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「生まれ得ざる者への鎮魂歌―第八話『覚醒する者』―(天上天下+オリジナル)」

ホワイトウルフ (2005-03-09 13:16)
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・・・闘いの記憶。戻るなら、それから先がいいと思った。何故だろうか? そんなものより大切なものがあった気がしたのに、求めたのは闘争の記憶だ。何を見て、何を思い、何をしたかなんて・・・俺には関係ないのだろうか? いや、おそらく俺が求めるのは必要だと思うからだろう。本能が言う。・・・来るべき、時がまもなく訪れると。


生まれ得ざる者への鎮魂歌
第八話『覚醒する者』


「・・・ほぅ、今のを防ぐか。おもしろいな。中々の実力だ」
「・・・・・・」

俺の止まった姿を其の眼に捉えて、目の前の青年は睨みつけてくる。

「今のは、少しばかり、ヒヤッとしたな。まさか四方八方から来るとは思わなかったよ。さすがに、それぞれが届くのに時間差があったけどね」
「それは、銃なしで防いだ奴が言う台詞ではないな」

そう、こともあろうかこいつは、あの崩れた体勢で体をひねって九本の飛来したナイフの半数を蹴り、もう半数をナイフの腹を横から腕で払って防いだ。

・・・腕から、金属音が聞こえた。おそらく、あの腕には篭手のような物が袖の内側に仕込まれているのだろう。

「しかし、刀が無いのは少々つらいな。貴様の銃弾がもっと重くて口径のでかい弾なら、もっと危うかった」
「あまり威力があって重い弾だと、下手に扱えば、兄さんを殺してしまう可能性もあるし・・・それに何より、あんな無骨で品のない威力だけの弾なんてナンセンスだよ。この弾は確かに、マグナムなどで使用される弾より威力は無いかもしれないが、技術次第では十分そんな鉛球なんかより有効な威力を引き出せる。あんな重いだけの威力だけ考えた物より数倍、役に立つ。・・・もっとも、納得行かないけど、そんな弾の方が好ましい時もあるけどね」

奴は、そう言うとようやくはっきり顔が分かるようなほどの明るさの場所に出てきた。

「!」

この青年・・・おれにそっくりとはいかないまでも、俺の顔の面影を持った顔をしている。
兄弟・・・俺は養子だと聞いた。ならば、養子になる前の俺の本当の兄弟なのか?

「似ているだろ? 兄弟なんだから当たり前だよね。まあ、普通に血を分けた兄弟と言うには語弊があり過ぎるけどね」
「・・・何者なんだ、貴様? 何故、俺の面影を持つ? 本当に兄弟と呼ぶにしては、不審な点が多すぎる」
「ふぅ・・・まあ兄弟の中で兄さんって呼び方をしているのは、僕くらいかな。後のみんなは兄さんを『キング』とか『マスター』って呼んでいるからね。でも、分からなくていいさ。完全に分かるには、早急過ぎるからね」

・・・どうあっても、俺を引き入れたいようだが。
悪いが、記憶無き今では、怪しげな所にそうそう付いては、いけないしな。

付いていこうものなら、あの『女狐』がどう出るか?
・・・・・・やめよう。考えただけで寒気がする。

「さて、話が長引いたが、続きをしようか?」
「・・・そうこなくちゃ、兄さんと一手を興じられるなんて、そう無いから楽しめるよ」
「俺相手に、楽しめるのか? お前程度の腕で?」
「だろうね。・・・本来なら、僕が負けるのは時間の問題だけど。・・・・・気付いていないと思ったのかい? 昔の兄さんなら、もっと戦況を覆すための手札がいくらでもあった。大方、忘れているんだろうね、闘う術を・・・。今までのは体が無意識下で覚えている分と数少ない記憶を辿った戦術だけの物だ。このまま、思い出さないままで居ると、僕でも兄さんを打ち倒せるさ」

ふん、そんなものは言われなくとも分かっている。俺ができるのは、肉体のポテンシャルを生かした移動方法以外は、基礎を塗り固めたような誰でもできるようなことだ。

そこに、俺と言う個人が居ない以上、真に足りえぬ腑抜けた強さだけが残る。

しかし・・・元より『闘』とは今在るものから『戦況の利』を見出すものだ。決して、今ないものを求めたり、期待するものではない。

故に、『闘』を行使するならば、今のままでも十分だ。そもそも、戦いに万全であることが不可欠など愚か者の持論だ。常にどのような状態であれ、『其の瞬間を見抜き、相手を退けられない者』など、滑稽なだけだ。

「ぬかせ。貴様ごとき、今在る『闘武』で十分だ。それに・・・この境地、この感覚。少しずつだが・・・記憶と感覚が一致し始めている。だが、完全なモノではないにしろ、お前との闘いが、要因しているようだ。・・・こんなこと初めてだ。初めてだからこそ、興味が引かれる」

それに期待しているわけではないが・・・それが、戻ることに心が向いているものがあるのもまた確かでもあるのだ。

無様な『闘』は演じない。

「がしかし・・・忘れていたが、のんきに興じていられるほど。甘い状況じゃなかった。俺は、とっとと貴様を倒し、その経緯によって記憶を・・・闘いの感覚と技術を思い出させてもらう。そろそろ・・・他の連中が気になるんでな!!」
『シュン!』

そう言って、俺は奴の銃口の照準からすばやく離脱する。

「また、姿をくらますのかい? こりないね。そもそも視覚的に見えなくても、気配だけはきちんと残っているんだ。・・・そこら辺が、兄さんの昔と違う所だよ」
『ドガガガガガ!!』

確かに、このままではジリ貧だ。だが・・・それはナイフだけならばだ。
遠距離攻撃が、ナイフ投げだけではないことはさきほど証明済みだということを忘れてもらっては困る。

「はっ!!」
『ドス!』

「ぐ! また、遠当て!」

もろに、腹に入ったな。俺は先程と違い指を立てずそのままの拳で、遠当てを放ち当てる。

遠距離から放たれる、拳と同じくらいの球状の硬質化した空気は、威力より速さを重視された即席の砲丸である。

「動きを止めたな」

即座に俺は、その場に止まって腰を落とす。
構えるは己を『砲座にするための構え』だ。

『ドドドドドドド!!!!』『ドガガガガガガ!!!!』

「がぁ!ぐ!かは!ごふっ!くぅ!」

ラッシュと呼ぶにふさわしい間を空けない空気の砲丸が俺の両の手で『遠当て』と言う方法で何十にも放たれる。

結果、奴の体の腹や顔、手足などを『ソレ』が滅多打ちにして行く。

殴ると言う動作を遠距離から行えることと言うのは非常に有効なモノだが、今回は相手に攻撃の余地を与えないと言う意味合いを込め、高速化したラッシュの攻撃だ。

しかし、この攻撃は『氣』を扱うには、滑稽な紛い物だ。
本来の『遠当て』というのは技の名前ではなく、技術を指すものだからである。

前にも言ったが、『遠当て』は氣を扱うための通過儀式でしかない。ならば、其の威力が通常の『拳撃』程度でしか得られないのなら、そんなお粗末なものは無い。つまり、今の俺では基本的に氣は練れても、この場において昇華させる術を喪失させていることを指す。

とはいえ、ダメージを与えてることもまた事実なので、これ以上、効果的なものは無い。

確かに、今の俺は十分な『力』ではない。
しかし、それでも打倒する術はいくらでもあるのだ。

それを、導くのが『闘』の教えなのだから。

「ぐ!・・・舐めるな!!!!」
『ギュルルルル!!』『ガガガガガ!!』

何かを削るような音と俺の攻撃を防ぐ音が聞こえる。
言葉と共に、奴はその場で片足を軽く浮かせてクルクル回りだしたのだ。

・・・もっとも、『クルクル』などと言ったが音から想像が付くように生易しいものではない。速度が半端じゃないくらい凄まじく、軸になっている足の下の地面が煙を立てている。

おまけに摩擦熱じゃなくて、地面をわずかにえぐっているせいで煙が出ているようだ。

・・・ただ回転するだけじゃなくて、あの回転力を利用して俺の連撃を捌いて防いでいるな。

「ち、これ以上の追撃は意味が無いか」
『ギュルルルル!!』
「いちいち、狙うのがめんどくさくなったよ。このまま、決めさせてもらうよ!! いくよ兄さん!! ・・・これが、僕の技『スピンバレット』だ!!」

「な!」
『『ドガガガガガガ!!!!』』

くそ! 奴め。あろうことか、あの回転したままの状態で二丁拳銃を自在に操って、発砲してくる。おかげで、弾が奴を中心に四方八方に飛んでいる。

『『『『チュイン!!』』』』』

おまけに、其の中のいくつかの弾は跳弾しながら、こっちに飛んでくるものだから見切りにくい。

「くそったれ! 何て、打ち方をするのだ!?」
「とっておきだよ!!」

『『ドガガガガガガ!!』』『カキャキャキャ!!』

避けるより、その場で捌いたほうが楽だ。
俺は、足を止めて飛来してくる弾を両の手に持った2本のナイフで防いでいく。

くそ、さっきより重い!! 
打ち方しだいで威力が増すなんて馬鹿なと思ったが、ハッタリじゃなかったとは誤算だ。

このままの戦況で居れば、まちがいなく奴の弾は俺の体を貫通するだろう。弾が加速して威力が向上していることから、この戦術は奴の言った技術次第の賜物の攻撃なのだと分かる。

なるほど、あの弾は跳弾用に作られたものだったか。なまじ口径のでかい弾だと、このようなもろいコンクリートの地面では、跳ねる前にめり込むからな。

「だが・・・おもしろいな」

『ドクン!』

己の中で脈動する心臓の音が聞こえ始めた。

『『ドガガガガガ!!!!』』『カキャキャキャ!!』
「このまま、捌けなくなると」

『ドクン!』

『攻撃の音』『それを捌く音』『奴の回転音』が浮き彫りに鳴ったように聞こえ始める。

「そのうち、確実にまずいことになるが・・・」

『ドクン!』

明白なる四種の音が、俺の意識を支配する。

『ギュルルルルル!!』

『『ドガガガガガガ!!』』

『カキャキャキャ!!』

『ドクン!』

「・・・この感覚の先に」

『ドシュ!!』
「ビンゴ! 当たったね、兄さん」

俺の意識の中に、ひとつの『ノイズ』が紛れ込んだ。
俺のわき腹を奴の弾が、『貫通する音』『ノイズ』が・・・。

『ゴフ!!』

吐血と共に、俺の世界が一瞬、白くなった。

『己の力は・・・そんなものではない。この程度の奴に屈するモノではない。この程度の力なら・・・俺が闇などに苦しむものではない。俺は・・・我は・・・己は』

『ドクン!』

白い世界から、紅い真紅の世界に叩き落される。

そして・・・。


全ての時が止まる。


傷の痛みなど、もはやどうでもいい、まだ掴み損ねている。
己の断片を掴みそこねている。

『ドクン!』

こんなモノ(傷)は、ささいなことだ。何故なら、己の一族は『知』の一族。知り尽くした己の体の負傷など、些細な破損でしかない。

『ドクン!』

修復不可能か? いや、可能だ。これは俺を止めるものですらなりえぬ。

『ドクン!』

“ERROR”

・・・そうか、修復技術を覚醒させなくては話にならない。それに、目の前のこいつを倒すのに必要な情報を“検索”する。

記憶に破損は無いようだ。もともと抑制されているモノでしかないから、問題は無い。

『ドクン!』

己に必要なものだけを引き出す。しかし、これ以上は危険だ。『アレ』が騒ぐ。
アレ?・・・アレとは何だ?

“ERROR” “ERROR” “ERROR”

―――思い出すのは不可能。その理由は・・・その理由は『核心』だ。

思い出せば、己の記憶の喪失の意味がなくなるのだから。
ならば、必要としなければいい。

覚醒するのは、“闘争の記憶”のみ・・・。
もっとも、奴を倒す技術は現存でも可能。

そもそも、この身体の間接的な破損原因は覚醒による感覚の混濁にあり、その隙を付かれたに過ぎない。本来の状態ならば、敵の攻撃をやり過ごす方法は幾重にもあった。

故に、現段階の状態でも、ハンディにすらならず、打倒することは可能。

『ドクン!』

可能だが、現存では必要なくとも、近い未来に必要。

“LOADING”

完全な覚醒は、現存の状態では不可能。ならば、それでいい。今、引き出せるだけの己の『闘』『殺』『武』を引き出す。

『ドクン!』

今一度思い出せ。己のうつろわざる姿を・・・。

『ドクン!』

我は“生まれ得ざるもの”を宿し、『帝王の魂』・・・いや『帝(みかど)の器たる者』


世界が、再び時を刻む。


「くくくくくく」
「・・・何が、おかしいんだい兄さん? 致命傷でなくても、そのわき腹の傷はこの闘いにおいて、決定打だよ。それとも、怪我のせいで頭が軽くハイになったかい?」

怪我を気にせずに忍び笑いをする俺が、不思議になったのか、奴はその場で回るのをやめて攻撃を中断する。

大方、この勝敗は己に上がった愚かな勘違いをしているのだろう。

『ぺっ!』

俺は、わき腹の傷口を右手で押さえながら、臓器がやられてせり上がってきた血を吐き捨てる。

「いや、被虐心はないが・・・貴様のおかげで、頭がすっきりした。確かに、怪我のおかげでハイにでもなったかと聞かれたら、そうだな」
「なんだって?」

奴は、先程の銃撃がもたらした戦果による優越感を浮かべた顔を消え去り、顔を歪めて聞いてくる。

「礼を言う。いろいろと完全ではないにしろ、思い出させてもらった。・・・だが、こんなモノ、勝敗を決するに足りえんものだ」

俺は、自分の負った傷に視線を向けて話す。

「あの感覚・・・全てが『闘いの音』『己の鼓動の音』だけが集束されたあの感覚。そして、最後にあの痛みの感覚で全てが白き世界となり、俺は回帰した。・・・とはいえ、全ての記憶が戻ったわけではないが・・・このようなことは出来るということは思い出した」

俺は、静かな口調で話す。

『診察終了』『浄』

傷の部分を凝視、すなわち『診察』した後、『完了』を告げ、後に治療を開始すべく『浄』と告げる。次の瞬間に、俺の傷口を押さえた手が白く光り、其の後、俺は傷口を其の手で鷲づかみにする。

すると、通常のヒーリングではありえない速度で俺のわき腹の銃傷が、治療されていく。

「!・・・傷が・・・血が止まった。そうか、本当に思い出したんだね兄さん?」
「悪いが、貴様のことなど思い出さぬ。思い出したのは『闘争』の記憶のみだ」

俺は、そう言うと腰を落として構える。
傷口は、もうすでに閉じた。

「忘れていた。貴様と興ずるのは『闘武』などではない。『闘争』だ」
「またかい? 懲りずに来るならもう一度、僕の技で『ズドム!!』・・かは!
「べらべらとうるさい奴だ。・・・もう貴様の児戯は見飽きた」

銃口を軽く向けるが、完全に照準に入る前に瞬速で接近し、肘を奴の腹に入れてやった。

「ぐ! やりすぎだ!! いくら兄さんとて許さないよ!!」

奴は、そのままの肘による攻撃の反動を利用し、バックステップして、距離をとった後、すかさず、俺に憤怒の表情で白金色の二つの銃口を向ける。

「やってみろ。真っ向から、貴様の全てを『抹殺』してやる」

『ゾク』

『ブォン!』
『ドカーン!!!!』

奴の真横の地面にむかって、比べ物にならないすさまじい速度でナイフを俺は投射する。
結果、ナイフは地面にすさまじい音を立て突き刺さり、同時にふざけた速度による激突の衝撃でコンクリートの地面は、ナイフを中心に小さなクレータ状に爆砕してへこむ。

もはや、『ソレ』はナイフ投げとは言えず、『ソレ』爆砕する魔弾だ。

「!」

(・・・まずい。肝心の記憶が戻らず、よりによって闘いの記憶だけ戻るなんて。おまけに感覚が・・・加速して覚醒している。今の状態の兄さんは、僕に少し荷が重くなりつつある。今の動き、先程の肘もそうだが、ナイフ投げなど論外だ。怪我する前と格段に動きが違う。・・・くやしいけど、全然読めなかった)

「どうした? 焦りの色が見えているぞ。まずは威嚇だ。次は外さない、精々、必死で避けるか防ぐことだな。まずは、この腹の傷・・・いや、ジャケットとレザーシャツの穴の返礼といこうか?」

さあ、この夜を飾る『闘争』を興じよう。



「く! 何故じゃ!? 何故、お主が兄様の小太刀を持っておる!?」

五十鈴の持っている二振りの小太刀ような刃物を睨みつけて、真夜は叫ぶ。

「小太刀? 何か勘違いしていませんか? これの本来の形は・・・」
『カシャ!』『ヒュン!!』
「こうです!!」
「く!」

五十鈴は、手に持っていた二刀の小太刀の柄の尻同士を背向かせに接着し組み立て、『両刀』にした。其の後、間を置かずに出来た両刀をバトンのように回し、真夜に向け旋風させて振るう。

真夜は、牽制で投げられていたクナイを避けていた所で振るわれた其の両刀をかろうじて避けて、そのあと後ろにバックステップして距離を置く。

「・・・まさか、両刀とはしらなんだわ。だが、それは兄様の物であった事に相違ないな?」
「ええ、そうです。これは私があの方にいただいた大切な私の愛刀。ですが、私はあくまで暗器使い・・・これを暗器の一部として使いますので、努々、両刀使いの技とお思いにならないことです」
「それを用いたことで、さきほどと比べ物にならぬくらい懐に入りづらくなったわ。まったく、兄様も罪なことをする。兄様も、持ち物がわしの敵になるとはのう」

真夜は、冷や汗を流しながら言う。初戦で持ってかれた辛うじて背の上まであった真夜の髪が先程の攻撃で肩の辺りまで、さらに持ってかれた。

『ヒュン!!』

五十鈴が、空いている手でクナイを投げそれと同時に、間合いを詰める。

(く! あれは接近専用の暗器。今までの、クナイと併用して使うことで、自分の不得手な範囲をあれでカバーしておるのか?・・・じゃが)

真夜は、両刀に注意してクナイを捌いて行く。

「お主、懐に入りにくく接近戦も可能にはなったが・・・甘いわ。あくまで、わしのほうが接近同士での実力はまだ上じゃ!!

真夜は、そう言って、旋風するように振るって来る五十鈴の両刀を捌く。
其の後、追撃しようと五十鈴の懐に飛び込むのだが・・・。

「だから、言ったのです。私は『暗器使い』だと・・・」
『『『『ヒュン!!』』』』

目の前で盾にのようにして旋風していた両刀の隙間からクナイが放たれて、真夜に向かって多数飛来してくる。

「な! 『眼暗まし』に!!」
『チ!』


あわてて、其の場所から体を捻って真夜は、回避しようとするがクナイの一本が真夜の右頬を掠める。

「だから言ったのです。私は『暗器使い』だと・・・これは攻撃だけに用いるのではなく、戦況に応じて、ありとあらゆる用途で使う私の切り札です。ただの武器だと思わないことです」

また振り出しに戻ったように、距離をとった真夜に五十鈴が冷たく言い放つ。

「旋風させている両刀の後ろから、クナイを投げてくるなんて、さすがに読めなんだわ。眼暗ましに旋風させていたことを読ませないように攻撃手段に使い、それを悟らせない。・・・お主の認識を改めなくてはならぬようじゃな」

掠って出来た右頬の傷から流れる血を拭いながら、真夜は言う。

「暗器使いは・・・持っている様々な武器を最大限に利用することです。あの方の言った『闘』は武器だけではなく、それ以外の全てのモノを含めた地形やその場の状況などを、利用し、勝利へと至る冷静な戦略論の教えです。・・・生憎、私はそこまで器用では無いので、今在る自分の全てを使うまです。・・・たしかに、あなたは強い。でも、私は先程言ったように負けられない。簡単にやれると・・・いや、私に『勝てるなどと思わないこと』です。あの方がくれたこの切り札で、あの方の元に私はたどり着いて見せます」
「言ったな。わしとて、負けられないのは同じじゃ。それに一刀の武器だけで戦況が決まるほど、わしは甘くない!!

そう言って、真夜は再び、五十鈴に向かって攻め始めた。



たった一つの、隙を見てそれを真夜は好機に転じさせ、五十鈴を投げ飛ばした。

しかし、完全には投げきれず、崩れ行く姿勢の中、両刀をもった逆の手で器用にクナイを多数、五十鈴は投げ放った。

『『『『『ヒュオン!!』』』』』

(かれこれ、二十本は投げているハズだが。・・・3・4・5、まだ来るのか!?)

飛来したクナイを刹那の瞬間で見切りながら、真夜は5本まで捌き切った。

(6・7・・・これで終わりか? いや、8本目がやはりあった。五十鈴の得意技『陰刀』!!

飛来したクナイの七本目の陰に隠れながら、飛来する隠遁の8本目が真夜に迫る。

『暗器』において、もっとも怖いのは攻撃した武器の存在を知らせないことだ。何によって、攻撃されたか? もしくは、何故攻撃できたのか? それが分からない故に使い手は恐怖される。多くの武器を隠し持つと言うことだけではなく、己の攻撃手段を悟らせないのが一流の技師だ。

今回、用いられた『陰刀』はもっとも『暗器使い』の中で重宝されている基本技の一つだ。しかし、基本技と言ったが、それ自体が非常に効果的な技なので、これを見切れるのは偏に真夜の並外れた動体視力の持ち主だからだろう。

通常のクナイ投げに伏兵として、投射したクナイの影にひっそり潜みながら、そして寄り添うようにして飛来するもう一本の見えざるクナイ。これを『陰刀』という。

真夜は、気付かぬうちに、飛来するはずの『ソレ』を見切った
・・・そこまでは、良かった。

(これさえ、さばけば・・・なに!

・・・だが、しかし優れた暗器使いは、それさえも伏兵にするときがある。

『ヒュンヒュンヒュン!!』

最後の一刀、五十鈴の切り札たる両刀が、風を切り裂いて唸る。
『約:直径70cm』の唸る円は旋風しながら真夜の胴体めがけて横薙ぎに回転しながら飛んでくる。

「言ったはずですよ。それは切り札です。この勝負、貰いました!!」

(く! クナイならともかく、あのようなモノをこの体勢で・・・)

先に飛来したクナイをすべて払い落としたせいで、完全にノーガードになった胴を狙ってきたソレは、このまま当たれば、致命傷にはなりはしなくとも、確実な重傷となり、この戦闘での不能と敗北を、真夜に意味することとなる。

(わしは、負けられぬ!! 兄様だけではなく、他の者まで背負った身で長たるわしが負ける訳にはいかんのだ。わしが背負っている物の重さは・・・ここでつぶれて良いモノではない!!

『真夜、どんな状況でも諦めないこと。そして、勝敗が決するまで戦況を油断することなく、見極めること・・・この二つが闘いにおいて最も重要なことだ。それは、俺の言った“闘”の基本的な思想であり、本質でもある』

過去、勇士が言った言葉が真夜の中で反芻する。

『前に言ったと思うが、相手の実力が自分より下であっても、それが手の届かれる実力ならば油断するな。・・・そうだな。暗器を俺も使うが俺の場合、ナイフを隠し持っているだけの“欠陥的な暗器使い”だ。名乗るのは、少々、本職の人に失礼だ・・・話が反れたな』
『むぅ、武器を隠し持つのが“暗器使い”ではないのか兄様?』
『ふむ、話は反れたままだが、いい所に眼を置いた。・・・正確には攻撃手段を隠し、攻撃の瞬間を悟らせないのが、真の“暗器使い”だ』
『ふむ、なるほどのう。では、そういった者への対処はどうすればよいのじゃ兄様?』
『暗器使いとの闘いにおいて、もっとも重要なのは、相手と戦況を良く見極めることだ。狸に化かされたような攻撃を喰うのが一番怖いからな。さきに、いち早く暗器の正体とソレが放たれる瞬間を見極めるのが勝敗の鍵となる。・・・だが』

(わしは今回『陰刀』を切り札と思い、見誤った。全く、兄様の言葉をいまさら思い出すとはな)

真夜は、必死で考える。全てが、スローになった世界で真夜の思考だけがすさまじい勢いで回っていく。

(其の先に、兄様はなんと言っておった?)

『だが、もし一歩遅れた状態で判断したならば・・・』

(其の先じゃ!! 其の先!!)

『全速の回避を行え。全てをその行動に集中させるんだ。攻めなど、あとだ。捌こうなどとは思わず、迷わず回避を選択しろ。・・・其の後に、どうするかは其の戦況応じて、変えろ。回避して仕切りなおすか。もしくは好機に、転じさせろ』

(それでも回避できない場合・・・いや、教えてもらったはずじゃ!! そのために、どのような状態であれ、緊急で回避するための移動術を)

「思い出したわ!!」
「な! あれを避けようと」

「兄様直伝・回避歩法『星彩(せいさい)の法陣』!!

真夜の体から急激に力が抜けて、回避するように体が倒れて落下するが、ソレではまだ間に合わない。

(己の力の反動だけではなく、星の重力という名の力学を最大限に引き出して利用する!!)

さらに、真夜はそこに反動をつけて、回避落下速度を重力と言う名の力を利用して加速させる。まさに、見ているものには変則的であり、変幻自在とも言える動きだ。

『ヒュンヒュンヒュン!!』
「遅いわ!!」

腰を軸に、落下を食い止め、飛んできた円状の凶器を真夜は、上体を振り子のようにして真下を掻い潜り、回避に成功する。

「避けた!・・・(しかし、あれはあくまで二刀の技。私の攻撃はまだ終わらない!!)」

避けられたことに驚愕とした表情をする五十鈴。

しかし、真夜は其の姿勢から起死回生のチャンスと踏み込み、五十鈴に向かって疾走する。

「これで・・・」
『そして、勝敗が決するまで戦況を油断することなく、見極めること』

急に追撃に移ろうとした真夜に勇士の言葉が、思い出される。

「いや・・・まだ終わっておらぬと、言うことか?」
『ヒュンヒュンヒュン!』

真夜の背後を両刀がまるで、ブーメランのようにトイレと言う狭い空間を見事に旋回してもう一度、真夜めがけて飛んでくる。

しかし・・・。

『ガキン!』
『ヒュンヒュンヒュン!』

『トス!』

真夜は足を止めて、背後から来たソレを冷静に対処し、円の中心を下から蹴り上げた。
結果、余計な力が両刀の飛来する方向を狂わせ、両刀は五十鈴に戻ることなく、脇にあったトイレの木製のドアに突き刺さり止ることとなった。

「!・・・そんな!?」
「そして、好機を見出した今。それを転じて勝機となせ!!」

真夜の顔が気迫に満ち、真夜はそのまま五十鈴への疾走を再開する。

「しま・・!!」
「棗流金剛八式 連環天辺鉄華撃!!」

そこからは、まさに疾風怒濤と言うべき、攻撃だった。
真夜は、流れるような動きで五十鈴に様々な攻撃を加えていく。そして、当てた攻撃を次の攻撃に繋ぎ、次々と攻撃を連鎖させていき、完全に五十鈴からの攻撃が来ないよう、完封した。

『ドガガガガガ!!』「が!」
「とどめ!!」

『ぷく!』

「あ!?」

追撃していた真夜の手が、思わず膠着し間の抜けた声が出る。

と言うもの、五十鈴がでかくなった・・・というより肥大化しているという異様な光景が目の前にあるからだ。

(・・・ダ・・・ダメっ・・・!! 体の力が・・・抜け・・・る・・・術が解けちゃう・・・・・・くっ・・・悔じぃ〜〜〜!! 誰も知らないこの姿をよりによってこの女に・・・!!)

『ぷく〜』

肥大化する五十鈴の脂肪の隙間に幾数ものクナイが挟み込まれているのが見える。

「なっ・・・!!」
『ギク!!』

あまりの事態に、真夜は顔を青ざめる。

(き・・・聞いたことがあるっ・・・!! “氣”をもって脂肪を体内に折りたたむ身体操法―――!!)

そう彼女、五十鈴はどこに暗器を隠していたかと言うと、体内に脂肪と一緒に折り仕込んでいたのだ。

(こやつ・・・大量の暗器を一体、どこに隠して持っていたのかと思えば・・・!!)

『ボン!!』

肥大化した五十鈴の体が、最後に元の体へと一気に戻ろうと弾け膨らむ。

『『『『シュン!!』』』』

其のせいで、体に仕込まれていた暗器が、五十鈴の体を中心に四方八方にばら撒くように飛び散る。

・・・当然、至近距離に居る真夜を其の暗器が、襲うわけで。

(さ、捌ききれ・・・ない!! ぬ、ぬかった、このような間抜けな切り札があったとは、見抜けなんだ。兄様に合わす顔が無いわ!!)

『『『『『ドッ!!』』』』』
「があっ!!」

流石に逃げ場の無いクナイの襲撃を喰らい、苦痛の声を真夜は出す。
計5本、両手両足に1本ずつと、右足に例外としてもう一本を真夜は喰らってしまった。

今回の『真夜VS五十鈴』の勝敗は、真夜がまさに『試合に勝って、勝負に負けた』というような・・・。

そう、そんなような、そうでもないような、何とも微妙な決着の付き方で幕を閉じることとなった。

人間、何があるか分からないのが、また道の一つなのだが・・・切り札ではなく、偶発的に起きたモノでの幕引きほど、まぬけなものは無いというのが・・・今回の教訓の一つだろう。


・・・今回の事態については、俺は何も知らないが・・・あえてノーコメントと言うことにしておこう。口に出せば、ろくな感じがしないのが肝だ。

―後書き―
と言うわけで第八話でした。今回は、変化らしい変化は無かったように思いますが・・・とりあえず、話を進めると言うことで今回の話を入れてみました。というわけで、やはり最近、更新が遅れてしまうのが眼に見えてしまうのが悲しい限りです。

・・・というわけ(どういうわけでしょう?)で恒例のレスの返答に入りたいと思います。

D,さんへ
とりあえず、勝敗自体はうやむやに・・・どっちの執行部と柔剣部としては、真夜は原作どおり勝ちましたが・・・女の勝負はうやむやにw
というわけでレスありがとうです。次回もがんばりますんでよろしくですw


ユピテルさんへ
次回、ユウシと対峙した青年と決着が付きますのでよろしくです。毎回のレスありがとうですw では、次回もよろしく。


QPさんへ
初レス、ありがとうございます。亜夜とのCPはただいま保留中ですのであしからず。というわけで、次回もよろしくです。


春風さんへ
というわけで、貰ったのは組み替え自由な両刀です。毎度のレスありがとうございますw というわけで、次回もよろしくです。


秋雅さんへ
運命の兄弟は、正確には兄弟とは少し違うモノなので、長男といえば、長男なのですが・・・いろいろと複雑な事情がw というわけで毎回のレスありがとうです。次回もよろしくお願いします。


ロックさんへ
大体、あと4話くらいでボーリング編が終わるかな? というわけで、今回もレスありがとうございます。次回もよろしくです。


Gさんへ
ぶらぶらとどっちにも、行ったり来たりと非常に優柔不断に動くと思いますw
というわけで、レスに感謝を。次回もよろしくお願いします。

はいというわけで、今回はここいらで、幕を引きたいと思います。
以上、ホワイトウルフでした。それでは皆さん、また次回で会いましょうw

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