第二話 B組、恐怖の正体
暗い、暗い地の底。
見上げるような鋼鉄の巨人が、巨大な玉座から未だ傷の癒えぬ仲丸たちを見下ろしていた。
彼らはゴキブリのような生命力で、奇跡的に三日で病院を出られた。
そして一同は自分達が主と仰ぐ者の前に立っていた。
「それで、お前達は一方的にやられてこのザマと来たわけか」
巨人が口を開く。
鋸状の角が二本も頭から伸びていて、両肩からは無限軌道が突き出している。
モスグリーンと紫の装甲で全身を覆ったその巨人の名は『メガトロン』。
セイバートロン星に生まれた超ロボット生命体“トランスフォーマー”を二分する勢力の一方、
力による支配と破壊とを旨とする『デストロン』を支配する破壊大帝である。
が、今はトランスフォーマーの部下など一人もおらず、部下と呼べるものは今ここにいる仲丸たちだけである。
・・・あかんがな。
「ですがメガトロン様、僕達は式森に魔法を使わせることに成功しました」
まだ幼さを残した顔立ちに眼鏡をかけた、小柄な少年が抗弁する。
彼はB組男子の六車迅。
自称、少年探偵だがその明晰な頭脳を他人を貶めることにのみ使う奴だ。
「だからといって、その度にコレでは貴様らが持たんだろうが」
呆れたように嘆息するメガトロン。
メガトロンとB組生徒達は“オプティマス・プライムの息子”の異名を持つ式森和樹を敵視し、学園における日常生活の中で何度も和樹を抹殺しようと企てて、いつもこういう目に遭っていた。
「大体ワシは、召喚実験にかこつけて奴の戦力を探れと言ったのだ。何も奴の使い魔を奪え、とか命を獲れとは一言も言っておらん」
(大方、その奪った使い魔の力で、このワシに反逆するつもりだったのだろうがな)
メガトロンは仲丸たちの狙いを正確に見抜いていた。
そこまで信用できない相手を、あえて部下として使うその懐の広さがステキすぎる。
「まあいい、今日呼び出したのは他でもない。お前達に見せたい物があったからだ」
メガトロンがそう言うと、部屋の左右の壁が開いて都合四台の車輌や航空機が現われる。
赤白黒の三色に塗り分けられたジェット戦闘機『スタースクリーム』。
サンドイエローのミサイル戦車『アイアンハイド』。
暗いブルーグレーの戦闘ヘリコプター『サンドストーム』。
鈍色を基調に所々に緑を配色したジェット戦闘機『スラスト』。
「あらあらメガトロン様、これって何なのでしょう」
おっとりとした調子で、妙に年上じみた美女が訊ねる。
彼女はB組女子の片野坂雪絵。
「これこそワシが以前から研究していた、フレッシュリングにトランスフォーマーの力を与えるシステム。
名づけて、 『トランステクター』。
これをお前達にやろう」
驚きのあまり、一斉にざわめきだす仲丸たち。
この脳味噌まで筋肉で出来ていそうな体育会系オヤジの口から、研究などという言葉が出てくるなんて!
・・・いや、驚く所が違うような気がするが。
ちなみに『フレッシュリング』とは、機械の身体を持つトランスフォーマーに対し、生身の肉体を持つ人間のことを指す。
仲丸たちの心から驚きが過ぎ去ると、今度は際限のない欲が頭をもたげてくる。
そこにメガトロンが、火を点けるような言葉を投げかける。
「欲しい奴は手を上げろ」
その場にいた全員が一人の遅れもなく一斉に手を上げた。
「メガトロン様、是非ともこの仲丸に!」
仲丸が早速アピールを始めれば、
「いえ、この浮氣に下されば百万の兵に匹敵するような活躍を見せます!」
浮氣がそれを押しのけて自分を売り込む。
たちまち辺りは大騒ぎになる。
「この僕にあの鈍色の戦闘機を下さい! 必ずや式森を抹殺してごらんにいれます」
六車が明確な希望をはっきりと言葉にする。
「よし。あの戦闘機『スラスト』は望みどおり六車、お前にくれてやろう」
「ありがとうございます、メガトロン様! 必ずご期待に答えて見せます」
深く頭を下げる六車。
こうなると収まらないのが、仲丸たち他のB組生徒。
「「「六車を殺せ〜〜!!!」」」
嫉妬に駆られた彼らはまだ三つ残っていることも忘れ、一斉に六車に向かって飛び掛ろうとする。
・・・前回とやってる事が一緒だ。
「やめんか、馬鹿者どもがぁぁっ!!」
六車が天に召されるかと思ったその瞬間、メガトロンの凄まじい一喝が轟く。
「「「ぎえ〜〜!!!」」」
「何で僕まで〜〜」
圧力を持った大音声が、仲丸たちだけでなく六車まで吹き飛ばす。
その後も懲りない彼らは、残り三つのトランステクターをめぐって醜い争いを繰り広げた。
そのため業を煮やしたメガトロンは強制的に使用者を決めてしまった。
『スタースクリーム』は女子の一人で、反体制派を気取る秋葉紗苗。
『アイアンハイド』は男子の一人で、太った見た目に似合わず運動神経のいい“走って飛べるデブ”こと山口隆史。
そして『サンドストーム』は浮氣が使う事となった。
もちろん仲丸たち他のB組生徒が、それを黙って見ているはずもない。
「メガトロン様! 何であいつらに渡すんですか?!」
クラスの中心人物、つまりもっとも信用のならない男である仲丸が早速不服を申し立てる。
「あいつ等にあんな物を使わせたら、その場でメガトロン様に反逆を起こしますよ! なあみんな、そう思うよな」
メガトロンに訴えるのみならず、他のクラスメートを扇動することも忘れない。
「そうですわ、メガトロン様。秋葉さんや浮氣くんでは危険すぎると思いますわ」
その言葉を受けて、さっそく片野坂が言い立てる。
さらに理知的な顔立ちに眼鏡をかけた女子が訴えて出た。
「何も私たちは個人の欲で言っているのではありません。メガトロン様の御身を思うからこそ言わせていただくのです」
彼女は柴崎玲子。
まともに聞こえることばかり言うので、「社長秘書が女子高生のコスプレをしている」などといわれる女の子である。
他にも嘘泣きをしてみせる女子、嘘八百を並べ立てて浮氣たちを反逆者に仕立て上げようとする男子などが次々と出てくる。
「フッフッフッフッフッ・・・」
不意にメガトロンが笑い出す。
「そうか、そんなにワシの言うことが聞けんか・・・」
その言葉に剣呑な物を感じ、秋葉、山口、浮氣、六車たちトランステクターを得た四人はその場を離れた。
仲丸たちは四人を貶めることに夢中で、メガトロンの変化に気付かない。
「トランスフォーム!」
突如メガトロンが形を変え、巨大な戦車が現われる。
「喰らえ、フュージョンカノン!!!」
雄叫びと共に戦車の主砲が火を噴き、仲丸たちは再び入院する破目となった。
つづく
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