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「機械仕掛けの魔術師 第2話(まぶらほ)」

漢長 (2005-09-06 02:41)
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沈黙

痛いほどの沈黙が、その場を支配していた。

その場にいるのは4人。その内、宮間夕菜、風椿玖里子、神城凛の3人が、1人を見つめている。

そして、その3人に見つめられている1人の名前は式森和樹。

但し、左の肩から機械を生やしているモノを人間と数えるならばであるが……


「なによ…あれ。」

沈黙の中玖里子が、言葉を発する。

「わかりません。何かの機械の様に見えますが……」

玖里子の言葉に続くように今後は凛が喋りだす。夕菜はまだ状況が掴めず唖然としていた。

「そんなこと見れば解るわよ!私が聞きたいのは、何で和樹にあんな物が生えているかってことよ!」

「そんなの私が知るわけ無いじゃないですか!」

「何ですって!」

ビキビキビキ!

「「「!!」」」

玖里子と凛の口論が白熱するなか和樹の肩から生えている機械が音を立てて徐々に小さくなりつつ和樹の左肩に収まっていく。


ドサッ


機械が納まると同時に和樹は崩れるようにしてその場に倒れた。

「かっ、和樹さん!大丈夫ですか?!」

状況が把握できずに唖然としてた夕菜は和樹が倒れるのを見て我に返り和樹に駆け寄る。

そして、意識が無いの気付き揺り起こそうと和樹の肩を掴む。

「ちょっ、ちょっと夕菜、意識が無い人を揺らしたらダメ「玖里子さん!大変です!和樹さんの体が冷たいです!」何ですって!!」

夕菜が和樹を揺さぶるのを止めようとした玖里子が夕菜の言葉を聞いて慌てて駆け寄る。

「本当なの?!」

「はい。息はしているんですけど、意識がありません。」

夕菜の言葉を聞いた玖里子が和樹の体に触れてみると確かに冷たかった。

「本当だわ。体温が低い、呼吸も浅いし。」

「救急車!救急車を呼ばなきゃ!」

パニックになって慌てる夕菜。ポケットから携帯を取り出し番号をプッシュする。

但し、お約束のように時報(117)や海上保安庁(118)に掛ける。

「落ち着きなさい。夕菜!」

一方凛は、夕菜と玖里子のやり取りを見たことで冷静になり先程のこと考えていた。

(あいつの肩から生えてた機械、あれが夕菜さんの魔法を防いだのか?だとするとあれは防御結界若しくはそれに準ずるモノを発生させる機械ということになる。)

(馬鹿な!そんなものが在るなんて聞いたことも無い!仮に在ったとしてもあの短時間であれだけ強力な結界を張ることが出来るなんて。大体結界を張る為の魔力はいったい何処から…)

などと考えている内に夕菜は徐々に落ち着き始めてきた。

「とりあえず普通の病院は止めといた方が良いわね。家の系列の病院に電話してこっちに来てもらいましょう。」

そう言い玖里子は自分の携帯で掛けようとする。

「やれやれ、あれほど気をつけように言ったのに。」

玖里子が携帯で病院に掛けようとした直前、いきなり男性の声が聞こえた。

驚いた玖里子が声の聞こえた方を見るとそこには玖里子がよく知る人物が立っていた。

「「紅尉先生!」」

「え?夕菜知ってるの?」

「はい。父の知り合いです。」

玖里子が夕菜が紅尉を知っているのに驚くと夕菜がそう答えた。

「とりあえず病院に電話を掛けるのを止めてくれないか?」

「そんな!先生は和樹さんを殺す気ですか?!」

紅尉の言った言葉に夕菜が反論する。

「そうじゃない。私は、式森君の主治医をしてるからね。呼ぶ必要が無いのだよ。」

「紅尉先生がですか?」

紅尉の言葉に対して凛が聞いてくる。

「そうだ、にしても凄い有様だな。」

紅尉は和樹の部屋を見渡して驚く。

「あ、あのこれはちょっとした事情がありまして。」

紅尉の言葉に対して夕菜が恥ずかしそうに答える。

「まぁいい。とりあえず式森君を何処か診察できる場所に連れて行こう。」

そう言って紅尉は和樹を持ち上げ部屋から出て行こうとする。

「君たちも来るかね?」

紅尉は夕菜たち3人にそう聞く。

「はい、和樹さんのことが心配ですから。」

「いいわ。付いていきましょう。」

「私も付いていきます。」

夕菜と玖里子は、凛が付いてくるのに顔を渋らせたが和樹が心配なのでとりあえず無視した。いざとなれば自分たちが守ればいいのだ。

「そうか。」

紅尉は、そう言うと歩き始める。


――葵学園 保健室――

「で、何でここなの?」

保健室に着いた早々玖里子がそんなことを言う。

「ここには、必要な機材が一通り揃ってるからね。」

紅尉は和樹をベットに寝かしながらそう答える。

「そうですか。」

因みに少し前まで魔法回数測定が、行われていたが急きょ中止になり生徒は全員締め出された。

「ところで風椿君。先ほどここに来る前に何処かに電話を掛けていたみたいだけど、まさか病院じゃないよね?」

「そのことなら心配要りません。ちょっとしたアフターケアです。」

「そうか、ならいい。」

「そんなことより!和樹さんは大丈夫なんですか?!」

二人の暢気なやり取りにやきもきした夕菜が紅尉に詰め寄る。

「まぁ、落ち着きたまえ宮間君。今から診察をするから。」

紅尉はそう言うと棚から機械を取り出す。

「なんですかその機械は?」

紅尉が見た事も無い機械を出したのを見て凛が質問する。

「その機械、確か和樹さんの部屋にもあった物と同じですね。」

紅尉が持ている機械に見覚えがある夕菜が紅尉に訊ねる。

「ん。そういば予備は式森君の部屋にあるんだったな。」

そう言って紅尉は機械から伸びているコードの先のバンドを和樹の左腕に巻きつけ機械を操作し始める。

ピッピッピッ

夕菜たちはそれを静かに見つめている。

ピーーーーーーーッ

暫くして心拍計の心停止のような音が鳴る。

「和樹さん!!」

その音に驚いた夕菜が和樹に近づこうとする。

「心配ない、メンテナンスモードになった事を知らせる音だ。」

「メンテナンスモードですか…」

「暫くすれば目が覚めるから君たちは帰ってもいいよ………と言っても帰らなさそうな顔だね。」

3人の顔を見て紅尉がそう言う。

「当然です。あんな物を見て黙ってなんていられません。それに、メンテナンスモードって何ですか?それじゃまるで「機械みたいだ。そう言いたいのだろ?」…はい。」

玖里子が質問している途中で紅尉がそう答える。

「患者のプライベートは話したくは無いのだか……変に調べられるのも困るし…仕方が無い話すとしよう。」

紅尉はそう言うとコーヒーを作って椅子に座る。

「……ただ、話すにあたって一つ条件がある。」

紅尉は真剣な顔で3人を見る。

「はい。」

「解りました。」

「条件にもよります。……まぁ、大体解りますが」

夕菜と凛は二つ返事で了承するが、玖里子は、紅尉の言葉に易々と了承しなかった。

「今から話すことを誰にも言わないこと。これが条件だ。」

条件を言って紅尉は、玖里子を見つめる。

玖里子は暫く黙って

「……解りました。」

了承した。

「そうか、なら話そう。その前に、君たちも座りたまえ長い話になるからね。」

玖里子が了承したのを見て紅尉が話し始める。


「まず最初に言うと式森君の左腕は分かり易くいうとあれは義手だ。」

「義手ですか。昔、事故にでもあったんですか?」

凛が紅尉の言葉に対して質問する。

「そんな訳無いじゃない。あんな高性能な義手が在るなんて聞いたことも無いわ見た目も質感も本物と同じで体温と脈まであるし。それに例え義手だとしてもあんなのが付いてるなんて普通じゃないわ。」

紅尉は、玖里子の話を聞きながらコーヒーを一口飲む。

「確かに風椿君の言うとおりあんな高性能な義手は今の技術では不可能だ……表向きはね。

「表向きは…ですか。」

紅尉の答えに対し玖里子がそう聞き返す。

「ところで君たちは式森君についてどの位知っている?」

「「「?」」」

「どの位と言っても…実家が代々神社で、その血には世界中の有名な魔術師の血が入ってて。だけど、本人は魔法は3回しか使えなくて…」

玖里子がそう言うと、続くようにして凛が

「成績、運動共に平凡。部活に入らず趣味は無し。欠席と遅刻の常習者。」

「でも、とっても優しい人でキャッ♪

凛に続いて夕菜が答える。

ムッ! そう言えば、学園に届けてある書類の身元保証人の欄に紅尉先生の名前が書いてありましたけど。」

玖里子は、夕菜の言葉にムッとしながらも紅尉に質問する。

「え?紅尉先生の名前がですか?和樹さんの両親の名前じゃなくて?」

「それも、これから話す事に関係しているのですか?」

玖里子の言葉に夕菜と凛も紅尉に聞く。

「そう言うとことだ。」

そう言い紅尉はまた、コーヒーを飲む。

「式森君の身元保証人の欄に私の名前がある理由。それは、彼の両親はもうこの世に居ないからだ。」

「「「!!」」」

夕菜達3人は紅尉の言った言葉に驚いたが紅尉はそれを無視して話を続ける。

「今から11年前になる。式森君の実家である式森神社は深夜に突然、爆発して炎上してしまったのだよ。」

「原因は台所からのガス漏れ。そして、不幸なこと彼の家が火事になる少し前に町外れの製薬工場が原因不明の火事になっていてね。」

「結構大きな工場だったらしくて消化のために町の全ての消防車がそちらに行って彼の家は後回しにされた。」

「結果、家は全焼し焼け跡から大人2人の焼死体が発見されたらしい。」

「まさか、その焼死体ってのが…」

紅尉の説明に対して玖里子が質問する。

「そう、式森神社の神主夫妻。つまり式森君の両親だ。」

「では、式森の左腕はその時に?」

紅尉の説明に今度は凛が訊く。

「いや、焼け跡から生存者は確認されていなかったらしい。」

「え?じゃ、和樹さんはその時家に居なかったんですか?」

そして、夕菜も紅尉に質問する。

「いや、式森君は間違いなくその日、その時間に家に居た。遺体が無かったのは彼が子供だった為、骨も残らす燃え尽きてしまったと警察は判断したらしい。」

「じゃなんで………「彼は攫われたのだよ。火事はそれを隠蔽する為のものだった。」…え。」

なら何故、和樹が今生きているのか夕菜がそう質問しようとしたとき紅尉が話し始めた。

「式森君の魔法使用回数は本来8回あったらしい。しかし、5歳〜6歳の時に一年という短期間で5回も使用してしまった。」

「そして、その発動した全ての魔力は凄まじモノばかりだった。」

「それこそ一流の魔術師が、何人も集まってようやくできる大魔術や中には禁呪レベルの物まであったらしい。」

「「………」」

夕菜と玖里子は、何か思い当たる事があるのか表情が曇る。

「その為、その凄まじい魔力をある組織が目を付けて攫われてしまったのだよ。」

「待ってください。先生はなぜ和樹が5、6歳の時に5回魔法を使ったのを知っているのですか?それに攫われた事についても」

「ん?それは、私と式森君の父親とは旧知の仲で彼から息子、つまり式森君の事について相談されていたからだよ。」

「息子の強大な魔力をどうにかして抑えることは出来ないだろうかって。」

「攫われた事については、少し考えてみればわかることだ。」

「深夜、使われていない筈の台所でのガス爆発。いくら全焼したとしても子供とはいえ骨も残らないなんてある訳がない。」

「それに、警察は秘密にしているが式森夫妻は頭部を何かで殴打された後があったらしい。」

「なんで、警察はその事を隠したんですか?」

「さぁ?それは私にも解らない。証拠不十分で捜査出来なかったのかあるいは上からの圧力か…」

「まぁ、そういう訳で私は知り合いに頼んで式森君を探してもらったんだが…」

「先生、先生はなんで式森を探そうと思ったんですか?」

先ほどまで黙って聞いていた凛が紅尉に質問する。

「それは、彼の父親から自分たちに何かあったら息子を頼むと言われてたからね。もしかすると彼らは何か予感していたのかも知れない。」

「まぁ、私自身が式森君を貴重な研究対象として見ていたのもあるわけだが…」

そう言うと紅尉は3人から鋭い目で睨まれた。


「……うぉほん! ともかく、私は知り合いと一緒に式森君を探して世界中を飛び回ったわけだ。」

「で、2年後とある施設で彼を見つけたわけなんだが……その施設がつまり、その…なんだ…

紅尉は何故か説明するのを渋り始めた。

「紅尉先生。はっきりとおっしゃってください。」

紅尉の煮え切らない態度に対して玖里子が言う。

「……人体実験を目的とした施設だったんだ。」

「人体…実験。」

「一体なんの目的で…」

「兵器としての兵士を作る、それがその施設の目的だ。」

「そんな!じゃその施設にいた和樹さんは!」

凛の呟きに続いて玖里子が質問し、紅尉が答え夕菜がそう叫ぶ。

「そう、彼もまたそこで人体実験をされていた。」

「それを知った私は、知り合いと2人でその施設に式森君を救出する為に侵入したわけなんだが……」

「そこで発見した彼はとてもじゃないが見るに耐えるものじゃなかった。目は虚ろで頬は痩せこけ体には明らかな薬物投与の後があり手術痕の後もあった。」

「彼を見つけた後、私はその施設のデータバンクから彼の研究データをコピーして施設を爆破し彼を連れて知り合いと3人で脱出した。」

そこまで言うと凛が紅尉に訊ねてきた。

「まってください。その施設には式森以外の被験者は居なかったのですか?」

「私も知り合いもだ脱出する前に、一応調べたが式森君以外の被験者は全員死亡していた。」

「……」

「ヒ、ヒドイ。」

「人間のやることじゃないわね。」

「もしかすると、くまなく探せば生存者はいたかも知れないが私も知り合いも式森君を助けるので精一杯でとても他人を助ける余裕など無かった。」

「「「……」」」

「その後、私は知り合いと別れると式森君を連れて日本に帰り彼を診察した訳だが、彼の状態は想像以上に酷いものだった。」

「奪った施設のデータによると彼に行われた実験は生物と機械とのナノ単位での融合…彼は、体の各所を機械のそれに掏りかえられていた。」

「じゃぁ、和樹さんの左腕は…」

「いや、左腕だけじゃない。右目に右腕の肘から下、両足に心臓と肺に至るまで機械のそれになっていた。」

「更に体内には、体の各武装を使う為のエネルギーを集める為の魔力収集装置と小型の多目的レーダーそれに彼をサポートする為の小型人工頭脳が埋め込まれている。」

そこまで言うと玖里子が紅尉に話しかける。

「先生、一つ質問です。和樹は、攫われてから体を弄られたんですよね?」

「そうだ。」

「なら、和樹は6〜7歳の時に手足を機械にされたわけですよね?ならその後、成長していった時にそのつど手足を新調していったのですか?」

「いや、そんなことはしていない。なぜなら彼の手足は彼の成長に合わせて大きくなっていったからね。」

「そんな!機械がですか?」

玖里子の質問に紅尉が答え更に玖里子が質問する。

「さっきも行ったように彼に行われたのは生物と機械のナノ単位での融合。体が成長しているのに手足が成長しなければ調和が取れず意味が無い。」

「でもどうやって?」

今度は夕菜が質問した。すると

「…ナノマシンテクノロジー」

玖里子がそう呟く。

「ナノマシンテクノロジーなんですかそれ?」

玖里子の呟きを聞いた凛がそう訊ねる。

「ナノマシンテクノロジー。それは、ナノつまり10のマイナスの9乗サイズの極小機械を使った技術で医療関係などで使われている。」

凛の質問に紅尉が答える。

「しかし、それもまだ試験段階で一般に普及はしていません。しかもナノマシンの軍事利用だなんてそれこそ夢物語です。」

「確かに風椿君の言うとおり現状のナノマシンテクノロジーはその程度だ。だが、彼がいた施設ではナノマシンテクノロジーは現状の1歩も2歩も先を進んでいた。」

「事実、施設に有ったデータでは彼以外の被験者が何人も存在していた。それに彼のナノマシンは少し特殊でナノマシンテクノロジーだけでなく魔術理論も導入されていて材質も錬金術で造られた精神感応金属を使っているらしい。」

「精神感応金属って何ですか?」

「その名の通り触った者の意思や上で感情によって姿形を変える金属のことだ。一部の古代魔道具等に使用されているが現在ではそれを造れる者は殆どいない。」

「そんな、科学と魔術、それに錬金術の融合なんて完全なオーバーテクノロジーじゃない。」

紅尉の言葉に玖里子が驚愕する。

「そう、彼の体にある物はその殆どが現在の技術でから逸脱している物ばかりだ。そして、それは、人体実験をしていた連中でも同じだ。故に彼の体の機械は全てが試作、実験段階で不安定な物ばかりだ。」

「では、式森の遅刻と欠席の多さはそのせいなのですか?」

「その通り、彼の人工心臓が安定して稼動しない為体の血液循環が悪くてね。眠った時なんかそれこそ死んでいるように見えてしまう。」

「そうですか…」

凛は、紅尉の説明にで自分が彼に対して無慈悲なことを言ったのだと思った。彼は、そんな不安定な体でそれでも出来るだけ学校に行こうとしているのだから。

「まぁ、彼には元々寝坊癖が有ったんだか……」

「……」


ピシッ!


凛が持っている刀の鞘に嫌な音を立てて罅が走った。

「り、凛さん落ち着いてください。」

「り、凛落ち着きなさい。話はまだ終わってないんだから。」

紅尉はそんな3人のやり取りを見ながら話を続ける。

「しかし、式森君は体もそうだが心の方も深刻な状態だった。」

「…心ですか。」

紅尉の言葉に夕菜がそう言った。

「彼はね、記憶が無いのだよ。」

「記憶がですか。しかし、施設にいた時の記憶が無いのはある意味好かったのでは「無いのは施設にいた記憶じゃない施設に連れて行かれるまでの前の記憶全てが無いのだよ。」…え。」

「人間は自分の許容範囲を明らかに超えている事実を突きつけられると自己の精神を守る為何らかのことをする場合がある。二重人格、あれがいい例だ。」

「式森君の場合は周囲の過酷な境遇に対してその境遇が当たり前、普通だと思うことにした訳なのだが。」

「しかし、自分の中にある6年間の記憶や思い出が存在する為にそう思うことも出来ない。なら、記憶や思い出、感情を消してただ相手の言うことを聞く人形になってしまえばいい。彼は幼い心でそう考えたのだろう。」

「事実、彼は救出された後病院に入院中、こちらの言った事に答えたり行動したりしたがそれ以外のときは何もせずベットに座って何も無い空間をただ見つめることしかしなかった。」

「でも、今の和樹さんにはそんなだった面影なんて全然在りません。一体どうやって治療したんですか?」

「それは山瀬君のおかげだよ。」

「千早さんがですか?」

「山瀬、誰ですかそれは?」

聞いたことの無い名前に凛が質問する。

「山瀬千早、2−Fにいるうちの生徒よ。」

玖里子が凛の質問に答える。

「当時の式森君の心を癒すには、同じ年齢の子供と触れ合わせることが一番効果的だと思い彼を学校に通わせたんだ。」

「そして、彼が通う事になった学校に彼女も通っていた。」

「彼女は、式森君の幼馴染でね。彼と再開した時、彼女は彼の豹変ぶりにそれは驚いていた。」

「がそれでも彼とコミニュケーションをとってくれたおかげで記憶こそ戻らないが心の方は徐々に癒されていった。」

「それじゃぁ、和樹の子供のときの記憶は今でも戻っていないんですか?」

「そういうことだ。」

「…千早さん、手紙にはそんなこと一言も書いてなかった。」

そう夕菜が呟く。

「聞いた話では幼いころの宮間君は、度重なる引越しで人間不信におちいり情緒が不安定だったそうじゃないか。」

「はい。私は余り覚えていませんけど両親からそう聞いています。」

「おそらく山瀬君は手紙で式森君の事を書いてはいたのだろう。」

「だが、君の両親がそういったことが書いてある手紙を君が見つける前に処分していたのだろう。」

「そんな!」

「健太郎も君の事を思っているからこそ手紙を処分していたんだ。許してやってくれとは言わないが少しはその親心を解ってやってくれないか。」

そう言って紅尉はスッカリ冷めてしまったコーヒーを飲み干した。

「これで私が知っていることは全て話した。」

「これを聞いて君達が式森君に対して今後、どのように接するかは君達自身が決めることだから私からは何も言わないつもりだ。だか、最初に言ったようにここで話したことは誰にも話さないでくれたまえ。」

そう言うと紅尉はもう一杯コーヒーを作った。

「「「………」」」

キ〜ン〜コ〜カ〜ン〜コ〜ン

夕菜達が俯いてると校内スピーカーから午後の授業の終了を告げるチャイムが鳴る。

「午後の授業も今終わったことだし君たちはもう帰りなさい。そんな状態では部活や生徒会の活動に身が入らないだろ。宮間君も今日はもう帰りなさい。」

「そうした方がいいみたいね。」

「…そう…ですね。」

「はい、私も今日はもう帰ります。」

3人はそれぞれそう言うと立ち上がり保健室のドアに向かって行く。

「そうか、なら気をつけて帰りたまえ。」

「「「失礼しました。」」」


――葵学園 校庭――

「まさか式森の過去があんな物だったなんて。」

「そうね。今の和樹からじゃ想像できないわね。」

「それを考えると凄いですね千早さん。」

夕菜達は話し合いながらトボトボと歩いていた。

「で、貴方達これからどうするの?」

突然、玖里子が夕菜と凛に質問してきた。

「どうするって何をですか?」

質問の意図がわからず凛が聞き返す。

「和樹の事に決まってるじゃない。」

「言っとくけど私は諦めないわよ。」

玖里子は自分の意思を明確に言う。

「せっかくのチャンスだもの諦めてたまるもんですか。」

「私だってそうです。和樹さんがなんであれ和樹さんは和樹さんです。」

夕菜もそう宣言した。

どうやら夕菜には玖里子の呟きは聞こえなかったようだ。

「凛、貴方はどうするの?」

「…私も暫くは式森の側に居ようと思います。」

「なんで?貴方は和樹と結婚したくないんでしょ?」

「まさか凛さん、まだ和樹さんの命を狙ってるんですか!」

「違います!あ、あれは本家から式森と結婚しろと言われて頭に血が上って周りが見えなくなって…今思うと自分でも度が過ぎたと思います。」

「私が式森の側に居る理由は、少し気になることがあるからです。」

「そう。まぁ好きにしなさい。」

玖里子は割とあっさり認める。

「気になることですか?」

一方夕菜は、凛の答えに少々疑問を感じたらしい。

「はい、好きにさせてもらいます。」

(あの時、式森が死んだと思ったとき私は何故あんなに悲しかったのだ?私はその理由を知りたい。)

その頃、葵学園保健室

「…ん」

「お、式森君。どうやら目が覚めたらしいな。」

「紅尉先生。ここは……保健室ですか?」

「そうだ。何があったか覚えてないかね?」

紅尉がそう言うと和樹は寝起きでハッキリしない頭を使って考える。

「確かあの時、3人が争い始めて3人の顔を見てたら突然頭痛がして。宮間さんの声が聞こえたから顔を上げたら攻撃魔法が迫っててやばいと思ったら気が遠くなって気がついたらここに居ました。」

「そうか。おそらく攻撃魔法が接近したのに君が咄嗟に判断できなかったんでサブブレインがエマージェンシーシステムを発動させたのだろう。」

「で、その後君は気絶して私がここに運んだわけだが」

和樹は紅尉の言葉を聞いた後その事を確かめ始めた。

「ちょっと待ってください。」


《メインよりサブへ要請最新の兵装及びシステムの使用履歴を提示せよ》


ピッ!

さぶぶれいん了承

最新ノ兵装使用経歴ヲ表示シマス

13時42分37秒25ニ高純度ノ攻撃魔術ヲ感知

13時42分38秒06ニめいん攻撃魔術ニ対シ非対応緊急事態ト判断シさぶぶれいんノ第弐級緊急権限ニヨリえまーじぇんしーもーどヲ起動

13時42分38秒57ニ第参種りみったーヲ強制解除不可視ノ盾ヲ出力45%デ展開

13時44分56秒36ニ周囲ノ戦闘行為沈静危険れべる低下ト判断シ不可視ノ盾ヲ収納えまーじぇんしーもーどカラのーまるもーどニ移行

「……どうやらそうみたいですね。」

「確認したのかね?」

「はい。」

「そうか。」

「あの〜」

「ん?なんだね。」

「彼女達、あの後どうしたんですか?」

和樹は、夕菜達のことが気になって紅尉に聞いてみた。

「風椿君達ならもう帰ったよ。」

「帰った。そうですか。」

「あぁ。あの後君をここに連れて来た私と一緒に来て、そして君の体の事を話した。」

「……そう…ですか。」

それを聞いた和樹の表情に少し影がさす。

「君の了解も無しに体の事を話したのはすまないと思うが、あの時はそうでもしないと彼女達も納得しなかったみたいだったからね。」

「いえ、先生の判断は正しかったと思います。」

そう言って和樹は紅尉に心配を掛けまいとする。

「そうか、そう言ってくれるとこちらも助かる。」

「まぁ大丈夫だろ。彼女達は、君の体の事をばらさないだろうし念のため話す前に誰にも喋るなと釘を刺しといた。」

「色々とご迷惑を掛けます。」

「なに、君の事は両親からよろしく頼むといわれてたからね。君が気にすることじゃない。」

「…はい」

「それと、今日はもう授業も終わってるから帰って休みなさい。」

「解りました。」

そう言って和樹は保健室から出ようとする。

「あっ、式森君。ちょっと待ちたまえ。」

和樹が保健室から出る直前、紅尉が声をかける。

「はい、なんですか?」

「冷蔵庫にアレが入ってるから持って行きなさい。」

「アレ…ですか。」

「そう、アレだ。今日はエマージェンシーモードが発動したことだし最低でも2ℓは飲みなさい。」

「あの、2ℓも飲んだら夕食が食べられないんでけど……」

「そんなこと言ってもアレ飲まないと後が辛いよ。」

「それはそうですけど……じゃぁ、あっちにしてくださいよ。飲む方じゃなくて打つ方。」

そう言って和樹は、注射を打つジェスチャーをする。

「ダメだ。アレは飲む方の何倍もの濃度だから緊急時以外使っちゃいかん。」

無慈悲に和樹の願いを却下する紅尉。

「倒れたんですから緊急ですよ。」

それでもなお食い下がる和樹。

「式森君。君、今日寝坊して朝から第四種リミッターを解除したらしいじゃないか。」

紅居はそう言いながら右の人差し指でメガネの真ん中を押してメガネを直す。

う゛……

和樹は言葉が出なかった。

「隠していても無駄だよ。さっきのメンテナンスで端末からちゃんと履歴を見たんだから。」

「で、でも朝と昼にちゃんと飲んだんですよ。」

「それでも朝っぱらからリミッターを解除したら意味が無いだろ。」

「…はい」

「それに正直に言うと注射を打つのが面倒だ。」

「解ったかね?解ったなら冷蔵庫からアレを持って部屋に帰って2ℓ飲んだ後、休みなさい。」

「解りましたよ。」


ガチャ


和樹はそう言うと冷蔵庫からラベルの貼られていない2ℓサイズのペットボトルを3、4本取り出した。


バタン


「あの〜、袋か何か有りませんか?このままじゃ持ちにくいんですけど」

和樹は紅尉にそう訊ねる。

「ない!」

紅尉はハッキリそう言った。

「そうですか」

その言葉を聞いて和樹は肩を落とす。

「失礼しました。」

そして、脇にペットボトルを抱えて保健室から出て行った。


――葵学園校門――

和樹が一人ペットボトルを脇に抱えてトボトボと歩いていた。

そして、校門を通り過ぎた辺りでふとあることを思い出す。

「そうだ僕の部屋、今人が住める状況じゃないんだ。」

「それじゃぁ、帰ったって意味無いじゃないか。」

「はぁ〜。しょうがない、紅尉先生に頼んで今日は保健室に泊まらせてもらおう。」

和樹は、そう言うと保健室に戻ろうとすと

「式森和樹様でござますね。」

突然、後ろから声をかけられた。

和樹が振り返るとそこには初老の男が立っていた。

「あの〜どちらさまですか?」

「これは申し送れました。私、玖里子様の身の回りのお世話をさせて頂いているピエールと申します。以後お見知りおきを」

そう言って彼、ピエールは頭を下げる。

「あ、これはどうもご丁寧に。」

そう言って和樹もピエールに頭を下げる。

「で、そのピエールさんが僕に何のようなんですか?」

「はい、玖里子様のお言い付けで、和樹様のお部屋の準備が整いましたのでお連れするようにと。」

「部屋の準備が出来た?僕の部屋がですか?」

「はい。」

「何で玖里子さんが僕の部屋の準備をするんですか?」

和樹は玖里子が自分の部屋を用意する理由が解らすピエールに聞いた。

「今回、『和樹様のお部屋が見るも無残な姿になったのは自分にも責任があった。だから、自分が和樹様のお部屋の修繕をするのは至極当然である。』とのことです。」

「そうですか。」

「はい。和樹様、この老人の顔に免じて玖里子様のお心遣い受け取ってはもらえないでしょうか?」

「……解りました。玖里子さんの気持ちありがたく貰い受けます。」

「ありがとうございます。」

「では、あちらにお車を用意しておりますので」

「え!車で行くんですか?」

「はい。」

ピエールは、そう言うと和樹を黒塗りの車の後部座席に乗せて出発した。


ブロロロ…


ピエールが用意した車の中和樹は考えことしていた。

(ピエールさん、玖里子さんの身の回りのお世話をしているって言ってたけど執事か何かかな?)

(玖里子さんもわざわざ部屋を用意しなくても良いのに…)


キィ


「和樹様、到着いたしました。」

考えことをしている和樹にピエールが目的地に到着したことを告げる。

「え!もう着いたんですか?」

「車が走り出して数分しか経ってないと思うんですけど……」

和樹はそう言って車の外を見る。

「あれ?ここって彩雲寮じゃないですか。」

「左様で御座います。」

和樹の質問に答えてピエールは後部座席のドアを開ける。

「此方で御座います。」

そう言い和樹を寮内に案内する。


「ここって僕の部屋じゃないですか。」

「左様で御座います。」

和樹が案内されたのは寮で自分の部屋である角部屋であった。

「という事は部屋の準備って、この部屋を直したんですか?」

「はい。」


ガチャ


ピエールは笑顔でそう答え和樹の部屋のドアを開けた。

そこには、壊される前と殆ど変わらない部屋があった。

「うわぁ〜」

「いかがで御座いましょう。」

後ろからピエールが声をかける。

「あんな状態のこの部屋を、こんな短時間でよく直せましたね。」

「イエイエ風椿の力をもってすればこの位…」

「そうですか。」

和樹はそう言って部屋を見渡し

「あ!そうだ。」

何かを思い出してキッチンに向かった。

そして、冷蔵庫を開けペットボトルを入れようとする。


ガチャ


「あれ?冷蔵庫に食べ物が入っている?」

「和樹様。鞄や教科書、筆記用具等の直ぐ必要になるものから学園の冬服、普段着や下着等の衣類、それと多少の日用品と食材もこちらがご用意させていただきました。」

「そうですか。何から何まで済ません。」

そう言って和樹は持っていたペットボトルを冷蔵庫にしまった。

「これが私めの務めで御座いますから。」


バタン


「それと和樹様。大変言い難いのではありますが、タンスや机などといった物は前の物と同じ物を揃えられたのですが急いで揃えた為、寝具だけ間に合わず前の物と違う物に成っております。」

「そんな。ここまでして貰っているんですからそんな事気にしませんよ。」

和樹はそう言ってベットを見た。

そこにあったベットは前に和樹が使っていた物ではなくそれよりも二周りも大きかった

近くに寄って見ると値段も高そうに見える。

「そう言ってくださるとこちらも助かります。」

ピエールはそう言うと深々と頭を下げた。

実を言うと和樹の部屋は、ただ修繕したのではなく床や壁と天上、窓にも防音と防振対策を施しているのである。無論ベッドも調達が間に合わなかったのではなく玖里子が意図的に置くように命令したのだった。何故、そうしたかは言わぬが花だ。

勿論ピエールはその事を知っている。

「あれ?何ですこの扉?」

ベッドを見ていた和樹が押入れの方に目をやると前は無かった扉があるのに気がついた。

「あの扉は何ですか?」

和樹は不思議に思いピエールに訊ねた。

「その扉で御座いますか。その扉の先は、トイレとバスルームになっております。」

「トイレとバスルームですか。」

そういえば車で寮に着いた時何故か寮の端が妙に膨らんでいたことを思い出した。

「あのーなんでそんな物付けたんですか?」

「はい。玖里子様より和樹様は持病の為お体が弱いから寮のトイレと共用浴場に向かうのに何かと不便だろうから部屋に備え付けるようにと。」

「玖里子さん…」

和樹はピエールの言葉を聞いた後心の中で玖里子に感謝した。

「それと、和樹様こちらがこの部屋の新しい鍵で御座います。」

ピエールはそう言うと懐から鍵を取り出す。

「お受け取りください。」

「あ、はい。」

和樹は差し出された。鍵を受け取ると直ぐにズボンのポケットにしまった。

「鍵が紛失した場合は玖里子様にご相談ください。新しい鍵をご用意いたします。」

「解りました。」

「それと、他に鍵を渡す人はおりませんか?もし居るようでしたらこちらで渡しておきますが?」

そう、ピエールは訊ねてきた。

「あ、はい。じゃぁ、ここの管理人さんと紅尉先生に1つずつ渡してください。」

「承りました。」

「では、私めはこれで…」

そう言ってピエールは部屋から出て行こうとする。

「あ!ちょっと待ってください。」

「何でごさいましょう。」

「玖里子さんに『ありがとうごさいます。』って伝えてください。」

「はい。必ずお伝えします。」

今度こそピエールは部屋から出て行く。


バタン


ボフッ!


「あ゛ーー、つかれたーーー」

ピエールが部屋からると和樹はベッドに倒れこんだ。

「今日は色々在ったなー」

和樹は今日起きた出来事を思い返す。

「ピエールさんか……ああいう人を紳士って言うのかな?」

などと考えていると


グニャァ


視界が歪んだ。

「あーヤバイな。…アレ飲まなきゃ。」

そう言ってベッドから立ち上がり、ふらふらとした足取りでキッチンの冷蔵庫に向かって行く。


ガチャ


そしてさっき持ってきたペットボトルを取り出した。

「苦手なんだよな〜コレ、しかも2ℓ…」

「でも、コレ飲まないと後が辛いし……よし!」


ゴクゴクゴク…


和樹は、最初こそ飲むのを渋っていたが最後には自分に活を入れてペットボトルの中の液体を飲み始めた。

「…ぷはーーーー。」

「うっぷ。…もう入らない。」

「こりゃ、夕食は食べられないな……寝よ。」

そう言うと和樹はベットに向かってヨタヨタと歩いていった。


ボフッ


そしてまた倒れるようにしてベットに横になる。

「凄いなーこのベット。高そうなだけあってスプリングが効いて寝心地が良いや。」

「これなら今日はぐっすり眠れ…そ…う…だ…」


クー


などと言っている内に和樹は眠ったしまった。よほど疲れたのだろう。


――深夜 和樹の部屋――


カチャ


誰もが眠った真夜中、和樹の部屋に誰かが入ってきた。

「うふふふ。私の命令でこの部屋を治したんだから鍵くらい持ってたって全然不思議じゃないわよねー。」

部屋に侵入した人物はそう言うと和樹が眠っているベットに向かって行く。

「にしてもホントに死んだように眠ってるわね。」

そう言って和樹の寝姿をマジマジと見渡す。

「ホントに寝てるのこれ?まさかホントに死んでるんじゃないでしょうね。」

そう言い今度は和樹の顔を覗き込むと


ポッ


顔を赤くした。

「…可愛い寝顔ね。」

そして暫く和樹の顔を見つめる。

「……ハッ!」

「そうじゃない!そうじゃない!」

そう言って顔を激しく横に振る。

「ど、どうやら死んではいないみたいね。」

どうやらまだ動揺しているようだ。

「にしても、これじゃぁ全く起きる気配が無いわね。」

「これじゃ何の為に来たんだか……」

「まぁいいわ。今日は勘弁してあげるわ……良い物見れたし

ゴソゴソ

侵入者はそう言うとベットに潜り込んで

「お休みなさい。あ・な・た。」

チュ

和樹の頬に軽くキスをした。


翌朝


チュンチュン


ジリリリリリリリリッ…!


清々しい朝、外では太陽が朝日で世界を照らし雀が鳴きながら空を飛び、近くのごみ置き場で箒を持ったパーマ頭のオバちゃんが生ごみを漁りにきた烏達と死闘を繰り広げている。

そんな中、和樹の部屋で目覚まし時計のアナグロな音が響いている。

因みにこの目覚まし、毎度寝る前に目覚ましをセットしなくても指定された時間になれば勝手に鳴る物で千早からのプレゼントである。

「…ん」


ジリリリリリッ!…


カチッ


「ふわぁ〜。もう朝か。」

寝坊癖の有る和樹が珍しく目覚まし手で目を覚ました。昨日、早く寝たお陰であろうか?

「なんか今日は目覚めが良いや。このベッドのお陰かな?」

などと言ってると


カチャ


「あら和樹、目が覚めたの?」

玖里子が、昨日新設された扉から体にバスタオルを巻いて出てきた。

「く、玖里子さん!な、何でここにいるんですか!?それに、何で裸なんですか!?」

「失礼ね。裸じゃなくてバスタオルを巻いてるじゃない。それと、ここにいるのは昨日の夜中に入ってきたからよ。」

そう言って玖里子は、キッチンの冷蔵庫に向かう。

「なんでそんな事したんですか!?」

「なんでって和樹の遺伝子を貰いに来たんだけど、貴方何しても起きなかったから諦めてそのまま一緒に寝たのよ。」

「あぁ、心配しなくても大丈夫。昨日は何もしてないわよ。」

「ほ、本当ですか!?」

「ホントよ。」

そう言い冷蔵庫からペットボトルを取り出しそれを飲もうとする。

「よかった…って玖里子さん!それは飲んじゃダメ!!」

しかし、和樹の忠告は届かず玖里子は中の液体を飲んで


ブハッ!


吐き出した。

「ごほっ!ごほっ!」

「な、何よコレ!ミネラルウォーターじゃないの?」

「それは水じゃありませんよ。甘かったでしょ?」

「甘いなんてもんじゃないわよ!激甘、いえそれ以上よ!!こんなの飲んでたら直ぐに糖尿病になっちゃうわよ!」

そう言いながら玖里子はペットボトルを床に置くとキッチンの蛇口を捻って水を飲んで口をゆすぐ。

「うちの者が、こんなの入れて置くわけないし。あんた、こんなの飲んでるの?」

口をゆすぎ終わった玖里子が和樹にそう質問した。

「はい。それ、実は紅尉先生が僕の為に作ってくれた僕専用の栄養補給飲料なんですよ。」

因みにこの飲み物、名前を『紅尉特性式森君専用栄養ドリンクVar0.83β』というらしい。

「よく飲めるわね。」

玖里子が呆れた様に言う。

「いえ、正直僕も飲みたくないんでけどそれを飲まないと日常生活もままならないんですよ。」

「どういうこと?」

玖里子は真剣な表情で和樹に聞いた。

「玖里子さんは、僕の体には機械の部分が在ってそれがナノテクノロジーで出来ててなおかつ試作段階の物だってことも知っていますよね?」

「えぇ、知ってるわ。」

「それでその機械は、人と同じ物をエネルギーにして動いているんですよ。」

「でも、試作品だから稼動に必要なエネルギーが膨大でとても普通の食事量だけじゃ足りないんです。それこそ1日3食で済まそうとしたら一回に何十人前も食べなきゃいけないんですよ。」

「知っての通り僕の体内は心臓と肺以外は生身ですからとてもそんなに食べられません。」

「で、その飲み物の出番って訳?」

「はい、この飲み物は糖分だけじゃなくてたんぱく質や必須ミネラルや必須アミノ酸とかが通常の何十倍の濃度で入ってるんです。あんなに甘いのはそのせいなんですよ。」

和樹はそう言うと玖里子が置いたペットボトルを持ち中身を飲みだした。

「そうなの。ごめんなさい辛いこと聞いて。」

「いえ、もう慣れました。」

玖里子は謝り、和樹は笑顔でそう答えた。

「……よし!じゃぁお詫びに私が朝食を作ってあげるわ。」

玖里子はそう言って冷蔵庫を開けて中身を漁り始めた。

「玖里子さんいいですよそんなことしくても……って玖里子さん!服着てください。服!」

玖里子の申し出を断ろうと彼女の方に目をやるとそこにはしゃがんだ為バスタオルで見えそうで見えない玖里子のヒップが写った。

「ん?別に私は気にしないわよ?」

「僕が気になるんです!」

「あら、和樹もやっぱり男の子なのね。」

そう言って玖里子は艶かしい笑顔で笑う。

「なんなら昨日出来なかったこと…今スル?」

「しません!!」

「…ちぇ」

玖里子は残念そうに言うと下着と制服を持ってバスルームに入って行こうとして和樹に声をかける。

「あ!和樹何なら私の着替え、覗く?」

「覗きません!!」

「…ちぇ」

玖里子はコレまた残念そうに言ってバスルームの扉を閉めた。


その後、玖里子が着替えている時に和樹も着替え2人で玖里子の作った朝食を食べて学校に行った。


――葵学園 2−B教室前――

「はぁ。今日も朝から疲れたなー。」

教室の前で一人愚痴る和樹。

そして、教室の扉を開けた。


ガラッ


「おはよ「さぁ、はったはった!!転校生は男か女か?今の所、男が8で男が有利!!一口500からだ!!」……なんだ?」

教室に入るとそこには、仲丸が教卓の上に座って賭け事を行っていた。

「式森君、おはよう。今日は遅刻しなかったのね。」

和樹があっけに取られてると横から声をかけられた。

かずきが声をかけられた方向を見るとそこには沙弓がいた。

「あ、杜崎さん。おはよう。」

二人がそんなやり取りをしている目の前で仲丸の周りは「男に10!」、「俺は女に12だ!」だとか言っている。

「なにあれ?」

和樹が目の前の光景について沙弓に聞いた。

和樹の質問に対して沙弓は

「なんでも今日、うちのクラスに転校生が来るんだけど仲丸がその情報をどっかで仕入れて転校生が男か女かで賭けを始めたのよ。」

と答えた。

「また〜?」

それを聞いた和樹が呆れたように言う。

「式森君は参加しないの?」

沙弓がそう訊ねる。

「参加しないよ。そういう社崎さんは参加しないの?」

今度は和樹が尋ねた。

「式森君が参加しないなら私も参加しない。」

「私も参加しないわよ。」

二人がそんなやり取りをしていると今度は後ろから声をかけられた。

「松田さん、おはよう。」

「和美、おはよう。」

和樹と沙弓は声をかけた人物。和美に挨拶した。

「おはよう、式森君、沙弓。」

そして、和美も二人に挨拶する。

「珍しいね。松田さんが参加しないのって。」

「たまに参加してるだけで別にいつも参加してるわけじゃないでしょ。」

「そうね。でも、今回のはリスクが少ないほうじゃない?」

「ん〜。それはそうだけと今日は朝からなんか嫌な予感がするのよ。だから今回はパス。」


キ〜ン〜コ〜ン〜カ〜ン〜コ〜ン


そうこう言っている内にチャイムが鳴り出し三人はそれぞれの席に着いた。

因みに、仲丸もその周りにいた連中もチャイムと同時に席に着き始めた。

どうやら賭けは締め切ったようだ。


ガラッ


暫くすると教室の前のドアが開き担任が入ってきた。

「おら〜!お前らさっさと席に着けー!」

そう言ってクラス担任、伊庭かおりが黒板の前までいきクラスを見渡す。

「あ〜お前ら全員知ってるようだが、今日からこのクラスに転校生が入ることになった。」

「まともな生徒だから、貴様ら変なこととか教えるなよ。それじゃぁ転校生、入って来い。」

かおりがそう言うとクラスはブーイングの嵐に包まれる。

がドアが開くと途端に静かになった。

皆、自分の掛け金がパーになるかならないかの瀬戸際だ。静かにもなるだろう。

そして、学園の女生徒の制服を着た生徒が入ってくる。クラス中から「やったー!」だの「ちくしょー!」などの声が聞こえる。中には「いや、まだ判らん!もしかすると女装趣味の男かも知れん!」などといって僅かな希望に縋り付いている者の声も聞こえる。

転校生はかおりの横まで行くと黒板に自分の名前を書いてこちらを向いた。

「始めまして。宮間夕菜と言います。これから皆さんとは長い付き合いになると思います。どうかよろしくお願いします。」

そう言って転校生、宮間夕菜はお辞儀をした。

そしてその時、僅かな希望に縋り付いていた者の希望も消え去った。

「あ〜、1時間目は私の担当の授業だからこのまま自習。宮間に聞きたいことがあるなら今のうちに聞いておくように。」

そう言ってかおりは教室から出ていく。

かおりが教室から出て行った直後、クラスの人間の殆どが夕菜に群がった。

そして、「趣味は?」、「好きな食べ物は?」などの極ありふれた質問から「株に興味ない?」や「いい儲け話があるんだけど一口乗らない?」などの彼ららしい質問に成って行った。

そんな中、仲丸は一人地面に這い蹲ってほふく前進で教室から出ようとしていた。

(クックックッ!愚か者共め。転校生にばかり意識してこの俺様のことを忘れていやがる。この隙に逃亡して賭けを有耶無耶にしてこの金を全て俺様の物にしてやる。」


ドゴン!


だが、後一歩で脱出という所で仲丸の横を魔力弾が掠めた。

後ろを振り返ると其処には、さっきまで夕菜を質問攻めしていた連中が全員仲丸を睨んでいた。

「な〜〜か〜〜ま〜〜る〜〜!!」

「あの、もしかして口に出して喋ってた?」


コクン


睨んでいる全員が一斉に首を縦に振る。

「あの、許してくれない?」


フルフル


今度は首を横に振る。

そして、全員で仲丸を囲んでフクロにする。

一方、和樹は夕菜の登場で開いた口が塞がらなかった。

そんな和樹に夕菜が近づいてくる。

「和樹さん、これから何時でも一緒ですね。」

「み、宮間さん。何でここにいるの?」

夕菜に声をかけられた事でようやく意識が戻ってきた和樹は夕菜に質問した。

「勿論、和樹さん会う為に決まってるじゃないですか。」

「え、でも僕は昨日君が知った通り普通のに「ストップ」」

「そんなことは関係ありません。私は和樹さんが和樹さんだから会いに来たんです。それに…」

「それに?」

「私の(キスの)初めてを貰ったんですから、責任とってくださいね。」

「「「「「なにーーーーーーーー!!!」」」」」

夕菜がそう言った途端、仲丸を制裁していた者全員と何故かさっきまでフクロにされていたのに掠り傷一つない仲丸。

そして、賭けに参加していなかった為仲丸の制裁に加わっていなかった和美と沙弓が和樹と夕菜に詰め寄った。

「ねぇねぇ宮間さん。式森君に始めてを捧げたのってホント?!」

女子は、興味津々といった感じで夕菜に質問していた。若干二名ほど凄まじい形相と呪い殺すような眼で夕菜に質問しているが…

一方男子は


ドゴーーーン!!

「式森待てーーー!逃げるなーー!」

「貴様!夕菜さんとはどういう関係なんだ!逃げずに答えろーーー!」

「魔法で攻撃されたら普通逃げるよ!それに僕は、何もやってないよ!!」

「嘘をつくなーー!」

逃げる和樹を魔法で攻撃しながら追い回していた。


そして、追われている和樹は


ピッ!

警告

後方ヨリ多数ノ攻撃魔術ノ接近ヲ感知

さぶヨリめいんヘ魔術使用者ヲ敵対者ト判断

追跡者ノ殲滅ヲ推奨


《却下!》


了承


自分の中のモノを必死で抑え込んでいた。


後書きといふもの

どうも、漢長です。機械仕掛けの魔術師の第2話がようやく出来上がったので投稿します。

第2話はもっと早く出来上がる予定でしたがこちらの諸事情で遅くなってしまいました。楽しみに待っていてくださった方々には真に申し訳ありませんでした。

今回、オリキャラなる者挑戦してみました。如何だったでしょう?殆ど何処かのパクリのような気もするのですが

ピエールさん彼にはこれから先、地味にそして時には派手に活躍してもらう予定です。原作で玖里子付きの執事は居なかったと思いますがもし居たら教えてください。

そして、この話しで和樹の体の秘密がついに明かされました。

サイボーグです。題名そのままといった感じですね。でも、「名は体を表す」とも言いますし案外こった題名よりこれ位安直な物の方が良いのではないかと自分では思っています。

因みに、和樹君をサイボーグに設定したのは彼の能力を考えていた時に突然頭に突然シュト○ハイムが出てきて「ナチスの科学力は世界一ィィィィ!!」と叫んだのでサイボーグに決定しました。

でも、どこぞの勇者王のサイボーグの初期みたいにとっても不安定です。


それでは、前回のレスを返したいと思います。


沙耶様

ありがとう御座います。

>自分が読んできたまぶらほSSの中のオープニングでは
ベスト3には入ってますね。面白すぎます♪

そう言って下さると作者としても大変嬉しいです。


白様

すみません。今度から気をつけます。

>続きが気になる作品

如何だったでしょう?期待を裏切らないモノだったでしょうか?

ラブコメしてましたかねー?作者はそんな気持ちで書いたつもりは無いんですが。


D,様

カタカナで書いたから読み辛かったかもしれませんが、右肩ではなく左肩です。(右の肩は生身です)

ナノマシンを使っていますがARMSではありません。

揚げ足取り?様

やっぱり誤字でしたか。「〜てゆう」なのか「〜ていう」なのか判らなかったのでとりあえず「〜てゆう」で書いてみたのですが。

猿少年11号様

そうですね。作者としてはナノマシンを使ってはいますがアレをイメージしています。因みに作者はTV版の4話を見て監察官が生き残った事に本気で驚きました。

ハカイダー。作者はアレの劇場版が好きです。


たらい様

単純な感想ですがそう言ってくださると嬉しいです。

>add

すみません。作者はそれを知りません。


以上前回のレスの返しです。


誤字脱字は自分でも気を付けていますがもし、ありましたら作品の感想や批判と共に書いて頂けると幸いです。

では、機械仕掛けの魔術師第3話でお会いしましょう。

追伸

今回はダークでしょうか?

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