第5話
自由都市地帯には、その名称の通りの自由の名の基にさまざまな組織が存在している。
魔法使い、商人、労働者、そして冒険者の為の様々な組織である。
そして、今、俺の目の前にはキースギルドと言う趣味の悪い看板を掲げた建物が存在していた。
このギルドは名前の通り、キースという趣味の悪い毛皮を着た、イヤらしい派手な格好をした脂ぎったハゲオヤジがボスをしている。
長ったらしい表現になってしまったが、これだけではあのオヤジのうっとおしさは満足に表現できない。
このオヤジは故郷の村を出て、初めてアイスにやってきた俺を冒険者の道に引きずり込んだ張本人である。
それ以来、このギルドに俺は所属し、奴と付き合っているのだが……いっこうに奴との縁が切れてくれない……俺様のおかげであの糞ハゲオヤジが稼いでいるかと思うと、むかむかしてくるぞ!
俺はそんな事を考えながら、久しぶりにやってきたこの建物の看板をあらためて見上げていた。
そんな事をしていると、やがて、建物の入り口から人影が現れた。
見ると、青い髪の男だ――バードか……
外にいないと思っていたら建物の中に先に入っていたらしい。
まあいい……どうでもいいからな……
……俺様が、二人っきりで男と話すなんて、そんな気色の悪いことをするわけない。
しかし、そんな俺の考えをよそに、バードは俺様に声を掛けてきやがった。
「ランスさん、シィルさんとかなみさんはどうしたんです?」
無言……
「あのー?」
無視無視無視………
「ランスさん?」
しつこい奴だな………
「…………………………」
やっとあきらめたか……
―――雑踏のざわめきだけが聞こえる。
スーパーな頭脳で、現在の状態を客観的に分析してみた。
くそ!なんでこの俺様が、男二人、こんなとこで仲良く並んで立っているんだ?
俺は、あらためて今の不条理な状況に気付いた。
そうなのだ、俺達を傍から見れば、二人の冒険者風の男が二人っきりで昼間からギルドの入り口で、仲良く立ち話をしているように見えるのだ。
ここは冒険者ギルドだから、男二人のパーティーに見えて、まだましなのだろうが、この俺様が男と仲良くしてると思われるなんて冗談ではない!!
くそ、シィルに、かなみめ!俺様をこんな状況で待たせるなんて、今晩は二人ともお仕置き決定だな!
「あっ、ようやく来ましたね」
俺は、思考の果てにどんなお仕置きをするか決定した頃、ようやく二人はやって来た。
二人を見ると、シィルの奴は落ち込んでいるようだった。
うつむいてしょぼくれている。
仕方ない奴だな……
二人が来たことで、俺はようやく不幸な状態から解放された。
俺を先頭にして、このギルドのボスであるキースの部屋にさっさと向かう。
大抵の冒険者は、ここの職員から依頼を受けるのだが、俺様程の戦士となると、キースから直接仕事を請け負うのだ。
部屋の前までくると、俺はノックもせずにずかずかとキースの部屋に入る。
部屋の中は、相変わらず品の悪い金持ち主義丸出しの備品が、美的センスのかけらも無く、そこらじゅうに置かれていた。
かっぱらって叩き売ってやろうか……
キンキラの装飾品を見ていると、そんな考えが頭をよぎる。
「おっ、ランスじゃねえか、久しぶりだな、元気にやっとるか」
突然の侵入者に驚いた様子もなく、機嫌よく笑いながら挨拶をしてきた。
声のほうに顔を向けると、奴の隣には、前回、この部屋に来た時にはいなかった、美人の色っぽいがいた。
「ふん、俺様はいつも無敵だからな。そんな質問自体が愚問だ」
俺は、いつもの通り奴に向かって、適当に返事をしてやった後、隣にいる美人のねーちゃんをじろじろと観察した。
ぴしっとした感じの、色っぽいお姉さまって感じだ。
どうやら、キースの秘書らしいが、男を惑わす蕩けるようないい体をしている。
色っぽい腰つきがたまらないな……奴の部下にするにはもったいないぞ。
このキースみたいなハゲオヤジが上司では、この子が可哀想だな。
きっと、親の借金の抵当に出されたのに違いない……不憫だ。
キースにくれと言ったらくれるだろうか……
俺は、どうやって彼女を手に入れるか算段を始めた。
「おい、ランス!さっきから俺の新しい秘書のハイニを見ているが、気があるのか?だがハイニはやらんぞ」
と、突然、俺の思考はキースの声によって破られた。
むっ?俺の考えていることがなぜわかった??
「ランス、よだれが出てるわよ」
かなみが俺の口の周りを指差しながら呆れたように言った。
横にいたシィルが黙って俺にハンカチを差し出す。
どうやら、いつのまにかよだれが出てしまっていたらしい。
「ランス、お前は、すぐに顔に出るんだよ、ポーカーはやらないほうがいいぞ」
キースは嬉しそうに笑っている。
俺は、そんなキースの言葉をを無視し、あらためてハイニと言う女性を眺めた。
ハイニと言うのか……やっぱり奴にはもったいない良い女だぞ……
「おまえにはもったいない良い女だな」
はっきりと奴に忠告してやる。
「ははは、人徳よ、人徳。いい男の所にはいい秘書がくるのさ」
「何が人徳だ。金の力だろうが」
悪態をついてやったが、まったく効果がない……無視だな!無視!………ハイニさんを口説く事にするぞ。
ハイニに近づき、口説き始める。
「ハイニさん、こんな男の秘書なんかやめて、俺の秘書にならないか?」
「おい、ランス、俺の目の前で俺の秘書を口説かないでくれるか」
「そうだったな、これは失礼。…と言う訳でキース、お前は向こうに行ってろ」
背後のドアを出て行けとばかりに指差すと、奴に向かって俺様は慈悲深く忠告してやった。
「ほれ、今なら命だけは助けてやるぞ」
そして、再び、彼女を口説く。
「ランス、いいかげんにして!!今日はそんな事のために来たわけじゃないでしょ」
と、今度は後ろから邪魔が入った…………声の主はかなみだった。
そういえば、ここには何しに来たんだっけ?
彼女の顔を見ると、いっこうに話が進まないのでいらいらしているらしい。
カルシウムが足りないぞ……それにしても、朝から怒りっぽいな、かなみのやつ……
「ところでそっちの嬢ちゃんと、もう一人の優男はだれだ?その嬢ちゃんはともかく、お前が男を連れてるなんて珍しいな」
かなみの横槍に、キースは俺以外の存在にようやく気がついたようで、俺に向かって紹介しろとせっついてきやがった。
俺は仕方なく、答えてやる。
……かなみはともかく、バードの奴を紹介するのは、奴と仲間だと思われるので嫌だな……
「俺様の新しい女で、見当かなみと言う。で、そっちの男はバードだ。言っておくがかなみに手を出そうとしたら、とっとと殺すからな」
俺は、キースに念を押すように言った。
「なるほど新しい女な、じゃ、シィルちゃんはどうするんだ?」
「あほ、シィルは俺様の奴隷だ。関係ないお前が、俺様のすることに口出しするな」
「そうか、で、今日はいったい何のようだ?」
納得したキースは、本題を尋ねてきた。
めんどくさいので、バードに全部任せちまうか……俺様的にはどっちでもいいからな……
「おい、バード、めんどくさいからお前が説明しろ」
俺は不機嫌な声で、バードに向かって命令した。
……と、その時、
「待って、ランス。私、ちょっとキースさんに聞きたいことが先にあるの」
かなみの奴が横から口を出してきた。
見ると、かなみは必死そうな顔をしていた。
おい、かなみ、忍者なんだからもっと表情を消せ……だめだめだぞ。
そっと、かなみに向かって心の中で忠告しておく。
しかし、そんな俺をよそに、二人の会話はどんどん進んでいった。
「ところで、キースさん、戦争のことを知っていますか?」
「リーザスとヘルマンの戦争の事か?」
「はい、何か、進展があったのですか?」
「あまり知らないな、知っていることといえば、せいぜい、二週間ほど前にリーザス城が陥落して、リーザスのほとんどの都市がヘルマン軍に降伏した事ぐらいだ。リーザスが占領されるのも時間の問題だな」
「そ、そんな、周辺にいた軍はどうしたのですか?」
かなみはあからさまに動揺していた。
やはり、修行が足らんな、忍者失格だぞ。
「それは知らん。まあ、残ってると俺が知っているのは、ゼスとの国境にいる青の軍のコルドバぐらいかな」
かなみは、悪い情報しか得られなかったので落ち込んでいるみたいだ。
しかし、キースはかなみの様子を気にした風もなく話を続けた後、話題を変えようとした。
「まあ、はっきりした情報じゃないから気にするな。それに、どこで戦争をしようと、俺達には関係ないからな。いや、戦争が起ったほうがいろいろとイベントが増えるから俺にとったらいい事ずくめだぜ。ところで、今日の用件は何だ?いいかげん本題に入ろうぜ?」
すると、キースの要求に、今まで後ろで黙っていたバードが、一歩進み出た。
「そうですね。実はキースさん。仕事を紹介して欲しいのです」
「誰だ?お前?」
キースは、あらためてバードをじろじろと観察すると、もう一度俺様に質問してきた。
バードもなんと言ってよいか困っている。
とうとうボケ始めたのか?それとも俺様と一緒で男の名前なんて覚える気がないのか?
さっき俺様が、かなみと一緒に説明してやったというのに、奴の名前を覚えていないようだ。
ハゲで、ボケに、さらに爺か……救いようがないな
「キースさま、彼はバード・リスフィと言って、一応ギルドに登録されている冒険者です」
そんなバードの態度を見かねたのか、ハイニさんがキースの耳に口元を近づけると、小さな声で説明した。
俺はそんなハイニさんを下から上へと舐めるように観察した。
うーむ、やっぱり美人だ……しかも有能、キースの部下にしておくにはやっぱりもったいないぞ。
「そうか、で、なんだ?」
「はい、実はですね、ここにいるランスさんと、賭けをすることになったんです。その方法として、どちらが早く仕事をかたずけるかで判定することにしたんです。そういう訳で仕事を紹介して欲しいんですが・・・お願いできますか?」
「・・・・さっきまで話していたことに関係するんだが、今、リーザスにヘルマン軍が攻めてきてるだろ?今まであった依頼もあらかたキャンセルされて、ある仕事といえば、傭兵の紹介ぐらいしか残ってないぞ」
「そこをなんとかなりませんか?」
キースはしばらく考えた後、一つの答えを返した。
「そうだな、さっきまで一つ人質救出という仕事が残ってたんだが、さっき決まったんだ」
「その仕事を紹介してもらえませんか?」
バードはしつこく食い下がる。
「しかしな、お前もここの冒険者なら、ラーク&ノアと言うパーティは知っているだろう?今回の仕事は、彼らがしてくれる事になったのさ」
「誰だ?そいつらは?」
俺は、じろじろとハイニさんをどう口説こうか考えていたのだが、聞いたことのない話に思わず声を出してしまった。
「ランスさん、知らないんですか?」
バードが呆れた風に聞いた。
やっぱりむかつくな、こいつは……
「しらん、そんな奴は」
「ハイニ、ラーク&ノアの事を説明してやれ」
「はい、キースさま。ラーク&ノアと言うパーティは、男の戦士ラークと女の戦士ノアの二人の事でして、美男美女のスーパーヒーローとして有名です。各地でいろいろ事件を解決して、人々から敬意と信頼を得ています。また、魔獣カースAを退治した事で英雄と言われています」
「そう言う訳だ、誰かさんとは、えらい違いさ。まぁ、今回はお前達の仕事は、無いだろう。あきらめて、別のことで勝負しろ」
話が終わるとキースは、納得したかと言わんばかりに、俺達に向かって忠告してきた。
「「「「……………………」」」」
部屋の中は沈黙に包まれた。
みんな黙りこんでいる。
しばらく待ったがバードは何もしようとはしなかった。
どうすればいいか、考え込んでいるらしい。
……………………ちっ、仕方ないな、
………そうだな、そうすることにするか………………せっかく俺様が珍しく男にチャンスをやったと言うのに……
「わかった、それでは、仕事内容を教えてもらおうか」
俺は何もしないバードの代わりに、キースに向かってあらためて強く要求した。
「だから、ラーク&ノアにその仕事を渡したぞ」
キースはしぶい顔で言った。
どうやら、俺の意図を図りかねているようだ。
「俺様が先に解決してやる。そして当然報酬は俺様がいただく。弱肉強食、早い者勝ちだ」
キースに向かって当然のように、自信たっぷりに答えてやる。
しかし、奴は俺の顔をしばらく観察した後、
「お前がラーク&ノアに勝てるのかよ?」
と、馬鹿にしたような返事を返した。
「キース、人を見る目が無くなって来たんじゃないのか?真の英雄とクズの差がわからないのか?」
……部屋の中は再び、しーんと静まりかえった。
俺とキースの睨み合いが始まり……やがて、キースは突然、ふっと笑った後、今までの態度をひるがえした。
「いいだろう。無駄になるだろうが、俺としては任務さえクリアしてくれたら、どちらに金を渡すのも一緒だからな」
「よし、それでは仕事の内容を話せ」
「ハイニ、ランスにインダスの依頼を説明してやれ」
「はい、ボス・・・今回の依頼は、インダス書房の会長であるジンゲル・剛・インダスの娘のローラ・インダスを救出する事です。彼女を救出できたら2300ゴールドの報酬が付きます」
「ふむ、地味な仕事だな。報酬が安すぎる。普通なら俺様のするような仕事じゃないな。で、ローラって子の写真は?」
「これです」
そう言うとハイニさんは俺に、一枚の写真を渡した。
そこには、割とかわいい、微笑んでる女の子が写っていた。
「75点ってとこだな。いいだろう、話を続けてくれ」
俺は、彼女に続きを促す。
「ローラ・インダスは、この町の北北東にある「リスの洞窟」の主の、リスに捕まっています。洞窟には、いろいろと魔物が棲息しているようです。また、リスに付いての詳しい資料は、今の所ありません」
「よくわかった。要はリスのモンスターをぶち殺して、ローラを連れて帰ればいいんだな。簡単だ」
「まあ、好きにしてくれ。そうそう、やる気なら急いだほうがいいぞ、もうラーク&ノアは、出発しているはずだからな」
「ふん、それぐらい軽いハンディさ、すぐに追い抜くさ。ところで、キース2300ゴールドとは少ないぞ。もう少しあげろ」
奴に向かって言い放つ。
「ランス、いやなら引き受けなくてもいいんだぜ」
しかし、キースは、俺の言葉を軽くうけながした。
「ちっ、この強欲じじいが」
キースに向かって悪態をつく……
「それは褒め言葉か?」
また言いあいが始まりそうになる……
……が、いつまでも不毛な言い合いを続けても仕方がないので、俺はとっとと話を打ち切ることにした。
どっちでもいいからな……この仕事は……
「ランスさん、僕にも写真を見せてください」
……と、話が終わったのを見て取ったのか、バードが俺に話しかけてきた。
ふん、来たな
俺は素直にハイニさんから受け取った写真を、バードに向かって左手で差し出してやった。
「ほれっ」
声と共に、写真を奴に渡す。
―――そして、奴が写真を受け取った瞬間、俺はバードの隙だらけの顎に向かってショートアッパー繰り出した。
ドガッ!!!!!!!!!!!!!
バキッ!!!!!!!!!!!!!!
俺様の華麗なパンチ音が、部屋中に木霊する。
いい音だ!
奴の顎に見事にクリーンヒットしたようだな。
そして、俺はすかさず、奴の装備している剣を左手で抜き取る。
見ると、綺麗に当たったわりに、まだ奴の意識は残っているようだった。
俺様のパンチで生意気にも気絶しなかったのか
手加減しすぎたか?
そんな考えが頭をよぎる
仕方がないので、止めを刺すことにする。
ああ、何てことだ、この俺様がこんな事を………
俺は奴の背後に回りこみ、右腕を首に絡めるて絞め落とす。
くそったれ、この俺様が男に抱きつくなんて………
―――30秒ほど立つと、バードはあっけなく気絶した。
一仕事終え、ふと顔をあげると、キース以外の人間はあっけに取られた顔をしている。
キースだけがにやにやと笑っていた。
くそッ!奴に行動を読まれていたようで、なんかむかつくぞ!
あんなハゲオヤジをこれ以上相手にするのはごめんだ。
さっさと仕事を終わらせここを立ち去ることにする。
俺は、かなみに向かって命令した。
「おい、かなみ、こいつが欲しかったんだろ。ボケッとしてないでさっさと、この馬鹿から残った鎧と鞘を剥ぎ取れ!」
俺の声で、ようやくかなみは思考が戻ったようだ。
そしてまた、怒っている。
「ランスったらなに考えてんのよ!いきなりこんなところで暴れ始めるなんて!」
やっぱり、カルシウムが不足してるぞ、こいつ……
仕方ないな、シィルにやらせるか
「おい、シィル、かなみの馬鹿が役に立たないから、代わりにお前がやれ」
仕方なく、シィルに代行させようとしたが、シィルも衝撃が抜けきっていないようで、おろおろといっこうにうごこうとしない。
なんて役に立たない連中だ。
仕方がないので、もう一度かなみに催促する。
「おい、かなみ、さっさと目的の剣と鎧を取っちまえ。お前がどうしても必要だと言ったから、俺様はこんなめんどくさいことに付き合ってやっているんだぞ」
「どういうことよ」
かなみは不満そうに返事した。
まだ、俺様の意図がわかっていないらしい。
「おい、ランス、ちゃんと説明してやれ。そうしないと二人とも動こうとしないぞ」
今までずっと、にやにやと笑って様子を見ていたキースが、楽しそうに口を出してきやがった。
俺は心の中でそっと溜息をついた。
「ちっ、わかったよ、おい、かなみ、俺様の話に納得したら、さっさと仕事しろよ。俺様はもうこれ以上男に触るなんて真っ平なんだからな」
「わかったわ……」
かなみはまた不満そうに答えた。
いったい何が不満なんだ?かなみは?
「まず、最初に俺様は紳士的にあのバードに従ってここまでついてきてやったな?」
「ええ」
「で、次に、奴がそこのキースに仕事を斡旋してくれるように頼んだ。ここまではいいな?」
「そうね」
俺の解説にかなみは素直に頷く。
「そして、キースに仕事がないと断られ、他の方法に変えろと言われたわけだ。だから、今の状況になる…わかったか?」
「どういう事よ?」
まだわからないらしい……仕方がないな……
「だから、この俺様が目的のものが目の前にあるのに、あんなしょぼい仕事をする訳がないだろ……最初は付き合ってやろうと思ったんだが、奴があまりにもボケッとしてるもんで、とっとと最短の方法で手に入れることにしたわけだ……この通り、油断しまくって気絶してるだろ?ほら、わかったらさっさと剣と鎧を奴から剥ぎ取っちまえ」
かなみは、俺の説明をしばらく咀嚼した後…………
「あんったって……あんったって……」
ぷるぷると腕を震わせながら、かなみは、しばらく呆れたような、怒りを抑えているような、微妙な表情をしていた。
……が、やがて、納得したのか、のろのろと動き始めた。
「シィル、お前もかなみを手伝ってやれ」
まだ、ボケッとしていたシィルにも命令してやる。
「はい、ランス様」
シィルも正気を取り戻し、のろのろとかなみを手伝い始めた。
そして、俺は剣と鎧を剥ぎ取るまで、のんびりと二人を待つことにした。
疲れる連中だぜ………
――――十分後、聖剣と聖鎧を装備した俺様が、キースの部屋にいた。
「邪魔したな、おいシィル、かなみ、とっとといくぞ」
俺は一言キースに挨拶すると、とっとと部屋を出て行こうとする。
「おい、ランス、請けた仕事はどうするんだ?」
にやにやと笑いながらキースはそんな事を言ってきた。
くそっ、このくそオヤジが!!
「そんなもん、そこで気絶している馬鹿にやらせればいいだろ。もともとそいつがやりたがった仕事だ」
「ははははは、わかった、わかった、そんなに怒るな。今回は男を連れたお前なんて、レアな物を見せてもらったからな。ここで暴れたことはチャラにしてやろう。また、仕事が欲しかったらここに来い、また女の子が絡んでいる仕事は、お前用にとっておいてやるよ」
……出て行く途中、背後でかなみとシィルの挨拶が聞こえてきた。
「キースさん、お世話になりました」
「キースさん、すみません。ランス様を許してくださいね。また、お仕事お願いしますね」
やっぱり、こんなとこに来たのは間違いだったな……ああっ、気分わるっ!!
俺は、ずかずかと廊下を歩き、一人でギルドから出て行ったのだった。
ギルドの入り口で、シィルとかなみはようやく俺に追いついた。
俺は入り口にある待合所のソファーにでんと腰掛けると、俺はかなみに向かってこれからの方針を尋ねた。
「それで、かなみ?おまえ、これからどうするか決めてるのか?」
「え?」
突然の俺の質問にかなみは答えられない。
「だから、こうしてお前の希望通り、聖剣と聖鎧と聖盾をそろえただろ?もちろん、方針は決めてあるんだろうな?」
ねちねちと追い詰めるように聞いてやる。
「あう……」
やっぱり何も考えてなかったな、こいつ……
「ランス様、みんなで一緒に考えましょう」
見かねたシィルがフォローした。
はぁー
俺は思わず溜息をついた。
ほんとに忍者か?こいつ?
JAPANの忍者と言えば、冷静沈着で、全ての行動には理由が存在する、破壊工作と情報ののスペシャリストじゃないのか?
こいつを見ていると、そんな噂は全てデマのようだな……
……仕方ない、俺が仕切ってやるか。これも仕事だ。
かなみを苛めるのは楽しいが、こんなとこで遊んでいても仕方がないので、シィルの言う通り会議を始めることにする。
「さっきのキースの話だとリーザス軍は頼りになりそうにないぞ。どうやってリアを助けるつもりだ?どこかに戦力のあるところを知っているか?」
条件を整理してかなみに尋ねた。
「えと、キースさんの話だと青の軍のコルドバ将軍が残っているみたいだけど、行っても当分の間、頼りにはできないと思う。方向も逆だし……そうだわ!まだ最強のリーザス第2、3軍団のリック将軍やバレス将軍が残ってまだ戦っていると思うから、お二人に協力を求めましょう」
「そいつらは頼りになるのか?」
「ええ、二人は大陸でも有数の将軍だから大丈夫!それに、オークスの街には白のエクス将軍もいるし、きっとリア様達を助けられるわ」
かなみは自分の思いつきに元気づけられたのか、嬉しそうに一気にしゃべった。
「わかった、わかった。じゃ、そういうことで出発するか」
「ええ、すぐ出発しましょ。早く助けないとね」
最初とは大違いな態度で、うきうきと浮かれている。
出発と言えば、俺のレベルむちゃくちゃ下がってたよな。
念のため、かなみのレベルを聞いてみた。
「よし、決まりだな。ところで、かなみ、お前、今、レベルいくつだ?」
「え?えと、Lv25よ」
かなみは俺の唐突な質問に戸惑っていたようだが、素直に返事が返す。
むむ、25か、俺様は今たった10だからな。
かなみの分際で俺様より高いのか……
俺様は天才だから、すぐに上がるんだろうが流石に最低でもLv20以上にあげとかないとまずいかもしれんな……
めんどくさいが……仕方ないな……
「よし、かなみ……そうだな、お前は忍者なんだから、先に隣のカンラの街に行って、情報を集めておけ」
もっともらしく、命令してやる。
「え?ランスはどうするの?」
「俺様は少しLv上げをしながら、カンラに向かう。少しでも高いほうが、後々楽だろう?」
「わかったわ。じゃ、私はさっそくカンラに向かうわね。ところで、どこで合流するの?」
「冒険者の集まる酒場があるだろ?お前も情報を集めるのに毎日廻るだろうから、そこにいれば合流するさ」
「了解!!」
納得したかなみは、さっそく外に向かって走り出した。
相変わらす落ち着きのないやつだな……
「よし、シィル、俺達も出発するぞ。とりあえず5日ぐらいかけて、街道から外れた荒野でレベル上げをしながらカンラに向かうぞ。その為の準備をしっかりしろ!」
「はい、ランス様。ところでランス様はどうされるのですか?」
「俺様は準備が出来るまで家で寝る」
俺様は胸を張って答えた。
「ランスさまぁー」
シィルは情けなさそうに俺様の名を呼ぶ。
「うるさいっ!!」
ぽかっ
シィルの頭を軽く叩く。
「ふん、シィルの癖に生意気だぞ。ほら!さっさと動かんか!」
軽く怒鳴ると、シィルを置いてすたすたと一人で歩き出す。
まったく、シィルといい、かなみといい、どうしようもないやつらだ…………
あとがき
第5話です。
今回、最初はマジメに依頼を受けてクエストに向かう話だったのですが、こんな話に…
この後、依頼を受けた後、先走ったバードが、サテラに聖剣と聖鎧を奪われてしまうはずだったのですが……
では、第6話をお楽しみに。