第三の帝王
第六話 『狼たちは満月の夜に・・・・』その2
全員一致でカレーを作ることになったが。
「永かった・・・」
「まったく・・・」
野菜を洗って切るだけの作業で玖里子と夕菜が疲れ果ててしまった。
「何で神城さんが洗うと野菜が腐るの?」
「それがなくなったと思ったら今度は包丁を入れたものから爆発しだすし・・・」
おそらく凛が緊張して魔法が漏れたのが原因だと何故か偶然通りかかった紅尉にいわれたので、凛は舞穂のチョーカーをつけている。よって舞穂は自分の部屋にこもりしている(試食係(またの名を毒見、とうとい犠牲)として紅尉が鎖で縛られていた)。
「沙弓ぃ、帰りたくなってきた。私」
「耐えなさい和美。和樹と約束したんでしょう」
凛に教えにきた者は皆、和樹にデートなど色々と条件をつけたのだ(夕菜は勝手についてきたため何の約束もしていない)。
(がんばらなくては!!)
そのことを知らない自分に教えてくれている先輩達の期待に答えるため、気合いを入れ直した。
――――――――
「結局のところ何のようだったんですか?」
「君と戦いたくなったんだよ。受けてくれるかい?」
「条件があります。戦ったことを・・・そしておこったことを絶対を口にしない。守れますか?」
視線がぶつかる。
「わかった」
抜刀の構えの駿司、姿勢を低くして構える和樹
「いざ」
「尋常に」
「「勝負!!」」
人とは思えない早さでむかってくる和樹に駿司の抜刀が反応した。和樹は刀を握る駿司の右手を掴む、駿司はその人外の素早さと握力に驚いた。
「駿司さん、神城に引き取られて何年になりますか?」
「100年になるかな。そんなことより君は本当に人間か?」
「100年もいるのに知らないなんて・・・約束は守ってもらいますからね。それと人狼化する事をおすすめしますよ」
和樹が大きく後ろに後退する。
「!?」
和樹の顔に模様が浮き上がった。
「アアァ!!」
叫びとともに和樹の姿が異形へと変化する。白く気高さを持った姿へ、
ウルフオルフェノクとなった和樹は駿司に飛びかかった。
「クッ!」
和樹の変化に驚いた駿司だが、その剣士として鍛え上げられた本能が無意識に自分を人狼へと変化させ、ウルフの攻撃に反応する。
「和樹君、君はいったい・・・」
「人間の進化形オルフェノク…俺の場合はウルフオルフェノクだけど、駿司さんこそ今のに反応するなんて、さすが『刹那の銀狼』!」
『刹那の銀狼』・・・駿司の通り名であり彼の誇りである。
――――――――
なんとか、完成はした・・・
「すまないが教えてくれ、これはなんだね?」
「カレーに決まっているじゃないですか。紅尉先生」
和美がにこやかに言う。
「風椿君、カレーはうねうね動いて時たま「クケー!」などと鳴くものだったかね?」
「クケー!クケー!」
「幻聴ですわ。先生、凛が一生懸命頑張って作ったんですから食べてあげてください」
「クケー!クケー!」
「杜崎君、手に持っている。医療器具一式は何かね?」
「保険ですよ」
いつまでも渋って食べない紅尉に沙弓が無理やり口をこじ開け、和美が流し込み、玖里子が札で吐き出せないようにした。何故、この三人しかいないかというと、舞穂は相変わらずのおこもり、凛と夕菜は切れた材料のかいだしに行っているのだ。
「φχΔψΩΣ!!!!」
声にならない悲鳴を上げ紅尉晴明、自称永久の25歳は逝った。
―――――――
二人は何時しか防御を忘れ駿司の刀とウルフの爪が互いをきる。
「なかなかやる」
「それはどうも」
ウルフには激情態、フェンリルオルフェノクという切り札があるが彼はなる気は全くない。
二人が離れ、駿司は納刀して再び抜刀の構えをとる。ウルフも姿勢を低くする、その右手の爪が青白く輝きだした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は動かない、いや・・・動けない。ウルフの素早さは和樹以上に早いはずであり、人狼態の駿司の抜刀も早いはずなのだ。
後一歩、それがウルフの射程圏であり、駿司の射程圏なのだ。
「忘れてた」
突然、ウルフが構えをとき、和樹に戻った。
「駿司さん、俺たち、殺し合いしてるわけじゃなかったんですよね」
「・・・そうだったね。久々に強すぎる相手ができて戦闘欲に飲まれてたよ」
「同じく」
互いに実力を誉め合った後、彼らは別れた。
和樹はこの後、真っ直ぐ帰り、同じく帰ってきた涼や沙弓たちと共に凛の特訓に参加するのだった。
――――――――
一週間があっという間に過ぎた(紅尉はその間、先祖の方々と親しくなれたそうだ)。
「私たちの貴重な時間を割いて教えたんだからね。だめでした。なんて許さないから」
涼の言葉に教えてきた者達が頷く。
「はい!」
会場は和樹たちの部屋、審査員は言い出しっぺの駿司、特殊な鎖で身動きがとれない紅尉、久しぶりにまともな飯が食えると大喜びして引き受けたかおり。観客は涼、舞穂、沙弓、和美、玖里子、夕菜。調理者は凛、和樹はアシスタント。
「では、始めてくれ」
料理中の描写は省略
「できた」
一週間の猛特訓で凛は和樹にあるカレーの作り方を教わった。アシスタントの和樹が審査員にカレーを運ぶ。
「何カレーかな・・・・・・て!これはまさか!!」
かおりの顔色が悪くなった。
「んぐんやが〜〜!ふも〜〜!!」
紅尉が騒ぎ出した。
「凛・・・・・・これは何カレーなんだ?前に置いてあるだけで目と鼻が痛いんだけど」
「式森が教えてくれた激辛千倍カレーだ。自分で言うのもへんだがうまいぞ」
(忘れてた。凛は大の辛党だった!)
和樹が冗談のつもりで昔、カンフーの達人で金髪の美人パイロット教わったお気に入りのカレーを教えたところ凛が気に入りいつの間にか、このカレーを教えるようになっていた。
二人(かおりは泣いて食べるのを許してもらった)、紅尉と駿司は激辛千倍カレーを口にした(紅尉は無理やり)。
――――――――
駿司は体調を崩し神城の本家に帰った。数日後、凛のもとに『長期休みの間だけでいいから修行しにこい』いう手紙が届いたらしい。
紅尉は三日三晩寝込み、さらに数日間、学園では凛を見かけると逃げるようになった。
あとがき&解説
人狼・・・通常は『人』の姿をしているが必要に応じて『狼』の力を得た『人狼』になる。
式森和樹・・・式森家次期当主にして『SMART BRIN』次期社長。ウルフオルフェノクであり『オリジナル』の限られた者しかなれない激情態フェンリルオルフェノク(激情態時のみ超機動形態になれる)、仮面ライダーオーガ。複数の許嫁と愛人を持つ。
では