「はぁ・・・・・・」
朝、自称・落ちこぼれ魔術師・式森和樹は自室の窓から外の景色を眺めながら、ため息をついた。彼は魔術師を育てる葵学園に通っている。自称しているだけで、彼自身は落ちこぼれではない。勉学や運動では「魔術を理解」する方は優秀な方だが、目立つ事が苦手で何事も一歩引いてしまう。
「どうされましたか?式森様」
背後から声がする。和樹が振り返ると銀髪、北欧系の美しい女性が立っている。服装は紺色のワンピースにフリルのついたエプロンにカチューシャを付けている。要はメイドだ。
「まぁね・・・・魔法回数の診断は・・・憂鬱になるからね。リーラ」
「しかし・・・・魔法回数の診断は大切です。お受けになったほうが・・・」
リーラが言葉を詰まらせた。子犬のような瞳で和樹に見つめられている。
(ああ・・・・抱きしめたい)
と、頬を赤めながら思った。
「だって・・さぁ・・面倒だし・・僕は7回しか使えないし・・・」
ますます、落ち込む和樹に近づき、優しく頭を撫でる。和樹は柔らかいぬくもりに目をつぶり、自分の身体をリーラの下腹部に押さえつける。リーラはそのまま、抱きとめる。
「それに・・・・なにか、僕の遺伝子をつけ狙う女の子がいるし・・正直、学校に行きたくない」
「お気持ちは分かりますが、学校は行かれたほうが・・・良い経験にもなりますし・・」
甘えてくる和樹をなだめるリーラだが、やはり子犬のような目で見つめられて、苦悶を浮かべる。
「やっぱり、学校・・行かないとダメ?」
「・・・・・はい・・できれば」
「・・・・うん・・・わかった」
和樹はメイド達に手早い作業で制服に着替えさせられ、鞄を手にする。玄関まで歩いて行くと、再びリーラを見た。
「いってらいしゃいませ」
深くお辞儀をするリーラ達だが、『雨に濡れた子犬モード』の和樹とはなるべく目をあわさないようにしてる。目を合わしたら、抱きとめてしまうからだ。
「うぐ・・じゃぁ・・行ってくる」
肩を落とし学校へと向った。
和樹が学校に着き、教室に向う廊下で背中に不意に重みと、悪くない柔らかい感触に襲われた。慌てて振り向くと金髪、長身の女性、風椿 玖里子だ。和樹を抱きしめるような形になっている。
「はぁ〜〜い、和樹、お・は・よ♪」
「え・・ああ・・お・・お・・おはようございます。先輩」
ほのかに、鼻腔をくすぐるシャンプーの匂いにトギマギしながら答える和樹。
「え・・ええと、せ・・先輩・・その・・む・・む・・胸が・・・」
和樹が顔を真っ赤にして答える。
「アラ?和樹は大きいのは嫌い?」
「え?あ・・いや・・その・・ええ・・・・と」
チャキ
軽い金属音がした。
和樹が目線を落すと、喉元に刀の先端が突きつけられ、その先には背の低い少女・・・神城 凜が確認できた。日本人形に似た感じの少女だが、剣術に関してはかなりの腕を持っている。
「公衆の・・しかも、学び舎で・・・ふしだらな、やはり、貴様は斬る!!」
「え・・え・・と・・神城さん・・オ・・おはよう・・・・銃刀法違反だと思うな・・個人的に」
「よほど、わたしの刀の錆になりたいようだな」
わずかに、刀の先端が和樹の喉に触れる。
「え・・ええ・・と・・ご・・ごめんな・・・・」
和樹が誤りかけた時、後方から怒声が聞こえ、さらに熱気を感じ、肌にチリチリと伊丹が奔った。和樹が現在、最も恐れる少女が現れる時に感じる現象だ。
「何をしているんですか!!!」
と、吼える声。和樹が恐る恐る、振り返ると、怒髪天少女 宮間夕菜だ。
「え・・え、とあ・・朝の挨拶・・・・・」
「抱き合うのがですか!!!」
「え・・・ええ・・・・との・・その・・・」
和樹は、なんとか説明をしようとしたが、夕菜の怒気に押され、言葉が出ないばかりか、目尻に涙を貯める。
「浮気者は許しません!!」
手を掲げ、炎の塊を作り出す。あり前であるが、現状の和樹ではこれを防ぐ手立ては無い。直撃を受ければ、消炭になるだろう。
「ちょっと!!夕菜ちゃん。私は和樹の遺伝子を貰えればそれでいいんだからさぁ〜〜ね?」
「夕菜さんには、悪いですが、この男は、わたしの手で消します!!」
朝恒例・・じゃなくて、常時この状態な葵学園の日常が開始された。カンのいい者は逃げ出し、慣れ親しんだ者は賭けを始めている。だが、和樹は何時も通り腰を抜かして震えている。
「式森君」
優しい声が和樹に届いた。その声の主を探す・・と、一人の少女を発見する事が出来た。同じクラス・・2−Bに在籍する杜崎沙弓だ。日本の女性にしては高身長だ。先ほどの少女達に負けないぐらい、麗しい少女である。
「こっちよ・・・ほら」
「う・・うん」
コクコクと頷いて這うようして沙弓の所に向った。沙弓の所まで着くと情けなく抱きついた。
「沙弓ちゃん・・・うう・・・怖かったよ〜〜」
「はい、はい・・・そうですね」
和樹は沙弓の膝の上に頭を乗せて泣く。沙弓は頭を撫でながら応じている。和樹と沙弓とは昔からの知り合いだ。情けなく、争いごとには滅法弱い和樹を守り続けてきたのが、沙弓だ。和樹の方もそれに順応してしまっている。
「ホラ、何時までも泣いていないで、教室に行くわよ」
「ウグ・・グスン・・うん」
袖で涙を拭う和樹を支えながら教室に向って行く。ちなみに戦闘を続ける三人は力尽き果てるまでやり続けるので、それには気づかないのだ。
教室に着くと沙弓は塗らしたハンカチで泣き腫らした目の周りを拭いてやる。
「もぉ・・・アレぐらいで、泣かないの・・ホラ・・・ここも」
「だって・・うにゃ・・う」
やや、乱暴なやり方が和樹は甘んじて応じている。
「はい、これで終わり」
ハンカチを離す。頭をポンポンと軽く叩く。それと同時に教室に担任の伊庭かおりが入ってきた。出席名簿を黒板に数度叩きつけ、騒がしい教室を静かにさせた。
「はい、はい、静かにしろ〜〜!!出席取るぞ!!宮間はまたぶっ倒れているのか」
大方が席に座ったのを確認したかおりが言った。凜、玖里子との争いでグロッキー状態になっているのだ。
出席を取り終え、連絡事項を終えたかおりが最後に付け加えた。
「ああ・・・そうだ、式森、沙弓。お前達は昼休みに保健室に行けよ。紅尉のヤツが呼んでたぞ。特に式森、お前は絶対に行けよ」
「え・・あう・・え」
「ったく、また魔法回数診断さぼっただろ」
「あ・・・・う・・すいません」
シュンと落ち込む和樹。
「わたしに謝っても仕方ないだろ?」
「・・・・はい」
そう言って、教室を出て行くかおり。出て行ったのを確認した和樹に座っていた沙弓が話しかけてきた。
「ホラ、ホラ、わたしも一緒に行くんだから」
「う・・・うん」
と、頷いた瞬間に予想していた声があった。
「杜崎さんが、行く必要ありません!!妻である私が行きます!!」
「え・・・でも・・・僕は・・沙弓ちゃんと・・ひぃ!!」
いい終わらないうちに、和樹が悲鳴を上げた。夕菜が和樹の机を叩き、黙らしたのだ。
「何を言っているんですか!!私は妻なんです!!」
「でも・・・・僕・・・まだ・・結婚してないよ・・・」
「するんです!!!」
鬼気迫る夕菜だが、それを制したのは沙弓だ。
「あのね・・宮間さん。先生のお話、聞いていた?私も呼ばれているのよ」
「うぐ・・それは・・・いえ、私も行きます!!」
「まぁ・・それはいいけどね・・・」
チラリと沙弓は和樹の方を見た。半泣き状態・・・に突入せんとしている。
で、昼休み。葵学院の保健室前に来た和樹は大きく深呼吸をしていた。
「よ・・よし!!行くぞ!!」
と、子小声で気合を入れ、ドアを叩こうとした。
「ああ・・入りたまへ」
叩く直前に保健室の中から声が聞こえてきた。保健医の紅尉晴明の声だ。端麗な顔つきな彼は女生徒から人気があるのだが、本人はあまり気にしていない。それよりも和樹に興味を抱いている。
「失礼します」
「うん・・よく、来てくれたね。まぁ、座ってくれたへ」
保健室に入ると微笑を浮かべた紅尉が座っていた。
「あ・・の、すいませんでした」
「ああ・・気にしないでくれていいよ。君の事は分かっているからね。でも、魔法回数診断はちゃんと受けてくれた方がいい、ふとした事で使っているかもしれないしな」
「す・・すいません」
「うん、今回、来てくれたんだ。気にしないよ」
紅尉はメガネを変え、フレームに手を当て計器をいじる。10秒もすると電子音がして測定が終わる。
「うん、特に問題はないね・・大丈夫だよ」
「あ・・・どうも」
と、恭しくお辞儀をした。
「あの・・・なんで、私が呼ばれたんですか?」
「ああ・・・君を呼べば、すんなり式森君が来てくると思ってね」
沙弓は少し顔を紅くする。
「フム・・・宮間君を呼んだ覚えは無いが?」
「わたしは和樹さんの妻なんです!!」
「・・・・・・・そうなのかい?式森君?」
と、和樹に問いかけたが、和樹は横に振った。
「なるほど・・・まぁ、いいがね。ところで、式森君、もう少し、詳しく君を調べたいのだが・・どうかね?」
「ええ!!??」
「なに、報酬は出すさ」
と言って、机の引き出しから箱を取り出し、和樹に見せた。
「ああ・・・こ・こ・これは!!限定版シルバーフレームモデル!!」
「ふむ・・さるスジからね・・・どうだい。欲しいかい?」
和樹は、首を縦に振った。和樹はモデルガンを集めるのが趣味なのだが、ホンモノにも興味はあるが、ここは日本だし、和樹を守るリーラ達はホンモノを持っているが、和樹には触らしてくれないのだ。
「じゃ・・付き合ってくれるね?」
「あ・・はい」
「うん・・よかった・・じゃ・・そっちで、着替えてくれたまへ」
女性陣を他所に和樹は診察用の薄手の服をつかんで、保健室のベッドへと向かい、カーテンを閉めた。それを確認してから、夕菜が紅尉に質問をしてきた。
「あの・・・和樹さん、どこか、悪いのでしょうか?」
「いや?」
「じゃぁ・・・なんで?」
「いや、単なる探究心からだよ・・・・彼は特別だからね」
特別の声に沙弓が少し眉を顰めた。疑念でなく気に入らない・・と言った口だろう。
「先生・・着替え・・終わりました」
「ああ・・じゃぁ、そこで、横になってくれたへ、いま、機材を用意するから」
と、紅尉は立ち上がり機材の用意を始めた。
「あの・・・杜崎さん?」
「・・・・・・・・・なに?」
「特別って・・・なんですか?」
沙弓はあからさまに不快そうな顔をして答える。
「何って、貴女達は式森君の『特別』な遺伝子を狙っているんでしょう?」
「わたしは違います!!・・・・約束したんです!!」
「そう・・・」
「うん・・・なかなか、良いデーターが取れたよ。じゃ、これを」
と言って件の限定のモデルガンを渡す。受け取った和樹は、目を輝かせて受け取り、中身を確認した。某社から出されたシルバーフレームのCz.75だ。
「いえ・・僕も欲しいのが手に入りましたし・・・・」
なぜか、テレながら言う和樹。
「この程度で、取引が出来るのならば、幾つか用意しておくか」
「へ?」
「いや、こちらの話だ・・・・・ところで、放課後はどうかね?」
「あ・・いや・・放課後は少し買い物をしようかと思っているので・・・」
「そうかね・・・残念」
心底残念そうにする紅尉を見て、慌てる和樹。
「ああ・・す・・すいません。こ・・こんど、時間が出来れば・・・・」
だが、後頭部を叩く、沙弓。
「こら、のせられないの・・まったく」
叩かれた後頭部をさすりながら後ろを振り向く。
「沙弓ちゃん・・・」
「あのね・・詐欺じみた行為よ。リーラさんが居なければ、何回、詐欺にあっていた思うのよ?」
「ああ・・・ごめん」
「で・・どこに、行くの?わたしも行こうか?」
「うんうん・・いいよ。ちょっと、一人で行きたいから・・リーラさんにも連絡はしてあるから」
「そう?・・・仕方ないわね」
と、沙弓と話していると夕菜が割り込んできた。
「わたしは連れて行ってくれますよね?」
「え・・み・宮間さん・・・さっきの話・・」
「聞いていましたけど、わたしは妻ですから!!」
「え・・・うぐ・・・えう」
グイグイと迫り来る夕菜に混乱し始める和樹の思考だが、それを救ったのはやはり、沙弓だった。
「妻を名乗るのもご勝手だけど、和樹にもプライベートがあるのよ」
その言葉に詰まる夕菜にさらに続ける沙弓。
「大体、そんな強く迫りすぎると、式森君に嫌われるわよ」
「うぐ・・・・」
「あの子は・・・苦手なのよ・・・そいうの」
「随分、分かったような事を言いますね」
「まぁ・・付き合いは長いから・・」
不穏な空気を察して和樹が勇気を振り絞って口を挟んだ。
「あ・・あのね。ちょっと、一人で行きたいんだよ・・だから・・宮間さん」
訴えかけるような目で夕菜を見た。流石に夕菜も折れたらしく。
「分かりました・・今日のところは引きましょう・・」
「うん、ありがとう」
と和樹は笑顔を送った。その直撃を喰らった夕菜は顔を紅くし、沙弓が不機嫌な顔になった。この笑顔のおかげで、和樹は『弟』にしたいNo.1に輝いている(男含む)
放課後、和樹は商店街にある銀行に訪れていた。モデルガンを持っているからといって、銀行強盗を働く為ではない。普通に金を下ろしにきたのだ
「え〜〜〜と、これで良し」
和樹は現金を使うようにしている。大金は持ち歩かないもの、お金を使うことに意義を持っているし、カードだと、その感覚が狂ってしまうからだ。
屋敷やリーラ達のメイドの維持費は両親が出している。だが、和樹が自由に使えるお金は月に1万円程度だ。親戚が多い関係からお年玉はかなりの額になる。これは全部貯金して使っている。
「沙弓ちゃん・・・よろこんでくれるかな・・」
和樹は、先ほど下ろした金で沙弓にプレゼントを贈るつもりでいるのだ。沙弓が欲しがっていたものを見つけ、それを店員に無理を言って、キープしてもらっていたのだ。
「さて。これで・・」
和樹がATMから離れようとした時、二人組みの男が入ってきた。サングラスをかけていて、いかにも怪しい。銀行のフロアの中心に立つと、懐に手を伸ばし、黒く光る物体を取り出した。
そして、それを天井に向けて・・放った。直上にあった照明が破壊された。そこで、銀行に居た人々は理解した。男女かまわず悲鳴を上げる。
「うるせぇ!!!静かにしろ!!!」
さらに一発、発砲し、店員にバックを投げつけた。
「それに、詰められるだけ、詰めろ!」
恐怖で完全に畏縮しているが、銃口をマジかに突きつけられ・・・腰を抜かしそうにしながらも金を取りに行く。だが、一分もしない内にけたたましいサイレンの音が聞こえ、銀行の前で止まる。しかも数台が包囲するように止まった。その中には全体を青く塗られ、白いラインが一本は行っているバスにも似た車内からアサルトベストを着込んだ集団が降車してきた。先に停車したパトカーを盾にするように配置する。
「こちらは、民間警察です!!貴方達は完全に包囲されています!!」
とお決まりの声がした。和樹が外の車を見ると車体の脇には民間警察とロゴがふってあった。
「み・・民警?・・・」
和樹は安心していいのやら、しないのやら・・・・複雑な気分になった。犯罪の増加で、警察機構の一部を民間に託したのだ。最近は危険な事柄も請負、警察よりも迅速で柔軟な対応が出来るが、捕縛は出来るものの、逮捕する事が出来ない。
「くそ!!ポリモドキが!!!」
一分も経たないうちに来た事から計画が漏れていたのだろうか・・・と男は思ったが、此方には人質がいるのだ・・と勝手な打算をしている。男は手ごろな人質を探した。
「おい!!そこの貧租な餓鬼!!コッチ来い!!」
「へぇ?」
銃口で突きつけ指名した。一方、指名された和樹はオロオロして左右を見渡し、犯人を見て、自分を指差してから答えた。
「ぼ・・僕ですか?」
「そうだよ!!貧租つったら、てめぇ、見たいな餓鬼しかいねぇだろうが!!」
銃をさらに突き出すと、和樹は「ひぃ」と言って怯えながらも答えた。
「あ・・うぇ・・と・・トカレフ・・と言うか、それは中国製の54式でしょう?ぼ・・暴発・・っていうか、自分が意図しない発砲をするような銃を向けないで下さいよ〜〜ああ・・その前にトリガーに指を掛けちゃ・・・」
男は和樹の薀蓄に対し、口元を引きつかせながら叫んだ。
「じゃかぁしい!!!ガタガタぬかすな!!」
銃口を上げて、照準を和樹に当て、引き金を引く寸前・・・天井の換気口のフタが外れ、人が降りてきた。長い金髪・・・しなやかな身体つきから女性だと判断できる。
「な!?」
狼狽する男。そんな事には目にもくれずに自分の拳銃を取り出す。
(あ・・・Cz.75だ・・初期型かな?)
以外に冷静な判断をする和樹。そして、まず、拳銃を持っている男に発砲。肩口に喰らい倒れる男。彼の持っていた銃が和樹の足元まで滑ってくる。
「ア・・アニキ〜〜〜!!!こ・・こアマ!!」
もう一人の男が銃を取りだし、女性に向けようとしたが、銃口が上がる寸前に女性は発砲、同じく肩を撃ち抜いた。
「ぎゃぁ」
と、悲鳴を挙げて倒れこむ。女性は周りを見渡し、納得したのか無線機を取り出した。
「こちら、アサルト1・・・状況終了。犯人の無力化」
と、銃をフォルスターに収めようとした時、最初に撃たれた男が再び懐に入れ、銃を取り出した。小型拳銃のS&W M36 チーフス・スペシャルだ。携行にに便利なリボルバーだ。
和樹は特に何も感じずに落ちている銃を取った。なぜか、感覚が妙に鋭くなる。そして、再び銃を取り出そうとした男になんの、躊躇もなく発砲。精度の悪い銃が吸い込まれるように、男の手の甲に当たる。発砲音かそれとも和樹が出した殺気に反応したのか。金髪の女性は銃を取り出すと同時に後ろに飛んだ。
「がぁあ・・てぇ・・この・・が」
男が和樹を睨む寸前に女性が男の後頭部にグリップの下部を叩きつけ混沌させた。男の変わりに女性が睨んできた。そして、そのまま和樹の方に歩いてくる。
「え・・あああ・・・・」
和樹は銃を置いて、手を挙げたが。女性はそのまま歩み寄ってくる。
そして・・・
パン
と乾いた音が響いた。
「え・・あ・・・」
和樹は頬を打たれ、慌てる。女性に睨まれビックと身体をすくませる和樹。
「ああ言う場合は、プロに任せる・・いいわね?」
「あ・・・はい」
和樹はコクコクと頷いた。女性はトカレフ・・・もといい、54式拳銃を拾い上げると、今度は和樹に微笑を送ってきた。
「でも、あの射撃は見事だったわ・・・・もしかした、才能があるのかもね」
と言った。和樹にはそれが、ひどく美しく思えたのだが、それは突入してきた民警の機動隊によって遮られてしまった。
外に出され、民警でなく公共の警察に質問されていると、人垣を掻き分けてきて来る女性がいた。リーラだ。警察の静止を無視して、和樹の所まで足早に歩み寄ってくる。
「和樹様!!ご無事で?」
「え・・うん、大丈夫」
リーラは警官を睨みながら言った。
「式森様の身柄はこちらで引き取る」
「なぁ!!ふざけるな・・・まだ・・事情聴取が!!」
と反論をしようとした瞬間、部下が携帯電話を持って、渡した。
「・・・・え?・・いや・・しかし、課長・・・・・・・・っく、わかりました」
警官はリーラを睨みつけ、侮蔑でも込めるように言った。
「・・・・行け」
リーラが乗ってきたベンツSL600に乗った和樹はリーラに質問をした。
「警察の人たち・・アッサリと解放してくれたね?」
「式森の名を使い、上から圧力を掛けさせていただきました」
「・・・・・・・・・・そう」
和樹が俯いてしまう。和樹は『式森』の名を使うことを嫌う。『式森』名を使えばアメリカ大統領の暗殺すら可能だ。家族自体もあまり好いていない。和樹と違って、優秀で冷酷、無能な者は切り捨てる。優しさと暖かさを好む和樹には少々、酷な家族なのだ。
「申し訳ありません・・・式森様は・・」
「ああ・・・うん・・いいんだ・・ありがとう。リーラさん」
和樹が笑顔を送ると、リーラは顔を紅く染め、視線を外してしまった。
(あの、女の人・・・民警なんだよな・・・・・・入隊したらあえるのかな?)
と和樹は別のことを考えていた。
あとがき
え〜〜と、今のところ原作以上に情けない和樹君です。ゼロインの世界を拝借して、イロイロやっていこうと
思っています。