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「龍 第1話(まぶらほ+リアルバウト)」

太刀 (2005-01-25 01:46/2005-01-25 02:10)
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青々とした月光が照らす森の中、人目を避けるように社が建っていた。
なんの変哲もない、ただの社。
普通の人が見たのなら何故、こんな森の奥に建てられているのか疑問に思うくらいだろう。
だが、見るべき者が見たのなら、社を囲っている結界の強さに恐れを抱くだろう。
神や魔を封印する位に、強力な力を放っているのだから。
その社の中から話し声が聞こえてくる。

「そろそろ時間です。しかし、この結界も三ヶ月程で随分と力を失った様ですね」

長髪で白衣を着た男が、社の中に居る他の面子に話し掛けた。
男も含めた7人の人間が、刻を訪れるのを待っている。

「克弥。後どれ位の間、持ちこたえれる?」

蒼い和服を着た20代後半ぐらいの男が、神主姿の青年に結界の維持できる時間を訊く。

「当面の間は大丈夫だと思う。僕と君の秘宝で創った結界だからね。・・・・・でも、あまりのんびりできる程の時間は残されていないかな」

克弥と呼ばれた青年が、少しずれた野暮ったい黒縁メガネをかけ直しながら答えた。

「お前達が全力で創ったこの結界、並の上級神魔族なら半永久的に封印されるか。星幽体(アストラルボディ−)が消滅する位、削られるんだが今にも破れそうだな。それだけ、このボウズの力がトンデモナイって事か」

部屋の中央に寝かされている生後半年も経っていない赤ん坊を、桃色の着流しを羽織っている長髪の男が興味深そうに覗き込んだ。しばらく見ていたが、飽きたのか部屋の隅で様子を見ている全身黒ずくめの男へ話しかけた。

「星詠み。おまえさんならこのボウズ、どう見る?」

「さあ?この坊やは、因果の輪が複雑すぎて読みきれない存在だからな。いくら全知の星でも、この坊やの未来だけは、わかりゃしない・・・・・・ただ言えるのは、この坊やの力を今、封印しとかないと世界が壊れる位だがね」

途轍もなく大変な事を、何事でも無いように話す黒ずくめの男に「そうか」と着流しの男が肯いた。

「時間です。はじめますか、今この時を逃すと次の機会が来るのが100年後ですからね」

この大地を取り巻く今夜の星の配置、月齢。龍脈から溢れる途方もないマナ(魔力)。
遥か昔より契約を交わした大精霊達の加護を受けた神聖なる社でも、これほどの力が注ぎ込まれるのは一生に一度あるか無いかだ。


今まで沈黙を守っていた残りの2人も動き出した。
1人は煌びやかな白い軍服を着た男だ。この面子の中で最年長に見える外見をしている。
歩く足取りは力強い。肉体は最盛期の頃に比べれば身体能力の一部は下がったものの、長年積んだ経験がそれらを補って余る強さを与えていた。
白の軍服姿の男が赤ん坊から北向きの方角位置へと着いた。
赤ん坊を見る目は何処までも優しい。まるで孫を見る祖父のようだ。

もう1人の男も赤ん坊の西側へ移動する。7人の中で一番長身なのに物音一つ足音を発てない。
目を隠すような髪型をしている。ときおり覗かせる琥珀色の瞳には男の意思の強さを表すかのような強烈な光を宿していた。

白い軍服の男と、長身の男が儀式を行うべく必要な位置に着くと。
克弥は南へ。蒼い和服を着た男は東へと動いた。
蒼い和服の男が何も無い空間に手を広げて叫んだ


「我、・・・・の騎・・式森蒼雲!我が字【蒼き・・・】の名に・・・・命ずる 来い 大極・・・!」

ヅシャァァァーーーーーーーーーーーーーーン

突如、空間が割れて虚無の世界から男の前に、一つの盾が現れた。
盾は男の前で、静かに浮いている。
見た目は直径80cm程の円形方のラウンドシ−ルド。
中央のエンブレムに陰陽道の五芒星が刻まれ。その五芒星の中に大極を表す『陽』と『陰』が絡みあうマ−クが描かれている。
盾が放つ光は真夜中なのに、太陽の光を鏡で撥ねかえしたような不思議な純白。
そこに在るだけで圧倒的な存在感を放っている。
その圧迫感は、この世界のありとあらゆる魔導器を凌ぎ。内に秘めた力は計り知れない。
人の手では・・・・・・いや、上級神魔族より遥かな高みにより見守る創造の神、名を呼ばれることもなく『父』と崇拝される。数多知られる神々より格上とさせる絶対の神が、この世を創造する際に世界の守護物として、消え行く己の力を分け与えたかのような絶対の神通力が宿っている。

北に居る白い軍服姿の男が両手を眼前に持ってきて、己の半身を喚ぶ。
男を中心に二重の螺旋を描きながら炎が走った。
炎が外側から内側へと中心部に向う。中心部には男の両手があり、炎が男の両手に触れると一振りの刀へと姿を変えた。
炎のような刃文を持つ美しい『刀』だ。その刃に宿した力は先に喚ばれた『盾』に勝るとも劣らない。
振るうべき者が振るえば、例え大神だろと魔王だろうと一撃で断つ事ができる。

神主姿の男と長身の男も同じように喚びかける。

「我、円卓の・・・・・・ケリ−・・・・・・我が字【海賊王】の・・・・・・・・来い!天槍グン・・・・・・!」

「我・・・・・・・鬼塚克弥!我が字【符・・の・・・・】の名において命ずる!来い!森羅万象!」

『槍』と『符』も其々の主の基へ喚ばれた。

「―――――よ・・・・・行け!!」

蒼い和服の男が自分の半身ともいえる盾に命ずる。
すると純白の光を放つ盾から、赤ん坊へと光が集中して注がれる。
同じように『刀』と『槍』と『符』からも光が赤ん坊に当てられる。東西南北の方角から当てられる光が一定量に達すると、『盾・刀・槍・符』が赤ん坊の真上まで、ふわふわと浮びながら飛んでいく。
男達が赤ん坊に両手を向け、それぞれが力を溜める。
白衣を着た長髪の男が呪文の詠唱を始めると、他の男達もそれぞれが呪文をとなえ始める。


天の理 地の理 この世を司る四の礎よ 我ここに盟約の誓いを求める 神も魔も共に*******の力をもち ここに封じよ・・・・・・・・・・・<天魔四聖封神術>

上空に浮ぶ4つの秘宝に其々の力が四方から放たれた。
秘宝は上級神魔族すら打ち砕き、存在する為に必要不可欠な『永久原子』をも消滅させる程の力を子揺るぎもせずに受け止め。四つの力を調和して赤ん坊に注ぎ込んだ。
灼熱の太陽が大地に落ちたかの様に、赤ん坊を中心に光の奔流が注ぎ込まれる。
一瞬、それとも数分か、分らない程の力が結界内の空間で荒れ狂う。
光が治まった部屋の中央には、儀式を始める前と変わらない。安らかな寝顔をした赤ん坊がいた。

「やれやれ、あれだけの力が動いたって言うのに熟睡してやがる。蒼雲、こいつは間違いなくお前の子だよ」

外野に徹していた着流しの男が、蒼い和服を着た男へ呆れた声で言った。

「さて、何もなければいいんですが、この子を少し調べてみますか」

白衣を着た男が眼鏡を取り出して、赤ん坊を見つめだした。しばらくすると「おや?」と声をだし、蒼雲たちのほうに振り返り困惑した様子で事情を説明しはじめた。

「体調はいったて健康です。儀式による後遺症もみられません。ただ・・・・・魔法回数が8回まで落ちています。しかし魔力値のほうは測定不能ぐらい高いですね」

「力の暴走はしないのか?」

「それは大丈夫だと思います。封印した事で無差別な力の流れは食い止められました。だいたい封印したのも赤ん坊では、力のコントロ−ルができないからで、残りの魔法は指向性を持って操れるはずです」

「坊やもこれから大変だね。蒼雲いいのか?宗家式森当主として、血を分けた実の息子が魔法回数8回と分かれば、森四家が黙っていないだろう?」

盾を元の空間に戻す蒼雲に、皮肉っぽい笑みを浮かべて黒ずくめの男が呟いた。

「それに、この坊やの運命は星でも分からないが、一つだけ分かる事がある」

「おい、星詠み。分かる事って何のことだ?」

着流しの男を初め、他の面子も何の事だと見てくる。
すると黒ずくめの男は、この世にこれ以上楽しい物は無いと言わんばかりに言った。

「ずばり!!【女難の相】あり!良くも悪くもこの坊やは女に不自由しないだろう。本人の意思には関係なく、どれ程の苦労をするのかは分からないがね」

あまりのセリフに絶句している蒼雲と肩を竦めている白衣の男。
『刀』と『槍』に『符』を其々還した男達は苦笑いしている。
着流しの男は、嬉しそうに「なら俺が色々と鍛えてやる」と新しいオモチャを目にした子共の様な目つきでいる。

こうして一人の赤ん坊の運命が始まった。


――16年後 葵学園――

私立葵学園は日本が開国する際に、異国の魔法戦闘力に慌てた政府が指定した、魔術師養成学校の一つだ。
全国から魔法エリ−トが通うこの学び舎の下駄箱で、一人の少年が決意を決めた顔でその場に立っていた。
中肉中背の童顔の一見平凡な少年に見えるが、制服の隙間から見られる筋肉のつきかたは鋼の如く強靭で獣の如くしなやかである。
なにより違うのは、その目に浮かぶ決意の現われだった。何人にもけして犯せぬ聖域のような雰囲気を持つこの少年が、不退転の覚悟を決め呟いた。

「よし!午後の魔法診断はサボろう」

・・・・・・・・・・・・・・・あまりにも情けないセリフを言った少年の名は式森和樹。
あの葵学園特別監房と悪名高き2年B組をクラスにもつ葵学園の生徒だ。
上履きから靴に履き替えた少年へ2人の女生徒が近いてきた。

「あれ?カズ君なんで鞄もって帰り支度しているの?まだ、お昼休みだよ?」

和樹は声のする方へ振り返った。その先には、快活そうなショ−トカットの女の子、幼馴染の山瀬千早とその親友にして和樹のクラスメ−ト杜崎沙弓がいた。

「千早か・・・・・・・・・・・実は頭が痛くて、腹痛で、血尿が出るから早退するんだ」

堂々と嘘を言う和樹に呆れた様子で、千早の隣に立っている身長180cmを超え、何か格闘技をやっているのか、引き締まった体つきの女の子。沙弓が「嘘ね」と断言した。

「式森君、午後から魔法診断があるからでしょ。いくらなんでもG・W明けの初日からはまずいんじゃない?それにG・W中どこにいたの?連絡はとれない!寮には帰ってこない!風椿先輩や千早が心配してたんだから!!!」

表情は変わらないが雰囲気が怒っていますといわんばかりの沙弓に、顔を真っ赤にした千早が「別に心配なんて・・・・・・」と沙弓の腕を引いた。

「ん―・・・・・・何をやっていたかは、話せないけど心配かけたようだね。ごめん」

素直に謝る和樹に沙弓は、これからは気を付けるようにと、あっさり許した。

「だいたい式森君に危害を加えようにも、あの人以外で式森君に勝てる人間がいるとは思えないわよ。そうだ!週末どうするの?しばらく行ってないでしょ?式森君達がいないとイマイチ盛り上がりが欠けるのよ」

「僕がいなくても、あの2人がいるじゃないか?」

「あの2人。先輩達から聞いた話だと、1人はバイクで桜前線を追っかけて行き帰ってこない。もう1人は任務だといって連絡取れない。3人とも連絡取れないから一緒にいるのかと思ったわよ」

あの2人らしいなと和樹は思いながら、謝罪もかねて週末つきあうことを約束した。
これ以上なにか言われる前に帰ろうとした和樹に、千早が思い出したかのように話かけた。

「そういえば、少し前に風椿先輩に会ったよ。カズ君のこと探していたよ。急いでいる様子だったけど、会ったらカズ君が寮に帰る事を伝えとく?」

「ありがと千早。そうしてもらうと助かるよ」

笑顔で返す和樹に「別に礼なんていいよ」と嬉そうに言う千早に沙弓は「ライバル助けてどうするの?」と和樹に聞こえない小さな声で呟いた。
昼休みの終了のチャイムが鳴り始めると、和樹は「それじゃ」と2人に別れを告げ。
アッとい間に校門まで駆け出した。


葵学園から出て歩いてすぐの場所に和樹の住んでいる彩雲寮が建っている。
去年の夏休みの間に老朽化を理由に一度取り壊されて、新しく作り直されただけあって壁や屋根も綺麗そのものである。
なぜか隣には、女子寮が建っていたが気にしないでおこう。
寮の玄関で靴を脱ぎ自分の部屋に戻る和樹。

「魔法診断を何回やっても、僕の魔法回数5回が変わる訳ないのに紅尉先生もマメだな〜」

幼い頃から自分と妹の主治医だった紅尉晴明のことを考えながら、和樹は自分の部屋の前まで着いた。開けようとドアのノブを取ったが部屋の中に人の気配がする。
それ以前に、玖里子の魔法。外敵から部屋を護る守護符が弾け飛んでいる。
玖里子の魔力はS級だが、その卓越した技量は師匠譲りでSSクラスの魔術師と真正面から対峙しても、退けをとらない実力があるのを和樹は知っている。

(玖里子さんの守護符が破られている?嘘だろ?誰の仕業だ!?)

その実力を知る上で、それを破った術者の脅威を肌でかんじる。
玖里子の守護符を破る程の実力者の心当たりは・・・・・・・・・結構いた。

(セレスはフランスだろ?いやイギリスのアリスか?それともイタリアのローゼ?)

世界各地を先生と共に駆け抜けた間、知り合った少女達の顔が思い浮かぶ。
いや、彼女達に此処の場所は知られていない筈だ!知られたら自分の平穏の生活にピリオドを打たれるのを和樹自身が一番分かっていた。
できれば卒業までは、平穏(?)な学園生活をエンジョイしたい。
その為に葵学園に居る間は、凡庸を装っているのに。

(もしかして沙夜か!?)

自分の妹で、魔法に関して天才の名を欲しいままにしている少女も思い浮かぶ。
いや、違うな!沙夜は月華学園に通っている。
それに家から勘当を受けた、あの日から顔を一度も会わしていない。流石に4年間ほっぽいていたのは、許せないらしい。

(生死の狭間を何度も何度も何度も何度を何度も何度も!綱渡りして連絡するのを忘れてたからな・・・・・・まあ、いいや。とにかく今は浸入者だ!自由を奪ってから目的を確認すればいい)

和樹は自分の取るべき行動を決めると己が十八番、神威の拳を使い始めた。リズム感ある呼吸法をとり全身に神気を漲らせる。

【仙術気功闘法・神威の拳】
特殊な呼吸法により体内で神気を練りだし、人を超人の域にまで持っていく秘儀。
式森和樹は数少ない、神威の拳の使い手である。

いくら玖里子の魔法を無効化できる手練でも、和樹クラスの神威の使い手なら、呪文の詠唱を終える前に決着をつける事ができる。
身体に力が漲るのを感じると、ドアを勢いよく開け放ち。部屋にいる侵入者へ神速の速さで飛び掛った。
慌てる侵入者を押し倒し、馬乗り(マウントポジション)にすると、左手で咽喉元のしたにある鎖骨が見える箇所を押さえ、右手がくわっと五指を広げ纏っている神気が震動する。

「喰らえ!<印遥手(インパルス)>!!!」

右手に集中させた神気を高速で震動させ、音による爆音衝動で相手の内部からダメ−ジを与える技。
心臓の上から叩き込めば、どんなタフな奴でも動きを止める事ができる。
だが、相手の心臓を止める音の凶器を宿した右手は、寸での処で動きを止めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆ、夕菜!?」

自分が押し倒している下着姿の人物をよく見ると、3年前に中東で別れた宮間夕菜だった。
予想外・・・・・・・・
夕菜は驚いた顔をしていたが、自分の上に乗っている人物が和樹だと分かると顔を赤くしながら「そんな和樹さん会ってすぐだなんて・・・」とか「でも積極的になってくれたんですね。わたし嬉しいです!」などと言い出した。

・・・・・な、なんで・・・夕菜が、僕の部屋にいるんだ?それよりこの体勢はまずい!まるで僕が部屋に女の子を連れ込み、押し倒しているみたいじゃないか!!!

「夕菜!夕菜!!!なんで君が僕の部屋にいるの?宮間教授や由香里さんはどうしたの?それよりもなんで下着姿なんだ!?」

早口で一気に捲くし立てる。
夕菜から慌てて離れようとした和樹だが動けない。
和樹の左手は夕菜から離れていたが、今は逆に夕菜の手が和樹の腕を捕まえていた。
懸命に、この体勢から逃れようとする和樹だが夕菜の手は、まるで万力で押さえつけたみたいに和樹の腕を離さない。
そうこうしている内に、開いたままのドアから「失礼する」と声が聞こえてきた。

「こちらに、式森和樹殿は居るか?」

片手に竹刀袋を持ち前髪を綺麗に切り揃えた日本人形みたいに、かわいい顔をした和服を着た女の子が部屋の中に入ってきた。

「実は、断る為に話を持ってきたのだ・・・が・・・・・・・・・・・・夕菜さん!貴様!夕菜さんに何をしている!?」

一瞬呆けたが、今の状況を見て顔に怒りの感情をあらわす。
夕菜に馬乗りになっている和樹に和服の女の子は、竹刀袋から日本刀を取り出し。
真剣を鞘から抜きだすと同時に斬りかかってきた。
和樹は渾身の力を込めて夕菜の手を解き、後方に飛びのいた。次の瞬間には和樹の頭があった場所を真剣が通り過ぎる。

(別の女の子?一体どうなっているんだ!それに今の斬撃、本気で斬りかかってきたぞ!?)

ある流派の剣術を奥伝奥儀まで修め、免許皆伝の和樹から見ても、女の子の剣速は実戦で一流として充分に通用する程の腕前だ。
慌てる和樹に執拗に斬りかかってくる女の子。狭い室内で不利な筈の刀を巧みに使い、無駄な動きを省いた体裁きで連斬を放ってくる。
夕菜の方をチラリと見ると、まだ妄想世界から帰ってこないのか、時おり「和樹さんそこは駄目です・・・・・・でも和樹さんが望むなら」とか「和樹さんの熱いパトスをすべて私の中へ・・」等と呟き現実世界に戻ってこない。

鋭い斬撃だ!でも何故だ?この子の太刀筋が解る。いまだって・・・・右斜めから切り込んできて・・・・・途中で上に跳ねる!

それ以上に不思議なのは、これだけの敵意を向けられ、斬りかかられているのに自分が反撃に討ってでない事だ。
いくら鋭いといっても一流程度なら、難無く躱して腕の一本でも、へし折る事が可能な力量を身に付けている。
実際、裏の世界に身を置いている時、自分に敵意を向けて襲ってきた相手は老若男女関係なく排除してきた。
だが、ある事件で受けた右胸の古傷が「この子を傷つけるな!!!」と教えるかのように疼く。
この傷が疼いた時の直感は、かなりの確率で外れた事がない。


和樹が不思議に思っている頃、女の子も内心動揺していた。
この男については写真こそ無かったが、ある程度まで調べがついていた。
勉強は語学と考古学については抜群にいいが、他の教科は限りなく赤点に近く。
運動は普通。趣味は菓子作りと、なんの変哲もない唯の高校生。

幼い頃から厳しい修行を積んできた自分の剣を何故こうも躱される!?
子供の頃に、命を救ってもらった・・・・・いや、それ以上のモノを自分にくれた初恋の子と約束を交わしてから、それまで以上に剣の腕を磨いてきた。
現在、一族に自分以上の剣の使い手は、師である駿司ぐらいなのに、目の前にいる男はその自分の剣を尽く躱している。

「私は約束したんだ!ぼん太兄様にふさわしいパ−トナーになると!!!!」

そう叫ぶと気合を込め刀に魔法をかける。

臨、兵、闘、皆、陣、裂、在、前! <剣鎧護法>

鬼の一種を呼びだし刀に憑依させる事により切れ味を何倍にも高め、衝撃波として敵にむけ放つ事も可能な魔法剣。
神城一族でも一部の高弟しか会得できない。800年の歴史が生んだ退魔剣。

「ぼん太くんと剣鎧護法って・・・・・・・・・もしかして凛ちゃん?神城凛ちゃん!?」

「うるさい!私の名を気安く呼ぶな!!!」

ビュ―ン

風切り音と共に渾身の一撃で斬り掛かってくる凛に、和樹は右手に神気を集め。
ストレ−トパンチを撃つように刀に向けて放った。

<龍撃拳>

神威の使い手にしか見えない、龍の顎を模した白金色の神気の塊が振り下ろしてくる刀を弾き飛ばした。     
刀は宙を舞い天井に突き刺さり、集められた鬼も散っていく。
呆然とする凛。刀が自分の手から弾かれたことよりも、その技を使った和樹を信じられない者を見るように見つめている。

「・・その技・・・・・・龍撃拳?・・・・・ぼん太兄様にしか使えない技・・・・・そ、それに、その顔!?」

震える声で呟く。そして、この部屋に入って始めて和樹の顔をゆっくりと見る凛

「・・・・・・・・・・・・・ぼ・・ぼん太兄様・・?」

信じられない者を見た震撼!心臓の音が聞こえそうなほど高まる。
身体全身に電気が走ったように動悸が抑えられない。
だが心によぎる不安。知らなかったとはいえ最愛の人に刃を向けた後悔。
目に涙を溜めながら興奮した声で、凛は和樹に問いかけてきた。

「凛ちゃん、昔と太刀筋が変わってないね。でも速く鋭かった。強くなったね」

和樹が凛に微笑むと、凛は泣きながら和樹の胸に飛び込んできた。
あの時と変わらない優しい表情。自分を庇って妖魔から身を挺して守ってくれた、鍛え抜かれた身体に抱きつくと。抱いていた不安が一気に溶ける。
この人は自分を嫌っていない。


「ぼん太兄様!!!・・・・・・兄様!・・・・・・兄様!・・・兄様と約束してから私・・・相応しいパートナ−になる為いっぱい修行したよ!あれから一度も泣かなかったよ!!ぼん太兄様のこと幾ら調べても居場所も連絡先も分からくて、東京にくれば何か手掛かりが、あると思って葵学園に入学して、でも本家から知らない男と結婚しろと命を受けて、勘当になってもいいから断ろうと部屋まで来たら・・・」

(約束?約束って、なにしたんだろう?)

凛に抱きつかれながら和樹は約束の内容を必死に思い出そうとする。
神城本家の裏山で封印を解かれた上級妖魔から、凛を守ったことまでは憶えているのだが、それ以後2、3日の記憶がどうにも曖昧だ。
泣きじゃくりながら、今までの出来事を話す凛だったが、急に黙りこみと、地獄の鬼も従わせる羅刹の如き声で

「・・・・・・・・・・下着姿の夕菜さんの上に、どうして乗っていた?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

今までにない恐怖を和樹はこの時に感じた、背筋に冷たい汗が流れる。
本能が今すぐ此処から逃げ出せと訴える。
世界ふらり北半球西回りの旅の中で、死にそうな目にいくらでもあった。
だが、この恐怖はタイプが違う!まるで暗示を掛けられたかのごとく身体が動かない。
この十六年間自分の最大の理解者であり、無条件に使える筈の身体が自分の意思を反して動かない。
馬鹿な!自分は、この世界の「―――――」1人で、ある筈なのに・・・・・・・・・・


(男が下着姿の女の子の上へ馬乗りなっていて、なんの言い訳ができる!?しかし、このままだと僕の命が危ない!)

そうだ!理不尽の事件に巻き込まれるなんて30回や40回じゃ効かない!
それでも自分は生き抜いてきた!今回も・・・・・・何とかする。
先生と旅をするように成った時など、一月に1回は常人なら絶体絶命のトラブルに巻き込まれてきた。生存能力なら人類が滅んでも平気で生き残れる自身がある!
とにかく状況を打破できる、何かがないか周りを見渡す和樹。
だが泣き面に蜂と言うか、人間不幸になる時はとことん不幸になると生きた見本を見せてくれた。

「・・・・・和樹さん。なんで凛さんと抱き合っているんですか?」

背後から魂が凍えそうな力が篭った声がした。
ゴゴゴゴゴゴゴ―――――と擬音を出しそうな其処に立っていたのは、氷結地獄(コキュ−トス)の永久氷海すら大融解させそうな妖気を放ち、大魔王にクラスチェンジした夕菜の姿があった。
生・・存・・・・能力?ダメ!ムリぽぃ・・・・・・・・・

(すまない美雪ちゃん・・・・もう君との約束をまもれそうにない・・・・・・・・)

字と魂にかけて守ると誓った少女に心の中で詫びる。
和樹は、いままで生きてきた人生の走馬灯を、この時たしかに見た。
振り返った人生を飾るのは、ざっと200人以上、女性の顔なのは御愛嬌。
そんな和樹を置いて、二人の少女は言い争いを始めた。

「凛さん!和樹さんから離れて下さい!」 

「なんで夕菜さんに、そんな事を言われなければ、ならないのですか!!」

「わたしが和樹さんの妻だからです!!!」

凛の顔が夕菜のセリフを聞いた瞬間、更に険しくなる。

「夕菜さん!御自分とぼん太兄様の年齢をご存知ですか?」

「法律がなんですか!!それになんなんですか!?ぼん太兄様って?和樹さんには立派な式森和樹と言う名前があります!」
-
「・・・・・ア−・・・・・・・・・・・・・・神城に修行に行った時の僕の通り名」

延々といい争い。いまにも緊張の糸が千切れ、地獄絵図に成ろうとするこの空間に、救いの女神か?混沌の神か?とにかく第3者が入ってきた。

「和樹!千早ちゃんに聞いたけど部屋にいる?実は大変な事が・・・・・すでに起きてるわね・・・・・・」

入ってきたのは3年生の徽章を着け、艶やかな金髪を腰まで伸ばし、可愛いと言うよりも美人とも言える顔立ち、服の上からもその類稀なるプロポ−ションを誇示しているのがわかる風椿玖里子だった。

「「「玖里子さん!」」」

部屋の中にいる3人が同時に叫ぶ

「玖里子さんも、和樹さんが目的ですか?」

新たな敵が現れたのか?夕菜と凛が警戒する。
そんな二人を見て状況を理解したのか、玖里子は勝ち誇った顔で爆弾発言した。

「和樹が目的?・・・・・・・・和樹とあたしは小さい頃からの幼馴染で親公認の許嫁よ!」

あまりの内容と、いままでの緊張からか夕菜と凛は怒りを通り越してバタンと倒れてしまった。
あわてて二人を支え自分のベッドに寝かしつける和樹。しょうがない子達ねと和樹を手伝う玖里子。

「玖里子さん。許嫁の件、あの時だけの話じゃ無かったんですか?」

どうして二人に、あんな爆弾を投げつけるに近い真似をしたんですか?と目で訴える和樹。

「和樹は、あたしと許嫁じゃ嫌なの?それに親公認と言うのは本当でしょ。蒼雲小父様も認めてるわよ」

「あの年柄年中バカップル夫婦は、息子である僕の事は放任主義だったんですけどね。ドイツで玖里子さんを守る時に許嫁の方が、都合がいいと葉流華さんの電話一本で簡単に決められたんです」

「まあ、いいじゃない」

勘当された身だが、あの両親ならソレはソレ、コレはコレと言いそうだ。
良くは無いが、これ以上なにを言ってもこの話題は、どうにも成らないと感じた和樹は玖里子が『大変だ』と言っていた事が気になり聞き始めた。

「風椿が調べた、和樹の個人情報が探魔士に進入されて地下市場に流されそうになったのよ」

「僕の個人情報は葉流華さんのプライベ−トネットワ−クにあるんじゃなかったんですか?」

「そうよ。麻衣香姉も和樹が葵学園に居ることは知らないわよ、だいたい和樹、葉流華姉のお陰による完璧な裏口入学じゃない」

たしかに和樹が葵学園にいると知っていれば、麻衣香が無反応な筈がない。

「裏口入学・・・・・って。去年の3月は、まだアメリカに居たんです。サンフランシスコで偶然、葉流華さんに会って。日本の高校に通わないかと進められて入ったのが葵学園ですからね。たしかに入試もしませんでしたし、衣食住が保証されるのが魅力的だったのは事実ですけど・・・・・・・最後は脅しでしたよ・・・・・・」 

あの時の和樹は日本に戻る気はなかったのだが、葉流華に逆らえる筈もなく渋々と故郷の土地へ帰ってきた。
玖里子が葵学園に在籍しているを知ったのも入学して、暫らくしてからだった。

「あたしとしては葉流華姉が全部知っていて、和樹を葵学園に入れたと思うけど?昔から和樹は葉流華姉のお気に入りだったしね」

「お気に入りは兎も角、どこまで情報が漏れたんですか?」

「メンテナンスしていた隙の2〜3分かしら、葉流華姉専属の探魔士がすぐに気がついて、ダミ−プログラムを流したから日本国内で収まったはずよ。クラックした探魔士も捕まえたみたいだし。宮間と神城の両家に知られたのは和樹を探して情報網を張っていたからじゃないかしら?」

自分を探しだしそうな人物を考えている和樹、そんな和樹を黙って見つめる玖里子。
しばらくすると急に和樹の顔色が悪くなるが、直ぐにいつもの表情に戻った。
ベッドから時おり悪夢にうなされている声が聞こえる以外、沈黙が部屋を支配した。

「沢山いすぎてわかりません、玖里子さん」

沈黙を破った和樹の声は情けなかった。


あとがき

とりあえず第1話です。此方に投稿していなかった21話までの話を載せていきたいと思っています。

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