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「黄昏の式典 番外編〜備え〜(とある魔術の禁書目録+魔法先生ネギま!)」

黒夢 (2005-10-08 08:01)
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雲ひとつ無い晴天。さらには炎天下。止めに熱せられたアスファルトから立ち上る熱気。

道行く人々の不快指数は留まることを知らずに際限なく上がり続け、誰もが声にこそ出さないが心のうちで「暑いんだよ、クソッ」と悪態をついていることは間違いない。

だが、ここに一人別の理由で体中が暑くなっている十六、七歳ほどの少年がいた。いや、太陽の日差しとかが憎い事には変わらないのだが、それにもまして立っている場所が悪い。

周りからは少しでも暑いという感情から逃れるためか、まるで動物園にいる珍獣に向けられるような、または夜の道ではぁはぁしながら女性を待つ変質者を見るかのような視線で見られている。

別にその少年は目つきが少し悪い事を除けば外見がおかしいわけでも変な行動を取っているわけでもない。先にも述べた通り、ただその場に立っているだけだ。

ならばなぜ、周りは少年を色々と失礼な眼差しで見ているのか?

聞いてみれば実に簡単なことだ。誰もが納得するだろう。

なにせ、この場所は日本でも一、二位を争う超巨大学園『麻帆良学園』の奥にある紛れも無く、否定のしようが無い、完全無欠な『女子校エリア』なのだから。

そんなところに少年、しかも目つきの悪いのがいれば変態、もしくは不審者と思われるのも仕方が無いことだろう。

「……不幸だ。とんでもなく不幸だ」

ボソリッと呟いた少年は羞恥でトマトのように赤くなった顔を覆い隠すかのように思わず片手で顔を抑える。本当なら今すぐにでもこの場から立ち去りたいところだが、しかし、それはある理由から許されない。

故にひたすらに周りの女性徒から容赦なく浴びせられる「さっさと出てけや変質者」的な軽蔑の視線や「警備員さんに通報したほうが良いかしら?」的な現実をよく見た視線と絶えず闘う羽目になっているのだ。

そうこうして色んなことに絶望していると少年の肩がまるで会社の上司が部下にリストラを告げるときのように背後からポンポンと軽く二回叩かれる。ついに警備員のこわ〜いおじさんでも出てきたかなーっと最早達観することができる境地までたどり着いていた少年はげんなりした表情で背後に顔を向ける。

そこにいたのは予想通り……ではなく待ちに待った自分の同伴者たる二人の少女だった。

「ごめーん、待ったー?」

いつか聞いたような全然心のこもっていない口調で、可愛らしい容姿をした茶色い髪を肩まで伸ばしている中学生ぐらいの少女が少年に声をかける。

「……ああ、待ちましたとも。この炎天下の中で周りを行く女性方のゴミを見るような視線に晒されながら待ちましたよ。この私、上条当麻は」

たっぷりと棘どころかサボテンを丸ごと含んで上条は言う。むしろその減らない口にサボテンを詰め込んでやろうかとすら考えて声の主である御坂美琴を睨む。

(まったくこんな女子校の通学路になっている大通りにひとり放置してこの態度はけしからんいや確かに一人でいる時は恥ずかしくも可愛い女子生徒が通り過ぎるたびにドキマギしてしまったり風に煽られてスカートが捲り上がった時など口元がわずかに歪んでしまったがそれとこれとは話がべ)

「大丈夫だよ、とうま。主はたとえどんな愚者でも決して見捨てないんだよ」

「……素敵な止めをありがとう」

あらためて自分の穢れた行いを気づかせてくれた腰まである銀髪に翠玉のような緑色の瞳、加えて肌は雪のように白い十三、四歳ぐらいの外国の少女、インデックスに対して上条は真実心の底から礼を言った。インデックスの腕に抱えられている三毛猫のスフィンクスのニャーという鳴き声がひどく空しく感じる。

さて、なんだかよくわからないし、いきなり話も飛ぶがはっきり言おう。

この三人はどう考えても変だ。

まず上条は男なのだから当然この場にいること自体がすでにおかしく、付け加えて目つきも悪い。美琴にしてみても明らかに他校の制服を着ている。そして極めつけはインデックスの着る安全ピンだらけの白の修道服。しかもどっからどうみても外人さん。

むしろこの三人を怪しくないという方がいるのならぜひとも会ってみたいものだ。

……とあるクラスに行けば山ほどいそうだが、ここではあえてそれを無視する。そうしなければ話が進まない。

「それで?学園長のいる所はわかったんだろうな?これですみませんわかりませんでした、てへっみたいな展開だったら俺は男女平等という言葉に従って行動するぞ」

「すみませんわかりませんでした、てへっ」

……どうやらこの御坂美琴という生き物は勇敢にもこの素敵ジェントルマン上条に喧嘩を売っているようだ。

もしこれが某大人気RPGゲームならば迷わず『たたかう』を選択するところだが、残念ながら場所が悪い。ここ女子校エリアには上条の味方などいないのだ。それどころか軽く「はは、こいつ〜☆」って具合に額を小突いただけで女の子に暴力を振るった最低の人間というレッテルを貼られかねない。

恐らく美琴もそのことをわかっていて言ったのだろう。心底愉快そうに忍び笑いを漏らしている。

なんと性格が悪い。日本の清き大和撫子はいったいどこに消えてしまったのだろうか。

上条は見ていても不快になるその笑みを視界から外し、とりあえず役立たたーズ(命名・上条)を思考から除外する。今重要なのはどうやって学園長室に行くかなのだ。余計なことに時間を割いている余裕はない。なぜなら時間が経てば経つほどに不振人物として通報される危険性が増してくるのだから。

だが、まったく情報がない状態でいったいどうしろといのだろうか。当然の事ながら思考はまったく関係のないことに傾き始めた。

(それにしても……よくもまあこんな馬鹿広い学園が一つの国に二つも造れたよな。噂には聞いてたけど、マジで『学園都市』並みに広いんじゃねぇか?まあ、こっちは特別な時間割り(カリキュラム)がない普通の学園っぽいけど……あの女の子は凄かった。どうやったら自分より身体がでかい爽やか柔道野郎や青春大好き空手野郎を拳一発で殴り飛ばせるんだ?)

脳裏に思い出されるのはまだ女子校エリアに到着する前に目撃したビックリ劇場。

物凄く簡単に説明すると、小学年か中学年ぐらいの褐色の肌の少女を取り囲んだ武道家の方々がその少女の拳や蹴りの一発で地に倒れ、空を飛ぶというものだ。

はっきり言って、信じられない光景だった。

その少女の動きから何らかの武術……そういえば中武研がどうのこうのと言っていたから恐らくは中国拳法だろう。ともかく、いかに少女が卓越した武人であったとしても明らかに体型で劣っている少女の一撃では人体の急所を的確に捉えて地に伏せるならまだしも、空を飛ばすなんてことは力学的などの色々な問題で不可能のはずなのだ。

……『学園都市』の体育教師や生活指導などは素で己の鍛えぬいた拳だけで『能力者(レベル3)』を空に舞い上がらせることも可能だが、比較するべき人物等がすでに間違っているのでスルーする。

ちなみに傍らにいる美琴もやろうと思えばそんな集団どころかどっかのマフィアを……いや、都市一つを楽に壊滅させられるほどの力があるが、それは『能力』に頼って始めて成し遂げられることだ。

ここで挙げた『能力』とはいわゆる『超能力』というもので、ここと同規模かそれ以上の面積を誇る『学園都市』で極秘に開発が進められている異能の力のことである。

機密に関わることが多いのであまり詳しく説明することはできないが、とりあえず人間離れした集団という認識を持ってくれれば良いだろう。その中でもこの御坂美琴は二百三十万人も存在する能力者の中でたったの七人しかいない最高位の『超能力者(レベル5)』に含まれる正真正銘の化け物クラスだ。

ちなみに上条は『学園都市』においてこそ『無能力者(レベル0)』の烙印を押されているが、その右手にはこの世界に存在するあらゆる神秘、異能、神の法則さえも触れただけで全てを等しく破壊しつくす究極、最強、理不尽の三拍子が揃った絶対神秘兵装ともいうべき『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を宿しているのだが、逆に言えば何の神秘も宿さない人間などには効果がないので喧嘩などではまったく意味のないものだったりする。

そんなわけで上条も当初は自分の右手と同じ天然ものの『肉体強化』の能力でもあるのかと思ったが、あの少女がそれに当てはまるとはとても思えなかった。

理由などない。ただ何となく、ありたいていに言えば勘だ。

そこで上条はフッとキザッ気満載の笑みを浮かべ、視線を周りに動かした。

(さて、そろそろ夢の世界に逃避行はやめて現実を直視しますかね)

とりあえず今の状況を簡単に説明すると、可愛い女の子が三人周りを囲んでいた。

よほど深く己のうちに潜っていたのだろう。今さっきまでまったく気づかなかった。正直、気づきたくもなかったのだが。

いや、それよりもむしろ問題なのは……

「だーかーらー、なんで他校のアンタやこんなあからさまに怪しい目つきの奴にここの規定にない修道服着てるシスターがここにいるのかって聞いてんのよ!」

「ああもう、さっきからいちいちうるさいわねー。なんでアンタみたいな見るからに頭悪そうなのにこの美琴センセーがわざわざ説明してやらなきゃなんないのよ!」

女三人寄れば何とやらとよく言うが、この二人にはどうやらそれは当てはまらないようだ。二人だけで十分すぎるほど喧しい。

(なんでこんなことになってんだっけ?)

再び現実逃避を始めた上条は「とうま、止めなくて良いの?」と言うインデックスの言葉を無視してここに来るきっかけとなった場面へと旅立った。


黄昏の式典 番外編〜備え〜


あれは二日前のことだ。

今日と同じぐらいの炎天下のため休日であるにもかかわらず室内に避難していた上条は文字通りいつの間にか同居人としての地位を確立していたインデックスと共に漫画を読んでいた。

お互いに手に持った漫画に集中しているのか、室内には沈黙だけが満ちていた。

せっかく若い男女が一つ屋根の下にいるのだからもっとこう違う展開はないのかと期待している方々には申し訳ないが、元々この二人はそういった関係ではない。確かに互いに相手のことを信用し、信頼はしているが、今はまだ友人以上恋人未満の関係なのだ。

そんな色気のまったくない空間を壊したのはけたたましく鳴り響く一本の電話だった。

「とうま、電話だよ」

「わーてるって。クゥ〜〜!はぁ」

ずっと床に座り込んで読んでいたためか、立ち上がると首と腰がやけに痛かった。とりあえずその場で伸びをして身体を解すと気だるそうに電話の受話器を手に取り、耳に押し当てる。

「もしもし、このクソ暑い中でいったい何の御用でしょうか?」

優雅、とは言えないが自分の安息の時間を壊した人物に向けて上条は精一杯の嫌味を込め、端的に「うぜぇんだよ」という気持ちをぶちかます。

上条がこういった言動で応対することができるのも自分には研究員などからの電話など来るはずが無いと知っているためだ。むしろなぜ『無能力者』である上条に電話をかけてくる物好きがいるだろうか?

予想通り電話から聞こえてきた声は研究員特有のどこか理知的なものではなく、

『……上条ちゃん。いくら暑いからってもう少し愛想を利かせたほうが良いかなー、と先生は思いますよー』

むしろ甲高い子ども特有のものだった。

「ってあれ?小萌先生?」

その声には聞き覚えがある。と言うよりも平日では毎日学校で聞いている。

声の主の名は上条の通う学校のクラスである一年七組の担任、月詠小萌その人のものだった。

身長一三五センチで、安全面の理由からジェットコースターの利用をお断りされたという伝説の持ち主でもあり、道行く人々に彼女の写真を見せて何歳かと尋ねれば間違いなく小学生ぐらいと返ってくる。そんなどこからどうみても十二歳ほどにしか見えない小萌先生は、身体は子ども、頭脳は大人を素で実践しているとんでも先生なのだ。

ちなみに彼女はその特異な外見年齢から『学園都市』の七不思議の一つに数えられることもあり、曰く『虚数学区・五行機関(プライマリー・ノーリッジ)では不老不死の研究が完成していて、そのサンプルが小萌先生だとか』というものもあるぐらいだ。

『虚数学区・五行機関』とは『始まりの研究所』とも呼ばれ、それが職員の社宅や保養施設、関連研究所などを増設していく内に、いつしか『麻帆良学園』に匹敵する巨大な町へと肥大化したのだといわれている。

そこには様々な憶測が交じり合い、存在すら定かではないが、確かにあると言われ続けているのだ。

それはともかくとして、なぜ急に小萌先生が電話をかけてきたのだろうか?

番号は担任なのだから知っているのは当たり前だが、こうして電話をかけてくる理由が思いつかない。もしかしたらまた姫神秋沙でも転がり込んできたのだろうか?

『吸血殺し(ディープブラッド)』姫神秋沙。

二百三十万人もの能力者の中で上条の『幻想殺し』と同じくたった一つしか確認できていない希少能力『吸血殺し』の能力者。その能力は文字通り吸血種に対する絶対であり、最強といってもいい。

それは『支配者(グラスパー)クラス』とも呼ばれる侯爵級の吸血鬼でさえあるいは滅ぼせるほどだ。恐らく死徒の頂点である死徒二十七祖や公爵級に名を連ねる『王(キング)クラス』の吸血鬼でさえもその能力に掛かれば滅びるか、本来の能力のよくて半分ほどしか引き出せなくなるだろう。

しかし、わざわざそんなことで電話をかけてくるとは思えない。というよりもそれで電話をかけてきたんだとしたら、いったいどういった目で自分は小萌先生に見られているのだろうか?

(はっ!まさか……)

嫌な考えが上条の脳裏をよぎる。

まさか、あまりにも成績が悪いために休日返上で補習でもさせられるのだろうか?

休日返上というのももちろん嫌だが、それにも増して流石にこの快晴のなかを歩いて学校まで行きたいとは思わない。

そんな内心ビクビクしながら小萌先生の次の言葉を待った上条だったが、通話口から聞こえてきた内容は上条の予想の斜め上をいくものだった。

『それがですねー上条ちゃんには特別研修として『麻帆良学園』に行ってもらうことになったんですー』

「…………は?」

そこからの話は早いもので、なぜ機密の塊でもある生徒をわざわざ学園の外に出すのかと疑問に思いながらも一日で準備をさせられ、ゲートの所で上条と同様に研修に出されたと言う美琴と合流し、本来まったく関係のないはずのインデックスがいつにもまして強情に「私も行く!」と駄々をこねたため付いてくることになり、ついでに三毛猫のスフィンクスを連れこうして上条一行は『麻帆良学園』に到着したのだ。

早速挨拶がてらに『学園都市』の偉い方に渡された手紙をこの『麻帆良学園』の学園長に届けようと学園長室に行こうとしたのだが……肝心の学園長室がどこにあるのかわからない。いや、正確にはこの学園の中にいくつかあるという学園長室のどこに学園長がいるのかわからないのだ。

かなり濃いリーゼントの男性から聞いた結果、学園長は頻繁に女子校エリアに出没すると掴んだのだが、そこから先が手詰まりで、道行く人に声をかけようとしても『何故か』逃げられてしまうのだ。

しょうがなく美琴とインデックスは上条を置いて女二人で情報収集に出かけたのだが、それでも収穫が0。

おまけに今は……

「上等よ!泣いて謝ってももう許してやらないわよ!この高飛車女!!」

「高飛車はどっちよ!それ以上喋ったら痺れさせるわよ!!」

美琴と小さな鈴の形をした髪留めでツインテールにした少女と言い争いをしていた。

どうやら気が強いもの同士で同属嫌悪でも起こしているようだ。それはそうと、今の美琴の台詞の中には決して聞き漏らしてはならないものがあった。

(痺れさせるって……ヤバイだろおい!)

『学園都市』でなら特に珍しくもなんともない『能力』だが、一度学園の外に出れば話は別だ。確かに『霊能力』や『超能力』といったものも学園の外にあるが、そもそもそれらと『学園都市』の能力は結果が同じであっても根本が違うのだ。もしもここで問題を起こして捕まることでもあれば……それこそ『学園都市』は存亡の危機に陥りかねない。

(あー……なんで俺はいつもいつもこんな嬉しくもなんともない展開で苦労しなくちゃいけないですか!?ってーかこれは俺に与えられた試練なんですか!?マイゴッド!!)

上条は自分に与えられた運命の過酷さに嘆きながらもどうにか止める方法を模索するが、一向にいいアイデアがでてこない。早く止めなければというかすでに少しバチバチしている。

(おいおいおいおい。マジか?マジなんですか!?いくら似たもの同士の同属嫌悪だとしても限度ってものがあるでしょうが美琴さん!?何とか、何とか穏便に事を収める方法は……ん?そうだ!この手があった!!)

極限まで追い詰められた上条の頭に一つのアイデアが浮かぶ。検討している時間は無い。すぐさま実行に移すべく素早く行動を開始する。

まず、美琴の頭を右手でわし掴みにし、とりあえずバチバチ音を鳴らしている電気を『幻想殺し』で消し去る。

「ちょっ、なにすんッ!!」

何か言いながら右手を振りほどこうとする美琴を無視して、上条は今まで美琴と言い合っていた少女を強い視線で見る。

瞳の奥にある真剣さに押されたのか、ツインテールの少女は一瞬怯むがすぐに気丈な眼差しで睨みつけてくる。上条はそんな少女へと向かい一歩踏み込むと、

「すいません!!」

傍目からしても素晴らしい一切の隙が無い動作で頭を下げた。

「…………へ?」

上条が踏み込んだ時点で戦闘体勢に移行していた少女は拍子抜けしたのか、気合を入れていた分だけ身体の力が一気に抜けてしまったようだ。その隙を見逃さず、上条は頭を上げると一気にまくし立てる。

「実は俺たち『学園都市』から研修生としてきたんだけど肝心の学園長の居場所がわからなくてこうしてさまよってたんだよ。でここにいるって聞いてきたは良いものの周りは女子ばっかりで困り果てていたところに君たちが着てこの馬鹿と喧嘩を始めちゃってね。っというわけで学園長の所に案内してくれると物凄く嬉しいんですけどお願いできませんか?」

最早キャラさえ合っていないが、こうして下手にでながらも確実にこちらの要求を伝えた方がこの手のタイプは断り難いのだ。案の定ツインテールの少女は呆然と今言われたことを脳内で変換して「は、はぁ」と曖昧ながらも確かな返事を返してきた。

これこそ上条の考えた秘策、『素直に謝りついでに学園長の所まで案内してもらおう大作戦』だ。

年下に頭を下げていたあたりあまりにも情けない気もするが、気の強い女性には効果があるのだ。さて、こんなにも素晴らしく完璧な作戦にも唯一つだけ欠点が存在する。

それは、

「後で覚えてなさいよ……」

右手の下で獰猛な声を上げる存在から生き延びることができるかだ。


ちなみにこれは上条、インデックス、美琴も知らないことだが、上条の自宅に小萌先生から電話が掛かってきたほぼ同時刻。

「君にはこれから『麻帆良学園』に行ってもらうことになったからよろしくね」

「……なンの冗談だァそりゃ?」

というある名医とある少年の会話があったらしい。


「ふーん。名前ぐらいなら聞いたことあるけど、東京都の三分の一の大きさって……『麻帆良学園』より大きいんじゃないの?」

「まあな。生活してる俺たちでさえ時々ここが学園の中っていうのを忘れかけるぐらいだし、とにかく無駄にでかいからな」

あの後、とりあえずお互いに自己紹介を終えた上条たちは漏らしても大丈夫な程度に『学園都市』の話をしながら校内の通路を歩いていた。

自己紹介によるとさっき美琴と言い合っていたのは神楽坂明日菜と言うらしく、こうやってあらためて話してみると本当に美琴と似通っていると思う。当然だが本人達には言っていない。そんなことを言えばお星さまになってしまいかねない。

「うちも負けてないでー、大きさでは負けてるかもしれんけど、その分いろいろ変なとこも多いんやー」

「でも、でも、あっちも凄いのがいっぱいあるんだよ」

この妙にのんびりとした喋り方してインデックスと話しているのは明日菜と一緒にいた綺麗な黒髪を腰まで伸ばした天然形の可愛らしい少女。名前は近衛木乃香。なんでもこの『麻帆良学園』の学園長のお孫さんらしい。

まずこの少女に抱いた上条の第一印象は黒髪を腰の辺りまで伸ばしている女性はつくづく変わっている人が多いという失礼極まりないことだった。

そして最後の一人もまた変わった娘だった。

名前は桜咲刹那。

黒髪を頭の後ろの辺りで縛り、何となく鋭くも優しい刃物という印象を受ける。手には木刀でも入れているのか。自身の身長ほどもある鞘袋を持ち、ジッと上条……ではなくインデックスを見つめている。一瞬冗談でそっちの趣味でもあるのかとも思ったが、その眼差しは真剣そのもので、まるで何かを探っているようにも見える。

(……まさか、な)

わずかに脳裏に重なったある女性の幻影と、同時に浮かんだ馬鹿げた考えを打ち払い、上条は再び談笑の輪に戻った。

時間が経つのは早いもので、そうこうしているうちにいつの間にか学園長室の前に来ていた。

「それじゃあ、私達は寮に戻るから」

「あっそ。一応ありがとうっていっておくわ。それと、アンタとはいずれ決着をつけてやるから覚悟しときなさいよ」

「上等よ」

二人は最初の時のような喧嘩腰ではなく、まるで良い喧嘩友達でもできたかのように軽く笑みを浮かべあうと明日菜は来た道を戻りそのまま立ち去っていった。

「あ、明日菜ー!待ってーな!あれ?せっちゃんどうしたん?」

先に行ってしまった明日菜を追いかけようと木乃香もまたその場を離れようとしたが、傍らにいた刹那がその場から動かないことに気づき疑問の声を投げかける。

「……先に戻っていてください。私も学園長に用事があったので、それが済み次第戻ります」

「?う、うん。わかったわ。それじゃあまたなー」

上条は最後まで間延びした声で去っていった木乃香を見つめ、続けて気取られないように刹那を横目で見る。

木乃香に答えたあの瞬間。ほんの一瞬だけだったが気配が明確に変動した。もしかしたら程度の疑惑はここに来て跳ね上がった。いや、恐らくもう間違いない。

(こいつ……あっちの世界の住人か。でも、なんでこんなとこにいんだ?)

どういった経緯で女子中学生などやっているかまではわからないが、今ならはっきりとわかる。その身からわずかに漏れ出すこの雰囲気には嫌というほど覚えがある。これは、インデックス側の住人が発していたものだ。

一度刹那から視線を逸らし、インデックスと美琴の方に目をやるとどうやら二人も何かを感じているらしく行動に出さない程度に警戒していることがそれなりに長い付き合いからわかった。

ここで棒立ちしていると刹那に気取られるかも知れないと思い立ち、上条は一度深呼吸をすると目の前のドアの扉を三度ほど叩いた。

「どうぞ」

中から老人の了承の声が聞こえ、上条たちは小さく「失礼します」と言うと中に入っていく。

流石にこの学園の学園長室というべきか。かなりの広さだった。わずかに圧倒されかけた上条は気を取り直すと奥の机に腰掛けている人物に視線を移す。

そこには……何だか仙人っぽい人がいた。

「というかちょっと待てい!いくらなんでもおかしいだろ!?最早人の頭蓋骨の形してねぇぞ!?てーか本当に人間なのか!?」

「ちょっ、上条さん!そんな本当のことをいきなり」

なにやら初対面の人物にとっても失礼なことをいっているが、上条が言わなければ美琴が絶叫していただろう。それほどあの頭の形は『科学』を専攻する『学園都市』の生徒から見たら異常極まり無いものだった。

いや、むしろ『学園都市』に連れて行けば貴重なサンプルとして扱われるかもしれない。

ついでに刹那もさり気無く本心を言ったりしているが、こっちは気にしないほうが良いだろう。恐らく後で何かがあるだろうし。

「……いきなり失礼じゃの」

出会い頭にこの言われようには長く生きている学園長も思わず額に青筋を浮かべてしまったが、そこは年の功。すぐさま冷静さを取り戻すと立派な髭をいじりながら口を開いた。

「ふむ。話は聞いておる。だが、研修生といっても特にやることはないんじゃ。精々が好きなところを歩き回るぐらいじゃな」

「……それって研修とは言わないんじゃ」

ボソリと呟く美琴だが、まったく以ってその通りだ。

「フォフォフォ。そういうでない。むしろしばらくは公然と学校を休めるんじゃ。ラッキーと思って良いぐらいじゃぞ」

確かに見方を変えればそう取ることもできるが……ならば炎天下の中で晒し者になっていた上条の苦労は報われないのではないだろうか?上条自身もそう思ったのか、どんよりとした空気を背負って「不幸だー」と呟いている。

「それはそうと手紙を預かっておらんか?あれは大切なものでな。できればすぐにでも目を通したいんじゃが……」

「あっ、そうだった」

元々ここに来た目的の半分でもあった手紙の存在をすっかり失念していた。上条はポケットから折り畳まれていたためか、少し皺ができてしまった手紙を取り出すと学園長に手渡しするために近づいていく。だが、その途中で傍らに立つインデックスに服を掴まれ立ち止まった。

「?おい?」

突然の行動に眉を顰めた上条だったが、次にインデックスの紡いだ言葉は上条の表情を驚愕に染めさせた。

「とうま、この人……魔術師だよ」

「!?なっ……?」

「?何?どういうこと……ッ!?」

唯一美琴だけがその言葉の意味を理解できていないようだが、今の言葉で明らかに学園長と刹那から発せられる気配が変わった。

インデックスはイギリス清教『必要悪の協会(ネセサリウス)』に所属する10万3000冊にも及ぶ膨大な魔導書を所持している魔術が使えない魔術師だ。一見すればどこにも本は無いように見えるが、それも当然だ。全ての本はインデックスの頭の中にこそ収められているのだ。

『瞬間記憶能力』と呼ばれる一度見たものは決して忘れないという特性を利用した正に保管庫とも呼べるインデックスは一目見た時から瞬時に学園長の魔力に気づき、警戒していたのだ。

「……フム。これは予想外じゃな。連絡には二人だといわれておったからおかしいとは思っていたんじゃが……まさか、見かけ通り教会のものじゃったのか。それで?お前さんの所属はなんじゃ?返答しだいでは、すまんがこの場から帰すわけにはいかなくなるぞ」

細められていた目をわずかに開き、覗く瞳でインデックスを射抜くと学園長の身体から膨大な魔力が噴き出す。同様に背後からは布が擦れる音が聞こえる。恐らく、刹那が鞘袋から木刀を……いや、真剣の柄を握り締めたのだろう。

(ちくしょう……どうして行くところ行くところでこんな厄介ごとが舞い込んでくんだよ!)

自分の運の悪さに思わず悪態をつくが、そんなことをしたところで状況が変わるわけではない。前と後ろ、つまるところ挟み撃ちにされているわけだ。

だが、こちらも決して負けているわけではない。この状況に至った経緯は理解していないようだが、この場に流れる雰囲気が変化したことには気づいた美琴は戦闘体勢に移行し、インデックスもまた真剣な顔つきで場を見据えている。

自然災害に匹敵する『超能力者』の『電撃使い』と現存するほとんどの魔術を理解している『禁書目録』。さらに全ての神秘を消し去る『幻想殺し』。これならどんな相手であろうと一方的にやられることはまず無い。

インデックスは学園長から立ち昇る魔力という名の威圧に怯むことなく一歩前に進み出ると、睨むようにして口を開く。

「……私は、イギリス清教所属の『禁書目録(インデックス)』」

「!?なんと!では、あの10万3000冊を所持している……刹那君、構えをといてかまわんよ。どうやら、彼女はヴァチカンの手の者ではない様じゃ」

学園長が一言そういうと刹那はすぐさま柄から手を離し、幾分か安堵した様子で息を吐いた。どうやら刹那としても戦り合いたいと思っていたわけではないようだ。

「?どういうことだ?」

この展開は上条としても嬉しい限りだが、やけにあっさりと引き下がったことに釈然とせずに思わず傍らに立つインデックスに問いかけてみる。

「うん。たぶんこの人たちは『魔術師』じゃなくて『魔法使い』なんだと思う」

「???」

その返答にさらに疑問を深めた上条はもう少し詳しく説明することをインデックスに要求しようとしたが、その前に今まで黙っていた美琴が食い掛かってきた。

「ねえ。さっきから魔術師やら教会やらいったいどういうことなの?ちゃんと説明しなさいよ」

「げっ」

そうだ。今まで美琴の前で色々と専門用語のやり取りをしていたが、よくよく考えてみれば美琴はあっち側の世界のことはまったく知らないのだ。

しかし、だからといってあっち側の説明をするわけにもいかない。

そんなわけで上条は学園長にちょっと待つように頼むと真相を明かすことなく本当の中に嘘を織り交ぜるという高等技術を披露して説得に努めた。三十分ほど八割方嘘の説明をし続けると、未だに全てに納得したわけではないようだが、とりあえず美琴からの追求の心配はなくなった。恐らく美琴も上条の必死さから今は追及すべきではないと判断したのだろう。

ちなみに美琴は刹那に連れ出されて今は『麻帆良学園』の中を案内されている。何故か不満そうだったが、これからの話を聞かれるわけにはいかないので仕方がない。

「ふぅ……これでようやく話が先に進められるな。それで?どうしてあんな敵意むき出しだったんだよ?」

上条にしてみればそもそもそこが疑問だ。確かにあっちの世界も色々とあるようだが、あそこまで明確に敵意を向ける事態など想像もつかない。

「ほっ。どうやら上条君はあまりこっちの世界には詳しくないようじゃの」

「とうま、教会にも色々あるみたいに魔術にも色々あるんだよ。さっきもいったと思けど、この人はたぶん『魔術師』じゃなくて『魔法使い』の人なんだよ」

「だから、それがいったいどうしたってんだよ。ようはどっちも同じだろうが」

「全然違うんだよ。私たち『魔術師』は自分の望みとか『根源』を目指しているけど、『魔法使い』は他者を助けることとかを目的にしてその手段のために『魔術』を使ってるんだよ」

「???」

余計にわけがわからない。そこにいったいどんな違いがあるというのだろうか?

「つまり、我々『魔法使い』は進んで一般人を助ける良い方向に魔術を使う者。『魔術師』は時には一般人を犠牲にすることすら許容する悪い方向に魔術を使うもののことじゃ」

頭を傾げた上条に今度は学園長がインデックスの言葉を補足する。だが、これにはインデックスも眉を顰めて反論した。

「むっ。そんな言い方はないんじゃないかな。元々魔術は自分の目的や『根源』を目指すためのものなんだよ。それなのに勝手にその方向性を変えたのはあなたたち『偽りの魔法使い』なんだから」

「ほっほっ。これは手厳しい。しかし……偽り、か……確かにそうじゃの。我々が未だに『魔法使い』などと名乗っておるのは、少しでも『根源』に近づきたいがための裏返しなのかもしれんの……」

学園長は天井を見上げ、この会話が始まってから初めて、本当の気持ちを感情として外に出した。

哀しみという感情として……。

「…………」

なんとなく、その身から漏れる哀愁のようなものに上条は沈黙した。今、この場でこれ以上のことを聞くことは阻まれる。それに、自分が知りたい程度のことなど後でインデックスに聞くこともできるだろう。

学園長は天井から視線を離し、再び上条とインデックスを視界に捉えると微かに微笑みながら口を開いた。

「さて……少々遅れてしまったが、あらためて歓迎しよう。ようこそ『麻帆良学園』へ」


おまけ


学園長室に上条たちが入室したちょうどそのころの世界樹周辺。

普段ならある程度の人で賑わっているはずのそこは今日に限ってはまったくといって良いほどに人気が無く、ただわずかに五人ほどの人影があるだけだった。

だが、どうにも様子がおかしい。その五人のやり取りを拾ってみると……

「ック!いったいどうなっとるんや!?棒立ちしてるだけやのに打ち込んだ衝撃が完全に受け流されとる!!」

「魔法もだよ!『魔法の射手(サギタ・マギカ)』も『白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)』も全然効いてない!!」

「私の武装も効果がありません」

「この力……魔術ではないな。霊能力……いや、超能力か!しかしこれほどの能力……魔術師なら時計塔の原色クラスに匹敵するぞ!?貴様、いったい何者だ!?」

「……クソったれが。いい加減にしねェとまとめてぶち殺すぞ、クソガキども」

……どうやら彼こと一方通行は不振人物として間違われているらしく、混血の少年、子ども先生、魔法使いの従者(ミニステル・マギ)、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)に襲われていた。

まあ、明らかに特異な外見に加えてエヴァのような超一流の魔法使いから見れば一目で表の住人ではないとわかるような雰囲気を纏っているから仕方がないといえば仕方がないのだが……彼らは知らない。自分達が攻撃し続けている相手が裏の世界の重鎮達によって危険度S以上にランクされる数少ない人間の内の一人だということを。

……願わくば、一方通行がキれて『皮膚上に触れた運動量・熱量・電気量・その他あらゆる力の向き(ベクトル)を自在に変更できる』能力のデフォルトを『反射』に設定し直す前にタカミチ辺りが現れて場を鎮めてくれますように。


あとがき

どうもー黒夢です。

いやー……中間テストという名の地獄からようやく開放されました。おかげで投稿がかなり遅くなってしまいましたよ。

今回は予告通りの短編、まずはその一つを投稿させていただきました。

タイトルを見てもらえればわかっていただけると思いますが、この話の根本にあるものは『備え』です。何に対する備えかはともかくとして、あの『学園都市』がわざわざあの三人+一人を送り込む。これが結構重要だったりします。

色々とややこしいところがありますし、なんだかんだで曖昧にされたところ(例えば『魔法使い』とヴァチカン関係)もありますが、これからにはあまり関係ないのでご安心を。それとこの短編に限らず、他の二つも第二部に絡んできます。

語るべきところは正直あまり多くは無いんですが、とりあえず一つだけ。

『学園都市』よりも『麻帆良学園』の方が『ずれやすい場所』です。

さて……次は『ブギーポップ』と『灼眼のシャナ』ですが……書き始めて自分はなんと無謀なことに挑んだのだろうと痛感しましたよ。

あまりの難易度に息抜きもかねて同時に書いていた『Fate』と『ARMS』の方が先に書き終わっちゃったほどです。そっちもそっちで大変でしたが……やはり皆川亮二氏の創り出す父キャラは偉大でした。

まあ、それでも投稿順序の変更はありませんが……本当に難しい。特にブギーポップの意味ありげな台詞回しが……これならマスターテリオンとキース・ホワイトを戦わせるほうが簡単かもしれない……。

……愚痴はこれぐらいにして、それでは次回、黄昏の式典 番外編〜察知〜をよろしくお願いします。

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