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「がんばれ、横島君!!うらめんの7」

灯月 (2008-06-23 22:19/2008-06-24 22:55)
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「ちぃ、下がっておれ!」

「ポチちゃん!?」

幼い二人を背に庇い、ポチはその手に霊波刀を生み出す。
その切っ先が向かうのは――

『ぎゃははは、斬るのかぁ? このガキをよぉ?』

醜悪な笑みを浮かべる、シロ。
片手に握られた剃刀が、禍々しく光を反射した。


がんばれ、横島君!! うらめん〜獣よ踊れ、都会の中で〜


その日芦原一家は朝から出かける者が多かった。
まず家長アシュタロスは仕事。
べスパは父の奇行を抑制する為に同行した。

「初めからこうしておけば良かったわ…」

ハニワ兵から硬度自在の――材料不明な――ハリセンを、横島から文珠を受け取った彼女はどこか遠くを見ながら呟いた。
実質この家の支配者である横島は、ルシオラとともに買い物という名のデート。
よもやラヴラヴオーラの実物を見れるとは思わなかった。
テレサはドクターカオスの下へ。

「あの爺さんがどうなろうと構わないけど、私や姉さんが不備を起こしたときに直せる奴がいないのは困るしね。
それに何て言ったっけ? あのザビエルカット…ヌルと何かやりだしてるみたいだし。放っておいたら危ないだろ?
別に心配なんてしてないよ! 勘違いするんじゃないわよ!!」

玄関でわざわざそんな独り言を言ったのは、最近流行りのアレだ。多分。
バスケットの中身がヘルシー嗜好のスープやサラダやサンドウィッチなのは、指摘してはいけない事実。
きっと今日は帰ってこないだろう。
生暖かく見送ったハニワ兵たちは、素直にそう思った。
パイパーは比較的安全な姫ちゃんの傍で日向ぼっこ。
チーズやクッキーを抱えて、ご機嫌な様子でうとうとしている。
ここに来た当初よりふくふくとしてきたが、いわゆる幸せ太りと言うやつか?
姫ちゃんはお気に入りの液体肥料をペットボトルのキャップで飲みながら、優雅に日光浴。
女の子らしく葉っぱの手入れに余念が無い。艶々具合が自慢なのだ。
最近ちょっと大きくなってきたので、新しい鉢が必要かもしれない。
陰念はいまだ横島の母に未練を残し――ママ〜とか呟くのは止めて欲しい――、ぐだぐだしている雪之丞をメドーサにしばき倒して正気に返してもらう為、彼を引っ張って行った。
勘九郎はハンティングと称し嬉々として外出。具体的な内容は聞かない。
もしかしたら止めた方が世界の半分の人々の為かもしれないが、そんな勇気は誰にも無い!
ハニワ兵たちは、朝からちょこまかちょこま元気に働いている。
一部地下室で何かを製作しているようだが、日曜大工的な何かだ。うん。
そして加わったばかりのタマモはといえば――

「タマモちゃ〜ん、お散歩に行きまちゅよー。
この辺の事教えてあげまちゅからね」

仔狐モードでパピリオに捕まっていた。
パピリオくらいなら力尽くでも幻術でも、どうにでもなる。
だが、下手な真似は出来ないのだ!
横島に、怒られるから。
一度うるさく吼えてくるシロと、構ってくるパピリオにうんざりして軽い幻術をかけたのだが。
怒られた。それはもうすっごく。
ここにきた当初に見た横島母のアレよりはマシだが、それでも充分怖かった。
家族に手を出せば、横島が黙っていない。
奴を敵に回すよりは、大人しく子供の相手をしておいた方がマシ。
しっかりきっちり学習した。
この一家の中ではまともな部類に入るポチに視線で助けを求めるも、やはり視線で諦めろと返ってくる。
返答無しを了承と受け取り、パピリオは仔狐と犬二匹を引き連れて、意気揚々と家を出た。


うきうきとした、踊るような足取り。
楽しそうにあっちこっちを指でさす。

「タマモちゃん、あっちが商店街でー向うに大きなデパートがあるんでちゅよ!」

ポチは狼姿でひょこひょこと隣を歩き、その背中にはいつものようにシロが乗っている。
タマモは人間ヴァージョンでパピリオの隣。ほぼ強制。
傍から見れば、仲の良い友達同士。犬の散歩ついでに街を案内しているようにしか見えない。
タマモのつまらなそうな表情もその年齢ゆえに、可愛いとしか表現できない。
面倒だし本当はタマモもポチの上に乗って楽をしたかったのだけれども、そこはシロの壮絶な反対にあって諦めた。
何の変哲も無い住宅街を、それは楽しそうに進んでゆく。

「あ、鬼道ちゃんでちゅー! お久しぶりでちゅねー!!」

道の向うから出くわした人、パピリオは嬉しそうに手を振った。

「ああ、君は確か…横島のとこの、えっとパピリオちゃんやったな」

「はいでちゅ。パピリオちゃんはタマモちゃんに色々教えてあげてるところなんでちゅよ」

胸を張って答えるその隣、タマモは明らかに強い霊力を感じる鬼道に警戒を抱く。
鬼道もタマモが人間ではない事を、自分を警戒している事を悟ったがあえて何も言わず笑いかけた。

「そうか。最近物騒な事件が続いとるから、あんまり遅くならんように帰るんやで?」

人狼がついているのなら、大丈夫やろうけど、とは心の中で。

「? ぶっそーな事件? 何かありまちたか?」

「うん、知らんのかいな。若い女の人ばっかりが殺される事件があるんや。
まだ犯人は捕まってないから、パピリオちゃんたちも気ぃつけるんやで」

「そうでちゅか。わかりまちた! ありがとーございまちゅ!」

頭を下げるパピリオに、鬼道は横島によろしくと告げて、去っていった。
影から現れた夜叉丸も、ぺこりとお辞儀。
どうちまちゅかねーと、パピリオは悩む。
そんな物騒な事件があるなんて知らなかった。TVは好きだが、難しいニュースは見ていない。
空を見上げる。
日はまだ高い。
うーんと悩んで、答えを出した。

「近くにおっきな公園があるんでちゅよ、そこ行ってから帰るでちゅ!」

その言葉にタマモは息を吐いただけだった。
正直早く帰りたい。
人間は嫌いだし、外にいるといつ敵に見付かるか分からない。さっきの人間だって人の良さそうな顔をしていたが、本心はどうだかわからないし。
それでもどこにも行かないのは、パピリオの傍にいた方が安全だから。
そんなタマモの気持ちも知らず、パピリオは彼女の腕をぐいぐい引いて先へ先へと歩いてゆく。
ポチはシロを乗っけたまま、その後を静かについていった。
パピリオの言う公園は、遊具よりも木々と茂みで構成された、遊歩道的な場所。
都会の真ん中、豊かな緑による癒し効果を目的として造られている。
一応ブランコ・滑り台・砂場はあるけれど、それは片隅。ぐねぐねとしたタイルの道が木の間に延びている。
大袈裟に言うほど広くも無いが、ありがちな猫の額程度でもない。
植えられた様々な種類の植物が勝手気ままに生い茂り、外からも内からも見通しが悪いせいで広く思える。そんな公園。
ここに来るまでに警察らしき制服姿の人々が慌しく走り回り、彼らの指揮官たる長髪の男に見覚えのありすぎる男が迫っている光景を目撃したが。
何やってんだ、お前は!?と突っ込みたかったけれど、関係者と思われるのが心底嫌だったので見なかった事に。
最近、スルースキルがひたすら向上しているが、それも気のせいだ。
むしろこれは賢い処世術ってやつだ。うん、そのはずだ!

「人がいないでちゅねー」

がらんとした園内。見回して心なしか残念そうに零す。

「さっきの奴が言ってた事件のせいじゃないの?」

「……嫌な匂いがする。長居せぬ方が良いぞ」

フォローする気は無いが一応言ってみるタマモ。
低く唸りながら、ポチ。
ポチの背で、シロも周囲を窺うように鼻をひくつかせた。

「うーん。じゃ、一周ちてから帰りまちゅか」

仕方が無いと、言いたげに。けれどこの公園を散策するのは決定事項らしい。
意気揚々と歩き出すパピリオ。渋々とついて行くタマモ。
ポチは辺りを警戒し、シロはそんなポチを気にしながらも駆け出したい気持ちを抑えきれないようで、その背中から飛び降りる。
てこてことポチとは比べ物にならない小さな体で先行するシロを、パピリオが慌てて追いかけた。

「駄目でちゅよ、シロちゃん。迷子になったどうするんでちゅか!?」

捕まえようとするパピリオと、その手から器用に逃れるシロ。

「低レベルね」

拙い追いかけっこに、タマモは正直すぎる感想を漏らす。
ふと、はしゃいでいたシロが止まった。
追いかけていたパピリオはその急停止に転びそうになるが、耐え。シロの小さな背中を見詰める。
視線を追えば、前方に人影。にこやかに微笑む女性。
なぜ気付かなかったのだろう。そしていつからいたのだろう。
ヴゥゥッ…背後で、ポチが低く唸る。タマモがそんなポチにしがみ付く。

「あらあら、可愛らしいお嬢ちゃんたちね」

女のその言葉に、悪寒が走るのは何故か?

「寄るな!!」

「シロ、パピリオ! 下がれ!!」

シロが唸り人型を取るのと、ポチがタマモを庇いパピリオの首根っこを咥えて下がらせるのと同時――

ギュイッ!!

風を切る嫌な音。風に乗る鉄の匂い。

「シロちゃん?!」

腕から血を流すシロと斬り付けたまま地に伏す女。
駆け出そうとするパピリオを、けれど止めたのは人の形を取ったポチ。
抗議の視線を向ける子供を、無理やりに自分の背後に隠す。
ゆらり。
シロが立ち上がる。
こちらに向けた背中。立ち昇る禍々しい気配。
女が手にしていた剃刀を奪い、振り向く。
にたり、と笑ったシロの表情。あまりにも違いすぎた。
シロちゃん…弱弱しく、パピリオが呼ぶ。
呼ばれた当の本人は、ただただにやりと笑うだけ。


――妖刀の類か、アレは! 斬られて、乗っ取られたな…未熟者が!!

自身も妖刀を振るった経験があるポチ、いち早くその正体を見抜くものの、シロの体とあって無茶な真似は出来ない。
おそらくアレにも八房と同じく霊力を吸収する性質があるのだろう、一かすりでもすればポチの身も危うい。
なにより背後の二人が危険に曝される。
妖狐と魔族。実体よりも力に重きを置いた性質だ。
もしあんなもので斬られれば、幼い二人の場合それこそ命に関わるのだ。
ポチ本人は否定するだろうが、彼は横島たちを群れの仲間だと無意識に認めている。
だからこそうかつな事は出来ない。
それに操られている為、シロの動きが普段とは比べ物にならないほどいい。
容赦も無く情けも無く。自分が傷付く事など気にもとめない。
本体である剃刀の一撃を、霊波刀でいなして距離を取る。
シロの身を案ずるパピリオは、タマモが邪魔にならないよう茂みの中に連れて行った。

「シロ、貴様はそれでも誇り高き人狼か!? 妖刀如きに簡単に乗っ取られおって!!」

『ヒヒヒヒヒヒ…こいつ自身に訴えかけて自我を取り戻そうってか? 無駄だぜぇ俺の…』

「黙れ! 拙者は本気で情けないだけだ!!」

一喝。繰り出される剣戟は鋭く、それでもシロを思い、躊躇いが含まれる。
幾度かの斬り結び、妖刀がにたと笑う。

『どうしたぁ? そのわりには動きが鈍ってるぜぇ? やっぱりこの餓鬼が大切か』

嘲るそのセリフ、ぎりりと奥歯をかみ締めた。
手段は無い事も無い。
手っ取り早いのは剃刀を握るシロの腕を斬り落としてしまえばいい。
それを躊躇うのはポチ自身。
醜悪な笑みを深めた『シロ』。前触れも無く、だん!と大きく横に跳ぶ。
その跳躍の先、いるのは隠れた少女が二人!
――しまった!!
隙を見せた己を呪い、それでも体は動く。
驚愕のまま硬直する二人を片手で抱きとめ、襲い来る剃刀から庇い立つ。

「ポチちゃん?!」

「ポチ、大丈夫なの!!」

「構うな、大した事はない」

『ヒヒヒヒヒ! 格好いいねぇ? ナイト気取りかぁ。だが…もう、ろくに動けねぇだろ!!』

ポチを気遣う二人の声。勝ち誇る『シロ』の声。
僅かばかり遅れた右足。剃刀が掠った痕。
かすり傷に近いそれは、けれど半分以上霊力を吸い取られた証だった。

「ふん、人狼の力を舐めるな! これしきの事で拙者が負けるとでも?」

口の端で笑う、が子供二人を抱えたままでは、霊波刀を使えない。

「ポチ、降ろして! あたしたちは自分でなんとか出来るから、あんたはあの馬鹿犬をどうにかして!」

「そーでちゅよ! パピリオちゃんは魔族でちゅから自分の身くらい護れまちゅ!!」

腕の中、泣きそうに歪む顔。
しかしタマモは力が完全ではなく、パピリオはそうそう外で力を使っていい身ではない。
それにパピリオは力のコントロールが上手くない。下手をすれば周りまで巻き込まれる。
どうしたものか?
『シロ』を警戒し、腕に子供を抱きしめたままのポチ。
悩み、けれど視線は『シロ』から離さない。
ふいに、『シロ』の顔が歪んだ。
先ほどまでの、邪悪さに満ちた表情ではない。
あれは、シロの顔だ!

「シロ、シロか!?」

「う、うぅ〜…駄目でござるぅ〜! 抱っこしちゃ駄目でござる!!」

「は? 何を言って…?」

『く、この餓鬼ぃ!! 引っ込んでろっ!』

じわりと目の淵に溜まった雫。情けない鼻声。
ぶんぶんと両手を――明らかに攻撃の為で無く――振り回す。
呆気に取られた一瞬、すぐさま妖刀が意識を奪い返したけれど。
あれは間違いなくシロだった。
言葉の意味はよく分からなかった、確かに何かを訴えかけた。
一体何が彼女の意識を取り戻したのか?
ポチとパピリオ分からず、首を傾げ。
けれど、タマモは一人何かを考え、自分の状態を正確に把握して。
ふ〜んと一人大きく頷いた。
例え力の大半を失っても、そこは心理を読む事に長けた九尾の狐。
数日をともに過ごして知ったシロの性格。そして現状。
思い当たった。
というか、それしかない。
――馬鹿犬…。
胸中で呟き、それでもこの厄介な、タマモにとっても好ましくないを事態をどうにかする為に。
彼女は動いた。
ポチに護られた腕の中、意識を集中する。
弱い今の体でも出来る簡単な事。
ぱん!
何かが爆ぜるような音。感覚。

「何だ? 何をした、タマモ」

「タマモちゃん?」

気付いた二人が怪訝な視線を向けるが、タマモは答えない。
ただ一言。
すぐに解るわ、と呟いた。

『ひひひひひひひ、幻術かぁ。だが無意味だぜ、俺にそんなものは効かねぇよ餓鬼ぃ!』

「別に、あんたにかけた訳じゃないわよ!」

哂う『シロ』に、けれどタマモはそっけなく言い返す。
『シロ』がにたにたと剃刀を振り上げ、ポチがその凶刃から二人を庇うよう背後に降ろそうとした。
が、がっしり! タマモがポチの首に抱きついて離れない。

「タ、タマモ!?」

「黙って! このままで!!」

戸惑うポチに、強い口調でタマモ。
その間にも『シロ』は距離を縮めてくる。
振り上げた刃は、振り上げたままで。予想したようには、振り降ろされはしなかった。

『な、なんだぁ! どうして体が動かねぇ!? この餓鬼の意識か!! 馬鹿な、そんな?!』

『シロ』自身も驚愕に歪む。
幻術の矛先は確かにシロ。例えのその体が妖刀に乗っ取られていても、シロの目が映像を捉えている事には変わりない。
それは先ほどの『シロ』がシロに戻った事から考えても間違いない。
賭けではあったが、タマモはその賭けに勝った。
硬直したままの『シロ』に向かい、タマモは嘲った。

「はん、馬鹿犬」

これ見よがしにさらにきつく抱きついて。

「〜〜〜〜〜っ!! 狐ー! 抱きつくなって言ったでござろう!!」

ぶんがぶんがと、シロが滅茶苦茶に剃刀を振り回す。
狙いも何もなくただの駄々っ子の仕草だ。
シロは今完璧に、妖刀の支配から外れている。
その隙を、逃してやるほどポチは間抜けでもなければ馬鹿でもない。

「っは!!」

気迫とともに振るわれた左腕。一瞬の光の軌跡。
砕け散る剃刀。

うぉん!!

続けざまに放たれた咆哮。
神の眷属と言われた狼の血を持つ人狼のそれは、強力な破魔の力を持ち確実に的確にシロの体に篭る悪意を討ち払う!
ぐらりと傾ぐ小さな体。
手からこぼれる剃刀であったもの。

「シロちゃん!?」

見守っていたパピリオが駆け寄る。
ポチが脈を取るが、大丈夫だ。生きている。

「ポチちゃん、シロちゃん大丈夫でちゅか?」

「うむ、問題なかろう」

心配そうに覗き込む少女に、しっかりと頷く。

「ところで、タマモ。先ほどの幻術は一体どのようなものだったのだ?」

「え?! ……気にしないで。大したものじゃないわ」

「いや、しかし……」

「いいから!!」

まだ何か言いたそうなポチを、強い口調で黙らせる。
それきりそっぽを向いたタマモに、ポチも問いかけるのは止めた。
言いたくないのなら無理に聞かなくてもいいだろう。タマモの幻術のおかげで隙が出来たのは事実だし。
ぐったりしたシロを見て、どうしたものかと思案しているポチの耳に、公園の外からけたたましい声。

「ややや! 凄まじい雄たけびらしきものが平和な日中の公園から!?
この白井巡査部長の勘が訴えるコレは怪しい、と! もしや最近この近辺を騒がす連続殺人の犯人か!!」

「まずい、人が来た! しっかり捕まっておれ」

ポチは狼の姿に戻り、すばやくパピリオとタマモを背に乗せると、シロをくわえて駆け出した。
霊力を喰われて力の入らぬ体に鞭を打つ。

「むむ、なにやら面妖な気配が!! ここかぁ!?」

一瞬の差。ポチが木陰に消えた後に警官の姿。
構わず、二人を振り落とさないよう気をつけて、茂みを突っ切り柵を軽々飛び越えて、家に向かって一直線。
背中でパピリオが歓声を上げる。
道行く人に驚かれながらも無事家へと帰りつく事が出来た。
シロをソファに寝かせてやっと一息。

「疲れたでちゅー」

「まったくだわ。だから外なんて行きたくなかったのに」

おまけにあんなくだらない幻術まで。
へたばるパピリオにぶすっとした顔でタマモ。
幻術の内容は言えない。絶対言えない。
まさか――美人で艶っぽくなる予定の――大人モードの自分がポチに絡みついている姿を見せた、などとは。
恥ずかしくって、絶対言えない。
それもこれも全てこの馬鹿犬のせいだ!!
腹いせに暢気に気を失ったままのシロの頬を引っ張ってやる。
起きるかと思ったがう〜んと唸るばかりで、目を覚ます気配はない。

「何をやっておるのだ、お主は」

ポチが呆れた視線をよこすが、放って置いて欲しい。
パピリオはパピリオで丁度帰ってきた横島たちに今日の出来事を話している。

「というわけで、大変だったんでちゅよー」

「パ、パピリオちゃん…大変じゃ済まないよ、それは!」

「そうよ、一歩間違えば死んでたわよ?!」

あ、怒られた。

「ポチがいたから良かったものの、あんまり人気の無い所に行っちゃ駄目だよ?
何かあってからじゃ遅いんだし」

「はいでちゅ、わかったでちゅ」

しょぼんとしつつも、納得して頷いた。
タマモちゃんも気を付けるのよと、ルシオラが優しく叱りつつ、お土産のクッキーをくれる。
ちなみにポチ・シロにはジャーキー。骨付きだ。
仏頂面で受け取るポチ。だがしっかりと尻尾はぱたぱた揺れている。正直だ。
ポチもご苦労様ーと、横島が苦笑交じりに言葉をかける。

「今日はちょっと奮発してご馳走だよ。肉もあるし、お揚げだってあるよ」

「もちろんデザートもあるわよ」

買い物袋片手に笑いあう馬鹿ップル。
突っ込みをいれそうなタマモはしかし、お揚げの一言でそわそわしだして他の言葉は聴いていない。
横島はハニワ兵ととも早速夕飯のしたく。

「んー、今日は陰念たち帰ってこないのかな? 何か聞いていないか?」

「ポー? ポポー」

「ポッポーポーポポー」

「そっか、聞いていないか。用意しといた方がいいかな?
雪と勘九郎はともかく陰念は飯抜きじゃ可哀相だし」

ナチュラルにハニワ兵と会話するのはもはや日常。

「パピリオたちは先にお風呂入りましょうか?」

笑顔で促す姉に素直に頷く妹。
暗黙の了解としてタマモも一緒に入れられる。
本来ならばシロも一緒に入浴するのだが、気を失っている為断念。
タマモ自身は乗り気ではないが逆らえない。
はしゃぐパピリオにやれやれと腰を上げて着替えを取りに行こうとした彼女の耳が騒がしい音を拾った。

「ん?」

「どうしたでちゅか?」

気付いたパピリオに答えるより早く――ばぁん!
玄関から大きな音。
何事?!と、長女が廊下に顔を出す。
ばたばたとリビングに姿を現したのは次女べスパ。
その顔は泣きそうに歪んでいる。

「な、何があったのべスパちゃん!?」

「助けて兄さん! パパが、パパがぁ!!」

キッチンから駆けつけた横島にすがり付いて泣き出してしまう。
顔を見合わせた横島とルシオラは「パパが!」の一言で全てが分かった。
細かい事とは分からない。たった一つしか分からない。だがそれで充分。
彼らの、否! 家中のもの全てが悟った!

また何かやらかしやがったな、クソ親父!!

相変わらず期待を裏切らない男だ。
べスパに眩しい笑顔を向け、安心させるように囁いた。

「大丈夫だよ、べスパちゃん。俺に任せて!」

そしてルシオラと頷き合って、ハニワ兵が大急ぎで用意した武器――明らかにトイレ掃除用な柄付きブラシと光沢からして毒々しい手拭いを持ってべスパとともに駆けていった。
晩御飯ちょっと遅くなるけど御免ね!の一言だけを残して。

「…お風呂入りまちゅか?」

「そーね、入るわ」

背中を見送った後、パピリオに素直に同意するタマモが見られたとか。

「んにゅ? …あ、拙者は!?」

嵐が去って静かになったリビング。シロが意識を取り戻す。
身を起こしいまだ混乱を引きずりながら状況を確認するシロに、掻い摘んで説明してやるポチ。

「容易く乗っ取られおって、この未熟者が」

「う、うう〜ぅ」

ポチの言葉にけれど反論できず唸るだけ。

「……迷惑かけてすまなかったでござる」

長い沈黙の後、身長差から己を見下ろす男から目を逸らしぼそぼそと謝罪した。
そんな同族をやや呆れた目で見ながらポチ、大きく息を吐いた。
とたんビクつく小さな体。
様子を窺うように上目遣い。

「まぁ今回は大事に至らなかったから良しとしよう。
だが、これからもこういった事が起こらんとも限らん。今まで以上に鍛錬せねばな」

「わ、わかってるでござる!!」

「ふ、ならばいい」

小さく笑って、シロの頭を撫でてやる。

「む、むぅ〜。あ、犬飼!」

「何だ?」

「あの、その…あの女狐を背中に乗せちゃ駄目でござるよ!」

「は? 何だそれは??」

「いいから! 絶対絶対駄目でござる! わかったでござるな?!」

その剣幕に押されて、とりあえず頷いておく。
それにシロは大変満足そうに笑った。
それから一時間――お風呂上りのパピリオとタマモが見たものは、ポチの膝の上ですやすや眠るシロの姿だったとか。

色々ありますが、芦原さん家のペットたちは今日も平穏に過ごしています。


続く


後書きと言う名の言い訳

はい、今回うらめんはワンコと狐メインでした。何故か似非シリアス。
シロのポチに対するベクトルが何なのかはご想像にお任せします。シロはまだ幼女レベルですからね。
今年中にこのシリーズの完結を目指して頑張ります! …次回は何書こう?
では、ここまで読んで下さって、皆様ありがとうございます!!

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