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「想い託す可能性へ 〜 さんじゅうご 〜(GS)」

月夜 (2008-07-02 05:12/2008-07-09 19:45)
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  想い託す可能性へ 〜 さんじゅうご 〜


 忠夫達が、サクヤヒメの用意した宴会場となる畳張りの広間に案内されると、そこにはズラッとご馳走が用意されていた。

 足の短い長テーブルの上に用意されている数々の料理に、シロが目を輝かした。

 「先生っ。凄いご馳走でござるよ! しかも猪鍋(ししなべ)でござるぅ。他にも伊勢エビや鮑が! あ、涎が……」

 ジュルッと涎を啜って、シロは忠夫の左手を取って早く早くと急かす。

 「まてまて、シロ。料理は今のところ、逃げん! だから引っ張るなっ! 心眼が転ぶだろうが!」

 心眼と繋いでいた手を離し、彼女に自分のスラックスを掴ませた忠夫は、シロの頭を軽く小突いて落ち着かせようとした。

 「きゃうっ。 う〜〜 うぅ〜〜」

 喜びを共有したいのに頭を撫でてくれない先生に、シロは涙目で唸って上目遣いで彼を見る。

 シロの行動は情けないことこの上ないが、子犬のような目で見つめられた方の忠夫は、うぐっといった感じに顔を引きつらせた。

 ほんの少しの間固まっていた忠夫は、溜息を吐いて何かを振り払うかのように頭を振ると、シロの頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でる。

 「分かった分かった。ご馳走を前にして気がはやっているのは俺もだ。とりあえず座ろうぜ」

 シロの仕草が男心に触れてしまい、弟子としてしか見ないように心掛けていたのを崩されそうになったのを隠しながら、忠夫はシロを促して鍋の前に座った。

 その左隣に心眼が静かに正座で座り、右隣にはシロがこちらも正座で座る。二人は本当に対照的で、静と動の見事なコントラストになっていた。

 シロの隣にはタマモがスッと静かに女座りで座り、小竜姫とヒャクメ、令子に女華姫がそれぞれに空いた所に座って、最後にサクヤヒメが上座の席に正座する。

 彼女は、広間と廊下を仕切る襖袖で待機していた巫女さんを呼んで何事かを告げると、全員を見渡してご苦労様でしたと労ってから食事を勧めた。

 「それじゃ遠慮なく! いっただっきまーす!」

 忠夫の台詞を号砲に、食事という名の戦いが始まった。

 シロと忠夫だけによる、料理の奪い合いという名の戦いが。

 テーブルの上に並べられた大皿の猪肉を焼けた鉄板に乗せて、ジュウジュウと焼けていく様子にゴクリと喉を鳴らす忠夫とシロ。

 二人の目は、飢えた獣のように血走っている。

 カーン   どこかでゴングが鳴った気がした。

 そのとたん、焼けた猪肉に二人の箸が獲物を求めて閃いた。ガシッといった感じに、二人の箸が焼肉の手前でかち合う。

 「こらっ、シロ! それは俺が狙っていたんだ! 少しは遠慮しろー!」

 「嫌でござるっ。早い者勝ちでござる! 先生とて譲れぬでござるっ! 捕ったー!!」

 「あ、くそっ」

 お箸でチャンバラを行う、おバカ師弟の忠夫とシロ。

 シロがフェイントで伊勢エビを狙う。そうはさせじと、シロのフェイントに忠夫は引っ掛かって伊勢エビを死守する。

 そこで焼けた猪肉への忠夫の意識が反れた隙を突いて、彼女は己の身体能力をフルに使って、本命の獲物である肉汁滴るイノシシの焼肉をゲットして頬張ろうとする。

 と、そこへ。

 「あんたらっ! 恥ずかしい真似、するんじゃない!!」

 「キャウッ」 「カンニンやーっ 仕方無かったんやー! ごぐっ!?」

 どこから取り出したのか、ハリセンでシロの頭を真上から叩いた令子は、返す刀で忠夫の顔面にぶち当てて鎮めた。

 開始45秒で、令子の介入により両者ノックアウト。

 シロは思いのほか痛かったのか頭を両手で押さえて蹲り、忠夫は目の辺りに長方形の赤い腫れを残して仰向けにひっくり返っていた。

 「たくもうっ」

 「うふふふ。良いではありませんか、令子殿。 あれだけの戦いの後です。
 たくさん食べて、心ゆくまで休息なさってくださいな」

 令子の怒りようにサクヤヒメは笑みを零し、まぁーまぁーといった風にとりなす。

 その姿は、そこはかとなくおキヌちゃんに似ている。彼女が、おキヌちゃんの魂の大本だからだろう。

 けれど、サクヤヒメがまとう雰囲気が艶を帯びている為に、令子はおキヌちゃんほどにはその言葉を受け入れられない。

 「あんたね……。わたしも食べるなとは言わないわよ。
 ただ、もう少し落ち着いて食べれば、味も良く解るし消化もいいでしょ?
 せっかくのご馳走なんだから争うんじゃなくて、楽しく食べれば良いのよ(そうじゃないと、持ってきた霊薬が使えないじゃない)」

 「確かにその通りですね」

 令子の言葉にサクヤヒメは頷き、耳を傾けていたヒャクメと小竜姫もそれぞれ頷いていた。

 女華姫は相変わらずの仏頂面ではあるけれど、かすかに目尻が下がっている辺りに食事を楽しんでいるのが分かる。

 時折その視線が、チラチラと無意識に忠夫へと向いているのは自覚していないようだ。

 「すまなかったでござる」

 「つい、対抗しちまった。すまん」

 「解れば良いのよ。さっ、気分を変えるわよ!」

 シュンとうな垂れて謝ってきたシロと忠夫に笑みを返すと、令子は持っていた大徳利を掲げて全員に酒を注いで回った。

 持ってきた霊酒を、全員へと自然に振舞えるチャンスをくれたしね。と、内心で令子はニンマリしながら。

 「それじゃ、改めて。 ちょっと複雑だけど、おキヌちゃんがやってるルシオラ復活の儀式の成功を祈って―― 乾杯!」

 「かんぱーい」 「乾杯」

 ヒャクメが、いの一番に明るく答える。その後に小竜姫やシロにタマモ。忠夫が軽く杯を掲げて飲み、サクヤヒメと女華姫もお互いを笑顔で見やって、杯の中身を乾した。

 「あらっ。 このお酒、美味しいですねぇ。
 美神さん、もう一杯いただけますか?」

 意外にも、小竜姫が令子にもう一杯と杯を出した。

 「飲ませたわたしもわたしだけど、あんた仏教の神様でしょうが。
 教義にもとるんじゃないの?」

 いつもは不必要なくらい仏の教義を尊ぶ竜女神のおかわりに、呆れた口調を装いつつ探りを入れる令子。

 ちょっとだけ、この霊酒の効能に勘付かれたのかと疑ったらしい。

 「日本は神仏習合ですし、問題ありません。
 それに、いくら竜神王様が仏教に帰依されたと言っても、そのお師匠様がお師匠様ですからねー。
 元々竜神は古来よりお酒には目がないですし、竜神界の祝いの席では最初の一杯を飲まないのは無作法なんですよ」

 「そうなんだ。んじゃ、お猪口じゃ足りないでしょ? コップに注いであげるわ」

 そう言って、令子はコップに大徳利の酒をなみなみと注ぐ。

 勘付かれたわけじゃないと、安心しながら。しかも、何気により多く飲ませようともしているし。

 「ありがとうございます」

 小竜姫は笑顔で令子に礼を言うと、コップの縁までなみなみと注がれた霊酒を慎重に、艶やかな唇に持って行き一啜り。

 味をじっくり確かめてから、残りをくーーっと飲み乾した。

 「んふぅーー。本当に美味しいです」

 左頬に手を当てて、目尻を下げて目元を軽く赤くした小竜姫はなんとも艶っぽい。

 普段が凛とした雰囲気を放つ女性だけに、今の正座を横に崩した女座りと相俟って、艶っぽい雰囲気によるギャップが男心をくすぐる。

 そんな彼女に、この男が反応しないわけが無い。

 「しょ 小竜姫さま。俺からも受けてくださいよ」

 小竜姫の雰囲気に興奮した忠夫が、シュバッという感じで彼女の横に陣取り、サクヤヒメが用意したお神酒を差し出した。

 「ええ、良いですよ。けれど、横島さんも飲んでくださいね?」

 返杯拒否は仏罰ですよぉ〜と言いながら、小竜姫は差し出された銚子にお猪口を出して注いで貰うと、一気に飲み乾した。

 「んー、サクヤヒメ様のお神酒も美味しいですねぇー。さすがは、酒解子神(サカトキコノカミ)です」

 「お褒め頂いて嬉しいです、小竜姫殿。今宵は、私が秘蔵する内の一品をご用意致しました。
 皆様も、存分に楽しんでくださいな」

 小竜姫の褒め言葉にサクヤヒメも笑顔で答え、全員を見渡してお神酒を勧める。

 その言葉に甘えて、ヒャクメと小竜姫はお互いにお神酒を注いで飲みあい、その合間に忠夫が二人に酒を注いで回っていた。

 けれど、いっこうに酔い乱れない二人に逆に酔い潰されそうになってしまい、ほうほうの態で令子の隣に逃げ込んでくる始末の忠夫。

 ヘタレた自分を隠すように、忠夫は令子にさっき小竜姫が言っていて気になった事を訊いてみた。

 「なぁ、令子。小竜姫さまが言っていた“サカトキコノカミ”ってなんだ? サクヤの神名はコノハナノサクヤヒメじゃないのか?」

 「あんたね、仮にもGSでしょうが! そんな事も知らないの!?」

 小竜姫達を酔い潰そうとして返り討ちにあい、自分の隣に逃げてきた忠夫を呆れた顔で睨んでいた令子は、コツンと彼の頭を小突いてから説明してやる。

 「いーい? サクヤヒメにはいくつかの神名があるの。『酒解子神』もその一つよ。
 元々は、サクヤヒメの父神である大山祗神(オオヤマツミノカミ)が、彼女の出産を祝って天舐酒(アマノタムケザケ)――今の甘酒に近い物ね。これを造った事から酒解神(サカトケノカミ)という神名で、酒造りの神として酒造に携わる人間から敬われ始めたのよ。
 そこから、その神様の娘であるサクヤヒメも酒造の人間に敬われるようになっていったのよ。
 だから、彼女は酒造りの神様でもあるの。
 ま、なぜだかはしらないけど、同じ娘神のイワナガヒメにはそういう別名みたいな神名はないけどね」

 「なるほどな。そういう経緯があったんか」

 令子の説明に、忠夫はへぇ〜っといった感じに頷いて、サクヤヒメの方を見やる。

 「私自身は水の神でもありますから、水が命のお酒の良し悪しが解るだけですよ。
 ささ、横島殿。一献どうぞ」

 いつの間にか、座っていた上座からサクヤヒメは令子達の後ろに居て、銚子を捧げ持っていた。

 「(おぉっ、白小袖の合わせ目から覗く谷間が!) ありがとう、サクヤ」

 サクヤヒメ自らの酌で、両腕に挟まれた彼女の豊かな双乳が作り出す深き谷間に目が行く忠夫。

 そんな彼に苦笑しながら、手に持った銚子から彼が差し出すお猪口に酒を注ぐ。

 (今はまだ、無病息災をもたらす神酒しかあげられませんけど、いつかは……姉さまに手伝ってもらって造ることが出来る変若水(おちみず)を、授けられますよう望みますよ)

 注いで貰った酒を一気に飲み乾す忠夫を見ながら、サクヤヒメは将来に想いを馳せる。


 サクヤヒメが言う変若水は、日本の三貴神の一柱で月の神である月読命(ツクヨミノミコト)が飲む不老不死の神酒とは違う。――残り二柱は、太陽神である天照大神(アマテラスノオオミカミ)と海の神である素盞嗚尊(スサノオノミコト)だ――

 あちらは普通の人間が飲むと際限無く若返り、終には死に至るという人間にとっては恐ろしい酒だ。神々の生きる年数に合わせた若返りを強制されるのだから、人間に耐えられる物ではない。

 一方、サクヤヒメとイワナガヒメが共同で造る酒には、飲んだ者の最盛期まで若返らせてその状態を維持する効能があり、こちらは紛う事無く人間にとっては不老長寿の酒だった。

 なぜ彼女らが、そんな神酒を造る事ができるのか?

 それは、酒の神であり、日本の山々の神を統べるオオヤマツミノカミを父に持つイワナガヒメが、何ゆえ酒の神と祀られないのかという理由と重なる。

 イワナガヒメが司るのは、天津神のニニギノミコトでさえ逆らえない寿命の概念。

 その寿命を司る女神が造る神酒は、飲むと人間としては必ず死ぬ必死の酒となり、寿命から解き放たれる不死の酒となって一柱の神を生む。

 だからこそ、イワナガヒメは父神から酒造を禁じられた。

 この酒造秘術を、豊芦原中津国(トヨアシハラノナカツクニ)――今の日本列島――に降りてきた天津神たちに、知られないようにする為に。

 なぜなら、ニニギノミコトに付き従う形で降りてきた数々の天津神は、無限の寿命を強制的に有限にされていたからだ。
 それがゆえに彼ら元天津神の行政執行官達は、オオヤマツミノカミに長寿を約束されたニニギノミコトに嫉妬し、寿命を司るイワナガヒメを謀略によって遠ざけた。――謀略者たちは、イワナガヒメの武力により謀殺はできなかったし、醜女(しこめ)と思っていたので娶る気も起きなかったらしい――

 そんな奴らに不老長寿の神酒が知られれば、嫁いだ娘を返されるという恥をかかされたのに更に不快な思いをすると、サクヤヒメとイワナガヒメの父神は考えた。

 これが、イワナガヒメが酒の神として祀られていない真相だ。

 そして、姉妹が協力して造った神酒は、咲き誇る花をそのまま維持する神酒として造られる。また、サクヤヒメは人の祖としての神でもあるので、転じて、人間にとっては不老長寿の神酒となるのだ。

 この神酒の欠点は、定期的に飲まないといけないことだけ。

 飲むのを止めれば、そこから本来の寿命が普通に加齢されて、来世へと転生できる。ただそれだけだ。

 権力者にとっては夢のような酒だが、幸いなことに神話の時代にイワナガヒメが身罷(みまか)ってからは造られることはなく、歴史の表と裏共に知られる事は無かった。

 閑話休題


 (あー、自分で言ってて思いだしたわ。お酒のことに関して、サクヤヒメに敵うわけないじゃない。
 むー、この霊酒。サクヤ相手に効くかなー? 酒造元は中国なんだけど……)

 忠夫に、サクヤヒメの別名を説明していてその事に気付いた令子だったが、いまさら気にしても遅いということでそのまま流すことにした。

 サクヤヒメに効かなくても他の者には効くことだし、効き目を高める為に大量の除霊道具を運ばせて小竜姫を弱らせたりもしたのだから。

 効能としては本音を喋る事を手助けする程度の霊酒だが、神仙を対象としているから人間には自白剤となってしまうけれどもと、考える令子。

 ちなみにこの霊酒。出所は、さるお山のゲーム猿が最新のゲーム機種と交換したものだったり。――どうしても、○−B○Xが欲しかったらしい――


 (令子殿の持ってきたお酒は、大陸の物でしょうか? これはこれで美味しいですね。
 心語りの呪が混じっているようですが、お酒本来の効能を高めているだけのようですし。
 んー、身体に害も無いようですから消すこともないでしょう。
 引っ込み思案な方々には助けとなりましょうし)

 令子の心配とは裏腹に、サクヤヒメは霊酒の効能を知りながらも霊酒の味を楽しむことにしたようだ。

 チラリと小竜姫に一瞬だけ視線を向けた彼女は、クイッとお猪口を傾けて霊酒を飲み干し、ほぉ〜と艶やかに溜め息を吐いていた。


 「(うーむ。サクヤの酔い乱れた姿を見たかったんだが、無理かー)っと、ちょっと飲みすぎた。すまん、サクヤ。トイレって、どこだ?」

 サクヤヒメの手ずからの酌から上機嫌で飲んでいた忠夫は、返杯で同じくらい飲んだはずなのに軽く酔っただけの彼女の様子に、酔い潰すことを諦める。

 元々アルコールが苦手の忠夫は、このままでは自分だけが潰れてしまうと考え、少し酔いを醒ますことにしたようだ。

 サクヤヒメからトイレの場所を教えてもらうと、忠夫は宴会の場から出て行った。

 その彼の左手首には、いつの間にやら朱色のバンダナが巻かれていた。けれど、その事に気付いた者は居なかった。

 令子は、忠夫がトイレに行った事で全員の意識がそっちに向かった隙に、全員の様子を素早く探った。

 シロは早くも赤い顔になっているところから、酒には弱いようだ。けれど、霊酒を飲み干した後はお神酒の味が気に入ったのか、ペースも考えずにパカパカ飲んでいる。
 潰れるのも時間の問題だろう。

 対してタマモは、お猪口でチビチビと舐める様に飲んでいた。目元が赤いところからして、こちらも酒にそれほど強くはないようだ。
 傾国の美女としての片鱗は見せつつも、華開くには今少しの時間が必要らしい。
 それでも、今のままでも男を惑わす小悪魔には違いない。唯一人を想う彼女に、その気が無いのが幸いである。

 (シロは自分のペースが判ってないようね? これは早めに仕掛けないと、潰れるのが先だわ)

 シロの予想外の飲みっぷりに、令子は多少焦りを覚える。潰れられたら本音を引き出すも何もあったものじゃない。

 まぁ、シロに関しては裏表の無い性格からしてその答えが予想できるとしても、本人が言ったという自覚が有ると無いとではコントロールのし易さが違う。

 (ヒャクメは、なーんかさっきから挙動不審なのよね。変に明るかったりするし。
 文珠<外>による読心外しも、彼女に気付かれたら効かないからなー。
 でも小竜姫に、この霊酒をもう少し飲ませておきたいのよね)

 特定の能力者から、その能力を使う対象にならないように認識を外す。ただそれだけを文珠<外>に念を篭めて、発動させていた令子。

 令子は、ヒャクメが読心能力を彼女に対して使う気を無意識に起こさないように、仕向けていたようだ。

 補充の当てが出来たことで、文珠を使うことに躊躇いが無くなったらしい。

 (ヒャクメと小竜姫、どっちから攻めるか……。小竜姫に霊酒を飲ませつつ、ヒャクメを誘導尋問?
 でも、シロが潰れそうなのよね……)

 ちらりとシロを見ると、あれだけパカパカ飲んでいたお神酒を置いて、今はタマモに泣きついている。どうやら彼女は泣き上戸らしい。

 タマモはハァ〜と、溜息を吐きながらも適当に相槌を打っている。その彼女が、一瞬だけこちらに視線を向けてきた。

 「ん? タマモ、飲んでる? シロは……処置無しね。酔っ払いの相手はごめんだから、適当にあしらって忠夫に押し付けると良いわよ」

 下手に視線を切らずに令子は気の無い風を装って、酔っ払ったシロを忠夫に押し付けることを提案した。

 「ん……考えておく。最悪、幻術掛ければ良いし」

 タマモは令子の薦めに気の無い返事を返して、シロの介抱を続ける。

 そんなタマモを見て、令子は苦笑する。今のタマモには、宿六は素直に頼れる相手じゃない事を知っているから。

 けれど、宿六ならなんだかんだと言いながらも、頼まれれば介抱するだろうことも確信していた。

 深酒をした時に、令子自身がお世話になっているからお墨付きである。

 ただ、令子にとっては不思議に思うことがあった。

 それは、介抱する忠夫がいたずらで軽い愛撫をするくらいはするが、一度たりとて泥酔した自分を襲った事が無いことだ。

 気恥ずかしい類の質問なので問い質した事は無いけれど、令子にとってはふとした時に思い浮かべる疑問だった。普段の生活では、気にもならないのに。

 (ま、いいわ。それよりも小竜姫よ。って、あれ? 彼女、どこいった?)

 タマモに注意を向けていた間に、いつの間にか小竜姫が広間のどこにもいなくなっていた。

 「ねぇ、ヒャクメ。小竜姫はどこ行ったのよ?」

 「小竜姫ぃー? んふふふぅー。 あの娘ねぇー、照れまくって逃げちゃったのねー」

 令子の質問に、頬をかなり赤く染めて酔っ払ったヒャクメが、広間の入り口を指して答えた。何が楽しいのか、時折ケタケタと笑っている。

 「はぁ? 逃げた? あんた、彼女に何を言ったのよ?」

 「んふふふー、実はですねー。
 くふふふ。私ねー、すっごい嬉しい事があったのねー。
 それを話してあげたら、顔を真っ赤にして飛び出して行ったのねー」

 霊酒の効果がしこたま現れているらしいヒャクメは、酔いによって増幅された歓喜に流されるままに令子に話してやる。

 小竜姫に話したという、彼女が嬉しかった“忠夫への告白。受け入れてもらえた歓喜”を。

 「ほっほーぅ? 儀式にかこつけてねー」

 ヒャクメがおかしかった理由を、彼女から話してくれた事で訊く手間が省けたと思う令子。

 彼女のコメカミには怒りの血管が浮き上がり、口の端はヒクヒクと痙攣していて噴火寸前なのが恐ろしい。

 「もう、本当に嬉しかったのねー。
 初めて…本当に初めて男性に、自分のありのままを受け入れてもらえたのねー」

 「へ、へぇ?」

 令子は、酔っ払いは語った者勝ちというのを忘れていた。

 これでは素面(シラフ)の彼女が圧倒的に不利だ。現に令子は、ヒャクメの勢いに呑まれかけていた。

 ただでさえ令子は、恋愛面の話は結婚した事で多少慣れたとはいえ未だ苦手なのに、この覗き見の酔っ払いは、堰を切ったかのように怒涛のように喋り捲り始めたのだから。

 「忠夫様にギュッって抱きしめられた時、すっごく安心できて温かかったのね。あんなに心と体が芯から濡れたのって初めてなのね。
 でも、でもね。そんな温かさを貰えたのに、私は忠夫様のアレが恐くて受け入れる事が出来なかったのね。
 美神さんから相談を持ち掛けられた時は、貴女のその時の感情や感覚も私に流れてきて、羨ましく思ったのね。そして尊敬したの。
 自分の全てを使って、忠夫様を喜ばす事の出来る令子さんには敵わないって。
 私は、忠夫様から安らぎと温もりを貰ったのにぃ。ありのままの私を受け入れて貰えたのにぃ。 う うぅ 私は恐くて受け入れる事が出来なかったのねー! うわーーーーん!!」

 とうとうヒャクメは、畳に突っ伏して泣き出してしまった。

 (あーもうっ! これじゃ、怒るに怒れないじゃない!!)

 令子は泣き出したヒャクメをドツク事も出来ず、さりとて突き放す事も出来ず進退窮まった。

 (こっちも飲まないと、シラフで答えるなんてやってられっかー!)

 彼女は思わず、手に持っていた大徳利の霊酒をコップに傾けて一気に3杯、呷(あお)る。

 ふぅーーーーと、息を吐くと令子はヒャクメの肩に手を置いて引き起こし、まっすぐに彼女の目を見て話しだした。

 「アイツのモノを受け入れるのは、そりゃ恐いわよ。女なら誰だってそう思うわ。
 アイツのデカさに壊されるんじゃないかって思う時は、私にも何度もあったわ(最初はそうでもなかったのに、年をおう毎におっきくなったのよねぇ)」

 「う うぅ え ぅえ えっ れ 令子さんも? で でもぉ えく 貴女はちゃんと へく 受け止めきれているのねぇ。
 でも私はー!」

 「ああああ 泣くんじゃないっ! あいつの究極の霊能ってなに!? 思い出しなさい、ヒャクメっ!」

 目の前で大声で泣くヒャクメを怒鳴ってから、令子はヒャクメに思い出させてやる。宿六が何を使う霊能力者なのかを。

 これも、策士策に溺れると言うのだろうか?

 令子は図らずも、忠夫が持つアレを相手に、女はどうしたら受け入れられるのか? 経験者として、そんな事を語る羽目に陥っていた。

 そんな状態なので、令子はヒャクメが彼女を名前で呼んでいる事にも気付けていない。


 さてその頃、広間から逃げたとヒャクメに思われていた小竜姫はというと。

 令子が持ってきた霊酒がバッチリと効いていて、ヒャクメの話すことに居た堪れなくなって忠夫を追いかけていた。

 (ヒャクメが受け入れられたなら私だって……)

 心に湧きあがる、忠夫への思慕とヒャクメへの嫉妬に突き動かされて。

 令子は人間相手の効能で誤解していたのだ。彼女が斉天大聖老師から貰った霊酒本来の効能を。

 それは、正しい対象である神族や神仙が飲むと、心にひた隠しにしていた想いを曝け出すというもの。

 この霊酒は自白を促す酒ならぬ、あらゆる感情に伴う告白を促す酒だったのである。

 とある神仙が、惚れた女仙に200年も想いを打ち明けられなかった事を打開する為にと造ったのが、この霊酒。

 結果はフラれたけれど、彼の弟子であった女仙が師を想って使い、見事成就した霊酒なのだ。

 だからサクヤヒメは、そういう謂われは知らなくともこの霊酒の効能に気づいて消さなかったのである。彼女とて令子と同様に、女性陣の本音が知りたかったのだから。

 閑話休題(それはさておき)


 ほどなくして、小竜姫は忠夫を見つけていた。

 忠夫は、夜の帳が下りた境内に通じる欄干に腰を預けて、佇んでいた。

 小さな明かりが廊下を照らしているので歩く事に支障は無いけれど、虫の声も無くどこか物悲しい雰囲気が、その場にはたゆたっていた。

 (横島さん、厠に行ったのではなかったの? 何をなさっているんでしょう?)

 とっさに隠行を行って壁に隠れた小竜姫は、そっとしゃがんで彼を覗き見る。

 (あら? そういえば、心眼がいつの間にかバンダナになっていますね。何かを話されているんでしょうか?)

 欄干に腰を軽く預けて座っている忠夫は、天井を見上げるようにして心眼と話しているようで、小さな声が小竜姫のところまで漏れ聞こえていた。

 多分彼は、念話に慣れていないのだろう。だから声に出ているのだと、小竜姫は思った。

 と、そこで彼女は気付く。

 (こ これって盗み聞きっ。
 ああ、でもでも。何を話されているのか、気になります)

 漏れ聞こえてくる声に、理性は立ち去る事を声高に主張しているのだが、いかんせん今の彼女は酔っ払いだ。その理性の声は、彼女の心に届いていない。

 しかも、神族や神仙にとっては本音を引き出すという、霊酒の効能が現れている状態でもあった。なぜなら令子によって、霊酒の効き目を強くする為に彼女の竜気が消耗させられていたせいで。

 そんな事は知らない小竜姫は、心の向くままに耳をそばだてる。

 漏れ聞こえてくる忠夫の声から想像するに、彼は心眼と、もう一つの枝世界の事や融合したこの枝世界の横島さんの事を話しているもよう。

 (やはり、少し雰囲気が大人びています。それに昼間の戦いでは、今まで見られなかった確かな武の研鑽が見受けられました。
 今の横島さんは、あの時の……南極決戦に赴く時よりも成長なさっていたのですね)

 記憶を引き継いだ小竜姫は、枝世界融合前の二つの記憶を照らし合わせ、二つの枝世界の横島という人間を比較していた。

 片や令子の良人の横島は、落ち着いた雰囲気の中にやんちゃさを同居させ、親しみが持ちやすく頼り易い。

 片やおキヌちゃん達の良人の横島は、賑やかな明るさの中に落ち着きが見えてきて、手の掛かる弟が頼りがいのある男に成長して嬉しいという風に。

 (私、あの方に抱いて頂いたんですよね。今はもう消滅して無い、あの世界で……)

 消滅して今はもう無い枝世界の記憶を反芻し、頬を染めて身悶える小竜姫。

 彼女の右手は、そろそろと無意識に自分の胸に伸びていく。

 「ん? どうした、心眼?
 はぁ? 小竜姫さまが近くに居るって?」

 不意に聞こえた忠夫の声に、小竜姫の身体はビクリと跳ねた。胸に伸びていた右手は、驚きのあまりに心臓を押さえるように当てられている。

 (心眼に気付かれるとは!? サクヤ様の依代移しの儀式で、能力が上がっているのかしら?)

 心を落ち着かせるように、ゆっくりとした深い深呼吸を繰り返しながら小竜姫はそっと立ち上がった。

 (心眼に気付かれたのなら、出て行かないと不自然ですね。けど……)

 「あ、小竜姫さま。
 小竜姫さまも、風に当たりに来たんですか?」

 小竜姫が出ようか戻ろうかと逡巡している間に、忠夫は心眼の導きで彼女を見つけて声を掛けてきた。

 「あ、はい。ヒャクメにちょっと飲まされまして」

 見つかっては仕方が無いと小竜姫は諦め、ここに来た理由をヒャクメのせいにして答える。

 「なるほど。俺もちょっと飲み過ぎましてね。ここで心眼と話していたんですよ」

 忠夫は屈託無く笑いながら、バンダナとなって自分の額に居る心眼を指差す。

 「ごめんなさい、私はお邪魔だったようですね。私は別の所で風に当たるとします」

 盗み聞きをしていた事を気付かれていない事にホッとしながらも、小竜姫は彼らの久しぶりの語らいを邪魔してしまったという感じで踵を返した。

 けれど彼女の内心は違っていた。

 (戻ろう。今の私では、何を言うか解らない。何を言ってあげれば良いのかわか…らな…い……)

 これも、小竜姫の偽らざる本心。

 彼女の胸の内には忠夫に対する愛しいという想いと、彼の才能を見出したのになんの役にも立てなかったという悔恨の想いが渦巻いていて、いざ二人きりになると悔恨の念が強くなってしまうらしい。

 これが彼を想う令子にシロやタマモとおキヌちゃんらの誰かが居れば、忠夫を愛しいと想う気持ちの方が高まるのだけれど。

 「小竜姫さまっ」

 忠夫の呼び止めに、ビクッと小竜姫の身体が強張る。立ち去りたいと思うのに、金縛りにあったかのように彼女の足は動かない。

 宴会の広間に戻ろうとした一歩が、彼の声を聴いてからは踏み出せなくなっていた。

 「俺達のことなら気にしないで下さい。それより、小竜姫さまも一緒に風に当たりましょう?」

 忠夫の誘いの言葉に、小竜姫の心に歓喜が走る。けれど、まだ悔恨の念が強くて振り向けない。

 「ぅわ…私はっ、ちょっと妙神山に行かなくてはなりません。そ…そうっ、老師に報告に行かないとっ(わ 私、何を言ってるんでしょう!?)」

 小竜姫は声を上擦らせながら、なんとかとっさに思いついた理由を言う。けれど支離滅裂な理由に、彼女自身が落ち込む。

 「今からですか? それって明日じゃダメですか?」

 小竜姫の突然の言葉に、忠夫は面食らいながらも先延ばしを提案した。

 彼は、今の状態の彼女を放っておく事は、何か良くないことに繋がると直感したからだ。

 「えっ あっ そのっ」

 とっさに出てしまった言い訳な為に、うまく言葉が出てこない。あたふたしながら小竜姫は、彼女にしては珍しく口籠る。

 本当は今すぐに妙神山に行く必要は無いし、老師からは逆に彼の護衛を命令されているし、先延ばしにする理由も思いつかないし、という理由で。

 そんな彼女の態度に何を考えたのか、忠夫は。

 「じゃあ行く前に、ホンの少しだけ時間を下さい」

 小竜姫との僅かな距離を足音もさせずに詰めて、彼女を後ろから抱きすくめたのだ。

 いきなり後ろから抱きすくめられた小竜姫は身体が硬直していた事もあって、すぐには忠夫を振り解けなかった。

 いや、振り解くという行動が、頭に思い浮かぶことすらなかった。

 衣越しの背中に彼の体温を、両の胸に彼の手の平の温かさを感じているというのに、彼女には横島を振り解く気力さえ無く、ただ身体を震わせ続けている。

 (やっべー、とっさに抱きすくめちまったよ。それもなんか寂しそうに見えたもんだからなんだが、身長差がちょっとあり過ぎた。
 下乳を持ち上げる感じになるはずが、その物ズバリを掴んじまった。ってか、妙神山でも思ってたが、身長に騙されてたよな。
 手の平から余ってるっ! ほよほよでふにゅふにゅだ!! くぅー、揉みこみてぇ!!
 ああ、でも今の小竜姫さまにはダメだぁ!!)

 思わぬ展開に忠夫は懊悩しながらも静かに煩悩を高めながら、それを表に出さずに軽く抱きしめる力を増すだけに留める。

 だけど、身体が微妙に震えるのは抑えられないらしく、添えているにしてはしっかりと、掴むというにはほど遠い力加減で支えられて、小竜姫の胸はその微振動にほよほよゆやゆやと揺れる。

 「あ…あの、横島さん?」

 小竜姫は混乱したまま、自分を抱きしめる忠夫に呼びかけた。

 ただ、彼に抱きしめられていると、自分の身体の反応に小竜姫は戸惑いを隠せない。

 彼女の身体の奥の最も大事な所が静かに熱を孕み始め、滾々と増し続けるのを感じてもいたから。

 (くっ……。そういやドタバタしてて忘れていたけど、俺……会えたんだよな。
 もう二度と会えないと思っていた小竜姫さまに)

 「少し、俺の話を……聞いて下さい。
 また…また貴女に会えて良かった……。もう、生きて再び会えるとは思ってなかったから。
 こうして会えるのは、俺の夢の中だけと思っていた。
 そんな貴女にこうして会えて……すみません、思わず抱きしめちまいました。もう…もうしばらく、小竜姫さまを感じさせて下さい……」

 小竜姫の髪に顔を少し埋めて彼女の匂いを嗅ぎながら、涙を堪(こら)えたような声音で忠夫は言う。

 彼としてもあの南極決戦の時から、もう生きている内には二度と会えないと思っていた小竜姫に会えて、涙が出そうになるほど嬉しかった。

 けれど、その喜びを妙神山では出せなかった。枝世界融合や令子を助ける事が出来た安堵と、その後の令子とは夫婦では無くなったという驚愕の事実に振り回されていたから。

 けれど今、寂しそうな彼女の背中を見てしまって、忠夫は止まれなかった。

 こうして抱きしめて彼女の体温を感じている今でさえ、夢ではないだろうかと思えて泣けてくるのを堪えるのが精一杯。

 それでも彼の本能は、理性に押さえ込まれながらも小竜姫の柔らかな乳房を包み込んで、微振動させることだけはやっているけれども。

 「……わかり…ました。あの南極決戦以来……ですものね」

 彼の両手の上に自分の両手を置いて、小竜姫は強張っていた身体の力を抜いた。

 横島が震えているのを、この再会で嗚咽を堪えているからだと思った小竜姫は、自分との再会にここまで喜んでくれていると嬉しくなって、先ほど感じていた寂しさの反動もあり彼に身を預ける。

 身体の強張りを緩めた事によって、小竜姫の身体の奥から湧き出る熱は、少しずつ大きくなってきていた。

 それに加えて、乳房の先端に横島の震えが伝わってくる為に、ブラ代わりにしたバスタオルのタオル地が微妙に擦れて、こそばゆいようなむずがゆいようなもどかしさを感じる小竜姫。

 (あったかい……。横島さんに抱きしめられていると、あったかいです。
あ……ぅん。
 もっと…もっとこのあったかさを感じていたい……)

 スイッチが微妙に入りかけているのか、彼女の頬には朱が差してきていた。

 無意識の熱い吐息が、紅を差さずとも可愛らしく瑞々しいその唇の間から漏れ、微かに緩慢な動きでフトモモを擦り合わせ始める。

 「んぅ…はぁ……んっ」

 「しょ、小竜姫さま?」

 「んぁ…? ぁ…はい、なんでしょう? ハァ…ふぅんっ……」

 「あ…いえ、大丈夫ですか?(なんだ? すげー艶(いろ)っぽいぞっ。スイッチが入った令子みたいだ)」

 突然身悶え始めた小竜姫に驚いて、思わず声を掛ける忠夫。しかし、振り向いて見上げてくる彼女の濡れた瞳に、ゾクッと来るものを感じて彼は狼狽する。

 忠夫は気付いていないが、彼の両手は幽かな霊波を放っているではないか。

 小竜姫の媚態は、どうやら彼の霊波が彼女の敏感な部分に作用した為らしい。

 「ふぁっ……えぇ、だいじょうぶですよ。なんだか…んぅ…ふ、ふわふわしていますけど、らいじょうぶれす」

 なんだか少し、小竜姫の言葉使いがおかしい。まるで酔っ払いのような言葉使いだった。

 (あ、そういや風に当たりに来たって言ってたな)

 そこで彼は気付く。お互いに酒を飲んで、酔い覚ましにここに風に当たりに来ていたという事を。

 「老師への報告って、急ぐ事はないんでしょう? 少し休んでからじゃダメですか?(やべ、いろっぽすぎるっ。これ以上は、俺の理性が保たねぇ)」

 「ひっ……」  ぷるぷるぷるぷる

 「え?(まさか、これって……軽くイッた?)」

 いきなり硬直したかと思うと、背伸びするように後ろに仰け反りながら小刻みに震えだす小竜姫に、忠夫はびっくりした。

 ややあって、力が抜けたのか膝がカクっと折れた小竜姫の身体を、思わず胸をわし掴んで支える。

 「んふぅっ! あ やっ ふぁぁあああ!」

 ビクビクと身体の震えが止まらない上に、感覚が鋭敏になっていた小竜姫は、胸を強く握りこまれた事によって更に絶頂の階段を昇る。

 (あかん、もう限界や)

 プツっと、何かが切れる音がした。

 「しょ 小竜姫さまぁ〜〜〜!」

 ジャケットやスラックスをポポーンと脱ぎ捨て、トランクス一丁になった忠夫は、腰が抜けたように座り込んでしまった小竜姫に飛び掛ろうとした。

 サクッ

 直後、そんな音が忠夫の額から聞こえた。

 『やめんかバカ者』

 そんな声が、忠夫の額を割った神剣からしたと思った瞬間、淡い光に包まれた巫女装束姿の女の子が、ふわりと音も無く廊下に降り立つ。

 「ほぁ〜〜〜〜!!」

 とたんに忠夫の額からは、ぴゅぴゅーーといった感じに血が噴水のように噴きだした。

 そんな忠夫を無視して、心眼は身体から閃光を発して大人Ver.にすると、へたり込んだ小竜姫に肩を貸して立ち上がらせた。

 「無防備過ぎですぞ、小竜姫様。今のは、主に襲われても文句は言えませんぞ?」

 「はぁ はぁ し 心眼。私はそれでも良かったのです。横島さんが私を望まれるなら、それでも……」

 心眼の肩を借りながら立つ小竜姫は、しかし、小声ながらも彼女の忠告に弱々しく抗う。

 (これはどういうことだ? 酔っておられるとはいえ、この物言いは尋常ではない。
 ふむ……美神に訊いてみるか)

 「小竜姫様。一度、広間へ戻りましょう」

 心眼は小竜姫の尋常じゃない様子に、このままではまずいと感じて声を掛け、彼女が歩くのを助けながら皆がいる広間へと歩きだす。

 「わた 私は 横島さんに 償わ  なければ」

 ぽつりぽつりと、心眼に肩を貸された小竜姫は小さな声で零す。けれどそれは、酔いが回って意識が混濁しての言葉らしい。

 そう感じた心眼は、ゆっくりとした歩調で広間へと戻っていった。


 後には、未だ額から血を噴出す忠夫が、壁に背を預けて虚ろな目で月を見上げていた。

 (心眼に止めてもらって助かったが、シリアス気味だっただけに治りが遅ぇなぁ……)

 「へくしっ!」

 彼の復活には、まだ少し時間が掛かりそうである。


  続く


 こんにちは、月夜です。想い託す可能性へ 〜 さんじゅうご 〜を、お届け致します。
 仕事を休職して余った時間は寝込んでいるか、ぼーっとしているかが未だ続いています。ご心配お掛けしてます。物語を書くのが嫌にはなっていませんが、無気力で日々過ごしています。
 気分が盛り上がった時に書いて、とりあえず書きあがりました。今回のお話、小竜姫様は悪いお酒になってしまい、泥酔状態みたいになってしまいました。
 次話では、小竜姫様に溜め込んだ想いを吐き出してもらおうと考えています。
 また、イワナガヒメの酒造秘術や変若水については、拙作独自の設定です。

 ちなみにオオヤマツミノカミは、イザナギノミコト・イザナミノミコトの息子神に当たります。そして、コノハナノサクヤヒメは孫神に当たる事になります。
 けれど、豊芦原中津国(地上世界)で生まれた神様は全て国津神となりますので、サクヤヒメは国津神となります。そして国津神は魔の性を少なからず持つので、サクヤヒメは神性と魔性を併せ持つ神となります。
 ニニギノミコトは高天原(日本の神界)で生まれましたので天津神であり、天照大神の孫に当たる事になります。
 イザナギ・イザナミから見ると、孫(サクヤヒメ)とひ孫(ニニギ)が結婚した事になりますね。

 また、イザナミノミコトはホノカグツチが生まれた時の火傷が元で身罷り、根の国(死者の国)に行きました。けれど、この時はまだ根の国の女王にはなっていません。
 女王になってしまったのは、イザナギが迎えに来て地上に連れ帰る時に振り向かないでとの約束をイザナギが破って、彼女の醜い姿を見て逃げてしまったからです。
 この時から天津神と国津神の対立が始まります。天津神はイザナギに、国津神はイザナミの味方となっていきます。
 以上が、日本神話の簡単な説明です。多少の参考になればと思います。

 では、レス返しです。

 〜ソウシさま〜
 いつもご感想を書いて頂いて、有難うございます。今回は本当に励みになりました。
>ちゃんと更新……
 ご心配をお掛けします。定期的な更新はちょっとお約束できませんが、更新は続けます。その時は読んで頂けたら幸いです。
>なにげにヒャクメゲット?
 令子さん達の前でシリアスに想いを打ち明けても、ヒャクメの軽い性格から忠夫に本気に取って貰えないと思い、ああいう告白になりました^^
 忠夫的にはヒャクメゲットです。ヒャクメが美味しく頂かれるのは、いつになるか解りませんが(笑)
>横島は文珠ができなくても宝珠?
 人間相手では、お互いの魂から昂らない限り一つも作る事が出来ません(^^ゞ 神族や魔族にとっては、自前でなんとでも出来るので、横島が必要になることは無いと思います。 
>しかし黒とか魔って……
 サクヤヒメは国津神ですから、魔性も魔族並に持っています。ただ日本では、魔性を持つ存在でさえ神になれる風土があります。この風土の欠点は、信仰が無くなれば神でさえ妖怪や魔に変じてしまう事ですけど。
 この魔性のおかげで、ルシオラ復活に必要な魔力が得られます。
>高らんくの神剣に……
 元々の神剣にサクヤヒメとイワナガヒメの神気が篭められ、ヒャクメの神気に心眼が反応してランクが上がっています。しかも心眼の大本は天龍の龍珠なので、結構な神格を有した神剣になってしまいました(^^ゞ
>次が楽しみですが今はごゆるりと・・・
 お待たせせずにお届けできたので、ホッとしています。アイデアはちょろちょろと書いていますが、それを纏め上げる気力が湧かなくて……。36話も大まかには出来ているんですけど、いつ出せるかどうか。
 今回のお話が、楽しまれるものでありますように。


 〜星の影さま〜
 いつも感想を書いて頂き、有難うございます。今回は本当に励みになりました。
>エロなのに伏線が多く含まれて……
 本来本編として考えていたエピソードだったもので、エロに特化する事が出来ませんでした。エロの方も、結局は本番してませんし(^^ゞ
>おキヌの横島と美神の横島では違う……
 私の書く横島たちは、美神令子という重圧に真正面から実績を積み上げて、彼女と精神的に対等に成れた忠夫。
 おキヌちゃん達の支援を受けながら、美神令子と対等に成る為の手段として、堀を埋めるように実績を積む原作後の横島と位置付けています。
 んで、横島の如意棒は、精神的に対等か対等でないかで大きさも変わっているんですよ。自分を信用できなかった彼が、令子さんに認められるようになって自信を付けていった表れです(笑)
>解釈的には永久の巫女……
 イワナガヒメとサクヤヒメは女神そのものですけど、本質はその通りです。
>天叢雲剣がありますね……
 ヤマタノオロチの尻尾から出てきた神剣ですね。後にヤマトタケルが火攻めにあった時に草を薙ぎ払い脱出できた事で、草薙の剣と名を変えましたけど。それらの剣と鎬を削った時に折れない程度には、神剣としての格を持ったようです。
>サクヤヒメって天津の人じゃないですよね、確か。
 後書きで、さわり程度に日本神話のあらましを載せています。ご参考になれば幸いです。
 サクヤヒメはイザナギ・イザナミから見れば孫神に当たりますが、豊芦原中津国で生まれましたので、国津神となります。また、天の岩戸神話の後の時代でもありますので、豊芦原中津国は一度魔性に支配されていますので、国津神の全ては魔性を孕んでいます。
>スランプは……
 ご心配をお掛けしました。アイデアは出るのに、それを纏め上げる気力が湧かない状態でした。今回投稿できましたのは、半分ほど書き上げた状態だったのが救いでした。
 今回のお話が、楽しまれるものでありますように。


 〜読石さま〜
 いつもご感想を書いて頂き、有難うございます。今回は本当に励みになりました。
>今回はグッドエロス!
 自分的には本番も無いし、ぬるいかもと思っていましたので褒めて頂いて嬉しいです。ヒャクメの真剣さと、女華姫の初心さが伝わったようで何よりでした。
>神剣化した心眼……
 元々の神剣としての格もありますが、今は人間とはいえニニギノミコトの魂からの霊力が篭められた上に、その霊力に親和性の高いサクヤヒメとイワナガヒメの神気によって強化されています。そしてヒャクメの神気はその特性上、心眼の強化に繋がります。
 鍛治を得意とする鍛治神や妖精族が関与するのは、この場合邪魔でしかありませんでした。
 あと私の物語では、ヒャクメは鍛治神であるアメノマヒトツノカミの系譜としています。鍛治は出来ませんけどね(^^ゞ
>矢張り、義務や強制より、愛情込めた仕事が一番?
 その通りです♪
>スランプやストレスが溜まってる時は……
 ご心配をお掛けしました。仕事を忘れる為にも、気分転換にアイデアを書きなぐっています^^ 纏め上げる気力が湧けば今回のように投稿できるのですが、今の所は浮き沈みが激しいですね。
 今回のお話が、お気に召すものでありますように。


 〜kさま〜
 ご感想を書いて頂いて有難うございます。毎回楽しみということで嬉しい限りです。こう読んで下さっている反応があると、モチベーションが高まります。
>横島君の反応は……
 絶倫という言葉を超えた状態ですから(^^ゞ というのは、本当は正確じゃなかったりします。実は、サクヤヒメがピンポイントの回復を促していたんです。そうじゃないと、忠夫は赤玉による打ち止めになっていた事でしょう(笑)
 また忠夫自身がその気でない為、彼自身の霊力による回復は当てにできませんでしたから。けれど忠夫がその気になれば、無限の煩悩(エロス)によって本当に疲れ知らずになるかも(^^ゞ なんせ二人分の横島の煩悩ですから(フフフ
>マイペースで頑張ってくださいませ
 ご心配をお掛けしてます。今の所、少し回復しております。有難うございます。


 〜いしゅたるさま〜
 いつも感想を書いて頂いて有難うございます。今回は本当に励みになりました。
>一体何回出してるのやらw
 最初の8回は霊力がそんなに篭ってなくて、人間としての標準でした。けれどヒャクメが告白してからは、彼が本気になった事もあり精液に含まれる霊力は天井知らずになりました。
 結果、忠夫は、精も根も尽き果ててしまいました。総回数はヒャクメの分も入れて、20回です(笑)
 もう彼、人間じゃありません>< いくらサクヤヒメにピンポイントで回復させられていたとしても……ねぇ?
>ヒャクメの能力を逆手に取って……
 このアイデアを褒めて頂いて嬉しかったです。人間でさえ、目隠しで焼けてないコテを暗示で焼けているとされたら、現実にその通りになりますから出来ると思いました。
 ヒャクメのエロは本番を残しているので、その時にはより一層彼女は乱れてくれると思っています。
>出来上がった心眼が……
 元々の神剣として格が低かったので、強化して上げました。そうしないと、後々の戦いで折れそうだったので(^^ゞ ただ、忠夫はニニギノミコトの転生体なので、サクヤヒメとイワナガヒメの神気は思いの外親和性が高く、破格の神格を有した神剣になったのは、嬉しい誤算でした。
>横島の『規格外』がまた一つ
 霊波刀はやはり、著しく霊力を消耗する霊能だと思っています。普通の悪霊や妖怪相手だと、そう気にならない程度でしょう。けれど、神族や魔族相手では手に負えません。その為に代わりとなる物を、彼に持たせてあげたかったのです。
>それにしてもスランプですか
 アイデアは出るのに、それを纏め上げる気力が湧かないのは困ったものでした。今回は何とか投稿できましたけど、次がいつになるかは解りません。助言に従い、書く気力が湧くまで待ちます。有難うございました。
 今回のお話が、お気に召すものでありますように。


 〜あらすじキミヒコさま〜
 いつも感想を書いて頂いて、有難うございます。今回は本当に励みになりました。
>今回のお話、『上手い十八禁』だと思いました
 気に入って頂けたようで何よりです。ヒャクメらしいエロってなんだろうと考えていたら、横島の妄想が、彼女にしてみれば現実感を伴ったものになるのでは? という閃きに繋がりました。
 心を読む事が出来る女の子には、心と身体の両方を責めるのが一番だということでしょうか。ヒャクメは総受身になること間違い無しかも(笑)
>月夜さんの作品は……
 最初の頃は、読者に楽しんでもらう事を失念していたが為に、色々と失敗がありましたけど、「両面がよく伝わってきます」と言って頂けて嬉しかったです。
 未だ完全には回復できていませんが、とても励みになりました。有難うございます。
 今回のお話が、お気に召すものでありますように。


 感想を頂けるって、本当に嬉しいものですね。次話の投稿は7月一杯をめどを目指します。
 感想を書いて頂いた皆さん、有難うございました。

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