「ただいま」
学院の授業が終わり家に帰ると随分と静かだった。
また工房に籠もって実験でもしているのだろう、そう思い居間へ行くとテーブルの上に一枚のメモが置いてあった。
”戻ったら直に地下の工房へ来る事、来なかったら…………ひどいわよ?”
……二重線で消された部分は読むまい。
急ぎ部屋に戻り着替え、実験に対する準備を整えいざ地下へ。
「士郎、遅いわよ! 早く来なさい!!」
うむ、赤い悪魔はお怒りのご様子、言うとおりにしよう……
防御用の陣ではない魔方陣の上に立つ彼女の元へ。
「遠坂、この魔方陣は何なんだ?
えらく複雑でさっぱり理解できないんだが?」
「今のアンタに理解できるわけないわよ、一方通行で人間が生きていける場所という指定しか出来なかったけど立派な魔法なんだから」
魔法? 今魔法と仰いましたか遠坂さん?
遠坂が目指している魔法といったら第二魔法、並列世界の運行を担う魔法しかないだろう。
「何だってそんな事を? 異世界に渡って戻って来れる保障はあるのか?」
その質問に対して俺の自慢の師匠で彼女である遠坂は、
―ある訳ないじゃない、何言ってんの?―
という嬉しくない答えを返してきた。
「戻れないって……何ィ!? 何考えてるんだ遠坂!
幾らなんでも言ってる事とやってる事が無茶苦茶だ、
そんな無茶な事するなんてらしくないぞ!
一体どうしたんだよ!!」
「……破産したのよ」
地下の締め切られた密室にえらく冷たい風が吹き荒れていた。
ゴメン遠坂……なんて言うからしくないなんて言った俺が間違ってたよ。
破産……その現実味溢れる言葉は遠坂にぴったりだ。
そう言えば最近生活が苦しかったな。
「何よ、しちゃった物は仕方ないでしょ!?
魔法の研究なんて言ったら莫大な金が必要なんだから!
時計塔から貰ってる資金だけじゃ足りなかったの、
いいから黙ってついて来なさい!
明日には借金取りが来ちゃうんだから、
今のうちに大師父でも来ない限り追いつけない場所まで逃げるわよ!!」
夜逃げですか、そうですか。
何て言うかこんな理由で時計塔から出て行くことになるなんて考えもしなかったな……
思わず現実逃避から自分の殻に籠もっていたら儀式はそのまま進められていた。
魔力が部屋に満ちて規律に従い流れ、対流を生み出す。
まるで世界が此処だけ切り取られていくかのように鳴動し、部屋にある品々が倒れたり壁から落ちたり。
ほら、今も俺に向かって人形が……って人形?
そう、その人形は立てかけられていた台から俺に向かって倒れこんできている。
何でもこの人形、封印指定の魔術師が昔作り上げた作品の一つで人間の魂を入れて新たな身体として生まれ変わることが出来る一品だったりする。
血液を持って登録することで死んだときに自動的に魂を保管してくれるアーティファクト。
ただし外見は少女に固定されておりなぜか男性以外登録できない、試作品ゆえに面白半分に仕掛けを施したのだろう。
ただその技術の高さから遠坂もやたら大切にしており、手に入れたときはちょっと自慢げだった。
そんなに大切にしてるならちゃんと固定しておいてくれ、頼むから……
――唐突に振動が止まる――
? なんでさ??
倒れてきた人形の所為で指先が切れてしまったが今はどうでもいい。
何故止まった?
「あっ」
「……あっ、って何だ遠坂!?
今度は何だ!!?」
遠坂のこめかみに特大の冷や汗が見える、まさか……うっかり?
ありえない話ではない、彼女の家系はここぞと言うときに大きな失敗をするのだから。
今回は事前に調べたり注意する事が出来なかった、だから……
「ごめん、やっちゃった。 エヘ?」
「エヘ? じゃないだろ遠坂! 今回は何をやったんだ!!?」
どうあっても此方を向くつもりはないらしい、ソッポを向いたまま応えてくる。
「時計、二時間進めたの忘れてた?」
遠坂の言葉が早いかソレが早いか。
部屋に虹色の光が混ざり始め、景色が歪む。
魔力の激流が身体を蝕み引き裂かんとばかりに動き出す。
「……っくぅ、士郎…死ぬときは……一緒よ?」
遠坂、その気持ちは嬉しいが今回限りは全く持って嬉しくないぞ!
……とはいえこの魔力の激流はキツイ、遠坂を守らないと!!
――体は剣で出来ている――
「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」
俺の全魔力を注いだ七つの花弁が遠坂を包み込み守る。
これで遠坂は大丈夫だな。
あぁ、すまない親父、俺はセイギノミカタまで行けなかったよ……
目の前が霞んでいく……
微かに見える視界に映った人型の何かを抱きかかえるようにして庇う。
人型をしたものが壊れるというのが嫌だったのだろう。
俺はソレを抱きしめながら骨の芯まで冷やすような寒さに身を委ねた。
それが……俺の終わりだと言う事を実感しながら……
―――ドサッ―――
? こんな夜更けに誰か来たのだろうか?
ただどうも様子がおかしい、急ぎ教会の門を開き外を覗く。
倒れていたのは真っ白な髪をした血塗れの少女と少女を庇う様にして事切れた一部身体の欠けた男性。
「ピート君っ! 救急車を!!」
神父は弟子となった少年を呼び傷だらけの少女の手当てを始める。
こうして俺は新しい運命と出会った。
----------------------------------------------------------------------アトガキ?
はじめまして不思議剣その4です。
考えもなしに始めたこの話
気が向いたら見てやって下さい。
伏線も何もあったものじゃないですな、丸分かりやっちゅうねん。
仕方ないので少女について。
名前???
年齢13〜14程度
長い白髪に白磁の如き白い肌、瞳の色は紫でこの時点で着ている服はゴスロリ(笑)
……2Pイリヤっぽいかも…