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「シン君の目指せ主人公奮闘記!! その6-2(ガンダムSEED−D)」

ANDY (2005-09-03 17:10/2005-09-03 17:38)
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(よし、かかった)
 模擬弾を打ち続けながら、シンは自分の方へと向かってくる三機のストライクダガーを見つめ、心の中でガッツポーズをとった。
 バッテリー残量がそれほど無いのか、それとも直接自分を切り裂くつもりなのかどうか分らないが、三機ともライフルを放つことなく自分の方へと接近してきているのを確認すると、丁度全弾撃ち尽くしたバズーカーを投げつけ、ジンのすぐ横に立てかけていたライフル二丁を装備させると、ストライクダガーたちに背を向ける格好でデブリ帯へと向かった。
 レーダーに自分を追ってくる三つの光点を目にしながら、先ほどまでのやり取りを思い浮かべた。


「で、生き残るためにどうするか、だけど」
『そうよね〜。私達の武装って全部非致死性のものばかりだもんね〜』
『そうだな。それに、敵の数が正確にはわからないのも痛いな』
「まあ、海賊が一機だけで満足する、何てコトは無いと思うから、最低でも三機以上と想定して行動を取ろう」
『そうだな』
『で、どうするの?』
「二人とも、釣りはしたことはある?」
『いや』
『釣りって何?』
「………そのへんのレクチャーは次回にして、まあ、早い話が有利な状況にする行動のことだと今回は理解してくれ」
 ルナマリアの問いかけに、改めて自分がいた世界と価値観が違う事を再認識しながら、シンはこれから取るべきことについて語った。
「さっきも言ったように、俺たちはどんな格好になろうとも生きて戻る事を目的にする。だから、今このときだけはたとえ格好悪かろうが、泥水を飲もうがこの危機的状況脱出を可能とする行動を是とするからな。ちなみに拒否権は無いから」
 シンの軽い口調で言う思い内容の言葉に、二人は無言でうなずいた。
「で、だ。さっきの目潰し攻撃が効いたみたいなのと、この宙域のNジャマーの濃度が濃いためにレーダーがそんなに効かない状況が勝利の鍵だな」
『どの辺がよ?』
「目潰し攻撃が効いたおかげで今こうして作戦を立案する時間が稼げてるんだろう。それに、Nジャマーの濃度が濃いためにレーダー類がそんなに効かないのはあっちとこっちも同じ条件だ、だから逃げに徹することが出来るし、だからこそ小細工も仕掛けることが出来る」
『だが、小細工の材料はどうする?』
『そうよ。誰かのジンをばらして使う?』
 シンの言葉に納得したのか、自分が感じた疑問点を挙げるレイと、三人の中で一番損傷具合が悪い事を自覚しているルナマリアが尋ねた。
 そんな二人の言葉を予想していたのか、シンは少しも慌てずに答えた。
「誰のジンもばらさないし、材料なんてそこらじゅうに大量にあるだろう」
 そう言い、シンの乗るジンは器用にも肩をすくませ周囲を指差した。
 無駄な機能にあきれながら、周囲を見回した二人の目に入ったのは漆黒の宇宙空間を力なく漂うMS等の兵器の残骸たちだった。


 目前に迫ってくる大小さまざまな大きさのデブリを避けながら、シンはレーダーを確認した。
 レーダーの基盤上に、自分を追ってくる三つの光点と遠ざかっている二つの光点が表れていた。
 どうやら餌の役割は無事に果たせている事実に、シンは安堵のため息を知らずに吐いていた。
 息を吐ききると同時に、シンは先ほどまで自分達が避難していた三角テント型のデブリを目指してスラスターの出力を上げた。
 シンは密度の濃いデブリの中を、どこをどう飛べばよいのかあらかじめ知っているかのように飛行していた。
 それと異なり、三機のストライクダガーたちはデブリを避けるのに静止や減速を頻繁に行い、なかなかジンに追いつけずに足止めを余儀なくさせられていた。
 当たり前だ。自分達だって不発弾など危険なものの有無を確認しながら動いていたときでさえ小さな破片を確実に回避することは不可能だったのだ。
 いわんや、スラスターをほぼ最大で何の考えも無しに噴出させているあの三機が、一度通った空間を追跡している自分にそう簡単に追いつけるはずが無いのだから。
 自分たちの身に起きている不自由さに、不平不満の声を上げているであろうパイロット達に向けてシンは心の中で罵倒した。

今、自分の身に起きている現実が認められないのか?
 そんなのこっちも同じだ!
 いや、いきなりこんなことに巻き込まれた俺たちのほうがより理不尽に対する怒りは大きいに決まっているだろうが!!
 怒りの果てに後悔して果てろ!!

 シンは突如出現したエア・ポケットの空間に浮かぶデブリに降り立つと、左のライフルをつい先ほど自分が飛び出したデブリ郡に向かって構えた。
 そして、哀れな狩人と言う名の獲物に向けて、追い詰められた鼠はその牙を剥き噛み付いた。

 機体を襲う振動に眉を寄せ、自機のコンディションを伝えるモニターに異常が出ていない事を確認するとともに、リッカーは怒りが腹の底から湧き上がるのを感じた。
 最初自分たちを襲った攻撃が全弾ペイント弾だったのはわざとだと思っていた。
 損傷した仲間の機体を逃すために挑発をし、自分だけを襲わせるためにそのような事をしたと考えた。
 そう考えたからこそ、自分はその策にワザと乗ってやったと言うのに。
 それについての礼がこれか!!
 またペイント弾だと!!
 リッカーは自分勝手な推測を裏切られたことに対して、理不尽な怒りの炎を激しく燃やし始めた。

 もういい。とっとと死ね。

 リッカーは、左の全弾打ち尽くしたライフルを投げ捨て、右のライフルを構えるジンを憎悪で濁った瞳で確認しながらそれを避けようともせずに自分のライフルの銃口を向けた。
 先にくだらない弾を撃て。そして俺に殺されろ。
 殺した後にデューイに絡まれる自分を想像して軽く頭痛を感じたが、そんなこと気にせずに目の前の敵を撃ち殺すためにリッカーは獲物をロックオンしようとした。
 それが油断となった。

    ズガガガ!!!

 今までの発射音と異なることに気づくよりも、今までと異なる衝撃にリッカーは驚愕した。
 この衝撃を自分は知っている。
 あそこで、あの命のやり取りをした場所、戦場で何度か経験した衝撃だった。
 すばやくコンディションを調べる。
 頭部半壊、左肩大破、そんな文字が浮かんでおり、先ほどまで緑一色だったモニターに赤い色が浮かんでいた。
 撃たれた!!
 その事実に気づくと同時に新たな衝撃が体に襲い掛かり、モニターに右脚損傷の明かりが点った。
 唖然とするリッカーを嘲る様に、ジンはリッカーに止めを刺さずにまたデブリの群れへとそのみを投げ入れた。
 後に残されたリッカーは、ザップとデューイが自分を置いてあのジンを追いかけるのを見つめると同時に言いようの無い感情に襲われ、ジンが飛び込んだ方角をにらみつけた。


「まず一機!!」
 片手片足を失い、頭部も損傷した一機を確認すると、シンはジンを次の罠のある場所へと向かわせた。
 自分の即興の戦略が効果を表したことに驚くと同時に、何とかこの状況を打破できるのではないだろうかという希望の灯が僅かにその胸の中に灯った。
 人間心理をついたこのような作戦は、今回一回きりの成功である事を理解し、次はもう少しうまく立ち回らなくてはならないであろうとシンは考えた。
 人間と言う生き物は思い込みのある生き物である。
 ある例を挙げると、自分は体調がすこぶる良いのに、周囲から、顔色が悪い大丈夫なのか、と何度も言われ続けると本当に体調が悪くなる、という現象がある。それは、自己暗示を知らず知らずのうちにかけることにより、周囲との情報に齟齬をきたさないようにする事を体が選択してしまうために起きる現象だ。
 これと同じ事を誰もが経験をする。
 身近な例で言うと、幼少期に食べたある食べ物、たとえばチーズ、それをそのとき食べて美味しくない、と経験し、その食べ物は自分にとって敵だ、と思うとチーズと名のつく食べ物、ケーキやグラタンなどを食べることが出来なくなってしまった、という食わず嫌いの原理も経験したことがある人は多くいるだろう。
 なぜなら、まずいもの、と認識しているからだ。
 今回シンが使ったのもこの原理で、何度も何度もペイント弾を使うことで、相手に自分は実弾装填済みの武器など一つも持っていない、と思い込ませることが作戦成功の鍵となっていた。
 これはある種の賭けに近かった。
 そして、シンはその賭けにまず一回勝利したのだ。
 もし最初から実弾を使っていたら、ここまで上手くいっただろうか。
 多分いかなかっただろうし、相手のパイロットはどうも精神的に弱いところがあるようだ。
 そこを突けば、自分にも勝機はあるはずだ。
 シンはそう思うと、新たなポイントに到着しそれと同時に罠がいつ動いてもいいように準備を始めた。
 虫けらにも五分の魂がある事を教えてやる。
 生き残る足掻きはまだ続く。


「………少しおかしいと思いません?」
「あん?なにが?」
「………」
 ユーラシア級戦艦内にあるブリーフィングルーム内で、少年少女たちの声が響いた。
 疑問の声を上げた、腰まである空色の髪を根元と髪先の部分を白い髪紐で結んでいる少女に、ソファに寝転がったまま教本を読んでいた短い金髪の少年と、ソファに座って瞑想していた紫色の髪の少年は有言無言で疑問の態度を表した。
「何がおかしいんだよ?キーファ」
 体を起こすと同時に、空色の髪の少女―キーファ―に金髪の少年は声をかけた。
「………時間がかかりすぎている」
 キーファが答えるよりも先に、紫色の髪の少年がその疑問に答えた。
「さすがトウマ。どこかの癇癪持ち短慮迷惑人間とは違って、一を聞いて十を理解するなんて流石です」
「………おい。喧嘩売ってんのか?キーファ」
「そんなことあるわけ無いじゃないですか。嫌ですね。被害妄想激しい人は。そんなんだからメアリーに相手にされないんですよ」
「おい!何でお前が知ってるんだよ!!」
「女の子の情報網を甘く見ないことですね。それにしても、アカデミーに入学してから何人目の恋の花を咲かせてるんです?確か十七人目でしたっけ?」
「まだ十六人目だ!!」
「はぁ〜。あなたは本能だけで生きてる発情期の動物ですか?どこをどうすればそんなに恋の花を咲かせるんです?計算できます?私達がアカデミーに入学して今日までの日数と、あなたが咲かせた恋の花の数を割ったら一体どれぐらいの割合で咲かせているか」
「………で、何の時間がかかりすぎてるんだよ。トウマ」
「逃げましたね」
「………模擬演習のだ。それとレオ。いい加減発情するのを止めろ。愚痴を聞かされる俺とシンのいい迷惑だ」
 うっすらと汗をかきながら自分に尋ねてくる金髪の少年―レオ―に、ため息を吐きながら答え、最近自分と友人を襲っている理不尽な仕打ちに対して抗議の声をトウマは上げておいた。
「いいじゃんか、仲間だろう?トウマ」
「頻度による。最近では四日に一度の割合で俺とシン相手に愚痴っているのは誰だ?」
「四日に一度って、サルですか?」
「誰がサルだ!それより、模擬演習の時間がどうしたっていうんだよ」
「いつもの時間よりもかかりすぎていると思わないのか?」
「そうですよ。それに、私達が待機にされてどれぐらいの時間がたっていると思うんです?ジンに乗ってOSの調整も未だにせずにいるんですよ。異常だと思わずになんだと思えというんです?」
 顔を赤くし激昂するレオに向かい、トウマとキーファの先ほどとは違う温度の声を聞き、レオは赤くなっていた顔を治めその瞳に理知的な色を宿した。
「……今回のデブリ帯は今までのと比べて濃度が濃い、と事前に説明があったぞ」
「それでも、時間がかかりすぎている。こっちにまだ到着していないのはいいとして、向こうに到着した、という情報が俺たちの耳に入らないことの方がおかしいだろう」
「いくらルナがデブリ戦が苦手でも、いつものあのチームならもうゴールしていてもおかしくないんですよ」
「そうだな。もしかしたら不測の『コンディションイエロー発令!!整備班は受け入れ準備を。被弾した機体が二機帰還する!!これは訓練ではない!!繰り返す。コンディション―――』自体が起こったようだな」
 レオの言葉を覆い隠すように、けたたましい音がブリーフィングルーム内に木霊した。
「レオ!トウマ!」
 ブリーフィングルーム内の壁にある窓から外を覗いていたキーファの切迫した声に弾かれるように、レオとトウマの二人も別の窓から格納庫の中を覗き込んだ。
 そこにいたのは、片足、片腕を失っているジンの姿であり、演習中に受けた損傷とは思えない破損状況に三人は息を飲むと同時に、肩に描かれているナンバリングを見てさらに息を飲み込んだ。
 その肩には、αの文字が刻まれていた。
「おいおいおい。何の冗談だよ!!」
「冗談じゃなく現実に決まってるじゃないですか!!あ〜、はやくエアロックを解除しなさい!!」
「一機足りない?」
 頭を掻き毟りながら叫ぶレオと、ドアロックの解除を今か今かと落ち着かない様子で見ているキーファと、格納庫内に収容されたジンの数に不信感を募らせたトウマの声が狭いブリーフィングルーム内に響いた。

「開いた!!」
 ロック解除を意味する緑のランプがつくと同時に、三人はブリーフィングルームの入り口から格納されたジンの元へと思い切り飛んでいった。
「ルナ!!」
 格納された片足のないジンから出てきたパイロットに、そのシルエットから女性だと理解したキーファは同期の仲間に大声で声をかけたが、どうも耳に入ることなくもう一機のジンへと向かって飛んでいった。
 その様子に何か理解できない思いを抱きながら、視線を向けるともう一機のジンから出てきたパイロットは、ヘルメットを外しその長い髪を中空に放り投げ躍らせていた。
「レイが被弾?」
「それよりシンはどうした」
「?!まさか」
 もう一人のパイロットが誰か分ると同時に、今この場にいないもう一人の仲間に思いを向けたときに、三人の耳に乾いた音が飛び込んできた。

   パチィーーン!!

「うわ。痛そう」
「ルナ?!何してるの!!」
「…………」

 三人がその音の発生源を見てみると、腕を振りぬいたルナマリアと、慣性の法則に従い吹き飛ばされこちらに向かって飛んでくるレイの姿が目に入った。
 その構図を見て、三人は理解すると同時に疑問を持った。
 ルナマリアがレイを張り倒した。でも、なぜ?
 そう思った三人の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。

「シンを生贄にするなんて、一体どういうつもりよ!!」

 激昂したルナマリアの声を、三人は飛んできたレイを受け止めると同時に唖然とその言葉を聞いた。
 三人に抱えられたレイの瞳には、何も浮かんでいなかった。


 格納庫内で起こっている事態に関係なく、上へ下への大騒ぎになっている場所があった。
「だから!!観測所は何をやっていたんだ!!居眠りでもしていたのか!!」
 通信先に大声で怒鳴りつける艦長を横目に、アカデミーの教官は戦闘レベルになったレーダーを睨みつけていた。
 自分の、ユニウス7で失った息子が生きていたら同い年でよい友人関係に慣れていたのではと思える自分の生徒の安否を、信じてもいない神に祈りを捧げた。
 神よ。彼の者を救いたまえ。そうすれば、私は喜んであなたの使徒へとなりましょう。
 胸のうちでそう呟くと同時に、格納庫へと通信を入れる。
 少しでも今は情報が必要だから。


「生贄、って。……え?」
「ルナ?」
「説明を頼みたいんだが。レイ」
「……わるいが、先に艦橋に報告させてもらう」
「レイ!!」
「ちょ、ルナ!!落ち着いて!!」
「おいおいおい。何だよ、これ」
「レイ?」
「ルナマリアを任せた」
 もう一度叩こうとするルナマリアを後ろから組み付くことで押さえ込んでいるキーファを一瞥すると、猜疑の瞳で自分を見つめるトウマたちを無視し、レイは格納庫内から出て行った。
「………説明、できるか?ルナマリア」
 一瞬ためらいながらそう尋ねたトウマの目に入ったのは、大粒の涙を流している一人のか弱い少女の姿だった。
「おいおいおいおい。何だよ、これ」
 レオの力ない呟きと、ルナマリアの抑えた嗚咽が格納庫内の喧騒に犯されること無く響いた。


「では、君達は海賊に襲われたというのだな」
「はい。私達のチームがデブリ内を訓練飛行中に、突如遭遇した連合のMSに強襲され、私の機体とルナマリア・ホークの機体は損害を与えられてしまいました」
「……レイ・ザ・バレル、シン・アスカは?」
「シンは、運よく機体にダメージを受けなかったので我々を逃がすために自ら囮へとなりました」
 冷静に自分たちの身に起こった事を報告する目の前の少年に、艦長と教官は何か薄ら寒いものを感じながら、彼らの身に起こった不条理に激しく憤りを感じた。
 何をしていたのだ、観測所の管制官は。
 口を開けば管制官に対しての罵詈雑言の数々が飛び出してしまいそうになる衝撃を抑えて、艦長は最善の手を討とうと通信士に声をかけた。
「この宙域に本艦以外の艦影はあるか?」
「はい。……反応ありました」
「どこの隊だ?」
 慌しく指示が飛び交い始めた艦橋を眺めているレイに、教官は声をかけた。
「レイ・ザ・バレル。もう下がってもいいぞ。医務室に行き栄養剤を打ってもらえ」
「いえ。必要ありません」
 冷静にそう答える少年に、教官は呆れながらも少年の現状を指摘した。
「自覚していないようだが、顔が青いぞ。心配するな。シン・アスカは必ず救出する」
 そういうと、自分も指示を仰ぐために通信士の方へと飛んでいった。
 通信士に回線を繋ぐのを頼む傍らに聞こえたドアの開閉の音に、苦笑ともため息と持つかない息を吐き出し眼前に広がる宇宙をにらみつけた。

 死ぬなよ。ひよっこ。まだまだお前には教えなくてはならないこと、経験しなくてはならないことが沢山あるのだからな。

 そう檄を胸中で飛ばすと、繋がった通信先へと先ほどの報告を伝えた。


「あ、レイ」
 医務室へと入ったレイを迎えたのは軍医ではなく、先ほどまで格納庫内にいたキーファたちがいた。
「どうした?」
「どうしたって……」
「ルナマリアを連れて来たんだよ」
 レイの揺るがない声を聞き、言いよどんだキーファに代わりレオが憮然とした表情で答えた。
「そうか。ルナマリアは?」
「鎮静剤が効いて今は寝てる」
「そうか」
 トウマの普段と変わらない声を聞き、レイはもう用は終わったというかのように、奥にいる軍医の下へと足を運ぼうとした。
「待てよ!!一体何が起きたって言うんだよ!?それに、シンは?!ルナマリアが言っていた『生贄』って言うのは何なんだよ!!答えろ!!レイ・ザ・バレル!!!」
「……落ち着け、レオ。ここは医務室だぞ」
「あん?!何言ってるんだ、トウマ!!」
「落ち着けといっている。ルナマリアが目を覚ますだろうが!!」
 食って掛かるレオに、辟易したのか感情を抑えきれなくなっているのか分らないが、トウマは語気を荒くしてレオを促した。
「ですが、説明をお願いします。一体、あなたたち三人に何があったんです?」
 激昂し始めた男二人を放っておいて、キーファがレイに再度尋ねた。
 その様子を眺めたレイは、踵を返し軍医の元へと向かった。
「レイ!!」
「栄養剤を打ったら説明する。少し待て」
 自分たちの元から去ろうとするレイの背中に呼びかけた声に答えるその声に、キーファは後悔の念と憤りが混ざったものを感じた。
 彼の背中しか見えないので確信は持てないが、キーファにはレイが泣いている様に見えた。


「くそ!!」
 アラートが鳴り響くコックピット内で、シンは自分の見通しの甘さにイラついていた。
 自分の考えでは、一機でも行動不能状態にすればその護衛に一機は残り自分は一対一の状態に持ち込めると考えたが、その考えは甘かった。
 敵は、行動不能に陥った仲間を一瞥することもなく無視して自分に迫ってきたのだった。
 シンはライフルの弾をばら撒きながら、予備の武器を隠しているポイントへとジンを向かわせようとし、反転したその時一条の光がジンの片翼を打ちぬいた。
「がは?!」
 突如襲ってきた衝撃で、肺の中の空気を強制的に押し出されながらシンはレーダーを確認した。
 いつの間にかレーダーに映る光点は二つから三つになっていた。
 それと同時に、コンディションを表すモニターに赤い色が乱立し始めた。
 シンはダメージ部分への電源供給をカットしながら、その第三の光点を確認した。
 そこにいたのは、つい先ほど自分が行動不能にしたと信じたストライクダガーが銃口を向けながら接近していた。
「くそ!!フリーダムだったら襲ってこずに、ジンだったら襲ってくるのか?!」
 意味のない叫びを上げながら、シンは襲ってくるビームをデブリをうまく利用しながら回避し続けた。
 だが、先ほどの片翼を失ったために今までほどの推力を維持できないシンのジンは、段々とその身を削られ始めた。
「くそくそくそー!!!」
 右脚と左肩を打ち抜かれた状態になり、ジンはその機能のほとんどが停止状態まで追い込まれた。
 コックピット内が赤一色に染められる中、シンは意識せずにはいられなかった。
 自分が死ぬ、と言う事を。
 生き残ったスラスターを全開にして脱出を試みるが、敵から距離を取ることができずに、逆にその距離を縮められていた。
「なにか、なにかないのか?!」
 計器から煙が立ち込め始める中、シンは生き残っているモニターから見える範囲でこの状況を打破できるものを探した。
 もうライフルの残弾も一斉射分しかなく、片腕を失った今の状況では弾倉交換もままならないので文字通りのラストショットだった。
 この一撃で十以上の効果を生み出せる方法はないか、と感情の冷静な部分が糸口を探した。
「あれは?!」
 そんなシンの目にあるものが飛び込んできた。
 それを確認すると、シンは漂うデブリを残った左足で蹴り上げ推力を得ると同時にそれへ向けて全弾掃射した。
 それと同時に、大きな爆発がその宙域を襲った。


「なんだ?!」
 突如として起こった爆発に、ザップは驚きの声を上げた。
 ほとんど死に体状態だった獲物が、見当違いの方向へ弾を撃ったと思ったと同時に爆発が起きたことから、奴が何かをしたのは確かだろうが、それが何かがザップにはわからなかった。
 爆発のために飛び掛ってくるデブリをシールドで防ぎながら、ザップは嫌な予感を感じ始めた。
 何かがおかしい。
 相手の装備から見て、ひよっこの訓練生か何かのはずの獲物が、曲がりなりにも正規の軍人だった自分たちにこうも善戦できるものだろうか。
 いくらコーディネイターでも異常なのでは?
 ザップは近くにいたデューイに回線を繋げた。
「おい、デューイ。おかしいと思わないか」
『なにがだ!くそ、あのクソ野郎!!また逃げやがって!!』
「おい!デューイ!!」
『うっせー!!何怖気ついてるんだザップ!!あいつはもう死に体なんだぞ!!何を怖がるんだ!!』
 イラついた声で怒鳴り散らす相棒に、ザップは頭痛を感じずにはいられなかった。
 だが、デューイの言うことももっともなので、ザップは自分の主張を引き下げることにした。
 そうだ。何を恐れる必要がある。
 相手はもうろくに戦うことも出来ない状態なんだ。
 いくらコーディネイターでも、あんな状況のMSを瞬時に直すことなど出来ないのだから、恐れる必要性などどこにもないのだ。
「ああ、そうだな。とっととあいつを片付けて、一杯やりたい気分だ」
『ああ。それについては同感だ。船にある酒を全部飲みきるぞ』
 酒の話になるととたんに機嫌が良くなるデューイに呆れながら、ザップはレーダーをにらみつけた。
 爆発の影響で感度が下がっているが、あの状態ではそう遠くへは逃げられないはずなのだから。
「まったく。さっさと落ちろっていうんだ」
 そう愚痴るとともに、ザップは機体をゆっくりと前進させた。


「あ、危なかった」
 荒い呼吸音の響くコックピット内で、シンは自分の悪運の強さにいつも漫才ばかりしている片割れに感謝の言葉を短く送った。
 先ほどシンは、デブリの中に浮かぶミサイルランチャーを発見し、それに銃弾を打ち込みことで爆発を引き起こし、それを目くらましに利用して近くの戦艦の中へと逃げ込んだのだった。
 だが、爆発はシンに有利に働くだけではなく、不利にも働いていた。
 爆発によって大量の細かい破片がシンのジンにも襲い掛かり、ジンのメインカメラととっさにコックピット周辺をかばった右腕に鋭く刺さっていた。
 コックピットから緊急脱出したシンは、自機のその状況を見て寿命が三年縮まるのを感じた。
 シート下に常備されていたペンライトを片手に格納庫内に降り立ったシンは、これからどうしたらいいものかと考え始めた。
 このままここで相手がいなくなるのを待つ、と言う選択肢を考えたが、すぐに却下した。
 なぜなら、自分の酸素残量がもう残り十数分しか持たないからだ。
 いなくなるのを待ったとしても、遅からず窒息死が待っているそんな選択を進んで選ぶほど潔くないので、シンは別の方法を考えた。
「どうする、どうする。落ち付け。大鷹真矢。ピンチのときこそチャンスだっていうだろう」
 そう呟きながら、シンはこの格納庫にあるであろうブリーフィングルームへと足を運ぼうとした。
 運がよければそこに予備の酸素パックがあるはずだからだ。
 そうすれば考える時間が増え、自分が生き残れる確率も格段に上がるのだから。
 そう思い、ライトを周囲に照らしたとき反射するものを発見した。
「こいつは……」
 シンは、それを見て何も言えなくなった。
 なぜなら、そこにはこの状況を打破することの出来るジョーカーが鎮座していたのだから。


「で、何があったんだ」
 栄養剤と軽い問診を受け終わったレイへ、トウマは三人を代表するように尋ねた。
 パイロットスーツの上をぬぎ、ライダースーツのように腕の部分を腰に巻きつけたレイは、アンダーシャツのままその言葉に答えた。
「演習場内で海賊に襲われた」
「はぁ〜?海賊に襲われた〜?!」
「うるさい、レオ。機体はなんだったんです?」
「連合のストライクダガーだ。最後に確認した時点では三機ほどの一個小隊が俺たちに襲い掛かってきていた」
 淡々と話すレイの、その無表情な顔がやはりなにかに後悔し、懺悔を捧げている敬虔な宗教家のような顔にキーファは見えながら、多分触れられたくはないであろう、それでも触れなくてはならない質問を発した。
「それで、シンは?」
「………シンは、唯一あの段階で被弾することが無かったので、俺たち二人を確実に逃がすために自ら囮になった」
「え?」
「………」
「は?」
 一瞬苦痛に歪める様な顔を見せたレイだが、それでも淡々と事実を三人に話し、それを聞いた三人は何の反応も見せることが出来なかった。
     ゴン!!
 いや、一人だけ反応を起こした人物がいた。
「トウマ?!」
「落ち着け!!トウマ!!」
 それは、普段冷静さが売りのトウマがレイの胸倉をつかむと壁に押し付け、顔を突きつけ静かな、感情を抑えた声で詰問した。
「なぜだ」
「………」
「なぜ、そうも冷静にいる!!あいつは、シンはお前の友ではなかったのか!!」
「………」
「答えろ!!レイ・ザ・バレル!!!」
「トウマ……」
「トウマ、おまえ……」
 普段見せない仲間のその姿に、レオとキーファの二人はただ唖然と立ってみるしかできなかった。
「―――――――だからこそだ」
「あ?」
「友だからこそ、俺はルナマリアを連れて逃げ切らなくてはならなかったんだ」
「………レイ」
 普段宿すことのない色をその瞳に宿して答えるレイに気圧されるように、トウマは掴んでいた手を離した。
「シンは俺に、自分が囮になるから必ず逃げ切れ、と俺だけに指示を出したんだぞ。ルナマリアのスラスターの損傷具合から、自分ではうまく牽引できないからといって。それよりも自分の体を盾にすると提案したあいつの心意気を、俺に、無駄にしろ、と言うのか」
「そんな………」
「あのバカ」
 レイの静かに紡ぎ出す声が、血反吐を吐くような深い後悔の色に染まっているのを三人は気づき、何も言えなくなった。
 そのなんともいえない空気になった四人の耳に、ある放送が入ってきた。
 それは、本艦はこの宙域を離脱しプラント本国へ帰還する、というものだった。


「ふ〜。では、後は頼みます。ホーキンス隊長」
『ああ。安心しろ。うちにはつい先日FAITHに任命されたトップガンがいるからな』
 そんなやり取りを交わし、艦長は通信を終えた。
 現状の自分の艦の装備では、このイレギュラーに対応しきれないのでたまたま近くにいたホーキンス隊に救援要請を出した。
 たかが一人のアカデミー生、といわれるのではと思ったが、快く承諾してくれたことに安堵のため息を吐いた。
 それと同時に、今も生きているだろうと信じている生徒に、一言送った。
 修正してやる。だから、ちゃんと帰って来い。
 これから起こるであろう関係各所への報告に、倦怠感を感じながらも一路プラントへと船を向かわせた。


「くそ、どこに行きやがった!!」
 リッカーはあの憎きジンの姿を血走った目で探していた。
 先ほどの一撃は、コックピットを狙ったのに、バランス調整が出来なかったためか片欲しか奪うことができなかったという事実が新たにリッカーのイラツキをより激しくしていた。
     ピーピーピー
 そんなリッカーのレーダーに、一つの光点が現れた。
 慌てて生き残ったモニターで確認すると、死に体のジンはこちらに気づかず逃避行為をしていた。
「逃がすかーーー!!」
 そう叫ぶと、リッカーはバッテリー残量も気にせずにライフルを撃ち放った。
 数条のライフルから放たれた光の矢は、ジンの左足、残り片翼を打ち抜き、頭部をも打ち抜いた。
 ダルマ状のジンの姿に、リッカーは言葉で言い表せない快感を感じた。
「死ねーーー!!!ソラの化け物がーーーーー!!!」
 そう叫ぶと同時に、リッカーはライフルを投げ捨て、サーベルでジンのコックピット部分を一突きに刺した。
 一突きにされたジンは、爆発することも無くその場に漂った。
 あっけない獲物の最後を不審に思わず、リッカーはただただ笑った。
 そんなリッカーのコックピット内に、接近する機体の反応が現れた。
 モニターに「ダガー」と表示されているのを確認したリッカーは、機体をその接近する仲間の誰かだろうと思われる方向に向けた。
「え?」
 そして、リッカーの目に入った光景は、蒼い機体が大剣を振り下ろすところであり、それがリッカーの最後に見た光景だった。


「まず、一機!!」
 こみ上げてくる嘔吐感を気力で押し殺し、シンは自分を鼓舞するようにそう叫んだ。
 自分の前で爆発四散するストライクダガーを確認し、その近くに漂っている先ほどまで自分のわがままに付き合ってくれていたジンに短く黙祷を捧げる。
 それが終わると、シンはレーダーに映っている光点へと向けて鋼の剣士を向かわせた。
「俺にお前の力を見せてみろ!!105ソードダガー!!!」
 その叫びに答えるかのように、105ソードダガーはそのスラスターの輝きを力強く光らせた。
105ソードダガーの加速に身をゆだねながら、シンは自分が戦士に代わるのを自覚せずにいられなかった。
 殺らなくちゃ、殺される。それが戦場なんだ。
 そう思うとともに、シンはスラスターのペダルをより強く踏み込んだ。


―またまた中書き―
 え〜と、まず最初にゴメンナサイ。
 前後に分けた、といいながら中編を投稿している自分に涙、です。
 いえ、今回オリキャラ数人に名前と軽い設定をつけたら、もう、勝手に動き始めてしまい、気がついたらこんな状況になってしまいました。
 今回は、うちの子たちのいろいろな内面を描かしてもらいましたが、どうだったでしょうか。
 ヒーローなんていない、ただいるのは力ない子供と、力があってもうまく使えない大人たち、というのがこの回の主旨なので、それが少しでも伝わっていれば幸運です。
 さて、次回こそ色々な種まきの回です。
 お楽しみに〜


レス返し
>SS好き様
 感想ありがとうございます。
 >惚れそうです
 火傷をするからやめときなw

 >過去編まったくOK
 ありがとうございます。もう、捏造しまくりの過去編を爆進します。

>HAPPYEND至上主義者様
 いつも感想ありがとうございます。

 >今回は珍しいことに電波受信してませんね
 いえ、一応今回はシリアス路線なのでw自主的に押さえているそうですw

 >いままでは第三者的にしか戦争を見ていなかった、こっちのシンが宇宙戦闘という殺し合いの中でどう動くのかが非常に楽しみです
  まあ、成り行き任せにはならないように悩みぬいてもらいます。
  はげなければいいけどw

 >こういう事、原作でも結構あったんじゃないかと思います
  私もそう思ったので書いてみました。
  うむ、どこの世界でもこのようないじめはあるはずですよね。

 >『腐女子』のオーラ
  友人曰く、最近の女子には標準装備だ、と力説されて。どうなんでしょうね?w

 >元の世界でもロクな目に会っていなかったようですね
  あってたらこんな世界に飛ばされませんよw

 >過去偏
  はい。頑張ります!!

>くろがね様
 はじめまして。感想ありがとうございます。
 これからも頑張っていきますので応援お願いいたします。

 >主人公側のオリキャラなど出る予定はあるのでしょうか
  今回出ちゃいました。どうだったでしょうか?

>YUKI様
 はじめまして。感想ありがとうございます。
 >とりあえずもう少しは過去編希望
  了解しました。頑張ります。

 >原作では幸薄かったシンにほんのちょっとの祝福を
  原作よりは幸せにさせます。
  ええ、タイトルバックを奪われないようにガンバリマスとも。

>かいん様
 はじめまして。感想ありがとうございます。
 >このまま過去編?をもう少し続けた方が良いのではないかと思います
  ありがとうございます。もう少しハチャメチャストーリーでいかせて貰います。


>なまけもの様
 はじめまして。感想ありがとうございます。
 >こういうオリジナル展開は大歓迎です
  ありがとうございます。
  がんばって書いていきますので、応援よろしくお願いいたします。


 では、また次回の後書きで。


追伸と言う名の嘆願書
 その5のレス返し、もう少し待ってください(大涙)
 その6が出来次第返させてもらいますので。

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