20XX年 エジプト 発掘現場
「うわああああああっ!!!」
「早く逃げろおぉっ!」
「助けてくれえぇぇ!俺はまだ死にたくないんだあぁぁっ!!」
「もたもたするな!追いつかれたら食われてやつらの仲間入りだぞ!!」
悲鳴と罵声が入り混じり飛び交う中、人々が我先にと発掘現場から逃げ出してくる。
その後を不気味な集団が追いかけている。
よく見ればそれは人ではなく、マミ−(ミイラのアンデット)の群れであった。それもその数は200に届こうかという大群であった。
それらは死体とは思えぬ俊敏さで襲い掛かり、足がもつれて転ぶなどして逃げ遅れたものたちから餌食にしていった。
車両にたどり着いた者達は恐怖のあまり残りの者を待つ事もせず逃げ出してしまっていた。
「くっ!雇った用心棒達は何をやっとるんだ!!」
「だめです、宮間教授!連中ならとっくの昔に壊滅させられて、半分は餌食になって、もう半分は逃げ出してしまいました!!」
宮間教授と呼ばれた発掘隊の隊長らしき中年の男はそれを聞き悔しそうに呻いた。
「[のろわれたファラオの墓]と言うのは伊達ではなかったと言う事か!仕方がない、こうなったら私が精霊魔術で・・・!!」
それを聞き報告した副隊長らしき男はあわてた。
「そんな、いくら教授でも無茶です!」
「だがここでこうしていた所でやられるだけだ、座して死を待つくらいなら・・・」
「えー、絶体絶命のピンチに助っ人はいかがっすかー。」
と、教授が火の精霊を集め始めた所に、不意に緊張感の無い声が辺りに響いた。
二人は思わず声のした方に振り向いた。
そこに居たのは少年だった。
歳は中学生から高校生といった所だろうか。顔は美形とは行かないまでもそれなりに整っているが童顔だ。服装は彼らとほとんど変わらないところを見ると同業者か何かだろうか?しかし少年から受ける感じがこの場において異質なことに変わりなく、彼がただの通りすがりでない事は容易に想像できた。
「おお、君は・・・!!!」
「え!?教授、お知り合いですか?」
副隊長は思わず教授に尋ねた。それはそうだろう、この状況下で突然現れた場違いな雰囲気の少年が自分のよく知る教授と知り合いらしいというのだから。
二人はそれにかまわず話を続ける。
「・・・というわけだ。どうか手を貸してくれんかね?」
「分かりました。いいですよ、ただしちゃんと報酬を払っていただけるなら、ですが。」
「む、ではこれくらいでどうかね?」
そう言いながら何処からとも無く取り出した電卓に数字が並ぶ。
「さすがにその金額ではちょっと。こっちもこれでも命張ってるもんで。そうですね、こんなものでいかがですか?」
そういいつつ少年は電卓を教授の手からひったくり数字をいじって二人に示した。
それを横から見ていた副隊長は驚いた。金額がバカ高かったのではない、むしろその逆、格安といってもいい値段だったのである。もちろん最初より金額は二倍程度に増えてはいるが、最初のそれはほとんど冗談のようなつもりであったのだろうし、似たような状況でその10倍近い金額を吹っかけられた事も一度や二度ではなかったのだ。
「いつもすまないね。しかしいつも思うのだが本当にこれだけでいいのかね?」
「ええ、とりあえず今のところは自前で払わなきゃならない学費分と多少の蓄えがあれば十分ですから。」
少年は人懐っこい笑みを浮かべながらそう答えた。
「そうか、それでは契約成立だな。やり方はそちらの裁量に任せる。」
教授もまた笑顔で応えた。
「では、ちょっと片付けてきますね。」
そういうと少年は迫り来るマミーの群れへと駆けてゆく。
「大丈夫ですかね、あの子。只者じゃないらしい事は分かりますけど・・・」
「まあ問題なかろう、あの[ギュスターヴ]君ならば・・・」
「ギュスターヴ?変わった名前ですね、日本語で話してましたし、東洋系に見えましたけど。」
「どうやら本名ではなくコードネームの様なものらしい。何せあの[ナイツ]の一族に連なるものらしいからな。」
「ナイツって、あの!?そういえばギュスターヴってどっかで聞いたような・・・」
二人がそんな事を話しているうちにギュスターヴと呼ばれた少年は群れの正面まで来ていた。
「さて、それじゃ手早く片付けさせてもらおうか!」
見ればギュスターヴの眼光はまるで別人のように鋭くなっており、その手にはいつの間に現れたのか金属製らしき重厚な黒い大剣と材質の分からない燃えるように紅い長剣がそれぞれに握られていた。そのどちらもがただならぬ気配を発している。おそらくはどちらも強大な力を秘めた聖剣、魔剣の類であろう。
そして彼が赤い剣を自身の正面に掲げると、掲げた左腕の腕輪が赤い剣と同時に輝く!
ギュスターヴはその輝き[アニマ]を自らのアニマをもって組み合わせる!!
炎・樹
「炎術、ファイアストーム!」
ドドドドドドンッ
次の瞬間、群れの実に七割が灰燼と帰していた。
「結構残ったな、じゃあ次はこれだ!」
音・樹・獣
「音術、清歌!」
パアアアアアアッ
残りの三割も魂を昇天させられただの屍と化す。
「さて、残るはお前だけだ。」
物言わぬ屍の倒れ臥す向こう、そこにはまだ一体のアンデットが立っていた。しかしほかとは様子が違う。何よりその身から迸る魔力が他とは比べ物にならない。
「[呪われたファラオ]ね、おおかた自らアンデット化して恨みでも晴らそうとした所を墓に封印されたってところか。悪いがそのアニマ、大地に還させてもらうぞ。」
言うや否やギュスターヴは残る最後の一体に向かっていく。
「■■■■■■■■!!」
対するファラオは渾身の力で練り上げた極大の暗黒魔法をギュスターヴに向けて放った!
ドオオオオオオオオンッ
ギュスターヴが避けていないのは間違い無いうえにクレーターを楽に穿ち得る威力。ファラオは勝利を確信していた。
だが、しかし。
彼は此処で不審に思わなければならなかったのだ。
ギュスターヴの目にまったく怯えの色が無かった事、そして何より避けられる避けられない以前にまったく避けようとするそぶりが無かった事に。
そしてギュスターヴは爆煙の中から現れた。まったくの無傷で。
ギュスターヴがあまりの驚きに動けないファラオに向かって駆ける!その速さはまさに神速、にもかかわらずそこからさらに加速!!そして!!!
構える・構える・構える・斬る+払う
「双剣技、」
黒い刃が魔力障壁を断ち割り破壊する!赤い刃が敵の胴を横薙ぎにしつつその内側に膨大な炎のアニマを叩き込む!そのタイミングはまさに同時!!
ザンッッッッ!
「十字無拍子!」
ギュスターヴが振り向いたときにはファラオは塵となって風に飛ばされていっていた。
「あなたのアニマが安らかでありますように。」
そうナイツの一族に伝わる祈りの言葉を呟き、閉じていた目を開いたときには此処に現れたときの穏やかな顔に戻っており、両手の剣も消えていた。
そして教授と副隊長はその信じがたい光景の一部始終を見ていた。
その間わずか11分と52秒。実際に戦っていた時間は5分にも満たないかもしれない。
「あ、あれが・・・」
「そうだ、あれがナイツ一族の護衛者[ヴィジランツ]の中でも名高い[双剣のギュスターヴ]の実力だよ。」
「あれ、本当に人間なんですか!?彼一人でも軍隊相手にして勝てそうですよ!!?」
「まあ彼の能力は歴代のヴィジランツたちの中でもかなりの規格外だという話だ。だがそれを置いてもいまだその力が発展途上だということを考えるとゆくゆくはそれこそ一国をも滅ぼしうるかも知れんな。」
「洒落になってませんよ、それ。」
「まあ唯一の救いは、彼自身が適度に無欲で普段は強い攻撃性と無縁な人格者だという事だな。」
そう言うと二人は互いの顔を見あわせて盛大なため息をついた。
「とにかく彼を敵に回すな、という事だ。」
「ですね。」
そうして二人は少し笑うとこちらに歩いてくる少年を出迎えに行くのだった。
二週間後 日本 葵学園 彩雲寮
(おい、和樹、起きろ、起きないか!)
「う〜ん、後五分・・・」
(いいのか!ここで遅刻したせいで出席が足りなくなっても知らんぞ!!)
(まあまあ父上、昨日も遅くまで鍛錬を繰り返していたのですから、もう少しくらい・・・)
(そうだぜケルヴィン、フィリップの言うとおりだ。このところただでさえ和樹は頑張りすぎてる所があるんだから、いっそ今日一日休ませる位してもいいんじゃないか。)
(そうですよ、義父上の言うとおりです。和樹は休めといっても聞かないのですからこういう時こそ休ませないと・・・)
(事実が発覚してからすっかり板に付いたな、その呼び方も・・・、まあ確かにお前達の言う事にも一理あるが、しかしギュスターヴ、[鋼の13世]と呼ばれるようになって以来無理を押し通し続けてきたお前の言葉とは思えんが?)
(まあだからこそ余計にな、分かるんだよ、今の和樹の状態がな・・・)
(ギュスターヴ・・・)
(それに、)
((それに?))
(夢の中なら時間の感覚をかなり引き伸ばせるからな、久しぶりに剣も体術もじっくり教え込める!!)
((そっちが本音(です)か!!!))
ムクリ
(おい、いいんだぜ。のんびり寝といても。)
はあ、と和樹は思わずため息をついた。
『勘弁してくださいよギュスさん、ちゃんと休日はそうして提供してるじゃないですか。』
(その休日がこのところ仕事で潰れまくってるからこんな事を言うんだがな。まあ起きたもんはしょうがない、学校行くんだろ、早く準備しろ。)
(朝は買い置きのカロリーメ○トで済ませるとしても、さっきのやり取りの間にずいぶんと時間が過ぎてしまったようだが大丈夫か?)
『術を使うしかないみたいですね。』
(ばれないように慎重にな。)
『分かってますよ、フィリップさん。』
そうこうする内に和樹は一階に降り玄関から飛び出していく。
「行ってきます、尋崎さん!」
「はい、いってらっしゃい。」
門を出ていくつか角を曲がり、人が辺りに居ないのを確認する。
そして和樹は上着の下の服につけた夢魔のメダリオンを服越しにつかみ、
獣・獣・獣
「ベルセルク!」
唱えた次の瞬間には、和樹は一時的にUPした身体能力を使い民家の上を肉眼で捕らえきれぬ程の速度で駆け抜けていた。
『しかし妙な夢だったな・・・』
――――――お嫁さんになってあげる―――――――
『まさか、だよなあ・・・』
もてたことなど一度もない自分、おまけに浮かんでくるのはその言葉だけでその時の情景もその子の顔も何一つ分からない。となるとこれはやはり―――――
『こんなものを夢の中で合成するなんて、やっぱり疲れの溜まり過ぎなんだろうか?』
(どうかしたのか、和樹?)
『いえ、何でもありませんよ、ギュスさん。』
そう返し和樹は道を急ぐ。
にもかかわらずその言葉は和樹の頭の中でリフレインし続けている。
そして式森和樹、またの名をギュスターヴ17世と呼ばれる少年はこの日が自らの運命の転換点であった事を後に知る事になるのであった。
あとがき
まずはみなさんはじめまして。B−2ndといいます。
正直に言いますがSSというかこういったもの書くのはこれが初めてです。
自分自身かなり無謀な事をしているような気もしていますがやると決めたからには精一杯やろうと思います。
中身のほうですが題のところにもある通りまぶらほとサガフロンティア2のクロスオーバーとなっています。
ただし和樹のもうひとつの名前からも分かるとおりエンディングからかなりの時間が経っておりサガフロ2のキャラは基本的に生身では出てきません。
さらにサガフロ2について独自解釈やら設定の空白部分を埋める形による独自(希望的とも妄想的とも言う)設定やら時代が進んでいる事から考えた独自の術・技について(主にデュエルコマンド)やらありますがどうかご了承ください。
それでは早速ですが今回出したオリジナル技の解説を。
双剣技:十字無拍子(アンデット特効)
十字斬りと無拍子の複合技。無拍子の神速の剣に十字斬りを組み合わせるという不可能を二本の剣を用いる事で可能にした。(といっても神速の領域でそれを行うため言うほど簡単ではないが。)
和樹の高い魔力によって十字の呪的効果が増大し、対アンデット時には特効効果の上にさらに攻撃力が上昇する。
・威力88 消費WP10(対アンデット時 威力124)