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「ほたるとへび 前編(GS)」

北条ヤスナリ (2008-05-18 18:20)
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*まるいりゅう氏に大きな感謝を――


「はい♪ 久しぶりっ☆」
「メ、メドーサ!?」

 美神令子がアシュタロスの手に落ちて死んだと知らされGS達に動揺が走ったが、小笠原エミに発破をかけられ落ち着きを取り戻し、いざ出撃というところで謎の光が東京を照らした。
 光が収まると、横島達の乗る大型ヘリの前に以前月で一度滅ぼし、横島を利用して蘇るも大気圏で再度滅ぼした、堕ちた竜神メドーサが突如姿を現していた。
 しかも、姿は令子曰く垂れチチ年増蛇女ではなく、横島と同年代程のピッチピチ(死語)のコギャル版だった。

「メドーサ……!?
 なんでお前が――!?」

 いきなり起こった異常事態に、横島達にまた動揺が走った。

「あたしだけじゃないよ!
 他にも大勢蘇ってるはずさ!」
「な……なんだと!?
 どういうことだ!?」
「さーね、私にもくわしいことはわからないけど……
 ひとつ確かなことは――!」

 メドーサは西条の言葉をスルーすると、手にしているサスマタに魔力を集中させ――

「こーして復活したからには!!
 横島アッ!!

 怨嗟と憎悪がてんこ盛りの気合の声と共に、横島達の乗る大型ヘリを一撃で両断した。

「ああああああっ!?」
「よ、横島クンッ!?」

 横島はヘリの後部にいたために、一人だけ切り離されたヘリの中に取り残されてしまった。

「あんたを真ッ先に殺す!!」

 落下していくヘリの残骸の中にいる横島に、僅かな容赦も油断もなく、さらにサスマタでヘリを三撃刺し貫いた。

「ひーーーーッ!?」

 横島は悲鳴を上げながらなんとか回避し、ヘリの残骸の端にしがみついた。

「あっ、くそッ――!!」

 しかし、刺し貫かれた震動で手が滑り、宙に放り出された横島は舌打ちしながら霊的中枢(チャクラ)にストックしていた文珠を出し、念を込めようとするが――

「そいつを使わせると思うかッ!?
 死ねッ!!

 文珠に念を込めて使用するよりも早く、メドーサのサスマタが無防備の横島に迫った。

 ――殺られる!?

 そう思った時――

ガキィッ!

「あんたなんかに殺らせるものですかっ!!」

 いきなり飛び出してきたルシオラが、落下する横島を受け止めながら脚でサスマタを防いだ。

「お前、たしかアシュ様直属の……!?」

 メドーサは必殺の一撃を防いだ相手を見て驚愕した。
 メドーサは以前魔族を生み出す施設で、アシュタロスが来るべき決戦の時のために特別な調整を施している三体の素体を見たことがあった。
 その中に、今目の前にいる蛍を素体とした女魔、ルシオラの姿もあったのだった。

「た……助かった――!!
 お前も無事だったんだな!? 良かった……!!」
「あんっ♪ そんなにしがみつかないでっ♪」

 横島とルシオラ(バカップル)はメドーサを完全に無視し、いきなりイチャイチャしだした。
 それを見たメドーサは二人の関係と経緯を瞬時に察し、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けてさらに驚愕した。

え……? あんたそいつとデキてんの!?
 なんで!? こんなアホになびいてアシュ様裏切ったってわけ!?」

 メドーサはあまりのことに思考が追いつかず、目の前の現実を信じることができなかった。

「ア……アホとはなんだっ!?」
「し、失礼ねッ!!」

 ルシオラがメドーサの恋人を侮辱する言葉に、本気で怒っているのがわかった。
 そして横島もルシオラに信頼と、そして強い愛情を寄せていることが見て取れた。

 それを見たメドーサは、何故かルシオラに対して暗い情念を持った強い怒りがこみ上げてきた。

 ――なんで生まれて間もないお前がそんなに簡単に愛し合える相手を手にしている?
 ――この世界の冷たさも厳しさも知らないくせに、なんでお前はそんなに恵まれている?
 ――私はどんなに望んでも手にすることができなかったのに……!!

 メドーサの出自について細かくは語らないが、ただ言えるのは彼女の人生は、他人に蹂躙されてばかりだった。
 その人生の中で、彼女が信頼し愛し合うことができたのは二人の姉だけで、心から信頼し愛してくれた異性は誰もいなかった。
 自分と無理矢理契りを結んできた海神も、格の高い戦神の怒りを買ったとわかると、あっさりと自分を捨てて自分に責任をなすりつけた。
 そして、その仕打ちに抗議をした最愛の二人の姉と共に追われ、差し向けられた刺客に姉達は討たれ、一人きりになってからもずっと誰かの都合で振り回され続けた。
 さらに、今もすでに死んでいたと言うのに、何かしらの手段で無理矢理復活させられ、駒としてまた良い様に使われている。

 しかし、目の前のこの小娘はどうだ?
 この蛍の小娘は、主であるアシュタロスの知識と技術力を与えられ、作戦を円滑に進めるために感情よりも理性を重んじるように調整されていたと記憶している。
 そのため、彼女に裏切るように誑かそうとしても、瞬時にその意図を見抜きその相手を殺すだろう。
 いくら下っ端魔族が惚れっぽいと言っても、あのアシュタロスが決戦用に調整した素体のため一筋縄でいく筈が無い。
 それでもお互いこんなにも信頼し、愛し合っているのはそれだけ色々とあったのだろうし、互いを思いながらそれを乗り越えたのだろう。
 そう考えると、メドーサは自分が酷く惨めに思えた。

 ――なんで私だけ……!?

「くらいなッ、裏切り者!!
 あんたじゃこの太刀は受けられないよ!!」

 心は荒れ狂っていても頭は冷静に体を動かし、ルシオラの霊核(急所)を狙った必殺の一撃を繰り出した。
 横島は空中を自由に動くことができないために応戦することができず、またルシオラはそのお荷物同然の横島を抱えた状態で、戦闘者ではない技術者のルシオラが、戦いにおいては一枚も二枚も上手の自分を出し抜けるとは考えられなかった。
 しかし――

「よける必要なんてなくてよッ!!」
「な……、つっこんで――!?」
「ルシオラっ!?」

 なんと、ルシオラは回避をするどころか自らサスマタに向かっていき、額に装着しているバイザーでその重い一撃を受けた。
 そして、勢いの失ったサスマタを抱きかかえるように掴み、サスマタの動きを封じた。

 ――なんでコイツはこんなことが!?

 ルシオラのある意味合理的で、しかし頭の悪い行動を見てメドーサは動きを止めてしまった。

「あとお願い、ヨコシマ!!」
「どわああっ!!」

 ルシオラは朦朧としながらも、その隙を逃さずに横島をメドーサに向かって蹴り出した。

「でえええーーいっ!!」

 横島は焦りながらも体制を整え、手に持っていた文珠に『滅』と念を込めた。
 メドーサはその様子を見て、ルシオラの行動がすとんと腑に落ちた。

 ――ああ、そう言う事か……

 『滅』の文珠を手に、自分に迫ってくる横島を他人事のように見ながら思った。

 ――あの女はこいつを心から信じているのか……

 いつの間にか、先ほど抱いていた暗い感情は何故か消えており、メドーサはただ純粋に、

 ――私も誰かをこんなに強く信じて(愛して)みたい……

 心からそう思った。


 ――クソっ!!

 横島は『滅』の文珠を手にメドーサに迫りながら、内心で舌打ちした。
 ルシオラが無茶をしてまで作ってくれたチャンスだと言うのに、メドーサを滅ぼすことに迷いが生じていたからだった。
 横島にとってメドーサはただの敵だ。
 だが、メドーサのことが憎いかと聞かれれば、答えはノーだった。
 仕事の関係で幾度も敵対して戦い、殺されそうになったりこっちは相手の命を二度奪ったりした。
 相手はたくさん非道なことをしていたみたいだが、そんなことは自分の知ったことではないし、必要とあれば非道なことを平気で行う上司についている自分も、ある意味では極悪人であるからだ。
 魔族と言ってもあまり人間と変わらないと言うのを知っているので、別に毛嫌いする理由にもならない。
 ルシオラには絶対言えない事だが、横島は人生の初ディープキスの相手として少なからず思っていたりする。
 なんだかんだで、凄い美人で気持ちも良かったし。
 それはともかく、この状況下で何故倒すのに迷いが生じているかというと――

 ――こいつの目、泣いてるみてえじゃねえか!!

 悲しみに染まったメドーサの目を見てしまったからだ。
 その目を見て、メドーサの姿が捨てられて傷つき、行く当ても無く泣いている迷子の女の子にしか見えなくなっていた。
 そして、女の子に対して底抜けに甘く優しい横島が、こんな悲しい目をした女の子に手を上げるようなことができるはずがなく――
 もしもそんなことができるような人間なら、信頼を寄せてくれる魔族の恋人などできるはずがなく――
 思考は一瞬、決断は一瞬もかからなかった。
 横島は文珠の『滅』の念を消し、封印していたある意味必殺の念を込め、硬直して動けないメドーサに組み付き、可憐な唇に文珠を押し当て無理矢理飲み込ませた。
 その念とは――


『恋』


   『ほたるとへび』
      〜前編〜


 このことで、ある次系列とは大きくかけ離れた道を進むことになる。
 その次系列では、メドーサは最後まで怨嗟と憎しみだけを持って戦いに挑んできたため、横島は躊躇することなく『滅』の文珠で滅ぼすことができた。
 しかし、メドーサがルシオラに与えたダメージは呪いの様に蝕み、そのダメージのために恋人を失う足がかりとなった。

 だが、この次系列ではルシオラにダメージは残ったものの、そのダメージを与えたメドーサを一時的にとは言え味方に引き込んだ。
 『恋』の文珠で横島に強い愛情を植えつけられたメドーサは、今までのような気丈な態度ではなく、とても気弱な態度で泣きながら「嫌わないで、捨てないで」とすがり付いてきた。
 メドーサはずっと気を強く持っていなければ生きていくことができなかったからなのか、美神令子と同様に外面は強く見えても、内面はとても弱いようだった。
 その様子を見て、横島はとても酷いことをしたような罪悪感に捕らわれた。
 恋人の目がとても痛いが、少しの間メドーサを優しく抱きしめてやって落ち着かせた後、一刻を争う事態なのでメドーサに助力を頼み、三人でアシュタロスの元へと向かった。
 それから、ある次系列と同様に道路に放置されていたバイクを拝借し、下水道を通って美神宅へと向かった。
 そして、メドーサを交えているという点を除いて、同様の事態が発生していった。

 事態がかの次系列と急激に変化し出したのは、ベスパの追撃から逃げるところからだった。
 美神令子の救出と、横島の生きる世界を守るためにルシオラが横島を残し、死ぬ気でベスパと戦う決意をして挑んだのは同様なのだが、その戦いにメドーサが同行したのだ。
 ルシオラはメドーサに横島の元に向かうよう言ったのだが、何故か頑なにそれを拒否した。
 そして、そのまま東京タワーの前で戦闘が始まった。

 アシュタロスにパワーアップ処理を受けたペスパに対し、メドーサの攻撃で負傷し万全な状態でないルシオラと、その姉妹二人よりも格が数段劣るメドーサ。
 パワーは圧倒的にベスパが上回っているものの、長い戦いの年月で培った技術と経験で、大きな隔たりのある霊力差を巧みに埋める前衛のメドーサに、己の状態を把握し無理な突出は控えてメドーサの補助に徹するルシオラ。
 あまり長くない戦闘の間で、ベスパはこの二人に勝利できないことを確信した。
 自分が殺られても敗北しない方法を模索し、メドーサが自主的に裏切ったのではなく、文珠による短時間の間だけの洗脳であることを見抜いた。
 ならば自分が殺られてもルシオラさえいなければ、少し時間が立てばメドーサは正気に戻り、また横島を殺すために追撃しに行くだろう。
 そう考えたベスパは少しの躊躇をせずに、ルシオラを道連れしようとメドーサの攻撃で死ぬ覚悟でメドーサを無視し、ルシオラに向かって全力の攻撃を放った。
 ルシオラはメドーサに攻撃が集中していたため、いきなりの攻撃に反応が遅れ、回避できるタイミングを逃してしまった。
 ルシオラは無念の心で自分の死を覚悟した。

 しかしその時、メドーサが己の身を呈してルシオラをかばった。

 ルシオラは驚愕したがメドーサの叱咤によって攻撃を行い、なんとかベスパを打倒することに成功した。
 ルシオラはベスパの攻撃から庇い、東京タワーの屋上に墜落したメドーサに駆け寄ると抱き起こし、何故庇ったのか聞いた。
 メドーサは――

「あんたが死んだら、横島が悲しむから……
 私が死んでも、誰も悲しまないから……」

 ポツリと、無感動にそう言った。

 ルシオラはそれを聞いて、胸が張り裂けそうなほどの罪悪感と悲しみがこみ上げてきた。
 おそらくこの少女はずっと虐げられて生きてきて、誰からも愛されることも愛することもできずに彷徨い続けてきたのだろう。
 しかも、もうすでに死んでしまっているというのに、駒として無理矢理目覚めささせられ、憎悪の念だけを持たされまた戦いの渦中に放り出された。
 そして、自分達はその少女に何をした?
 滅することで安らかに眠らしてやればいいのに、偽りの愛情を植え付けて心を穢し、戦うことを強要するなんて……!

 『恋』の文珠でメドーサを洗脳したのは横島なのだが、ルシオラは言うことを聞くようになったメドーサを見て、良い戦力ができたと内心で喜んでいたのだ。
 しかし、こんな使い捨ての身代わりにするようなことを望んだわけではなかった。
 自分も同じ境遇の魔族だと言うのに――
 なのに、自分達のことだけを考え、ただでさえ傷だらけの少女にさらに傷つけるような事をしてしまった。
 そう思うと、ルシオラは自分達があのアシュタロス(クソ魔人)よりも矮小な存在に思えてきた。
 ルシオラは思わず「お願い、死なないで!」と叫び、涙を流しながらメドーサを揺さぶった。
 メドーサは自分の顔に降りかかる雫をキョトンとした顔で見て、少し……本当に少しだけ穏やかに微笑み、静かに目を閉じた。
 ルシオラは力の抜けたメドーサの身体をかき抱いて叫ぶも、ベスパの妖毒がメドーサの霊其構造を侵し、崩壊させていくのを絶望しながら感じていた。

 そして一足遅く、後を追ってきた横島が駆けつけた。
 ルシオラはメドーサを泣きながら抱きしめ、かなり取り乱した様子だった。
 横島は状況を瞬時に察すると、メドーサに駆け寄り『蘇』の文珠を使って蘇生を試みた。
 しかし、メドーサの霊其構造が再生不可能なまでに損傷しているのと、強力な妖毒に邪魔され文珠では回復させることはできなくなっていた。
 それを見て、横島はなんとか助ける方法がないか考え、方法をすぐに思いついた。
 恐らくその方法は自分の命が危険な可能性が高いのだが、横島は一瞬も躊躇することなく実行に移した。

 横島はルシオラに「ごめん」と小さな声で謝ると、『吸』と念を込めた文珠を口に咥え、ルシオラからメドーサをひったくるとメドーサの唇に深く口付けをした。
 そして、口を通してメドーサのまだ妖毒に侵されていない無傷の霊其構造を、自分の体内に『吸』収し始めた。
 すべての無事な霊其構造を吸収すると、形を維持できなくなったメドーサの身体は消滅した。
 ルシオラは絶望の表情でその様子を見ていた。

 そして、今度は横島の身体に変調が表れ始めた。
 横島は苦しそうに身体を掻き毟りながら床に倒れ、転がり回った。
 横島の体内で、メドーサの霊其構造が生前本能に従って横島の霊其構造を吸収し、再構成しようとしていた。
 それは以前、月で致命傷を負ったメドーサが、横島に口を通して自分の霊其構造を植え付け、横島の霊其構造を少量取り込み体内で培養したことを強引に行わせていた。
 しかし、大量の霊其構造を失ったメドーサの霊其構造は貪欲に横島の霊其構造を吸収し、致死量にまで達しようしていた。
 ルシオラはそれを見て横島を抱き起こし、横島がメドーサにしたのと同じように横島に深く口付け、自身の霊其構造を体内のメドーサに向けて送った。
 ルシオラは自身の霊其構造を、致死量の一歩手前まで送ったところでメドーサの霊其構造が安定したのがわかった。
 横島もなんとか致死量にまで達しずに済み、かろうじて三人とも生き残ることができたのだった。

 しばらくの間、横島とルシオラは一言も話すことなく無言で横たわっていた。
 そして、不意に横島は激痛に耐えるように腹を押さえ、ゆっくりと膝をついて身を起こすと、メドーサの眷属であるビッグイーターを一匹吐き出した。
 ビッグイーターは力なくぐったりと床に身を横たえており、横島は思うように動かない体を鞭打って這い寄り、霊波刀を短く出してビッグイーターの背に薄く切れ込みを入れるとその身体を切り開いた。
 それから、その切り開いた体の中に両腕を突っ込み、中から十二、三歳程の少女に若返ったメドーサを抱き上げた。

「横島……ルシオラ……」

 意識のはっきりしていない状態のメドーサが、無意識に二人の名を呼んだ。
 横島とそして隣に歩み寄っていたルシオラが、二人は泣きながら「ごめん」と小さく繰り返し謝りながらメドーサを抱きしめた。

 しばらくそうした後、横島はメドーサから身体を離すと立ち上がった。

「ごめん、一緒にいたいけど、俺……行かなきゃ……」

 本当は酷く傷つけてしまったこの少女の元にいたいのだが、一刻も早く美神令子を助ければならないし、あのアシュタロス(クソ魔人)を倒さなければ世界が取り返しのつかないことになるからだ。

「ヨコシマ、私も……」
「ルシオラ、お前はメドーサについててやってくれ」

 横島に同行しようとしたルシオラを押し止めた。

「でも……!」
「ごめん、頼むよ……」

 横島はもう、ルシオラが悩み苦しみながら身内同士で争い合うのを見るのが嫌だった。
 それに、メドーサを一人きりにして置いていくのも嫌だった。

「でも……、でも……!」

 ルシオラもメドーサを置いていくのは嫌だった。
 しかし、横島も自分も、メドーサの復元のために限界まで霊其構造を与えてしまったために、まだ身体は思うように動かず、霊力も大きく減退してしまった。
 いくらワイルドカードだと思っている横島でも、そんな状態で一人きりで六大公爵の魔王をどうにかできるとは思えなかった。

「本当にごめん、後は俺一人でなんとかするから……」
「そんなの無理よ! 私も一緒に行く……!」
「メドーサを一人にさせたくないんだ……!」
「私だってそうよ! でも、だからって……!」
「……私も一緒に行く」
「「え……?」」

 言い争う二人に、ルシオラに抱きかかえられた状態のメドーサが静かにそう言った。

「私も一緒に行って手伝う」
「メドーサ……」
「メドーサ、もしかして、お前まだ……?」
「違うよ、これは私の意志だ。 あんたが私に飲ませた文珠は関係ない」

 メドーサは霊其構造が崩壊し、再構成された状態なのですでに『恋』の文珠による洗脳は切れていた。
 さらに、大量の霊其構造を失い、横島とルシオラの霊其構造で大半を構成し直したと言うのに、『メドーサ』としての自意識を失わずにいた。
 そして、メドーサは横島に対する怨嗟と憎しみがいつの間にかなくなっていた。

「それにね、さっきルシオラを庇ったことだって私の意志だよ。 文珠は関係ない」
「それなら、なんで命懸けで私を守ってくれたり、力を貸してくれるの?」

 自分の腕の中で文珠ではないと否定し続けるメドーサに、ルシオラは聞いた。
 メドーサは不機嫌そうにそっぽを向くと、

「……のが嫌だったから」

 ぼそっと小声で言った。

「え、なに?」
「悪いメドーサ、良く聞こえなかった」

 声を良く聞き取れなかった二人が、メドーサに顔を寄せもう一度聞いた。

「だから、あんたたち二人が不幸になるのが嫌だったからって言ってんだよ!」

 頬を赤く染めたメドーサが、そっぽを向いたまま不機嫌そうに大きな声でそう言った。

「「あう……」」

 その言葉に、二人は気恥ずかしくなり顔を赤くした。

「それに……」

 メドーサはさらに顔を真っ赤に染め、

「今まで男に……あんなふうに優しく抱きしめてもらったことなんてなかったから……」
「へー、そうなの」
「アノ、ルシオラサン、オメメガトッテモコワイデスヨ?」

 メドーサの言葉を聞いたルシオラは、絶対零度の視線で横島を射抜き、横島は脂汗を流して狼狽した。

「あと……」

 メドーサはさらに言葉を続けながら、ルシオラの胸に顔を隠すように押し付けてそっとしがみ付き――

「久しぶりに……本当に久しぶりなんだよ……こんな風に抱きしめてもらうの……
 忘れるくらい昔に、二人の姉さんに抱きしめてもらって以来なんだ……」
「「メドーサ……」」

 ルシオラはしがみ付いて肩を震わせるメドーサをしっかりと抱きしめてやり、横島はその様子をしばらくの間見守った。


 そして、三人は再びアシュタロスの下へと向かった。
 アシュタロスは宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)のデバッグを行おうと、入力装置を苛ただしげに操作していた。
 しかし、構造上の問題のためか、うまくいっていない様子だった。
 そのアシュタロスに、メドーサとルシオラの二人が気配を消して近くまで近づき、物影から強襲をしかけた。
 アシュタロスはそれを見てベスパが敗れたのを悟るも、冷静に攻撃を防御しようとし……失敗して攻撃を受け、驚愕した。
 なんと、メドーサが文珠を生成して行使し、アシュタロスの防御をすり抜け僅かとは言えダメージを与えたのだ。
 現在のメドーサの霊其構造は、全体の半分以上を横島とルシオラの霊其構造で占めていた。
 そのため、魔力と竜神としての能力は大きく減退してしまったものの、ルシオラの幻術と麻酔霊波をある程度行使できるようになり、また横島の霊力の収束、具現能力を行使でき、さらにその究極である文珠生成能力までも手に入れた。
 しかも、衰えたとは言え人間よりも基本スペックが高い竜神のメドーサが生成する文珠は、横島の生成する文珠よりも数段効果が高かった。
 本当は先ほど横島やろうとしたように、『模』の文珠でアシュタロスの能力をコピーして一撃で倒したかったのだが、文珠での戦闘は初めてのためうまく制御できる自信がなかったので、単純な念のみを込めて使用することに決めていた。
 アシュタロスはメドーサの姿が変わっているのを見て霊視を行い、メドーサの霊其構造の状態を解析した。
 解析の結果、メドーサが自分の生み出した三姉妹の一人のルシオラと、文珠使いの人間の霊其構造を取り込んでいることでその霊能力を使用できることと、先ほど奇襲してきた時とは違い、すでに正気に返っていることを瞬時に理解した。
 アシュタロスは人間の横島が使う文珠だけでも厄介だと言うのに、人間よりも出力が圧倒的に高い竜神の文珠は脅威になりうると判断し、大きく警戒して身構えて、メドーサを自分の陣営に引き戻す説得を開始した。

「正気にもどっているのだろう!? 何故裏切るのだね!? 私が勝利すれば君の望む世界を手に入れることができるのだぞ!?」
「悪いねアシュ様! それはもう私の望みじゃなくなったんだよ…! 覚悟しとくれよ!」
「この薄汚い蛇がああぁ!!」

 そして激しい戦闘が始まった。
 アシュタロスは強大な魔力で力押しで押しつぶそうとするも、直接戦闘と言う方面では何枚も上手であるメドーサは、文珠と幻術、そしてルシオラと協力して真っ向から戦わずに上手く捌き、アシュタロスの防御の隙間をついてちくちくとダメージを負わせていった。
 アシュタロスは宇宙処理装置を至急デバッグしなければならないというのに、戦いはジリ貧になり僅かではあるが劣勢に持ち込まれたことにより、焦れて強力ではあるが荒削りな攻撃をしてしまい、それを受けることなく上手く捌かれ反撃を受けるという悪循環(ジレンマ)に陥っていた。
 アシュタロスはメドーサとルシオラの戦闘に完全に意識が向いており、姿の見えない横島の存在を完全に忘れていた。
 そして、それこそが二人が請け負った役目だった。
 まずはメドーサとルシオラが攻撃をしかけ、アシュタロスの注意を向ける。
 それからしばらくの間交戦し、完全に自分達に意識が向いているのを確信してから、横島が『隠』の文珠で装置に近づいて宇宙の卵に飛び込み、美神令子の魂を救出して来る作戦だった。
 横島は『隠』の文珠で身を隠しながら、二人とアシュタロスの激しい戦闘の横を戦々恐々と通り過ぎ、宇宙の卵に飛び込んだ。

 横島は宇宙の卵内の亜空間迷宮を進む途中で、横島の気配を感じて近寄ってきた美神令子の魂と合流することができた。
 そして、横島のボケでなんとか持ち直した令子と共に亜空間迷宮の心臓部へと到達し、そこから装置を逆操作して令子の魂の再生に成功した。
 ある次系列では美神令子の魂を再生した後、横島は恋人を蘇生しようとしたところで待ち伏せしていたアシュタロスに捕まり、蘇生させることができずに外に放りだされた。
 しかし、この次系列ではルシオラは犠牲になってはいなかった。
 そのため、横島はこの装置でアシュタロスを倒せないかと、思念を送り操作を試みた。
 しかし、アシュタロスは万一にも宇宙処理装置を操作されて自分の存在を改変または消去されないように、自分に対してのみ特殊な操作を行わない限り対象にできないようにされていたため倒すことはできなかった。 
 この装置を管理している土遇羅は、横島が宇宙の卵に侵入すると同時にアシュタロスに報告したのだが、メドーサとルシオラの二人と交戦中のために追撃できる状態ではなく、具体的な指示も出せずにいた。
 もしも、アシュタロスがこの場をハニワ兵達にまかせて横島の追跡に向かった場合、ハニワ兵ではこの二人に太刀打ちできずにすぐに全滅させられるだろう。
 そうなったら無防備になった宇宙処理装置を破壊されてしまう可能性があるので、アシュタロス本人が相手をせざるを得なかった。
 土遇羅は独自の判断で横島達に攻性プログラムを追撃させるも、判断力に乏しい土遇羅は心臓部への進入を許し、追跡も間に合っていなかった。
 そして、横島はこれ以上の操作をあきらめ、令子の魂が再生され肉体に戻っていったのを確認した後、追撃が来る前にエネルギー結晶を易々と奪い外へと脱出した。

 横島が外へ脱出すると、メドーサとルシオラの二人はまだアシュタロスと交戦していた。
 この次系列では、美神令子の肉体は宇宙意思に導かれて来なかったために、余計な邪魔は入らず膠着状態になっているようだった。
 しかし、横島がエネルギー結晶を奪ってきたために、一気に事態は転じた。
 横島の手の中にあるエネルギー結晶を見たアシュタロスは、今までの冷静さを嘘のようになくし、文珠に『破』と念を込めた横島に静止の言葉を叫ぶも――

 自身の天地創造が、音を立てて崩れるのを聞いた。

 エネルギー結晶は宇宙処理装置と連動していたのか、結晶を破壊すると同時に宇宙処理装置も同時に崩壊した。
 そして、宇宙処理装置が崩壊したために、装置で仮初の命を与えられていた魑魅魍魎と魔物達はまた無へと還っていった。
 しかし、一度霊其構造が崩壊し、横島とルシオラの霊其構造を吸収して再生…いや転生したメドーサは、すでに存在が安定していたために無に帰すことはなかった。
 アシュタロスは身じろぎ一つせず、茫然自失とした様子で宇宙処理装置が崩壊していく様を見続け、その崩壊に巻き込まれていった。
 横島達三人は、横島を二人で抱えて空へと逃げることで崩壊から免れた。

 三人は崩壊が収まるのを確認してから地上に降り、緊張の連続で疲労していたのでその場で座りこんで休憩をした。
 しばらくすると、令子達GSチームが様子を見に駆けつけてきた。
 令子達はメドーサの姿を見ると攻撃しようとしたが、横島とルシオラが間に入り敵ではないと説得した。
 二人の説得で一度は落ち着いたのだが、パピリオが言った不用意な一言で場が一気に荒れることになった。

「メドーサからヨコシマとルシオラちゃんの気配がしまちゅけど、二人で頑張って産んで上げたんでちゅか?」

 そして始まった大騒動。
 顔を真っ赤にして激昂する令子と、黒くなりクスクスゴーゴーと笑うおキヌに、ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる他のメンツを、理不尽な暴力にさらされながらも宥める横島。
 ルシオラは顔を赤くしてクネクネと身体をくねらせアッチの世界に旅立ち、メドーサも顔を赤くし、どこか不機嫌そうな顔でそっぽを向いていた。
 しかし、パピリオの発言はあながち間違ってはいない。
 お互いの霊其構造を与え合って転生させたので、二人の子供と言っても過言ではないからだ。
 だが、腹を痛めて産んだのは、男の横島ではあるのだが……
 それから、なんとかもう一度全員を落ち着かせることに成功した横島は、自分とルシオラの霊其構造を与えてメドーサを助けたと告げると、またも令子が激昂した。
 神魔族のような霊気が皮をかぶったような存在ならともかく、人間はたとえ少量でも下手に霊其構造を失うと、魂そのものが崩壊してしまう危険性があるからだ。
 しかも、結構な量の霊其構造を与えたと聞き、令子はさらに激しく激昂しようとした時――

 瓦礫の山の中から、ボロボロの姿で狂ったように笑うアシュタロスが這い出てきた。

 GS達は全員身構えるが、アシュタロスはGS達のことが目に入っていないのか、自分の身体が崩れていく中、狂ったように笑いながら「もう終わりだ」と叫んでいた。
 メドーサとルシオラ、そして横島が他のメンツよりも早く反応し、攻撃をしかけるべく散開してアシュタロスに迫った。
 それを見た西条は援護をするつもりで銃を抜き、アシュタロスの眉間に狙いをつけて発砲し――
 その一発で、アシュタロスはあっさり崩れ落ちた。
 その場にいる全員が、アシュタロスが滅んでいくのを呆気にとられて見ていた。

 ――これで終わったのか?

 全員がそう思った時、アシュタロスが現在の身体を捨てて究極の魔体を起動させ、道連れに人類を滅ぼすことを宣言して消滅した。
 それからまもなく、魔鈴めぐみが伝令として非常呼集を告げに飛んできた。
 そして、都庁本部で衛星からの映像を確認しながら、対究極の魔体の作戦会議が行われた
 魔体の行動から分析した結果、「パワーは最強だがおつむは最低」という結論に達した。
 しかし、いくら分析ができても良い攻略法が思い浮かばず、あと少しの時間で東京が魔体の射程距離に入るので、交戦しながら考えるということになった。
 「さあ、決戦(ファイナルバトル)よ!」と言うところで、問題が二つ発生した。

 一つ目は貴重な戦力であるパピリオが、「ちょっと行くとこがあるでちゅ」と行ってどこかに行ってしまったことだった。
 強要してもやる気がなければ足を引っ張りかねず、戦力としては期待できないので誰も引き止めなかった。
 ルシオラも父親でもあるアシュタロスと戦わせるのは心苦しかったので、特に何も言わなかった。

 そして、重要なのは二つ目の方だった。
 なんと、横島がメドーサに霊其構造を分けてしまったことで同期合体ができなくなってしまったのだ。
 最初は横島の霊力が低下してしまったために、令子と霊力差が大きくなったため令子とは同期合体ができなくなった。
 そのため、霊力値の近い者が選ばれ同期合体を行った。
 しかし、今度は同期合体を行うと同時に、横島が危うく吸収されかけてしまった。
 原因を調べてみると、横島の霊其構造が必要最低限しかないため、同期合体を行うと構造が維持できずにすぐに分解、吸収されてしまうようだった。
 ならばメドーサで同期合体を行おうと言う話になったが、メドーサは文珠を扱えるが同期合体の訓練を行っていない上、同期できるほど霊力値の近い者がいなかった。

 これには一同は騒然となった。
 同期合体が一番の主力だったからだ。
 たしかにメドーサとルシオラは中級から上級に位置する強い魔族なのだが、同期合体した人間よりも大きく霊力が劣るのだった。
 また、メドーサとルシオラの二人も、霊其構造が減ったために魔力が減退しているため、事実上戦力は低下していた。
 メドーサは横島よりも強力な文珠を生成できるが、現在求められているのは純粋な火力であり、下手な小細工はあまり意味をなさないだろう。

 ――玉砕覚悟で出撃するか?

 そう一同が絶望感に捕らわれた時、横島から一つの案が出された。
 それは、メドーサの文珠を使用し、メドーサと横島、又はルシオラでの同期合体だった。
 現在メドーサは多くの横島とルシオラの霊其構造で構成されているから、自分達二人は例外的に同期できるのではないかと主張したのだ。
 また、ヒャクメが検査でわかったことなのだが、横島はメドーサを転生させる時、一時的にとは言え多くのメドーサとルシオラの霊其構造を体内に取り込んだために、霊其構造が変質してしまっていて魔族に近い性質になっていた。
 ヒャクメは色々な観点から検証してみたところ、これならばかなりの霊力差はあるが、同期合体できる可能性はあるかもしれないと結論付けた。
 なお、メドーサと横島、またはメドーサとルシオラと言う二人での組み合わせの同期合体では、逆に自前の霊其構造の少ないメドーサの霊其構造のバランスが崩れて崩壊してしまう可能性があるので、同期合体するのなら三人で行い、うまくバランスをとらなければならないだろうと推測した。
 その上で、三者の霊波の波長を同一に合わせ、同期させなければならなかった。
 このことから、条件の多いこの三人の同期合体は横島と令子が行った同期合体よりも、遥かに難易度が高いことがわかった。
 しかも、もしも同期合体に失敗すれば、良くて誰か一人に吸収され、悪くて三人とも対消滅してしまうかもしれないとも予測した。
 だが、もうすぐすべてを灰燼に帰すために向かってきている魔体がすぐそこまで迫ってきているため選択肢はなかった。
 令子は最後までごねたが、横島は「大丈夫、きっとうまくいくっすよ」と笑顔でサムズアップで言って説得した。

 そして、三人の同期合体が行われることになった。
 メドーサの文珠は生成者であるメドーサでなければ、複数同時展開と制御ができないので、メドーサが中心となって行うことになった。
 まずは文珠使いとして一日の長のある横島が、メドーサに文珠を使う上での秘訣をレクチャーした。
 横島は文珠はイメージすることが重要で、できると信じて念じればなんでもできると教えた。
 しかし、それを聞いたメドーサは、自分には無理だと答えた。
 メドーサは冷たく厳しい世界で生きてきたためか、徹底した現実主義者(リアリスト)だった。
 基本的に「できるかできないか」というイエスかノーのみで物事を判断してきたために、「こうなる」と言ってイメージし、そうなるよう信じて行動するという行為ができなくなっていた。
 横島のように戦闘以外での柔軟な発想はできないし、想像力が豊かでもなかった。
 そう言って落ち込むメドーサに、横島は真っ直ぐ目を合わせて言った。

「なあメドーサ、この戦いが終わったらデートしようぜ」

 いきなりの発言に、その場にいる全員が横島の正気を疑った。
 しかし、呆気にとられるメドーサに、横島はいつものヘラヘラした笑顔で続けた。

「まずは映画を一緒に見に行こうぜ。
 メドーサはどんな映画が好きだ?」
「私は映画なんて見たこと無いよ……」
「そうか、んじゃとりあえずデートの定番の恋愛映画を見に行こうぜ。
 俺も映画はポルノ映画くらいしか見ないからな、たまには他の映画を見るのも面白いだろ。
 んで、映画を見た後は茶をしばきに行こう、メドーサはコーヒーと紅茶、どっちが好きだ?」
「……どちらかと言えば、紅茶の方かね?」
「お、なら俺はとびきりおいしい紅茶を出してくれる店を知ってる。
 今そこに立ってる魔鈴さんはレストランを経営してて、そこで出してる紅茶が格別うまいんだ。
 俺はそれを飲んで以来、インスタントの紅茶がまずくて飲めんくなった」
「そんなにおいしいのかい?」
「ああ、期待してくれよ。
 その後は一緒に街をブラブラしようぜ、世のもてない君どもに俺達の熱々ぶりを見せ付けてやるとしよう」
「ふふ、難癖つけられたらどうするんだい?」
「もちろん逃げる、俺は逃げ足だけなら三界一と自負する男だ。
 お前一人くらい抱えて逃げるなど造作もないぞ」
「普通は女に良いところを見せるために相手にするもんなんじゃないのかい?」
「それこそ愚問だぜ、俺がそういう性格(タマ)に見えるか?」
「たしかに見えないね」
「う、そうはっきり言われると悲しいものがあるぞ。
 で、もてない君どもに見せ付けた後は、やっぱり飯だな」
「ディナーじゃないのかい?」
「そうとも言うな。
 飯がおいしい店と言えばやっぱり魔鈴さんとこだな、ディナーコースもあるし。
 だが、ここはあえて魔鈴さんのところではなく、ホテルのレストランに行くことにする」
「なんでわざわざおいしくないところに行くんだい?
 私はおいしい店の方がいいね」
「それはもちろん、飯を食って腹いっぱいになった後、デートのメインディッシュであるホテルで一泊のためだ。
 朝までしっぽり、おいしく頂かせてもらうぜ」
「おいおい、私は食べられるだけかい?」
「もちろん食べてくれても良い、きれーなねえちゃんにならむしろ望むところだ。
 俺の霊力源が煩悩だと言うことをたっぷりと教えてやるぜ」
「そいつはぞっとしないね。
 ……でも聞くけどね、横島」
「なんだ?」
「デートはいいけど、あんたそんな金持ってるのかい?
 私は以前あんた達のこと調べたことがあるけど、あんた私でも同情するくらいの薄給で赤貧だったと記憶しているけどね」
「う、それは特別ボーナスをもらってなんとかするよ」
「もらえるといいけどね。
 それにね、世のもてない男どもに見せ付けるのはいいけど、今の私はこんななりをしてるんだよ?
 男どもに痛い目で見られて、少女誘拐で警察にしょっぴかれるのがオチだよ」
「そ、それは勘弁してほしいぞ」
「それに今の私をおいしく食べたいなんて……あんたにそんな趣味があったなんて知らなかったよ」
「違う、ワイはロリやない、ロリやないんやーーー!!」

 横島はそう言って地面にガンガン頭をひとしきりぶつけて、

「ふふふ……」
「へへへ……」

 メドーサと横島はお互い笑い合ってまた向かい合った。

「心配するなよメドーサ、お前なら大丈夫さ」
「あんたを見てたら、うじうじ悩んでた自分が馬鹿みたいに思えてきたよ。
 …まあ、なるようになるさね」
「ああ、気楽にいこうぜ。
 じゃあ、とっととあいつをぶっ飛ばしちまおうぜ」
「ああ、そうだね」
「あとよ、メドーサ」
「なんだい?」
「俺、お前のこと信じてるから。
 きっとうまくいくさ」
「何言ってるのよ、ヨコシマ!」
「ルシオラ?」
「私達の間違いでしょ?
 大丈夫、絶対にうまくいくわよ、メドーサ。
 私も貴方のこと、信じてる」

 横島とルシオラはそうメドーサを笑顔で真っ直ぐ見て言った。
 メドーサはその言葉に大きく目を見開いて、

「そうかい……なら絶対にヘマできないね」

 目尻に涙を滲ませながらそう答えた。

「横島、ルシオラ……」

 メドーサは黙ってやり取りを見ていた他のメンツに、少し離れるよう言っている二人に、

「ありがとう」

 涙を一滴流しながら、そう言った。
 横島とルシオラは、その涙がとても綺麗なものに見えた。


 そして、全員が固唾を飲み見守る中、メドーサを中心とする三人同期合体が行われようとしていた。
 まずはメドーサが二つの文珠を生成し、『同』『期』と念を込め左右の手にそれぞれ持った。
 横島はメドーサの右手を、ルシオラは左手を包み込むようにして握った。

「じゃあ、いくよ」
「おう」
「ええ」

 メドーサは開始の合図を告げると、目を閉じて文珠にイメージを送り始めた。
 文珠から光があふれ出し、三人の姿が光に包まれた。


 横島忠夫とルシオラの霊其構造に接続するイメージ

 横島忠夫の霊其構造への接続……成功(コンプリート)
 ルシオラの霊其構造への接続……成功

 二者の霊其構造を自分の霊其構造と連結するイメージ

 横島忠夫の霊其構造と連結開始……成功
 ルシオラの霊其構造と連結開始……成功

 ――…………二人はこんな穢れた私を受け入れてくれるだろうか?

 不安(ノイズ)がイメージに介入
 揺らぎが生じ霊其構造に歪みが発生
 霊其構造に大きな痛覚が発生
 横島忠夫とルシオラの二者にも同様の苦痛が発生
 不安さらに増大

 焦りと不安を落ち着くようイメージ

 霊其構造の歪曲を修正………失敗(エラー)

 不安さらに増大
 霊其構造の歪みが増大
 痛覚さらに過多
 諦観がイメージに介入

 ――駄目だ! 二人を助けないと……!

 横島忠夫とルシオラとの霊其構造の接続を切断するイメージ

 二者の霊其構造との接続を強制切断………………失敗

 ――横島! ルシオラ!

 恐怖がイメージに介入
 死のイメージが発生
 二者を含む霊其構造の崩壊開――

 ――そんなに心配すんなよ、俺はお前のこと好きだぞ? むしろもっとお前のことを知って、もっと好きになりてえ
 ――そうよ、貴方は穢れてなんかいないわ。 お願い信じて、嫌いになんかならないから、貴方の中の貴方を見せて

 横島忠夫とルシオラのイメージが介入
 不安と諦観、恐怖と死のイメージ消滅

 霊其構造の歪曲を修正……成功

 霊其構造の痛覚消失

 二者の霊其構造を自分の霊其構造内に受け入れるようにイメージ

 ――横島……ルシオラ……来て……私の中に…………私を見て……!

 二者の霊其構造をメドーサの霊其構造に転送開始…………成功
 二者の霊其構造のメドーサの霊其構造に転送………………成功
 横島忠夫、ルシオラ、メドーサの三者の霊其構造の霊波の同期開始………………………………………成功

 全工程完了(オールコンプリート)


 光が収まると、そこには横島と令子が同期合体したのと同じ姿をしたメドーサがいた。
 メドーサから放たれる霊圧は、横島と令子の同期合体とは比べ物にならないほど強かった。
 しかも、放たれる霊波は魔族にも関わらず、とても清純な霊波だった。
 見守っていた者達が歓声の声を上げる中、メドーサは自分の肩を抱き、ポロポロと涙を流していた。

 メドーサは嬉しかった。
 自分のせいで言葉に表せないほどの苦痛を与えてしまったのに、二人はそれでも自分を信じて励ましてくれた。
 こんな穢れている自分を受け入れてくれた。
 自分の心と魂に優しく触れてくれて、綺麗だと言ってくれた。
 それだけでなく、二人は自分達の心と魂を見せて触らせてくれた。
 今も二人は自分の中で、傷ついていた心と魂を癒すように優しく触れてくれている。
 ずっと一緒にいたいと言ってくれている。
 そのことが、どうしようもなく嬉しかった。

 涙を流し続けるメドーサに声をかけづらかったのだが、敵はもう目の前にまで来ていたので、美智恵が出撃するように促した。
 横島とルシオラは吸収された訳ではないのだが、メドーサの霊其構造の奥深くで同期しているために、令子との同期体のように意識を浮上させて喋ることができないようだった。
 メドーサは決意の表情で美智恵に頷き、空を飛べるメンバーと共に出撃した。


 そして、海上で魔体と接触し戦闘を開始した。
 魔体はこちらの姿を確認すると、圧倒的な攻撃力で殲滅しにかかった。
 メドーサ達は近づいても弱点などはわからなかったので、とりあえず魔体の額にあるアシュタロスの身体に向かって一斉に攻撃をした。
 メドーサの横島と令子の同期体よりも圧倒的に強い高出力の霊波砲と、他のGS達の霊波攻撃が魔体に命中する寸前、空間が歪曲し攻撃がすべてその歪曲に飲み込まれてしまった。
 メドーサは魔体の周囲にバリアが張られているとわかると、全員に海中に潜り一旦やりすごすように指示した。
 魔体は敵影がなくなると、殲滅が完了したと判断し、再度東京へと進路をとった。
 メドーサ達は完全にやり過ごしたのを確認してから海上に浮上し、負傷したGS達の治療を行いながら、魔体の能力について分析を行った。
 魔鈴めぐみは、魔体はすべての攻撃を無限大に無効化できるのではないかと主張した。
 ヒャクメはその主張を否定したが、同期合体しているルシオラが宇宙の卵を応用して、一方通行に空間を歪めて別の宇宙に逃がしているのではないかと推測しメドーサに伝えた。
 ちなみに、ルシオラとパピリオは魂の結晶の回収の任務に関する情報のみを与えられていたため、究極の魔体と宇宙処理装置についての情報は与えられていなかった。
 同じく同期合体している横島が、もう一度接近して攻略法を発見しようとメドーサに言い、メドーサは一同にそう伝え、負傷者と戦闘能力が低い者を海上に残し魔体の後を追った。
 そして魔体に追いつき、相手に気付かれないように上空から後を追いながら、魔体の観察をして攻略法を模索した。

 その最中に、姿が小さくなった小竜姫とワルキューレが息を切らせながら飛んできた。
 小竜姫はメドーサの姿を見ると、小さい神剣を抜いて攻撃してきたが、メドーサはハエでも叩くようにでこピンの一発でそれをあしらった。
 ワルキューレも小さい銃を抜いて撃とうしたが、ヒャクメが味方だと説明してなんとか場を治めた。
 二人が駆けつけたのは、支援と「究極の魔体は恐ろしい能力持っているから気をつけろ」という警告だったのだが、霊力が不足している二人は本来の戦闘能力とは比べるまでもなく、警告に関しては遅すぎた。
 全く役に立たない助っ人に、メドーサは思わず「役に立たない連中だね」と悪態をつき、それを聞いた小竜姫は激しく激昂し、喧々轟々と言い争いを始めてしまった。
 そしてその時、パピリオが小竜姫とワルキューレのように小さくなったペスパを連れて飛んできた。

 パピリオは横島とルシオラが、メドーサの霊其構造を二人の霊其構造で補うことで助けたことを聞き、ベスパもバラバラになった霊体を集めて、足りない分は自分のもので補ってやれば助けられるかもしれないと考えて東京タワーに行っていたのだった。
 東京タワー周辺でベスパの霊体の破片を探していると、東京タワーで騒ぎ立てる神魔族達がおり、気になって見てみるとそこに弱ったベスパがいた。
 ベスパは自分の眷属の妖蜂達が、バラバラに吹き飛んだ霊体を集めてくれたおかげで蘇生できたことを告げた。
 ベスパはパピリオに状況を説明してもらい、アシュタロスの野望は潰えたのを知り、彼の悲願だけでも叶えて上げたいと思い、パピリオに一緒に連れていくように頼んだ。
 パピリオはそれを承知し、ベスパとおまけで神魔族達を連れて、司令官の美智恵がいる作戦室へと連れて行った。
 ベスパはそこで人間達に究極の魔体は未完成で弱点があることを言い、美智恵はそれを信用し海上で魔体と交戦しようとしているメドーサ達のところへ向かうように頼んだのだった。

 ベスパに弱点を教えてもらった後は簡単なものだった。
 メドーサを除く、動きの早い者達が魔体の視界内を遠巻きに散開して注意を向け、魔体がそちらに注意がいっている間にメドーサがバリアの隙間を通って魔体に密着すると、霊波の出力を最大にして弱点に向けて放った。
 魔体は断末魔の悲鳴を上げ、嘘のようにあっさりと身体の半分を吹き飛ばされ崩れ落ちていった。

 メドーサはそんな魔体――アシュタロスを泣きそうな表情で見ながら、

「アシュ様、貴方はこの身を穢され、望まない堕天を強いられ、二人の最愛の姉を討たれ、同族に追われ一人行くところも無く彷徨い続けていた私に生きる場所と目的を与えてくれました。
 私は貴方に忠誠を近い、貴方のために戦えることを誇りとしてきました。
 私には知りようもありませんでしたが、貴方は貴方自身の望みを叶えるために、多くの罪を犯してきたのでしょう。
 でも、ごめんなさい……私は大恩ある貴方に、私のわがまま(望み)のために貴方の望みを絶ってしまった……」

 アシュタロスの立場を知り、アシュタロスの望みをうっすらとではあるがわかっていたメドーサは、懺悔するようににそう言った。

「だから……」

 一度瞑り、再び目を開けたメドーサは凛とした表情に戻り――


「せめて私の手で極楽へ送ってやるよ!!」


 そして、崩れ落ちていくアシュタロスの残骸にさらに高出力の霊波砲を、容赦も躊躇も後悔も悲哀もなく放ち、完全に身体を破壊し極楽へと送った。
 ある次系列では魔体を倒したのは横島で、詰めを見誤り主砲を東京に向けて放つのを許してしまったが、この次系列ではそうならなかった。

 メドーサは完全に崩壊し、海の底へと沈んでいくアシュタロスを見下ろし、

「再び魂の牢獄の中で目覚めるその時まで、どうか安らかな眠りを……」

 魔族とは思えない、女神のような慈しむ声でアシュタロスを見送った。


『いえ、それはもうありません』

 突如強い意思の篭った声が響き、メドーサは上を見上げた。
 そこには、光を身にまとった二人の人影が浮いていた。

『いい加減長い間、アシュタロスには胃に穴の開く思いをさせてきたさかいな。
 あいつにはそろそろ隠居してもらおうってことになったわ』
『彼の罪は許されました。
 もう、彼が責を負うことはありません』

 その大いなる意思を持つ二柱の言葉に、メドーサはギチリと歯を強く噛み締めた。

『悪かったな、嬢ちゃん。 勘弁したってや。
 アシュタロスを楽にしたっておおきに』
『貴方に謝罪と感謝を』


「うるさい、黙れクズども!
 貴様らにそんなこと言われたくないよ!!
 アシュ様は……私達はこのクソったれな茶番劇の中で踏みにじり踏みにじられながらも自分の意思で歩んで色々なモノを背負って生きてきたんだ!!
 上から踏ん反り返って見下ろすことしかできない能無しの貴様らに許しも謝罪も礼もされたくない!!
 とっとと消え失せろ!!」


 そう魂の奥底から叫び、肩で息をするメドーサを二柱は少しの間無言で見下ろし、まるで最初からいなかったように姿を消した。
 そして、今までの喧騒が嘘のように静寂が辺りを包み込んだ。

 しばらくの間、メドーサはじっとうつむき――

「……ったくふざけんじゃないよ、最後の最後ででしゃばってきやがって……!
 そんな一言であっさり許されるんなら、さっさと許せっていうんだよ……!!
 そうすれば……そうすればアシュ様は……!」

 うつむいているメドーサの頬からポタポタと雫が流れ落ち、アシュタロスの眠る海へと降り注いだ。


「……アシュ様、貴方のわがまま(望み)は叶いましたか?」


 メドーサはやっと安らかに眠ることができたアシュタロスに、涙を流しながらとても優しい声音でうっすらと微笑みかけた。
 そして、大きく夜空を仰ぎ見て――

「クソっ、今日は本当、涙腺が緩みっぱなしで嫌になるね……!」

 心に……魂に寄り添っている横島とルシオラが、自分を慰めるように魂を抱きしめてくれているのを感じ、夜空を見上げたまま涙を流し悪態をついたのだった。


 究極の魔体を倒し、帰還してからも大変だった。
 メドーサの処遇で揉めたのだ。
 一部の人間のGS達と、イームやヤームといったメドーサと因縁のある神族達、生き残った魔族達の中に過去にメドーサに煮え湯を飲まされたことがある者がおり、その者達がメドーサを処断すべきだと主張したのだ。
 さらに、メドーサが文珠生成能力を持ったことへの危険性も上げられた。
 メドーサは特に反論する気はなく、どんな裁定でも受け入れるつもりだったのだが、横島とルシオラ、それとベスパとパピリオがそれに真っ向から対立した。
 横島はメドーサに多くの霊其構造を与え腹を痛めて産んだ為か、娘や妹みたいな肉親のような感覚を持っていた。
 また、メドーサの心と魂に触れてとても綺麗な心を持つ女の子と言うのを知ったので、そんなことを許すことができる訳がなかった。
 ルシオラも横島と同じく、とても短い付き合いではあるのだがメドーサの心と魂に触れてからはベスパとパピリオの妹達、そして恋人の横島と同じくらい大切な存在になっていた。
 ベスパとパピリオの二人も、自分の身を省みずにメドーサの擁護に回っていた。
 自分達の父親の望みを叶えて苦しまないように殺してくれただけでなく、彼の誇りを守り、彼のために涙を流してくれた彼女に感謝していたからだ。
 美神令子も色々と助けられたことを引け目に思っているのか、消極的ではあるがメドーサの擁護に回っていた。

 一触即発の空気の中、その間に立って仲裁を行ったのは神族の小竜姫と魔族のワルキューレ、そして人間の美神美智恵だった。
 小竜姫はメドーサが流した涙と言葉を見聞きし、何かを感じたらしかった。
 ワルキューレは現在の情勢に思うところがあり、アシュタロスに関しても理解できる部分もあったからだった。
 美神美智恵は、もしも投降したアシュタロス陣営の魔族達が全員処断されることになれば、前世がアシュタロス陣営の魔族だった娘の令子も処断されるかもしれないと言うのがあった。
 しかし、娘のこともあるが、純粋な涙を流しメドーサにその気はなかったのだろうが命懸けで戦い、人類を救っててくれた恩人に掌を返すように仇で返し、無碍に扱うような恥ずべき行為は彼女の正義と誇りが絶対に許せなかった。
 とりあえず、この場で自分達では裁決を決めることはできないので、三姉妹のことも含めて神魔上層部に報告し、後日裁決してもらうことで決まった。

 そして数日後、裁決が通達された。
 内容を要約すると、メドーサは三度滅んで再生し、現在は魂の在り方が変じたものとして記憶を持ったまま転生したとし、前世の罪は問えないものとすること。
 また、メドーサの処遇については人間横島忠夫にすべて一任するということだった。
 三姉妹も本人の希望に沿ったものにすると言う、いたりつくせりの内容だった。
 異議を唱える者もたくさんいたが、神魔族双方の最高指導者が真名を添えての裁決ということで、誰も口出しできなくなった。
 おそらくではあるが、下手に異議を唱えて手を出した場合、多方面からの批判があったとしても、二柱自身から直接の粛清が下るだろうという雰囲気があった。
 メドーサは「施しを受ける気はないよ!」と激昂したが、横島とルシオラが必死に説得し、完全ではないがなんとか納得してもらった。
 そして、三姉妹の延命処置の後、メドーサと三姉妹の四人は本人達の希望する進路を叶えることになった。
 ベスパはアシュタロスのことを引きずっているのか戦いに身を置きたいと言い、ルシオラとパピリオ、そして横島の説得を突っぱね魔族の正規軍への入隊を希望した。
 ルシオラとパピリオは本人達の希望で横島のところに身を寄せることになった。
 ルシオラは恋人なので言うに及ばないのだが、パピリオは姉と一緒にいたいのと、横島を兄と思っているからだ。

 そして、意外にもすんなりと決まらなかったのがメドーサだった。
 メドーサはたしかに横島とルシオラと一緒にいたいと思っている。
 だが過去のできごとから、「すぐに別れることになるのでは?」と決めかねていたのだ。
 それは完全に精神的外傷(トラウマ)だった。
 メドーサの心はいまだ深く傷ついていて、喪失にたいして酷く臆病になっていることを、同期合体で魂を連結したことで知っている横島とルシオラは、粘り強く説得と懇願を行った。
 メドーサも二人のことを知っているので、二人の言葉が心底自分のことを案じてくれているのはわかっていたが、その言葉と二人の場所が心地良ければ心地良い程不安がつのっていってしまった。

 それに、一つだけルシオラに隠していることがあった。
 それは、ルシオラの恋人である横島に恋情を抱いていることだった。
 戦いの時は色々なことがあったために考える余裕がなかったのだが、戦いが終わって改めて横島のことを見つめ直し、横島に惹かれてしまったのだ。
 しかし、同期合体をしてルシオラと横島の心を見せてもらった時、二人がどれだけお互いのことを愛し合っているのかを知っていた。
 二人はお互いのことをより知ったことで、さらに愛情と絆が深まったことも知っていた。
 そのため、ルシオラに対して後ろめたさができ、顔を会わせるのが辛かった。
 だが、同時に横島に気にかけてもらえることに喜びを感じてしまう自分がいる。
 そう思うと、二人を裏切っているのではないかと思い自己嫌悪した。
 いっそのこと、二人の元から去ろうかとも考えたが、今いる場所があまりにも心地良く、一人でいる辛さのことを考えると離れる決心がつかなかった。
 しかし、ルシオラに対する後ろめたさから、まだはっきりと二人の元に残ると意思を表明できずに無為に時間を過ごし、二人に余計な心配をかけてしまいそのことで自己嫌悪し……と、悪循環(ジレンマ)に陥っていた。

 そしてある時、保護観察として下宿している美神除霊事務所の屋根部屋に一人でいる時、ルシオラが一人で来て唐突に言った。

「メドーサ、貴方もヨコシマのことが好きなんでしょ?」

 その言葉に、メドーサは全身の血の気が引くのを聞いた。
 メドーサは激しく狼狽し、必死に否定した。
 その姿は、まるで隠していた罪を暴かれた罪人のようだった。
 ルシオラは怯えて顔を伏せ、身体を震わせるメドーサを抱きしめ、優しく話しかけた。

「怖がらないで、貴方を責めたりなんかしないわ。
 逆に嬉しいの、貴方もヨコシマのことが好きなんだってことが」

 メドーサは驚いた顔でルシオラの顔を見ると、ルシオラは優しくメドーサに微笑みかけ、

「私はメドーサのことも好きよ、メドーサは?」
「……私もルシオラのこと好きだよ……」
「ありがとう、だからそんなに悩んでくれたのね」
「そんな良いもんじゃないよ……」
「そんなことないわよ。
 私はこれからもずっと、ヨコシマとメドーサの三人で一緒に生きて行きたいの」
「……私も一緒にいていいのかい?」
「一緒にいてくれないと嫌ね、ヨコシマだってそう思ってるわよ」
「でも、二人は恋人同士だし……」
「なに言ってるのよ、三人で恋人同士になるだけのことよ
 私達は魔族よ、人間の道徳? 常識(モラル)? そんなのペペペのペーよ!」

 ルシオラはそう軽い調子で言った。
 ルシオラの優しさと気遣いに、メドーサはあの夜の時のようにまた涙腺が緩むのを感じた。

「そんなこと言っていいのかい?
 私は少し時間が経って身体が成長すれば、横島好みのチチのでかい女になるんだよ?
 横島をメロメロにしちまって、奪っちまうかもしれないよ?」
「あら、それはおあいにく様。
 ヨコシマは私にメロメロなのよ? チチがでかいからってそうはならないわよ。
 それにね――」

 ルシオラはメドーサをぎゅっと抱きしめ、

「貴方も私にメロメロにさせてあげるんだから、奪うことなんてできないわよ」
「……あんた、おっかない女だね」
「あら、今頃気がついたの?
 私はアシュタロスの娘の三姉妹、長女のルシオラよ。
 神も地獄の悪魔もなんのその……よ!」
「ふふ、でもそう思えないくらい優しい女だね」
「それは違うわね。 私は欲張りなの。 ほしいものができたら、どんな手を使ってでも手に入れてやるわ。 遠慮も躊躇もしないわよ。
 だから、私は貴方とヨコシマの三人で、とことん幸せになってやるわ!」
「……なるほどね、たしかにあんたはとびっきりの魔族の女だよ……」

 メドーサもルシオラをぎゅっと抱き返し、しばらく間の声も無く泣いた。


「お〜、きゃお〜」
「ほらじっとしてな、落ちちまうよ」
「め〜め、め〜め」
「はいはい、め〜めだよ」
「あう〜」
「あ〜、悪いね、まだ私のは出ないんだよ。 あきらめとくれ」
「う〜」
「そう睨むんでないよ、今ミルクをやるからね」
「きゃ〜♪ うむ…」
「そう、ゆっくり飲みなよ……」
「んむ…んむ…ぷは」
「たくさん飲んだね。 よいしょっと」
「…けぷ」
「……それにしても、あんたの母親は意外と抜けてると言うか、お人好しと言うのかね…」
「ん〜?」
「私みたいな極悪魔族に自分の赤ん坊の世話を頼むなんてね。 神経疑っちまうよ」
「あ〜♪ きゃ〜♪」
「でも、まあ……こう言うのも悪くはないね」
「め〜め、ま〜ま」
「さて、そろそろあんたのま〜まが来る頃だよ、迎えに行こうか」
「きゃ〜♪」
「いいかい、あんたはあんな姉のようになるんじゃないよ?」
「ね〜ね?」
「そう、そのね〜ねみたいな、守銭奴で業突く張りで世の中なめてる馬鹿な大人になるんじゃないよ?」
「ね〜ね、ば〜か♪」
「そうそう、あと……」

 メドーサは赤ん坊をあやしながら、いつもふと思うことがある。
 今手にしているこの平穏な生活は夢ではないのか、と。
 本当はすでに自分は宇宙処理装置を破壊した時に、他の魔物達と共に無に還っていて、その無に還るまでの刹那の間に見ている都合の良い夢ではないのか、と。
 平穏な生活を諦めていた為か、懐疑的になっていのはわかっている。
 だが、どうしても現実感がいまいち掴めないでいた。
 しかし、それでもこの生活は何よりも換えがたく、心地良いことには間違いなかった。
 だから、たとえ刹那の夢であったとしても、誠意一杯生きようと決めた。
 そう心に噛み締めながら、メドーサは赤ん坊…美神ひのめを大事に抱きながら、姉の見習ってはならないところを延々と言いながら部屋を出たのだった。

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