まぶらほ そして伝説に・・・
第０話
「・・・グスッ」
友達の家からの帰り道、公園の前を通ると一人の少女が泣いていた。
「ねえ、どうしたの？」
僕は不思議に思い、近づいて少女に話しかけた。
「・・・グスッ、あなた誰？」
少女が顔を上げた。
ずっと泣いていたのだろうか、目が真っ赤になっている。
「僕？僕は世界一の魔術師・・・魔術師って言っていいのかな？」
自分から言っておきながら迷ってしまう。
正確に言うと、僕は魔術師じゃない。
まあ、そこら辺の魔術士なんかとは比べ物にならない力を持っているけどね。
「魔術師って言うよりは魔法戦士だしなぁ・・・」
「？」
僕の曖昧な返事に、
少女はよく分からないといった顔をした。
「よくわからないけど、世界で一番魔法が上手なの？」
「うん、まあそうかな、一応世界一だよ」
「なら私のお願い叶えてくれる？」
涙をぬぐいながら少女が言った。
「もちろん！どんな事でも叶えてあげるよ」
僕は少女を励ますようにちょっと大げさに言った。
その言葉を聞いてか、少女の顔に笑顔が浮かぶ。
「あのね。私が引越ししないようにできる？」
「え、引越し？」
「うん」
少女は今まで、親の仕事の関係で何度も引越しをした。
その所為で友達もあまりできず、ずっと寂しい思いをしてきたと言うのだ。
「私、もう引越しするのいやなの」
今までのことを思い出したのか、少女の目に再び涙が浮かぶ。
「・・・・・・」
どうしよう。
僕は自分の安請け合いを後悔した。
大抵のことならできるという自信はあったけど、
さすがに今回のような事はどうしようもない。
「あ〜・・・」
僕が答えに困っていると少女はそっぽを向いてしまった。
「・・・できないんだ、グスッ」
再び泣き始める少女。
僕は、少女が心底落胆しているのがハッキリとわかった。
おそらく最後の希望だったのだろう。
僕はため息を一つ付くと少女に言った。
「悪いけど引越しをさせないようにするのは無理なんだ。
でも他の事ならなんでも叶えてあげるよ」
「じゃあねぇ・・・そうだ！」
そう言って少女は僕に耳打ちした。
「ねぇ、できる？」
少女は不安そうに聞いてきた。
それに対して僕は笑みを浮かべる。
今度のお願いは出来そうだ。
僕は少女の不安を消すように答えた。
「もちろん！」
「ホント？ じゃあもしできたらお嫁さんになったげる」
「・・・それは遠慮しておくよ。じゃ、やるね」
少女の言葉を軽く流し、僕は空に手をかざした。
直後に辺りを眩い光が包む。
「キャッ！」
思わず目を閉じる少女。
しかし、突然何か冷たいものが体に触れ、目を開けた。
「・・・わぁ〜、すご〜い」
少女の視線の先にある白い物。
そう、雪だ。
少女はまだ見た事の無い雪が見たいと言ったのだ。
先ほどまで泣いていたのが嘘のような少女の笑顔。
その笑顔を見ていると、僕も何だか嬉しくなった。
雪が止んだころ、少女の親が迎えにきた。
両親に手を引かれていく少女。
「さようなら。世界で一番の魔術師さん」
その言葉を残し少女は去っていった。
そして、その声と共に僕の視界が白くぼやけていった。
「ん、ん〜・・・」
伸びをしながら起き上がる。
目に付いた目覚まし時計が７：００を表示していた。
「・・・懐かしい夢だったな」
まだはっきりとしない頭で、先ほどの夢のことを考える。
あのときの少女のうれしそうな顔が浮かび上がってきた。
「あの子・・・どうしてるかな」
ふとそんなことを考える。
ほとんど見ず知らずの関係なのだが、なぜかちょっと気になった。
「・・・いけね」
もう少し余韻に浸っていたかったがそうもいかない。
自分は高校生だ。
朝しなければならない事が山ほど・・・はないが、とにかく活動を始めなければ。
「とりあえず顔洗わないと・・・」
俺はそう言うと、両頬を軽く張ってから洗面台に向かっていった。
あとがき
初めまして、くまっちと申します。
この度初めてこちらのサイトに投稿させていただくことになりました。
拙い駄文ではありますが、
今後の精進のため、皆様からのご意見をお待ちしているしだいであります。