「う、う〜ん」
女生徒達にもみくちゃにされ、意識をなくしたネギが目を覚ますと、目の前に高畑が居た。
彼を覗き込んでいた高畑は、ネギが意識を取り戻した瞬間、安堵の表情を浮かべた。
「大丈夫かい? ネギ君」
「タ、タカミチ?」
「ああ、酷い目にあったそうだね、立てるかい?」
「え、ええ。なんとか」
「そうか、良かった。
ああ、そうそう和泉君、もうすぐ2時間目も始まる。君は教室へ戻りなさい。」
高畑は彼の後ろでジッと立っていた生徒に対して話しかけた。
彼女は、ネギの意識が戻った後も申し訳なさそうな表情のままだったが、高畑の呼びかけに対しハッとなる。
「あ、はい。
その、ネギ、先生? すみませんでした。」
和泉と呼ばれた生徒は、ネギに向かって勢い良く頭を下げると、そのまま小走りに保健室を出て行った。
ネギはその様子を、寝ぼけ眼で追っていた。
魔 法 先 生
ネギま!
Career of mistake
第04話
ネギが意識を失った後、しずなと2−Aの保健委員の二人がネギを保健室へ運び、保健委員の生徒はそのまま保健室へとどまり、しずなは職員室へ高畑を呼びに行った後、2−Aへ戻りお説教をしていた。
高畑が来るまでは、保健委員の生徒―和泉 亜子がその場で看病していた。
高畑が来た後も、一緒に残り看病をする為に保健室へ残っていたのである。
そして、一時間目が終わった休み時間の中、ネギは目を覚ましたのである。
「そうか、授業も出来ないで失敗しちゃったのか・・・。
うう、やっぱり僕って駄目なのかなぁ・・・。」
「ま、新任の先生には、どこもあんなものだよ。
ネギ君の場合は、『10歳の』っていう更にとんでもないモノが『新任の先生』の前に付くんだ。
しかも、2−Aはこの麻帆良学園中等部の中でも、元気な子が多いからね。
一度や二度の失敗で落ち込まないでもいいさ」
「うん。ありがとう、タカミチ。
そうだね、ネカネお姉ちゃんとも頑張るって約束したんだ。
頑張らないとね」
「そうさ、まあ、初めの内はみんな物珍しさから騒ぐだろうが、その内下火になるさ」
「あはは、そう願うよ・・・。
あんなのが毎日続くと、さすがに怖いからね・・・。」
「フフ・・・。
ああ、そうそう、さっき居た生徒は2−Aの『和泉 亜子』君だ。
彼女としずな先生が保健室へ運んでくれたんだ。
後で礼を言ったほうがいいよ」
「うん、ありがとう、タカミチ!!」
ネギはそういうとベットから立ち上がり、職員室へと高畑と共に歩いていく。
「次の授業こそ、ちゃんと授業しないとね!!」
「う〜ん、それは無理だと思うが・・・。
まあ、学園長先生からのお達しもあるし、次は僕が同行しよう」
「あれ? しずな先生は・・・。」
ネギがそう高畑に質問すると、高畑は思いっきり視線をネギから逸らし、天井を見つめる。
「ああ、彼女は今、忙しいだろうしねぇ・・・。」
そんな彼の額には、何故か汗が垂れていた。
その頃2−Aでは――――
「いいですか、みなさん!!
いくら『10歳の可愛い新任の先生』が着任したからと言って、やっていい事と悪い事があります!!
大体ですね、皆さんは常日頃やる事なすこと―――!!」
こんな感じでしずなの説教はとどまる事を知らなかった。
普段は温厚なしずなだが、さすがに今回ばかりは冷静では居られなかった様だ。
新任の先生を呼吸困難で失神させる、しかも自分はそれを止めなければならない立場に居たのに―――。
そんな無念な思いと自分の不甲斐なさを、そして2−Aの生徒達への愛の為、あえて怒っている――のかどうかは不明だが、凄まじい怒気だった。
授業時間まるまる使ってのお説教、さらに正座のオプション付きという、ゴージャスバージョンのお説教であった。
今現在、休み時間に入っても、この状態は解ける事がなかった。
しかし、そんな長い間座らせられていると、さすがに声を出してしまう人間の中には出てくる。
彼女たちも例外ではないらしく、辺りでヒソヒソと話し声が聞こえてくるようになっている。
少し生徒達のヒソヒソ話を聞いてみることにしよう。
(だれですか、こんな失態を招いたのは・・・。
ハルナですか?)
(ア、アタシ〜!?
そりゃないよ、夕映・・・。)
(ケ、ケンカしちゃ駄目だよ、二人とも。)
(のどかは甘いのです。
ハルナは明らかにあの先生の喉元を絞めていました。)
(し、絞め!? 抱きついただけだってば!!)
(ケ、ケンカしちゃだめぇ〜!!)
(足痛くなっちゃった〜!!)
(こら、桜子!! アンタちゃんと反省してる!!)
(うぇ!? 美砂がマジ怒り!!)
(美砂じゃなくても怒りたくなるってばぁ!!)
(円も!?)
(ああ、もう!!
なんで訳も分からない内に正座させられて、説教までさせられてるのよ!!)
(アスナさん、あなた何を言ってますの!?
今まで一体何をしていたんです!!)
(そりゃこっちが聞きたいわよ!!
いいんちょ達こそ、一体何した訳!!)
(私はしてませんわ!!)
(ああ〜ん! 亜子ってばいいなぁ〜!!
私も行けばよかったよ〜!!)
(そう思ってるのは、まき絵だけじゃないと思うよ。)
(私もそう思う。・・・足、痺れてきた・・・。)
(あ、アキラも? 実は私も〜♪)
(何でまき絵は嬉しそうなのよ・・・。
うう〜、私達運動部には、正座は堪えるよ〜。)
(まあ、叱られてる原因は、間接的に言えば風香の所為かな?)
(ちょっと、美空!? 美空こそ乗り気だったでしょ!! 裏切る気!!)
(う、まあ、そうだけど、さすがに水バケツはやり過ぎだって言ったじゃん)
(それを言ったのは私ですぅ!! 美空ちゃんは嬉々として準備してましたぁ!!)
(う・・・。)
(あっちは何やら騒がしいでござるな。ニンニン♪)
(う、楓、余裕そうアルね・・・。
ワタシはモウ、キツイアル!!)
(忍耐が足りん。)
(そういう問題と違うアル、真名は何故平気アルか!!)
(慣れだ。)
(あっさりと返すアルな・・・。)
(コレも修行でござるな。ニンニン♪)
(クソ、何だってこんな目にあうんだ!?
ああ〜!! コレだからこのクラスはぁあああ!!
大体『10歳の可愛い新任の先生』ってなんだよ!!
『可愛い』関係ないだろ!! そもそも『10歳』なんてマジかぁあああ!!!)
(マスター、先ほどからお怒りの様ですが、何かありましたか?)
(なんでもない、黙っていろ、茶々丸。)
(はい、分かりました。)
(クソ! まったく気分が悪い・・・。)
(そういえば、このか?
あんたさっきから静かだけど、何かあったの?)
(え? な、なんでもあらへんよ?)
(そう? 何か変よ、アンタ・・・。)
(なんでもあらへんってば。
ちょっと考え事しててん。)
(考え事〜? ああ、あの生意気なガキが先生って事に腹立ててるの?
ウンウン、それは同感。
ガキが先生したって、勤まるわけないじゃんねぇ?)
(あはは、そういう考え事とちゃうねん。
あの子知り合いに似てたから、同一人物かな〜? 思うてん。)
(へ? 知り合いなの!?)
(ううん、ちゃうみたい。
年齢が合わんし、あっちもウチの事知らんみたいやし・・・。)
(ならいいじゃない、ただの他人の空似よ。)
(うん・・・、そやね、他人の空似や〜。)
「あなた達!! 聞いてますか!!!」
「「「「はい! 聞いてます!!」」」」
仲がいいのか悪いのか・・・。
とにかく、ここぞと言う時には息の合う2−A生徒一同であった。
ちなみに、しずなの所為で2時間目を受け持つ先生は、半分の時間しか授業時間を貰えなかったそうだ。
しかし、2時間目を受け持った優男、瀬流彦はぐったりした2−Aの生徒達に授業を進める事も出来ず、泣く泣く教室を後にしていた。
そんな2−Aの騒動も知らず、ネギは高畑と共に残りの授業を消化していた。
しかし、何処に行っても質問攻めに遭い、結局授業を進める事が出来ないのであった。
そんなネギは高畑と別れ、一人麻帆良学園のいこいの広場の一つ、ダビデ広場の噴水の脇に腰を下ろしていた。
「はあ、やっぱり僕って駄目なのかな・・・。
ネカネお姉ちゃんと約束したのに、はぁ・・・。
タカミチは『気にしないでいい』なんて言ってたけど、そんなの無理だよ〜・・・。」
ネギは夕日に染まりつつある景色を見ながら、思いっきり黄昏ていた。
彼の容姿が10歳ではなく、もっと年上であったなら非常に絵になる状態だが、彼の容姿は子供。
それ故に、なんだか微笑ましい絵になってしまっている。
しかし、本人にはそんな気持ちはなく、思いっきり意気消沈。
そんな彼の目の前に、本を運ぶ女性との姿が映った。
「あれ? 危ないなぁ、あんなに荷物持って・・・。
アレじゃあ足元が見えない――」
彼の懸念は現実のものとなった。
本を大量に抱えていた女性とは、階段を踏み外し落下しようとしていたからだ。
彼は咄嗟に杖を構えた。
そう、彼はこんな時躊躇はしない。
たとえ『魔法使い』という事実がばれる事により、自らの都合が悪くなるとしても、彼は己の信念だけは曲げない。
すなわち、『人を助ける事』。
それ故に、後のことなど一切考えず、彼は『魔法』を使った。
「『風よ!!』」
落下していた女生徒は地面と接触ギリギリの所で浮いていた。
その女生徒と地面の間に滑り込むネギ。
「はぁ、良かった・・・。
もしもし、大丈夫です・・・か・・・。」
女生徒を抱きかかえ、安否を気遣っていたネギだったが、彼の語尾は徐々に弱弱しくなっていった。
その理由は、彼を驚いた表情で見つめる女生徒―神楽坂 明日菜の存在の所為だった。
〜あとがき〜
こんにちは、初めまして。
いきなり書いてしまいました、ネギま!のSS。
突発的に書き始めてしまったものですが、折角書いたんだし、読んで感想なり注意なり受けようと思い、一気に投稿。
とりあえず、少しでも原作と相違点を出そうと頑張りました。
まあ、大筋は変わっていませんが、個々の生徒の心のうちは少し変化があります。
それらも何時か大っぴらになってきたらいいな〜と思っています。
では、今回はこの辺で、金でした!!
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