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「妖と魔と神に愛されし風 第八話(GS)」

J (2008-06-15 12:46/2008-06-15 14:24)
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タマモは泣いていた。その怒りが全てを燃やしていた。
タマモが欲しいと思った一つの物。それを自分のミスで失った喪失感、怒り、悲しみ。それがタマモを支配していた。


全て燃えてしまえばいい。そう感じていた。


絶望に押しつぶされそうになった瞬間、タマモは優れた聴覚で確かに聞いた。
いつも安らぎを与えてくれるトクン、トクンという大好きな心音を。

思わず視線を下に移したタマモは思わず悲鳴を上げそうになった。

床に零れた横島の血が腕に戻っているのだ。止血処理としてタマモが焼いた傷跡が少しずつ再生していく。まるで映像を巻き戻すように。
タマモが展開している炎の渦の中で再生は終わった。

そして、横島はゆっくりと目を開けた。


タマモには言いたいことがいくらでもあった。どれほど心配したか。どれほど不安だったか。どれほど悲しかったか。どれほど怒り、絶望したか。そして、ごめんなさいと。

その前に横島が口を開いた。

「心配掛けてごめん。いつも見守ってくれてありがとう。いつも一緒にいてくれてありがとう。いつも励ましてくれてありがとう。俺なんかのために泣いてくれてありがとう」

一気に礼を述べた横島を見てタマモは一瞬言葉を詰まらせた。
言いたいことが無限にあるにも関わらずうまく言えなかった。

ようやくタマモの口から出た言葉は

「この人外たらし!」

だった。 短く、単調だがタマモの全ての想いが詰まっていた。

それを聞いた横島は苦笑した。体をしっかりと起こし、自分の足で立ち上がった。
タマモの頭をポンポンと撫でると空に向かって声を発した。

「心眼聞こえるか?武器化してくれ」

(了解した)

メドーサのように横島の左手から夜色の大鎌が現れた。

タマモにニコッと笑うと地面に落ちている自分の十字槍を拾い上げ、大鎌に押し付けた。すると、ズルズルと大鎌の刃の部分に吸い込まれた。

それを見届けると、横島は炎の渦の外に出た。タマモの想いの象徴である炎は横島を焼かなかった。


シニタクナイ イキタイ カラダホシイ マダイキタイ クルシイ リフジンダ ナンデオレガコンナメニ イタイ カミサマタスケテ シニタクナイ マダイキタカッタ アソビタイ ダレカタスケテクダサイ


横島の耳には怨念達の声がはっきりと届いていた。理不尽に虐げられ、死を迎えた哀れな声が。生を強く望んだがゆえに、このような形になってしまった哀れな魂。

「ごめんな。死んだ人は生き返らないんだよ。安らかに眠ってくれ。俺が送るから」

そう謝罪し、横島は怨念の渦に向かって大鎌を振り抜いた。

斬。そんな音と共に黒い渦が切り裂かれた。

そして、切り裂かれた部分から色鮮やかな光の筋がいくつも生まれ、怨念に埋め尽くされ、黒い空に昇って行った。

(ああ、これでやっと本来の役割が果たせる)

心眼のそんな声が横島の耳に響いた。

横島は大鎌を振り回し続けた。収穫期の稲を刈るように、淡々と前進を続けた。


人間による怨念の大量虐殺だが、それは幻想的な光景だった


まるで、風が黒い地面から色鮮やかな秋の紅葉を巻き上げるようで


まるで、道路脇に咲いているたんぽぽの綿毛が風に運ばれるようで


まるで、汚い都会に降る真っ白な雪のようで


まるで、風に吹かれる花畑のようで


まるで、虹の欠片のようで


見た者の魂に焼きついて、消えないほど美しい光景だった。


幻想を生み出しながら、横島は前進を続けた。

そして、まず、あまりの出来事に若干呆けているルシオラの元に着いた。

「よお、ルシオラ。心配かけて悪かった。もう、大丈夫だから」

「何よ!私がどれだけ心配したと思ってるのよ!死んだかと思ったじゃない!」

ルシオラは笑いつつ、怒り、泣くという器用なことをしていた。
場違いにも、やっぱりルシオラは綺麗だなあ。と横島は思いつつ、相手にしっかりと伝えるために自分の思いを言葉にした。

「ごめん!本当にごめん!こんないい女泣かせるなんて俺は最低だよな。こんな時に言うのも変だけど、いつも馬鹿な俺に勉強を教えてくれてありがとな。ルシオラのおかげで少し変われた気がする。本当にありがとう」

「馬鹿!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

「いやーなんかどーしても今、言いたくて」

会話を続けながらも二人は攻撃の手を休めてなかった。

ルシオラの手からは絶えず魔力砲が放たれ、横島は大鎌を振り回し続けた。

突然、指導者のように振る舞っていた筋肉質の神族が横島に武器を振り下した。

が、それは横島の体を水を切るようにすり抜け、その神族は横から現れた横島に鎌で殴り飛ばされた。

「嘘!私の幻術!?」

ルシオラの物とは比較できないほど粗悪で精度の低い物だったが、横島が使ったのは間違いなく魔力を利用した蛍の魔族の幻影だった。

「幻蛍の腕。なんてな。こいつが俺の能力らしい。大切な人。守りたい人。そういう人たちとの「繋がり」を具現化する。これが俺の能力の本質なんだとさ」

横島の両腕は淡い緑を帯びていた。夏夜の蛍の光のような淡い緑の光だった。

横島の幻影が消えると共に発光も消えた。

「で、これがルシオラがくれた十字槍の進化形だ。心眼形状変化!略奪の槍!」

(承知!)

鎌の夜色の刃がグニャリと歪み三つの槍の刃に変化した。
握りの部分はそのままだが、刃は横島がよく知る十字槍だった。

「認めぬ!認められるか!人間風情が!我ら神族に勝るなど!我は認めぬ!」

筋肉質の神族は武器を構えた。神族の優れた腕力で横島を叩き潰そうと武器を振り抜いた。

「力で勝てないなら、速さと効率で勝つ!そうだろう?ベスパ。Accelerate!」

自分の師匠としっかり目線を合わせながら、横島は軽々と神族の攻撃をかわした。
そして、片手に武器を下げ、黄色と黒のまだらの光を帯びた腕を相手に突き出した。

「妖蜂の腕!」

微弱だが、蜂の針のように鋭い魔力砲が神族の手の甲を穿った。
しかし、大したダメージはなかった。
能力を真似ても容量はあくまで横島自身。威力が突然上がるはずはない。

「この馬鹿シスコン!狙うなら急所を狙え!」

ベスパの怒号が響いた。口調は怒っているものの横島の生存を確認したベスパは笑顔だった。こいつもいい女だなあと思いつつ横島は敵に向きなおった。

「死ね!人間!」

神族が再び武器を横島に向けた。横島にはその軌跡が容易に見えていた。


ただ、力任せに振り回しているだけ、それだけの攻撃。それもベスパの攻撃に比べればあまりに遅く、メドーサのような技術もない。


やっぱり、いろんな人がいるんだな。これが横島の率直な感想だった。


今まで、横島は本当に優れた人外としか接したことがなかった。冥子は人間だが霊力は並はずれた容量を持っている。だから、全体平均から見た自分の位置を把握できていなかった。
いつの間に自分が強くなっていることの認識が欠けていた。


神族であろうが、魔族であろうが、妖怪であろうが、人間であろうが、感情が存在し、同じように喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、能力にも差異があって、個性があって、思想の違いがあって、文化があって、対人関係があって、千差万別、だから………同じヒトだ。


神族の後ろに加速して回り込み、躊躇いなく横島は十字槍で相手の左胸を貫いた。

「ガハッ!」

そんな声を上げたが、神族の胸には傷がなかった。胸を刺された痛みに顔をしかめただけ。
顔をしかめた神族はすぐに横島に攻撃を再開しようとして、己の身体の異変に気がついた。


力が入らないのだ。肉体的なものも、神通力も。


「悪いな。俺は憶病だから、できるだけヒト殺しはしたくないんだ。そんな憶病な俺の努力の結果がこれ、略奪の槍。相手の霊力の中枢か急所を突ければ力を奪える。今は弱い奴限定。それも一時的しか無理だけどな」

(我を支えるのは主の容量では限界がある。外部から摂取するのが一番確実だからこのような能力の選択をしたが、気にいったかな?)

「ああ、最高の能力だ。憶病な俺にちょうどいい」

敗れたことを自覚した神族がガックリと膝をついたのを見届けた横島は、ブンッと槍で次の獲物を突きながら心眼に答えた。

「やっぱりヨコシマはヨコシマでちゅね。なんか、安心したでちゅ」

周りに群れる敵を軽々排除しつつパピリオは呟いた。
残忍な横島などパピリオは望んでいない。いきなり強くなったが、優しい兄のままの横島を見てパピリオは安堵した。

「そうね〜。たーちゃんは〜優しくないとね〜」

冥子もこのパピリオの意見に同意した。式神達は相変わらず破壊行為を実行中だが、動きが切羽詰まったものでなくなっていた。

「優しい?どこがだ?あれは最高にえげつない野郎だよ!アシュ様が認めるだけある。あれは無自覚で残忍な悪魔さ!あの略奪は神族にとって死を超える屈辱だ!」

メドーサがクツクツと陰惨な笑みを浮かべた。メドーサは神族の性格をよく把握している。その高すぎるプライドのことも。
下等種族と見なしている人間に一時的とは力を奪われる。神族には耐えがたい恥だ。

気力を根本から奪う一種の精神的殺害。

優しさと残酷さは表裏一体。

その象徴のような能力を見届けたメドーサは嗤っていた。

「横島忠夫!認めてやるよ!おまえは最高のクズだ!」

壮絶な笑みとともに血の雨を降らせるメドーサは邪悪ながら妖艶だった。

横島忠夫の復活で不安定だった戦況は一気に傾いた。

周囲にルシオラを始めとする横島を軽く上回る戦士がいるのにも拘わらず、その場に存在する全てが一人の少年を注視していた。


横島が怨念を大鎌で切り、槍で神族の力を奪う。そして、前進し、味方に話しかける。それだけの行為。なのに、誰もそれを止めることはできなかった。


「ベスパ。悪いなーいつも迷惑かけて」

「アホなこと言ってる暇があったらさっさと働け!!」


「パピリオ。心配掛けてごめんな」

「許さないでちゅ!責任とるでちゅ!ゲーム100時間でちゅ!」


「やっぱり、冥子ちゃんの笑顔は和むな〜」

「えへへ〜ありがとう〜」


「メドーサさん。お待たせしました。援軍でーす。血だらけな姿もセクシーですよ」

「死ね!」


空気を横島特有の雰囲気に染めながら、横島は戦場を駆け回った。
至る所で光のオンパレードを生み出しながら、暴風のように全てをなぎ払った。


その光景は遠くからでも見えるものだった。少し、離れた位置にいる軍隊達とその敵でも。

魔族である彼らでさえも、視界に映る光のパレードは一見に値すると感じざるを得ない物だった。

戦いの最中だが、彼らは予想外のできごとに目を奪われていた。

「ジーク。あの子供は人間か?」

「はい。霊波は間違いなく人間です」

「そうか。…………強いな」

そう呟くとワルキューレはグレネードのピンを抜き、上空に放り投げた。
慌てて全員が伏せたが、ベルゼブルの大半が爆炎に呑まれた。場に緊張が舞い戻った。

「何をしている!人間の子供に我らの任務を代理させる気か!真の不死身など存在しない!肉片すら残さず破壊しろ!」

ワルキューレの怒号と共に魔界正規軍の反撃が始まった。プロの軍人が素人に後れを取るわけにはいかないという意識が彼らの動きを活発化させていた。


黒く埋め尽くされていた空はいつの間にか穴だらけになり、白い太陽光が漏れていた。


たった一人の少年の行動によって大きく変動した状況をとある場所から一組の男女が見ていた。

一人は芦原優太郎。そして、もう一人は、金の冠をかぶり、金糸の縫い取りの有るベルベットと白のレースを身につけ、赤い髪を持つ美しい女性だった。
七十二柱に席を置き、吟詠公爵の称号を持つ魔族。ゴモリー。
それが彼女の名前だった。


「落ち着いた?今回は信じて手を出さないんでしょう?あの子の手が切られた時のあなたの顔は見物だったけど」

「もう問題ない。さすが、忠夫君と言ったとこか。私に依存することなさそうだな」


芦原は今回の騒動で横島達が巻き込まれる可能性を考慮していた。だからこそ、あえてその場にいることを避けた。自分に依存しないように。自分で生き残れる術を覚えさせるために。

横島の負傷は予想外だったが、成長につながったため、芦原は内心胸をなでおろしていた。誇らしそうに戦場の状況を眺めていた。


「さて、本題に入ろうか。最高指導者の探している「四本目の柱」とは何だ?そして、この世界に何が起きている?あの怨念の強さは異常だ。そして、「大木」とはなにか答えてもらおう。過去と未来の英知を持つ詩人よ」


「知りたいのなら聞きなさい。これはとある平行世界で起こった事件。「神」と人の傲慢と甘えが起こした悲劇の物語」

そして、詩人は歌い出した。


全ての始まりの物語を、優しすぎたある男の物語を。


ある青年がいた。青年は誰よりも優しく、強かった。


その青年はある魔王の自殺劇に巻き込まれ、魔王の捕虜となった。
青年は味方であるはずの人間に捨て駒にされ、殺されかけた。
その時、青年は敵であった蛍の精を救った。
そして、蛍の精は青年に恋をした。自分の身を顧みないほど激しい恋を。
青年は蛍の精に誓った。魔王を倒すと。
優しい青年は戦った。そして、魔王に勝利し、望んだ永劫の眠りを与えた。
だが、蛍の精は死んでしまった。戦いの中、青年に自分の命を捧げ、青年を救った。
青年の子供として生まれ変わり、いつか、再び青年と出会えることを夢見、消えた。
青年は自己を失わずに生きることを誓った。 青年は強くなった。


その後、大人になった青年は前世の恋人であり、憧れの人物と結ばれた。
青年は妻を愛していた。彼女に身も心も全て捧げた。だが、二人に子はなかった。
その妻が過去の負傷が原因で危篤状態に陥った。
青年は自己の能力を活かし、神魔族の規制を破り、治療法を求め過去に旅立った。
青年は見事治療法を手にいれ、帰還した。
治療法が妻に有効か検査する段階で青年は妻の秘密を知ってしまった。

妻が常に身籠らないようにしていたことを。

妻は夫を誰よりも愛していた。だからこそ、愛しい彼を失うのを恐れていた。
青年もまた、その思いを理解していた。だから、青年は全力で妻を救った。


そして、青年は親しい人々の前から姿を消した。愛していたがゆえに、傷つけないために。


青年は三界の秩序のために戦い続けた。大切な人々の生活を守るために戦いに身を投じた。

青年は力尽きるまで、人を愛し、救い、守るために戦った。

でも、かつての魔王戦のように人々は彼の存在を知ろうとしなかった。
体裁、誇り、地位、権力、そんなモノを守るために青年の尊い犠牲を蔑ろにした。

やがて、青年はその尊い生涯を終えた。

青年の魂の一部は残留思念となり、かつて青年の居場所だった生ける建造物に定着した。
後継者のいなかったその建物は荒れ果てていた。長く主人の帰りを待ったのだ。
かつての青春の日々の時代の青年の思念、妻の思念、旧知の少女の霊だけが残った。
やがて、永遠とも言える歳月を生きる青年の旧友が彼らを輪廻に送った。


「ふむ、それでその平行世界の話がこの世界と何の関係があるのかね?」

「黙って最後まで聞きなさい」


青年の魂が輪廻に送られた数年後、青年の功績によって維持されていた秩序が崩れた。
魔王の空席を狙った神族の過激派の暴動が契機だった。
科学技術が発展していた人界もこの崩壊に巻き込まれ、武力を行使し、抵抗した。
三界を巻き込む大戦争が始まった。

最後に、その世界は滅亡した。


この結末はあるいは簡単に防げたかもしれなかった。


娘を救うために、全てを知った上で、他の全てを平然と切り捨てた母親が、組織にこだわらず事件の真相を公開していれば世界中が蛍の精を救うために動いたかもしれない。
多くの人々が青年に協力したかもしれない。彼の力になろうとしたかもしれない。


最高指導者が迅速に魔王の空席を埋めるか、魔王をはるか昔から解放していればこんな悲劇は起こらなかったかもしれない。彼らなら蛍の精を復活できたかもしれない。


青年の味方達がもっと努力すれば方法はあったかもしれない。


異なる可能性は無限に存在する。そうならなかった理由は一つ。全員同じ過ちを犯した。


誰もが青年の優しさに、その強さに、甘えていたのだ。


彼なら大丈夫。このように無意識にも彼に全てを委ねていたのだ。
一部は青年に狂信的とも言える信仰のようなものすら抱いていた。


誰でもよかったのだ。


誰かが心優しい青年に手を差し伸べればよかった。 たったそれだけのこと。


滅びゆく世界で最高指導者達は気がついた。

自分たちは傲慢だったのだと。たった一人に全てを背負わせてしまったのだと。


宇宙意思の代理であり、「神」であるはずの最高指導者は己が間違っていたことをようやく悟ったのだ。


だが、悔恨するには遅すぎた。もう全ては終わってしまった。だが、贖罪が必要だった。この世に裁かれない罪など存在しない。それが例え「神」によるものでも。

過去を修正する力も、再生の力もなくなった最高指導者は賭けに出た。
そして、残ったわずかな力を振り絞り、隣接する世界に記憶を転送した。


秩序を支える人界、神界、魔界。この三つの柱ではない。第四の存在。最高指導者はこれを求めた。


優しい青年と彼が愛した蛍を救える力を持つ者を送り、過去の自分たちの過ちを正してほしい。これが消滅する前の最高指導者達こと「神」の最後の願いであり、贖罪だった。


この願いを受け取った別世界の最高指導者達はこの第四の存在を「第四の柱」と呼んだ。


これが全ての始まり。


詩人ゴモリーの長い語りが終わった。

「さあ次はあなたの番よ。芦原先生。平行世界とは何か私に説明してみて」

芦原は閉ざしていた口を開いた。

平行世界とは何か?

数多くの解釈が存在する。その中で世界的に最も有力なのが「木の集合体説」

つまり、宇宙は「森」のような構造をしているということを意味する。


一つの「木」には中核となる「幹」があり、その世界から生じた異なる可能性が「枝」となり、やがて「葉」となる。
それぞれ異なる特色を持つ「木」が無限に存在し、あたかも「森」のように存在している。

したがって、我々が平行世界移動をした場合、通常それは自分が存在する「木」内に留まるとため、完全な異界や生存不可能な世界に送られることはない。

だが、何事にも例外は存在する。例えば大きな「木」の「幹」が何らかの理由で周囲の「木」に影響を及ぼした場合、最高指導者ですら、不可解な現象が起こることがある。
全てを知るのは宇宙意思だけ。

「最高指導者達の言う「大木」とは大きな影響を持つ平行世界ということか!」

ようやく、事情を理解した芦原は思わず、大声を上げていた。
パズルのピースが見つかったような感覚だった。

「正解!最高指導者達は力が弱まっていたから、記憶を飛ばすので精一杯だった。
その結果、時間軸が異なるこの世界に記憶を送ってしまった。で、運がいいことに、私たちの世界の時間ではまだその平行世界は滅びていないのよ」

「運がいいことに」を皮肉っぽく言うゴモリーの発言の裏にある意味を芦原は察知していた。


つまり、この世界からの干渉ならば、その平行世界を救うことができるということ。

例外的な外部的要因の結果がこの世界に多く存在する空間の亀裂の原因であること。

恐らく平行世界の自分であろう魔王の願いも滅びと天地創造であること。

魔王が原因で現在進行形で滅びに向かっている世界が存在すること。

平行世界の結末を宇宙意思が修正するために動いていること。

「ああ、だが一つだけ不可解なことがある。なぜ、忠夫君なのだ?別に彼である必要性はない」

「そうね。彼が「四本目の柱」である必要性はどこにもないわ。それと関係なしに最高指導者達は忠夫君の能力が必要なのよ。神様は憶病だから、未来が見えなくて、不安なのよ。過去しか視えなくなった今の私やラプラスと同じでね」

そう言ってゴモリーは笑った。本当に楽しそうな笑みだった。

「おまえが過去しか視えないだと?過去と未来の知識を司る魔族。ゴモリー」

「ええ、そうよ。こんなに楽しい気分になれるなんて思わなかった!この世界は不確定要素が多すぎて、未来がわからない。だから、最高に楽しいの!いろんな異世界が干渉してくる。だから、不安定。本来現れないはずの神魔まで生まれている!ラプラスもこの時期が訪れるのはずっと待っていたはずよ。自分の能力が役立たずになるこの瞬間を!」

興奮した様子でゴモリーは心情をさらけ出した。
全てを知る地獄からようやく解放された喜びを恍惚とした表情で表していた。

「なるほどな。ようやく、理解できたよ。多くのモノと意思疎通ができる忠夫君は異世界の存在が相手でも交渉ができる。たとえ、最高指導者が会話を成立できない相手でも可能性がある」


「そう、あの子はね。世界最高の人外交渉人なのよ」


芦原は目を閉じた。自分与えられた膨大な量の情報をゆっくりと整理した。
考えた。必要なことは何か?自分がするべきことは何か?そして、問うた。

「詩人よ。おまえが過去を知るなら教えて欲しい。忠夫君の前世は私が殺したあの男か?」

「そうよ」

「そうか。成長するにつれて顔が似ているとは思ったが」

しばらく、沈黙が部屋を支配した。そして、芦原が再び詩人に問うた。

「あの時、メフィストの来世がいた。いつの時代の人間かわかるか?」

「もう生まれているわよ。日本、東京にいるわ」

ゴモリーは何も描かれていない真白な紙を空中から取り出し、そこに手を当てた。すると、白い紙にはいつの間にか一人の気の強そうな少女が写っていた。念写と呼ばれる能力。

その紙を感慨深く、芦原は眺めた後、視線を再び、自分の娘たちがいる戦場に移した。

勝敗は決定していた。横島忠夫の圧倒的勝利だった。

「変わったわね。アシュタロス。あなたが他人に頼る日が来るなんてね」

「今は芦原優太郎だ。ただの父親だ」

芦原は席を立った。

「行くの?また、いらっしゃい。今度私の生徒に紹介するから」

「娘たちと勇敢な戦士たちを労ったら日本に向かう。それと、おまえに生徒がいたとは初耳だな」

少し、驚いた表情で芦原は聞いた。ゴモリーは魔界では奇人として知られている。
六大魔王に匹敵する力を、絶対的な権威を持ちながら、どこにも所属しない。
それが吟詠公爵の称号を持つ魔族。ゴモリー。

「あなたが過去で一度戦ったことがあるわよ。雪ちゃんっていうの。母親が亡くなって、行き場所がなかったから私が面倒を見ているの。きっと、忠夫君といい友達になれるわ」

「そうか。楽しみにしておこう。誰かは容易に想像がつくがね」

芦原の脳内ではある光景がフラッシュバックされていた。平安京で自分に向かってきた無謀で、勇猛な男の姿が。自然と芦原の顔には笑みが浮かんでいた。

「最高指導者達はあなたがやろうとしていることには反対しないわよ。たぶん賛成するし、私が援助するから。だから、思いっきりやりなさい。作るんでしょう?四つ目の世界を?」

「ああ、やらせてもらうさ。天地創造を。私の夢を。形は異なるがな。四つ目の世界。妖界。それの管理者。それもまた一興だ」

芦原とゴモリーは握手を交わした。妖界。その創造の協力者と盟友として。


神族空間暴動と呼ばれたこの事件の三年後に物語は動き出す。

大きく成長した心優しい少年と後に「妖界の王」のと呼ばれる元魔王を中心に。


あとがき

妖と魔と神に愛されし風 第八話でした。

正直、この話には私がもつ少なすぎる能力を全て注ぎ込んだと言っても過言ではないと個人的に感じています。

それほど想いを込めた第八話でした。

次回の更新は約三週間後になります。

その間なのですが、この作品のためと、個人的な興味のため今、世界各国の妖怪、都市伝説、怪談の情報を集めています。

これがおもしろい、小説で見てみたいという内容がありましたらメールで私に教えていただければありがたいです。


三週間後、一人でもこの作品のことを覚えていてくだされば嬉しいです。


さて、次回からいよいよ本編開始!

これからの方針ですが

本編(表示はこのままです):横島君中心の物語

外伝:空白の三年間のできごと芦原さん中心の物語

番外編: ネタ、裏話

上記のように進めたいと思います。


では六話から停滞していたレス返しです。

dai様

芦原さんのモテは設定上必要だったのでこういう形になりました。
理由は少しづつ明らかになります。

Tシロー様

横島君の解釈おもしろかったです。参考にさせていただきます。

にょふ様

糖度多めの内容はこれからも多いと思います。
横島君ですし(笑)

DOM様

DOM様が紹介してくださった作品は私も読んだことがあります。
参考にするかは考え中です。
情報ありがとうございました。

ルシィファー様

そうですね(笑)
横島君には頑張ってほしいです

nemesis様

確かにご指摘の通りです。
絶対的な存在感を醸し出す元魔王を横島君が懸命に追いかけるという内容を描きたかったのですが。
私の能力不足です。ご期待を裏切るような内容で申し訳ありませんでした。


以下は第七話へのレス返しです


雲海様

長いプロローグがようやく終わり次回から本編開始です。
読み続けていただけたら嬉しいです。

zendaman様

「期待」というもったいないお言葉をありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

God男様

次回から本編です。
内容はまだ発表できませんがご期待に添うものを描きたいと思っています。

ツインガンナー様

感想ありがとうございます。プロローグから読んでいただけているようで作者としては嬉しい限りです。
今後もよろしくお願いします。

DOM様

ご指摘ありがとうございました。

「大木」にした理由は物語の文章での内容のように「木の集合体説」に基づいてこの作品を設定したからです。

平行世界という言葉には様々な解釈があって調べるとおもしろかったです。

今後も独自設定が多いかと思いますがよろしくお願いします。


ルシィファー様

元魂の牢獄と契約して大丈夫か?
確かに根拠が必要ですね。考えさせていただきます。
ご指摘ありがとうございました。

にょふ様

申し訳ありません。
私の乏しい想像力では役に立つヒャクメとか、弱いGMとか想像できません。

この作品はアシュタロス編がないのでそこで長さを調節する予定です。

感想いつもありがとうございます。

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