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「まぶらほ〜魔獣使いの少年〜プロローグ(まぶらほ+モンコレ)」

ラフェロウ (2005-09-29 21:24)
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今から話すのは、ちょっとだけ昔の話。

私がまだ中学一年頃の、大切な話。

私、松田和美が今こうしていられる切欠。

彼との、出会いの話・・・。


私の名前は、松田和美。

自分でもそれなりの美形だと思っている。

趣味はまぁ色々だけど、よく人からは策略が生甲斐とか言われている。

正直、真っ向から否定できないのが少し悲しい。

身長もスタイルもそこそこ。

あとはまぁ、魔法回数が1万桁ってところかしら。

因みに説明しておくと、人間平均の魔法回数は2桁、私の通う学園はエリート校なので平均4桁。

そう考えると、私は結構上位エリートと思える。

でもま、それをひっくり返しちゃうくらいの悪い癖があるわけで・・・。

自分でも治そうかなと思うけど、どうしてもノリでやってしまう。

周囲からは金に汚いとか言われるけど、「彼」はそんな私でも受け入れてくれたので気にしない。

だいたい、私が席を置いているクラス、葵学園二年B組には、私以上の連中がゴロゴロいる。

だから、それほど気にしない。性分みたいなものだから。

それに、最近では大分マシになってきたんだから。

人間変われば変わるもの。

その切欠が、彼との出会いだった。


彼と、私が出会ったのは、中学一年の春。

入学してから一週間くらい経って、私は彼の存在を認識した。

彼は特に目立つような生徒ではなかった。

ちょっと癖のある髪型に平均的な体格。

暗くはないが、飛びぬけて明るい性格でもない。

所謂、どのクラスにもいる目立たない普通の男子だった。

私はその時、彼に何の興味も持たなかった。

精々、地味な奴くらいだ。


それから一ヵ月後、ある話を耳にした。

彼、式森和樹の噂。

なんでも、彼の魔法回数が極端に低いという噂だ。

確かに、これまで彼が魔法を使ったところを見たことが無い。

その事が気になった男子がそれを調べたらしく、次の日、黒板にデカデカとチョークで書かれていた。

『式森和樹の魔法回数は7回!』

幼稚だが、これはこの世界では虐め以上と言えるだろう行いだった。

魔法回数。

その名の通り、魔法が使える回数。

使い切れば身体は灰になり死ぬ。

その回数が低いと言う事は、それだけで落ちこぼれと笑われる対象になるのだ。

これを見たとき、私は書いた男子をガキだと毒づいた。

その頃の私は、既に株とかそういった大人な事に手を出していたので、周囲の子達とは一線違えていた。

その為か、魔法回数が少ない事を大っぴらに吹いて周る男子が酷く子供に見えた。

これで、登校してきた式森をからかったり虐めたりして遊ぶつもりなのだろう。

私も人の特徴や癖などでからかう事なんて日常的にしている。

でも、それでも節度は弁えているつもりだ。株でも賭博でも、やり過ぎは身の破滅を招くのだから。

だが、式森の反応は予想外だった。

普通、中学生くらいの行動としては、慌てたり、怒ったり、酷い場合は泣き叫ぶだろう。

しかし、予想に反して式森は冷静に

「あ、バレたんだ。」

と言って、特に興味なさげに席についてしまった。

からかおうとしていた男子は唖然とし、私は少し彼を見直した。

そこら辺の男子より、ずっと大人だと思った。

彼は、自分のことをよく理解しているのだ。

だから、魔法回数のことがバレても慌てないし、それを隠そうともしない。

そんな彼に、少し好感が持てた。

だが、からかおうとしていた男子はそれが気に食わなかったのだろう、謂れのない事で彼を罵り、笑うという行動を始めた。

最初は小さなものだったが、段々とそれが周囲に伝播していった。

それが男子の半分を超えた頃には、彼は一人になっていた。

仲のよい男子は、自分まで巻き込まれるのが嫌で距離を置き、それどころか一緒になって彼を馬鹿にした。

それをしている男子達に対して嫌悪感を抱いたが、それ以上に何もしない彼に苛立ちを覚えた。

せめて反論くらいすればいいのに、彼は何も言わず、言われているだけだった。

自分でもなぜここまで苛立つのか判らなかったが、それでも私は彼に対して怒っていた。

何故反撃しない、なんで甘んじて受け入れるのだ・・・と。

その理由が判らないまま、夏休みになった。


私は、休みを利用してある山に来ていた。

自分の家から程近い小さな山。

そこに、最近ある生物が出没すると夏休み前の学校で噂になっていたのだ。

話によると、夜その山の近くを通った生徒が、山の中で動く何かを見たらしい。

それが、大きな身体をした犬のような姿で、見たことのない犬種だと言うのだ。

普通なら、野良犬か何かだと思うだろう。

だが、誰が言い出したのか、それは絶滅した「ニホンオオカミ」ではないかと言い出したのだ。

学生によくある空想、それが噂として伝播し、尾ひれがついたのだ。

他にも、魔獣の一種とか突然変異とか言われているが、たかが犬でなぜそこまで噂が大きくなるのか。

それは、目撃した生徒が言った、「体長2メートル近く」と言う言葉。

いくら大型犬でも、2メートルは大きすぎる。

その為、色々な噂が出回り、もしその正体がなんであれ、珍しい事には変わりないという結論になった。

そして、まぁ自分でも金に執着していると自覚している私がその山に居るということ。

早い話、捕まえて正体を探ってやろうと思ったのだ。

もしただの大きな犬ならそれまでだし、珍しかったら大儲けなのだから。

なので、簡単なサバイバルグッズと捕獲用の道具を持って、山に入ったのだが・・・。

運が悪かったわ。

私は、道に迷ってしまった。

小さいとは言え、周囲2キロ近くある山。しかも時刻は既に8時を過ぎて真っ暗。

魔法で作った灯りを頼りに、恐る恐る山道を歩いていると、突然後ろから羽交い絞めにされ、何か薬のようなモノを嗅がされた。

身体がしびれて動けない私の目に、下卑な笑みを浮かべた男が二人映った。

最近、若い女性が襲われる事件が多いと、出かける前に母が言っていた。

多分、いや、間違いなくこいつらが犯人だ。

そして、今度の標的は・・・私。

恐怖した。

いままで魔法でも運動でも、そして勉強でも私に勝てる人間なんて少なかった。

でも今は、二人掛りで押さえつけられ、薬で魔法は封じられた。

泣き叫ぼうにも口に布を押し込まれ、服を引き千切られる。

涙が溢れる瞳に映るのは、ベルトを外している男の醜い顔。

絶望した。

私はこんな連中に強姦され、純潔を奪われるのだ。

泣き叫んだところでここは山の中。

誰も助けてくれない。

男が、私の下着に手をかけようとしたその時。


ザクッ


小さく、何かが刺さる音がした。

そして、目の前の男が、醜い悲鳴を上げて下着を破ろうとした手を押さえていた。

その手に光るのは、銀色のナイフ。

「誰だっ!?」

押さえつけている男が叫ぶと、周囲に何かの気配が感じられた。

そして、落ち着いて気配を探ってみると、私と男達を囲むように、何か、得体の知れない何かが周囲に感じられた。

ガサガサと草木を揺らす音と、低い唸り声。

獣の唸り声が、あちこちから聞こえ、暗闇に、無数の赤い点が浮かんだ。

いいえ、それは点じゃなかった。それは、瞳。炎のように赤い瞳。

それが、暗闇の中こちらを見ているのだ、獲物を狙う、狩人の眼で。

「な、なんだこいつらっ」

男の一人が魔法を唱えて辺りを明るくする。

その光に照らされて姿を現したのは、黒い体毛に赤い瞳の、2メートルはある巨大な犬。

いいえ、あれはただの犬なんかじゃなかった。

魔獣。

ベヒーモスやグリフォンなどの代名詞とされる、異界の生物。

普通の人間ならわからないだろうが、私には何故か判った。

あの生き物が何で、どれほどの力を持っているのかが。

「な、なんだ、野良犬か!?この、あっち行けっ!」

男の一人が魔法で火の玉を作り、魔獣に向けて放つ。

男達はただの野良犬の群だと思ったのかしら?

だとしたら予想以上に馬鹿だわ。

いや、女の子、しかも中学生をレイプしようとするくらいだから、きっと腐っているのね、脳みそ。

そんな事を頭の片隅で考えながら、男が放った火球の行方を見ていた。

意外と冷静だわ、私。

すると、魔獣はワンアクションで口から同じくらいの火の玉を吐き出し、それを放って相殺してみせた。

私は確信した、あれは、地獄の猟犬、ヘルハウンドだと。

以前、図書館の本で見たことがある。

魔界や地獄の犬と言われると、大抵の人間なら地獄の番犬「ケルベロス」を思い浮かべるだろう。

だが、それ以外にも強力な魔犬は数多く居るのだ。

割と有名なのが、地獄の狂犬「ガルム」。

「ケルベロス」に近い力を持つ魔獣で、その性格は狂犬が示すとおり凶暴そのもの。

それでも、従えれば強力かつ頼れる味方と言えるわね。

そして、あまり有名ではないけれど、魔獣としては強力なのが地獄の猟犬「ヘルハウンド」。

彼らは、猟犬の名が示す通り、群で行動し、チームワークによって敵を狩るタイプ。

「ケルベロス」は一体が普通だし、「ガルム」は凶暴なので群を作らない。

でも、この「ヘルハウンド」は最低10匹程度の群を作り、狩りを行ったりする。

固体戦闘能力は前者と中者に比べればとても低いが、数が揃えば「ガルム」どころかA級の魔獣にも対抗できるらしい。

因みに「ケルベロス」はS級、「ガルム」はB級で、固体なら「ヘルハウンド」はD級だと書かれていたわ。

そんな彼らの一番の特徴が、炎を吐くこと。

灼熱の炎が噴出す地が彼らの生息地のためか、彼らは攻撃方法として炎を吐いて攻撃する。

その威力は、本では中級魔法に匹敵すると書かれていた。

火の球を簡単の相殺されたところを見ると、男は下級クラスの魔法を放ったのだろう。

そして気づいたみたい。今、自分達を取り囲んでいるのが、野良犬なんかじゃないって事に。

「な、なんだよこいつら・・・やべぇよ、逃げるぞ!」

「いてぇよぉ・・・お、女はっ?」

「放っておけ、囮にすればいいっ!」

なんて勝手かつ嫌な人間なのだろうか。

身動きとれない中学生を、魔獣の群に置き去りにするなんて・・・。

逃げていく男達を、数匹のヘルハウンドが追っていった。

あの男達が彼らから逃げられる事はないだろう。

そして、自分も。

視線を戻すと、既に目の前まで彼らが迫ってきていた。

赤い瞳が私を射抜く。

怖い、恐ろしい、絶対勝てない。

一対一なら何とかなる。でも、今私は動けないし魔法も放てない。

対して彼らは群だ、勝てる訳がない。

状況は変わってない。むしろ、死の匂いが強くなった。

あの下衆どもに犯されるのと、彼らに食われるの・・・どっちがマシかしら?なんて、下らないことを考えていた。

これも現実逃避なのかしら。

そして、恐怖で竦みあがった私は、恐怖から目を逸らす為、硬く瞳を閉じた。

間近に、獣の荒い息が聞こえる。

そして・・・


ペロッ


「へ・・・・?」

頬を、暖かく、ちょっと粘り気があるモノが触れた。

その感触に驚いて目を開けると、あの獣達が私の頬を舐めているのだ。

ペロペロと、まるであやすように。

そして彼らの瞳を見ると、とても穏やかで澄んだ瞳をしていると気づいたわ。

先ほどまでの、殺気だった瞳とは一変した、普通の犬のような瞳と行動に、私はすっかり呆然としてた。

あまりのことに、口に詰められた布が取れるくらい。

「大丈夫だった?」

スリスリと擦り寄ってくるヘルハウンドの行動に戸惑っていると、突然声をかけられた。

その声に、聞き覚えのあった私は顔を跳ね上げた。

「し、式森くんっ!?ど、どうしてここにっ!?」

そこに居たのは、優しい笑顔を浮かべた、落ちこぼれのクラスメイト。

その手には銀色のナイフ、先ほどあの男の手に刺さっていた物と同じだった。

「ちょっとね、それより松田さんこそなんで?危ないよ、あんな連中が居るんだから。」

確かに危なかったけど、それを言うなら、ナイフ片手に夜の山で一人で居るほうが危ない気がしたわ、言わないけど。

「式森くんが助けてくれたの・・・?でも、なんでここに・・・?」

「この子達が松田さんに気づいてね。それで、急いで来たらあの状況だったから・・・大丈夫?」

そう言って、彼は私の手を拘束しているロープを切った。

このロープ、私が例の生き物を捕まえようとして持ってきた物だった。

まさか自分に使われるとは思わなかったわ・・・。

「まったく、酷いことするよ。」

彼は私に自分が着ていた上着をかけて、赤い顔して後ろを向いてくれた。

ウブなんだか、紳士なんだか・・・。

それでも、クラスの男子よりは遙に好感が持てた。あの連中じゃ、上着かけるどころか、ジロジロと見てくるだろうし。

「あのさ、いくつか聞きたいんだけど・・・。」

「ん、僕に答えられるならね。」

とりあえず私は、今も周りで取り囲んでいるヘルハウンドについて聞くことにした。

「このワンちゃん達ってさ・・・魔獣・・・だよね?」

「へぇ、よく分かったね。うん、こいつ等は僕が召喚した魔獣だよ。全部で12匹居るんだ。」

そう言って周囲のヘルハウンドを撫でる式森くん。

って、確か彼は・・・

「召喚って・・・それじゃ、魔法使っちゃったのっ!?」

彼の魔法回数は7回。

もし、私を助ける為にヘルハウンドを呼んだのなら、彼の命を一つ、縮めたことになる。

「う〜ん、なんて言えばいいのかなぁ・・・。とりあえず、魔法回数は減ってないよ。」

「え?」

彼が説明したことを抜粋すると、こうだった。


自分は、魔法回数は少ないけど、その代わり特別なことができること。

その一つが召喚で、召喚魔方陣を自分の血で描けば、魔法回数を使わずに召喚が可能。

しかも、一度召喚して契約した魔獣達は、自分の身体に封印することができる。

そして、以後魔法回数や召喚陣を使わなくても自由に呼び出せる。

ついでに、彼らは封印されている間は彼の魔力を糧に生きているので、ご飯も不要だとか。


私は唖然を通り越して呆けていた。

何しろ、魔法回数が少なくて落ちこぼれと呼ばれても怒らないし、特に秀でた所のない奴だと思ってたのに・・・。

こんな、物凄い才能と言うか、能力を持っていたなんて・・・。

そう考えただけで、私は自分が恥ずかしかった。

今まで、自分と彼との差を盾に、彼のことを勝手に評価して見下していたのだから。

そして、なんて恥ずかしいのだろうか、普段彼を馬鹿にしている男子達は。

彼らなんかより、式森くんの方が、遙に凄いのだから。

魔法回数を無視して行える召喚、しかもストック可能。

これだけで、普通の人間よりも数倍は凄い存在なのに、彼には他にも秘密があるみたいだった。

「ここには、何で居たの?」

と聞くと、

「修行。こいつ等と一緒にね。」

そう答えた。

そして理解した。

目撃されていた生き物は彼の召喚したヘルハウンドで、彼は彼らと一緒にこの山で何かの修行をしていたのだ。

何の修行かは判らない。

召喚か、それとも他の事か。

色々考えている私を、彼は突然抱き上げた。

右手を背中に、左手を足に。

所謂、お姫様抱っこ。

突然の行動に、私は真っ赤になって慌てたわ。

そりゃ、私だって女の子だし、素敵な人に抱き上げられるのを夢見たこともあるわ。

でもまさか、それがクラスメイトの落ちこぼれのように見えて実は凄い式森くんにされるとは、思ってもみないことだったわ。

「し、ししし式森くんっ!?!?」

「身体、まだ痺れてるでしょ?帰りが遅くなるといけないから、送るよ。」

そう言って彼は、私を抱っこしたまま暗い山道を、難なく歩き出した。

私はどうすることも出来ず、大人しく彼に抱かれていた。

全然嫌じゃなかったのに内心驚いていた。

そして気づいた。彼の体が、恐ろしく鍛え上げられていることに。

細身なのに、その身体は逞しく、胸板も硬い。腕も細いけど確りとしている。

そして、私を抱えているのに全然辛さを感じさせない。

見上げた顔は、普段と変わらないけど、どこか凛々しくて逞しかった。

クラスの男子とは違う、大人を感じさせる横顔。

自分と同い年、しかも結構童顔な彼に、そんな感情を抱いていた。

彼の周りには、付き従うヘルハウンド達。

まるで、群のリーダーを守るように歩くその姿。

普段の彼が嘘のそうに思えた。

暫くすると、山の茂みから数匹、ヘルハウンドが現れた。

あまりの出来事に忘れていたけど、先ほど強姦魔達を追っていった数匹だった。

「お帰り、それとお疲れ様。」

彼がそう声をかけると、彼らは嬉しそうに鳴いた。

傍目からは褒められた犬と主人に見えるが、方や魔獣、方や魔法回数7回の中学生だ。

私はもしかしたら夢でも見ているのかと思った。

そして思い出した、あの連中の事。

「ねぇ式森くん、あいつらどうしたの?」

「ん?どうして?」

「どうしてじゃないわよ、私をこんな目に合わせたんだもの、魔法で半殺し、いえ、全殺しよ!」

既に何人も被害に合っているのだ、見過ごすことなんて出来なかった。

「ああ、大丈夫。もうこんな事出来ないよ。」

そう言って、ちょっと怪しく笑う彼に、私は内心冷や汗を垂らしていた。


後日、山の中で下半身(特に股間)が酷い事になっている男二人が瀕死の重傷で発見された。

傷や証言から獣の仕業として山狩りなどが行われたが成果なし(式森の身体に封印されているのだから当たり前)

しかも、彼らの犯してきた罪がボロボロ露見して、彼らは一生を牢屋の中で過ごすことに。

と言っても、どの道下半身不随で動けないし、男のシンボルも無し、しかも誰も同情なんてしないので、いい気味だと思ったわ。

式森くん、お人好しだと思ってたけど、意外とやる事はやるみたい。


その後、私は助けられたお礼と、彼の秘密が知りたくて、それから何度も彼の家を訪れたわ。

それこそ、ほぼ毎日。

両親が別の場所に住んでいる彼は半ば一人暮らしなので、気兼ねなく彼の家には行けた。

しかも、彼は今時珍しいくらいにウブで、薄着の私の姿に顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまう程。

それが面白くて、何度も彼をからかってしまった。

面白いと感じると同時に、可愛いなんて思いながら。


一週間位して、彼をデートに誘った。

その時は深い意味は無かったわ。精々助けてくれたお礼の延長線くらいなもの。

そのデートで、隣街まで遊びに行ったんだけど、運悪く私がガラの悪い脳みそ腐ってそうな奴らにぶつかってしまったの。

当然絡まれたわ。一緒に居たのが、傍目には気弱にも見える式森くんだったのがさらに悪い方に拍車をかけて。

路地裏に連れ込まれた私達を取り囲む不良ども。

私は魔法で蹴散らそうとしたけど、彼が

「こんな産業廃棄物にも劣る塵に、魔法なんて使ったら勿体無いよ。」

と言って私を守るように前に進み出た。

と言うか、意外と式森くん口悪いのね。日ごろ馬鹿にされていた反動かしら・・・。

そんな事を頭の隅で考えていると、不良の一人が彼の言葉に激怒して殴りかかってきた。

それを彼は余裕で避わすと、足をかけて転倒させ、そいつの右足首を踏み抜いた。

嫌な音と不良の絶叫が響いた。

そんな中、彼は不敵に笑い、挑発的に手を招いた。

群る不良。それを余裕で捌き、一人一人確実にし止めていく彼。

洗練されていながら、どこか獣を彷彿とされる動きに、不良はあっと言う間に全滅。

しかもご丁寧に、必ずどこか骨が折られている。全員一ヶ月はベッドの上でしょうね。

唖然としている私に、いつもの優しい笑顔で手を差し伸べる彼。

普段とのギャップに、私はどんどん彼に惹かれていったわ。


七月も終り、夏本番の八月。

この頃には、私は普通に彼の家に泊まるようになっていた。

別に、恋人のような関係になった訳じゃなくて、普通に勉強とか、そういったことで泊まっていた。

彼の使役(彼曰く仲間)している魔獣達が、思いのほか可愛くて、彼らと遊んでいるのが楽しいのも理由の一つだった。

でも一番大きな理由は、彼と一緒に居たいと思ったから。

彼は、その特殊な能力のためか、それとも魔法回数7回の為なのか判らないけど、同年代とはかけ離れて大人びていた。

周囲の男子はそれが気に食わなくて虐めているのだろうけど、私には逆に居心地が良かった。

私の話す、株とか証券取引とか、そういった話にも、彼は嫌な顔一つせず、逆に詳しく聞いてくれるくらいだった。

仲のよい友達でも、この類の話をすると呆れたり、困惑したりするのに。

私はよく、仲の悪い女子に金に汚いと陰口を叩かれ、半ば自分でも認めている。

そんな私をどう思う?と彼に聞いたら、

「でも、そんな所も含めて松田さんでしょ?僕は好きだよ。」

と、即答で、なんの恥ずかしげもなく答えてくれた。

私は自分でも、赤面しているが判った。

彼の性格で一番難儀なのは、ウブで照れ屋なのに、物凄く鈍感で恥ずかしい台詞を堂々と言ってしまう所だ。

お陰で、彼といると何度も赤面させられる。本人は褒めているだけのつもりだろうけど、こちらには口説いているとしか思えない。

この辺りは、修正が必要だと思ったわ、下手して他の子を口説かれたら大変だもの。

彼と仲良くなって気づいたけど、彼は中々に美形だった。

普段地味で目立たないけど、戦っている時の彼の表情は、思わず胸が高鳴るくらい。

彼の修行、彼の召喚した魔獣との戦いに、私は最近よく一緒に行く。

以前使っていた山は、あの下衆どもの事件で使えないので、今は別の場所で。

剣を使って、魔獣達の攻撃を防ぐ彼を見て、改めて強いことを認識した。

魔法を使っても、彼には勝てないことを実感した時でもあった。


そんなこんなで夏休みも中盤。

既に宿題は彼と協力して終わらせているので心配無し。

となれば後は遊ぶだけなのだが、遊園地や水族館などのデートスポットは満杯だろうし、山は普段から行ってる。

海はどうせ芋洗いだろうしと、行くところが無いのだ。

彼の家のリビングで、ヘルハウンドとお昼寝位しか、やる事が無い。

そんな時、玄関のチャイムが押された。

「ごめん松田さん、代わりに出てくれる?」

キッチンで今日の昼食を作っている彼に言われる前に立ち上がり、彼に返事をしながら玄関へと向かう。

既に勝手知ったる他人の家、私は「は〜い。」と返事しながらドアを開けた。

そこには

「あれ・・・松田・・・さん・・・?」

「・・・山・・・瀬・・・?」

隣のクラスの、山瀬千早が立っていた。

山瀬千早。隣のクラスで一、二を争う優秀な生徒で、魔法回数も私と同じで高い。

性格は誰にでも優しくて世話好き、男女から好かれるタイプだった。

一応、私の情報にも、彼女の人気振りは入ってきている。

何でも、既に上級生を合わせて20人近くに告白されているとか。

しかも全部振っているのだから、凄い子だと思う。

そんな彼女が、何故か彼の家に来た。私は唖然としていると思う。

それは彼女も同じなようだ。

何故、私が彼の家に居て、しかも住人よろしく出てきたのか、とでも考えているのだろう。

「あれ?千早ちゃん、いらっしゃい。」

いつでもマイペースな彼の声がするまで、私達は固まっていた。


とりあえず居間に案内してソファに座ると、寝ていた3匹のヘルハウンド(毎日決まった数だけ出して遊ばせている)の内二匹が彼女に嬉しそうに尻尾を振って擦り寄っていった。

私は少しむっとしながら、残った一匹を撫でていた。この子の名前はワンズ。私を助け、頬を舐めてくれたあの子だ。

どうやら彼女は、彼の家の常連らしい。

その後、人数分の冷し中華と、ヘルハウンド用のご飯を持ってきた彼に説明を求めた。

驚く事に、彼と山瀬千早は幼稚園からの幼馴染で、彼の力のことも知っているのだそうだ。

その事に、私はどこか劣等感を感じながら、冷し中華を食べた。

市販の物ではなく、ちゃんとタレも手作り。炊事に関してはプロレベルな彼。

私は料理はそれほどではないが、洗濯と掃除になら自身がある。

まぁ、それは置いといて。

彼女がやって来た理由は、彼を海に誘いに来たらしい。

しかも、泊まりで。

なんでも、ペンション付きの貸しプライベートビーチのチケットを貰い、6人までなので彼を誘いにきたらしい。

他には、彼女と彼女の妹、彼女の親友、そして彼の現時点での保護者代理を誘うのだそうだ。

私は、楽しそうに話す二人との距離を感じて、ワンズの頭を抱きしめた。

今年の夏は、彼とずっと居られると思ってたのに・・・。

ワンズも私の気持ちを察してか、く〜ん・・・と寂しそうに鳴いていた。

そんな私の思いを知ってか知らずか、彼はマイペースに笑顔を浮かべて

「松田さんも来るでしょ?日にち大丈夫?」

と聞いてきた。

これに驚いたのは、私と山瀬。

私は誘われるとは思わなかったし、彼女も誘うかどうか迷っていたような素振りだった。

「わ、私も行っていいの?」

と聞けば

「うん。あ、でも千早ちゃんのチケットだから僕が言うべきじゃないか。駄目かな、千早ちゃん。」

「だ、大丈夫だよ、ちょうど一人余ってたし。」

少し顔を赤くして慌てて答える彼女。

そりゃ、寂しげな子犬のような瞳で見られたら断れないわよね・・・。

本当に、無自覚で優しくて鈍感なんだから。

その後、彼の保護者代理にも話がつき、私たちは泊まりで海へ行く事になった。


数日後、私たちは式森くんの姉と名乗る(実際は親戚らしい)伊庭かおりさんの運転で海へと来ていた。

山瀬のチケットに記載されていた場所へ行ってみると、そこには割と豪華なペンションとそれに付属する形のプライベートビーチ。

周りには全く海水浴客は居なく、私たちはハメを外して遊んだ。

途中、式森くんがヘルハウンドや水生の魔獣達を出して、それを見た山瀬の妹の神代ちゃんと私と同じクラスの沙弓(なんと彼女が山瀬の親友だった)が驚いて一時大変だったりしたけど、とても楽しい海水浴になった。

その後、肝試しをしたり、花火をしたりして夏を謳歌した。

そして、花火が終わった後、後片付けをしていると山瀬と二人きりになってしまった。

「・・・・・・・・ねぇ、松田さん。」

「ん?なに、山瀬さん。」

お皿を洗っていた手を止め、少し俯きがちに山瀬は話しかけてきた。

因みに神代ちゃんはかおりさんと外で片付けをしている。

沙弓と式森くんは・・・たぶんその辺に居るだろう。

「・・・・・・・・・・・・・・和樹くんの事・・・・好き・・・なの・・・・?」

「――――ッ」

ああ、やっぱりきた。そんな気はしていたのよね。

私と楽しげに笑う彼を見ていた彼女の顔。そして彼女と一緒に居た彼を見つめていた私の顔。

どちらも気付いていた。同じ人を好きだという事を。女の勘もあったけど。

「・・・・・・・・・・・・私はね、ずっと前から好きだった・・・和樹くんの事・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

俯いたまま胸の内を告白する山瀬。

私も黙って彼女の言葉を聞いていた。

「・・・・和樹くん、普段から鈍感で色々なことに無頓着で・・・それなのに他人の事には敏感で・・・優しくて・・・。ずっとね、言えなかったんだ、好きだって・・・。言って、もし断られたらって思ったら怖くて・・・でもね、言わないまま、伝えないままで終わるのはもっと嫌!だから・・・私は和樹くんに伝えるの・・・好きだって。この旅行の最後の日に・・・。」

「・・・・・・・・・・山瀬・・・・さん・・・・。」

ああ、なんて彼女の顔は綺麗なのかしら・・・。

意思の固まった、強い瞳。

私もこんな瞳を・・・しているのだろうか・・・。

「・・・・・松田さんは、どうなの・・・?」

「・・・・・・・・・・・。」

山瀬の言葉に数瞬考え込む。

でも、考える必要は無い。だって私は彼が好き。式森和樹が大好き。

彼が落ちこぼれでも実は凄い奴でも関係ないわ。私は、私の気持ちに正直に生きる。

だって、彼の隣にずっと居たいから・・・だから。

「私も・・・・彼が好き。大好きよ。確かに、私は彼と知り合って間もないわ・・・でも、そんなの関係ないもの。私は彼が好き。大好き。この気持ちだけは、嘘じゃない。」

「・・・・・・・・そっか、なら、私たちライバルだね。」

そう言って微笑む山瀬。私も微笑む。

「ええ、お互い正々堂々と・・・戦いましょう。」

「うんっ」

私たちは固い握手をする。

正々堂々か・・・本来の私なら確実な勝ちのために卑怯な事もするんだろうけど・・・恋の戦いだけは真っ向から戦わないと。

でないと・・・彼に見合う女になれないと思うから。

「でも知ってる?和樹くんの事好きな人、他にも居るんだよ?」

「ええっ?それ本当なの山瀬さんっ」

「あ、私の事は千早でいいよ。」

「そう?なら私も和美で良いわ。よろしくね千早。」

「うん、和美。」

ライバルだけど、それ以外なら彼女とは親友になれる・・・そんな確証があった。

「あのね、かおりさんも和樹くんの事狙ってるみたいなの。時々行動が露骨だったり。」

「そう言えば、今日も彼にオイル塗りさせてたわね・・・。」

ちょっと童顔だけど美人なかおりさん。ライバルとしてはかなりの強敵。

まぁ、ちょっと球に傷な部分も多いけどね・・・。

私たちはその後も、洗い物をしながら互いの情報を交換した。

私の知ってる彼。千早の知っている彼。私たちも知らない彼。

そんな事を色々話した。

その後、洗い物が終わって寛いでいても彼と沙弓が帰ってこなかった。

彼は言うに及ばず、沙弓も退魔を生業としている杜崎家の、しかも当主候補。

そこいらのチンピラ程度じゃ話にならないから心配は少ないけど・・・。

それでも心配になった私たちは二人を探しに行こうとした。

そしたら、彼が沙弓を背負って帰ってきた。

なんでも、沙弓が悪霊払いをしていたら足を捻挫してしまったらしい。

そして彼が背負って帰ってきた。普通ならそれで納得する。

でも・・・・・・・

「その、ありがとう式森君・・・強いのね。」

「いや、僕はまだまだだよ。それより足大丈夫?」

「ええ、平気よこれくらい。・・・でも、もう少しだけこのままで・・・・。」

「うん。」

なんて、なんて、ほの甘い雰囲気で帰ってきたのよ!?

私も千早も、そしてかおりさんも額に青筋浮かべた笑顔をしていた。

そう、沙弓・・・貴女もなのね・・・。

私と千早はアイコンタクトで頷き合い、彼女の世話をすると言ってお風呂に引きずり込んだ。

そして彼に対する沙弓の気持ちを確認。

結果は黒。それも真っ黒。完全に沙弓も彼にぞっこん。しかも初恋らしいわ。

私と千早はため息をついて肩を落とした。

「拙いよ和美ぃ、このままじゃライバルがどんどん増えちゃう・・・っ」

「そうね、式森くん物凄い鈍感だから全っ然っ気付かずに女の子口説くし・・・こうなったら私たちで彼を守るのよっ!」

「わ、私たちで?」

「そうよ、千早も沙弓も彼を渡したくないでしょう?」

「「(こくこくっ)」」

「なら、私たちで彼をガードして、これ以上女の子を惚れさせないようにするの。その為になら、多少の接触も厭わないわ。」

例えば、キスとかハグとか・・・その・・・男女のゴニョゴニョとか・・・。

むしろ、鈍感な彼に気付かせるにはそれくらいしないと駄目だろうから。

「まずは夏休み明けからよ。頑張りましょう!」

「うんっ」

「分かった。」

私たちはお風呂場で固い約束を交わした。

その後、中学生にしては成長が凄い沙弓の胸の話に移ったのは年頃だからってことで。

そして旅行最後の日、私たちは三人で好きだと伝えた。

面食らった彼の顔は、未だに鮮明に思い出せる。

そして彼の返事は・・・全員NO。

と言うより、皆好きだから誰も選べないですって。

ほんとに博愛と言うか、優柔不断と言うか・・・。

まぁ、そんな所も含めて好きな訳で・・・私たちも諦めなかった。

『絶対に私を好きにさせてあげるっ』

三人で口を揃えてリベンジを誓った。

いっそ三人一緒でもいいかな〜なんて思っちゃったりもしたけど。

千早も沙弓も、彼を諦める気は無かったし。

だからここからが始まり。私たちの戦いの。彼の為の戦いの。


で、私たちはまず最初に彼を苛めている目障りな連中の排除から始めたわ。

主に私と沙弓とで彼を庇い、口で私が、暴力で来るなら沙弓が相手した。

効果はあったらしく、以後彼の魔法回数での苛めは無くなった。

彼は苛めの事は気にしていないようだったが、苛めが無くなったのは素直に感謝しれくれた。

ただ、その後に彼に対しては嫉妬とか妬みの言葉が多くなったのは・・・私たちのせいなのかしら・・・?

そして私たちはいつも一緒に行動した。行事も文化祭も修学旅行も一緒。

進学する学校だって一緒になった。

魔法関係においては一番と言える葵学園を私たちは受験し、見事合格。

心配だった彼も、何とか合格できた。

そして高校生活が始まった。

残念ながら千早は別のクラスになってしまったけど・・・それで良かったのかも。

私たちのクラス・・・B組なんかに彼女が在籍したら大変だ。良いように利用されてしまう。

最初の頃は普通のクラスに思えたのに、何故かこのクラスは問題児ばかりのクラスで、マトモと言える人間なんて彼しか居なかった。

私も沙弓も、彼の事になると少々その・・・はっちゃけてしまうのでマトモとは言えないみたい。

まぁ、沙弓は一応マトモ『系』みたいだけど。

でも案外計算高いのよね、沙弓って。

それ言ったら私なんていつの間にかB組最強の策士なんて言われていた。

彼を守ろうとして頭を働かせていたら自然と・・・ね。元々そういう性格でもあったし。

でも一番の問題なのが彼。

相変わらず、むしろさらに酷くなった鈍感女殺しぶりで、クラスの女子の大半が撃沈。

全員撃沈までもうカウントダウンが始まっている。

癖の強い連中ばかりで、流石の私たちでも守り通せなかったの・・・。

でも相変わらず彼は鈍感マイペース。好かれているなんて微塵も思っていないみたい。

安心だけど凄く不安。

でも、私は絶対に諦めない。

彼の隣を歩むために・・・・私の戦いはまだ始まったばかりなんだからっ。


和樹・・・・覚悟してよねっ♪


第一話に続く。


モンスター図鑑

ヘルハウンド
魔界の灼熱の荒野に生息する黒い猟犬。
炎を吐き、集団で狩りを行う。知能は高く、賢い。
固体の戦闘能力も高い方で、身体は大人で2メートルほど。大きくなると4メートルにもなる固体も居る。
凶暴に思われがちだが、主には絶対忠誠で子供を群全体で育てたりする。
和樹は彼らを12匹使役している。


あとがき。

こんなの和美じゃな〜いっ!!(笑)

と、自分が書いたくせに叫ぶラフェロウです。

ちょっと前に突然書きたくなったクロス物(?)で、モンスターコレクションとのクロスだったりします。
が、クロスと言ってもモンスター達が和樹とかに召喚されるだけなので、六門世界とか関係無かったり(何)
しかも何故かヒロインが和美達だったりするこのお話。
一応夕菜達も登場しますが、あまり目立たなかったり。
このお話の和樹君はかなりマイペースで大人。博愛だけど毒舌だったりします。
あとエロが少ない話です。
さらに予定だけですが他の作品ともクロス予定のあった話で、一応最初はこれを投稿しようと思ってました。
ただクロスが予想外に難しいので、今まで封印。
今回試しに投稿してみました。
もしも評判がよければ、この話ももう一つと平行して投稿していこうかなと。

・・・・複数の作品投稿ってOKでしたよね・・・?(汗

剣の魔法使いの方は現在書き直し中です。
凛ちゃんが大変な事になっているので(汗)
やっぱりバニーさんは拙かったか・・・(何)

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