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「魔神の後継者 第四十五話(GS+オリジナル)」

アイク (2008-06-12 00:01)
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―第四十五話 幕が上がる ―

 奇妙な空気が空港全体を包み込んでいた。しかもそれは優れた霊的感覚を持つ者ぐらいしか気づかぬ雰囲気だ。まるで、一流と呼ばれるGS達への挑戦状ともとれるそうでもある。空港を外から見れば感じる違和感は一度中へ入れば消え去り、それが勘違いだったと思わせる程何も感じさせない。それこそが正に異様。美神達は一言も喋らず目的の人物を待つ。まるで敵の群れの中へ何の準備も無しに入ったかのような不安と緊張が横島を除く4人に重くのしかかる。その要因の1つとして横島が片方の口端小さくを吊り上げるかのように笑みを作っていることもある。纏う雰囲気がひどく冷淡で危険だと一般人にも感じさせるのだ。そのためか美神達に言い寄る馬鹿が来ないのは幸運な事なのだろうか。

(横島クン・・・)

(横島さん・・・)

 美神とおキヌの脳裏に浮かぶのは横島のやった大量虐殺。そこは空港のように滑走路跡地があったためか更に強く印象く鮮明に2人は思い出してしまう。横島自身は魔力や霊気を放っていない。それどころか敵意も殺気も放っていないのにそれでも2人は不安を抱いてしまう。自然と顔色は悪くなっていく。赤紅朱…同系統の鮮烈なる色の記憶はごく自然に、そしてあたりまえかのように焼き付いて消えない。

「美神?大丈夫?」

「おキヌ殿も顔色が悪いでござるよ」

「大丈夫?」

 タマモ、シロ、サラの三人は不安げな声と目で2人を見る。その声音と視線に我に返ったかのように無理に笑顔を作る2人。

「大丈夫よ」

「心配掛けてごめんね」

 気丈にそう答える2人に3人は何も返す事はできなかった。明らかに無理をしていると分かってしまっためだ。2人の顔色は青を通り越して白に近い。それで分からなければ鈍感というレベルではすまないだろう。美神達のやり取りを横島は静かに聞くだけに止まり、何も言いはしなかった。横島も気付いているのだ。2人の顔色が悪いのは自身が起こしたことが原因だということに。故に何も言わない。言う資格もないと考えている。

(すまない・・・)

 資格はないと考えているが、それでも心で謝ってしまう。同じようなことを繰り返すという覚悟が心の奥にしまっているからだ。横島が自分の変化を一番理解しているからでもある。完全な人間の時にはなかった灼熱のように熱く、それでいて絶対零度のように冷たい黒い衝動が日に日に強くなっていると感じているためだ。それが意味するのは完全なる魔族化が完成するということであり、世界から制約を受けるということでもある。神魔はコインの裏表。限りなく近く、それでいて遠い存在。それを分けるラインの一つこそこの昏い衝動の有無なのだ。気まずい雰囲気の中時は流れ、終に目的の2人が乗った旅客機が空港へ到着した。

「・・・先生」

「分かっている」

 目的の旅客機の到着と同時に不快な空気は更に濃度を増していく。故に横島達6人は一見すれば自然体だがすぐにでも臨戦態勢をとれる準備をしていた。シロの申請に横島は片方の口の端を少し釣り上げたような歪んだ笑みを見せた。それは獰猛な肉食獣であり猛禽の類を隠したような笑みで美神達にナニかを感じさせる。どうしようもないようなナニか解き放たれる時が迫っているかのようだと感じさせたのだ。それは美神達だけでこうなのだ。一般人方では悪寒を感じたのか何人かが顔色を悪くている。

「横島クン。少し抑えることはできない?」

「・・・少し無理だと思います。せっかく先方が用意してくれたパーティーですから」

 周りの様子に美神はそんな横島に少し抑えるように言うが横島は笑みを濃いモノとし、美神に向けて丁寧にそう言ってしまう。気分が高揚しているのか緋色の双眸の奥には鋭く兇暴なナニカが灯っている。

((((先方?))))

「・・・それより、親父とお袋が出てきましたよ」

 美神達は横島のもらした『先方』という単語に疑問を感じた。横島が隠している何か。それが何なのか終に分かる時が来た。そう思わせるモノを感じさせたのだ。だが、サラは違った。サラは自分受け入れてくれた美神達に生み出した存在を、自分を知られたくなかった。恐怖と不安が心を駆け廻り、顔を無表情なモノへと変える。

(あれが忠夫?)

 近づいていく中、百合子は自身の息子の変わり様に唖然と心の中で呟く。以前通りならばすかさず問いただし、殴っていただろうがそういう行動に移れなかった。ひどく歪んだ笑みを浮かべた男を理屈ではないナニカで息子であると分かるも、何とも言えない。それは大樹も同じで百合子とは違い、唖然とした顔で忠夫を見ている。

「アレは・・・まさか・・・」

「そんなっ・・・!」

 美神とおキヌは大樹等2人の後ろにいる人物をその視界に捉えた瞬間、暗に信じられないと呟く。そこにいた女性は見覚えのある人物であったからだ。黒髪のボブカットで夕日に消えた忠夫の愛した人そのものの外観をした彼女を見た瞬間から冷たい汗が流れる。

「どうしたでござるか?」

「サ、サラ?」

 シロは2人の様子にただならぬ何かを感じ、警戒の色を更に強めた。そしてタマモは無表情に小さく震えるサラの存在に気付き、気遣う視線を送る。だがサラは何の反応もせず震えるだけだ。

「・・・久しぶり」

「お、おお」

「・・・久しぶりね」

 美神達の異変に気付きながらも歩を進めない両親に近づく忠夫。その後にいる人物の存在にはとうに気付きはしているがあえて無視する。今すぐにでもこの手で解体したくなるからだ。自身の愛した人の外観だけを真似し、その存在を喰らったモノを。殺気が漏れ出しそうになるのを抑えて笑顔を見せる忠夫に大樹達2人はただならぬ何かを感じ取った。大樹は多少動揺しながらも返事を出すことが出来、百合子は間を置きながらも冷静に返す。

「と、ところでおまえの娘は誰だ?誰を孕ましたんだ?」

「それは後で話す。今は・・・貴様に用が有る・・・・・・」

 重い雰囲気になんとか場を軽くしようとした大樹の言った事に忠夫は普通にそう返しながらも2人を背に庇うように立ち、その後の人物に向かって言った。吐き出された言葉は深淵なる憎悪と業火の如く燃え盛る憤怒で構成されている。その言葉に彼女は困惑と恐怖を全面に出した顔をした。

「あ、あの・・・貴方とは、初めて会うのですが・・・・・・」

 押し潰されそうになる程の重圧を受けた彼女はなんとか言葉を紡ごうとするが所々切れており、顔を蒼白にして怯えている。そんな女の顔に忠夫は嗤う。絶対零度の光が緋色の双眸を鮮やかに輝かせ、指向性の殺気が放たれる。忠夫のそんな様子に困惑する大樹。観察する様な目で見る百合子。美神達はそんな2人を守るかのようにその後に立つ。

「ああ。俺も初めてだ」

「な、ならどうして・・・」

「俺には貴様を憎む理由があるからさ」

 忠夫は微笑みながら優しい声音で告げる。それは優しい筈なのにどこまでも冷たい。肯定した忠夫の言葉に訳が分からない皆はサラと百合子を除いて唖然としている。そして続けた言葉に衝撃が奔った。

「いつまでその姿と声を使うつもりだ・・・アシュタロスの半身」

 笑顔から能面に変わる忠夫の顔。憤怒の心は緋色の瞳を燃え落ちる夕日の如く紅い。どこまでも熱く、冷たい瞳。心に満ちた殺意、憎悪、憤怒が暴れ狂い更に密度を上げていく。そして告げられた事に美神とおキヌは悟る。何故あえて罠に入りながらも“先方”である者と会おうとしたのかを。

「・・・なんじゃ。知っておったのか」

 忠夫の様子に詰まらないといった顔をした女の姿が変わる。身長は175程まで伸び、青銅色に変わった髪は膝下まで伸びる。変身が終わりそこにいたのは美の女神。整った顔にメリハリのきいたスタイル。着ていた服は一枚の布を巻いたのかのような白い服となった。女は忠夫に向って微笑む。その美しさは男を虜にする妖艶なモノだったが忠夫のは通用しない。更なる憎悪を湧き出させるだけ。その父大樹は動けなかった。自身の息子が発する憎悪に気圧されていたからだ。

「記憶とは異なるが・・・流石は兄を斃した者よ」

「・・・言い残すことはそれだけか。アスタロト!

 感心したかのような女の声に終に解放される黒い獣。女の名を叫びながら忠夫は一瞬にして精製した霊波刀を振るう。漆黒の光はアスタロトに届く前に物質化し、実体剣と化す。アスタロトはその精製過程に驚きはしたものの危なげなくバックステップで避ける。横島は避けられると予測していたのか左手に収束していた魔力を解き放つ。轟音と共に爆発する黒い玉。それは直撃したかのように見えた。

「・・・ほぅ。なりそこないとは思えぬ力だ」

「・・・・・・無傷か」

 だがアスタロトは平然としており、感心したかのような口調で嗤う。彼女の姿に忠夫は平然と呟き、霊的障壁を展開したのかと予測する。美神達は自身の獲物を装備しており、百合子と大樹、サラを囲むようにスタンバイしている。他の利用客は誰もいない。我先にと逃げだしたからだ。通常霊的防御は自身の体を霊的な力で覆う事だ。そして、服までコーティングするのは細かい制御が必要になる高等技法と言って良い代物。よって忠夫はバリアの様なモノを使ったのではないのかと考える。勿論、かなり大きな力の差が有ればそうではない。かつて忠夫がアシュタロスと戦ったとき、文珠の進化した姿。対極模様の文珠を使っても小さな傷しかつけられなかった。それはアシュタロスが自然に発する力と忠夫の全力の一撃がそれ程差が有るのだ。

「よもや、3000マイト程の一撃が一瞬にして出せるとは」

「褒め言葉か?」

「そう取ってもらえれば良い。何時崩壊してもおかしくは無い体でよくやる」

 アスタロトが平然と言った事。それはおキヌ以外に衝撃を与えた。何故なら忠夫がいつ死んでもおかしくは無い状態だという事だからである。自分達に背を向ける忠夫の姿に何も言えない。それは恐怖からかだろうか。おキヌはネクロマンサーの笛を強く握りしめた。

「忠夫・・・」

「横島クン・・・」

 そんな中、忠夫を呼ぶのは百合子と美神だった。その声音には暗に信じられない。信じたくないという思いが込められており、震えている。その声に忠夫は一瞬だか意識を後にいる皆に向けた。だが、すぐに眼前のアスタロトに向けなおす。

「だから?俺は自分で決めた」

「ふふふ。残念だ。だが、その程度では妾は殺せん」

「だろうな・・・だが、これでどうだ!」

 自身の体の事を何でもない様に言う忠夫にアスタロトは妖艶に笑う。そう宣言するアスタロトに忠夫は解放する。魔力で忠夫の体を包み込み漆黒の玉が形成され、玉の中から一筋の閃光が轟音と共に奔った。その出力は上級神魔レべル。アスタロトは大きく目を見開き瞬時に退避。その閃光は後にあった建造物そのものを貫く。皆が皆その閃光が穿った先を見た。それはアスタロトも例外ではない。そこは綺麗に穴が空き、美しい蒼い空が見えていた。何所までも透通る空は雲一つない。まるで消え去ったかのように。

・・・ハハハ。欲しい。欲しいぞ!横島忠夫!

「生憎、貴様のモノに成る気は無い!」

 そこにいる皆が自失する中行き成り笑い出し、その手に何所からか取り出した槍を握りしめながら黒い球体に迫る。魔創の導きにより力を発揮できる姿となって黒い球体を前半分が指向性の爆発を起こし、後ろ半分を強力なサイキックソーサーの壁とした。咆哮と共に突貫する。

「美神さん!このままでは巻き込まれます!」

「っ!そうね。シロ!タマモ!」

「承知!」

「分かってるわよ」

 目の前にある黒い魔力の壁に先ず最初に反応したのはおキヌだった。おキヌの声に先ほどの忠夫とアスタロトの会話で思考の渦にはまっていた美神が2人を呼ぶ。目的は退避である事は状況から分かる事で、2人は応じた。シロは高さ1メートル50ある白銀の狼に、タマモも同じ大きさ程ある黄金の九尾の狐とその姿を変える。双方共に美しく、気高く、触れることすら禁忌に値するのではと危惧させる獣。これが2人が妙神山にて得た力の一部だ。
横島夫妻は目まぐるしく変化する現状と忠夫の抱えた爆弾に固まっており、サラは拒絶される恐怖と不安に動けない。

「大樹さんはその子。横島クンの娘のサラって言うんだけど、その子を抱きかかえて百合子さん、おキヌちゃんと一緒に金色の方に!」

「「ええ(ああ・・・)」」

(せめて名前で言ってよ)

 自身は先陣をきり、突貫するためにシロに乗ると指示を出す美神。2人の返事には自失の色が強く残っており、少しでも気を抜けば思考の海に呑み込まれるのは確実の状態だ。移動手段と化したタマモは紹介がまだとはいえ、毛皮の色で判断されるのはあまりうれしくは無いので心の中でそう呟きながら乗りやすい様に伏せる。

「っ!成程。確かにパーティーね!」

「パーティーはパーティーでも、死の舞踏ですけど」

 乗り終わり、その場から退避しようとした美神達だがその前に立ち塞がる異形の者達。生理的嫌悪感を感じさせるグロテスクな人型に美神は神通棍に込める霊力をスパークさせ鞭としながら忌々しそうに呟き、おキヌは一度目を瞑り、冷たい声音でそう洩らす。シロとタマモは低い唸り声で警戒の意思を表す。一気に戦闘用の雰囲気に変わった美神達に横島夫妻は何も言えない。状況から人まで既に一年前と大きく異なっている事は明白な事実だからだ。

「いくわよ!」

「ウオォォォオオォオォオオオオン!」

 美神の号令に2匹は駆けた。シロは一気に敵陣へと走りながら先ず最初の一撃をくらわす。遠吠えだ。以前得た力は修行によって強化されている。霊気が大量に込められたシロの遠吠えは敵と認識したモノに振動を与え、自身の身を守る力が弱い者なら一瞬にして蒸発させ、上限はあるがそうでない者も一瞬だけ動けなくさせる凶悪なモノだ。先陣をきり、一気に退路を確保しようとする2人の前に異形達はなす術もない。神通鞭とシロの爪と牙の前に次々と狩られていくのを見ながら、おキヌとタマモはその後を進む。

イタイ

クルシイ

シニタクナイ

ニクイ

 そんな中おキヌは怨嗟の声がするのに気付き、斬り裂かれた異形を見た。彼女が見た時、それは丁度異形の姿が人に戻る瞬間だった。もっとも既にかろうじて人間だったという事位しか分からない形をしていたが。鬱血し、紫の斑点がそこらじゅうに有り、腫瘍のように膨らんだ体の一部。皆が皆苦痛と絶望の末に死という現実を突き付けられた顔をしている。それは老若男女問わない。

「っ!美神さん・・・この人達は人間です。ですから私に任せてください」

「!分かったわ!」

 その姿におキヌの中でスイッチが入った。一瞬だけ唇を噛みしめた顔をしたが、そこには既に何の表情も浮かんではいない。声音はどこまでも透き通り、優しげだというのに抜き身の刀のような鋭さが込められている。おキヌの声に彼女の心を知ったかのように美神はそう答え相手の動きを止めるように一度神通鞭で薙ぎ払い、後ろへ跳ぶ。おキヌは美神が跳ぶと同時にその身を同じく跳んだ。

リィィィン 
   リィィィン

 空中にいるおキヌが右手に握ったネクロマンサーの笛に変化が起こる。どこか澄んだ鈴の様な音と共にその形態を変え始めた。笛自体の太さは変わらずに伸びていき、おキヌの身の丈程になれば渦を巻いていた部分から6本の管が伸び、その逆からは刃が伸びる。それは大鎌。死神が持つ魂送にして執行を司るモノ。おキヌは死神の魂の欠片を用い、真の意味で黄泉返った。バラバラになった魂を繫ぎ止めた初期化したとはいえ死神のモノ。それが意味するのはおキヌの魂に死神の情報が加わるという事なのだ。おキヌ自身は3度死んでいる。故に死という概念を死神には及ばないが理解しており、そのおキヌに死神の情報が入ったという事はその能力の一部を手に入れたという事なのだ。その結果がおキヌが持つ大鎌。使い手であるおキヌが与えた名を死霊葬送という。

「「「「「ギャァアアアッ!」」」」」

 おキヌはシロの背に着地したと同時に死霊葬送を振るう。その刃に斬り裂かれた異形達は断末魔の絶叫とは裏腹に至福の表情をしていた。そして骸から天へと昇って逝く人魂。それは解き放たれた証拠だ。魂達を一瞥しながらも次々と大鎌を振るう。目的地である空港外半径500メートル離れた地点に到着し襲撃が無くなった後、昇る魂へ優しい微笑みを見せた。それは母を思わせる慈愛に満ちた笑みだ。死霊葬送・・・それはネクロマンサーの笛の効果を直接強制的に伝える大鎌。物理的な殺傷能力を与え、それと同時に安らぎを与えるモノ。内と外双方から現世への繋がりを断ち、黄泉道へとつかせる凶悪な武器。だが死霊葬送には鎌としての欠点がある上に神魔には物理的効果しかない。つまりこの武器はこの世に未練を持つ生物だったモノ。例を挙げればゾンビや死霊等には最大の効果を発揮する武器なのだ。

「やっぱりああいう亡者系統は相性良いわね」

「そうでござるな・・・先生が知れば何と言うでござろう」

「苦笑いするだけじゃないの?」

 タマモから乗っていた4人を降ろした美神の何か考えている様な口調に人型に戻ったシロは少し不安げな表情で疑問を浮かべる。タマモも人型に戻れば少し肩を回しながら美神と同じような顔をしてぶっきらぼうに言った。3人の顔におキヌは何を考えているのか見当が付いていたが何も言わず苦笑いするだけ。その表情は心配そうに見える。

「・・・あの時、貴女だけは驚かなかったわね」

 そんな中百合子はおキヌの前に立ち、静かに言い放つ。その顔は真剣でその双眸は虚偽の一切を許さないと語っている。通常の人間では放てるはずもない殺気に近いモノを放つ百合子の姿に皆が皆何も言わない。言えない。夫である大樹は苦虫を噛み潰したように歯軋りしながら目を瞑っていた。サラは何も言わず無表情にソレを見ているだけだ。

「知っていましたから」

「・・・何時から」

「助け出された時、2回目の死を経験した後でヒャクメ様がそう言っているのを聞いたからです」

「そう・・・」

 静かに百合子に答えるおキヌ。表情が抜け落ちたような顔で淡々と百合子の短い質問に答えるだけだ。百合子はその答えを聞いた後にその右手を振るった。

バチィンッ!

「母上殿!?」

「ちょっと!」

 大きな破裂音がおキヌの左頬からした。百合子の行為に抗議の声を上げるシロとタマモ。だが百合子は何も答える事は無く静かにおキヌを見ているだけだ。おキヌはビンタをくらったというのに眉1つ動かさず静かに百合子の目を見続けている。百合子のビンタの威力は相当なモノでおキヌの左の口端からは一筋の血が流れた。

「すまないわね。でも、こうもしないとウチも宿六も気が済まんのや」

「・・・すいません」

 途中から関西弁になる百合子の口調だがそんなモノは気にしてないのかおキヌは静かに謝るだけだった。忠夫は横島夫妻にとって大切な一人息子。その息子が何時その命を散らしてもおかしくは無い事を黙っていたのだ。これ位の代償は当たり前だとおキヌは覚悟していたのだ。

ドシャッ

 そんな中、何かが地面へ落ちたかのような生々しい音がした。皆その方向へ反射的に目を向けた。それは黒い人の形をしている。

「「忠夫!!?」」

「「「横島(クン)(さん)!!?」」」

「先生!?」

 落ちてきたのは血達磨でボロ雑巾のように成り果てた忠夫だった。悲鳴に近い叫びでその名を呼ぶも何の反応も返っては来ない。その身から赤紫の血がゆっくりと広がっていく。

「あ・・・あぁあぁぁぁ」

 その姿はサラの心を抉り、掠れた声が洩れる。何の反応も返さないその姿にまだ少しだけしかない思い出が脳裏を奔った。何も無かった自分に光を見せ、暖かかった頭を撫でる手。サラの主観で優しさの籠った慈父と言って良い緋色の瞳。まだまだ共にやりたかった事。したかった事が次々と浮かんだが次の瞬間ガラスのように砕け散る。双眸から止めど無く涙が流れ、視界は揺れ、既に忠夫の姿すらハッキリと見えない。

「パパァァアアァアアアア!!!」

 サラの絶叫は絶望以外の何でも無かった。


―後書き―
 忙しい・・・忙しすぎる・・・・・・それでも、かなり時間がかかっても書くのは止めません。初志貫徹の誓いは必ずやり遂げると決めているからです!カタツムリ並に遅いですがレスを書いて下さった方々も含め、読んでくれた方がに感謝の意を表しながら頑張ります。今回は少し短かった上に急展開な仕上がりとなりました。他にも美神除霊事務所の面々の強化も出しました。8月までに次回をアップ出来るかな?


 さて話は変わりますが最近色々な作者の作品を見はしたものの、レスが書けないのが悔しいと思います。ふと目につき思った事なのですが、相当内容がアレな作品以外で最初から批判ばかりのレス続きは新しい二次創作を頑張って執筆した人達の芽を潰す行為なのでは?特に自分の主張(例として原作重視、キャラの重視、クロスの意味がない等と言う)をその作者に押しつけるのはいただけません。持論になりますが人の数だけ解釈の仕方があり、発想し、二次創作SS等の形にするのが面白い。そして自分以外の考えたストーリーを読んで楽しむのがまた面白い。レスで更なる精進に励んだりヤル気の起爆剤となったり、レス返しでコミニケーション(?)をとったりと様々な楽しみ方が有る。そう考えている私にとってはそういった行為で芽が潰れていくのが残念でなりません。
 もっとも、自分でサイトを運営していない私が言っても説得力も何も無いかもしれませんが。偉そうな事を書いてしまってすいません。


〜レス返し〜
・Wallakia様
 なかなか執筆が進まない状況ですいません。それでも完結までもっていきますんで気長に見て下さると嬉しいです。

・February様
 実に毎度のことですが誤字の指摘ありがとうございます。次回予告的になりますがマジな意味で命日にはなりません。

・ソウシ様
 執筆が遅れてご心配をおかけしました。それと無用な手間までかけさせてしまい申し訳ありません。

・星の影様
 此方こそはじめまして。時間が有ればまた読んでいただければ嬉しいです。

・DOM様
 お久しぶりです。今回はシリアスでキメてみました。そしてアスタロト御本人出現。GMの活躍は・・・次回かその次あたりになります。

・内海一弘様
 お久しぶりです。そしてありがとうございます。状況が状況なので次回以降に持ち越しとなりました。

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