否、消えたように見えた。刀を持つ和樹の腕が見えない。肩から先が消えて見える。

「(馬鹿な!僕の動体視力よりも早く動いているのかっ!?)」

驚愕に歪む表情。それでも止まれない、止まる気もない。

肉薄する二人。

駿司が両手を振るう間に、和樹の斬撃が襲い掛かった。

一瞬の交差。

加速がから抜け、互いに背中合わせで立つ二人。

和樹は刀を鞘に納めた、抜刀状態で。駿司は爪を振り抜いた体勢で。

凛が喉を鳴らす。カラカラの喉が小さく音を立てた瞬間―――

がはッ!!

和樹の全身から血飛沫が飛び、吐血する。

そして膝をついてしまう。

それを見て夕菜が飛び出そうとするが、千早と和美に止められる。

剣の闘技場は未だ展開されたまま。つまり、まだ勝者が決まっていないのだ。

「・・・・・・・・・・・・・強いな、流石人狼。」

「・・・・・・・・・ありがとう。でも・・・・・・・・・僕の負けだ・・・・・・・・。」

礼を言いながらゆっくりと倒れる駿司。

その身体は人へと戻っていた。

駿司が倒れ、和樹が右腕を振り上げる。

それを勝敗の判定とした結界がとける。剣達は和樹の庫へと戻り、闘技場が消え去った。


「駿司っ!!!」

「やぁ凛、はは、負けちゃったよ・・・・。」

駆け寄ってきた凛に、笑顔を向ける駿司。

しかしその顔には、深い死相が浮んでいた。

「怪我はっ!?大丈夫なのかっ!?」

「ああ、怪我は少ないよ。最後の一撃・・・いや、九撃かな?全部峰打ちだったからね・・・・。」

「そうか・・・良かった・・・。」

「心配してくれるのかい?」

「あ、当たり前だろっ!お前は、その・・・私の、兄なんだから・・・・。」

「そっか・・・まだ僕の事、兄って思ってくれてるんだ・・・・。嬉しいね・・・これで思い残すことは無いかな・・・?」

「・・・・何を言ってるんだ、駿司・・・?」

駿司の漏らした言葉に呆然とする凛。

彼は今確かに、思い残す事は無いと言った。

それはつまり・・・。

「はは、情けないことに僕は病気でね・・・もう長くないんだ。」

「そんな・・・ば、馬鹿を言うな!そ、そうだ、また私を騙しているんだろっ!?そうなんだろ、なぁ駿司っ」

凛の乾いた叫び。だが無常にも駿司は首を振った。ゆっくりと横に。

「残念ながら本当なんだ・・・治らない病気でね。今まで無理してたけど、もう限界なんだ・・・。」

「そ、そんな・・・私のせいか?私が、本家に戻らないと我侭を言ったから・・・こんな決闘をしたから・・・だから・・・っ」

「それは違うよ凛。凛のここに居たいと思う気持ちは我侭じゃない。それに、僕は満足してる。最後に、彼と戦えた。凛が着実に強くなっているのを見れたからね・・・。」

そう言って視線を同じように倒れている和樹へと向ける。

その周りには涙目の女子達が心配そうに彼を癒していた。

「凛・・・。」

「・・・・・・・・・なんだ・・・・?」

「彼は、確かに女性に優柔不断かもしれない・・・でも、絶対に裏切らない。」

「ああ・・・・・そうだな・・・。」

「だから・・・・僕も安心して凛を任せられそうだ・・・。」

「なっ!?なにを、そんな・・・わ、私は別に式森なんて・・・・その・・・。」

駿司の言葉に赤くなる凛。それでも瞳に溜まる涙は止められない。

「式森君、すまなかったね。色々と。」

「本当にな・・・・でもま、楽しかったけどさ。次が無いのが寂しいけどよ・・・・。」

「はは、すまないね・・・。僕も再戦を希望したいけど・・・・もう限界みたいだ・・・。」

「そんな・・・駿司、弱音を吐くな、お前らしくも無い・・・嫌だ、駿司っ、頼むから・・・だから・・・・お兄ちゃんっ!

「あはは・・・・懐かしいなぁ・・・・そう呼ばれたの・・・いつ以来かな・・・・?」

「いつだって呼んでやる、何度でも呼んでやるから・・・だからぁっ!ひっくっ、・・・だから死なないで、お兄ちゃん・・・っ!」

溢れ出した涙が止まらない凛。

千早や夕菜達も、その姿に涙を溢す。

「ほら凛、笑って。凛の笑顔を僕に見せておくれ・・・・最後のお願い・・・だよ・・・・。」

「馬鹿者っ!笑えるわけ・・・ないだろ・・・っ」

「それでも笑ってよ・・・僕は凛の笑顔が大好きなんだから・・・・・。」

「お兄ちゃん・・・・っ、こ・・・こうか・・・・っ?」

涙を流し続けながら、必死に頬を吊り上げ、笑顔を浮かべようとする凛。

「うん・・・・いい笑顔だ・・・・本当に・・・・いい笑顔だよ・・・凛・・・・。」

「お兄ちゃん・・・・・っ」

駿司の頭を抱える凛。ゆっくりと駿司の瞳が閉じていく。

それでも、最後まで、兄の願い通り、笑っていようとする凛。

そして駿司の瞳が完全に閉じた。


―――――――――パシャッ♪―――――――――


「・・・・・・・・・へっ?」

突然の機械音と共に、駿司の身体が消えた。

呆然とする凛&外野陣。

だが和樹だけがその一部始終を見ていた。

凛が駿司の頭を抱えた辺りで、駿司が反対方向の腕をポケットに入れ、何やら取り出した。

そして泣き笑いを浮かべる凛に向かってそれを向け・・・ボタンを押した。

それは所謂、カメラと呼ばれる物と思われ。

そしてそれを使った犯人は――――

「いや〜、流石凛。泣いてても可愛いなぁ〜。」

ちょっと離れた所で手に持った物体をみてそんな事を呟いていた。

彼が手にしているのは、最新型の極薄デジカメ。手ブレ防止機能搭載の奴だ。

「しゅ・・・駿司・・・?」

「やぁ凛、どうしたんだい、そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔して?」

呆然としている凛に、爽やかに返す駿司。先程までの死相なんてまったくありゃしない。

そんな青年の姿に一同呆然。

「お前・・・・病気だったんじゃ・・・・?」

「ああ、あれ?ごめんよ、嘘なんだ。」

『嘘ぉぉぉぉぉぉっ!?!?』

女子一同が叫んだ。

先ほどのお涙頂戴劇は何なんだ、流した涙返せって感じだ。

「いやぁ〜、実は本家の当主様に、凛の泣き笑いの顔を撮ってきてくれって言われちゃってね。それで多少心苦しいけどお芝居して一枚をパシャッと・・・いやぁ〜、いい写真が撮れたよ。これなら本家も凛がこちらに居るのを許可してくれるよ、うん。」

「き・・・・・・・っ」

「でも凛も案外単純なんだねぇ。それとも僕の演技が上手かったのかな?でもお兄ちゃんって呼ばれた時は本当に嬉しかったなぁ・・・。」

「き・・・・き・・・・っ」

「あ、そうそう、本家には長期休暇とかに帰ってくれば良いってさ。だから凛はこのままここに居てOKだよ?」

「きききき・・・・貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!

凛ちゃん 大 激 怒

そりゃあんなこと演技であってもされたら怒るわな。

「あはははは、それじゃ僕は帰るよ。じゃぁね凛、冬休みにでも逢おう。あ、式森君、婿の話は僕は賛成だからね〜〜〜っ」

バヒュンッ!!――と物凄い勢いで走り去る駿司。和樹の攻撃によるダメージなんて無かったかのように。

それに対して刀振り上げて憤怒する凛。

「・・・・・・・結局、なんだったの・・・・?」

「・・・・・・・・・・・さぁ・・・・。」

玖里子の呟きに呆然と返す和樹。つまりは、全部駿司の大嘘で。自分はその片棒を知らず知らず担がせられ。

結果残ったのはボロボロの自分と憤怒する凛。

「・・・・・・・・・・・・・・勘弁してくれ・・・・・・・・・・・。」

和樹の哀愁の篭った呟きが夕焼け空に消えていった。


「すまなかった式森、あの馬鹿のせいで・・・・。」

「もう良いって神城。お前が謝ること無いって。」

寮の部屋で布団に横になっている和樹と、それにひたすら謝っている凛。

和樹は駿司の攻撃と、さらに最後の使用した刀―――妖刀『空薙』―――の副作用によって現在筋肉痛に苦しんでいる。

『空薙』は使用者の肉体をそれこそ限界を超えた域まで高める能力を持つ妖刀。

だが、副作用として高めた分だけダメージが返ってくる厄介な刀なのだ。

駿司に対抗して亜音速レベルまで身体能力を高め、人狼である彼ですら見えない斬撃を繰り出したのだ、今和樹の身体は全身筋肉痛。

右手に関しては痺れが残ってまったく動かせない状況なのだ。

「だが今回の事で私はお前を見直した。男らしかったぞ、式森。」

「止せよ、恥かしい奴だな・・・・・。」

凛の台詞に照れたのか顔を背ける和樹。

そんな和樹の態度にクスリと笑い、甲斐甲斐しく世話を焼く凛。

因みに現在、夕菜達は戦闘中の和樹の写真を巡って壮絶なバトルの真っ最中。

来花達が撮影した写真を、競で落としているのだ。平均落札価格は3千円と高め。

もう暫くすれば和樹の世話の為に戻ってくるだろう。

玖里子は良いものが見れた&撮れたと意気揚々とエリザと共に帰っていった。

後日彼女が自前のシアタールームで鑑賞していたその映像を見て、彼女の姉の一人が欲しがるのだがそれは余談。

キュアは現在千早が連れているので部屋に居ない。

「式森・・・?寝てしまったのか・・・?」

簡単に部屋の掃除をして(この一週間帰ってなかったので)戻ってきた凛が声をかけても和樹は返事をしなかった。

横になっている彼の顔を覗き込むと、静かな寝息を立てている。

「式森・・・・・・・・・・・・。」

良く見れば整った顔立ちの和樹。その和樹の顔、主に唇の辺りをじ〜と凝視する凛。

やがて誰も居ないのは分かっているのにキョロキョロと周囲を見回し、さらに本当に和樹が寝ているのか確認するために頬を突付いてみる。

それでも反応が無い和樹。凛はそれを見て小さく喉を鳴らし―――

「・・・・・・・・・・・・・・。」

短く、だが確りと唇を合わせた。

そしてゆっくりと顔を離すと、途端に彼女の顔が真っ赤になり、そのまま慌てて部屋を出て行ってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こういう事は起きている時にして欲しいんだがなぁ・・・・・。」

出て行った後に瞳を開けた和樹が、そう呟いて苦笑した。

そして凛は和樹の唇を奪った事に興奮して、暫くの間和樹の顔を直視できなかったとか。

とりあえず、二人の関係がさらに軟化したのは確かなようだ。


―――――カッコーーンッ――――――――――

冒頭のように鳴り響くししおどし。

その音が聞こえる神城家本家の奥座敷で、この家の主である神城厳禄と、その前に頭を垂れる神城駿司の姿。

「して、どのような結果になったのじゃ?」

「はっ、式森和樹の調査書の内容はほぼ偽りであると思われます。特に戦闘能力に関しては一流かと。」

「ほう、お前にそう言わしめるとはの・・・。」

「はっ、情けなくも敗れ、おめおめと戻ったこの身をお許しください。」

「良い。式森和樹の力がどれほどか判っただけでも行幸じゃ。」

「さらに進言するなら、彼はまだ何かを隠しているように感じられます。」

「ほう、それは興味深い・・・。益々杜崎の連中には譲れんな・・・。」

深く頷く駿司。

和樹の未知数な実力を肌で感じ取った駿司にしてみれば、彼は是非とも神城へと招きたい男なのだ。

「報告は分かった。ご苦労じゃったの駿司。」

「ははっ。」

「して・・・・・・例の物は?

「はっ、ここに・・・・。」

真面目な態度が一変、まるで越後屋と悪代官みたいな雰囲気になった二人。

駿司が懐から取り出したのは山吹色のお菓子・・・ではなく、封筒に包まれた物。

それを受け取り取り出す厳禄。

その真面目な顔が、一気に破顔した。

そりゃぁもう、これが孫馬鹿の顔だ!と飾りたいくらいに。

「おぉ〜、相変わらず可愛いのぉ〜。おうおう、泣いている顔もまた格別じゃぁ。」

誰がどう見てもただの孫馬鹿な爺さんにしか見えない厳禄。

神城の門下生とかが当主のこの顔見たらどう思うだろうか?

情けないくらいに下がった目じりに、全身から噴出す孫LOVEなオーラ。

凛ちゃんは厳禄の直接の孫ではないのだが、彼にそんな事言っても無駄だろう。と言うか切られる。

「うむ、真の役目ご苦労。これであの杜崎のロンゲ爺に一泡吹かせられるわい。」

かっかっかっ・・・とどこぞのご老公のように笑う厳禄。

まさか凛も、駿司が孫馬鹿爺二人の自慢話の写真のために今回の事件を起したなんて思いもしないだろう。

なお、凛の泣き笑いの写真を見せられた重蔵が、和樹に「沙弓の泣き笑い写真を撮ってくれ」と電話で頼まれたのはまた別の話。

頼まれた和樹が、物凄く嫌そうな顔をしていたのがキュアによって目撃されていた。


終われ。


でも続く。


あとがき。

毎度どうも、計画性皆無のラフェロウでございます。

今回の話は、前に書いたのを手違いで消してしまい、思い出し&加筆してたら物凄く長くなってしまいました(汗)

今回は凛ちゃんのお話。あと和樹の戦闘話でしたが、やはり私は戦闘描写が苦手です(泣)

あと今回登場した杜崎重蔵と神城厳禄はオリキャラですのでご用心。
二人とも実力者なのですが孫馬鹿。重蔵に関しては完全に和樹を孫婿扱いしてます。

あと駿司の性格が変なのは壊れだからです。壊れったら壊れなんです。

で、和樹の新能力。

・剣の闘技場(つるぎのとうぎじょう:ソード・コロセウム)

和樹が契約した刀剣を使用して構成する広範囲結界の亜種。
和樹を中心として周囲円状に剣を配置し、それを地面に突き立てて壁とする結界。
能力は、中と外の遮断と内部の絶対知覚。
遮断と言っても出入りは可能だが、もし入ろうとしたり出ようとしたりすると自動的に壁を形成している数百本の剣が襲い掛かる極悪な結界。当然和樹もこれの対象になる。
内部の人間が一人になるか、勝負に決着がつくまで消えない半自立結界。
展開したら和樹でも解くのは無理。
結界の大きさは和樹が契約している剣の本数で決まる。現在は30メートルちょっと。
なお、壁に使われる剣は全部普通の刀剣。


今回登場した魔剣・妖刀など。

・水憐
和樹が所有していたが凛に譲った魔法剣の一種。刀身から淡い藍色の光を発するのが特徴的。
属性付加はされていないが、刀身が魔法触媒物質(ミスリルや魔法銀、ヒヒイロカネ等の事)で出来ているため、魔法触媒としても高い能力を持っている。
その為、凛の剣鎧護法等のように刀に直接魔法を纏わせる人間にとっては喉から手が出るほどの刀。
単純に魔法の能力を倍化させるだけではなく、変質させる事も可能だが、そこまで使いこなすには時間がかかる。
和樹が魔法が使えないので宝の持ち腐れ。よって凛にあげる事にした。

・空薙
和樹の持つ妖刀。使用者の身体潜在能力を全て引き出す力を持ち、普通の人間でもこれを使えば人狼のように高速で動ける。
が、副作用と言うか無理矢理潜在能力を引き出すので良くて筋肉痛、酷いと骨折や筋肉断裂、内臓圧迫などで死ぬことすら在り得る刀。
故に分類が妖刀となっている。
和樹はこれを使用して駿司でも見えないスピードで九回峰で斬った。
九回なのはそれ以上斬ったら腕の筋が切れるか、骨折していたから。
なお、和樹の持つ魔法剣や妖刀の殆どが、紫乃や葉流華からのプレゼントだったりする。
和樹の密かな趣味が刀剣集めなので、お姉さん達は挙ってプレゼントしている。


なお、作中の獣人・獣化云々は作者の妄想想像です。
エリザの言う人虎も某精神感応の虎とは全く関係ありませんのであしからず(何)


次回はベヒーモスにしようか、それとも賢人編にしようかプチ悩み。
たぶん魔獣使いの方を更新かと(マテ)


ではレス返しのお時間です。


ゆん様
感想ありがとうございます。
グッジョブ和樹、この調子でドンドン落しますよ〜(何)

秋葉だけでなく凛も落ちました?>今回で落ちたっポイですね〜。
一員になれるかどうかはこの後の展開次第かと。たぶん入るでしょうけど(何)
その辺りをお楽しみにしていただきたいです。


suimin様
感想ありがとうございます。
また増えました。増えるのは仕方が無いのです。運命なのです(マテ)
フラグは常に立ちまくってます。これも宿命なんです(オイ)

遅効性のほうは実家の皆さんに振舞ったら>それはナイスアイディア(何)
帰省した凛が駿司に仕返しとばかりに遅効性手料理を作り・・・うわ大惨事が(汗)

更新遅めですみませんです(汗)


西手様
感想ありがとうございます。
お待たせしました、後編です。
今回も面白いと思っていただけると嬉しいです。
次回の更新は・・・頑張ります(オイ)


千葉憂一様
感想ありがとうございます。

死んでしまうとは情けない>でもこの台詞の後強制的に蘇生させられるんですよね(笑)

どっかで大切なものがなくなってるのでしょうね>たぶん平穏とか平和とか倫理道徳とか無くなってるのではないかと(何)

第二回以降もあるんですか?>あります(キッパリ)
むしろ無いと凛ちゃんの活躍の場がなくなりますから(マテ)

今回の更新、お楽しみいただけたでしょうか?


D,様
感想ありがとうございます。
そうですね、もうボロボロ滅ぼしてますね。
それでもポリシーを曲げない和樹君。
漢なのかすり込んだ人が怖いのか判断し難いですが(苦笑)


TILTIL様
感想ありがとうございます。
凛ちゃんの料理の進化ですか・・・もうなんて言うか、その内使徒とか誕生させそうで怖いです(何)

ごくちゃんの情報ありがとうございます。
確かに全体は似てますが、キュアは耳が無くて翼付いてて、しっぽ無かったりします。
まぁ、何にせよ毛玉である事は変わりないですが(何)

後編お待ちどうさまで〜す。


なまけもの様
感想ありがとうございます。
和樹君の台詞が赤い弓兵っぽいのは電波です(何)

漢や……あんさんはほんまもんの漢やでぇ…(泣)>漢です、ほんとに漢です。
人によっては阿呆とか愚か者とかチャレンジャーとか評価しますが(オイ)

秋葉さんアウトです。もう離れられません(何)

割と真面目路線が多い魔獣〜と、コメディ&エロのこちら・・・。
やはり皆様戦闘等が多い作品の方が好まれるのでしょうか?
ハッキリ言って、私戦闘描写苦手なので(汗)
でも頑張って書いていきます。
当面は交互に一話ずつで行こうかと(何)

自分、基本はコメディ命なんです(マテ)

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