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「幻想砕きの剣 序章(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2005-06-12 01:33)
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幻想砕きの剣 序章


 日は沈み、月が昇り、既に時刻は22時。
 とある小さなマンションの一室。
 疲れた体をひきずって、当真大河は久しぶりに家に帰ってきた。


「ただいま〜」

「おかえりなさい、お兄ちゃん」


 がちゃりとドアを開けると、愛しい妹の当真未亜が、ぱたぱたと音を立てながら出迎えた。
 学校から帰って既に数時間たつであろうに、何故か制服のまま、上にエプロンをつけている。
 それを見て大河は、いつか裸エプロンをやらせようと心に決めた。
 天国の親父殿、お袋殿、貴方達はこんな彼を嘆くでしょうか?


(問題ない。シナリオ通りだ)

(漢に育ってくれて嬉しいわ。願わくば、もーちょっと交際関係を考えてほしいけども)


 …問題ないらしい。
 この息子にしてこの父母あり、といったところか。
 つーかシナリオ!?


「ご飯にする?お風呂にする?
 私でもいいけど、晩御飯はマーボー豆腐だから冷めると美味しくないよ」

「のっけから飛ばしてくれて有難いよマイシスター。
 マーボーが外道的辛さでなければご飯にしよう」


 幸いな事に、油がぎっとりと浮かんでいるが、某外道神父が食べに来るほどではなかった。


 輝かんばかりの笑顔で、近親相姦(血が繋がっていなくてもこう表現するのか?)を推奨する未亜に薄ら寒いものを感じつつ、大河は無駄に爽やかな笑顔でスルーした。
 どの道、大河を待って未亜は食事していないのだから、この選択は当然であろう。

 乱暴に靴を脱いで台所に向かうと、大河がいつも心の支えにしている、暖かな夕食が待っていた。


「また俺を待ってたのか?
 わざわざ待たずにさっさと食べてもいいって、何度も言ってるじゃないか」


「ぶー。
 一人で食べたって美味しくないよ、ってその度に言い返してるじゃない。
 それに、私が一人で食べないから、お兄ちゃんは家に帰ってくるんだよね?」


 言外に、『貴方が私を放り出して遊びほうけたら、ウサギみたいに死んじゃうよ』と含みを持たせる未亜。
 つまり『他の女と遊んでないで、早く私の所に帰りなさい』、転じて『私を蔑ろにして死んじゃったらあなたのせいよ』となる(深読みしすぎだ)。
 命を武器に交際を迫るストーカーのようだ。
 実際に週に4日は大河をストーキングしているのだが、それはナイショのシミツな(実益を兼ねた)趣味。


「やれやれ……じゃ、いただきま〜す」


 苦笑しながら手を合わせて、猛烈な勢いで夕食を掻き込み始めた。
 未亜としてはもう少し味わって食べて欲しいし、大河としてもそうした方が未亜が喜ぶとわかっているのだが、こればかりは仕方がない。
 何せ大河としては、未亜の作る食事はほぼ半年ぶりに味わうのだから。

 どういう事かというと、それは彼の秘密というかバイトに関係する。
 が、それはひとまず置いておく。


 未亜はニコニコと機嫌よさ気に微笑みながら、自分もゆっくりと食べ始める。

 ご飯…平均点。
 お味噌汁…うん、上出来。
 マーボー豆腐は……ふふふふふ。


 ムシャムシャハムハムと音を立てて食べる大河を見て、未亜は訝しく思う。

 大河と二人で親戚の家を出て、二人きりで暮らし始めるようになり、はや数年。
 嬉しい事(初めては痛かったらしい)もあった。
 頭にきた事(大河がナンパするたびにお仕置き)もあった。
 自分も大河に隠し事(ゴムに穴を開けようとした事とか)をするようになった。
 けれども、悦び(翌日腰が抜けた)も苦しみ(バイトよりもテスト)も、二人でいれば乗り越えられる。
 兄に頼ってはいるけれど、二人で支えあって生きてきたと思っている。
 自分も、兄が落ち込んでいる時は優しく、時には体も駆使して慰めたり、何も言わず聞かずでずっとそばに寄り添っていた事だってあった。

 しかし、どうにも大河は、自分の知らない所でとんでもない苦労をしている気がする。
 週一くらいの頻度で、今目の前でやっているように暴飲暴食するクセがある。
 家に帰って来た時も、まるで長期出張から帰ったような表情を見せる時がある。
 ついでに言うとそういう日には、夜の秘め事がより一層激しくなったりする。

 それは思い過ごしだとしても、そもそもこの暮らしを維持できる事自体が不自然なのだ。
 豪華ではないが、立地条件の整ったマンションに住み、生活費も特に困窮しているわけではない。
 両親の遺産さえも、親戚達に奪われて残っていない。
 自分と大河の学費も、全て大河が稼いでいる筈なのだ。
 どれほどの時間をアルバイトに注ぎ込めば、十分な稼ぎができるというのか。

 それに――――


「お兄ちゃん、また怪我してない?
 腕の動きが、こう……どことなくぎこちないんだけど」


「ふが?………む(ゴックン)。
 ああ、ちょっとバイト先でドジってな……結構強く打ちつけたから、痣ぐらいは出来てるかもな」


 バイト先。

 未亜は、大河がどこで働いているのか知らなかった。
 何度かストーキン……もとい身内のための身辺調査と称し、大河のまわりを調べまわっていたのだが、その時に明らかになったのは、時給千円程度の肉体労働のみ。
 高校生のバイトでは実入りはいい方に入るだろうが、家計を保たせるにはどう計算しても足りない。


 危険なバイトではないだろうか、と何度も想像したが、生憎平和ボケした未亜の頭では、マのつく薬とか最後から2番目の武器とかの密売など、とてもではないが実感が沸かなかった。

 そもそも大河は、規律を屁とも思わない節こそあるものの、基本的に善人かつお人よし、なおかつ女好き(は関係ない)なので、例え間接的にでも人の人生を狂わせるような事に加担するとは思えない。


 では、結局彼のバイトとはなんなのか。
 聞いたら答えは返ってくるのだが、少々信用に心もとない。


「む?」


 思索にふけっていた未亜は、大河の声に反応して現実に引き戻された。
 大河はマーボー豆腐を掬って口に入れたまま、固まっている。
 さては見破られたか、と未亜は体を硬くした。


「未亜よ、これ味がしないぞ?」

「へ?
 ああ、仕様だよ仕様。
 本格的な四川のマーボー豆腐で、後から効いてくるんだって」

「ふぅん…?」


 物珍しげな表情で、何杯も掬って食べている。

 今のうちに、と未亜は食卓に出していたお茶を飲み干した。
 ジュースは全部切らしているし、水道の蛇口は徹底的に固めてある。


 準備OK。

 涼しい顔で大河に話しかける。


「ところでねぇお兄ちゃん」

「ぶがっ!? な、なんだ未亜?
 お前がそんな猫撫で声出すなんて、何か企んでる時か布団の中で抱き合って…すいませんもう言いません」


 大河はのっけから失礼だった。 
 絶対零度の視線で大河を黙らせて、能面のような表情で本題を切り出した。


「アケミってヒトからデートの時間合わせの電話がかかってきたんだけど」


 ピシッと音を立てて大河が凍りついた。


「大丈夫だよ〜喚き散らしたり、ある事ない事言いふらしたりして、お兄ちゃんとお友達の中を気まずくさせたりしてないから。
 でも、お兄ちゃんが居なかったから、私が代わりにデートの時間指定をしてあげたの。
 来週の土曜日の午後にね」


「お、お前、その時間は、テストが終りだから、どこかに連れて行けって言ってたじゃないか!」


「ああ、そう言えばそうだったね〜すっかり忘れてたよ、約束までしたのにね〜。
 どうしようか、お兄ちゃん?
 私のほうが先約だけど、アケミさんとデートもあるんだよね〜」


「アケミとデー…いやいやいや、とにかく勝手に時間指定したのは未亜だろーが!」


「うん、急いで決めたいみたいだったから。
 でもどうしようかな〜?
 あーあ、楽しみにしてたのにな〜」


「うぅ…」


「折角お兄ちゃんと二人でデートに行って、アレやコレやと色んな事するつもりだったのに」


「ぐぬぅ…」


「楽しみのあまり、今夜はあんな事とかこんな事までオッケー出そうかと…」


「なにゅう!? それは本当か未亜!?」


 未亜、黙殺。


「ああ、なのにお兄ちゃんはアケミさんと…。
 悲しみのあまり、オッケー出すどころか、一緒にお風呂に入らなくなったり、お布団を別にして添い寝しなくなった挙句に仕切りまでだしちゃいそうだよ…」


 一緒だったのか。


「わ、わかったよ! アケミにはちゃんと謝るって!」


 我が妹ながら恐るべし。

 大河が心底震撼したとき、再び聞き逃せない一言が。


「むしろ謝らずにすっぽかしてくれたら、お兄ちゃんにアタックかける人が少なくなって楽なのに…。
 それとも、未亜一人だけじゃ満足できないの?
 私をキズモノにした挙句、お嫁にいけないような事を 散 々 しておいて…。
 ああ、思いつめるあまり山椒を山ほど搭載したマーボー豆腐をついつい…」


「ま、待て!
 何も未亜に不満があるんじゃなくてだな、単に未亜の体力と俺の体力の問題で…?
 ちょっと待て、山椒?」


「そうだよ〜。 あの舌にピリピリくる山椒…?

 あ、あれ?
 舌が、っていうか口の中がぁ!?
 何で私まで!?」


 椅子を勢いよく吹っ飛ばして、未亜は立ち上がった。
 既に大河の浮気を追及するような余裕は微塵もない。
 見よ、口内は赤く燃えている。


「な、なんでもなにも、お前さっきボケーっとしながら、米・マーボー・味噌汁の順番で三角食やってたじゃないか!
 俺はそれを見て、やっとこのマーボーが罠じゃないと安心したんだぞ!」


「そんな事より水〜!お茶〜!ジュース〜!」


「お茶はもうなくなってるし、ジュースは最初からないし…。
 えいくそ、水道水は……って、なんじゃこりゃあ!


 水道は針金で雁字搦めにされていた!


「ってうわ、俺も舌に来た〜!」

「水〜!水分〜!」

「こうなりゃ味噌汁で…あちちちちっ!」

「何でこうなるのよ〜!お兄ちゃんのバカ〜!」

「おれの責任じゃねー!ふ、風呂!風呂の水はどうだ!?」

「私が先〜!」

「自業自得だろ!年長者に譲れ!ぬああっ、本格的にキター!」



「ふーぅっと」


 ごろん


 大河は布団の上に大の字で寝転んだ。
 開けた窓から吹き込んでくる風が気持ちいい。
 未亜がドライヤーで髪を乾かしている音が聞こえる。


 結局、にっちもさっちも行かなくなった挙句、風呂場の水を頭から被り、マーボー豆腐の処分は折を見て決める事になった。
 服を着たまま冷水を浴びたので、服ごとビショ濡れになってしまった。
 その格好のままだと風邪を引くし、仕方がないから二人で入浴。
 ただしマーボーに活力を削がれたのか、桃色な展開はない。

 ついでに言うと、残っていた夕食は温めなおしてたいらげた。


 一人で寝るには少々大きい布団の上で、未だにピリピリする舌を抱えて夢想する。


―――全く、未亜のヤツ無茶苦茶やりやがって…。
    天然で自爆してまで俺を罠に嵌めるとは……我が妹ながら恐るべし…。
    洒落にならないほど辛かった。
    パライソが見えたぞ、しかもマッチョ神父のいるパライソが。
    お仕置きだな、うん。
    都合よく夜だしな。
    まずはマーボーの味が消えるくらいに、これでもかって程にアレを飲ませて―――


「お兄ちゃん?」

「ぬおぅ!?」


 あわてて振り返ると、湯上りほこほこの未亜が立っていた。
 狼狽した大河を見て、未亜は大河が何を考えているのか悟ったようだ。
 ジト目になりながらも、照れを含んだ表情で大河を見つめる。


「はぁ…どーせお仕置きとか、俺のでマーボーの味を消してやるーとか、朝まで…とか思ってたんでしょ」

「ぬぅ、何故それを……ってそうかそうか、未亜はそーゆー事をして欲しいから、すぐにそんな発想がでてくるんだな。
 よしよし任せとけ、それはもうエロエロな夜を」

「ち、違うって!
 それよりも、コンビニに行くから付き合ってよ」

「は?コンビニ?」


 よっ、と掛け声をかけて起き上がると、大人しく服を着替える大河。
 その隣では、未亜がなぜか制服を持って部屋の外に出て行った。

 着替えるところを見せてくれ、と言ってエルボーを喰らったのは過去の思い出だ。


「しかし未亜、なんでいきなりコンビニに?」

「さっきのご飯で、お茶とか全部切れちゃったんだよ。
 明日の朝に買い物に行くよりも、今行ったほうがいいじゃない」

「そーだな。
 その分、朝に寝る時間が削られちゃたまらんものな。
 俺はてっきり生理用品かと…。
 いや待て落ち着け、生理用品違った、俺が言ってるのはコンドー「シャラーップッ!!!」


ドカン


「お兄ちゃんはねぇ、もーちょっとデリカシーってものを…ちょっと聞いてる!?」

「ああ聞いてる聞いてる。
 しかしだな未亜、俺がお前の言うとおりにデリカシーを身につけてみろ。
 ただでさえ数少ない欠点がさらに減って、魅力がアップしてもっとモテモテに…おい考え込むなよ」


 大河の言葉を真に受けて、未亜は真剣に検討し始めたようだ。

 実際に、大河を狙っている女性はかなり多いのである。
 デリカシーの無さやら、主人公必須の鈍感技能やらで(対外的には)フリーとなっているが、ヘタに技能を身につけさせると一気に攻略されてしまうかもしれない。
 そうなってしまえば、血は繋がっていないとはいえ、妹の自分は分が悪い。


「…でもお兄ちゃんがデリカシーとか身につけるのは、絶対に50歳過ぎてからよね!
 計画の進行をどんなに遅く見積もっても、その頃には穴とか開けて、既成事実を通り越して物証を製造してある筈だから問題ないわ!
 …ってワケで、今すぐどうこうなるなんて有り得ない事考えてもしょうがないわ」


 隣で聞いていた大河は、『何に穴を開ける気だ!?』とか、『既成事実はともかく物証ってナニ!?』などなど、聞かなくてもわかりそうな疑問を感じて悪寒を走らせていた。
 『計画』とやらには触れもしない。バラ色の鎖は人生の墓場に直結である。

 ちなみに筆者は、結婚祝いを香典だと思っていた時期がある。ある意味正解…?

 いや、大河としては未亜とそういう関係になる事に些かの問題もないのだが。


「ん?あいつら……」

「へ?どしたの?」


 まだ見ぬ敵への対策を練っていた未亜は、大河の口調に険を感じ取って顔を上げた。

 大河が睨みつけているのは、コンビニの中にいる3人の少年達。
 石を投げれば、10回に8回くらいは当たりそうな、平凡な人間に見える。
 ただし、少々ひねくれた、というか世の中を舐めている雰囲気がある。


「あのチンピラ予備軍っぽい3人が何?」


 何気にキツイ一言を放つ未亜だが、大河の注意はそっちには向かなかった。


「バイト先のコンビニのお得意さんだよ。……ただし」

「お得意さんにされてるのはコンビニの方?」

「いや、もっと正確に言うと店長がお得意さん……カツアゲされてんだ」

「……世も末だね」


 厭世的な表情で未亜は呟き、大河が指示する通りにコンビニに先に入って、少年達から見えない位置に移動する。
 少し間を空けて大河が入り、少年達を監視できる場所で立ち読みを始めた。
 高校生でも、大人の都合で18歳以上なので、秘密な雑誌も読める。
 未亜を遠ざけたのは、この為もあったりなかったり。


 暫くすると、少年たちはコンビニを出て行こうとした。
 ただし、雑誌をこっそりと隠し持ったまま…だ。

 予想が当たった事に舌打ちして、大河は気配を消したまま、少年達の後ろについた。

 未亜はというと、ジュースを買うついでに、『そこの3人が万引きしている所を見たことがある』と店員に言って、こちらに注意を向けさせている。


“未亜、上出来……後は…”


 3人がコンビニを出ようとした瞬間を見計らい、大河は声をかける。


「ちょっとすいませんお客さん、こちらまで…」


 大河の言葉が終わらないうちに、3人は顔色を変えて振り向いた。

 大河は素早く動いてその視界から外れ、そうなると3人の目に飛び込んでくるものは、未亜に注意を向けさせられた店員。

 ちなみに未亜は既に移動して、姿を隠している。

 バレた!と思い込み、3人は我先にと逃げ出そうとする!
 しかし、慌てたので1人は転び、残った2人がそのまま駆け出そうとする。


      ぺしっ
            ぼかっ

 めきっ


 が、次の瞬間には足を払われ倒れこんだところに、後頭部に鉄拳・顎に膝蹴りを喰らって沈黙。
 最初に転んだ1人は、踏み付けを喰らって夢の中に旅立った。
 大河の姿を一瞥すらさせない早業だった。
 ……断じて手抜きではない。


「いやー話のわかる人だったなぁ」

「うん。ああいう人がいると、世の中まだまだ捨てたものじゃないって思えるよね」


 店員にお礼を言われ、ついでにジュースの代金をタダにしてもらった2人。
 現金と言えば現金だが、悪い気はしなかった。

 コンビニの外には、万引きされかけた雑誌がまだ転がっている。
 その内容は、グラビアやエロ本漫画本、それに経済雑誌まで統一感がまるでない。


「愉快犯だね、あれは。
 だって経済雑誌なんて、あの人達一生読みそうにないもの」

「チンパンジーより低脳そうだもんな。
 たかが暇つぶしだと思っても、それに伴うリスクを全然認識できないんだろ」

「だね。 それよりも、私はわざわざ隠れてやっつけなきゃいけないっていうのが悔しいよ」

「仕方ないだろ。
 小物は中途半端に痛めつけると逆恨みするからなぁ。
 顔を知られると、後々搦め手…とはいかないまでも、周囲の人間にちょっかいをだす……お?
 なんだこりゃ?」


 大河の目に留まったのは、一冊の赤い本だった。
 他の雑誌と比べると明らかに異色を放ち、そもそもコンビニに置いてあるのかさえ疑わしい。


「あいつらの私物かな?
 どれ……」

「え?なになに?」


 大河が拾い上げた本を未亜が覗き込んだ瞬間。


……………


…………………………


………………………………………………


 その瞬間、まるでその一瞬だけ切り取られたかのように、世界から一切の音は消滅した。

 しかし、元々静かな場所だったせいで、2人は異常に気がつかない。


「え〜っと……何語だコレ?
 見たこともない言葉だぞ」

「見たことあっても、お兄ちゃんは英語もロクに読み書きできないじゃない」

「やかましい。
 ヒアリングなら得意なんだよ。
 あと古バルカラル語とかならなんとか…」

「しゃべれないなら意味ないじゃない。
 っていうか、それドコの言葉なの?」

「前に赤いちゃんちゃんこを着たネコが使ってたのを聞いたことがあるぞ」

「ネコ!?」


 2人が話し込んでいる間に、世界の静寂は拡散・収束しはじめていた。
 音がなくなった空間がの中心が……赤い本の周囲の空間が、少しずつ拡散しはじめる。
 空間に与えられた居場所が捻じ曲げられて、周囲の景色が歪む。
 居場所を捻じ曲げられた空間は、逆らう事もなく、それぞれが違う方向へと拡散していった。
 空間の拡散が進行していくと、そこには穴ができはじめる。
 世界を構成する空間を、虫食い穴のようにこじ開けると現れる穴。

 しかし、未だに2人は知覚できずにいる。
 当然といえば当然である。
 3次元世界に生きる人間には、そのような機能は付属されていないのだから。


 やがて空間の歪みは2人をすっぽり覆い隠し、歪んでいた空間はゆっくりと元に戻っていった。

 世界が無音から解放されたとき、2人の姿はこの世界のどこにもなかった。


………………………

………………

………


 はじめまして。
 この度ロム専門から、書き手側に転向しようと思いました時守 暦です。
 DUEL SAVIORのSSをあまり知らないので、思い余って書き手側に挑戦してみました。
 これって元ネタ何人ぐらい知ってるか、正直不安なんですが……知らない人でも楽しめる作品を目指します。
 SSを書くのはおろか、感想すらロクに書いたことのない素人ですので、ヌメっとした生暖かい目で見守っていただけると助かります。

 更新頻度は……多分、一ヶ月に2回くらいは…。
 勢いだけで書いて、プロットも何もありゃしないからなぁ…。

 プロローグだけってのも何なので、第一話は早めに出したいと思います。

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